夏休みに入ると俺は克己君と刃牙君の2人と共にアメリカ行きの飛行機に乗り込んだ。
「はい、刃牙君おめでとう」
「よっしゃあ!」
「くそっ、刃牙、次は俺の番だ!」
さて、今現在アメリカ行きの飛行機の中で到着まで暇な俺達はちょっとした暇潰しをしている。それは……コイン取りゲームだ。
内容としては簡単で手の平に乗せたコインをもう1人が取る。そしてコインを乗せた方は取られない様にするゲームだ。
対面してコインを乗せた人に相手が手の甲を合わせる様にした状態で開始。ゲームスタートの合図は無し。コインを取りにいく人のタイミングで始めてよし。だいたいこういったルールでやっている。
それとこのゲームではコインを取った人に俺から旅行中に使うお小遣いとして10ドルを進呈するので、2人は遊びでありながらも真剣にやっている。
まぁでも、これは遊びだけど先を読む鍛練の一環でもあるんだよね。
コインを取りに行く方は意識や身体の起こりを可能な限り消し、コインを乗せた方は相手の意識や身体の起こりを読んで取られないようにする。単純だけど双方の鍛練になるからいい遊びなんだ。
「よしっ!」
「ちぇっ、克己さん、次は俺の番だよ」
克己君に10ドルを進呈しながら俺は微笑む。
2人のコイン取りゲームの戦績は刃牙君優勢の状態だが、少しずつ差が詰まってきている。これは克己君の先を読む能力が向上してきているということだ。
それにしても……まさか江珠さんがファーストクラスを貸しきっちゃうとはなぁ……。本物の金持ちのやることはスケールが違うというか……。うん、刃牙君が愛されているということにしておこう。
「そういえば刃牙君、ユリーってボクサーへのリベンジはどうなったんだい?」
「うん?あぁ、なくなったよ。代わりに花山さんとの喧嘩になった」
話を聞くと花山って人はいわゆる自由業の人で、その道では有名な喧嘩師らしい。
「そっか、で?どっちが勝ったんだい?」
「俺が勝ったよ。花山さんは三浦さん程じゃないけどデカイ人でさ。三浦さんとのスパーを経験してなかったら危なかったと思う」
う~ん、刃牙君の様子を見るに遺恨は残ってなさそうだから大丈夫かな。
もし残ってたとしても江珠さんが金の力で解決しそうだし、それでもダメなら勇次郎さんがなんとかしちゃうだろうからね。
花山って人とその周囲の人が変な事を考えないことを祈るよ。
◆
「やぁ、ユージロー、よく来てくれた」
伝説のボクサーであるマホメド・アライが笑顔で来訪した範馬勇次郎を招き入れる。
そして2人の会食が始まると不意に勇次郎が言葉を発する。
「愚息が世話になる」
「……変わったな、ユージロー。刺々しさが消えた。彼のおかげかな?」
アライの問いには答えず勇次郎はグラスのバーボンを飲み干す。アライは勇次郎のグラスにバーボンを注ぎながら微笑む。
「出会ったのはいつだ?」
「2年前になる。猪狩の紹介でね。彼と出会わなければ私はJr.に壊されていたかもしれない」
そう話すと今度はアライがグラスを飲み干す。そしてユージローが無言でバーボンを注ぐとアライは1つ息を吐く。
「随分と絞れている」
「トレーニングを再開してね。Jr.には私の技術の全てを伝えたが、生憎と戦士としての心構えまでは伝えることが出来なかった。だからそれを伝えるために……ね」
「それだけではあるまい」
そう言いきる勇次郎にアライは肩を竦めるとおどける様に両手を広げる。
「もちろんさ。たとえ愛する息子といえど負けっぱなしは性に合わなくてね」
「クスクス……それでこそマホメド・アライだ」
グラスを飲み干した勇次郎が立ち上がるとアライも立ち上がる。
「ユージロー、またいつでも来てくれ」
「……ふんっ」
アライに見送られ外に出た勇次郎が不意に立ち止まる。
「アライ」
「何かな?」
「今のお前は……全盛期を超えている」
ストライダムがハンドルを握るジープに乗り込み勇次郎が去ると、彼を見送ってドアを閉めたアライは破顔する。
「凄いね、人体♪」
そう言ってアライはファイティングポーズを取ると、フラッシュと形容された伝説の右ストレートを超える一撃を放ったのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。