side:愚地克己
「……マジかよ」
刃牙とは日本の空港で会ったのが初めてだから付き合いは短い。だが飛行機の中でのやり取りで結構やれる奴だと感じていた。
そんな刃牙が一撃でKOされたのもショックだが、それ以上にマホメド・アライJr.の完成度にショックを受けた。
起こりの少なさは親父より下だが、パンチスピードに関しては親父クラスかもしれねぇ。
……刃牙には悪いが先に見れといてよかったぜ。
目に焼き付いたアライJr.の一撃を元に目を閉じてスパーのイメージをする。
だがイメージは程々に。以前に三浦さんに言われたんだが、イメージが人体に与える影響は大きいんだそうだ。
そして俺はそのイメージが人体に与える影響が人一倍大きいらしい。これは紛れもなく才能だが、それにより俺の身体の限界を超えたパフォーマンスを発揮してしまう可能性が高いらしい。
だから今の俺は三浦さんと親父から自分の能力の限界を超えたイメージをするのは禁止にされているんだが、これは俺も納得して受け入れている。
なんせ今の俺は自分でもわかるぐらいに成長をしていっている。こんな楽しい時間を自分の不注意で失うなんて勿体ないからな。
(……こんなもんか)
シミュレーションである程度イメージが固まったところで目を開ける。
「克己君、準備はいいかい?」
「はい」
三浦さんに促されてリングに上がろうとしたところで気が付く。刃牙がリングサイドで寝かされていることに。
(敵討ちは厳し過ぎるが、せめてアライJr.に年上の意地はみせねぇとな。……アライJr.は年下だよな?)
そんなどうでもいいことを考えながらリングに上がる。
「グローブは?」
「好きにしていい」
「じゃあお言葉に甘えて」
空手は徒手での戦いが基本。というかグローブをすると手首の自由が利かなくなって色々とやりにくくなるんだよな。だから素手の方が都合がいい。
俺は前羽の構えを取る。空手における鉄壁の構えだ。
イメージするのは親父……のそれから今の俺が出来る範囲にデチューンしたもの。
さて……どこまで出来るかな?
カーンッとゴングが鳴る。フーッと息を吐いて力みを抜く。
(見てからじゃ絶対に間に合わねぇ。大事なのはタイミング。そしてそのタイミングを掴むには……!)
不意に俺の脳内に思い浮かぶのは飛行機の中で行ったコイン取りゲーム。相手の起こりを察知するのが重要なあのゲームだ。
(なるほど、三浦さんはこの状況を想定してたのか……かなわねぇな、全く)
不意に感じたそれに反応して左手が動く。
「ぶっ!?」
鼻っ面に一発貰っちまった。貰ったのはおそらくジャブ。左手で触れて打点ずらせていなきゃ今ので終わってたかもな。
「ふ~ん?」
アライJr.のそんな反応にイラッとするが仕方ねぇか。なんせ実力差がハッキリしちまってるからな。
不意に感じたそれにまた反応したが今度はまともに貰っちまった。たぶんやられたのは左のダブル。一発まともに貰っただけで膝が震えちまってるぜ。
「だいたいわかった」
「……ははっ」
絶望的な実力差。けど三浦さん程じゃねぇ。それだけで気が楽になる。
「3分はまだ無理だが、1分は意地でも耐えてやるよ」
「オーケー、耐えられたら君の名前を覚えよう」
「……押忍!」
◆
「うん、惜しかったね。1分まで後3秒だったよ」
「そうですか……くそっ」
Jr.とのスパーでの気絶から目を覚ました克己君にそう告げると彼は悔しがる。初日であのコイン取りゲームの意図に気付いた克己君のセンスは凄い。先が楽しみだね♪
刃牙君はまだ寝てるけどこれは仕方ない。まだまだ身体が出来てないし、完全に不意をつかれたからなぁ。
そう思ってると刃牙君がガバッと起き上がった。うん、頑丈さは勇次郎さん譲りだね。
「……あっ、負けたのか……くっそ~」
状況を理解したのか刃牙君が悔しがる。あれ程圧倒されて悔しがれるのもある意味で才能だ。
「ヨシオキ、2人が起きたのならリングに上がってくれ。スパーをやろう」
「オーケーと言いたいところだけど、どうやら俺より先にJr.とやりたい人がいるみたいだよ」
そう言って顔を向けるとそこには鼻歌を歌いながらバンテージを巻くMr.アライの姿があった。
「……パパッ!?」
驚くJr.を尻目に刃牙君と克己君に笑顔を向ける。
「さぁ、2人ともよく見ておくんだよ。拳を使った打撃とそれに特化した戦闘術……その完成形の1つを目にすることが出来るからね」
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。