「……パパ、ジョークは止めてくれ」
「ジョークじゃない。本気さ」
「ノー、僕はもうパパを超えている。スパーの必要性がない」
そんなJr.の言葉にMr.がニッと笑う。
「なら早々に私をKOしてヨシオキとやればいい」
「……オーケー」
2人の会話を聞いていた克己君と刃牙君はどこか気まずそうだ。
「三浦さん……大丈夫なんすか?」
「大丈夫大丈夫、ただの親子喧嘩だよ」
俺がそう言うと刃牙君は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「どうしたんだい、刃牙君?」
「いや、その……親子喧嘩って外から見るとこうなんだなって……」
あぁ、いずれやる勇次郎さんとの親子喧嘩を想像して、周囲からどう見られるかを考えちゃったのか。
「まぁ、家庭の在り方はそれぞれだから、そう気にしなくてもいいと思うよ?」
「そうかな?」
「勇次郎さんの期待に応えたいんだろう?」
そう問うと刃牙君は頷く。
「なら周囲の目を気にせず思いっきり勇次郎さんと遊んだらいいさ。大丈夫。なにかあっても江珠さんがなんとかしてくれるから。母は強しってね」
ウインクしながらそう言うと刃牙君は笑みを浮かべる。うんうん、子供は笑顔が一番だね。
「さぁ、2人共しっかり見ておくんだよ。そうそう見られるレベルのものじゃないからね」
Jr.とMr.の準備が整ったのを確認すると、俺はデコピンでゴングを鳴らしたのだった。
◆
side:アライJr.
ナンセンス。その一言に尽きる。僕とパパの格付けはもう済んだというのに、何故パパはまたリングに上がる?
振り向くとパパがガウンを脱いでいた。そしてガウンを脱いだパパの身体を見て驚く。見事にシェイプアップされていたからだ。
「……だから何だというんだ」
僕の呟きが聞こえたのかパパは不敵に微笑む。……オーケー、その笑みを直ぐに消してあげるよ。
カーンッとゴングが鳴ると同時に僕は飛び出しジャブを放つ。だがナックルに感触が無い。避けられた。
続け様にジャブをダブル、トリプルで放ってみるがどれもナックルに感触が無い。全て避けられている。
……おかしい、何故避けられる?以前のパパならば確実にくらっていたはずだ。
「何を不思議がっているんだ、Jr.?」
(……マグレだ!)
肩を入れて距離を伸ばすメキシカンジャブにフック、右ストレートにアッパー、更にはボディーへもパンチを放つがどれもこれも避けられてしまう。
(何故だ?僕の調子が悪いのか?)
そう自問自答するが今日のヨシオキとのスパーに備えてコンディションは完璧に整えてきた。調子が悪いのはありえない。
(ならばまさか……パパが強くなった?既に全盛期を過ぎたパパが?ありえない)
「Jr.」
混乱する思考を中断する様にパパが話し掛けてくる。
「私が持つ技術はお前に全て教えた。だが1つだけ教えていないものがある。それは……ここだ」
そう言ってパパは右のグローブで左胸を叩く。
「ハート、プライド、表現の仕方は色々とあるが……ここはスピリットにしておこうか」
「スピリット……」
「そうスピリットだ。例え何人だろうと、例え国家だろうと揺るがすことが出来ないスピリット。それが私をマホメド・アライ足らしめるものだ」
大きい……パパはこんなに大きかったのか?何故か僕には今のパパがヨシオキよりも巨大に見える。
不意にカーンッとゴングが鳴った。1ラウンド目が終わったんだ。僕はコーナーに戻りながら安堵の息を吐き出す。
「Jr.」
声から感じる圧力に振り向けない。顔を上げることが出来ない。
「以前の私はお前とのスパーでは父親として相手をしてきた。だが次のラウンドからは1人の戦士として相手をする」
「ぐうの音も出ないように叩きのめしてやろう。楽しみにしておけ、ボーイ」
冷や汗が全身を包む。震えが止まらない。リングの上から逃げ出したい。
だがここで逃げたら僕の中で何かが終わってしまう。そんな根拠の無い確信が、僕の身体をリングの上に縛り付けたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。