「ちょっとやり過ぎてしまったかな?」
Mr.とJr.のスパーが終わってMr.に夕食をご馳走になっていると、不意にMr.がそう溢した。
「いずれは必要なことでしたから」
「そう言ってもらえると少し気持ちが軽くなる」
天才のJr.はMr.の想像を超えて早く成長した。その結果、Jr.は俺と会うまで負けらしい負けを経験せずにいたらしい。
本当は俺がJr.の鼻っ柱を折れたらよかったんだけど、俺とJr.では体格が違い過ぎるから、Jr.は俺に負けても仕方ないって思っている感じだったんだよね。だから俺じゃJr.の鼻っ柱を折れなかったんだ。
それでJr.のことを結構心配していたんだけど……どうやら余計なお世話だったみたいだね。
とは言うもののMr.がJr.の鼻っ柱を折る役目をした結果、Jr.は鼻っ柱どころか心まで折れたようで部屋に引き籠ってしまった。早く復活するといいんだけど。
翌日になってもJr.は部屋から出てこなかった。刃牙君と克己君のスパー相手をどうしようと考えているとMr.が買って出てくれたのでお願いした。
午前中はみっちり基礎を鍛えて午後からはMr.とのスパー。スパーの内容は1ラウンド目はMr.は手を出さず、刃牙君と克己君がMr.に1発でも攻撃を当てられる様に頑張る。そして2ラウンド目はJr.の時と同様にダウンをしない様に頑張るとした。
「もう1回!」
「だめだめ、今日はもう終わり。休むのもトレーニングの内だよ」
刃牙君と克己君は何度やられてもMr.とのスパーを望む。それはいいことなんだけど、休むことも覚えてくれないと困るんだよなぁ。
それから2日、3日と経ってもJr.は部屋から出てこなかった。
そしてMr.の御宅で世話になって1週間、漸くJr.は部屋から出て姿を見せたのだった。
◆
とあるジムから細身の青年が出てくる。彼の名はジャック・ハンマー。範馬勇次郎の子の1人だ。
まるで幽鬼の様にフラフラと歩く彼の前に1人の男が現れる。父親である範馬勇次郎だ。
「範馬……勇次郎……?」
「そうだ」
しばし呆然としていたジャックだが気を取り直すと手にしていたバッグを放り構える。
「俺と……戦え!」
「……ふんっ」
勇次郎が鼻を鳴らすとジャックは踏み込み仕掛けるが、ジャックは勇次郎に強く押され後ろに吹き飛ぶ。
ゴロゴロと転がるジャックはあまりの力の差に愕然とする。ただ押されただけのため然程ダメージは無いが、驚きのあまり身を起こしただけで立ち上がれなかった。
「……よく鍛えているようだが、足りないな」
己に才が無いのはわかっている。それ故に日に30時間のトレーニングという矛盾を己に課し続けた。それでも足りないのかとジャックは強く強く歯噛みをする。
「よく喰らい、よく寝ろ。お前に足りないのはそれだ」
勇次郎の言葉にジャックはきょとんとする。数秒経ってアドバイスをされたのだと理解した。
「だが、それ以外はまぁまぁと言ったところか……」
そう言うと勇次郎は無造作にジャックへと近付いていく。不意の勇次郎の行動と先程のアドバイスによりジャックは混乱して動けない。
すると……。
「よく頑張った」
その言葉と共に勇次郎の手がジャックの頭に置かれた。
ジャックは更に混乱した。彼の人生で経験したことがない程に混乱した。とめどなく涙を流しながら。そんなジャックを置いて勇次郎は去っていった。
それからジャックは家に帰ったがどうやって帰ったのか彼は覚えてなかった。
だが翌日から彼はよく喰らいよく寝た。父の言葉を守るかの様に。
喰らっては寝て。起きては喰らってまた寝る。そんな日々が3日過ぎた頃、彼の身体に変化が起き始める。なんと筋収縮していた身体が肥大し始めたのだ。
そして2週間が経つとジャックの身体は激変していた。枯れ枝のように細かった腕は女性の太股か胴周りかと言える程に太くなり、肋が浮いて貧相だった胸板はぶ厚いゴムのようなたくましい筋肉を纏っていたのだ。
洗面台で最低限の身嗜みを整えたジャックはバッグを片手に家を出る。そして意気揚々とジムに向かって歩く後ろ姿には、溌剌とした気力が満ちていたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。