プロレスこそが最強の格闘技?   作:ネコガミ

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幕間『その頃の大人達』

 東京のとある高級料亭にて二人の男が会食をしていた。一人は猪狩完至。日本のプロレス界が誇る二大巨頭の内の一人だ。

 

 そしてそんな猪狩と会食をしているのは愚地独歩。世界一の会員数を誇る神心会空手の総帥だ。

 

「よくもまぁあそこまで育て上げたもんだ」

 

 独歩の言葉に猪狩は頭を掻く。

 

「育てたというよりは勝手に育ったが正しいな」

 

 そう言った猪狩は茶を一口飲んでから言葉を続ける。

 

「俺がやったのはプロレスの基礎基本を教えたことと、あいつに腹一杯食わせてやったことだけさ」

「そんな当たり前が出来ない指導者もいる。それを考えりゃあんたは立派さ。まぁ、あれほどの逸材をプロレスに取られちまったのは業腹だがな」

 

 独歩の言葉に猪狩は肩を竦める。

 

「よく言うぜ。おたくなんか血縁まで結んでるじゃねぇか」

「おいおい、そっちだって娘婿にする準備万端じゃねぇか」

「それは仕方ない。娘が惚れちまったんだからな」

 

 気安く話し合う二人の様子はまるで長年の友人の様であるが、こうして二人きりで会話をするのは今日が初めてだ。

 

 そんな二人が気心を知るのは種類は違うとはいえ、二人共にそれぞれが己が道を進んできた者だからだろう。

 

「それで、おたくも中国に行くって話だったな?」

「あぁ、紹介してくれるかい?」

「いいぜ、先方に話は通しておく」

 

 独歩は良意との試合以来中国武術の理合に惹かれていた。日本の古武術と似ている様で違うその理合は、まるで初めて買い与えられた玩具の様に光輝いて見えるのだ。

 

「四百年の空手の歴史に加わる新たな一年……そいつを克巳にだけやらせるんじゃ、流石に甲斐性なしってなもんだろ」

「何を言ってやがる。お前さんがやりたいだけだろうが」

「おいおい、俺ぁ先達として若いのの手本になろうとだなぁ?」

 

 呆れる様な雰囲気の猪狩に独歩は諭す様に話す。だが猪狩はこれ見よがしに大きなため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 貸し切られたアメリカのとある高級ホテルのレストランに妙齢の美女達四人が集っている。

 

 一人は朱沢江珠。範馬勇次郎の妻だ。

 

 もう一人はエマというイギリス人女性。伯爵の爵位を持つ紳士の孫娘である。

 

 更にもう一人はアメリカのチャイニーズタウンを牛耳り本国にも多大な影響力を持つ華僑の孫娘。名を一鈴(いーりん)という女性である。

 

 そして最後の一人がかつて中東の紛争地帯にて勇次郎に救われた民族の長の娘であるサーラだ。

 

「皆さん、すみませんがもう少しお待ちを。後一人いらっしゃるので」

 

 江珠が話す様に彼女達が囲む円テーブルにはもう一つ椅子があった。江珠の言葉に従いそれぞれが好む茶を飲みながらゆっくりと待っていると、やがて軍人の様な服装の女がやって来た。

 

 その女の名はジェーン。ジャック・ハンマーの母である。

 

「ようこそ。貴女がジェーンさんね?」

「……えぇ、そうよ」

 

 感情を面に出さず仏頂面のジェーンは、江珠に勧められて椅子に座る。

 

「手早く頼む。私は任務と言われてここにいるに過ぎない」

「そう?けど残念ながら明日の朝まで拘束することになりそうね」

「なに?それはどういう……っ!?」

 

 突如背後に現れた濃密な気配にジェーンは椅子を倒して立ち上がり振り返る。

 

 すると……。

 

「……勇次郎」

 

 そこには範馬勇次郎の姿があった。

 

 勇次郎はおもむろにジェーンを抱き上げると背を向ける。

 

「なっ!?何をする勇次郎!下ろせ!」

「江珠、後は任せた」

「はい、ごゆっくりと」

 

 暴れるジェーンを優しく、されど離さぬ様に抱き上げたまま勇次郎はレストランを去っていった。

 

「さて皆さん、もうお気付きでしょうけど、ここにいるのは皆があの人に惹かれた者達です」

「えぇ、それは理解しました。ですがMrs.エミ、貴女は何をしたいのですか?」

 

 エマの言葉に江珠は柔らかな微笑みを浮かべる。

 

「単純なことですよ。ただ家族として仲良くしたいだけです」

「……それは、私達もあの人のご寵愛を受けられると受け取っていいのですか?」

「えぇ、その通りです」

 

 二人の会話にこの場の全員が驚いた。勇次郎は地上最強の雄である。そんな勇次郎の寵愛を独占せずに分け与える。同じ女として信じられない行動だった。

 

「あの人は本来とても優しい人です。ですが雄としての純度が高過ぎるが故に、他の男性よりも雄としての本能までも強い。その結果、周囲から理解を得られず孤独でした」

 

「ですがあの人に本当の意味で友と呼べる人が、あの人を本当の意味で理解出来る人が現れました。その人のおかげで私は本当の意味であの人の妻になれたのです」

 

「そんな未熟者の私がどうしてあの人を独占出来るでしょうか?もちろんあの人の妻に相応しくなるべく己を磨き続けてはいますが、それとこれとは話は別です。あの人が認め、求めた女性であるのなら、私に受け入れないという選択肢はありません」

 

 彼女達は勇次郎に恋する女である。だが目の前の江珠は勇次郎を愛する女性であり、家族を慈しむ母親であった。そんな江珠の微笑みに彼女達は敗北感を味わった。

 

 だが勇次郎が認め、求めた女性達はそこで終わる程に弱くない。誰もが女傑と呼ぶに相応しい素質を持った女達なのだ。

 

「……ご厚意、ありがたく。けど、貴女から正妻の座を奪ってしまっても構わないでしょう?」

「ふふ、どうぞご随意に」

 

 やれるものならやってみろという挑発的な江珠の微笑みに女達は闘志を燃え上がらせる。

 

 そして会食を終えると女達は勇次郎とジェーンがいる部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 余談ではあるがこのレストランに集ったのは勇次郎が認め、求めた者達の半数である。

 

 では何故残りの半数は集らなかったのか……それは残りの半数の者達が生物学的に『男』だからである。

 

 その勇次郎に求められてしまった男達がどう過ごしているのかは……あえて語るまい。知らぬが仏という言葉もあるのである。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

今回の様な幕間はいる?

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