独歩さんと話をしながら岩を抱えて歩いていくと、永周さんとJr.が手合わせをしているところだった。
チラッと様子を見るに刃牙君と克巳君はもう終わったらしい。まぁ、永周さんと二人の現在の力の差を考えれば当然といえば当然かな。
「おう、どうだった克巳?」
「どうだったって……うおっ!?すげぇな三浦さん!」
克巳君の声に反応して刃牙君もこっちを見るけど、刃牙君も克巳君同様に驚く。刃牙君は前に俺が熊を担いだのを見てるはずなんだけど、熊と岩じゃ見て受ける印象が違うか。
適当な所に岩を置くと俺も永周さんとJr.の手合わせを観戦する。
うん、Jr.は良く対応しているね。Jr.がMr.から教わったアライ流戦闘術はボクシングをベースにしているだけあって至極シンプルなものだ。
攻撃手段は大別してジャブ、ストレート、フック、アッパーの四種類のみ。
これで空手やキックボクシングといった打撃系格闘技やテイクダウンを狙ってくるレスリング選手や柔術家、更には目突きや金的も狙ってくる武術家といった相手も含めたあらゆる相手に対応するべく構想、練り上げられたのがアライ流戦闘術だ。
初めてMr.とJr.に会ってその流儀を知った時は流石に厳しいんじゃと思ったものだけど、いざ体験してみると不可能じゃないと感じたんだよね。
なんせやることが本当にシンプルだから、既に確立した技術の習得やそれらの技術のアップデートのスピードが他の競技や流派と比べて早いんだ。
もちろんシンプルなそれであらゆる相手と戦うには戦術やら経験やらも必要だけど、なによりも相手を怖れない強靭な心……Mr.が言うところのスピリットが必要になる。
Jr.はまだまだMr.の様な類い希なスピリットは得ていないけど、それでも永周さんと善戦出来ている辺りに成長を感じるね。
「破ッ!」
気合い一閃、永周さんの崩拳が腹に決まってJr.が膝を地に突く。ここまでかな。
「うん、この辺でよかろう」
「はっ!」
拱手をして頭を下げる永周さんからはまだまだ余裕を感じる。対してJr.は多くの汗を流して一杯一杯の様子。まぁ、よく頑張ったってところかな。
「お疲れ様、Jr.」
タイミングを見計らってJr.に水を差し出すと、Jr.は勢いよく水を飲み出す。うん、この様子なら大丈夫そうだ。永周さんもさっきの崩拳は手加減してくれていたしね。
「……一発カウンターを決めたんだが、ヘッドスリップで流されてしまった」
見てないからはっきりとは言えないけど、化勁か消力だろうね。たしか消力は習得中のはずだから化勁かな?
「さて良意、お客人達に打岩を見せてあげなさい」
「まぁ、これを持ってこいと言われた時から予想はしてましたけどね」
師父の言葉に苦笑いをするとJr.達に笑顔を向ける。
「それじゃ、中国拳法の荒行の一つ打岩をとくとご覧あれってね」
◆
side:愚地克巳
「…親父、出来るか?」
「やってやれないことはねぇが、ああまで綺麗にはいかねぇだろうな」
三浦さんが始めた打岩を見てると幾度も鳥肌が立つ。打岩は打撃で岩の角をカットして真球に近付けていく荒行なんだが、荒行とは思えない程に三浦さんは易々と岩をカットしていく。
貫手、一本拳、平拳、正拳、手刀と手技でカットしたと思えば足先、背足、足刀、踵と脚技でも綺麗に岩をカットしていく。
「……どれだけ部位鍛練を積みゃ出来るようになるんだ?」
「部位鍛練もそうだが、それ以上に脱力だなありゃ」
親父の言葉に驚く。
「脱力により生み出される打撃速度……それがあの打岩をやるための要だ。もちろん、部位鍛練をしとくに越したことはねぇんだろうが」
「脱力か……」
空手に限らずあらゆる競技や格闘技で重要とされる脱力……けどその脱力は技術的に理論化、言語化されてないことが多いんだが……まさか?
「親父、もしかして中国拳法じゃ?」
「お察しの通り、しっかり理合が確立されてらぁ」
ならその理合を見て盗もう。そう思ったその時、親父にデコピンをされた。
「いってぇな、なにすんだよ?」
「お前ぇにはまだ早い。今はしっかりと基礎と部位鍛練を積み上げる時期だ」
そう言われても目の前に至高の技術があるなら学びたくなるのが空手家、格闘家ってもんだろうに。
「焦んな。お前ぇはまだ若い。じっくりと育ちな」
「親父……」
「代わりに俺が先に身に付けとくからよ♪」
俺の中でブチッと何かが切れた。
「結局はそれが目的じゃねぇか!」
「おう、何が悪い?そう簡単に父親超えをさせてたまるかよ」
親父との口喧嘩が続いていく中で三浦さんの打岩が終わった。この岩を見て拳足でカットしたなんて思う奴はいないぐらい綺麗な真球だ。
(……いつか俺もこれぐらい出来るようになってやるぜ)
内心そう思いながら俺は闘志を燃え上がらせるのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。