擂台賽の出場権を賭けた刃牙君と克巳君の試合が始まった。刃牙君は斜に構えていつも通り軽快にステップを踏んでいる。対して克巳君は前羽の構えだ。
双方の構えにはそれぞれの流儀とも言うべきものが現れている。刃牙君は積極的に勝利を、克巳君は負けない事を狙ったもの。戦士と武道家の違いって感じだ。
「シッ!」
先手は刃牙君。ジャブを放つが克巳君にパリングされダメージは無し。克巳君が返しで前足の下段蹴りをしようとするが、それに刃牙君が反応したところで蹴りを止めた。
「……金的は本当に厄介だな」
「克巳さん、守ってばかりじゃ勝てないよ」
「空手は武道。先ずは負けないことが大事なんだよ」
刃牙君の挑発をスルリと流した克巳君はその後も守勢に徹する。刃牙君が焦れるのを待ってるんだろうね。
対する刃牙君は各攻撃のフォロースルーも全て金的を狙える様に重心を調整している。あそこまで巧みに重心を操作出来る13歳はちょっと見たことないレベルだ。
「シッ!」
克巳君が反撃に出た。刃牙君の前足に対して前足でのカーフキック。一度距離を取った刃牙君がその痛さに足を抱える。
「イッッッタァッ!?」
「どうだ?効くだろう?」
ローキックとカーフキックの違うところは、大腿より筋肉の薄い下腿を蹴ることだ。それにより受けるダメージが全然違ってくる。受け方を知っていればダメージを消すどころか逆に蹴ってきた相手にダメージを与えることも可能だけど、そこら辺は空手家である克巳君は熟知してるだろうね。
刃牙君がやや慎重になった。これがカーフキックの厄介なところでもある。
カーフキックはダメージもそうだが、それ以上に攻撃距離と速さが厄介なんだ。
ローキックは大腿を蹴る都合上ある程度足を上げる必要がある。対して下腿を蹴るカーフキックはほとんど足を上げなくていい。必然、攻撃距離と速さはカーフキックの方が上になる。その上で無視出来ないダメージとなれば厄介極まりないだろうね。
少し慎重になっていた刃牙君が蹴りを放つ。お返しとばかりにカーフキックだ。
それに克巳君は軽く膝を折りながら脛の角度を変えて受ける。そうすることで自身のダメージを減らしながら相手の蹴り足にダメージを返す。
「……なるほどね」
カーフキックをしてから直ぐに距離を取った刃牙君は、受けられて痛む足を軽くプラプラさせながらニヤリと微笑む。
今の一攻防で学んでしまえるのが刃牙君の才能だ。克巳君は受けを盗まれたのを知って苦笑いをするが、闘志には微塵も揺らぎがない。随分と精神的に成長したもんだ。
再び刃牙君が攻勢を強めた。克巳君は慌てず丁寧に受けていく。その受けの重厚さはまるで独歩さんの様だが、克巳君らしい柔軟さも垣間見えている。
刃牙君が克巳君に技の引き出しを開けさせ、盗み、成長していくのに対して、克巳君は自由な刃牙君のスタイルに適時適応、随時自身の空手をアップデートしていく事で成長していく。
いつまでも見ていたくなるほどに面白い試合だが、やがて決着の時が訪れる。まだ13歳と若いどころか若過ぎる刃牙君が先にガス欠を起こしたのだ。
「ハァ、ハァ……まだ……終わってねぇ!」
飛び込みながら全体重を掛ける様に刃牙君が右ストレートを放つと、それを左腕の上段受けで受けた克巳君が右正拳突きを水月に放つ。
刃牙君がその一撃で意識を失ったことで決着。試合は克巳君の勝利。だが刃牙君はしっかり爪痕を残していた。
「克巳よぉ、気付いてるか?」
「あぁ、最後の正拳で勝ててなきゃ俺が負けてた」
独歩さんの問い掛けに克巳君がそう答える。
そう、刃牙君は右ストレートを受けられた瞬間、左足で金的を狙っていたんだ。
もし克巳君が正拳突きで水月を正確に狙えていなかったら、もしもう少し刃牙君が疲労やダメージが少なく正拳突きで意識を失わなかったら……結果が逆転していても不思議じゃない。
それだけの可能性を見せた刃牙君はまだ弱冠13歳の少年。勇次郎さんが溺愛するのも納得だね。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。