独歩さんと永周さんの攻防は互いに中々クリーンヒットが出ない試合だが、確実にダメージが蓄積していっているのは永周さんの方だ。
理由は部位鍛練の練度の差。強靭な四肢による受けがそのまま相手への攻撃にもなる。二人の今の状況は武術に関わった時間の違いが如実に現れているとも言えるだろうね。
「五体を武器化するのが空手……その謳い文句に偽り無しか」
「おうよ。と、言いてぇとこだが、最近の若いのは部位鍛練をサボりがちなんだよなぁ……」
「ふっ、それに関しては中国拳法界もあまり変わらんな」
少し前に師父が昨今は簡単に海王が生まれ、その質は下がっていく一方だと嘆いていたことがある。けど俺を弟子にして1年で海王にしたこともあって、そのことについてはあまり強く言えないんだとか。
「このまま真っ当にやりあっていては勝つのは難しい……小細工をさせてもらう」
「おう、いいぜ」
独歩さんの返答を受けた永周さんの胸が大きく膨らむ。あれをやる気だね。
右手で作った砲身を口に当てた永周さんが鋭く息を吐く。すると空気の弾が独歩さんの眉間に当たり簡易的に目潰しをした。
思わず目を閉じた独歩さんに間合いを詰めた永周さんは急所の壇中に崩拳を放つ。
しかし……。
「カッ!」
気配だけを頼りに繰り出した独歩さんの回し受けに防がれてしまった。
「……これも防ぐか」
「危なかったぜぇ?もうちっと気配を消されてたらくらってたわな」
俺と地下で試合をした時の独歩さんなら間違いなく今のはくらってたはずだ。
あれから成長したのか、あるいは師父との手合わせで何かを掴んだか……両方かな?
「さて、今度はこっちの番だな」
踏み込んだ独歩さんは前手での目潰しをフェイントに、水月への足先蹴りを放った。足先蹴りを受けた永周さんが後方に吹き飛ぶ。
見た目にはクリーンヒットした足先蹴りだけど、くらった永周さんには大したダメージが感じられない。
「……消力か」
「老師や良意ほど、まだ完璧には扱えないがな」
そう言う永周さんに独歩さんは不敵に笑う。
「ちょうどいい、リベンジさせて貰おうか」
左手をダラリと下げ右手だけを顎の近くに構えた独歩さんは、右手をあの特殊な形にした。
すると……驚くほどに独歩さんの気配が希薄になった。
「出たか」
「師父?」
いつの間にか近くに来ていた師父に俺だけでなく一緒に見ていた刃牙君も驚く。
「曰く、菩薩の拳だそうだ」
「菩薩?」
「無垢な赤子の時に自然に形作るのがあの形……本来ならそれまでの人生で自然と癖が付き失われるものよ」
一見隙だらけにも見える独歩さんだけど、対峙している永周さんは脅威を感じているのか冷や汗を流しながら動けない。
「だがしかし、失われたはずの無垢を取り戻せたのなら、あのように極限まで気配を絶つことが出来る」
そう言いながら師父は絆創膏が貼られている頬を撫でる。
「あれを引き出せたは良し、だがあれに応じられるだけの武は……まだあやつには無い」
その後、必死に流そうと試みる永周さんだったがそれは敵わず、独歩さんの菩薩の拳で地に沈んだのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。