side:愚地克巳
「親父……大人気ないだろ」
休憩は必要か?なんて言われたらいらねぇって答えるのが男だ。あるいはいるなんて正直に言う奴もいるだろうが、競技者や格闘家なら大抵は意地でいらねぇって言っちまうだろ。
刃牙も頷いてるし、今からでも割って入るか?
「いや、あれでよい」
そう言うのは郭老師だ。俺と刃牙が揃って目を向けると語り始める。
「常に万全の状態で戦えるわけもなし。むしろ如何なる状態でも力を発揮出来る様にせねばならん。それはスポーツマンも武道家も変わりはない」
「いや、まぁ、そうかもしれませんが……」
確かに空手の大会なんかだと1日に数試合するから、勝ち上がる毎にダメージが溜まっていきやすいがなぁ……。
そうこうしている内に親父と三浦さんの試合が始まった。親父は最初から例のあの拳……菩薩の拳で構えている。
右の下段蹴り、左の鉤突きと放ってから本命の菩薩の拳。見事に全部クリーンヒットした。
「なるほど、こうして受けてみても、その拳の起こりは察知出来ませんね。そのせいか思った以上に効きます」
三浦さんはそう言うものの平然と立っている。相も変わらずとんでもない打たれ強さだ。
「おうよ。如何なる状況でも虚をつける拳だ。いいもんが出来ただろう?」
「はい、誰にも真似出来ない独歩さんだけの拳ですね」
俺も一度菩薩の拳を真似してみたが変に力んでダメだった。三浦さんの言う通りにあれは親父だけのもんだろう。
「それで……奴には効きそうかい?」
奴?誰のことだ?
「効くかどうかで言えば効くと思いますよ。それで勝てるかは別ですけど」
「そうかい、効くか。なら、後はとことん突き詰めるだけだなぁ」
試合中だってのに随分と嬉しそうに笑ってまぁ……後で誰のことなのか聞いてみるか。
「そんじゃ、続けるか」
その言葉と同時に親父は右足で足先蹴りを水月に放った。だが三浦さんはその足が戻る前に掴む。
すると親父はすかさず足一本で跳び上がって上段膝蹴りを放ったが、それを受けながら三浦さんに足を巻き込みながら抱き付く様にして抱えこまれちまった。
「カッ!」
親父は一本拳で三浦さんの脇の下の急所を突いたが、三浦さんはクラッチを解かない。
「フンッ!」
三浦さんは親父を抱え込んだまま仰け反り親父を地面に叩きつけた。たしか……キャプチュードだったか?
強かに身体を打った親父は動けずにいる。そんな親父を尻目に三浦さんはパフォーマンスをして会場を盛り上げる。プロレスラーだなぁ……。
多少はダメージが抜けたのか親父はゆっくりと立ち上がる。そんな親父に近付いて手を伸ばす三浦さんだが、親父は三浦さんのお株を奪う様にドロップキックを放った。
「いや、うん、あれは空手なのか?」
思わずそう溢したが、踵でしっかりと蹴りこんだドロップキックは思いの外効きそうだ。そういう意味ではあれもありだな。
それでも三浦さんは倒れない。鼻血を出しちゃいるが笑みを浮かべたままだ。
「かぁ~……頑丈過ぎんだろ」
「プロレスラーですから」
「そうかい。まぁ、だからこそ遠慮なくブッ叩けるってなもんか!」
親父が打撃でラッシュを見舞えば三浦さんが合間をついて捕まえ投げる。そんなやり取りが何度も繰り返される。
そうしてやがて立てなくなったのは親父だった。
「……これでも受け身にゃ結構自信があったんだがなぁ」
「上手かったですよ。打撃の人とは思えないぐらいに」
「はぁ……まいった!降参だ!」
今日一番驚いたと思う。なんせあの親父が自分から降参したんだからな。
「悪りぃな良意。とことんやりたい気持ちもあるんだが、そいつは本番にとっておきたくてな」
「構いませんよ。あぁ、よかったら先方に話を通しましょうか?」
「いや、俺の方で伝を辿るさ。それに菩薩の拳はまだ右しか完成してなくてな。それじゃ奴に失礼ってなもんだろ?」
なんか知らないが2人で盛り上がってやがる。後で親父に追及しなきゃな。
こうして擂台賽は三浦さんの優勝で終わりを告げた。次は4年後……もし出れたら俺が勝てるように稽古に励まなきゃな。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。