愚地さんとの試合が終わりいつも通りに鎬先生の診察を受けてOKを貰った翌日、ジムに顔を出すとちょっとした珍客の来訪があった。その珍客というのが……。
「ねぇ、ここで一番強い人とやらせてよ」
この弱冠13歳の少年の範馬刃牙君だ。
「おいおい坊や、ここがどこかわかってるのかい?」
「知ってるよ、プロレスのジムだろ?」
制服の隙間からチラリと見える身体は年齢不相応という程に鍛えられてるのがわかるが、いわゆる道場破りが出来るかと言われると疑問符が浮かび上がるな。
……うん、下手に先輩方を怒らせて本気を出されちゃうぐらいなら俺が相手をするか。
「えっと、刃牙君でいいんだよね?よかったら俺が相手をするよ」
「おいおい三浦、お前じゃいじめになっちまうだろ」
「大丈夫ですよ、慣れてますから」
プロレスラーは台本があるからなのか他の格闘技と比べて舐められやすい事もある。だからこそ道場破りに来た奴等にはしっかりとわからせないといけない。プロレスラーは強いのだと。
実はこれまでにも地元の喧嘩自慢の悪ガキ共がうちのジムに道場破りに来た事が幾度もあるんだが、俺がいる時はだいたい俺が相手をするようにしている。
先輩方じゃたまに可愛がり過ぎちゃうからなぁ……。
というわけで今回も俺が相手をしようと思う。
「それじゃ、始めようか」
刃牙君と一緒にリングに上がってそう言うとこれ見よがしにジャージの上を脱ぎ始める。すると……。
「ッシャア!」
先手必勝とばかりに刃牙君は金的蹴りをしてきた。
「なっ!?な、なんで…?」
驚く刃牙君にニッと笑って答える。
「そりゃ俺がプロレスラーだからさ。金的だって受け慣れてるよ」
そう言うとジムにいた先輩方が笑って囃し立て始める。
「坊や安心しな!うちでも金的が効かねぇのは三浦ぐらいだ!」
「そうそう!運が悪かっただけさ!」
そんな先輩方の言葉に気を取り直したのか構えを取り正面から攻めてくる。
ローキック、後ろ蹴り、左右のパンチ連打と年齢の割りにはいいラッシュだ。うん、将来有望なファイターだね。
さて、どうしようかな?
刃牙君の目を見るとただの興味本位でここに来たわけじゃなさそうな気がする。ならプロレスラーが強いってわからせるんじゃなくて、それとなく技術を教えてあげるのも悪くないかな?
そう考えた俺は刃牙君から受けた攻撃を一つ一つ返していく。
ローキック、後ろ蹴り、左右のパンチとこういうやり方もあるよと教える様に打つ。
最初は痛みに顔を歪めたり同じ攻撃を返される事が癪に触ったのか顔に青筋を浮かべてたけど、少ししてこちらの意図が伝わったのか目を輝かせて色々とやってくる様になった。
いや、うん、刃牙君って天才だわ。俺がやって見せた攻撃の身体操作を数回試行錯誤するだけでだいたいモノにしてしまっているんだもん。
そんな刃牙君とのやり取りも刃牙君の体力的限界が見えて終わりが近付く。刃牙君がパンチの打ち終わりに足が縺れて俺に身体を預ける形になった。
俺はクラッチして刃牙君に告げる。
「パワーボム、行くよ。受け身しっかり」
慌てた様に両手で後頭部を保護した刃牙君を見てぶっこ抜き彼の年齢を考えて背中から落とす様に投げると、体力的な限界を迎えていたのもあってか刃牙君が気絶して彼の道場破りは終わった。
しばらくして刃牙君が目を覚ます。目を覚ました刃牙君に……。
「よし刃牙君、飯に行こっか。もちろん俺の奢りでね。あっ、その前に病院に行こう。念のために」
そう告げると刃牙君は驚いて目を白黒させたのだった。
◆
side:範馬刃牙
三浦さんに病院に連れていかれて鎬という先生に色々と検査をされた後、今度は随分と高そうな料亭の個室に連れて来られた。
プロレスラーって金持ってんだなぁ。
「さぁ食った食った。食わないと強くなれないぞ」
「えっと……はい、いただきます」
俺が所狭しとテーブルに並べられた料理に手を付けると三浦さんもワシャワシャと勢い良く、けど綺麗に食べ始める。
「あっ、すみません、追加お願いします」
「は~い」
信じられない程に食う三浦さんに驚くが、これだけ食えなきゃダメなんだと腹を括り料理を腹に詰め込んでいく。
それにしても店の人も慣れているのか追加の料理をじゃんじゃん持ってくるな。
俺は限界を迎えたが三浦さんはまだ食い続けている。三浦さんが最強のプロレスラーと言われるのもわかる食いっぷりだ。
しばらくして食い終わった三浦さんが不意に話し掛けてくる。
「それで、ただの興味本位で道場破りに来たわけじゃなさそうだけど……聞いてもいいかい?」
技術を教えてもらい飯まで奢ってもらったのもあって俺は三浦さんに色々と話した。
「う~ん……なんともまぁ、複雑な家庭事情だねぇ」
頭を掻きながら困った様に苦笑いをする三浦さんに俺も苦笑いをする。
「……まぁ、色々と鬱憤がたまったらまたジムに来なよ。身体を動かせば気も晴れるだろうからさ」
そう言う三浦さんに俺は礼を言って頭を下げた。
……もしかしたらこういう風に誰かに素直に頭を下げたのは初めてかもしれない。
どこか気持ちが晴れた俺は気分良く走って家に帰ったのだった。
でも、この時の俺は失念していた。
あの『親父』が三浦さん程の人を見逃す筈がないと……。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。