プロレスこそが最強の格闘技?   作:ネコガミ

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第9話『少年の父と軍人とプロレスラー その1』

 刃牙君を見送ると栗谷川さんという男性が現れて俺に頭を下げてきた。

 

「御家族以外の方にあれほど坊っちゃんが心を許されたのは初めてです。お礼を申し上げます。些少ですが、どうかお納めください」

 

 そう言って茶封筒を差し出されたので受け取ると、栗谷川さんは去っていった。

 

 茶封筒の中を見ると諭吉さんの帯封がいらっしゃられる。

 

「……もしかしたら聞いた以上に複雑な家庭事情なのかもなぁ。頑張れよ、刃牙君。俺でよけりゃ力になるからさ」

 

 数日後、学校も興行も休みで地下の試合も無いとあって俺は翔子ちゃんとデートをするべく、待ち合わせ場所に向かって街中を歩いていた。

 

 すると不意にゴツいジープが横に止まり、これまたゴツい壮年の男性がジープから降りてきた。

 

「ゲリー・ストライダム大佐だ。ミスター三浦、すまないが一緒に来て欲しい」

 

 大佐とか言ってるから軍人さんか?けどそんなことを言われてもなぁ。

 

「すみませんがこれから婚約者とデートなんですけど」

 

 そう言うと数日前に見た覚えがある茶封筒を差し出される。中を見ると100ドル紙幣の帯封がいらっしゃられた。

 

「もしもし、翔子ちゃん?ごめん、急用が入っちゃったから今日のデートはキャンセルでお願い。もちろん後日に埋め合わせはするからさ」

 

「えっ?あぁ、うん……翔子ちゃん!好きだー!愛してる!……満足いただけたようでなによりだよ。それじゃ、またね」

 

 翔子ちゃんに携帯で連絡を入れ終えるとストライダムさんがニヤニヤとしている。

 

「どうやら三浦は彼女の尻に敷かれてるようだな」

「否定はしませんよ」

「いやいや、男と女の仲はそのぐらいでちょうどいいのさ。私のワイフも外では私を立ててくれるが、家ではすっかり私が尻に敷かれてしまっていてね。おかげで結婚してからこれまで夫婦仲は良好だよ」

 

 そう言ってウインクをするストライダムさんに招かれジープに乗り込む。それからしばらく雑談をしながら過ごしていると横須賀の米軍基地に到着した。

 

「三浦、グッドラック」

 

 ジープを降りると滑走路……なのかな?米軍基地の敷地のど真ん中に上下黒の服にカンフーシューズを履いた男性がいる。

 

 とんでもない存在感だ。見ただけで鳥肌が立つ様な……そう、まるで師父の様な存在感だ。

 

「三浦良意だな?」

「はい、そうです。貴方は?」

「範馬勇次郎だ」

 

 範馬?もしかして……。

 

「刃牙君のお父さんですか?何の用……って、問うのは野暮ですかね」

 

 そう言うと範馬さんは散歩でもするかの様にこちらに歩いて近付いてくると踵落としを放ってきた。もちろん受ける。

 

 ジャブより速い範馬さんの踵落としはピンポイントで俺の顎を蹴り抜く。

 

 うん、痛い。愚地さんと同等かそれ以上だ。

 

 けど愚地さんと違うところがある。それは……範馬さんは蹴りを完全に自分のモノにしているという事だ。

 

 だから余計な力みが無く起こりが察知しにくいため、彼の踵落としがジャブより速く感じる。いや、実際にそこいらのボクサーのジャブよりも速いんだけどね。

 

 踵落としを受けて平然としている俺を見て範馬さんが口角を引き上げる。

 

「今日は最高の一日になりそうだ」

 

 そう言う範馬さんの顔に蹴りを返した。

 

 プロレスは相手の技を全て受けきるんだが時には技の応酬をする事もある。例えばリング中央で逆水平チョップの応酬をしたり、ラリアットの応酬をしたりだ。

 

 俺が範馬さんに蹴りを返したのはプロレスラーの勘というか感覚で、範馬さんが応酬を望んでいると感じたからだ。

 

 範馬さんがパンチを顔面に放ってきたので受けて殴り返す。

 

 受けて殴り返す。受けて蹴り返す。

 

 そんなやり取りの中で俺は内心で首を傾げていた。

 

(なんで範馬さんにシンパシーを感じてるんだろ?)

 

 殴られて殴り返す。蹴られて蹴り返す。そんな応酬を続けている間に考えているとふと答えが浮かんだ。

 

(あぁ、そうか……範馬さんは『プロレスと出会う前の俺』なんだ)

 

 1万ドル分は付き合おうと考えていたが方針変更。今日は範馬さんにしっかりと付き合う。

 

 

 

 

side:ゲリー・ストライダム

 

 

 殴っては殴り返されと西部劇にでも出てくる様な攻防をしている勇次郎と三浦だが、その実は攻防等という生優しいものじゃない。常人ならば確実に一撃でKOされる威力の攻撃を交わし合っている光景は命のやり取りをする戦闘としか表現が出来ないクレイジーなものだ。

 

 5分程続いた殴り合いが不意に止まる。

 

「暖まったか?」

「はい、お待たせしました」

 

 勇次郎ならまだわかるが三浦までだと?

 

 先ほどまでのやり取りがウォームアップに過ぎなかった事に驚いていると、三浦がパーカーとインナーを脱いで上半身を顕にする。

 

 そして三浦が大きく一呼吸をしたと思ったその後、目の錯覚なのか彼の身体が一回り大きくなった様な気がした。

 

「吐納法か」

「師父が言うには、意識してやらなきゃ出来ない俺はまだ未熟らしいですけどね」

 

 察するに三浦は呼吸を用いてパンプアップをした様だ。最早驚きで声が出ない。

 

 三浦に続く様に今度は勇次郎が上着を脱いだ。そして……。

 

「カァッ!」

 

 一声上げると彼の背中に鬼の貌が現れた。

 

「凄いな……まぁ、それはともかく続きを始めますか」

 

 三浦の言葉を皮切りに二人の戦いが再開された。

 

 勇次郎が打撃し三浦が打撃をし返す。

 

 言葉にすればそれだけだが、二人の打撃が放つ暴威に私は無意識に数歩下がってしまう。

 

 5分か10分か、あるいは30分か1時間かもわからない濃密な時間が過ぎるとまたもや不意に二人の動きが止まる。

 

「どっちからだ?」

「俺はプロレスラーですから」

 

 そんな一言だけの会話で二人は通じ合うのか、勇次郎の背中の鬼が哭いた。

 

「ッシャア来い!」

 

 まさか……三浦はあの一撃を受け止めるつもりか!?

 

 私の予想通りに勇次郎は最大の一撃を放った。そして三浦はその一撃を胸板で受け止める。

 

 だが……。

 

「……いってぇー!?」

 

 訪れた結果は私の予想を覆すものだった。

 

 あの一撃を受けて生きているどころか気を失ってすらいない。私は幻を見ているのか?

 

「クスクスクス……ハーッハッハッハッ!」

 

 勇次郎が心の底から楽しそうに笑っている。最早私には何が起こっているのか理解出来ない。

 

 だが、そんな私にも一つだけわかる事がある。

 

 それは先ほどまで充満していた空間を歪ませる程の濃密な闘気が消え失せた事で、二人の戦いは終わったのだという事だ。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。
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