pixiv投稿した作品の再掲です。
ヴィクトリアスの場合 | 暁の瑞雲 #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18346245
「コンコン」彼女の部屋をノックする。
ネームプレートには勝利を冠する名が刻まれている。
彼女の名前は『ヴィクトリアス』だ。
今日の執務を終えた私は、間もなく迎えるヴィクトリアスの進水日、すなわち誕生日を知っていてここに来た。彼女が着任したばかりの時はその美しい姿に感動し、鎮守府を上げて歓迎したものだった。
しかし、彼女が最大練度になり指輪を渡した以降、大したことをしていない。
そのため、日付が変わる前に彼女の部屋を訪ねたのだ。
「だあれ?」
部屋の中からは、聞きなれた彼女の声。
「私だ」
「ああ、提督ね。こんな時間に何の用?」
その声は、いつもどおりのようで、そうでないようで、少し不安になる。
確かにこんな遅くにレディの部屋を訪ねるものではないな。そう思った私は早口で告げる。
「まもなく誕生日だろう、プレゼントを持ってきたんだ。扉の外に置いておくから受け取って欲しい、ではな」
私は踵を返し、自室へ戻ろうと歩き出す。
- ガチャリ
数歩歩いたところで、ヴィクトリアスの部屋の扉が開く。
「提督、覚えていてくれたのね」
彼女の笑顔は、就寝前だというのに花が咲いたように美しい。そうだ、あの地中海で顕現した彼女の笑顔をまるで花が咲いたようだと思ったのだ。
「入って」
そう言うと、私の腕と先ほど置いたプレゼントを掴むと、部屋の扉をそっと閉める。
「もう遅いから、ハーブティーでいいかしら?」
「ああ、お構いなく」
私をソファーに座らせた後、テキパキと準備をしてくれるヴィクトリアス。
部屋着と言うには刺激の強い姿に目のやりどころに困った私は、彼女から目をそらして初めて入る彼女の部屋を見る。
机の上には、あの日、地中海で作戦を完遂したメンバーとともに撮った写真、カッコカリの時に私と撮った写真が置いてある。
写真の中のヴィクトリアスは、まるで花が咲いたような笑顔を見せている。
ああ、そうだ。私はこの笑顔に惚れたのだ。
「お待たせ」
紅茶の準備を終えた彼女はティーセットをテーブルに置くと、私が座るソファーの真横、直近に座る。
そう、体が触れ合うくらい近くにだ。傍にいる彼女の熱がすぐに伝わってくる。
「カモミールティーよ。どうぞ」
「う、うむ」
こんな状況で紅茶も何もないが、急激に乾く喉を潤そうとティーカップに伸ばした私の手を、彼女の手が優しく包む
「ヴィ、ヴィクトリアス?」
「提督……」
潤んだ目はまるでエメラルドのよう。私はそっと彼女の手を握り返す。
「ヴィクトリアス、いつも感謝している。これからはもっと二人の時間を取れるようにするよ。そして、君が生まれた日に感謝を。誕生日おめでとう」
丁度、時計の針が0時を回り、彼女に祝福の言葉を贈る。
熱を帯びた彼女の瞳はじっと私を見つめている。
「ありがとう、約束よ」
彼女の瞳に吸い込まれそうになりつつも、持ってきたプレゼントに手を伸ばす。
「そ、そうだ、プ、プレゼント、を……」
言いかけた私の口は、甘い匂いとともに彼女の唇に塞がれる。
ヴィクトリアスからの、熱くて甘い、フレンチキス。ものの数秒の彼女とのキスは、これからの約束の証となる。
「私が生まれたこの日に契った約束、毎年思い出してね」
そう言うと、彼女は私から離れる。
彼女に贈ったプレゼントは金のティアラ。
レリーフはバラ、その花弁はブラックオニキスで飾っている。
「素敵……。ありがとう。提督」
黒バラの花言葉は『永遠の愛』、そしてブラックオニキスは『邪気や悪鬼を払う魔よけの石』
その意味を知ってか知らずか、その美しい髪にティアラを飾ると、ヴィクトリアスは私に言う。
「これからもずっと、あなたとともに……」
夜は長い。二人で過ごす時間はまだ始まったばかりだ。
fin