択捉型海防艦を中心にとしたアットホームな鎮守府の物語をお楽しみ下さい。
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2022年夏、鎮守府の主力級艦娘のほとんどが欧州奪還のための大規模作戦に参加することとなった。
提督は、通常の艦隊運営で消費する資材を極力抑えるべく、鎮守府近海の警戒任務を海防艦達に任じた。
昼夜問わず近海で操業する漁船や商船を守るために、24時間代わる代わる出撃する海防艦達の表情には次第に陰りがみえるようになる。
何故なら疲労のみならず、楽しみにしていた夏祭りや、花火大会への参加が出来なくなってしまったからだ。
そうこうしているうちに夏は終わり、季節は秋どころか冬へと移り変わろうとしていた。
「ちぇ、夏は終わっちまったし、近所の神社の木も紅葉どころか、もう丸はげに近いぜ」
佐渡がつまらなさそうに呟くと、他の択捉姉妹も残念そうに顔を見合わせる。
「仕方ないよ。お仕事だったんだし」択捉が口火を切る。
「漁船のおじさんも喜んでくれたから……」と松輪も同意。
「へっ、あたしたちの仕事は遊びじゃないんだぜ」と福江も負けじと会話に参加する。
「でもね、司令とみんなと一緒に遊びたかったな」と平戸が言うと、対馬は黙って下を向く。
去年も警戒任務で花火を見ることが出来なかった対馬は、今年の夏祭りでは提督に肩車をしてもらい、花火を見る約束をしていたのだ。
それが突然の欧州作戦により反故になってしまった。
艦娘の仕事だからと自分に言い聞かせ、今まで我慢していたが、皆の会話でそれが思い出されてしまい、足下にポタポタと水滴の跡が広がっていく。
それを見て、先ほどまで強がっていた全員が黙り込んでしまう。
「艦娘である以上、仕方ないよ。来年はみんなで夏祭り、行けたらいいね」
長女の択捉が対馬の頭を撫でると、感極まったのか対馬は大声で泣き出してしまった。
「なんだ、泣くなよ、つっしー」
そう言う佐渡も涙目になっている。
皆で必死に対馬を宥めながら、自分たちの部屋へと戻っていく択捉型海防艦達。
その様子を、鎮守府の見回りをしていた提督がそっと物陰から見ていた。
11月28日夕刻
「はー、今日も無事に船団護衛が出来たぜ」
早朝から船団護衛をしていた択捉型海防艦達が、旗艦の佐渡を先頭に鎮守府近海へ到達する。
鎮守府に近付くにつれて普段と違う空気が漂ってくることに、まず平戸が反応した。
「なんだか煙臭い。いえ、何か美味しそうな匂いがするけど」
平戸が、鼻をクンクンしながら後続の子らに声をかける。
「あたしは鼻が効くんだ。どれどれ」
福江も平戸の真似をして、風に乗ってくる匂いを嗅ぐと、
「これは……。団子か? たこ焼きみたいな匂いもする!」
「うん、食べ物の匂い!」
間違いなく漂ってくる美味しそうな匂いに対馬の目が輝く。
「は、はやく帰ろうぜ!」
旗艦の佐渡が速度を上げるのに合わせて、全員が船速を最速に上げた。
「急げ、急げ」
佐渡達は、発着場に到着すると艤装を剥ぎ取るように外し、その場に放置して駆け出していく。
「こらー! 装備をもっと大切に扱いなさい!」
夕張が窘めるが、意に介さず、全員が装備をそのままにして振り返りもせず駆けていく。
「夕張、今日は大目に見ましょう」
「明石は甘いよ。そりゃあ、あたしだって大目に見てあげたいけどさ」
夕張はぶつぶつ言いながらも、海防艦達の艤装をよっこらせと持ち上げて、名前の書いてある艤装保管位置へと整理していく。
その表情は言葉とは裏腹にとても優しい。
「あの子達、夏の間はずっと出撃任務だったからね。今日くらいはね。」
「まあね。私たちも早く切り上げて行きましょうよ」
「そうね」
「あ! あっちだぜ!」
佐渡の指差す先、鎮守府の中庭には大勢の艦娘が集まっているのが見えた。
その場所に近付くにつれて、たくさんの屋台が建ち並ぶ様が目に入る。
「あ、佐渡ちゃん、あれ見て……」
何かを見つけたのだろう、対馬が指差した先には、
「佐渡、進水日おめでとう!」
と大きな横断幕が掲げてある。
「あっ! そうだった! 今日は佐渡様の誕生日だー!」
佐渡が大声で叫びながら、みんなのいる中庭へと突進していくと、両手を広げた提督が横断幕の下で海防艦達を迎えてくれる。
「そうだぞ! 佐渡、誕生日おめでとう! そして皆、夏は頑張ってくれてありがとう。今日は夏祭りならぬ秋祭りだ。思う存分楽しんでくれ」
突進してきた佐渡を抱え上げる提督と、子供扱いすんな! といいつつも和やかに笑う佐渡を見て、択捉型海防艦達全員が笑顔になる。
と、ここで、
「提督よ、今日は海防艦達に報いるのだろう。もう屋台は準備出来ているのだぞ」
長門がたこ焼き屋台から、早く食べさせてやれ、と言わんばかりに出来たたこ焼きをこちらに差し出している。
「あ、ああ、そうだったな。さあ皆、楽しんでくれ。夏は欧州作戦、鎮守府近海警戒と休むことなく働き詰めだったから、今日は消灯時間を気にせずに皆で語り合おう。ちょうど佐渡が誕生日だったので、それに合わせて開催させてもらったが、ここにいる全員が主役だ。さぁ鎮守府秋祭り、開催だ!」
「わーっ!」
大規模作戦に参加した艦娘達の話を聞く者、鎮守府近海警戒に参加した択捉型海防艦を始めとする子らへのねぎらいの声かけなど、あちこちで会話の花が咲く。
「さあ、対馬」
俯き加減でお好み焼きをおずおずと食べていた対馬に、提督が声をかける。
「私の肩車で屋台を回ろうか」
対馬は嬉しそうに頷くと、提督の肩の上で目を輝かせる。
「どうだ? 対馬」
「高いです。よく見えます」
たくさんの屋台は今日のために皆が準備したもので、中庭の端から端まで立ち並んでいるが、肩車の高さからだとそれが一望出来、どんな食べ物があるかがよく分かる。
「食べたいものがあれば言ってくれ」
「はい」
この前の泣き顔はどこへやら、嬉しそうな対馬を択捉型全員が微笑ましく見つめている。
「司令、次は平戸もお願いします」
「駄目、対馬の場所だから」
「えー、あとで交代してよ」
2人を中心に、カラカラと笑う海防艦達に提督も自然と笑顔になる。
「でもね、司令、今日は佐渡ちゃんの誕生日だから、そろそろ佐渡ちゃんと交代ね」
「もうすぐ花火が上がる頃だけど、いいのか?」
「うん、また来年お願い。今日は佐渡ちゃんが主役」
「そ、そうか、対馬がいいならいいんだ。来年は必ずな」
「うん!」
そういうと、対馬はゆっくりと提督の肩から降りて、佐渡を探す。
「佐渡ちゃん、交代」
「なんだよ、つっしー、提督に甘えてていいんだぜ」
「今日は佐渡ちゃんの誕生日だから」
「お、そうか、ありがてえ。一度肩車やってもらいたかったんだよな」
口だけでなく、手も団子やらリンゴ飴やらのタレや砂糖でベタベタなまま、提督の肩によじ登る佐渡。
提督の服は今日卸したばかりだが、明日にはクリーニングに出すことになるだろう。
「へへー! いいじゃん! 司令、はっしれー!」
「よーし! しっかり捕まってろよ!」
言うが早いか、大勢の艦娘達の間を縫って風のように走る提督の肩で、笑顔の佐渡が叫ぶ。
「みんな、佐渡様の誕生日、祝ってくれてありがとー! いひ!」
多くの艦娘達の祝福の拍手は、上がり始めた花火の音とともに、その後もしばらく鳴り響いていた。
完