艦娘進水日シリーズ   作:暁の瑞雲

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今回はポーラの進水日に合わせて書きました。


ポーラの場合

 暗い海、飛び交う砲弾の雨。

 もう動けない。

 置いて行って欲しいのに、ザラ姉様達は、来てくれた。

 そして、沈んだ。

 動けない私の上では、恐怖に駆られ、酒の力で暖を取り、正気を保とうとした人達がいた。

 他の艦の人たちから見たら、それは狂気に見えたのだろうか。それとも道化に見えたのだろうか。

 混沌の中で、自らも最後の時を迎える。

 ごめんね。

 

 

「はぁっ、はぁっ!」

 時計を見ると午前4時前。お酒の量が少ないと、いつもこの時間に目が覚める。

 控えめに見ても、どちらかと言えば豊満な身体は汗でぐっしょりと濡れている。

「ふぅぅぅ」

 大きく息を吐き、そして吸う。

 まだ鼓動が収まらず、ふと手を見るといつものように震えていた。

「……。ポーラ」

 天蓋、いや二段ベッドの上からはザラ姉さまの声。

「ザラ姉さま?」

「……」

 起きているわけではなさそうだ。

 私は、ベッドわきに隠してある、お酒の瓶を煽ってから身体を拭き、再び床に就く。

 今度は暗い海ではなく、地中海の明るい海の夢が見られたら、いいな。

 

「ポーラ! 朝よ。起きて!」

 チュンチュン。

 窓際で雀の声も聞こえる。

「あ、ザラ姉様~。おはよ~ございます」

 ザラ姉様は、クンクンと私の前で鼻をひくつかせると、首を傾げる。

「ん-? お酒抜けきってないのかしらね?」

「きっとそうです。昨日は夕食の時にちょこーっと飲んだだけですから。ポーラ、やれば出来る子なんです」

 この前は、会話中にお酒を隠してある場所をちらりと見てしまい、バレた。

 だから、今日はザラ姉さまの目をしっかりと見つめて逸らさない。

「まぁ、そうね。信じます」

 姉様ごめんなさい。ポーラは艦娘として欠陥を抱えています。きっとこれは治らない。

 だって、暗闇の中であの人たちが呼んでいるから。

 いつかきっと、またあの海へ還るまで私の魂を掴んで離さない。

 

 

「提督、ポーラも練度最大になって久しいです。改二改装計画はまだなんですか!?」

 いつもよりも強い剣幕で迫るザラに、提督は答える。

「ザラ、ポーラは酒のせいか、ポテンシャルが不安定なんだよ。最近は君の管理下でかなり酒の量が減っているような気もするが、今のままでは改二は無理だ」

「何故!?」

 提督は困ったような顔をして、改二改装計画書をザラに見せる。

「例えば、これは鳳翔改二の改装計画書なんだが、ここを見てくれ」

 提督の指差す個所には、

「改二改装前提条件 その壱 心身ともに安定なこと」

 と書いてある。

「ポーラはあまりにも精神的に不安定だ。あの子は艦だった頃の記憶にかなりのトラウマを抱えているのだろう。史実から考えても仕方のないことかもしれない。だがその点を考慮しても、あの酒の量は自らの心の弱さを乗り越えようとしているとは思えない」

「……」

 そういわれてしまうと、ザラも返す言葉がない。

 あの子はただお酒を飲みたくて飲んでいるわけではない。だって、酔ったように見えてその瞳にはいつも悲しい色が浮かんでるのだから。

 

 

「ポーラ! 今日は夜戦演習よ。来なさい」

「やだ、やーだ。やだやだ。夜戦いやーだ」

 ポーラはお酒を飲んでいるときは、

「や、せ、ん、~! 行ってみましょ~! やっ、せん! すすめ~!」と平気なのに。

「紅組、何をしている? もうすぐ時間切れだぞ! 棄権するのか?」

 今日の審判の長門さんが痺れを切らして催促してくる。

「もう! ポーラ抜きでやりましょう」

 今日はイタリア艦対イギリス艦の演習日だったが、結局ポーラは参加出来ず。

 レーダー装備に劣る私たちは、3戦3敗で演習を終えることになりました。

「どうしたらポーラに過去の記憶を乗り越えさせることが出来ますか?」

 お酒を抜くことで、ポーラに自らの弱さを克服させようと思ったザラだったが、結局ポーラは変われずにいた。

 しかし、艦娘は否が応でも戦闘海域に出撃しなくてはならない。

 いつも自分がポーラの傍にいてあげられるとは限らないのだ。

 史実のごとく、自分が先に沈んだとしてもポーラには生き残ってもらいたい。そのためにも過去を乗り越えて貰わなくてはならない。

 そう思ったザラは、数々の艦娘の症例を見てきた明石に相談に行く。

 

 

「そうね。そういった過去の軛を乗り越えた子達の共通点は『愛』ね」

 椅子に座って、足を組み替えながら明石さんがカルテを見ながら教えてくれる。

「愛?」え?

「ええ、愛ね」

「良く分からないです」

 私は俯きながら答える。だって、自分も良く分からないから。

「簡単に言うとね。守りたいものをはっきりと意識する。強く心に刻み付ける。ということね」

「やっぱり良く分かりません」

「あなたたちを見ていると、そんなに心配しなくてもいいと思いますけどね」

 明石さんは優しく言ってくれる。

「そうねぇ。あ! そうそう、ザラさん、あなた、改二になったとき、降ろした主砲があるでしょう」

「あ、はい。もう過去を乗り越えて生きようって決めたから」

「うん、それ、その時の主砲、あれ、ポーラちゃんの装備に組み込んであげてもいいかしら」

 この日、ポーラの4番砲塔は、「粘り強く」という名版が刻まれた姉のザラの主砲へと換装された。

 

 

「おい! ザラからの応答はないのか?」

「ザザッ、ザー」

 大規模作戦で鎮守府の大半の戦力が不在となったタイミングで、深海棲艦の侵攻が開始、鎮守府に残った戦艦、空母、重巡達の連合艦隊を出撃させたが、長引く戦いは、夜戦へと移行、敵味方ともに被害甚大となる。

 戦闘を継続すれば、その場で勝てたかもしれないが、大破艦が出たため鎮守府への撤退を開始した。

 だが、激しい雨と共に艦隊との通信が途絶えたのだ。

「くそっ! 誰か、鎮守府に残った艦で出撃出来るものはいないか? 誰か!」

「ポ、ポーラが出ます」

 鎮守府のタダならぬ雰囲気に、朝からなんとなくお酒を控えていたポーラは、姉の危機と聞いて、自らを奮い立たせる。

「ポーラ、大丈夫なのか? 手が震えているじゃないか?」

「だいじょぶです。お酒切れてるだけ。やれます」

 本当は怖い。でも、ザラ姉様を失うのはもっと怖いから、私は行く。

「ポーラちゃん、工廠へ来て」

 丁度、指令室に来ていた明石が、ポーラを工廠へと誘う。

「これ、この装備、ザラちゃんと一緒に戦えるのよ」

「これ、ザラ姉様の?」

「そうよ。ザラちゃんが改二になる前、ずっと使っていた装備。ザラちゃんが過去を乗り越えるために降ろした装備だけど、ポーラちゃんが過去を乗り越えるためのきっかけになればって、譲ってくれたのよ」

 まだ震えているポーラに明石は問う。

「ポーラちゃん、貴女の装備は、ザラちゃんの装備を搭載して、より深い意味を持つようになったわ。貴女の3番砲塔、ザラちゃんの4番砲塔、言葉の意味」

「あ……」

 刻まれた文字はザラの主砲の「粘り強く」そして、自分の装備の「どんなことでもやり遂げる」という言葉と重なる。

 二人の姉妹の装備の言葉は、時を超えて、強く、そして深くポーラの心に刻み込まれる。

 と、そこでポーラの震えが止まった。

「姉様ありがとう。ポーラ、夜戦行けます!」

 鎮守府近海まで撤退してきていた鎮守府の艦隊を追撃していた手負いのレ級は、ポーラの敵ではなかった。

 艦隊は誰一人欠くことなく、深海棲艦を退けることに成功したのだった。

 

 

「本当にいいの? ポーラちゃん?」

「はい。言葉は私の心に刻みましたから。過去も乗り越えるのではなく、しっかりと受け入れましたから。今の私に出来る事、身近な人を護ることこそが、結果としてこの国を、そして人々を護ることに繋がるってザラ姉様が気付かせてくれたから」

 深く頷きながら、装備を明石に渡してポーラは海を振り返る。

 遠い地中海の海からだろうか、陽気だった乗組員達の歌声が微かに聞こえた気がした。

 

 

 時は流れ、12月5日

「ポーラ、改二改装成功です」

 姉のザラに勝るとも劣らない、少女から大人の様相へと姿を変えたポーラは、姉とそっくりの衣装に身を包んで、にこやかに微笑む。

「ポーラ、誕生日の改二改装おめでとう」

「ありがとう姉様」

「これ、私からのプレゼントよ」

「これは?」

「昔の装備の鋼から作ったペアリング。お揃いよ」

 二人は、ほぼ同時にリングをはめて、手のひらを太陽に透かす。

「ねえ、ポーラ、いつか欧州で、フィウメやゴリツィアにも会えるといいわね」

「はい、姉様」

 もし、二人が同じように過去の因縁に心を捕られているようなら、私が救ってあげたい。ザラ姉様が私を救ってくれたように。

「ほら、ポーラ」

「はい、ザラ姉様」

 手を繋いで私室へと歩いていくザラとポーラを、ポーラの改二改装を見守っていた提督と明石が微笑ましく見つめていた。

 

 完

 

 

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