実力至上主義の教室と不出来なシャーロキアン   作:北武

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第1巻 実力至上主義の研究(2)

 

 クラス分けを確認した俺は、足取りも軽くDクラスに向かった。

 足取り軽いのは、同じクラスの名簿に櫛田桔梗の名前があったからだ。

 

 ヤバいヤバい。教室を前に表情を引き締める。

 ニヤニヤしてたら、また女子にキモがられる。

 

 ドアをくぐって教室に入る。

 おはようございます、とあいさつしようと思ったら、声が出なくてモゴモゴになってしまった。

 よし切り替えよう。まだ誰も気にしてないはず。

 見た感じ櫛田さんはいないようだ。

 座席は机の上にネームプレートが置いてあるので、自分の席を探す。

 

 ラッキー、窓際だ。真ん中ぐらいか。ポジション的にいい。

 腰を下ろすと、前の席に座っている茶髪のイケメンが振り返った。

 

「おはよう」

「おはよう」

 

 いきなり挨拶されて、つい仏頂面で返事してしまった。

 

「よろしく、僕は平田洋介…えっと、名前は何て読めばいいの?そうなかくん?」

 

 視線が机の上のネームに向いている。惣が読めるなんて、さすがエリート校。

 

「そうじゅうだ、よろしく平田くん」

「そうじゅうって読むのか。初めて聞くよ」

 

 皆さんそうおっしゃいます。

 

「ああ、俺も親戚以外に会ったことはないよ」

「そうなんだ。出身は東京かい?」

「九州の田舎。東京にはいないかも」

「九州から?たしかに寮に入るから、出身は関係ないよね」

「親が海外転勤になったので、全寮制のところを探して、偶々ここに合格したんだ」

「なるほど、そういう事情の人もいるんだね」

 

 先ほどの櫛田さんといい、この平田くんといい、話しやすくて助かる。

 櫛田さんはまだ教室にはいないのかな?

 そのとき、聞き覚えのある声が教室に入ってきた。

 

「中々設備の整った教室じゃないか」

 

 げっ!あれって、さっきのヤバい金髪だよな。同じクラスか。いやだなー。

 

「どうしたの?」

 

 俺の視線が金髪に固定されていると、平田君に尋ねられた。

 

「ああ、ごめん…」

 

 平田君は俺の視線の先を見て尋ねる。

 

「彼は知り合い?」

「いや、金髪の人って普通にいるんだなって」

 

 朝の一悶着を話すわけにもいかず誤魔化す。

 九州の田舎にもキンパツはいたけど、その99.99%はヤンキーである。昭和がはるか昔に終わったいまも、彼らは田舎で生き延びて勢力を拡大しているのだ。

 

「そうだね」

 

 平田君は気にした様子がない。東京では普通なんだろうか…

 

 その金髪だが、机の上に足を上げて、指の爪を手入れしている。

 髪型も整えられているし、おしゃれなようだ。

 体つきは大きく腕の太さを見るに、かなり鍛えているタイプだろう。

 バスの中でも屁理屈をこねていたし、自己中心的で育ちは良くなさそうだな。

 

 そんなことを考えていると、始業のチャイムがなってスーツ姿の女性が入ってきた。

 平田君が前を向いて、俺も椅子に座りなおした。

 

「えー新入生諸君、私はDクラスを担当することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している」

 

 おー、茶柱先生は日本史担当か。年齢30くらいか。美人だ。スタイルもいいし。胸の谷間がすごい。目つきが鋭いが、全体的にダルそうな印象を受ける。あと胸の谷間がすごい。

 先生曰くクラス替えはないとのこと。この美人先生が三年間担任ということだ。

 

「この学校の特殊なルールについて書いた資料を配らせてもらう。以前入学案内と一緒に配布はしてあるがな」

 

 平田君から回ってきた資料は確かに入学案内と一緒にあったものだ。後ろに回す。送られてきたときに一度目を通したが、文字が小さくて読むのに相当苦労したものだ。

 

 この学校の特殊性はいくつかあるが、そのひとつは全寮制にして、外部との連絡を原則として遮断していることだ。外出はもちろんのこと、親への連絡も学校の許可なしに行えない。

 

 その一方で学校の敷地内は、さながら小さな町のように、衣料品店、飲食店、娯楽施設など、生活にある程度必要な施設がそろっている。

 

 もう一つの特殊性は、この学校内では現金が通用しない。そして財布代わりにもなる携帯電話型の学生証端末を、一人一台ずつ受け取る。

 

「それを使い、敷地内にあるすべての施設を利用したり、売店などで商品を購入することができるようになっている」

 

 電子マネーというやつだ。

 

「ただしポイントを消費することになるので注意が必要だ。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能だ」

 

 操作すると、ポイントが10万と表示された。

 

「ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員、平等に10万ポイントがすでに支給されているはずだ。なお1ポイントにつき1円の価値がある」

 

 10万?教室がざわっとするのも当然だろう。

 

「この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちには、それだけの価値と可能性がある。そのことに対する評価みたいなものだ。遠慮することなく使え」

 

 …?こう言われると、何かが引っかかる。何がといわれると困るのだが。

 うーん。

 

 考えている間に先生はホームルームを終了して退室していった。

 途端にざわざわし始める教室。

 

 前方席の平田君がおもむろに立ち上がる。

 

「皆、少し話を聞いて貰っていいかな?」

 

 なんだろう?

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、一日も早く皆が友達になれたらと思うんだ」

 

 なるほど自己紹介、このタイミングで。

 この堂々とした態度は、俺からは一生見上げるばかりだろうな。

 

「賛成ー」

 

 賛同者多数につき、自己紹介タイムとなった。

 

 言い出しっぺの平田君は、高校ではサッカー部に入るらしい。

 サッカー部ということは運動もかなりできるだろうし、このエリート校にいる以上、勉学は言うに及ばずだ。見た目、弁舌、気配り、どこ押してもイケメンである。

 

 このあと、どちらから回るんだろうか…?

 あっ、指名は反対の端に行った。

 女子生徒がもじもじしながら自己紹介を始めるが、途中で止まってしまう。

 他の女子生徒が助け舟を出す。櫛田さんだ。さすが、櫛田さん。

 そのあとも自己紹介は続く。

 拒絶の言葉とともに退室した猛者が居るが、俺としては緊張してそれどころではない。

 自分の番が回ってくる。

 

「惣中高史、そうはお惣菜の惣、上が物で下が心。じゅうは中外の中です。九州から来ました。趣味は読書、スポーツは水泳です。よろしくお願いします」

 

 中学校の時に、「趣味は推理」「尊敬している人物シャーロック=ホームズ」と自己紹介して、微妙な空気を作ってしまった経験を生かして、読書程度にしておいた。

 

「おいどん、っていうんですか?」

 

 男子の声で質問が飛んでくる。教室がどっと沸いた。

 こんなフリは予想してなかった。かっと身体が熱くなる。

 顔の前で手を左右に振って「無い無い」とゼスチャー。

 

「そぎゃんこつば、言わんですたい」

 

 絞り出すように地元の訛りを披露すると、またクラスがどっと沸いてパチパチと拍手が起こった。

 「たい?」「たいだって」みたいな話し声も聞こえる。

 ウケたようにも見えるけど、笑われたという感覚だけが残った。

 いまひとつ釈然としない気分で、入学式に向かう。

 

 

「惣中くんっ!」

 

 入学式を終えて教室に移動する俺に、声をかけてきた女子がいる。

 もちろん櫛田さんだ。

 

「同じクラスだねっ」

「う、うん」

「朝話したこと憶えてくれてる?」

 

 櫛田さんの上目遣い炸裂。

 

「うん、憶えてるよ」

「じゃあ、連絡先交換しよっ」

「も、もちろん」

 

 櫛田さんが俺のアドレス帳登録第1号になった。

 この笑顔にはさすがのホームズも勝てないに違いない。

 

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