突然だが、ちょっとだけ俺の出す問題を真剣に聞いて、答えを考えてみて欲しい。
これはお約束のようなものだから、まずはお付き合いいただきたい。
問い・人は平等であるか否か。
正直、日本社会における平等がどうのとか、俺には論じる力はない。
だから、シャーロック=ホームズが生きたビクトリア女王時代のイギリスについて、少し話そうと思う。
ビクトリア女王がイギリスを統治していたのは、おおよそ19世紀後半の60年間ぐらい。産業革命で経済が発達し、世界中に植民地を持つ「大英帝国」の時代だ。
貴族に恋されるメイドさんや、あくまで執事さんが活躍した時代(のモデル)でもある。
この時代のイギリス人のほとんどは、人間が平等であるとはあまり考えていなかった。
この時代になると差別は徐々に解消されつつあったが、男性の普通選挙はなかったし、女性には選挙権がまったく無かった。(普通選挙は中学校で習うよね?)
なによりイギリス社会の特徴は階級にある。
人間は生まれた家の階級によって、ほぼほぼ自分の将来の範囲が決まっていた。
階級はざっくり言って「上流」「中流」「労働者」の三つに分かれている。
「上流」は王を頂点とした貴族、由緒正しい地主や歴史ある実業家などの社会的に上位の人々。
「中流」は「上流」に及ばないが、大企業の重役、医者弁護士などの専門家から、末端のサラリーマン、自営業などの頭脳労働者。
「労働者」は、肉体労働や単純労働を行う、いわゆるブルーカラーやサービス業。
「労働者階級」の家に生まれた男子だと、身体の成長した10代前半から、肉体労働を始めるようになる。家が貧しいともっと早くから働かなければならない。(産業革命と児童労働も、中学校で習うはず)
「上流」「中流」家庭の子どもは、自分に適した学校に進学して、勉強をしておおよそ20歳前後で仕事の見習いに入る。
もちろん若い肉体労働者が-仮にジョンとしよう-ビジネスチャンスを得て、事業を始めて会社の社長になり、大金持ちになるというケースがなかったわけじゃない。
でも大企業の社長になったからと言って、ジョンは必ずしも中流階級になったわけじゃない。彼は周囲から「成り上がり」と言われるだろう。
多分ジョンのしゃべり方は、労働者階級特有の直接的で荒っぽいしゃべりかただ。
ジョンが付き合っている取引先の社長たちは、だいたいが中流階級にふさわしく穏やかで誰も不快にならないしゃべりかただ。
その他にも立ち居振る舞い、服装、話題、考え方、食事をする場所の選び方、余暇の過ごし方など、ジョンの好みはジョンの親の好み、すなわち労働者階級の好みの強い影響を受けている。
周囲の中流階級の社長たちとは、かなり違っているだろう。
ジョンは息子-ビルとしよう-に、中流階級の子弟が行く学校で教育を受けさせるだろう。でも子は親を見て育つともいう。ビルは中流階級っぽくはなるけど、まだ成り上がり臭は残る。
ビルは息子-ジョージとしよう-にやはり、自分と同じ学校に通わせる。そしてジョージの世代になると、ようやく中流階級っぽさが出来上がってくる。エリート学校を卒業し、同じようなエリート層の知り合いが多くできて、それがジョージの事業を助けてくれたり、あるいは公職に就いてさらに上昇する手掛かりになるかもしれない。
問い・人は平等であるか否か。
イギリスでは、富貴な一族に生まれることを「銀の匙を咥えて」と表現する。
人は身一つで生まれてくる。しかし生まれたときに属している家には、貴賤も貧富もある。
人は平等に生まれてきても、社会は平等でない。
エリート学校を卒業した紳士の大半は、エリート校での学校生活を懐かしみもせず、戻りたいとも思わない。しかし彼らは自分の子を、そのエリート学校に通わせるという。
平等でない社会で上昇する、あるいは転落を防ぐ。
そのための武器が教育であることを、イギリス人は知っている。
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