ベルと徐倫の奇妙な冒険、ストーンオーシャンは終わらない 作:37級建築士
Disc.01~石の女
旅立つ日、村を出た僕は一人じゃない
お姉さんは言った。石の海を越えて、あなたと私は奇妙な出会いを果たしたと。その言葉の意味は分からないけど、何か大きなものを感じた
奇妙な出会いをした。そして、僕の物語は、ベル・クラネルの目指す憧れの英雄譚は始まった
〇
……カーン、カーン
「——……ッ」
一日中、眠ることも忘れて木槌を振り下ろしてノミの尻を叩いている。貯蔵庫の土蔵においた歪な石の塊を
何故そんなことをしているのか、そんなことは僕にもよくわからない。祖父が亡くなり、新しい食い扶持として石大工を始めるわけでもなく
ただ、考えてみても結論は曖昧。しいて言えば、何かに没頭したかった、のかもしれない。孤独を忘れたいがために、僕は無為と思いながらも石を叩いているのだろうか
……カーン、カーン
「……ッ」
槌を振るう。削り落ちてく石のかけらを蹴飛ばして、何度も何度も石を削り叩き続ける
× × ×
石を見つけたのは、祖父が亡くなるよりも前だった
いつも木の実やキノコを採集する近くの森で、ぼくはそれを見た。普段の採取ルートからなんとなく外れて見てたら、それは妙に存在感を放ちながら僕の視線を奪ってくれた
山のふもとであるこの辺りには大小色々な石が転がっている。だから、別段それに疑問を浮かぶはずがないのに、どうしてか僕はそれに目が留まってしまった
理由が知りたい、自分の違和感に答えを求めたくて僕は歩み寄った。恐れ多い相手に敬う敬意を示すように、
右足だけを差し出しながら歪に歩を進めた
近づいた、そして見て知って理解した。その石は丸っぽい形をしていて、大きさは直径で1mぐらい。表面は所々が風化していて、今にも崩れそうなぼこぼこの表面
そう、表面が歪だ。しかし、その歪な表面が妙に目を引く。それは何故か、理由はその模様というか形状というか
……人、人に見える
球体の石の表面、その一部分は顔と言ってもいいほどにぼこぼこが明確なのだ。鼻筋、口、目、見れば見る程人の顔が映りこんでいる。
奇妙な石、得体のしれないそれはきっと見るモノに恐れを抱かせるだろう。だけど、その時の僕はどうしてか、その石をただの路傍の石とは決めつけられなかった
それから、僕はルートを変えて、その石を一瞥してから家に帰るようになった。お爺ちゃんにもこのことは伝えず、僕の中にひっそりとしまい込んで、ただ日課としてその石を見続けてきた
そんな、そんな事が続いていき日にちが過ぎて月を跨ぐかと見えた矢先、同じ村の大人からお爺ちゃんの訃報が耳に届いた
× × ×
「………………」
叩く。力を込めて、感情を乗せて石を削る
祖父の死から目を逸らすように、僕は奇抜な行動を起こした。そんな自分の行動を、この無為に繰り返す単調な作業の中で改めて思い起こして、我ながら何をしているのだと呆れて息が漏れた
削れていく石、それは確かに人の模様をより鮮明に形作っていく。祖父がいないことの悲しみを石の偽物で埋めようとしているのだろうか、そう僕が願っているのならなんと滑稽だ
「……ッ」
……カン、カーンッ!!
「……なに、してるんだろう。ぼく、こんなことしても何も起こらないのにッ」
力強く降り下ろした手、そこで手は止まる
石は球状の形を失くしていた。歪な、どこか人が丸まっているようにも見えるそれは偶然の大作か、彫刻としてはよくできているのかもしれない
でもそれだけ、結局現実は変わらない。石は石のまま、ただ歪に人の形を示してそこにあるだけ
人の形、削れていけば妙に石の砕け具合がよく、むしろこうなるべくしてこの形になったのではないか、考えてみればそっちの方がしっくりきた
……人の姿、女性に見える
たなびく長い髪、手に見る部分には何かを持っているようで
……結構、綺麗かも
「……なにかんがえているんだろ、ぼく」
ナイーブな気持ちが変わって少し健全な少年の思考、かぶりを振ってため息を一つ、そして言葉を一言添えた
「やれやれだ、本当にやれやれってかんじだよね……ぼく」
我ながら己の単純さ、情けなさでそんな言葉を自虐的に漏らす。やれやれ、祖父が口癖のように吐いていた言葉、僕はその言葉を後に土蔵の扉を閉めた
明日からも農作業、朝は早い
〇
~翌朝~
曇天の空、喪に服す時期が終わったにもかかわらず空は嫌なくらいに重く黒い。朝日を遮る嫌な雲、気分が滅したまま人々は営みを始める。その点は僕も同じ
畑仕事、森で薪や食料等の採取、いつものルーティンとなっている行動。文句は漏らさず、ぼやけた頭で仕事を始める。辛く単調な仕事をこなすために、だが、そんな僕の思考に冷水をかける出来事が朝に待っていた
「!」
森での採取道具を取りに行こうと土蔵を開いた。けど、そこには
……無い、石が!
床に散らばる破片の数々、確かに前日まで自分が石を削りだしていたのは間違いない。なのに、ここにはその大本であるあの、女性の姿のような石が無い。
誰かに盗まれたか、しかしそんな変人がこの村にいるわけもなく
「……いったい、なんで」
散らばる破片を手に、急になくなった石の存在にどこか思いが傾く。惜しいような、悲しいような、そんなセンチが胸を走った
「……?」
だが、そんな時にふと目に留まった。石の破片に紛れて、何かがそこにはある
崩れ落ちた意思は脆く、そして崩れやすい。
人型の部分は硬く壊れにくい。石の質が違ったのだろう
そして、今僕が手に取ったのはそんな石の破片のなかで、薄く平べったい丸の形の石がある。
「これだけ、なにかが違う」
手に取り、見てみる。何か、石ではあるけど一部分だけ剥がれ落ちていて
……石の中に、何かが入って……なんだろう、鉄かな?
おもむろに、腰に入れたナイフを抜いて石を割ってみようとする。
好奇心で手に力を入れた、そんな刹那
『モンスターだぁああッ!!??村にモンスターが入ってきたぞぉおおおッ!!!??』
「!?」
鳴り響く警戒の知らせ、齢90を超えるのに甲高く響く村長の声に僕は危機感を理解した。手に持った石を放り捨てることも忘れて、ただひたすらに走った
土蔵を出て、もう村には人は見えない。皆家に立てこもっているのだろう。
なら、このままやり過ごすためにも土蔵に隠れるべきか、そう思い行動を決断する、ただそれだけの行程、それが僕にはできなかった
「……人!」
広場の井戸に、見たことの無い人らしき影があった。遠めに見えずらいけど、その人は服という服をまともに着ていない。
金髪に、緑色の光沢が混じる黒髪をしていた。乱れた髪
「!」
目が合った。僕を見ている
「あ、その……すみません僕、ごご、ごめんなさい!」
「…………」
「あ、でも服が無いなんて知らなくて……えっと、というかあなた誰ですか!?村の人じゃないですよね!!その、今は村にモンスターも来ていて、だから!!」
こんなところにいたら危ない、そう伝えないと
「だから、早く「そこから離れろ、早くッ!!?」
「な!?」
突然、甲高い女性の叫び声にたじろぐ、そして、その言葉の意味はすぐにも
……ブォン
「――――ッ!?」
否が応でも、理解を得てしまった
……ゴブリン、それも大きい
目視で、それは2mもあるお男のようで、そして見ろ総醜悪な眼は悪魔の様に悍ましい。牙を見せ、唾液を垂らしているそいつは僕を見ていた。きっと、捕食する対象として
「!」
走った。同時に、背後で何か大きい破壊音が鳴った。降り下ろされたのは、何処で手に入れたのか斧のような武器、そしてすぐにそれが誰のか理解を得た
村の自警団、子供の頃に何度か遊んでもらったこともあるおじさん。軍に所属したこともあって、ステイタスこそないけどゴブリン相手に負けること無かったおじさんだ。あれは、そのおじさんの武器だ
……殺された!?……わからない、でもやられた。戦える人が負けたッ、あいつは危ない!?……皆は、僕も、それに
「に、逃げてください!!」
目の前に現れた不思議な女性、僕は必死に逃げるように言葉を唱えた
死が迫る。お爺ちゃんと同じ、モンスターという脅威を前にして、無慈悲に殺される終わり方
……死にたくない!怖い!……このままじゃ、僕も、あの人も
恐れが心を握りつぶす。怯えすくみ、足が動かなくなりそうで、ひどく辛い
弱音を吐きたい。現実から逃げて、目を背けて、楽になれる弱音を吐きたくて仕方ない
「…………げて、逃げてッ!!」
「!?」
走る先、僕はどうしてか道を逸れた。村の建物が密集する先に繋がる道、逃げてはいけない方向
井戸の先に進めば退路はあった。だけど、僕は選べなかった
女性に危害が及ぶと思えば、真っ直ぐ逃げるという選択肢は機能しなくなった
……ぼく、なにしているんだろう。名前も知らない人のために、こんな
【——————■■■■ッ!!?!?】
「ぁ……はぁはぁ、ひっ……く、来るなら来い……もう、どこにも行けない、ぞ……ぼく、はッ」
袋小路、人生の後悔が脳裏を駆け巡る。こんな終わり方は望まない、あたりまえだ
お爺ちゃんの死で、僕は失意の中願いを見失っていた。やりたいこと、したいことはある
……死にたくない
「生きたい」
……外の世界を知りたい
「夢に見ていたんだ」
……冒険を
「出会いを……だから」
【■■▼■■▼■■ッ!!!??!!】
「なら、あなたはここで死んじゃだめじゃない」
「!?」
瞼が、おそれで閉じきった瞼がおそるおそると開く。すると、そこには僕に斧を振り下ろさんとして、そのまま停止した大型ゴブリンがいる
動きが無い、妙だ。眠ってるわけでもないのに
……なにか、絡まっている?
見える、逆光で良くは見えないけど、目を凝らせば確かに見える。それは、青い繊維のようで、幾重にもゴブリンの身肉に食い込む形で縛られている。糸の出どころ、腰が抜けた僕はその場にしゃがんで、そしてゴブリンの股下から覗く形でその人を見た
「……ッ!?」
人がいる。それも、二人
一人は、布切れをマント代わりにして体を隠しているさっきの人、奇抜な髪染めをしている、強そうでかっこいい女の人
対して、その一歩前に立つ人は人に見えて人じゃない。青く、作り物のような顔面と出で立ち。それに宙に浮いていて、まるでそれは幽霊か、しかし使役するようにも見えるそれは悍ましさを感じさせない
……ま、魔法? わからない、でもあの姿人だけど人じゃ、だって体が……糸、糸で出来ている
「……ストーンフリー」
「はっ」
「見えて、いるようね……そう、これが私のスタンド……少年、ケガはないようね」
「あ、はい」
頷くしかできない。驚きすぎて一周回ってか、冷静になってしまった
「そう、なら後はまかしてもらえるかしら? 目が覚めて、ここがどこか……いえ、どうして私がここで生きているのかッ……知るべきこと、確かめるべきことはいくらでもあるわ。でも、今はその前に」
構えた、そして勢いよく右手を引いた。スタンド?そう呼んだ彼女の横に立つソレも同じく態勢を取る
【■■▼ッ!???】
歪んだ轟音が叫び響く。2mもあるゴブリンが宙に浮いて、そして引き寄せられるように女性の下へと飛んでいく
糸だ。糸はやはりあの、ストーンフリーと呼ばれていた幽霊から発していた。
「仰角、68度。そう、この角度、そしてこの速度」
構える。拳を作り、拳法家の放つ一撃の用に、重く鋭く、素早い一撃が
「拳を、打ち込みやすい角度ッ……オラァアッ!!?!?」
『ボホォッ!??』
入った。拳と重なって、ストーンフリーの一撃がゴブリンの頬を撃ち抜く。思い、生きている物を殴りつける鈍い音がけたたましく響いた。
痛快に、それはもう爽快なまでに敵はやられている
恐れは消えた。安心感すら感じている
……あなたは、いったい
輝かしい、まるで黄金のような輝きを存在感で放つ彼女、名前も知らないお姉さんに僕の関心は惹かれていく。
「随分と寝ていたみたいね、体がなまって仕方ないわ。はぁ、こういう時は……ひたすらに体を動かすに限るのに。けど、何処かも知らないこの場所、野球は出来そうにないわ……キャッチボールをするにも野球ボールすらあるかわからない」
『…………ッ!?』
拳が降りた、それが戦闘の停止と思ったのかゴブリンはどこか安堵のような反応を示した
本当にそのまま逃がすつもりか、とも思ったけど
「少年」
「は、はい!」
「こいつ、どの程度までやっていいかしら?逃がすべき、それとも仕留めて食べるの?ここでは?」
「い、いえ……それはモンスターで、危険だから駆除する対象で……む、村の為にも」
「そう、そう言う感じか……でも、アタシにはすぐ呑み込めないわ。そういうの、動物愛護とか色々文句言いそうだし、またそれで懲罰なんてのも笑えない。えぇ、気が引けるわ…………こいつじゃなきゃ、ね」
「!?」
『!?』
「人を殺した。こいつの手と口からは人の死の匂いがプンプンする。げろ以下の匂いが鼻につくのよ……そんな相手、誰だってそうするわ。私だってそうする。だから、こいつに送るべきは、当然……」
近寄る。糸に拘束されたゴブリンに歩み寄り、その目の前で何を思ってか両手を前に中指を立てた
「アメリカ方式、そしてこれがフランス方式、日本方式」
手を変え、ポーズを変え、見せつける様に流麗な体の動きを取る
「イタリアナポリ方式、世界のフィンガーくたばりやがれ……そして」
開いた指、それが閉じて目の前で拳を形成、挑発の構えからそれは転じて、あからさまなほどに攻撃の発射寸前
「ジョースター家方式、拳のラッシュくたばりやがれ、ってとこかしらね。あら、察したかしら? そう、もしかしなくてもない、これは、紛れもない…オラオラよ」
『……ッ!??』
「ストーンフリーッ!!オラァアアッ」
殴った、勢いよくへこむ音が鈍く響く。衝撃で離れんとしたゴブリンは、しかし糸で逃げ場なくまたお姉さんの元に
戦いを知らないぼくでも、その構図は理解した。糸で捉えられて、何度も何度も拳を打ち付けられても、また拳の射程圏内に留まる
……さ、サンドバック、むごい!?
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!オラァアアッ!!!??」
『……——……————ッ!?!?!?』
ラッシュ、目にも止まらない拳の連打が正確に無慈悲にゴブリンを襲った。叫ぶ断末魔、唸る怒声、風が吹き荒れ日の光が天から降り落ちてくる
曇天が切り裂かれていくように、朝の聖なる陽光がお姉さんを照らしていた。
「……ッ」
照らされた光、それが星を映し出した。星があるのだ
魔石が砕け消え去るゴブリン、壮絶なラッシュが途切れ、戦いの終わりを静かに告げるように幽霊はその体をほどいていく。束ねた糸が一つの線に変わり、それが今お姉さんの左肩、そこに見える奇妙な星のあざへと吸い込まれていくのだ
僕は星を見た。真昼に輝く人の星
孤独に打ちひしがれた僕の闇を晴らす、何よりも眩しい黄金の輝きを秘めた人の星
「……空条、徐倫」
「!」
「あたしの名前、自己紹介が遅れたわ……さ、あなたの名前も聞かせてくれないかしら。勇敢な少年くん」
「……ッ」
耳に触れた柔らかい声、戦いの荒ぶった気を静め、僕に近づき、そして名を示した
鋭い目をしている。だけど、同時に人の心の正しさを、本当の優しさを知っているような、そんな理由から生じる暖かみを感じた。
初対面だ、それは間違いなく。だけど、僕はこの人が良い人だと確定してしまった。
奇妙な出会いを得た。孤独の時期は終わり、明るい世界へと目を向ける。
「……ぼくは」
夢見た世界、辺境のこの地で幼いころから星を見続けていた。願いがあったからだ
敵わないと謗られても、それでもと僕は星を見続けた。
「ぼくは……ベル、ベル・クラネル」
失意の時は終わった。物語の一ページ目があるなら、この一足目が最初の一文字になる。
「空条、徐倫さん……あなたは、いったい」
「…………」
>>To be continued
感想等貰えると幸い、モチベ上がって執筆が捗ります