ベルと徐倫の奇妙な冒険、ストーンオーシャンは終わらない   作:37級建築士

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合計8千文字、ちょっと長めな内容です。フィンの描写が濃くなってしまった

フィンの描写しっかり書くの何気に今回が初めて。そのくせアレンジ濃いめ、スタンド使いになったフィンは読者ニキに受けるかどうかちょっと不安、取り合えず花京院の魂は保険で賭けておきます。

※ 一部訂正

ギルド報告書→備忘録


Disc.21~譲れない者同士

 

~備忘録、題名「伝道者の足跡とフィン・ディムナの宣誓」より抜粋

 

 

 水も土も無いただの石畳や安宿の腐った木床の上、そんな場所にポツンと蓮華の花、ピンク色のロータスが咲き誇っていたこと、そんな噂が人知れずどこかから広まっていった。今思えば、それが事の始まりであったのだろう。

 

 噂が出回った当初、この時のオラリオの主たるギルドやファミリア陣営等々の人物たちは特に気に留めることもなく、噂は噂として過ぎていった。

 

 しかし、それから間もなく事件は起きた

 

 まず初めに、起きた事件は不自然な殺人事件。被害者は中規模な商業ファミリアで、そして犯人はそのファミリアのごく普通の青年だった。人間関係のもつれ、怨恨等の推測を立てて青年が犯人と断定、拿捕し話を聞くに至って奇妙なことは始まる。

 尋問を続けるも終止青年は事件そのものを理解している様子もなく、そしてまた狂暴な精神状態はまともではないと判断が下りひとまず隔離。これだけでも異常であるのに輪をかけてさらに奇妙は重なり続ける。

 調査の結果、そのファミリアの被害者である死人の皆がこの青年と同じ異常な興奮状態にあったことがわかり、またそれが普通ではない何かしらの影響を行けているらしいと推測が建てられた。

 それは病か、もしくは何者かの企みか、まだこの時点で誰もスタンド使いの存在、ましてサバイバーの能力の存在すら推測することもかなわず、事件は不完全燃焼で一度は闇に潜めていく。

 一号事件、そう後に名称を付けられた事件名。これを期に、オラリオでは大小さまざまな異常が目撃、観測され続けていく。事件は確かな脅威となり、そして明確な連続性が見られてオラリオはついに腰を上げて捜査に当たった。

 

 事件をさかのぼり、一号事件も超えて更に以前、ゼロ号事件ともいえる内容を調べ上げ、最後に一つの結論を得た。

 

 オラリオで起きる奇妙な事件、その事件の中では決まってある目撃情報が見られた。そして、ゼロ号事件がその目撃者の始まりであった。

 ロータスの花の噂、その正体は路上暮らしのヒューマンが僧の姿の男の手に触れた瞬間、姿は全て消え去り残るは一輪のロータスのみ、人を花に変えて消し去る奇妙な事件が事の始まりであったのだ

 

 ロータス、僧、そして観測された異常な事件の連続性、これが期に現在のオラリオでは密かな厳戒態勢を敷くことに至る。そしてその矢面に立つは当然オラリオを守る剣であり盾の存在、冒険者系ファミリアの存在に頼ることになった

 オラリオで起きる異常にはそれを起こす犯人がいる。修行僧の目撃とは別に、その時々の異常を生み出す特異能力者の存在があることは突き止められた。

 うち、数人は再起不能。または管理下で保護。能力を持つ人間は職業年齢種族を問わず突発的に表れる。そして、そうした能力者の事態が起きることで、また一定の人数にも奇妙な変化が現れた。

 フィン・ディムナ、彼もその奇妙な変化を身に受けた一人だ。

 

 

 

……事件の黒幕は存在する。僕たちは、奴に対抗しうる手段を持っている。だから、ここから先は僕たちに任せて欲しい

 

 

 

 彼は身に受けた体験から来る証明をもって此度のオラリオで起きる異常に向き合うこと、そしてその事態に自分達こそが対応できると神々の前で宣言を立てた。

 勇者は立った。オラリオで起きる異常を前に、そして異常をもたらしたきっかけ、ゼロ号事件の主犯と目される蓮華の花の持ち主を伝道者と呼称しこれの拿捕を目的に掲げた。

 

 事件を追うにあたり、伝道者の任命をしたことに合わせて、彼はもう一つある名称を決めた

 

 それは、此度の異常な事件の犯人をはじめ、自分たち含め数名に芽生えた奇妙な能力への呼称。

 

 隣に立つ者という意味、そして事件という脅威に立ち向かう勇気、それらの意味を込めて『スタンド』という名称を提唱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……レフィーヤ」

 

 

 小声で話しかける。アイズの目線の先にはレフィーヤの後頭部がある。

 

 アイズを慕うレフィーヤであれば呼びかけには全力で答えるのが常、然し今な人差し指を立てて静かにと無言でメッセージを伝えるのみ。

 

 彼女の視線の先、そこは主神ロキがいる執務室の扉。つまりは、盗み聞き

 

 

「……怒られるよ」

 

 静かに、ぼそりとつぶやいてささやく。耳元でささやかれたせいで一瞬レフィーヤの表情がこれでもかとにやけてしまったが

 

 

「は、だめです……今、良い所なんです」

 

「……」

 

「気になりませんか。団長もそうですけど、あの女の人……今、うちが関わっている奇妙な事件について関係している人ですよね」

 

「それは、でもあまり詮索しちゃだめって」

 

「無理です。いくら危険だって言われても、やっぱり気になります。奇妙な能力を持ってからベートさんも団長もピリピリしていて、同じ仲間なのに部外者扱いなんてやっぱり変です」

 

「それは、フィンも考えがあって」

 

「でも、説明が無いのは納得できません」

 

「……」

 

 レフィーヤの言葉にアイズの言葉が曇った。いう言葉は確かにもっともで、自身もまたむかむかとした心を抱えているからだ。

 レフィーヤをはじめ、ロキファミリアの中で事件の中枢について触れているのはごく数名、アイズは数えられていない

 

「……気になりませんか?」

 

「それは、知りたい……でも、リヴェリアは駄目って」

 

「……大丈夫です、その時は一緒に怒られましょう」

 

「れ、レフィーヤ」

 

 手を取り、真っ直ぐな眼で信じてくださいと目をキラつかせる。しかしそうではないと言いたいがプレッシャーに押されて言いくるめられてしまった。

 

 仕方なく、その場で自分しゃがみアイズもまた盗み聞き犯人の二人目。罪悪感と共に、しかし否定しきれない好奇心が迷いを払ってしまった

 

 

「……手、握ってね」

 

「はい、その点は安心してください」

 

 

 怒られることを覚悟して、二人はひっそり扉に耳を当て聞き耳を立てる。

 

 

 

「ベートさん、フィンさん、リヴェリア様、それに何故かラウルさんも……本当に、一体なんだかわかりません。でも、絶対知るべきです。例の、えっと」

 

「……すたん、ど?」

 

「はい、そうですそれです……すたんど? とかいうのも暴いてやります。ついでに、あの女の正体もついでに、全部ついでにです」

 

「…………」

 

 

 女、空条徐倫の顔をアイズは思い浮かべる。それは同時に、席を離れて座っていた彼のことも合わせて

 

 思い返せば、そもそもはベートがベルをからかったことがきっかけのいざこざだ。アイズはしっかりと、ミノタウロスを倒した時も含めてベルのことは覚えていた

 

 怒らせた原因、傷つけた原因、そこには自分も

 

 

「ごめん、やっぱりわたし」

 

 

「し、静かに……今動いちゃダメです。バレます、動かないッ」

 

 

「で、でも」

 

 

「でもも禁止ですッ」

 

 

「……レフィーヤ、なんか今日強い」

 

 

 ぴしゃッと言いくるめられてしまい、そのままずるずると居座り続けてしまう。レフィーヤの強情さを知ったアイズ、とくに言い返す上手い語彙も勢いも行使することはできず、結果少し悩んで、そして、考えるのを止めた。 

 

 

 

 

 

 

    ×    ×    ×

 

 

 

 

 

~執務室、ロキの部屋~

 

 

 

 刻限を告げる針は日付の更新を告げた。乾く口を潤すも間も惜しみこの場にいる彼らと、そして一人の女神は互いに情報を示し合った

 

 盗み聞きを諫めるよりも、フィンは自分たちが置かれた状況を懇切丁寧に説明することを優先した。テーブルの前には三つの盃、注がれたのはロキ秘蔵の葡萄酒

 

 血のように赤い酒を口に含み、フィンは一呼吸を置く。語った情報を前に、徐倫は特に驚きもみせず、ただ冷静に話に耳を立てその上で相手を見定めている。そうフィンは感じ、また見抜かれていることも徐倫は承知

 

 決して和やかな空気と見えない場。誰かが和やかに道化を演じることはなく、神ロキですらただ静かに酒を含むだけ

 対談は、ここからが折り返しになる

 

 

 

「……で、処遇はどうするのかしら?」

 

 

「おや、早計だね……もしかして、僕は君から見て敵に見えたのだろうか」

 

 

「いえ、そうは見えない……そう、言うしかできないわ」

 

 

「なら上々だ。どうだい、お酒は嫌いかな」

 

 

「……」

 

 

「安心して欲しい。ベートにしたようなことを意趣返しするつもりはない……第一、僕の能力はそんな風にはできていない」

 

 

「……ッ」

 

 

「スタンドの情報には食いついたか……やはり、君は特別だ」

 

 

 吊り上がる口角、あくまでも爽やかに表情を濁さないフィンに徐倫はつい頬を引きつらせてしまった。かぶりを振って直し、仕方なく出された酒を口にし流し込む。

 

 

「……良い味だろう。このオラリオでは特に質の良い銘柄だ」

 

 

「みたいね、こっちの主神の秘蔵酒よりも美味だわ」

 

 

「は? あのボケ女神がなんでいい酒なんか持ってんねん」

 

 

「……ロキ」

 

 

「姉ちゃん、あんた一体何もんや……フィン、そろそろこの子の話聞きたいで。なあ、こっちは色々話たんやで、そっちも腹割って話すこと話してえや」

 

 

「……ねえ、この女なんでこの席にいるの?」

 

 

「仕方ない、これでもうちの主神なんだ。色々と察して欲しい」

 

 

 

「……そう」

 

 

 苦笑いのフィン、抗議の声を荒げるスレンダーな女神、徐倫はひとまず息を整える。崩れた空気、むしろ今は気を取り戻す良い閑和である

 

 

 

……情報、確かに貰いっぱなしね

 

 

……フェアじゃない、という意味では正しい

 

 

……問題は、私がじゃなくてあの子のこと

 

 

 

「……申し訳ないけど、アタシの一存では決められないわ」

 

 

「それは、またどうして」

 

 

「……それは」

 

 

 興味あり気に見てくる視線、考えて、そしてやはりというべき結論は一つ。

 

 

……情報の提示、それはつまり取引の申し出に等しい。腹を晒して信頼を見せる意味なんかじゃあない。

 

 

……手札を見せないのなら、その時点で彼らは権利を持つ。正道から背いた相手に、紳士である義務はいらない

 

……自分のことだけを想えば、別にどうとでも扱っていい。けど、今は

 

 

 空条徐倫、今ここで息をしている彼女の行動原理、それが足を掴んでいる。

 

 振り払うこともできないし、決してできないと断定すらできる。大事に思っている、その想いが徐倫を地に縛り付ける

 

 

 

「……まとめると、あなた達はここオラリオで起きるスタンド関連の事件について対処をしようとする勢力。で、いいのね」

 

 

「ああ、そう思ってくれて構わない」

 

 

「すでに、対抗できる戦力はある……けど、その上で」

 

 

「……」

 

 

「貴方は、手駒を増やそうとしているのかしら?」

 

 

「…………」

 

 

「答えるまでもなく、肯定ということね……そう、理解したわ」

 

 

 ならばこそ、やはりこの場は

 

 

 

 

 

「提示する情報は無い。悪いけど、あんたたちの事件捜査には関わりたくない。それが返事よ」

 

 

 

 

 

「……ッ」

 

 表情は、この一瞬だけは陰りを見せた。フィンの目に、一瞬だけ明らかな零度の冷たさが垣間見えた

 

 そしてすぐ、何かを納得したように表情を戻した。フィンは徐倫の目を見て、何かを察したかのように

 

 だが

 

 

 

「……姉ちゃん、それ本気かいな」

 

 

「ロキ、もういい」

 

 

「ええわけないやろ、情報を提示して……そんで自分は何も無し、筋が通らんで」

 

 

 

 

 

 徐倫の返答、それに驚愕したのは間に立つ神ロキも、糸目を鋭く開き徐倫を見てさらに問う

 

 

 

 

 

「なあ、スタンド使い女……あんたはどっちなんや、オラリオの、いやウチの家族の敵なんか、それとも味方なんか、せめて中立かどうかぐらいはっきりせえや」

 

 ドスを込めて、ロキは徐倫に詰め寄る。

 

「……味方か敵、そうね……それは」

 

 対して返答は、当然一つ

 

 この場で、ただ何も考えずフレンドリーになることをせず、警戒されてでも情報を伏せた徐倫の意図

 

 それは明確に守る意思があったため。仮に、この場で互いに情報を提示しあって、そして関係を深めてしまえばどうなるか。それは事件への踏み込む行為に他ならない

 

 フィン・マックールは確かに紳士な対応を見せた。信用に値すると断定できる要素は多々ある

 

 だがしかしだ。

 

 

……あたしはいい、けどベルはどうなる?

 

 

 事件に関係すれば、少なからず影響は必ず現れる。関係を持てば、彼らの行動に自分たちの一挙手一投足も含まれる

 

 保証は無いのだ。彼が正しく味方になるだなんて誰が断定できる?

 

 フィン・マックールが正義だとしても、その正義がベルを救うとは限らない。事件にかかわるベルを、むしろ利用して策謀の上で任意に使える駒にさえされかねない。

 

 関わるというのは、つまりそう言う事だ。信用の不確かな他者に、自らの運命を委ねてしまうということ。

 

 それはだめだ、絶対にダメだ。徐倫は誓った、それはひそかに、旅立つ日あのベッドの抱擁のさなかに誓ったこと

 

 

 ベルを守る。自分がこの世界に降り立った意味、交わった運命の結果彼が悲劇に見舞われたとしても、自分はあえてその責任を負うべきだと

 

 空条徐倫にこの世界での目的は無い。あるのは一つ、自身とベルが巡り合った引力ともいえる強い何かの結びつき

 

 

……ベルは確かに事件に巻き込まれた、けどそれはあの子の未来を変える要因にはならない

 

 

……あの子の夢は、この地で冒険者になること。英雄になること、出会いを重ねてその先に幸せを見ること

 

 

……事件は関係ないッ!!

 

 

 

「……アタシ達は、事件とは関係ない」

 

 

「なら、なんやっちゅうねんッ」

 

 

 

 襟首をつかみ、怒気を込めてロキは徐倫に詰め寄る。逢瀬を交わすがごとく近づきあった顔と顔

 

 動じることなく、ただ落ち着いて徐倫は返答を返す。それが意に背き反感を買ったとしても、これが誓った覚悟であるから、ブレることはありえない。

 

 ならばこそ、堂々と

 

 

 

 

 

「……アタシは、たった一人の為に、ベル・クラネルの為にこの世界に降りてきた。アタシの正義は、彼の為にある」

 

 

 

 

「もう、もうええわ……ふざけとるのもいい加減に」

 

 

 

「……ッ」

 

 

 突き放す手、椅子に直された徐倫にロキは怒りを見せる。怒り、それは感情だけではなく明らかな力をもって

 一瞬、それはスタンドのようにも見えたりした。だが違う、それは神ゆえに放つことができる威圧

 

「……ロキ、もういい、止すんだ」

 

「フィン、あんましウチを怒らせんといてえや……この女、好き勝手言わせてそれでハイドウゾで許してええんかいッ」

 

「止してくれ、頼む」

 

「……ッ」

 

「頼む、僕の顔を立ててくれ……お願いだ。第一、好き勝手なのはこっちも同じだ……態度で責める権利は無い」

 

「……ぁ、なら好きにせい……ええわもう」

 

 

 諫める言葉に神の力は何事もなく消える。神ロキはフィンの言葉を、渋々懐に収めはしたが飲み干してはいない

 

 歩く開かれた扉、その際驚く声が数名響いた。しかし、すぐに空気は冷えつきまた二人対面した状況に戻る

 

 

「……」

 

 

「すまない、話を戻そうか。君の声明に対する、僕の返答のね」

 

「返答? もういいでしょ、アタシはあんた達に組みするつもりは無い。関わるつもりが無い、それじゃあ駄目かしら」

 

「駄目ではない、けどね……遺恨は晴らすべきとは思わないかい?」

 

「……」

 

「無論、こっちに非があることは承知だ。君がそのベル・クラネルを大事に想う気持ち、それを尊重してこっちは尊大に振舞うことはしない……けど」

 

 席を立つ。フィンがおもむろに立ち移動する先は大きな窓辺の前、テラスが見えるガラス戸の先を見て、そのまま言葉は続けていく

 

 

「ここに裁定者はいない。これ以上は互いの主義主張でぶつかり合うだけ……なら、簡単に決めるのはどうかな」

 

 

 開かれた。そこから見える外には広場がある。鍛錬上、つまりはそこで

 

 

「試す、そういうこと」

 

 

「あぁ、理解が早くて助かるよ」

 

 

「呆れた、そうまでして試したいのね……なら、どうぞ好き勝手……ッ」

 

 

 余裕をもって、嗜めるように言葉を吐いた。それでどう出るか、だがその言葉は安易なものだと徐倫はすぐ悟った。

 

 窓辺に立つフィン、続けてさらに言葉を並べた。そこに、明確な戦意を込めて

 

 

「そうまでしてでも、僕は見定めないといけないんだ……君が身内をいたわるように、僕もまた譲れない道理がある。この事件を終息させるという決意がある……故に、見定めさせてもらうぞ、空条徐倫ッ」

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

「逃げてくれるな。意思を見せた覚悟はどうした? 徐倫、失望をさせてくれるなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凄みを込めて、フィンは徐倫の前に立つ。己の正しさを誇示するために、言ってしまえば子供の動機のようにも見える意図で

 しかし、それがこの場では絶対的な意味を持つ。シンプル故に、単純故に

 

 互いに覚悟を示し合わせて、どちらが上かはっきりするべく

 

 屈服させるための戦いではなく、己が納得をするための戦いをフィンは徐倫に提示したのだ。

 

 言葉ではなく、その力をもって己の正しさを、正義を、覚悟の重みを示せと

 

 

 

「……そう、そういうこと、なら」

 

 

 

 否定する言葉は、出すだけ意味を持たない。出すべきは、示すべきは、確かな意思

 

 

 

「あなたの望み通り、アタシはアタシの覚悟を示す……見定めてやる、あなたのことを」

 

 

「……感謝する」

 

 

 走る、互いに窓辺を出てテラスの柵を超える。夜を背に、徐倫に顔を向けたまま外へと飛び立ったフィンを追うように、徐倫もまた飛び立った

 

 戦闘の瞬間は既に、この時点ですでに始まりの鐘は告げ切った後

 

 空中で狭まる距離、獲物は無い徒手空拳、互いに強く振り絞った拳と拳が鍔競り合う

 

 

 

「ストーンフリーッ!!」

 

 

 

 

 早々に勝負を決めに行く、本気の戦意が故に真正面から不意打ち気味に放つスタンドのラッシュ攻撃。牽制も読み合いもなく、この一瞬で勝負を決めに行く徐倫の先制攻撃だ

 

 敬意を込めて、全力のラッシュを叩きこみに来た。そんな徐倫にフィンは

 

 

 

 

 

『……シン・リジィ

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 一言、言葉による指示。拳が前髪を払う刹那に呼び出したナニカ、同時にストーンフリーを含めこっちの体の挙動全てが制止した

 残像を伴い幾重にも弾幕を張るスタンドのラッシュ、しかしその攻撃が秒を読むことも待たず瞬間で制止を見せたのだ。制止だ。何もかもが、空条徐倫の体の挙動が全て止められてしまったのだ

 

 

 

「……落ちる」

 

 

「な……ッ」

 

 

 振り切った拳の態勢、フィンは徐倫の腕を掴みそこを足場とした。短い体躯故に、密着にも等しいこの間合いで自由に体を動かして見せ、大振りの踵落としをその背面に叩きつける。

 

 轟音、幾重にも重なって一つになった音が響いたと同時に、空条徐倫は地に落ちた。土煙と共に、練習場の馴らされた地に衝撃を揺るがしたのだ

 

 

「……さあ、まだ立てるだろう。それとも、君の覚悟はその程度か」

 

 

「!?」

 

 

 怯む体、ダメージに響く肢体に鞭を打って徐倫は態勢を立て直す。開始早々、コンマ数秒の空中戦、そして今改めて向かい合う仕切り直しの流れ

 急いてことを動かすことは良しとせず、徐倫は静で見定めて受けの構えを取る。

 

 スタンド使い同士の戦い、その意味を軽んじたつもりは無かった。だが、見誤っているという意味では、一つ失念していたことはあった

 

 

……そう、冒険者の技量、力量、それは未知数。アタシが知らない、未知の領域

 

 

 能力以前に、たった今の攻防は素の戦闘力で決まった結果であった。

 

 ラッシュを裁かれたのも、近距離の一瞬でダウンに持っていかれたのも、全て冒険者の力

 

 それを踏まえた上で、敵のスタンド能力を判断する。それは、ひどく恐ろしい組み合わせだッ

 

 今の一瞬、断片的な情報で推測は立つ。一瞬、姿を現したあれら、予想はおそらく的中しているだろう

 

 

「まだ、立てるみたいだね」

 

 

 

「……」

 

 

 

「よかった、まだ始まったばかりだ……だから、簡単に終わってくれるな」

 

 

 

 

 煙が晴れる。夜風が払い、月光が彼を照らす。勇者が立つ、その威風堂々とした在りざまを徐倫は見る。

 

 見るのは、中央に立つ一人を

 

 

 

 

「……最悪ね」

 

 

 

 つい、我慢できず愚痴を飛ばしてしまった。今しがた見せられた圧倒的な身体能力のスペック差

 

 その上で、さらに能力はその差をさらに飛躍させる。

 

 

 

「『シン・リジィ』……能力はドッペルゲンガ―の使役、らしい。ロキは彼らをキラーズと名付けてくれたよ…………聞いていいかい? 君にはいったい、彼らはどんな風に見えるのかな?」

 

 

 

「…………ッ!!」

 

 

 

 

 並んで立つその姿、月明かりが嫌という程照らして見せつけてくる。背丈格好、まったくもって同じ姿、ただその表情だけは鬼神のような修羅を宿している。

 

 鬼を従える棟梁、勇者というにはその姿は非常に非情。試すというには、殺意に満ちた空気で肌が張り詰める

 

 

……本気で、いや死ぬ気で、それでもまだ足りないッ

 

 

 スタンドを構える。絶対的な脅威を前にして、何故か冷静になる自分は愚者か、それとも勇者か

 

 その答えは、闘争を交えた先でしか見られない

 

 

 

>> to be continued




【情報提示】

スタンド名-「シン・リジィ」

本体名-「フィン・ディムナ」

破壊力=E/スピード=E/射程距離=A/持続力=A/精密動作性=C/成長性=B


[能力]

 本体は右耳に装着されたカフス型のアクセサリー。能力はスタンド使用者と同等の身体能力を有したドッペルゲンガー、キラーズを複数使役すること。

 キラーズは使用者の五感で観測することはできない。キラーズは使用者本体と同様の戦闘衝動のみで行動する自立した存在、だが能力によって直接的な命令を下すことも可能。しかし、指令することで使用者が認識してしまったキラーズは能力が大いに減衰する。
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