ベルと徐倫の奇妙な冒険、ストーンオーシャンは終わらない 作:37級建築士
……来い、フィン・ディムナ
叫びと呼応して、フィンもまた徐倫とのインファイトに望んだ。
それは有利なアウトレンジの戦いを捨てた一見下策にも思えるもの。だが、フィン・ディムナは容易く想定を超える。
……追従するキラーズは後回し、先行してきたフィン本人を叩くッ
「ストーンフリー!!」
『オラオラオラオラオラァアッ!!』
顕現した己の半身、弾幕を張るように乱れ打つラッシュ、拳は打つほどに加速していく。エンジンがある車で例えるなら、回転を増すほどに、オーバーヒート寸前に行くほどに、ギアはさらに加速していくそんなマッドマシーン、力を貯めた一発をラッシュを捌くフィンの顔面に目掛けて
「オラァアッ!?」
重く、爆撃のような音を轟かせて腕のガードに叩きつけた。皮膚、筋肉、そして骨、構造全てに衝撃が伝う。
人体であれば崩壊間違いなしの衝撃、しかし
「凄まじい威力、けど残念だね……キラーズに命令を下した、僕を守れと」
「!?」
届いた拳、しかしその間、拳はフィンを撃つ前にキラーズを貫いていた。人形は形を崩し、黒い泥となって霧散する
……防御、使い捨ての傀儡人形ということッ
キラーズはドッペルゲンガー、認識してしまえば力を消してしまう。矛盾した性質ではあるがフィンはそれを十分に使いこなさんとしているのだ。インファイトに移行して、同等の力を持つ分身の手数は素てて、この戦いを最良としたのだ
分身に頼るインファイトよりも、自分自身で戦う方が結論を言うならば強い。この戦いは、きっとそんな自信の表れからきているのだろう
……死に兵の防御、命令して動かすキラーズに攻撃能力は無い、けど絡め手には十分ッ
「どうした、まだ戦いは終わっていない……そうだろ、空条徐倫ッ!!」
「……ッ…………まだだ、ストーン、フリィイッ!!」
インレンジ、顕現させたストーンフリーが殴り、蹴り、薙ぎ払い、然しその全てをフィンは近接で防御しきる。スタンドを相手に肉弾戦、ステイタスで強化されたヒトの力を惜しげなく見せつけてくる。
殴打の衝撃はスタンドを通じて徐倫の身体にも届く。バックステップで距離を取ろうにも踏み込みで逃げる選択肢をつぶしてくる
闘技場の真ん中で始まった肉弾戦、追いつめられる徐倫はスタンドを盾に防戦、捌き続ける一方で反撃の手は見つからないまま、次第に背は闘技場の仕切りを超えて壁際に。塀の石壁までじりじりと、反撃を撃とうとするなら
……邪魔をする、キラーズ達が間に入ってくる
キラーズの特性の一つである視認の不可性、本人にはその姿も影も見えないのであれば攻撃の一切で障害にならない
だが、一方で徐倫はキラーズが見えてしまう。つまり、フィンを隠してしまうのだ。キラーズをつぶしても、攻撃は届かないどころか反撃を貰ってしまう。
「……また、間に割って入ってッ!」
「あぁ、隙が生まれた……せぁあ、ッ!!」
右腕を掴み、飛び掛かるように右フックを放ってきた。寸前、避けることは叶わない
「寸止めだ、けどこれで決着にッ「させるかぁあああああッ!!!?!?」
……シュルルルルッ!!バシンッ!!?
「!」
「……糸の罠を、舐めるなッ」
繰り返した防御、追いつめられて最後のチェックをかけられ、そしてメイトに至るそんな寸前
仕掛けた罠がようやく活きた。徐倫はフィンをついに捉えた。振り放つ右腕の台に関節、肘にひっかけている糸の輪が攻撃を制止させたのだ。
……捕まえた、これで形勢は変わる
攻防の最中、徐倫は糸を出す際に必ず両手、その指先等から放っていた。故に足元への注意をフィンは失念してしまった。
糸は右足の親指から、じわりじわりと地面を這いそして気を伺っていた。
……やってみるものね、けどうまくいった
ストーンフリー、その力の出どころは徐倫の精神力、そしてその総量は肉体そのものつ連なっている。
糸を出せる量は成長と共に増していった。故に、ストーンフリーを限界している状態でも、ある程度の肉体に欠損を承知の上であれば
「ストーンフリーの、上半身だけ……そうか、糸は体から出るッ……空条徐倫、貴様既に空洞かッ!!」
表情を変え、憤りを見せてそう叫ぶ。フィンの体を空中に繋ぎ止めたのはストーンフリー、数にすれば1と0.5
地面に半身だけで、片腕を地面に打ち込み杭となって糸を強靭に張りつづける存在として機能していた。
「捉えろ、ストーンフリーッ!!?」
『『オラァアアッ!!』』
号砲を放つ。徐倫の体は服の内側を超えて顔面や腹部にも欠損の穴が生まれた。代償は重い、すぐにでも精神力は負荷で底をつきスタンドは使えなくなる。
だがこの一瞬でいい、一手さえ決めればこの模擬戦は制したことになる。本当の闘い、再起不能に持ち込むまでの戦いではない
競技性がある。故に、これで十分な勝利、それは確かな勝利の白星となるのだ
「捉えたぞフィン・ディムナ……アタシの、ストーンフリーの勝利だッ!!キラーズに命令を下してもアタシは止められない、キラーズは刺激しなければ動きはしない……封じたぞ、お前のスタンド能力をッ これは、アタシの完全勝利だッ!!!」
「…………くッ」
放った糸の雨、幾重にも縛られ地面に縫い付けられたフィン、関節を封じるように縛られた状態で力を入れることも叶わない。どれほど力があろうと、ヒトの形であるならその構造からは逃れられない。
完全勝利、その言葉にフィンは悔し気に
「……く、くははッ……はははッ!!」
「!?」
「すごい、君はなんてすごい……英雄だ、まさしくその力は、いや力よりも精神がッ 逆境に追いつめられてもな進み続ける黄金の精神、間違いなく君は英雄の器だ……ディモールト、すばらしいよ空条徐倫」
笑い、そして紳士に徐倫を見て賛辞を贈る。あまりにも異質、構えた拳の態勢で徐倫は制止する。
気が狂ったなどあるはずもない、なにかある、そう身構える。
「空条徐倫、君を認めよう……だが、残念だけど受け入れて欲しい。この勝負は、僕の勝ちだ」
動けず、しかし明確な意思をその瞳に宿し、彼は唯一動く首だけである物を噛んだ。
それは耳についていた銀と紫のアクセサリー、徐倫の知る世界のモノで言うなら、それは近代的な通信機の形をしていた。口元に伸びたマイク部分、揺らして歯で掴み、それを投じた。投じた先には、たたずまい何もせずうつろいでいるキラーズが一人
「命令を下す、キラーズ……
身動き一つとれないフィン、だが彼は何一つ負けてはいない。
キラーズの性質は、先に語ったモノが全てではなかった。唯一、保険として隠していた情報、それをたった今行使した。使うはずのない、そこまで使うことは無いだろうと高をくくっていた手段
故に、それ故の賞賛、フィンは徐倫を認めた。何故ならこのオラリオで彼女は初めてと言ってもいい、恩恵を持たない者で彼を下した唯一の例なのだから
〇
「なにを、何をしたフィン・ディムナッ!!」
糸の拘束、さらに糸を増やし拘束を強める。引き締まる糸、その瞬間にパシャリと聞こえてはならない音が響いた
「!」
人体が破壊されてか、迸る体液と共にフィンは砕け散った。グロテスクな光景が眼前に、しかし面食らうよりも前に徐倫は異質さに気づいた。迸ったのは、キラーズ達をつぶした時と同様の黒いドロ
霧散して消えていく本体、その答えは明快
「……そう、そうなのね」
理解した、理解してただその場で立ちすくみ、先に感情が来た
試す闘い、示す闘い、結果はどうしようもなく黒い
「…………ッ」
……ポツ、ポツポツ
振り出した、いつの間に空が雲に覆われていたのか、それすらも気が向かないほどに戦いに夢中だった。雨が降る、全てを洗い流すように雨が降る
「終わりだよ、空条徐倫……これで、チェックメイトだ」
告げた、雨の温度よりもずっと冷たい一言、現実の結果を告げる答えは対戦相手の口から
「……負けた、そう負けたのね……ねえ、あんた」
振り返る、背中に拳を突き立てたフィンに、いやさっきまではただのキラーズだった存在に対して、徐倫は重ねて問う
「あなたは、キラーズ……それとも、フィン・ディムナ」
「……ドッペルゲンガーは、本人と瓜二つ。仮に片方が消えて、その片方が偽物か本物か、どうやって判別がつく?」
「それは……まさか」
疑問に対して疑問、徐倫はフィンの問いかけに答えを得て、そして恐怖した
フィンの覚悟、それは悍ましいほどにかけ離れて強かであったから
「……このカフス、シン・リジィの本体は証明なんだ。フィンが僕であることの、そしてキラーズがフィンであって僕ではないことの違い、それはカフスを付けているかどうかの違いでしか分からない……差異は生まれない。なぜなら、ドッペルゲンガーは何処まで行っても1でしかない。これは、フィン・ディムナが複数に認識されてしまう一種のバグ、世界の欠陥それがドッペルゲンガーの本質……だから、キラーズも僕も1なんだ。僕はキラーズじゃない、僕はフィンだ……僕がフィン・ディムナなんだ…………だから、僕の勝ちだ」
「…………ッ!!」
「繰り返そう、この試合は僕の勝ちだ。勝ちなんだよ、空条徐倫」
× × ×
雨が降る。どしゃぶりの雨の中、勝者を見下ろすことに耐えきれず膝は地に落ちた
クールにことを流すには、自分という人間がいかにまだ
青いことか、たった今いやというほど味わっている
わめき散らすような豪雨の夜、感情のダムはついぞ耐えきれず決壊してしまった
「……くそ、こんなこと、あたしは……くッ……くっそぉおおおおッ!!! あぁああアアアアアアアッ!!!?」
耐え切れず、地に下って叫びを放つ。徐倫とフィンも雨に打たれて泥をかぶる。
だが、明確に違いはある。泥にまみれて掴んだ星、つかみ取れなかった星、勝者と敗者は絶対の概念だ。交わり溶け合わず明確に答えとして残り続ける
空条徐倫は届かなかった。全てを出し切って、己のスタンドに新しい可能性を見出して、戦いの中で成長を得た上で、それらを踏まえてなお、空条徐倫は負けた
……負けた、これはどうしようもなく負けだ。叶わなかった、あぁ、認めるぞフィン・ディムナッ
「徐倫、認めるようだね……敗北を」
「!!」
…………えぇ、ええそうよ……アタシはッ
負けた、それは戦いの記録の中で数える程あったか、しかし同じ土俵で、なおかつフェアな戦いの上という条件下で、この黒星は最も重く心に痛みをもたらす。
譲れない想いをかけて、そして敗北した。受け入れなくてはならないが、どんなに頭でそうしようと感情が邪魔をする。
「————————ッ!!!??」
叫び散らすも声は雨の轟きに飲まれていくに。闘争の熱は、彼らの意思を無視して水に溶け落ち消えていくばかり
感情の波は叫びとなって空へと向かう。耐え切れず、感情のままに行動を、徐倫は繰り返した。
生涯初めて、正義を示し合う正当な戦いの果てに得た純粋たる敗北。その味は雨と泥にまみれていた。
忘れられない味、今日というこの日が空条徐倫、彼女の戦歴に黒星がついた日となった
>> to be continued
今回はここまで、決着は文字通り黒星でございます。
読まれる皆様には色々と賛否もあるでしょうが、これも必要な展開。全ては成長のために
感想・評価等あれば幸い。来年もモチベあげて書いていきます。それでは皆様良いお年を