ベルと徐倫の奇妙な冒険、ストーンオーシャンは終わらない 作:37級建築士
怪物祭、オラリオでも有名なフェスティバル当日、待ちゆく人だかりは総じて楽しみで浮かれた調子だ。浮かれるという意味は、特に男女のそれ的な意味もある。
催しで浮いた人々は時に平時にはしない大胆な行動にも出る。祭りのメインであるショーは二の次、異性と遊ぶことがもはやメインとばかりに若者はせわしなく声をかけては恋の連戦を繰り返す
祭日の日のナンパは殿方から女性だけに飽き足らず。この時代の先を行くオラリオでは女性も積極的に男を誘う。ターゲットを決めて、年上のセクシーな二人組は、大胆な衣装の少年に舌を巻いて唾液を飲み干した。
出店が並ぶ大通り、そこでベルクラネルは今日何回目かもわからない、またかと呆れる逆ナンお姉さんと対峙するのだった。
「……ねえねえ、君だよ君」
「私たちフリーなんだよね、君暇?相手いないなら私たちと遊ばない?」
一人、出店の並ぶ大通りを歩いているだけなのに、どうしてこうも話しかけられることになるとは
他に誘えそうな人はいくらでもいる。なのに僕なんかに話しかけるというのは、それはきっとこの衣装のせいだろう。そうとしか思えない
「え、えっと……あ、よかったらこれどうぞ!」
「ん、なになに……チラシ?」
「それ私服じゃないんだ。売り物、あなたの服とってもセクシーだと思ったけど、へえ、近くじゃない」
話しかけられた名も知らないお姉さん二人に僕はチラシを二枚配る。そこには出店の並ぶ地図に丸を入れた小さな絵と共に、デカデカとデザイナーの名前が記されたそれを見せて、そしてかねてより言われた宣伝文句を諳んじる
「アパレルショップミアハの専属デザイナー、ミス・ジョリーンのオリジナルブランド服のアンテナショップに是非お越しください!当日着付けレンタルもしています!チラシをもって来店されたお客様にはじゃが丸君30パーセントオフクーポンもおまけします!……ではッ」
「あ、君!逃げないでよ、ちょっと一日遊んでホテルまで行くだけなのに!!」
「ナンパの返事!セクシーな少年くん!!大丈夫、最初は優しくしてあげるから!!」
恥ずかしさが頂点に達した。遠く、もう雑踏の何列も先にいるお姉さんたちには申し訳ないけど、でも仕方ないのです。
宣伝係、お手伝いをするとは言ったけども、こんな衣装で
……別に、少しかっこいい服ぐらいならよかったけど、でもなんで
チラシを配る傍ら、徐倫お姉さんが作った服を宣伝するために僕は着替えさせられた。それも、かなり派手というかセクシーなものに
……こんな服、本当に買う人なんているのかな
服、というよりは紐、体にフィットした格子状の紐で覆われた上半身は肌色を実によく晒している。布地が少なく、というよりほぼ紐の割合が強く、前面にちりばめられた靴跡のようなモチーフがアクセント、白と紫のコントラストはまさに美を尊大に主張するナルシストの姿だ。当の僕にそんな性根は無い、なんだかいやらしい女性の服をまとっていると言われた方がしっくりくる。胸板をじろじろ見られるのが恥ずかしい
「あ、ベル君……って、何その服?」
「エイナさん!?」
「チラシ、あぁジョリーンブランドの……へえ、いいね」
「見ないで、特に知り合いには見られたくなかったのに!!」
偶然ばったりと会うエイナさんにまじまじと素肌を見られてしまう。射に構えて顔を隠していたら、なんだか周囲に人だかりが増えてきて、みんな見てる。僕の立ち姿をまじまじと見ている
「だ、誰かスケッチを……効果音が聞こえてくるこの立ち方、いいわ、芸術よ!!」
「ディッモート!!ディッモールト!!」
「あの子の裸がもっと見たいわ!」
「いいわ、すごくいい!! あなた最高、ああもう辛抱たまらない!!早く私を分解して!!」
変人もちらほらと集まり始める、エイナさんも鼻を抑えて目が若干怖い。
僕みたいな平凡な若者に魅了を付与する徐倫お姉さんの衣装、だけどこんな思いをするなら僕は一生平凡ファッションでいい。
「も、もう勘弁してくださぁああいッ!!」
〇
徐倫お姉さんはデザイナー家業を続けながら冒険者登録を済ませた。なので、副業という名のもはや本業の服飾業は依然ミアハファミリアの重要な営みであり、こうして祭りの出店にもアンテナショップという形で看板を掲げる。
薬舗の看板は何処に行ったのか、ミアハファミリアの出店は大きなテントで、その中ではいくつもの徐倫お姉さんデザインの衣服が棚やハンガーラックに陳列。店内は常に若い客層でにぎやかこの上ない。なんならテントの外にも行列ができているぐらいだ
以前、やめるといった際に泣きながら引き留めをしたミアハ様だったけど、正直ここまでの人気があるならそれも納得できてしまう。店の外の隅では、なぜか男神のディアンケヒトさまがスプレーで落書きをしようとしたところを衛兵に拿捕されているし、なんだかもう、うん、商売ってすごい
「……チラシ、配り終わりまし、た……はぅ」
背負った看板と空のチラシ入れ袋を置いてお水を貰った。何も言わずコップを受け取ったナァーザさんは
……ダンッ
「さっき追加で刷ってきた。休憩したらまた宣伝お願い」
淡々と説明したのちすぐ接客に戻るナァーザさん。僕と同じ疲労の目をしているけど、決定的に違うのはその目の奥にお金の色の輝きを見せていること
商魂逞しい。ポーションの販売はもう廃業なのかと思えてしまう。因みに宣伝も兼ねてナァーザさんも徐倫お姉さんと同じ服を着ている。因みに露出は僕よりも少ない
スリムフィットな黒のロングパンツにオフショルダーのレザー服。体のラインがぴっちりと出て、筋肉質で健康的な女性にはぴったりの服といった感じだ
いつもはダボッとした布地の余る服を着ているナァーザさんだけど、こうして見るとすごくスタイルがいいと初めて知った。徐倫お姉さんにも負けていないバストサイズは目の毒である
「あの、徐倫お姉さんは……」
「徐倫ならバックヤード、追加でどんどん服を作ってるから邪魔しちゃ駄目……はい、四点で5万6千バリスです。お会計、ありがとうございました」
「はっはは!!黒字が止まらんぞナァーザ、これならあの憎っきタヌキ親父の借金もすぐに吹き飛ぶとも!笑いが止まらん、アパレル業界は最高だ!!?」
「……」
愉快痛快、商人達の金ぴかな雰囲気に気おされた僕は静かに場を後にする。テントの中は広く、布の仕切りで作られたバックヤードへ入ると、そこには言った通り徐倫お姉さんがいた
……シュルルル!
……カタカタカタ、ガッタンガッタン!!
「……ベル、チラシ配り終わったのね。お疲れ様」
忙しい、せわしなく働いている、そんな風に思って幕を広げて足を踏み入れれば、そこではベンチにくつろぎながら雑誌片手にコーヒーを飲んでるお姉さんがいた
何もしていないわけじゃない。けど、スタンドは今もな織物機械に組み込まれる形で、ほぼオートメーションともいえるような手際で服を繕っている。
糸の能力は万能とは聞いていたけど、ここまで便利だなんてと感心してしまう。
「スタンド、便利ですね」
「そうでしょ、でも仕掛けはあるのよ……ほら、こっち」
こっち、そういいタンタンと叩く先は自身の太もものあたり
誘われるまま、呼ばれるまま、僕は徐倫お姉さんの下に近づき後ろを向く。すると、お腹に手が回ってすとんと膝の上に着席してしまった。
「抵抗しないのね。ま、アタシが慣れさせたんだけど……ほら、見えるかしら」
「……これ、なんだか模様みたい」
自分よりも背の大きい徐倫お姉さんの膝の上、そこで僕が見たのは織機に取り付けられたストーンフリーの意図を束ねて作られた布みたいな部分。機械に組みこまれて、歯車や細かな棒状の部分と、とにかく複雑で一件ではわからないそれはなにか、徐倫お姉さんは自慢げに胸を張っている。
背中、素肌面積の多い服だから、ちょっとドキドキする。
「……ッ」
「ストーンフリーの糸で組み込んだ、そうね……設計図みたいなものね。二進法で作った機械言語で、って言ってもわからないわよね。パソコンなんてない世界なのに」
「……それ、徐倫お姉さんの元居た世界のお話ですか」
「ま、そんなとこ……スタンドで服を作るのも、こうして決まった行動を記録して繰り返せば効率も良くなるのよ。だから、アタシはこうして優雅にブレイクタイムってわけ。ねえ、出店で甘いの買って着て頂戴……小腹空いちゃった」
「……でも、チラシ配りは」
「別に良いってば、服も勝手に作ってくれるし……服編むぐらいならストーンフリーの糸もそんなに使わないのよね。移動も可能……二人は、アタシが服作らないって言えば」
……タッタッタ
「「どうぞ、お二人とも休憩を楽しんでください!!」」
「……ね」
自慢げに笑う徐倫お姉さん。すっかりあの二人は逆らえないというか、自主的に従ってしまっている。やはり持つべきなのは手に職ということか、村で近所のおばさんから口うるさく言われたけど今になって痛感する。
「よし、じゃあ祭りを見に行くで決定ね」
「……ですね。でも、テイムはまだ」
「なんでもいいのよ、飲んで食べて買って遊んで、会場は広いしなんでもできるわ。ということだし……ベル、アタシとデートしよっか?」
「で、デデ……ッ」
甘い誘いを耳元でふわりと、徐倫お姉さんはお腹を抱く力を一層強めた。
祭りの日を楽しむのは大変結構、誘いは別に問題じゃない。けど
「……着替え、そろそろいつもの服が着たいです」
「え、どうして?」
「……恥ずかしいから」
「?」
首をかしげる、本気でそう思っている。おしゃれ上級者である徐倫お姉さんにはこの羞恥は理解されない。理解されないから、だからこの服を着させられたのだと思い出した。
今朝も着替えをしようとしたらほぼ強引に二人から着付けをされて、そしてそのまま周囲の目を集めながら祭り会場まで来たんだ
徐倫お姉さんと、神さまと一緒に
……あれ、そういえば
「……どうしたの、ベル?」
「あ、いや……そういえば」
ここに来た時、祭りを先に見て回ると言って別行動をした神さま。店の手伝いが終わるお昼、ちょうど今の頃合いに合流すると言っていた
もう、今頃戻っていてもおかしくないはずなのに
……心配のしすぎて思われるかな、でも
〇
……会場、休憩スペース
「ひっく……うぷ」
「大丈夫かいヘファ……ほら、お水」
「……ごめん、ヘスティア。ごめんね、迷惑ばかり、かけて」
「たく、もう何度目だい? ごめんなさいは言わない約束だろ」
「……で、でも、うぷ」
弱った赤髪の女神、そしてそんな彼女を解放する黒髪ツインテの女神。二人の神はテントの救護所で一休みをしている。
ベルと別れたヘスティアは祭りを歩く中偶然ヘファイストスと出会い、そして流れから酒を出す出店で飲みをしてしまった。
以前の件もあって、ヘファイストスは良き友であるヘスティアへの罪悪感が未だぬぐい切れず、本来なら億単位の武器すら無償で提供した今でも罪の意識からこうして悪い飲み方をしてしまう。現に今、罪悪感を感じる相手に介抱されているのだから、なんとも痛々しい場面である
「君って神は、僕のお勧めしたお酒だからってグビグビ飲んでさ、気持ちは嬉しいけどね、君のところのハーフドワーフじゃないんだぜ。へファお酒強くないのにさ……ほら、体横にするよ。吐きそうなら言っておくれ、すぐに袋を用意してあげるから」
「……うぅ、ごめんなさい。私、貴方に顔を向けられない。ひぐ、友神失格よね……ふぐぅ」
「もう終わったことだよ。君の眷属が悪いのであって君が悪いわけじゃないのに……ナイフの件は助かったよ。むしろ謝るのは僕の方さ」
「あなたを追い出して、あんなボロボロの教会に押し込んで……わたし、ひどい女……うわぁあん」
「うわんって、子供か君はッ もう、ひどい酔い方だな」
ぐずぐず泣き出すヘファイストス。周囲のスタッフも女神の不毛な光景に目を背けている。この場においては忍びない
「……奥の部屋を借りたい。そこの君、ちょっといいかな」
不憫な姿を晒してはいけない。そう思ったヘスティアは手近なスタッフを呼び寄せる。
呼ばれた男は黒い衣装、教会の神父の服だとわかるその姿からボランティアなのか
「ヘファを休ませたいんだ。奥の部屋を貸してくれないかい」
「自首するぅ……わたし、牢屋に入る……ぐすん」
「ああもうこの泣き上戸ったら」
>> to be continued
アナスイの服を着たベルくん、そんな日常回
次回からは大きく進みたい