ベルと徐倫の奇妙な冒険、ストーンオーシャンは終わらない 作:37級建築士
お前に矢を打ち込んでやろうか
ヘファイストスはひどく飲み明かしてかなり泥酔している。神力のない神々も肉体を持つ以上ヒトと変わらない
「……うぅ、きぼちわるい」
「ほら、もっと吐いて吐いて。楽になりなよ」
扉を開けたまま、便器に吐き続けるヘファイストスの背中をさすり続ける。テントのある野外の救護所ではきっとこの恥ずかしい痴態を外の
すぐ近くの教会、各地に置かれた救護所の運営本部であるここへ運んでくれた彼に、ヘスティアはあらためて感謝の念を抱く
「女神様、運ぶのを手伝いましょう」
「すまない、たすかるよ……えっと」
「神父で構いません、名は少々恥ずかしいので、なにとぞ」
「そうかい、じゃあ神父君そっちを持っておくれ……いやぁ、本当にたすかった」
抱え上げて、二人でヘファイストスをソファに寝かせる。力の弱いヘスティアが息をつく合間に、神父の男は無駄のない手つきで介抱を進める
服を緩め、体を少しだけ斜めに寝かせ、そして冷えないように毛布を掛けた。黙々と作業をこなす姿は、その体躯の良さも相まって逞しい何かに
それこそ、冒険者などの戦う男の姿に似た既視感を覚える。
「…………なにか?」
「あ、いや……随分とたくましく見えてね。君、昔冒険者でもやっていたのかい?」
唐突に尋ねてみる。ヘスティアの問いに男は少し考えを巡らせ、そして
「……御冗談を。私は生まれてこの方、神の教えに従う神職者でありますから」
微笑を交え、神父は女神に一礼を交えて回答する。
「日々の食事の糧は神の恵みと愛よりいただくものにてございます。モンスターとはいえ、命を奪う行為で得られる糧は、私の教えに反します故」
丁寧に、男は女神に礼を失することなく信条を示しす。だが、その言い回しにはどこか含みのような意図を残しながら
「そうかい?いや、気を悪くしたならすまない。けど、向いているように見えたんだ、背も高くて強そうだからね」
「賞賛と受け取ります。そして、意に即した答えを返せず申し訳ございません」
誠実に、女神へ敬意を向けて神父は礼を重ね続ける。
教会の、待合室のような場所で、たった今介抱もひと段落下からだろう。言い忘れた分を取り戻すように、男は神への敬意を、示すべき神職者の誠意をヘスティアに払い続けんとした
「うんうん、君は敬虔な男なんだね。けど、それ以上は安売りのバーゲンセールだ。その誠意はもっと徳の高い神様が来た時に向けて取っておきたまえ。ありがとう、ヘファを助けてくれて」
「ご配慮に感謝いたします、女神様」
「堅苦しいのは苦手なんだ。僕はヘスティア、女神さまよりヘスティアと呼んでおくれ。それと、神父くん、君の名前は?」
「……わたしの」
言いよどむ。先ほどよりも、今度は深い様子で思考を巡らしている
ヘスティアはそんな神父の様子をとくに気に留めず、お堅い性格でコミュニケーションが拙いのかと勝手に推測。席に座して、寝ているヘファイストスの頭をなでながら回答を待つ
……悪い子じゃない、むしろ良い子だ。だけど
丁寧な物腰、そしてこの時代にしては珍しい教会の神父、神が地上に降りたこの時代において教会の役目は孤児院や地域福祉のボランティア的な存在でしかない
だが、今目の前にいる男は神が地上に降りた時代であるのに、いまだ神の言葉をまとめた本を手に説法を説く姿をしている。
……不思議だ。異質なぐらい、ちゃんとした神父だ
丁寧に掃除の行き届いた教会。説法も懺悔も大して需要のなくなった時代において、神の眷属に比べて見劣りする神職のいでたち、あり方をいまだに変えない、そんな姿に
まるで、この世界とは別の世界から来たような、そんな特異な雰囲気をヘスティアは感じ取ってしまった。それは、例えるなら
……あの子みたい、徐倫くんみたいに
「……ヘスティア様」
「あ、うん……なんだい」
「名前ですが、なにぶん事情が複雑ですので……実は、人に恨みを買ってしまったことがあり、名を連ねるのは控えております。普段はロベルトと、偽名を使っております」
「偽名? 恨み? も、もしかして……君、結構」
恨み、偽名、評価を上げた印象を抱いた中、急な不穏ワードにたじろいでしまう
神父は予想した反応だたのか、人のいい笑みを交えてヘスティアを安心させんと言葉を続ける。
「誤解の生む発言、失礼申し上げます。恨みというのは、いわゆる逆恨みというものです。その昔、私はよいことをしようとしました……大勢の幸福のために、自らができる最良を目指し尽力をした次第なのです。この言葉、神であられるのなら嘘偽りではないことはご理解いただけるかと」
「……うん、そうだね。嘘は言ってない」
「ご理解、感謝します。詳しくは長くなりますので、省きます。女神ヘスティア、貴方様の前に立つ男は弱い人間です。どうか、名を明かす行為お控えさせていただけないでしょうか。ご不快になられたなら、この頭幾度でもお下げいたします」
「わ、わかったわかたッ……もう、十分すぎるぐらいわかったとも! え、じゃあその、神父くんでいいかな……偽名と分かって呼ぶのも、なんだか変だよね」
「……ええ、それがうれしくございます」
深々と、またも礼をする神父。座ったヘスティアよりもなお頭を低く下げる丁寧な物腰にヘスティアはこれ以上何も言えなくなる。
……悪い子じゃないけど、でもやっぱり変な子だなぁ。見た目も、やっぱりいかついし
「……お茶を入れましょうか」
「え、いや……気遣いは」
「お連れの女神様、ヘファイストスファミリアの方に今私の部下が連絡に赴いております。迎えが来るまでお待ちするなら、どうぞここでお寛ぎください」
「……そ、そうかい、なら」
しばし考える、もとよりヘファイストスを置いて動けない故に、むしろ厄介になると頼もうかと思案した矢先の提案
先回りした打診に、ヘスティアは素直に甘えようと決めた
「うん、ならお言葉に甘えるよ……ありがとう、不思議な神父くん」
警戒心は解かれる。肩の力を抜いたヘスティアはさっそくいただいた紅茶に、そして出された茶請けの焼き菓子に手を伸ばした。
「迎えが来るまでゆっくりさせてもらうよ。神父くんも座ったらどうだい」
無邪気な笑み、あどけない振る舞いでヘスティアは神父と向き合う。
神として背中に入れた力を抜き、友のような気軽さで接した。神父は、そんなヘスティアに微笑をもって返して静かに着席する。
「君は敬虔な信徒だ。君のような神父がいて、僕も神として鼻が高いよ」
「……過分なお言葉、光栄です」
神父は礼を述べ、自ら淹れた紅茶を飲む
敬虔な信徒、神から頂戴する言葉に対する反応、それにしては、落ち着きが過ぎる。
神父は敬意を払っている。だが、しかし
「ところで、神父くんはいったい誰を信奉しているのかな?」
「……ふふ、いったい誰なのでしょうかね」
おどけた返し、しかしその意は本音がこぼれている。
神父は、女神に対して敬意を払った接し方をしている。だが、そこに果たして崇拝はあったのだろうか
神父とヘスティアがいるこの部屋、入り口から見て神父の座る席は上座であった。上座に座して、そして、ティーカップを持つその手は、明確にはその人差し指は、取っ手の輪っかに指を突っ込んで持つ所作をしていた。それは、ひどく下品ともいえる礼を失したマナー違反であり、神父はそれを承知の上で堂々と行っていた。
ヘスティアは知らない。気づかないゆえに、表の情報から彼を良い者だと信じた。黒い肌に奇抜な剃りこみを入れた白髪、その神父服に隠れた逞しい肢体、それらには偏見抱くこともなかった。見るべきものは視覚で伝わるものではなく、もっと奥。機会はあったが、ヘスティアは気づかないでいる。瞳の奥に隠された、どす黒い悪を
嘘を見抜く神ゆえに、疑問を抱かず茶を交わし、時計の針は進み続けていく。
名も知らず、名も明かさない男に無償の信頼を預けて、ヘスティアは神父との会話を弾ませる。
エンリコ・プッチ、神父が隠す本当の名を知らぬまま、時計の針は進み続けていく。
「……外が、賑やかですね」
「うん、そろそろ見世物が近いからね」
怪物祭、祭りの熱気は直に最高潮を迎えんとしていた
>> to be continued
今回はここまで、神父様もさらっと登場させました。今後の出番にご期待
次回より原作のムーブに移行、ただ原作通りになるのかどうかは保証しかねます。スタンド使いはひかれあうので、レロレロレロ
感想・評価などあれば幸い。モチベ上がって執筆がはかどるじゃあないか