ベルと徐倫の奇妙な冒険、ストーンオーシャンは終わらない 作:37級建築士
スティールボールランが楽しみ
テロが起きた。無差別な、目的も不明な、ただ漠然と被害の文字を想起させる事態が今この街で観測されている。
この事態、対応に駆られたのはロキファミリアだった。本来対処に当たるはずのガネーシャファミリアが機能せずにいたため、後手となって対応することになったのだった。
事態の収拾にあたり上位の冒険者たちが対応に当たる、後手にはなるが、それでも事態は最悪を迎えずに済む。ギルドのロイマンなどはそう高をくくっていた。一回目の報告では彼も全く動揺しなかった。
大抵の騒動は表に明かさず秘密裏に、街の混乱を及ば差ない形で処理がなされる。それはこれまでにも起き続けたスタンド使いによる事件と同様に、事態は早期に解決される、ギルドのロイマンはそう高をくくり席に坐していたのだが、そんな彼を椅子から転げ落としたのは窓から見る光景
ギルド長ロイマンは部下からの報告を受け取る間もなく事態の規模を理解した。彼がいるギルドの施設の窓から見て、その衝撃と爆炎はコロシアムから起きたものと容易に理解できたからだ
……至急、大至急だ!町民の避難と、対処可能な冒険者をフルで動員しろ! スタンド使いを現地に集結させるんだッ!!
すべては後手、建造物の倒壊に火災、そしてモンスターの報告、事態は早々に収められるラインなどとうに過ぎ去っていたのだった
× × ×
「お姉さん!徐倫お姉さん!!」
粉塵が舞い散る暗い穴の底、僕がいるのはコロシアムの観客席、だった場所だ。だけど、今いるここはどこか、壁に貼られて数字で割り振られた区画のどこに当たるのか、詳細な図面があってもきっとわからない
ここは倒壊した建物の中。瓦礫の合間を縫って頭を低くしないと前に進めない。そんな場所に僕はいるのだ
直前に起きた出来事をどうにか振り絞って、現状を理解しようとする
混乱している、未だ状況をつかめないでいる。だから、今は立ち止まって、少しでも頭を回すべきだ
……起きたのは、人の波
悲鳴が起きた、そしてその光景の先に、僕は人の死を見た
闘技場でモンスターの前に立つテイマーが、その頭部が削られていた。まるで、見えないナニカに人の頭が噛み千切られたような、そんな光景が遠く見下ろす先にはあったのだ
そこからのことは、とにかく激しくて、そして怒涛で、けど僕は見えなかった
見えなかったのは、僕が徐倫お姉さんに抱きしめられたから、庇われたからだ。守られたからだ
人の悲鳴が全方位で大合唱となり反響する。群衆の波に踏みつぶされないよう、僕は守られていた
それから、大きな衝撃が近くで起きて、それから
……グシャ、グチャリィ
「!!」
腐った果実の潰れる音、踏みつぶす前にとっさに足が浮く。
あたりは粉塵に塗れた場所、上からの穴でどうにか明るく見えるけど、未だ視界はおぼつかない。
見えるのは、足元ぐらいだ
「ぁ、あぁぁ……ぉぼッ」
吐しゃ物が地面に散らばる。食べた露店のご飯が半分以上吐き出してしまった。
ベルは見た。足元の赤色を、そして、その色がいったい何から出ているのかをすぐ理解した。
……下を、向くなッ
……これ以上は、吐くどころじゃすまないッ
視界を水平に、粉塵が舞う今この状況がむしろ救いとなった。ベルは、足元のそれらを見ないよう、避けながら歩きだす
歩く、歩いていくと頭が回る。未だ喉は苦く酸っぱく、吐き気で気分は最悪だ。しかし、それでも意識だけは良好だ。極限を乗り越えるために、絶やしてはいけない炎を意思が灯してくれる
見つけないと、会わないと
「……徐倫姉さん、ティオネさんティオナさん、無事でいてください」
歩く、やみくもに、半壊したコロシアムの中を進み続ける。未曽有の人災の中、失いたくないもののために、このどん底を這いあがるのだと意思を灯すのだ
歩け、ベルの心がベルを進める。今は進め、立ち止まって見える活路なんてないのだから
〇
~コロシアム、観客席~
「オラァッ!!」
拳を振るう。糸で束ねた無双の連撃が見えないナニカを押し返す。生ものの砕ける感触を拳にシンクロさせて、徐倫は見えないナニカに致命傷を与えていく
頭部を潰す。現状、それが対処方法として一番まともだった。だが、それでも現状は変えられない
以前、現状は後手。最悪なのは、たった一人ではないということ
「……テロリズム、アタシの故郷が最も憎む言葉、本当に反吐が出るわ。どうして、どんな人間ならこんなことができるっていうのよッ!!」
憤り、徐倫の叫びはむなしく反響する。
誰もいないコロシアムの観客席、そこで広げるは不可視のバケモノとの攻防
いったいなぜこうなってしまったのか、それは確かな記憶として今も鮮明だ。
……何が起きた、誰がいったい何のためにッ
すべては突然に、観客たちがパニックになり逃げ惑う中、ベルを庇う徐倫はまずそれらに気づいた。それらとは、こうして今もあしらっている透明な化け物、その悍ましい食性とどう猛さから真っ先にゾンビと名称がつながった。
透明なゾンビが無作為に観客を襲っていた。遠くから近くまで、その事態に人々がパニックになり逃げ惑う、そこまでは理解できる
だが、その次に起きた爆発だけは理解に追い付かない。なぜか、どうして起きたのか
それは、いったい何故
……あの一瞬、ストーンフリーで防御した
……だが、防げなかったッ
……こいつらは、ただの透明なゾンビじゃあなかった
ほかにも大勢の人間がいた。なのに、真っ先に自分たちめがけて透明なゾンビがストーンフリーの防御に引っかかった。透明だが、人の血がかかり姿が浮き出た人型のゾンビたち、それらが近づき、手を伸ばした
死体が迫る。そして、死体は突然の臨界を迎えた。
ゾンビは透明だった。そして、透明なゾンビは爆弾でもあった
「————くっそぉおおおおおッ!!!!」
傷だらけの体、ところどころにやけどを抱え、さらには爆発の余波で飛び散った破片がわき腹や肩を切り裂き一部は食い込んでいる
立つだけでも血が垂れる。歩けば痛みで奥歯が砕けそうだ。戦うとなれば、この食い込んだ破片はさらに肉を切り裂く
「誰だ! いったいだれが何のために、バイオハザードと爆破テロを起こすなんて!!」
『■■■■■■■■ッッ!!!!』
「ストーンフリーッ!! これ以上、近づけてたまるかッ!!!」
コロシアム、観客席の一番後ろ、そこで壁を背にして防壁を敷く。糸の罠で敵を絡め取り、位置を掴んで急所を見極め、ラッシュを叩き込む
高所の砦から迫る敵兵を打ち落とす。現状は徹底防戦、それが、今起きて認識できる現状だ
爆発に巻き込まれ、意識を取り戻した時にはあたりは死人だらけ、守るべきベルは自分の懐にもいない
分断されたこの状況、さらに付け加えてこの場を逃げられない理由はダメ押しに追加されている
「ティオネ!! や、いやッ 死なないで!! お姉ちゃん!!??」
「……ッ」
守る砦には生存者が二人、それは爆破のダメージをもろに受けた、正確には妹を庇い重傷になったティオネが生気のない瞳を向けている。こっちを見ているのか、それともどこかを注視する余裕もないのか
あの強気なふるまいが、見る影もなく光を落としている。消え去る瀬戸際なのだ
傷を負った体、回復役も無い。迫る脅威がスタンド攻撃であるとは理解している、だが本体は何処にも見えない
姿を隠しているのか、はたまた遠く離れた場所か、状況は撤退が優先されるのは自明の理。ベルのこともある、だが
「退ける、わけないでしょッ」
背後には二人、縁も浅いこの二人
片方、妹はすぐにベルと打ち解けていた。きっと、これからも良い関係を築く相手になると想像できる。ベルに優しくあどけなく、立場も力量も上なのに、気の置けない友人として傍に並んでくれる、そんないい女だと理解に容易い
もう片方、姉ははっきりいっていけ好かない。あのフィン・ディムナと関係があるというところも合わさって、あまり好き好んで仲良くできる相手ともいえない。これから築く関係性は殴り合いもありの関係だ。そんな乱雑な知り合いになるに違いない。それに、思い人がいる相手が、むざむざ死ぬ姿を見過ごすほど、あたしは非常な悪人に成り下がった覚えはない
「……ねえ、徐倫。ティオナを、連れて行って」
ぼそり、震えた声でティオナは告げる。
「スタンド事件なんでしょ、ならあたし達には何もできない。団長や、特別な誰かがいないと……だから、あなたがまずティオネを助けて、ここから逃げて」
消え入りそうな声で、切に吐き出した悲しみを背中で受け取る
意図は明らかだ。自分を犠牲に、大切を優先して、それで最善を尽くそうとしている。それしかないと、選択肢を狭めて
「……冗談、そんなこと誰が飲むものですか」
故に、徐倫は速攻で跳ねのけた。
助けられている立場、故に下手になってしまうその言いようを、徐倫はまともに取り合う気は無いと、そう告げたも同然である。
助ける理由、それはすでに十分すぎるほどだった。
「あんたの姉貴、めっちゃいい恋してるじゃん。あたしにはできない、ホットでアグレッシブなラブ、だから尊敬するわ……あんた、癪に障るけどいい女よ」
いい女、その言葉で締めくくったセリフの最後、ふと抱きかかえられたティオネは笑みをこぼした、かに見えた。
二人は気づかない。
「守ってやんなさい、妹なんでしょ。なら、背中は任せるわ」
「……ッ」
優しく語り掛ける徐倫の言葉にティオナ目は光を取り戻す
絶望的な状況、体温の下がる姉を抱きしめるだけの妹は、逆境の中で光を見た
敵を倒す術はない。しかし、守るぐらいなら自分にもできる。
ティオナの心に火を再点火した。徐倫の声が、ティオナの戦意を呼び起こし、思い出させた。
守られるに甘んじるほど、自分が弱い存在ではないということを。たとえ、スタンド能力がなくとも
「あたしは、冒険者だッ」
「そうよ……それでいい、これで状況はマシになるわ」
手負いのスタンド使いが一人、しかし今はそこに冒険者という頼もしい協力者も加わる。
悪くない。状況が少しでも好転したという事実に、徐倫の口角は吊り上がる
だが、それもすぐ紐が切れたように落ちて戻る。
……状況はマシ、言い切れないわ
……あの子は、今も無事なんでしょうね
……じゃなきゃ、アタシはアタシを生かしておけないわ
危機的状況で戦いに気が向き心が躍る。そんな瞬間を今この場所で感じている自分、そこにほんの少しノイズが走る。
不思議と無事に思えてしまうからなおさら質が悪い。爆発で姿を消したベルが今も無事に、希望的観測でしかないのに、なぜかそう思えてしまう。なら、それを前提にするしかない
ベルは無事だ。しかし、ベルはここにいない。むしろ遠く、別の場所に
「……ッ」
背中の星に熱を感じる。冒険者としてステイタスを刻んだあの日から、自分とベルは強くつながっている。いや、つながりが増している
既視感を覚えるこの謎のつながり、奇妙なつながりを信じるのなら、ベルが安全な場所へ逃げていると信じたい。
避難している。そう信じたい、だが、しかしだ
「透明なゾンビ、それもこの数、コロシアムにいるのが全部? ここにいるのを倒せば街は安全? いや、そんなわけがない、そんな都合のいい筋書きは誰も描かないッ」
容易に浮かぶ現状、このオラリオで起きている現状は、きっと今まで見聞きしたどれよりも最悪で、災害なのだから
「フィン・ディムナ、それに街の偉い人たち、あんたたちにかかってるわ。頼むから抑えなさい、このパンデミックを……頼むから、映画みたいに街ごと消し飛ばすなんてエンディング、それだけは勘弁願うわ」
>>to be continued
……ベル、絶対に会いに行く。それまでは、絶対無事でいなさいッ
以上、久しぶりの投稿でした。
独自展開開始。別行動をとるベルと徐倫であったとさ、次回はベル君の視点です。次の投稿は気長にお待ちを
スタンド名-「リンプ・ビズキット(ロータス)」
本体名-「サイモン・オヴァディア」
破壊力=なし/スピード=A/射程距離=S/持続力=A/精密動作性=-C/成長性=E
【能力】
死体を透明なゾンビに変える
ゾンビは任意に自爆させることも可能。一か所多量のゾンビを誘爆させることで大規模な破壊攻撃も行える