ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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オリジナルプリキュアの第一話を書きました。
拙い文章ですが、末永く見守ってくれると助かります。
本作のプリキュアは近年の仮面ライダーの様に最初は一人です。そのうち増えていく形式を取りたいと思っています。また、プリキュアに変身するのはいずれも人間ではありませんのご了承ください。


第1章:三大勢力衝突編
第1話:悪魔だけどプリキュア!?その名は、キュアベリアル!!


 

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「悪魔」――人の心をまよわし、悪い道にさそおうとするもの。到底、人とは思えないひどい悪事をはたらく者を、人は忌み嫌い、自身もその一員とならないように努力している。

 だけど、人は完全ではない。その心はきっかけ一つで正義にも、そして悪にも染まる……だから悪魔は絶対に食いっぱぐれないし、故に絶対的に間違った存在ではないと私は思う。

 

           ≡

 

西暦二〇XX年

日本 黒薔薇町(くろばらちょう)

 

 麗らかな日和。春は出会いと別れの季節だ。

 そして四月の今日は前者――出会いの刻。ピカピカのランドセルを背負い、緊張な面持ちで歩く子どもとそれを見守り歩く親。少し丈の長い真新しい制服の学生に、春休みが終わり、けだるい様子で歩く学生。あるいは、ビシッとスーツが決まった社会人。それぞれ人生の新たな門出を迎えた者たちが思い思いに行き交う河川敷に、一人の少女が歩いていた。

 少女は紅色を基調とした学生服に身を包み、黒のミディアムヘアを風になびかせながら歩を進める。

「リリスちゃ――ん!!」

 不意に後ろから聞こえる甲高い声。黒髪の少女が振り返ると、ブラウンのショートボブを揺らしながら、全速力で走ってくる少女の姿が彼女に近づく。

「おはようございま――す!! 今日から二年生ですね――!!」

 黒髪の少女は同じ学校の制服を着ている少女が自分の元へ追いつくのを待つ。まるでそれが幼少の頃からの決まりであるかのように。

「はるか……声、出し過ぎよ」

 親友の天城(あまぎ)を諌めながら――悪原(あくはら)リリスは耳を塞いだ。

 

           *

 

『私立シュヴァルツ学園』

 

 東京二十三区にある町・黒薔薇町管内にある私立中学校。

 元は聖書やキリスト教神学を教えるミッションスクールとして設立されたが、やがて入学者の減少に伴い存続の危機に陥った。苦慮の末、学校側は東京都が提示した合併方針を受諾。いくつかの学校との統合によってそれまでのミッションスクールから一転、男女共学の進学校として生まれ変わったのは今からちょうど十年ほど前の話である。

 ミッションスクールだった事から、造りは修道院に多く見られるロマネスク様式。日本に居ながら気軽に外国にいる気分が味わえるという事から、生徒だけなく教師陣からも高い評価を得ている。近年では小さな観光地としてSNSなどを介して広く知られるようにもなってきた。

 

           ≡

 

私立シュヴァルツ学園 二年C組

 

 今日は始業式だ。教室ではクラス替えの結果に安堵の顔を浮かべる者や、仲良しグループから一人だけ外れて別クラスになってしまい落ち込む者など様々な生徒であふれている。

 そんな中、また一年、共に学生生活を同じクラスで送ることができる喜びを、はるかは曇りのない笑みでリリスに伝えた。

「よかったですねー、また一緒のクラスになれましたよ!!」

「ええ、そうね」

 と、リリスは実に淡泊な返事を一言返すだけ。彼女のそっけない反応にはるかは思わず頬を膨らませる。

「ぶぅ~~~、もうちょっと喜んでくれてもいいじゃないですかリリスちゃん! どうしてあなたって人はこうも無愛想なんですか?」

 口を尖らせて、はるかはリリスに訴える。

「私から言わせれば、はるかみたいに他愛ないことで一喜一憂することのほうがよくわからないわ」

 同じクラスになった喜びを親友と共に分かち合いたいと思うはるかとは裏腹に、リリスの態度は冷ややかだ。はるかは出会った頃から何一つ変わらない親友のこうした冷淡な性格にずっと不満を抱いている。

「リリスちゃん! そんな風にひねくれていたら誰からも好かれませんよ!!」

「お生憎。私、誰彼かまわず好かれるのは嫌いなの」

 強がりなどではなく、これはリリスの本心であった。ふと教室を見渡せば、既に周りに愛嬌を振りまいている女子が数人いた。ああいう非合理な行いは心底自分を疲れさせる。まったく以って理解の外の行為だと思いながら、リリスははるかに向き直った。

「ですが、リリスちゃんも女の子なんですから笑顔のひとつでも見せてくれてはどうですか?」

「あら、私だって笑うときは笑うわよ。例えばそうね……新しいクラスの担任が初日から黒板消しのイタズラにあったときとかは……」

 

 ガラガラ、ボフッ――

 

 例え話を口にした途端、それは現実のものとなった。

 勢いよくドアが開かれると同時に、チョークがたっぷり塗られた黒板消しが、ドアを開けた張本人へと襲いかかった。

 二年C組の担任となった新人男性教師、三枝喜一郎(さえぐさきいちろう)は緊張のあまり、男子生徒が仕掛けた陳腐なイタズラにまんまとひっかかった。

「あ……」

 リリスとはるかが、呆然と立ち尽くす教師に目をやると同時に、教室中からドッと歓声が湧き上がった。

「ぶはははは!! やったやった、ひっかかったぞー!」

「今どきこんなイタズラにやられる先生初めて見たぜ!!」

「ちょ、ちょっと男子やめなさいよ……だけど、おもしろい!」

 あまり教師を笑うことはしたくなかった行儀の良い女子ですらも、堪えきれずに失笑するありさまだった。三枝は幸先の悪い門出に途方もない不安を抱きつつ、溜息を吐いた。

 自身に直撃してなお、大量のチョークにまみれた黒板消しを拾い上げ、真っ白になった頭を払いながら教壇に向き合う。まだ笑いの収まらない教室を見渡し、少しバツが悪そうな顔をしながら自己紹介をする。

「えー……今日からこのクラスの担任になりました三枝です……初日から手厚い歓迎をどうも。できればその……そんなに笑わないでくれると嬉しいな」

 照れ隠しに頭を掻くと、チョークの粉が舞い上がり、さらに教室中の笑いを誘う。

 その光景を目にしたリリスは、これから自分たちの担任となる教師に向かい、すかさず言葉を投げかけた。

「先生、無理です。この状況で笑うなと要求することこそが滑稽だと思っていただけると幸いです」

「リ、リリスちゃん!? そんな真顔で何を……!」

 真顔のリリスから飛び出す容赦ない毒舌が周囲をさらに笑いの渦に包み込む。

 三枝は鋭い棘のような言葉を受けてあんぐりと口を開けたまま硬直した。ただひとり、彼を笑わないでいたはるかは、何とかこのクラスの場を収めようと奮闘したのだった。

 

           *

 

 世界の片隅。どこかわからない場所に発生した無数の水晶。その水晶の中に交じってゴシック建築の様式で建てられた教会が存在した。

 教会の中に存在する大聖堂には大勢の信徒が祈りを捧げており、中央のステンドグラスに描かれた十字架には、弊衣破帽に身を包んだ人間が(はりつけ)となっている様子が見てとれた。

「我らが主よ……この世には未だ邪悪がはびこっております。この世からすべての邪悪を排除しない限り、主が望んだアルカディアの創世は叶いません。故に、あとのことは我々にお任せください。必ずや世界のすべての邪悪を葬り去ってご覧に入れます……」

 

 ガラーン……ガラーン……

 

 大司祭ホセアは胸元で十字を描き、崇める主へと祈りをささげた。同時に教会の鐘の音が鳴り、教会に集まった全ての信徒が恒久の平和を願った。

 

           *

 

私立シュヴァルツ学園 二年C組

 

 始業式が終わり、クラス替え後ということで行われた各自の自己紹介も終わって、今は休憩時間を迎えていた。

 自己紹介では、皆が好きなことや趣味の話、今年の意気込みなどを展開する中で、

「悪原リリスです。よろしくお願いします」

 とたった二言で終わらせたリリスの自己紹介では三枝が何か言いたげにしていたが、先の毒舌を食らっていたせいか、小さく「じゃあ、次……」と言ってうなだれていた姿が、C組の生徒全員の思い出の一ページとして心に深く残った。

 リリスは休憩時間を自席で座って過ごすことが多かった。わざわざクラスメイトと親睦を深める必要性を感じていなかったからだ。昨日のドラマの俳優がかっこよかったとか、新しく出た漫画がどうだとか、どこそこのスイーツ店に行列ができているなど、そんな世俗の話で貴重な休みを費やすのが心底バカらしいと考えているというのも理由の一つである。

 しかし、そんな冷淡な彼女であるが、入学当初より生徒はおろか教師からも一目置かれる存在であった。

 まず、リリスは何事においても手は抜かない。学校における国語や数学といった座学はもちろんのこと、家庭科や体育といった実技を伴った授業もそつなくこなしてみせる。

 国語で音読を当てられれば、誰もが聞き惚れるような透き通った声で物語を奏でるし、数学ではまるで模範解答のようにきれいに答えを導き出す。

 体育で走れば韋駄天のように地面を駆け抜ける。その姿には男女関係なく見入ってしまい、一瞬遅れて歓声が沸き上がる。タイムも女子中学生の中ではトップ層に入れるだろう早さをたたき出し、唖然とした記録係がストップウォッチを止めるのを忘れてしまうほどだった。

 家庭科では裁縫から調理実習まで先生の指導を受けるまでもなくこなしてしまう。時には先生からお手本としてリリスの制作物が展示されることもあった。

 調理実習のときは、リリスがいることに甘えた男子がリリスに自分の担当分を任せようとして、

『なぜ学校で調理実習をやるのかわからないの? そんなこともわからないくらい愚かなの? こういうものは自分でやって初めて糧になるものよ。それがわからないのならあなたに食べさせる料理などないわ』

 とこっぴどく怒られたものだが、その言葉に感銘を抱いた他の生徒はもちろん、言われた当人も「すみませんでした! 俺が甘えていました!!」と心を入れ替えて実習に励んだものだ。

 こういった歯に衣着せない物言いは、老若男女関係なく、彼女の人気を高める一因となっている。この年頃の子どもは、反抗されると対抗してしまいたくなるものだが、殊にリリスに対しては、彼女が吐く言葉が正論であることに加え、容姿端麗な美少女であるが故に皆納得してしまうのであった。

 だが同時に、それは彼女にどこか近寄りがたい雰囲気を出させてしまっているのも確かであった。

 今も席に座り読書に耽るリリスに羨望や憧れの眼差しを投げかけはするものの、近づこうとする者はいなかった。

 かつては一種の度胸試しのようにリリスに声をかけてくる者がいたが、皆あえなく撃沈した。やがて繰り返すうちに今のように、ただ皆が憧れる麗しき孤高のお嬢様、といった立ち位置を獲得したのだった。

 リリス自身も視線は感じていたが、それを気にすることはなく、かえって誰も近づいてこなくなったことで気が楽になった。

 ――ただし、そんな近寄りがたきお嬢様に物怖じしない例外がただ一人存在した。

「リリスちゃん! 聞いて下さい!!」

 勢いよく教室のドアが開かれると同時に幼馴染みの少女・天城はるかが駆け寄ってくる。

「何よ、騒々しい。まずは深呼吸をしなさい」

 リリスは読んでいた本を閉じ、はるかに向き直って静かに言葉をこぼした。

 リリスに言われてその場で大きく深呼吸をしたはるかは、乱れていた呼吸が落ち着いてきたところで話を続ける。

「それがですね、次の時間は学級委員を決めるらしいんですよ! リリスちゃんは何か委員やらないんですか?」

「今まで私が委員会なんてやった試しがある?」

 冷たく言い放つとはるかは、ですよねー、という顔をして、

「リリスちゃんはもう少し学生生活を充実させた方がよいのではないですか?」

「いつも言っているでしょ。無駄なことはしたくないの」

「委員会活動は無駄にはならないと思うんですけどねー……」

 これ以上の問答はリリスの機嫌を損ねるかと思った直後、ふとリリスの手元に目がいった。

「ところで、リリスちゃんはさっきから何を読んでいるんですか?」 

「何だと思う?」

 リリスが問うと、はるかは頭をかしげて考える。

「ん~っと……あ! わかりました、シェイクスピアさんもしくは夏目漱石さんですね!」

 はるかが目を輝かせていうと、リリスは小さく首を振って正解を答える。

「ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』」

「ハヒ! なんだかまた難しいそうなものを読んでいらっしゃるんですね……」

「カール・マルクスの『資本論』も読み応えがあっていいわよ。これを読んだ後に『21世紀の資本論』を読むと両者の相対関係がはっきり比較できるわね」

 リリスは淡々と意見を述べるが、はるかの頭にはちんぷんかんぷんだった。

「ですからリリスちゃん……どれもこれも十四歳の中学生の読みものじゃないと思います!」

 

 

           *

 

 日課である礼拝の義を終え、ホセアは信徒たちに背中を向けたまま声を発した。

「エレミア。モーセ。サムエル」

 すると、集まった信徒たちの中から、それぞれ赤、青、緑のラインが入ったローブを身に纏った三人の男が前に出る。振り返ったホセアは一番右側に立つ赤のローブを纏ったエレミアから順に、青を纏ったモーセ、緑を纏ったサムエルを見つめる。

「我々の悲願はただ一つ、主の願いを叶えること。すなわち、この世からすべての邪悪を根絶し、平和の平和による平和のための世界を築き上げること。そのためには主が自らを(かたど)りお創りになられた人間、その心を堕落へと導く悪の権化を駆逐せねばならぬ」

「御意。ホセア様、首尾は万端整っております」

「すべて我らにお任せください」

「この世の邪悪……その最たる悪魔を一匹残らず討伐し、世界に恒久の平和をもたらしましょうぞ」

 エレミア、モーセ、サムエルは順に答えると一瞬にしてその姿を消した。

 彼ら――【洗礼教会】が掲げることは、純粋にして一つ。すべての邪悪を滅ぼし、誰もが平和に暮らせる世を作ること。そのための障害となるべき存在には毅然とした態度で立ち向かう。

 洗礼教会が掲げる敵――それは、悪魔。

 

           *

 

黒薔薇町 悪原家

 

「リリスちゃん! 駅前のケーキ屋さんでおいしいケーキ買ってきました! 一緒に食べましょう」

「ありがとう、はるか。遠慮なくいただくわ」

 学校を終え、はるかはリリスの自宅で午後のひと時をくつろいでいた。リリスは幼い頃に両親と死別している。親戚は居るらしいが長いこと行方がわかっていない。そのため、彼女は幼少の頃からほとんど一人暮らしに近い生活をしていた。はるかは天涯孤独で一人ぼっちだった彼女が初めて心を許した女子だった。

 紅茶を飲んで他愛ないことを話しながら、リリスはコースターにカップを置き、おもむろに口を開く。

「それにしても、はるかも物好きよね……風紀委員なんかに立候補するなんて」

「ですがカッコよくありませんか! 校内で起こっているトラブルを解決する正義のヒーローみたいですし……私、将来は警察官になろうと思っているんです!!」

 今日のホームルームのことだった。クラスの中から風紀委員を決める話が持ち上がった際、はるかは真っ先に手を上げ、自ら風紀委員に立候補した。リリスは幼少期から変わらない彼女の正義感の強いところに驚きと呆れを抱くも、いかにも彼女らしいと内心思った。

「そう。ならがんばりなさい」

「はい、がんばりますよ!! リリスちゃんが応援してくれれば百人力ですね!!」

「応援? あら、私は何もしないからね、言っとくけど」

 聞いた瞬間、はるかは口に含んだばかりの紅茶を盛大に噴き出し驚愕する。

「えええぇぇ――!? リリスちゃん、応援してくれないんですか!?」

「甘いこと言わないでちょうだい。自分の道は自分で切り開くものよ。他人の力をアテにするものじゃないわ」

「あ、アテになんてしているつもりなんてありません! 私はただ一人の親友としてリリスちゃんに背中を押してもらえたことが嬉しかったんですよ……なのにそんな冷たい態度を取るなんて、本当にリリスちゃんはひどいです。悪魔ですよ!」

 それを聞いた瞬間、リリスはおもむろに立ち上がり、そして――

 バサッ……と、背中からコウモリに似た黒い翼を生やした。

 はるかがあちゃー、口が滑ったと苦い顔を浮かべる中、薄ら笑みを浮かべながらリリスは言う。

「私、悪魔ですけど……それがどうかしたの?」

 

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 誇らしげに口にするリリス。コースターに空っぽになったカップを置くと、はるかは深く溜息を吐いた。

「……そうでしたね。リリスちゃんはまごうことなき悪魔でしたね……うっかり忘れていたはるかがバカでした」

「わかればよろしい」

 背中に生やしていた悪魔の翼を体内へと戻し、リリスは着席する。

 何を隠そう、リリスは人間の姿をした悪魔である。彼女の本名は【ディアブロス・ブラッドリリス・オブ・ザ・ベリアル(Diablos Blood Lilith of the Belial)】。悪魔界では五指を連ねる名門「ベリアル家」の御令嬢だ。

 しかし十年前のある出来事をきっかけに、彼女は住み慣れた悪魔界を逃れ、ここ人間界へと移住したのだった。

 

 ――バタンッ!!

 

「ただいま戻りましたぁ――!!」

 次の瞬間、勢いよく玄関の扉が開かれたと思えば、黒いスーツ姿の男が家の中へと入ろうとした。が、次の瞬間、

 ゴギッ……

「ああああぁぁ!!」

 運悪く蹴躓いてしまった。前のめりに体勢を崩した男は持っていた書類の束を床にまき散らして、顔面から派手に転倒した。

「は、はひ!? 今の声は……!」

「あのバカ。何やってるのよ」

 玄関から聞こえてきた声に反応し、はるかが目を見開く中、リリスは呆れた様子で言葉を発してから、腰を上げ玄関へと向かう。

 二人が玄関へたどり着くと、男は未だ腰が上がらないのか、床の上で這いつくばったままだった。

「お帰りなさい、レイ」

「お邪魔してま――す、じゃなくて!! だ、大丈夫ですかレイさん!?」

「いててて……リリス様……どうにか新規の契約を獲って参りました……」

 真っ赤に腫れ上がった顔をあげ、正面の主たるリリスを見ながら、レイと呼ばれる男は散らかした書類を拾い上げ、束を彼女へ手渡した。

「ご苦労様。じゃあこれ……はい、次の契約もお願いね」

 表情一つ変えずにそう言うと、リリスは段ボール箱の中から魔法陣が印刷されたチラシのような束を大量に持ってきて、レイの下へと置いた。この瞬間、レイは自らの目を疑い、思わず声をあげた。

「リ、リリス様……あなたは使い魔使いが荒すぎます!! わたくし、あなた様のために身を粉にして町中を走り回って来たのですぞ! そして、目標契約数一〇〇件のノルマを終え、はるばる帰還した次第……しかし!! 帰ってきて労いの言葉もほとんどなく何食わぬ顔で私の手の中にポンと。これはいくら何でも理不尽過ぎますぞ!!」

「あら、使い魔が主人の命令に刃向うって言うの? 嫌ならいいのよ、別に。代わりの使い魔なんかいくらでも作れるんだから。ここで消し炭にされたところであんたに文句は言えないのよ」

 レイは取り立てて邪悪なものをリリスの瞳から感じ取った。日頃から自分に厳しい主人に睨みを利かされ、途端に萎縮した。全身から冷や汗が流れ出る中、彼女に逆らったときにどのような恐ろしい結果を招くかを想像し身震いする。

「も、ももも、申し訳ございませんでした!! 分際を弁えぬ発言、どうかお許しください!!」

 そして、すぐに生意気な口を叩いたことを謝罪した。

「わかったならさっさと行きなさい。いいこと……もっともっと契約を獲ってもらわないと、困るのはあなただけじゃないの。他ならぬ、この私なんだからね」

「承知しております!! では、リリス様の為にこのレイ、命を懸けて行って参ります!!」

 レイは主人から渡された段ボール箱を手に取り、機敏な動きで玄関から再び外へと向かって走り出した。

 二人のやりとりを横で眺めていたはるかは、静けさを取り戻した玄関を後にして 部屋に戻ったのち、リリスに向き直ってつぶやいた。

「あのー、リリスちゃん。レイさんに少し厳しすぎませんか?」

「あれくらいでいいのよ。第一、群れから外れて瀕死寸前だったところを私に助けられた恩があいつにはあるのよ。もっと主のために献身的になってもらわないと」

 リリスは澄ました顔でカップを手に取り、優雅に紅茶を啜る。

「正しく悪魔ですねリリスちゃん……」

「だから悪魔だって言ってるじゃない」

 自らが悪魔である以上、リリスはそのことを誇りに思っていた。ふと壁に掛けられた時計を見れば、時刻は夕方の五時を過ぎていた。

「あら、もうこんな時間。お夕飯の買い物に行かなくちゃ」

「では、はるかはこれでお暇させていただきます」

 帰りの頃合いを見計らい、はるかはハンドバッグを手に取り立ち上がった。

「気をつけなさいよ。私みたいな悪魔が他にもいるかもしれないから」

「リリスちゃんみたいな悪魔はそうそういませんよ!」

 悪魔の友人が目の前にいるとはいえ、彼女と同様の存在が他にも自分たちの住む町にいると、あまり考えたくもないはるかだった。

 

           *

 

黒薔薇町 くろばら商店街

 

「ご協力お願いしますっ!! お願いしまーす!!」

 人が賑わう商店街で、レイはチラシ配りに一生懸命だった。

 悪魔は人間と契約して対価をもらうことで力を蓄える。レイが配っているのは悪魔を召喚するための魔法陣が描かれたチラシで、それを召喚してくれそうな人に配っているのだが……

「ママ、なにあれ?」

「シッ、関わっちゃいけません」

 そもそもまともな人間はそのようなインチキまがいな怪しいチラシなど受け取ろうとはしない。敬遠され、誰も近付こうとはしないのだ。

 ひどいときには町の子どもたちから水鉄砲で標的にされたり、犬にはおしっこをひっかけられたり、あげくの果てに客引きと勘違いされ警察に通報されて必死に逃げ出したこともある。

 あまり芳しくない状況。段ボール箱には思わず目を背けたくなるほど大量のチラシの山。レイは重い溜息を吐いた。

「はぁ……堅気の人間から契約をもらうことがどれだけ大変か、リリス様は知らないんだ……」

 ついネガティブなモードに堕ちそうになりつつも、お仕えする主のため、めげずにチラシ配り続けることにした。そんなとき――足音が近づき、レイの下へと歩み寄ってきた。

「お?」

 目の前に立つのは赤色のラインが入ったローブを着こなす壮年の男性だった。

「よ、よろしくお願いします!!」

「…………」

 レイは数少ない契約機会と思って彼にチラシを手渡した。男はチラシを黙って受け取り、それをちらっと一瞥するとそのまま立ち去っていった。

 男が立ち去っていく様子を、レイは怪訝そうに見ながら、内心不安に思った。

「なんだ……あの男。ものすごく嫌な気配を感じた」

 悪寒が走るレイに背を向け歩いていた男は、チラシを見ながらスマートフォンのようなアイテムを耳に当て、仲間内に連絡する。

「……こちらエレミア。やはりターゲットはこの近くに潜んでいる模様。大丈夫、ここは私が仕留めるよ」

 言った瞬間、魔法陣が印刷されたチラシを思い切り強く握りつぶした。

 

           *

 

同時刻―――

黒薔薇町 スーパーくろばら

 

 夕暮れ時のスーパーは、子どもを連れた母親、仕事終わりのサラリーマン――様々な買い物客であふれていた。買い物かごを腕に下げ、品物を手に取るリリスもまたその一人だ。

「さてと……今日の献立どうしようかしら?」

「あらリリスちゃん」

 数ある品物の中から今日の献立を頭の中で考えていた折、後ろから声をかけられた。

 振り返ると、温和な雰囲気を醸し出す中年女性が自分と同じく買い物かごを引っ提げていた。リリスの名を知る女性は隣近所に住む佐藤婦人だった。

「佐藤さん。こんにちは」

 顔見知りで普段から何かと世話を焼いてくれる彼女はリリスにとって人間界で数少ない信頼できる人間だ。ペコリと律儀にお辞儀をするリリスを見て、佐藤は破顔一笑し「こんにちは」と返事をする。

「リリスちゃんもお夕飯の買い出しかい?」

「佐藤さんもこれからなんですか?」

「ちょうどパート帰りなものでね。食べ盛りな子どもと亭主のためにもなんだかんだあたしが作ってやらないとならないから」

 リリスは頭の中で子どもと旦那さんの顔はどんなものだったかと思い出しながら、「大変ですね」と相づちを打つ。

「あたしなんか大したことないさ。むしろ、リリスちゃんの方が大変よ。ほら……いつもいる男の人……レイさん? こういっちゃなんだけど、あの人……ちょーっとイッちゃってるわよね?」

 バツの悪そうにリリスの耳元でレイについて率直な心象を口にする佐藤。これにはリリスも苦笑いを浮かべる。

「ねぇリリスちゃん、あたしは今でも不思議なんだけどさ。どうしてあんな人と一緒に住んでるの? あんたがこの黒薔薇町へ越してきたときからずっと気になってたんだよ」

「えーっと……話をすればいろいろ長くなるんですけど、家の事情でレイとはずっと一緒なんです。佐藤さんの仰ってるようにちょっとボケてますけど、根は悪い人じゃないんです」

「そう? まぁリリスちゃんが言うんだったら心配いらないと思うけどさ。なにかあった時はいつでもあたしに相談しなさいよ。年頃の娘と男の二人暮らしだ。もしもの時はあたしがきっちり成敗してあげるよ!」

「大丈夫ですよ佐藤さん。そんなことは天地が裂けてもありませんから」

 フランクに話をしている割にはずいぶんと生々しい会話だと当人同士はあまり気づいていない。故に周りから向けられる変な視線にも一切動じていなかった。

 佐藤との立ち話もそこそこに買い物を続けるリリス。陳列棚を見ながら商品を吟味しつつ、使い魔レイの事を考える。

「……ああは言ったけれど、レイが私のためにがんばってくれているのは事実だからね。一仕事終えたご褒美くらいは用意してあげようかしら」

 レイの好きな食べ物は何だったかしら、と頭に浮かべながら食品売り場を回る。

 レシピと冷蔵庫の残り物を思い出しながら、あれこれと買い物かごに放り込む最中、リリスの目に一組の母子が留まった。

「ねえ、ママ、きょうはわたしもおりょうり、てつだうね!」

「あらあら、お利口さんね。それじゃあいろいろ頼んじゃおうかしら」

 買い物かごを乗せた台車を押す母親と、その横で楽しそうに会話を重ねる小さな女の子――年の頃は四、五歳くらいだろうか――を見て、かつての思い出がリリスの胸をよぎった。

 

 

『お母さま、お父さまのお誕生日用のケーキ、フルーツの盛り付けはわたしがやります!』

『ありがとうリリス。じゃあ、ここに切り分けてあるフルーツをキレイに盛り付けてくれるかしら?』

『もちろんです! 大船に乗ったつもりでリリスにお任せください!』

『うふふふ、頼もしいわね』

 

 

(――私もよくお母様のお手伝いをしてたわね)

 いつも優しかった母のことは今でも鮮明に覚えている。うっかり皿を落として割ってしまったときだって、母は怒らずにケガがないかを心配してくれた。

 キッチンにいけば料理の仕方を教えてくれたし、部屋をきれいに掃除したら優しく頭をなでて褒めてくれたのだ。

「――セール開催中! タイムセール開催中です! 早い者勝ちですよ!」

 リリスがかつての記憶に思いを巡らせていると、スーパー中にタイムセールのアナウンスが鳴り響いた。

「……と、いけないいけない」

 リリスは目の奥に少し熱いものを感じたが、上を向いてごまかした。

 どれくらい立ち止まっていたのだろうか。母子の姿はすでに遠くなっていた。

 リリスは遠くからでもわかるくらい仲睦まじい彼女たちをうらやましそうに見つめていたが、やがてそっと視線を外した。

 

 それから買い物の続きを終えたリリスはレジでの精算を終えて、買い物袋をぶら下げてスーパーをあとにした。

 帰り道はいつも人気の少ない道を選ぶ。単純に、人通りの多い表道を人と肩がぶつかりそうになりながら歩きたくないという思いもあるが、今日の理由はそれだけではなかった。

「……どうしてなのよ」

 一人つぶやいたリリスの頭には、さっきスーパーで見かけた仲の良い母子の姿が思い起こされていた。

「……どうして私からお父様も、お母様も奪っていってしまったの……私の大切な、大切な家族を。ねえ、どうしてよ!?」

 言葉が、想いが口の端からこぼれ出す。まわりに人はいなかった。別に誰かに聞いてもらい、同情してほしかったわけではない。それでも悔しさがあふれ出た。

 普段は毅然とした振る舞いをしているが、リリスは幼いときに家族を亡くしている。ましてや、まだ中学二年生だ。どれだけ大人びた性格でも社会から見れば子どもとして扱われる年齢だ。

 世間では様々な家族の形態があるが、家族を亡くした子どもはどれだけいようか。

 リリスはまごうことなく悪魔だ。だが、同時に一人の少女でもあった。家族と当たり前のように生活をしたかったし、成長していく自分自身の姿を見せたかった。

 こういう孤独感に苛まれることは、リリスにとって初めてではなかった。それでも徐々に機会は減っていった。孤独で胸がいっぱいになるとき、ふと思い出す笑顔があったのだ。

 ――はるかだ。

 リリスは思い浮かべていた。家族がいないが、今はかけがえのない親友がいる。そして、少しドジでおっちょこちょいな使い魔も。

「……うん。帰ってご飯、作らないと。レイの奴、はりきって出て行ったから、お腹を空かせてすぐに帰ってくるかもしれないわ」

 はりきって出て行かざるを得なかったのは他ならぬリリスのせいだとも思われるが、はるかとレイのことを考えながら、再び足を動かし始めた、そのとき――

 

「見つけたぞ。魔王の忘れ形見……」

 

 唐突に正面から声をかけられた。

 人気のない道でうら若き女子中学生が男に声をかけられたとあれば、通常であれば事案ともいうべき状況であり、普通の少女であれば急いでその場から離れたであろう。

 しかし、普通の人間たちが知らないはずの自分の素性を知っていることに、一つの確信を抱きながらリリスがゆっくりと前を見ると、洗礼教会の司祭であるエレミアが不敵な笑みを浮かべ立ち塞がっていた。

「私の正体を知ってるってことは、あんた洗礼教会の手先ね……」

「フフフフフフ。お初にお目にかかる、魔王ヴァンデイン・ベリアルの御令嬢。わが名はエレミア。貴様に個人的な恨みはない。が、この世界の平和のために悪魔はこの場で消えてもらう」

 そう言うと、エレミアは首にぶら下げていた十字架を手に取った。そして近くに駐車してあった放置車両に目をつけ、十字架に力を込める。

 

「平和の騎士よ、生まれよ!! ピースフル!!」

 

 十字架から放たれた神々しい光が放置車両に向けられる。十字架の光を帯びた瞬間、車は著しく形を変え、騎士を思わせる姿へと変貌して、まるで産声とも呼べる雄叫びをあげた。

『ピースフル!!』

 洗礼教会に仕える幹部は、十字架の光を周囲の無機物に放射させることで、物質を洗礼教会に尽くす平和の騎士【ピースフル】へと変える。エレミアも例外ではなく、その力を行使した。今回彼が生み出したのは、車の姿を模った騎士《くるまピースフル》だ。

「フフフフ。さぁ、大人しく降伏しろ。悪魔など所詮人間を堕落させる害悪でしかない。貴様らが存在し得る限り、この世界に真の平和は訪れぬ。この世界から災いが無くならない元凶は、その影で人間を食い物にしようとする悪魔がいるため。ならば、主に代わり私が正義の鉄槌を下し悪魔を排除するまで!!」

 エレミアにとって悪魔を駆逐する正当な理由は、悪魔こそが人間を堕落させる根源であり、それによって災いが起こるからだ。したがって、彼はここでリリスを倒すことに何の躊躇も抱いていない。

 そんな彼の話を聞いたリリスはと言うと……

「ずいぶんな物言いをつけられたものだわ。何をもって自分たちが正しく、優れているとでも思っているのかしらね」

「なんだと?」

 エレミアは思わず聞き返した。リリスはこの状況に臆するどころか、口角を上げて笑っている。それも勝てる見込みがあるような不敵な笑みを抱いて。

「待っていたのよ。この十年間……ずっとずっとこの機会を待っていたわ。私から大事なものを根こそぎ奪っていったあんたたちを八つ裂きにするこのときを」

「リリス様ぁ!!」

 そこへ、チラシ配りをしていたレイが駆けつけてきた。レイは人間の姿から一変、本来の使い魔としての姿――リリスの肩に乗るくらいの小竜へと変身した。

「遅いわよ、レイ」

「申し訳ありません。……むむっ、こやつは先ほどの。やはり洗礼教会の手の者だったのか!!」

「千載一遇のときよ。レイ、今こそ十年分のわだかまりを晴らしてやりましょう」

 そう言った直後、リリスは悪魔の翼を模した手のひらサイズの指輪を右手中指へと装着した。

 これを合図にレイが高らかに声をあげる。

「刮目せよ!! この歴史的瞬間を!!」

「な……なにをするつもりなのだ!?」

 エレミアとピースフルが目を見張る中、リリスは全身の魔力を指輪に注ぎ込み、力を発動させる。

 

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

 

 刹那、指輪に紅色の光が灯った。そして彼女の全身を同じ色のオーラが包み込む。

「こ、これは……!?」

 エレミアがその光景に目を疑う中、光の中ではリリスに著しい変化が起こり始めていた。

 黒かったミディアムヘアはするすると輝かしい紅色の長髪へと伸び、根元で一つ縛りにしたポニーテールへと様変わる。加えて、左側には悪魔の翼を模した髪飾りをつけて、黒とマゼンタを基調としたバトルコスチュームを身に纏う。そして、すらりと伸びた足には深い黒色をした長いソックスとショートブーツを履き、胸に黒のコウモリリボンを添えて、肩を覆うほどのマントを掛けていた。

 仕上げに、薄い紅色をしたコウモリ形のイヤリングを身につけると――背中から自らの誇りとその象徴でもある悪魔の翼を生やし、空中で一回転を決めてから、翼で柔らかに体を包み込む。

 

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

 

 変身後の決め台詞もばっちり決まった。

 そんな麗しい少女の変身を目の当たりにしたエレミアは、変身したリリスの姿に心底目を疑った。

「貴様……その姿は!?」

「あら? 何か変かしら?」

 変身から口上までばっちり決めたキュアベリアルは、どこかに不備があったのかと、腕を組み、頬に指を当てて考える振りをする。

 だが、エレミアはありえないものを目にした事実を受け入れられないように叫んだ。

「伝説の戦士……プリキュア!! その力をなぜ貴様如き悪魔が使えるのだ!? 悪魔風情がどうして!!」

「御託はいいわ。さっさと始めましょう……今宵の祝賀祭(サトゥルナリア)を」

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 




次回予告

リ「私は悪原リリス、悪魔よ。悪魔の私がどうしてプリキュアになれたかって? ……さて、どうしてかしらね? それはのちのちわかって来ると思うから心配しないでちょうだい」
「ディアブロスプリキュア! 『悪魔は許さない!!粛清の洗礼教会!』」
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