ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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従来のプリキュアシリーズには見られなかった謎の追加キャラ登場です!


第10話:謎の戦士登場!?暗黒騎士バスターナイト!

黒薔薇町 住宅街上空

 

 夜のしじまに響き渡るバイオリンの音色。

 月光を背にしてストラディバリウスを操る奏者は、闇夜に顔を隠している。

 だが顔は見えなくても、バイオリンの音を頼りに彼の感情が不思議と心に伝わってくる。

 聞くもの全ての心を捕らえる彼の音色は、例えるなら、バイオリンそのものに命を持っているかのようだ。

 だがどうして、こんな真夜中――多くの者が寝静まっている時間に演奏をしているのだろう。これではせっかくのソロコンサートも台無しだ。

 しかし、彼にとってはむしろ好都合だった。この曲は他の誰にも聞かせるつもりなど無い、彼のためだけの【レクイエム】だから。

 演奏の最後に、弦を軽く靡く。音が鳴りやむとバイオリンを肩から下ろして彼は、この町の様子を見下ろした。

「……この町で君は何年、ずっとひとりで過ごしていたのかな」

 静かに呟くと、懐に手を入れ何かを取り出した。

 その手に握られたのはコウモリ型のロケットで、開くと黒髪の快活な少女が写っており――少女のことを考えた瞬間、奏者は拳を強く握りしめる。

 

「……リリス」

 

           ◇

 

私立シュヴァルツ学園 二年C組

 

「ハヒ? 早朝特訓……ですか?」

 平和な学生ライフを送っていた天城はるかは、リリスからの突然の提案に険しい顔をする。

「前回の洗礼教会との戦いを見て思ったの。はるか、あなたはプリキュアとしてもっと基礎体力を向上させる必要があるわ」

「基礎体力……なんか嫌なニュアンスしか伝わりませんね。はるかは運動音痴だってこと知っていて言ってるんですか?」

 はるかは露骨に顔を歪めた。

 リリスと違って、彼女は運動能力が高くない――というか、苦手の部類であった。小学生の頃から運動会だけは唯一参加したくない行事だったし、クラス対抗のリレー勝負では自分の脚の遅さを周りに見られまいと仮病をしてまで辞退しようとしたほどだった。

「明日の朝五時前に迎えに行くから」

「五時前……!? その時間、はるかはクラレンスさんと一緒にベッドですやすやスリーピングしてますが!!」

 リリスの提案にはるかは遠回しに拒絶の意思を示す。

「あら? 私の誘いを断ろうっていうの?」

「そ、そんなつもりは……」

 リリスの誘いを断りたくはない。だが、同じくらい運動もしたくない。はるかの心の天秤は大きく揺さぶられていた。

「だったら、異論はないわね」

「え! いやでも……」

「ビシバシ鍛えてあげるから楽しみにしてるのよ」

 言うと、リリスは席を立って教室から出て行ってしまった。

「リリスちゃん! ちょっとー!!」

 リリスからの誘いを無下に断れないあまり、はるかは結局朝練を承諾してしまった。

「ま……またしても、リリスちゃんの悪魔口調にまんまと乗せられてしまいました!!」

 こういう時に限って自分の人の良さを本気で呪いたくなった。

 明日の朝、リリスにどんな過酷な目に遭わされるのか……想像を膨らませるほどはるかは背筋を凍りつかせた。

 

           ◇

 

黒薔薇町 天城家

 

 ピピピピ……ピピピピ……

「はるかさん、起きてください。はるかさん」

「うう……」

 朝を告げる煩わしい目覚まし音に加え、使い魔として同棲しているカーバンクル姿のクラレンスが呼びかける。

 はるかは逃げるようにベッドの中へ潜り込み、腕だけ出して自分でセットした耳障りな目覚ましを止めた。

「クラレンスさん……まだ朝の四時半じゃないですか……もうちょっと寝させてくださいよ……」

「眠ってはいけませんよ。リリスさんと早朝トレーニングの約束があるんですから」

「ハヒ!! そ、そうでした!! 遅刻したらリリスちゃんのことですから、えげつないペナルティを課すに違いありません!!」

 慌てて身支度を始めたはるかはとにかく焦っていた。

 リリスを待たせるわけにはいかない。一分一秒でも遅刻すれば自分にどんな報復が向けられるのかわからない。

 女の子としての身だしなみなど気にしている余裕はない。とにかく、着替えが済むと一目散に部屋から出ようとする。

「クラレンスさん、行ってきます!!」

「あ、待ってください、はるかさん!! 上下が整っていませんよ!!」

「ハヒ?」

 クラレンスから指摘を受け、ふと自分の格好を確認した。

 上はジャージを着ているのに、下は学校の制服――ちぐはぐとしたコーディネートであった。

「ああああああああああああああ!!」

 

           *

 

黒薔薇町 くろばら公園

 

 午前五時過ぎ。はるかはリリスの指導のもと、基礎体力向上のための早朝訓練を開始した。

「は、は、は、は、は、は」

「ほら。ダラしなく走らないの」

「そんなこと言われましても、はるか……元々運動はそんなに得意じゃないんです」

 息も途切れ途切れになりながらランニングをするはるかを、リリスは自転車に乗って追いかけ、後ろから檄を飛ばしてくる。

(プリキュアってはるかが思う以上に体力を消費するみたいですけど……リリスちゃんはズルいですよ! 一人だけ自転車に乗ってるんですから!)

 はるかが心の中で考えると、すかさずリリスがツッコミを入れる。

「ちょっと、今心の中で私が自転車で追い回してることをボヤいたでしょう?」

「ハヒ!! どうしてそれを……!?」

 リリスの的確な指摘を受けて、はるかは冷や汗をかく。

「はるかの考えてることくらい読めないと思ってるの? 私とプリキュアチームを組む以上、洗礼教会や堕天使よりも弱いなんて許さないんだから。ほら、さっさと走らないともう五周分増やすわよ」

「は、はい!! ううう……リリスちゃんはやっぱりサディストです!!」

「そこはせめて〝スパルタ〟と言いなさい、スパルタと!!」

 サディストか、スパルタか――はるかは両親よりも手厳しい親友にその後一時間以上も追い回され続けたのだった。

 

「ううう……」

 ランニングが終わると、今度は柔軟体操が始まった。

 リリスの補助を受けるはるかは、日頃あまり使わない筋肉を強制的に伸縮させられて苦い顔を浮かべる。

「いいこと? プリキュアだろうが何だろうが、戦いの世界はシビアなの。生き延びるためには格好なんて気にしてる場合じゃない。なりふり構わず死に物狂いで戦いなさい。そうやって死に物狂いになってこそ、理屈を超越した得体の知れぬ力を生み出すのよ!」

「どこのスポ根ドラマですかそれ!? リリスちゃんははるかに何を期待しているんですか!?」

 はるかに問われ、リリスはやれやれとジェスチャーして言葉の真意を伝える。

「期待なんかしてないわよ。ただね、戦うってことの心構えをわかってもらわないと困るって言ってるのよ」

「はるかだってバカじゃありませんよ。戦うことの意味なんて堕天使との件で嫌というほど理解しました。はるかが非力だったせいで、クラレンスさんがひどい目に遭ったことは事実ですから……」

 誰でもヒーローになれることは励ましではなく警告――リリスの言葉がようやくはるかの中で理解できるようになった。

 ヒーローになること、すなわちプリキュアになることは単なる憧れが昇華した結果ではない。ヒーローは自らを犠牲にして迫りくる脅威から戦わなければならず、その行動には大きな責任が伴ってくる。

 中学生であるはるかが自らの意思で戦いの渦中に飛び込むという決意は、並大抵のことではなかった。

「だったら二度と大切なものを失わないための力が必要ね。誰にも屈することのない強い力……それを手に入れるための努力は惜しまないわよね?」

 リリスの問いかけにはるかは力強くうなずいた。

「もちろんです!! はるかは今よりもっと強くなります!!」

「よく言ったわ。それでこそ私の親友でキュアウィッチよ」

「いや~、それほどでも~♪」

 はるかは頭をポリポリとかいて照れを隠す。その様子を見て満足げにうなずいたリリスは言葉を続ける。

「というわけで」

 言うと、リリスは腕立て伏せをするはるかの背中に腰を下ろし、わざと体重をかけた。

「ぐおおおおおおおお!!」

「もっと厳しくしちゃうわよー♪」

「何でこうなるんですか――!! ていうかリリスちゃん、何ひとりだけ楽しそうなんですか!?」

 明らかに自分を鍛えると言いつつ、先ほどから楽しんでいるようにしか思えないリリスの態度にはるかは疑念を抱いた。

「はるかの戦闘スキルは魔術能力に特化しているわ。その長所を伸ばすのも結構だけど、それ以前に全体的な戦闘スペックとしての基礎体力が無さすぎるから、まずはそこをしっかり固めましょう。土台がぐらついていると、本来持ってる力も十分に出しきれないわ」

 客観的な分析に基づき正論を口にしながら、リリスははるかの体に負荷をかけ続ける。

「ううう……これはまた、背中にききますね…!」

 腕立て伏せすらきちんとできた試しがないはるかには、厳しすぎる重荷だった。

 顔中から汗が吹き出し、表情筋を著しく伸縮させながらはるかは必至でリリスからの重圧を耐え忍ぶ。

「そろそろ来るはずなんだけど……何やってるのかしら?」

「は……ハヒ……!? 誰か、来るんですか……?」

 はるかがやっとのことで言葉を発すると、リリスの待ち人たちがやってきた。

「リリス様、すみません!! 遅れましたー!!」

「はるかさん、差し入れを持ってきましたよー!」

 公園の外から聞き慣れた声がする。

 人間態となったレイとクラレンスが、リリスとはるかに声をかけながら差し入れらしきバスケットを持って現れた。

「クラレンスさん……レイさんも……?」

 

「どうぞ」

「はい! いただきます!!」

 クラレンスから飲み物が入った魔法瓶を受け取るや、はるかは女子であることを忘れ、グイッと一気に飲み干した。

「ぷっはー! 喉が渇いていたので、ビビッと来ますね!! でも何だか不思議な味ですね……このエキセントリックな舌触りは何でしょう?」

 飲んだ後、奇妙な違和感を覚えた。困惑するはるかを見ながら、レイは不敵な笑みを浮かべ言う。

「実はそのドリンク……わたくし特製の滋養強壮剤です。青汁や納豆、そのほか体にいいものをふんだんに使いましたので、すぐに元気になりますよ!」

 事実を知った途端、魔法瓶を手元から滑らせ、はるかは真っ青な顔を浮かべた。

「お、女の子になんてものを飲ませるんですかあなたは!? これじゃバラエティーの罰ゲームと変わりませんって!!」

「文句言わないの。ほら感じない? 体中から湧き上がる力の波動を」

 憤るはるかにリリスが諭すように問いかける。

「あれ? そう言えば何となくですけど、体がぽかぽかしてきたような……」

 レイの特性滋養強壮剤を飲んでから、いつもよりも体温が高くなっていたことをリリスから指摘を受けることで気が付いた。

「このドリンクには滋養強壮を高めるだけでなく、プリキュアとしての潜在能力を高める薬も混ぜてあるの」

「そんな薬があるんですか?」

 リリスの言葉にはるかは首をかしげる。

「ええ。とあるマッドサイエンティスからの試供品よ」

「へぇ……ということは、これを飲んだらはるかはプリキュアとしてさらなるパワーアップができるということですね!!」

 はるかが喜びの声をあげたのも束の間、リリスが投げやりに言う。

「ま、飲んだ後どうなるかは私も知らないんだけど」

「え!? リリスちゃん、今聞いてはならないことを聞いてしまった気がしたんですが……リリスちゃんは飲んでいないんですかこれ?」

 焦って事実確認を行うと、リリスは何の変哲もないお茶を口にしながら悪意に満ちた笑みを浮かべた。

「だって、そんな確実な効果が期待できない胡散臭いもの、飲めるわけないでしょ」

「ひどい!! はるかを実験台にしたんですか――!! 鬼!! 悪魔!! 人でなし!!」

「何とでも言いなさい。私は悪魔……人じゃないもの!!」

 リリスとはるかが戯れる様子を見てクラレンスが、ふふ、と笑いをこぼした。

「改めて思いますが、はるかさんもリリスさんも、本当に仲がよろしいんですね」

「クラレンスさん誤解しないでください!! 私はこの悪魔に利用されているだけなんですよー!!」

 

           *

 

異世界 堕天使総本部

 

 悪魔、洗礼教会と並ぶ三大勢力のひとつ――堕天使。

 その堕天使の一体である女性・ラッセルは煮えくりかえるような怒りを抑えるため、酒を飲んで憂さ晴らしをしていた。

 だが、いくら飲んでも彼女の気は収まらない。それどころか、却って自分を虚仮にしたキュアベリアルへの怒りがふつふつと沸き上がってくる。

「くっ……ヴァンデイン・ベリアルの娘が! この私が味わった屈辱、晴らさでおくべきか」

 髪を掻き乱した彼女は、空になったワイングラスを放り投げた。

「お怒りのところ申し訳ありません」

 そのとき、洗礼教会から追放されはぐれエクソシストとなって堕天使側についた男・コヘレトが現れた。

「コヘレト……私はあんたの神経がわからないわ。こんなに私が怒りを抑えられないでいるのに、どうしてあんたはそんな風にふてぶてしく笑っていられるのかしら?」

 まるで怒り狂う自分を嘲笑するかの如く、コヘレトはふてぶてしいまでに笑っていた。

「これは大変失礼いたしました。ですがこの顔は生まれつきなものでして」

「ふん。私に会いに来たのはわざわざ捻りつぶされるため? それともいじめられたいの?」

 ラッセルは拳をあげてゴキリと鳴らした。

「どちらも望んでいません。ただ、あなたの怒りを鎮める手助けをすることはできます」

「どういうことかしら?」

 コヘレトの言葉に興味が湧いたラッセルは身を乗り出して続きを待つ。

「例の悪魔どもは、どうやらチームを組んだらしく、力を強固なものにしようとしています。そして今、我々の計画を瓦解させた張本人――キュアベリアルとキュアウィッチの二人を野放しにするのは極めて危険かと」

 コヘレトの遠回しな発言にラッセルは苛立ちを覚える。

「私にどうしろと言いたいの? というか、はぐれエクソシスト風情が随分と上から口調なのね……」

 刹那、ラッセルは紅色に光る槍を生み出しコヘレトの喉元へ突き立てた。

 光の槍を突き付けられていながらも、コヘレトは物怖じ一つしないばかりか、相変わらずふてぶてしい笑みを浮かべている。

「端的にいいなさい、コヘレト。私の気が変わらないうちにね……」

「では単刀直入に申しましょう。キュアベリアルの弱みさえ掴むことができれば、悪魔陣営を一気に叩き潰せます。そしてその弱みこそ、彼女の一番近くに居る存在……」

「キュアウィッチ……なるほど、面白そうじゃないの」

 口元をつり上げ、光の槍をコヘレトから放した。

 ラッセルは背中の黒い翼をうんと広げ、下界へ降りるための準備を急ぐ。

「ザッハ様はしばらく動くことはできない。ならば、このラッセルが憎きプリキュアに引導を渡してあげるわ!! おーほほほほほほほほ!!」

 

           *

 

黒薔薇町 悪原家

 

 早朝訓練が終わって、いつもの学校ライフが終わった放課後のこと。

「ハヒ? リリスちゃんのお手伝い……ですか?」

 はるかはリリスの自宅で、珍しくリリスからのお願いを聞いていた。

「今夜契約者からの要請が三件も重なっちゃって。片方はレイに任せればいいとして、もう片方はどうしても手が回らないのよ。だからはるかはそっちの方に回ってくれない?」

 リリスは悪魔の仕事をはるかに手伝って欲しいというお願いを赤裸々に伝えてきた。はるかにとって、リリスが悪魔の仕事に自分を関わらせるということは滅多にしない――というか初めてそのような要求をしてきたことに驚いた。

「リリスちゃんの頼みですから聞かなくもありませんけど……大丈夫なんですか?」

「何がよ?」

「だって、悪魔を召喚するような人なんですよ? なんて言うか……変な人だったら結構身構えるんですけど」

 はるかは頭の中で、悪魔を召喚しそうな人物を想像するが、少なくともどこかしら変な人物――たとえば典型的なヲタク系の人間を想像してみるといい――だという疑念が拭えない。

「大丈夫よ。私が見る限り普通の人ばかりよ」

「悪魔のリリスちゃんが見て普通の人が果たしてどれだけいたんでしょうね……」

 はるかは以前、リリスの仕事について行った際の依頼者を頭の中で思い描いて苦笑する。

「でもまぁせっかくはるかさんを頼ってくれているんですし、やりましょうよ。私も同伴しますから」

 クラレンスも一緒に仕事を手伝うと言ってきた。露骨に顔をしかめていたはるかだが、彼が一緒だということが保障され、たちまちいつもの明るさを取り戻した。

「んー……わかりました!! リリスちゃんからの依頼は、天城はるかと使い魔クラレンスさんに、どーんとお任せください!!」

「良い報せを待っているわよ。あと、もしも契約者の願いが叶えられなかったそのときは……」

「ハ、ハヒ!?」

 リリスが意味深に言葉を止めたせいで、はるかの不安ゲージがどんどん上がっていく。

「ふふふ。どうなるのかしらね」

「怖いですよ!! 絶対イジワルする気まんまんですよね!!」

 リリスはくすくすと笑ってはるかに手を振った。

「じゃ、頑張ってねー」

「吉報を期待していますね!」

 そう言って、リリスとレイは魔法陣を通じてそれぞれが待つ依頼者の元へとジャンプしていった。

 家に残されたはるかは、リリスからの期待に応えなければならないという、ある種の恐怖観念に近い衝動に駆られていた。

「これはプレッシャーを掛けられましたね……」

 クラレンスが主の様子を見て心配していると、はるかはぐっと拳を握って宣言した。

「絶対に失敗は許されません……いくら親友とはいえ、リリスちゃんにイジメられるのだけは不本意ですから!!」

 

           *

 

黒薔薇町 某高層マンション

 

「ここのマンションみたいですね?」

「どうか変な人じゃありませんように……」

 せめて頭の中で思い描くような変態じゃありませんように……切実な思いを込めて、はるかはインターホンを鳴らす。

 ――ピンポーン。

『開いてます、どうぞ』

 スピーカーから聞こえてきたのはハスキーな女性の声。依頼者が女性であることがわかり、はるかの心につっかえていたものが少しなくなった。安堵に包まれた彼女はおもむろに扉を開ける。

「お邪魔しまーす……」

 恐る恐る扉を開けて中を確認する。依頼主の部屋には、おびただしい数の特撮ヒーローグッズが飾られていた。

 靴箱の上、部屋のカーペット、カラーボックスに日用雑貨、目に映るすべてが男の子の好きそうなフュギュアなどで埋め尽くされている。

「依頼主は女性のようですね?」

「みたいですね。ですが……この特撮ヒーローグッズの数々は……」

 と、部屋の雰囲気に戸惑っていたその時だった。

「あ、あの! 悪魔の方ですか!?」

 後ろから依頼主と思われる女性の声が聞こえてきた。

「は、はい。えっと今日はリリスちゃ――リリスさんの代役で……って、え、ええええええ!?」

 振り返るなり、はるかの目に飛び込んできたのは非常に奇抜な格好の依頼主だった。

 全身を覆うオレンジ色のフルーツを彷彿とさせる、顔まで覆い尽くす謎の甲冑――はるかはつい最近どこかで見たことがあるような衝動に駆られながら、顔を隠した依頼主に尋ねる。

「あの……どこのフルーツ鎧武者さんですか!?」

「はるかさん、落ち着いてください。依頼主の方ですよね?」

 すっかり平常心を失ったはるかにクラレンスが冷静になるように伝える。

「はい。ワタシ、スウェーデンから来たヘレンと言います。日本の文化に憧れて来日した留学生なんです」

 目の前の鎧武者、ヘレンの言葉にはるかは得心する。

「ああ……なるほど! わかります、その気持ち……しかし、よくもまぁここまで集めましたね」

「特撮ヒーローにどっぷりハマってしまいました。おかげで万年金欠です。時には食事制限をしてでもグッズ購入に充てています!!」

 部屋中に置かれた彼女の趣味嗜好の数々を見ながら、はるかはクラレンスと顔を見合わせ、苦笑した。

「ね、熱狂的なんですね……あはは。あのとりあえず、その鎧を脱いでくれませんか? 素顔をお伺いしたいので」

 はるかに言われ、そうですね、と鎧武者の仮面がうなずく。

「ちょっと待ってください……あ、あれ? おかしいな、脱げない……」

「あの、ヘレンさん……大丈夫ですか?」

 はるかが心配になって声をかけると、ヘレンは気恥ずかしそうにして、

「すみません悪魔さん……脱げなくなっちゃいました……」

 と素直に告白した。

「はるかさん。これは相当に天然な方ですね」

 クラレンスがはるかに耳打ちすると、はるかは少し引きつった笑みを浮かべて小声で言った。

「リリスちゃんを召喚する人はこんな人ばかりなんでしょうか……」

 

 結局、鎧が脱げないのではるかとクラレンスはこのままの姿でヘレンの話を聞くことになった。

「それでヘレンさん。今回私たちはリリスさんの代行として参りました。ですから、はるかたちにできることでしたら何でもお申し付けください!!」

「本当ですか!? ありがとうございます、実はですね……」

 ヘレンははるかの方へ近づき、彼女の耳元で恥ずかしそうに囁いた。

「恋のお悩み……ですか?」

 はるかが声に出すと、クラレンスが念押しで確認する。

「つまり、好きな男性がいるんですね?」

 顔を赤らめて――仮面で見えないので想像である――ヘレンは答えた。

「はい……奥手で想いを伝えられなくて、相手はとっても素敵な方なんです……」

 オレンジ色の鎧武者が正座でもじもじする様を見ながら、はるかは依頼内容を確認する。

「ということは、はるかとクラレンスさんでその人にヘレンさんのことを好きにさせればいいんでしょうか?」

 ヘレンは仮面をふるふると横に振った。

「できれば悪魔の力とかじゃなく、自分の力で好きになって欲しいんです」

 依頼主ヘレンからの要求は、好きな男性に想いを伝えることであった。

 だがそのために彼女は悪魔の力に頼ることなく、自分の力によって想いを伝えたいと願い出た。

「そうですか……でも困りましたね。どうすれば一番いいのですかね?」

「一番簡単なのは、直接自分の想いを伝えることじゃないですか?」

 クラレンスが直球な回答を出すとヘレンは大きく腕を振って否定した。

「そ、そんなの! いきなりなんて絶対ムリです!!」

 クラレンスの口から出た言葉を聞くなり、ヘレンは狼狽する。

 はるかとクラレンスはどうすればいいのか必死で考え、そしてある一つの解決案をはるかは思いついた。

「でしたら、お手紙を書いて伝えるのはどうですか?」

「手紙、ですか?」

 ヘレンが首をかしげる。

「それはすばらしいお考えですね。口で言えないことでも文面なら想いを伝えられますし、それも一つのコミュニケーション手段だと思います」

「とっても素敵なラブレターを書いて思いの丈をぶつけちゃいましょう!!」

「Love letter……わかりました! やってみます!」

 アドバイスを受けたヘレンは早速、胸の内に抱えた思いの丈を文面で表すことにした……だが。

「『さしたる儀にて、これなきの情。御心安かるべく候(そうろう)……』」

 なぜか硯と筆を用意して、紙に文字を書く始末。しかも言葉づかいも今ではすっかり使われなくなった古語ばかりであり、内容もどこかきな臭かった。

「ヘレンさん。それじゃただの果たし状か怪文書ですって……」

「いいじゃありませんか。大切なのは形ではなく気持ちなんですから」

 クラレンスが和やかな笑みを浮かべて言うが、明らかにおかしな文章にはるかは心配を隠せない。

「その気持ちが正しく伝わるんでしょうか……」

「できました!」

 はるかが懸念する中で、ヘレンの手紙は完成した。

 直後、ヘレンは完成した手紙をはるかの度肝を抜く方法を用いて想い人に伝えようとした。

「ハ、ハヒ!?」

 突然弓矢を持ちこんだと思えば、矢じり付近に書いた手紙を括り付け、ヘレンはこれを持って窓の近くに立った。

「今からこれを射抜きます!!」

 はるかはヘレンの突拍子もない行動に度肝を抜かれた。

「矢文以外の方法は思いつかなかったんですか!?」

 

           ◇

 

黒薔薇町 くろばら公園

 

 あくる日。はるかとクラレンスが止めたにもかかわらず、ヘレンは半ば強引に矢文を想い人へと届け、今日は直接相手と会うことになっていた。

 公園で待ち合わせをしているが、ヘレンは合戦にでも参加する気があるのか幕を張って陣取り、はるかとクラレンスがその側に控える。

「おかあさんあれなに?」

「こら、見ちゃいけません」

 近所の利用者はこの異様な光景を気味悪がり、早々に公園から退散していく。

 はるかは常識から激しく逸脱しているヘレンと、そんな彼女に付き添う自分がつくづく惨めに思えてならなかった。

「ああ……何なんでしょうこれは。どうしてこういうことになってしまったんでしょうか」

 はるかが溜息を吐いていると、その横でクラレンスが誰かが近づいてくるのを見た。

「来たみたいですよ」

「ハ、ハヒ――!?」

 ついにお目当ての相手が現れた。

 三人の前方から現れたのは、ヘレンと同じく全身を西洋風の甲冑で身を包んだ男で、兜にはヘレンの放った矢が突き刺さっていた。

「や! 矢! ヤヤヤヤヤヤヤ!! ヘレンさん、大変ですよ!! 頭に矢が突き刺さっています!!」

 はるかが目を見開いて必死の形相で相手の頭を指さす。

「はい……、いろいろ考えたんですが、ワタシは矢文以外の渡し方を思いつきませんでした」

「もっと考えましょうよ! それはそうと、もうひとつ言わせてほしいことがあります」

 どうしてもこれだけは言いたかった。

 はるかは目の前から歩いてくる甲冑の男の方へ歩み寄ると、彼のアーマー部分について厳しい指摘を行った。

「どこのバナナのアーマードライダーですかあなたは!?」

 右肩から左肩にかけて構成された全体的にバナナを彷彿とさせる独特の形のアーマーに対して、はるかは率直な感想兼ツッコミを入れると――

「ボクはバナナじゃない。バロンだ!」

「それ以上は言っちゃダメですよ!!」

「そんなことよりも……ヘレンだったね? 手紙、読ませてもらったよ。素敵な矢文だった!」

 バナナの騎士から返ってきたのは意外にも好意的な言葉であり、ヘレンは思わず顔を赤らめ――仮面であるが――心臓の鼓動を早くする。

「ボクともあろう者が、隙を突かれて射抜かれるなんて……大した矢文だね」

「そんな……ワタシは夢中で射抜くことしか考えてませんでした、公門(くもん)くん……」

 目の前で繰り広げられる鎧甲冑たちのメロドラマにはるかは頭を抱える。

「何なんでしょう……頭がどうにかなりそうです」

 そんなはるかなどお構いなしに二人は愛をささやき続ける。

「ぼ、ボクで良かったら君とお付き合いしたいな……」

「「えええ!?(なんと!!)」」

 ツッコみどころ満載の状況において、さらなるツッコミ要素が増えた。

「く、公門くん……うれしい!!」

「ヘレン!!」

 はるかとクラレンスが驚愕と感動を抱くその側で、素顔のわからない鎧で身を包んだヘレンと公門の二人は確かな愛を築き、固く抱き合った――ガツンと音を立てて。

「この甲冑、素敵だね!」

「いいえ。公門くんのバナナアーマーも固くてたくましいわ」

 よくわからないが、常人にはなかなか理解しづらい二人の若者が、今この場で結ばれた。

「なんて絵に描いた様な素敵なカップルなんでしょうか、はるかさん」

「そ、そうですね……」

 クラレンスが感動で目を潤ませているが、はるかにはもうわけがわからなくなっていた。

(なんだか色んな意味で気疲れしちゃいましたけど、これで頼まれていた依頼も無事に果たせました)

 

「本当。仲睦ましいことね。もう~、見てるだけで虫唾が走って来ちゃうくらいだわ!」

 突如、空の上から声が聞こえてきた。

 はるかとクラレンスが見上げたとき、堕天使ラッセルとはぐれエクソシストのコヘレトが自分たちを見下ろしている。

「あれは!!」

「黒い翼……堕天使か!?」

 はるかとクラレンスが見上げると、ラッセルはにやりと口を歪ませる。

「若い二人には悪いけど、その魂……利用させてもらうわよ」

 ラッセルは掌に漆黒の波動を作り出すと、ヘレンと公門目掛けて放射する。

 

「御身に宿りし邪悪なる心……今こそ、我の前にさらけだせ!!」

 

「「うわあああああああ!!」」

 波動の直撃を受けた二人は魂が抜けたように力なく倒れた。

 そして、二人の体からは黒ずんだものがガス状になって噴き出してきた。

「出でよ、カオスヘッド!!」

 次の瞬間、ガスの中から重厚な鎧に身を包んで背中に黒い翼を生やした怪物――カオスヘッドが召喚された。

『カオスヘッド!!』

 二人の魂をもとに《鎧カオスヘッド》が誕生し、咆哮をあげた。

「ヘレンさん! 公門さん! 何というひどいことを……」

 クラレンスがヘレンたちの倒れた姿に悔しさをにじませる。

「堕天使も洗礼教会の人たちがやってることと何も変わりませんね!!」

 はるかに洗礼教会と同列に扱われたことに腹を立てたラッセルが激高する。

「お黙り! あんな連中、あんたたち悪魔を倒した暁にでも捻りつぶしてやるわよ」

「く……リリスちゃんの言っていた通り、本当に悪魔と天使、堕天使は三竦み状態なんですね」

「その通り。なんせこの俺も、元々は洗礼教会の神父だったんだぜ。どうだ、驚いただろ?」

 と、コヘレトが言った刹那、青白い雷光がコヘレトを襲った。

「うぎゃあああああ!!」

 何の前触れも無くコヘレトへと落雷が襲い掛かる。

 不思議に思ったはるかだったが、いつの間にかリリスとレイが現れ、臨戦態勢を作っていた。

「はぐれエクソシストの経歴になど、我々は微塵も興味はない」

 雷撃を放った張本人、レイが言い放った。隣にいたリリスは雷に焼かれ悶えるコヘレトの横に見知った顔を見つけると、挑発的な笑みを浮かべて挨拶の言葉を述べる。

「ごきげんよう、堕天使ラッセル。また今日もやられに来たのかしら?」

「バカを言いなさい。前回のような二の舞は演じないわ……カオスヘッド! 奴らを叩きのめすのよ!!」

『カオスヘッド!』

「ザッハ以外の堕天使と会ったことはありませんけど、人の恋路を邪魔するあなたたちは絶対に許せません!」

「いくわよ、はるか!」

 堕天使とカオスヘッドの脅威に立ち向かうべく、二人はそれぞれが持つ変身アイテムを用いてプリキュアの力を覚醒させる。

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

 ディアブロスプリキュアとして戦うのは今回が二度目。変身を終えた二人は、声高らかに掛け声を行った。

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」

 

「偽りの善幸を根絶やし!」

「邪な悪行を断罪する黒き力!」

「「我ら、悪魔と魔女のコラボレーション!! 『ディアブロスプリキュア』!!」」

 

『カオスヘッド!!』

 鎧カオスヘッドが接近する。二人は敵が繰り出す薙刀(なぎなた)による斬撃を回避し、反撃へ転じる。

「来なさい、レイ!」

「クラレンスさん、来て下さい!」

「「はい!!」」

 レイとクラレンスはそれぞれの主の元へ駆け寄る。

「ロンギヌスチェイーンジ!!」

「今こそ、ひとつになるとき!! 我が主――キュアウィッチに力を!!」

 レイロンギヌスとなったレイはベリアルの手に収まり、クラレンスはキュアウィッチロッドに埋め込まれた宝石【神秘の貴石】へと宿り、ウィッチの力を向上させる。

「はあああああああ」

 ベリアルはレイロンギヌスを豪快に振るい、鎧カオスヘッドの薙刀攻撃に対抗する。

 薙刀による攻撃が防がれると、鎧カオスヘッドは隠し持っている様々な武器の中から弓矢を選択して、エネルギーを矢じりから勢いよく放つ。

「キュアウィッチプロテクション!」

 ベリアルへと向けられた攻撃をウィッチは魔力の防壁で防いだ。

 だが直後、光の剣と聖銃を携えたコヘレトがウィッチ目がけて激しい攻撃を繰り出した。

「敵はカオスヘッドだけじゃないんだぜ!」

「はるか!!」

コヘレトが引き金を引いてありったけの弾丸を撃ち込んだ。

「きゃああああああ」

「はるかっ!!」

 聖銃による攻撃の威力に圧倒されたウィッチは衝撃で飛ばされた。

「いたたた……間一髪躱しましたが、危なかったです」

「はるか! ……よくも、私の親友に手を出したわね!!」

 何物にも代えがたいただひとりの親友に手を上げたコヘレトへの強い怒りが、ベリアルの中で湧き上がった。

 殺気立った彼女はレイをロンギヌス状態からエクスカリバーへと変化させ、持ち手を強く握りしめると、コヘレトへと勢いよく切りかかった。

 金属同士が激しくこすり合うほどの鍔迫り合い。怒りに燃えるベリアルを見ながら、コヘレトはふてぶてしく笑った。

「そうかっかするんじゃねぇよ、ベリアル嬢!」

「お黙りなさい!」

 手に持つ光の剣を押し込み、ベリアルを挑発する。

「大体、お前自身の弱みをこんなわかりやすく側に置いてるから足元すくわれるんだぜ」

「黙れって言ってんのよ!!」

 コヘレトの言葉など聞く耳を持たない。親友を傷つけた仇敵を倒すことだけに集中していると、外野から声が聞こえた。

「よそ見してるんじゃないわよ!!」

 ラッセルからの警告が寄せられた次の瞬間、鎧カオスヘッドがベリアルの背後へ回り込み巨大な薙刀を回転させてから、豪快に振り下ろす。

「しま……」

『カオスヘッド!!』

 ――ドカン!!

 鎧カオスヘッドの振るった薙刀がベリアルに不意打ちという形で直撃し、勢いよく地面へと吹き飛ばされる。

「リリスちゃん!!」

 ウィッチが見ている前で、ベリアルは鎧カオスヘッドからの奇襲を受けた。

 吹き飛ばされたベリアルは、全身がぼろぼろに傷つき、着地もままならず地面に叩きつけられてしまった。

「おーほほほほ!! いい気味だわ、やっぱり悪魔をいたぶるのは快感ね!」

 堕天使にとっては眼福する光景であっても、ウィッチには目に余るものだった。彼女はすぐに傷ついたベリアルの元へ駆け寄った。

「リリスちゃん、しっかりしてください! ごめんなさい、はるかがもっと強ければこんなことには……やっぱりはるかはリリスちゃんの足手まといなんですね」

 寂しそうな目を浮かべ、プリキュアとしてはまだまだ力及ばない自分を卑下するウィッチだったが、

「……私がいつそんな心にもないことを言ったのかしら」

 ベリアルはゆっくりと目を開け――彼女の頬に手を当てた。

「わかってるわ。わかってるのよそれくらい……はるかが私の弱点になり得るってことは、堕天使に指摘されるまでも無く。だけどそれでも、はるかは私と戦うと言ってくれた。私はそれが嬉しかった……本当はね、いつも一人で戦ってることが心細かったの。誰も味方になってくれなくて、警察に追い回されて、その上敵はどんどん増えていく。そんな私の数少ない希望で、支えがはるか……あなただった」

 ベリアルの口から暴露される心の内。ウィッチは意外そうな顔を浮かべながら彼女の話を真摯に聞いた。

「あなたが側に居てくれなかったら、今頃私はどうなっていたのかしら……」

「リリスちゃん……そこまではるかのことを」

 普段の毒舌からは想像もつかないような優しい言葉。何か打算があるのではないかと堕天使なら思うかもしれないが、ウィッチは先ほどの言葉に打算という醜く汚いものは無いと確信した。

 柔らかい笑みを浮かべると、ベリアルはウィッチの肩を借りながら立ち上がる。

「今は弱くてもいいわ。これから強くなりなさい! 私の背中を預けられるくらい!!」

「はい――必ずなります!!」

 ベリアルが完全に立ち上がるのを見て、ラッセルたちが笑う。

「ふん。悪魔と魔女が友情だと? 笑わせてくれるじゃない……」

「ははははは!! やめてくれ、腹がよじれるぜ!!」

 茶番劇をさっさと終わらせようと、ラッセルが命令を下す。

「カオスヘッド、コヘレト! 虚しい幻想を抱く悪魔と魔女に引導を渡してあげるのよ!」

「了解!!」

『カオスヘッド!!』

 とどめを刺そうと、鎧カオスヘッドとコヘレトが二人同時に突撃してくる。

 だが、満身創痍のベリアルとウィッチが彼らの攻撃に身構えた次の瞬間――

 

「ぐああああああ」

『カオスヘッド!!』

 唐突に状況は一変した。

 空の上から太陽を背にして黒い影が降って来て、コヘレトと鎧カオスヘッドを凄まじい力で弾き飛ばした。

「な、何!?」

「一体どうなってるんですか!?」

 ベリアルとウィッチが倒れているコヘレトたちに目を向ける。突然の出来事にわけがわからないでいると、辺りを舞っていた土煙が徐々に晴れていく。

 そして煙の中から見えてきたのは、コウモリの意匠をあしらった紫を基調とする重厚感ある鎧に包まれた仮面の騎士だった。左手には剣が突き刺さった盾を装備している。

「なんだ、てめぇは?」

 コヘレトが敵意を剥き出して睨み付けると、紫の騎士は盾に刺さった剣をおもむろに引き抜いた。

「バスターソード」

「ッ!!」

 コヘレトが本能的に危機感を抱いた瞬間、紫の騎士は地上に鎧と同じ色の魔法陣を出現させた。

「ダークネススラッシュ」

 バスターソードと呼称する剣を掲げ、ゆっくりと一回転させながら剣の先に魔力を増幅――ため込んだエネルギーを一気にコヘレトへと放った。

 

【挿絵表示】

 

「ぐあああああああああああ!!」

 X字に飛んできた紫色の斬撃にコヘレトは容易く吹き飛ばされた。ベリアルとウィッチは凄まじい破壊力を持った騎士の力を前に、呆然自失と化す。

「てめぇ……コノヤロウ!!」

『カオスヘッド!!』

 素性も知らない相手からいきなり攻撃されるという屈辱を味わったコヘレトは、鎧カオスヘッドとともに反撃に乗り出した。

「バスターシールド」

 敵の攻撃を見越して落ち着いた対応を見せた紫の騎士は、左手に持っている盾・バスターシールドに魔力を送り込み、前方へ突き出した。

 すると盾に隠されていた邪眼・イビルアイが露わとなり、その目に見つめられたコヘレトと鎧カオスヘッドは金縛りを受け動けなくなる。

『カオス……ヘッ!!』

「くそぉ……体がうごかねぇ!!」

 あっという間にコヘレトと鎧カオスヘッドを拘束した騎士にはるかは驚嘆の声をあげる。

「す、すごいですね……!」

「ええ……だけど彼は?」

 突如現れたと思えば、紫の騎士は窮地に立たされたベリアルとウィッチを助けてくれた。

 すると騎士は剣を盾に収め、ベリアルとウィッチの方を見ながらとどめの攻撃を促した。

「今のうちだよ。奴らにとどめを刺すんだ」

「あ、はい!」

「よくわからないけど、ありがとう。それじゃ遠慮なくいかせてもらうわ!」

 謎の騎士の助力を受けたベリアルとウィッチは、動けないコヘレトと鎧カオスヘッドに必殺技を炸裂する。

「プリキュア・ルインフェノメノン!!」

「プリキュア・オーバー・ザ・レインボー!!」

 ――ドンッ。

『こんとん~~~♪』

「がああああああ!!」

 二人の必殺技を受けた鎧カオスヘッドは浄化され、捕われたヘレンと公門の魂は解放された。

 そしてコヘレトは動けない状態からもろに二人の必殺技を受けてしまい、衝撃を受け流せず彼方へと飛んで行った。

「おのれ……誰だか知らないけどね、この代償は高くつくから覚悟しときなさい!!」

 予期せぬ邪魔が入ったことでベリアルたちを倒し損ねてしまい、ラッセルは悔しさを抱きながら早々に引き揚げた。

 戦いが終わると、紫の騎士はその場から退散しようと歩き出す。

「待ちなさい」

 すかさずベリアルが紫の騎士を引き止め、声をかけた。

「助けてくれてありがとう。でもどうしても聞かないといけないことがある。あなた、どこの何者なの?」

 すると彼女からの問いかけに、騎士は振り返ってからおもむろに口を開いた。

「オレは【暗黒騎士バスターナイト】。キュアベリアル。そしてキュアウィッチ。君たちとはいずれまた会うことになるよ」

 その言葉を最後に、バスターナイトは足元に紫色の魔法陣を展開し――どこか別の空間へと転移していった。

「バスターナイト……」

「敵なんでしょうか? 味方なんでしょうか?」

 二人は彼が消えていった先をじっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 




次回予告

リ「悪魔、天使、堕天使……彼らは三大勢力と呼ばれ、お互いが拮抗し合っている」
は「そんな三大勢力のうちの一つ、あのキュアケルビムさんが再びはるかたちの前に現れました!」
ク「しかもよりによって堕天使まで現れて……戦いは混沌してきましたよ!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『キュアケルビム再来!悪魔・天使・堕天使三つ巴の戦い!!』」
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