ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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3週間近くほったらかしていてすみません。
いよいよ今回から第2章「新興勢力台頭編」をスタートします。
謎の戦士バスターナイトの正体から、リリスの新たなる力、そして彼女を支える謎の研究者の存在と新要素がてんこ盛りとなっております。
それではいよいよ始めたいと思います。


第2章:新興勢力台頭編
第11話:キュアケルビム再来!悪魔・天使・堕天使三つ巴の戦い!!


黒薔薇町 悪原家

 

 この日、悪原家では勉強会が開かれていた。

 教鞭を執る のは悪原リリスだ。彼女の言葉に天城はるか、レイ、クラレンスの三人は真摯に耳をかたむける。

「私たち悪魔と堕天使、そして天使を率いる神は――大昔、永久とも言える時間の中で三つ巴の大きな戦争をしていたの。結局、勝利も敗北も無く、すべての勢力が激減しただけで戦いは終結したわ」

 遥かなる太古に繰り広げられた悪魔と天使、堕天使による壮絶な戦いの歴史。

 歴史を通して、今起きている事をもっと深く知る必要があった。

 なぜ――悪魔と天使、堕天使は今もいがみ合い、一触即発の状態のままなのか。すべては歴史が物語っている。

「悪魔は永遠に近い寿命を持つ代わり、出生率が非常に低いの。そのため種そのものが大戦の影響で存続の危機にあるの。大戦後は純血の上級悪魔が連なる【七十二柱】と呼ばれる名門の家系のほとんどが断絶してしまったわ。私の家系――ベリアル家は七十二柱の生き残りなの」

「質問いいですか?」

 講義中、はるかが手を挙げ質問を投げかけた。

「ベリアル家以外の悪魔の方々はどうしちゃったんですか?」

「悪魔界には数こそ少ないけど、ベリアル家以外にも名門と呼べる悪魔族がそれなりに残っていたわ。ところが、十年前の洗礼教会の報復で……その大多数が粛清された。悪魔たちはあの粛清によって多くが命を落とした。私の両親も含めてね」

「ごめんなさい……」

「いいわよ。過ぎ去った事は悔やんでも仕方ないもの」

 ただでさえ数の少ない悪魔族は、十年前に起こった洗礼教会による大規模な粛清によってほとんどが滅ぼされた。

 この事実をうっかり忘れていたはるかは、リリスの気持ちも知らず無神経な質問をしてしまった事を深く反省し項垂れる。

 リリスは親友からの質問に答えると、その後の悪魔たちがどのような道を歩んでいったのかを語り出した。

「粛清から逃れた悪魔たちは故郷を離れ、人間界に身を置くことにした。だけど、その後も洗礼教会は逃げた悪魔を執拗に狙って来たわ。その結果、悪魔たちは地球上に散らばってバラバラにならざるを得なくなった……悪魔たちが種の存続の危機に瀕している一方、堕天使と天使はその後も力を増長させていった。さて、ここからは元神父見習いのクラレンスにも話を聞かせてもらうわね」

「わかりました」

 悪魔側からの話に加え、今度はカーバンクルであり、以前は教会もとい天使側に属していたクラレンスの口より、自分たちの知り得ない天使についての講義をしてもらうことにした。

「では不肖ながら、私がお話いたします」

「任せたわよ」

 リリスに続いて、主のはるかが「お願いしますね!」とエールを送る。レイは同じ使い魔として恥じぬ働きをするようにと期待を込めて「頼んだぞ」と激励した。

「まず、悪魔祓いであるエクソシストたちの必携アイテムが二つあります。一つは『聖水』と呼ばれるものです」

 言いながら、実際に机の上に置いてある透明な瓶にコルクで蓋をした聖水を手に取った。

「聖水は邪悪な存在を滅する力が備わっています。ゆえに、リリスさんはこれに絶対触れないよう注意してください」

「触れるとどうなるんですか?」

 はるかが疑問を投げかけると、クラレンスは一言で答える。

「大変な事になります」

「えっと、〝 大変〟とは……もっと具体的に教えてもらえると……」

「曖昧な言い方が逆に怖いんだが?」

 はるかとレイが露骨に顔色を悪くする。

 そんな折、リリスは紅茶をコースターへ置いてから、嘆息した 。

「聖水は悪魔だけじゃなく、その使い魔にとっても有害なものなの。クラレンス、あなただってれっきとした使い魔なんだから、他人事じゃないわよ」

「ああ……そうでした。すみません、知識不足で。えーと……『聖水』は、その名の通り穢れを祓う特別なものです。科学的にはただの水なのですが、聖水には特別な念が籠っていて、その念の力が邪気を退けるんです。悪魔や使い魔が聖水に触れると、たちまち皮膚はただれ、精神力を著しく消耗します。役に立つかどうかわかりませんけど、製法もあとで教えます。それともう一つは……」

 聖水を置き次に手に取ったのは、ぶ厚い書物であり世界で最も古くから読まれている大ベストセラー……すなわち、

「バイブルですね!」

 と、はるかがどや顔で指摘する。

「はい。『聖書』は物心ついたころから読んでいました。しかし使い魔となった今は、一節でも読むと凄まじい頭痛と吐き気に見舞われて……読むことが叶いません」

 クラレンスが残念そうに肩を落とすと、レイは眉間にしわを寄せて文句を垂れた。

「使い魔が聖書を読もうなどと……なんとおこがましい」

「しかしですねレイさん、ここの一節は大変素晴らしいんです!」

 聖書を熟読しているクラレンスはその素晴らしさを説こうと、自分が使い魔だという事を忘れ聖書を見開き、その文字を目でなぞる。

 その瞬間、脳内に強い電気が走ってクラレンスに強い痛みを与える。

「あああああああああ!! ダメだ、頭痛が……!! 主よ、あなたの言葉を読めなくなってしまった私をお許し……ぐああああああああああ!!」

 使い魔は悪魔と同様に神の加護を受けられず、その象徴ともいうべき祈りや神の言葉は彼らにとって極めて有毒なものである。

 昔から染みついた習慣というものはなかなか直す事はできない。クラレンスはリリスたちが見守る中、一人ひどい頭痛と格闘する。

「本気なのかボケているのか、非常に判断に悩むリアクションですね……」

 悶えるクラレンスの姿を見てレイが溜息を吐く。

「わかったからもうやめなさい。自分で自分を痛めつけるなんて、悪魔や使い魔には理解しがたい行動よ」

「クラレンスさん、そのくらいにしてはるかのお膝元に座りましょうね」

「はい……すみません」

 人間態から本来の姿へと戻ると、クラレンスははるかの膝元へダイブ――優しい主人に頭を撫でてもらう。

「とまぁこんな感じで悪魔や堕天使、天使について粗方の確認はとれたわ。問題はここから……この三大勢力に並ぶかもしれない脅威についてどうするか」

 現代において悪魔陣営の情勢を逼迫しているのは、天使が率いる洗礼教会と堕天使だけとは限らない。むしろ、今の時代の方がより問題は複雑なのだ。

「相変わらず 警察もプリキュア逮捕に躍起になっています」

「はるかまで逮捕しようとするなんて、日本の警察にはちょっと失望しました!」

 リリスたちが生活の拠点としている人間界は、人間世界の治安を守るための組織――すなわち警察組織が整備され、彼らが意図せざる敵として立ち塞がっているのが現状だ。

「現実問題、警察が一番対処に困りますよね」

「そういえば最近……公安警察の捜査官っぽいのがこの辺りをこそこそ嗅ぎまわっているのを見たわね」

「公安警察……ですか?」

 日本の刑事警察や交通警察などの任務が【市民】の安全を守ることに対して、【国家】の治安を守ることを主とするのが公安警察である。

 中でも首都東京を担当する『警視庁公安部』は、警備部の一部門である公安課の所属ながら独立した組織を持ち、総勢二千人以上の公安刑事を擁する巨大組織である。その彼らが国家に危険をもたらす可能性を秘めたプリキュアを監視するのは当然と言えば当然だ。

「リリスさん、どうして公安警察の人間だと思われるのですか?」

 クラレンスからの問いかけに、リリスはおもむろに答える。

「公安警察の捜査官は一般的な刑事と違って、自分の正体を悟られない様に私服で行動している事が多いの。もちろん、私服の人間が必ずしも公安とは限らない。でも、悪魔である私の目は誤魔化せない。悪魔はね、相手の心理状態を遠く離れた場所からでも把握する事に長けているの。言うなれば『心の声』を聞く術を持っている。だから、近くにその手の人間がいれば私の頭の中に直接その声が聞こえてくるってわけ」

「なるほど。それは確かに便利なものではありますね」と、思わずはるかは関心を寄せる中、リリスは眉間の皺を寄せながら懸念を口にする。

「彼らに目をつけられたらこの先おしまいよ……そんな状況に加えて、もしも洗礼教会や堕天使がこの町にいっぺんに攻めて来たら、どうなると思う?」

 聞いた瞬間に、うっ、とはるかたちはこぞって苦い顔となった。

「正直……想像したくありませんね」

「ダブルパンチと思わせてのトリプルパンチ……キツイですね」

「そしてもう一つ……あのバスターナイトとかいう謎の戦士」

 以前の堕天使との戦いで突如現れ、リリスたちに味方した暗黒騎士バスターナイト。その素性は未だ掴めていない。

「あれは何者だったんでしょうか? 前回、我々の窮地を救ってくれましたが」

 レイが疑問すると、はるかは身を乗り出して答える。

「たぶん味方ですよ! 絶対そうですって!!」

 と、案の定そう言った親友の言葉にリリスは溜息を漏らさずにはいられなかった。

「はるかね……あなたには深慮というものが欠けているわ。誰彼かまわず相手を信じるのは危険よ。信じたら最後、ひどい裏切りがあるかもしれないじゃない」

「そ、そんなこと……リリスちゃん考え過ぎですって!」

「しかしリリス様の仰るとおり、バスターナイトは悪魔か堕天使か、あるいは天使なのかさえ不確定な存在。軽々しく我々の味方と信じるのも些か性急 かと」

 リリスのみならずレイにまでたしなめられて、はるかは思わず反論する。

「レイさんまで……私たちは彼に救われたんですよね? 人助けをする人に悪い人はいません!!」

「わからないわよ。悪魔はその辺も含めて打算で動くわ。直感だけで人を信じるはるかのその浅はかさは戦いでは一番危険なのよ」

「リリスちゃんがシビアすぎるんです! 全然プリキュアっぽくありませんよ!!」

 はるかは必死に訴えるが、リリスはふんと鼻を鳴らして、

「悪かったわね。私は初期設定の段階から歴代プリキュアたちとは違うの!」

「いきなり初期設定って何の話ですか!?」

「ちびっ子にメタフィクションを理解させるのは無理があると思いますが……」

 

           *

 

異世界 洗礼教会本部

 

 三大勢力の中でもとりわけ人間の立場に立っているのが天使側、すなわち洗礼教会だ。

 独善的なその方針からリリスたちから蛇蝎の如く嫌われている彼らだが、方針内容にブレはなく、今日も悪魔殲滅と、本格的に活動を始めた堕天使への対策を協議していた。

「事態は火急である」

 杖をつき、ホセアは厳しい表情で眼前の三大幹部たちへ呼びかける。

「よもや悪魔だけでなく堕天使までもが精力的に現世でこそこそ動き回っておる。しかも、元は我らと同じ人の道を志したエクソシスト……コヘレトが堕天使側に付いた」

「あいつ……一体何を考えているんだ?」

「昔から俺たちとはどこか違うって気はしていたが、よりにもよって堕天使に魂を売っちまうとはな」

 その昔、洗礼教会は《四大幹部》と呼ばれる強力なメンバーで構成されていた。

 はぐれエクソシストとなったコヘレトはかつての四大幹部の一人であり、いつの頃からか彼は洗礼教会の方針に背き始めるようになり、自らの意思で教会を退いた。

 かつての同志を討つことに何ら躊躇いはない。だがどうして彼が教会を裏切ってしまったのかはその真意はわからない。

 コヘレトについて考えていたその時――洗礼教会と結託している純潔の天使プリキュアの少女、テミス・フローレンスが魔法陣より出現した。

「キュアケルビム、ただいま戻りました」

「ご苦労。して、どうかな?」

 ホセアがテミスことキュアケルビムを労う。とある調査を彼女に任せており、その結果はというと、

「ホセア様の仰るとおりです」

「やはりか……」

「何がやはりなのですか?」

 気になってエレミアが尋ねたところ、ホセアは重い表情で語り始めた。

「ここ数か月、地球上に散り散りになった悪魔どもの制圧へ派遣した我が教会の同志たちから連絡が途絶えているのが気がかりでな……ケルビムに調査してもらっていた」

「こそこそ動き回っているのは堕天使だけじゃなさそうですよ」

 ケルビムは懐から一枚の写真を取り出し、幹部たちへ投げつけた。

「なんだこれは!?」

「見たことのない奴だ……」

 幹部たちが目の当たりにしたのは全身を紫紺の鎧で覆い尽くした仮面の騎士こと暗黒騎士バスターナイトの姿だった。その手には強力な力を秘めた【暗黒魔剣バスターソード】と【暗黒魔盾バスターシールド】を装備している。

「前回、黒薔薇町のディアブロスプリキュアと堕天使との戦いで突如現れた。そして、その騎士は各地であなたたちの同胞を根絶やしにしている……悪魔を守るために」

「悪魔を守るだと!?」

「では、こいつが一連の事件の……悪魔の協力者だという事か!」

「恐らくはな。魔王ヴァンデインの娘に接触を図った事に鑑みる と……いずれにせよ、そやつが我らの崇高なる目的の障害となる事は必至。洗礼教会は悪魔と堕天使、そしてその騎士を早急に対処せねばならぬ」

 今一度杖を床につくと、ホセアは十字架に磔にされた主を描いたステンドグラスをバックに、声高らかに宣言する。

「我ら洗礼教会――すべては人類の平穏と恒久の栄華の為に!!」

「「「「その身を主と大天使ミカエルに捧げん!!」」」」

 ホセアの言葉を合図に、三大幹部とケルビムは姿勢を正し、天井に手を伸ばし続けて宣言した。

 

           ◇

 

私立シュヴァルツ学園 体育館

 

「はっ!!」

 午前最後の授業は体育だ。二年C組の女子たちはフェンシングの試合で青春の汗を流していた。

「やぁ!!」

 とりわけ、この場で目立っているのはリリスだった。元々運動能力が高く、プリキュアとして戦っている彼女は訓練の一環としてこのフェンシングに最も力を注いでおり、彼女の圧倒的気迫と腕を前にクラスメイトたちは形無し――ついには、リリスは全戦全勝という栄誉 を得たのだ。

 すべての試合に勝利した彼女に、周りから大きな拍手が起こった。

「やっぱり悪原さんってすごーい!!」

「勉強もスポーツも何でもできるもんねー!!」

「おまけに美人だし、非の打ちどころがないってあの子の事だよね!!」

「でもどうしてなのかな、クラスの子とはほとんど付き合いないって感じだし……」

「はるかちゃんだけだもんねー、よく一緒にいるのって」

 クラスメイトたちは普段からどこか近寄りがたい雰囲気を醸し出し、何かにつけてドライな態度が多いリリスが、対極に位置しているといっても過言ではないはるかとなぜ行動を共にしているのか――どう考えても理由がわからなかった。

 周りの女子たちの疑問を耳にしたはるかは、クスクスと笑ってからそのワケを教えた。

「リリスちゃんは何も好きでクールビューティーでいるわけじゃないんですよ。要するに照れ屋なんですよ♪」

 彼女がそう言った瞬間、遠目から見ていたリリスは思わず体勢を崩した。

「あ、そっか! そうだよね! 私たちのこと嫌いってわけじゃないもんね!!」

「はるかちゃんは悪原さんとは付き合い長いんだよね? ねぇ、ぶっちゃけ本当はどんな感じの子なの?」

 クラスメイトたちから質問を受けると、はるかが胸を張って答えた。

「おっほん! いいですか、リリスちゃんはなんとですね……」

「はーるーか♪」

 言いかけたときだった。後ろからいつになく笑顔のリリスが背後から急に話しかけてきた。

「ちょ――っと、いいかしら♪」

「は、はい……」

 こうなった以上はるかには嫌な予感しかしないのだ。

 体育館の外まで連れ出されたと思えば、リリスは唐突に彼女の頭部に拳骨を落としたのだ。

「あいた!」

 ポカーンという軽い音ではなく、ゴーンというかなり本気の力で殴られた。

「いきなり何するんですか!!」

「それはこっちの台詞よ! あの流れからだったら確実に〝実はリリスちゃんは悪魔なんです!!〟……とか言いそうだったじゃない!!」

 リリスが目をつり上げて怒りをあらわにすると、はるかは首をブンブンと振って否定した。

「ち、違いますよ! 言うわけないじゃないですか……!」

「じゃあなんて言おうとしたのよ?」

 訝しげな様子でリリスが尋ねると、

「それはもちろん……〝リリスちゃんは極度のツンデレなんです!! 〟……に決まってるじゃないですか」

「もっとタチが悪いじゃないそれじゃ!!」

 堪らず、リリスははるかの体を床に伏せさせ、彼女に逆エビ固めをきめた。

「うぎゃああああああ!! たたたたた、タンマです!!」

「これも修行の一環だと思いなさい!」

「こんなの修行でも何でもありませんよ! 八つ当たりっていうんですよ!!」

 はるかが地面をバンバン叩いて降参の意思表示をしていると、気づけば辺りには人だかりができていた。

「あ、あの……悪原さん?」

「何やってるの、そんなところで」

 騒ぎを聞きつけた他の生徒たち、そして体育教師までもが不思議そうな目で、優等生のリリスがはるかにプロレス技を叩き込んでいるという光景を目の当たりにする。

 途端、リリスはあまりの恥ずかしさに一瞬硬直――頭の中が真っ白になった。

「え!! あ、いやこれは……えーと……はるかがあまりに体が硬いものだから、ちょっと補助を!!」

「そ、そうなんだ……」

 かなり無理があるように思えたが、周りはどうにかして納得してくれた。

「へたなウソつくのはよくありませんよ……!」

「ウソの一つもできないはるかに言われたくないわよ!」

 このとき、学校の外では双眼鏡越しにある人物が彼女たちの動きを監視していた。

 警視庁公安部の刑事ではない――堕天使側に付いた元洗礼教会四大幹部の一人、はぐれエクソシストのコヘレトだ。

「ふふふ……ただ悪魔を潰すだけじゃ面白くないんでな。付き合ってもらおうか、ちょっとしたゲームによ」

 

 キーンコーンカーンコーン……。

 午前の授業が終わり、お昼休みとなった。

 リリスが弁当箱を取り出して、いつものようにはるかと席を立とうとした矢先、クラスの女子たちが黄色い声をあげていた。

「ねーねー、知ってる? 最近、黒薔薇第一中学校にチョーカッコいい男の子が転校してきたんだって!」

「聞いた聞いた! イタリアから来た王子様みたい人なんだよねー!」

「うわー、あたしも会ってみたいなー。ねーねー、放課後みんなで行ってみようよ!」

 女子たちは数日前、シュヴァルツ学園とは異なる校区にある男子中学校に転校してきたとある男子生徒の話題で持ちきりだった。しかし、リリスはこの手の話にはほとんど興味がなかった。基本的にスペック が高い彼女からすれば、同い年の男子中学生など、言葉は悪いがサル程度にしか見ていない。

 だから、さしたる関心も寄せず教室を出ようとした――次の言葉が聞こえるまでは。

「そのイケメンって、名前なんて言うのかな?」

「たしか……サクヤくんって、言うみたいだよ。私の友達が仕入れた情報じゃ」

(サクヤ……)

 脳裏をよぎるその名前。かつて、悪魔界が洗礼教会による襲撃を受ける前の平和な頃に毎日のように聞いていた。悪原リリスにとって「サクヤ」とは懐古の情を思い出させるものであり、同時に寂寥を思い起させるものだった。

「リリスちゃん、どうかしましたか? 浮かない顔してますよ?」

 彼女の様子をうかがっていたはるかが怪訝そうに声をかける。リリスは我に返り「なんでもないわ」といつものように口にすると、教室を後にした。

 

 リリスとはるかは弁当箱を持って、校内を移動していた。

「お昼ごはんどこで食べましょうか……」

「そうね……」

 と、そんなとき――通りかかった音楽室の方から聞こえてくるバイオリンの音色にリリスは足を止めた。

「リリスちゃん?」

 怪訝そうなはるかを余所に、リリスが音楽室を覗きこむと、音楽部所属の生徒と思われる女子生徒がレクイエムを優美に奏でていた。

(この曲は……)

 その音色は再びリリスの幼少期の記憶を呼び覚ました。

 鮮明に蘇る平和だったころの悪魔界。今よりもずっとあどけなく快活だった少女こと、リリスは自分と同い年である子どもが奏でるバイオリンを聞くのが好きだった。

 レクイエムは哀しい曲のはずだが、なぜかリリスにはどの曲よりも心が落ち着くものだった。

 いや、正確には幼馴染みが弾くその曲だけが彼女の心を鷲掴みにしたのである。

「リリスちゃん、どうしたんですか?」

 思わず感慨に耽っていると、はるかから呼びかけられた。

「え……ああ、ごめんなさい。ボーっとしてたわ」

「あの鎮魂歌がそんなに気に入ったんですか?」

「気に入ってる……ていうのはあながち間違いじゃないけど、ちょっと違うのかな」

 リリスが少し寂しげな表情を浮かべて言うと、はるかは首をかしげる。

「え?」

「気にしなくていいわ。ただの独り言だと思ってちょうだい」

 はぁ……、とはるかは言葉を漏らす。

 結局、特に深い意味は無かったのだと決めつけ、音楽室の前を通り過ぎた。

 

 その後、二人は中庭に出て昼食を食べることにした。

「お天気もいい事ですし、お外でランチタイムです!」

 元気溌剌にはるかが弁当箱を開けると、色鮮やかな料理が所狭しと並んだ豪勢な弁当が姿を現した。

「はるか。今日のは随分と豪勢じゃないの?」

「ふふふ。聞いてくださいよ、これ全部クラレンスさんの手作りなんですよ♪」

 言うと、はるかは満面の笑みで弁当箱を見せびらかす。

「そう言えばずっと前から気になってたけど、クラレンスとは同棲してるのよね? おばさまとおじさまはなんて言ってるの?」

「ああ、その辺は大丈夫ですよ。ちょっとプリキュアの力を使いましてね……」

 かいつまんで言うと、はるかはクラレンスとの同棲生活について両親から承諾を得るため、プリキュアの力を私的に使い、両親の記憶を操作したのである。

「へぇ……私のこと悪魔だって言う割には、あなたも随分と悪魔に感化されてきたわね」

 話を聞くや、口角をつり上げリリスは悪魔染みた笑みを浮かべた。はるかは焦った様子で「ち、ちがいますよ!!」と言ってしどろもどろする。

「いいい、言っときますけど……!! はるかには邪な気持ちなんてこれっぽっちもありませんから!!」

「無理しなくていいわよ。人間、聖人君子になる必要はないわ。悪意の無い人間なんて一人もいないんだから」

 と、リリスが言うと、

「その通りよ」

 と、不意に同意の声が聞こえてきた。

 直後、学校全体に結界が展開される。

 リリスとはるかがその場から立ち上がった直後、キュアケルビムと洗礼教会の三大幹部エレミア、モーセ、サムエルが中空に浮かんだ状態で姿を現した。

「あなたは!!」

「いつぞやのプリキュア天使……それに洗礼教会!」

 二人は空を見上げて、キュアケルビムに身構える。

「私の事を覚えていてくれたかしら、悪原リリス。いえ、キュアベリアル」

「キュアケルビム……だったかしら? やはり洗礼教会とグルだったのね」

 リリスが洗礼教会との関係を指摘すると、キュアケルビムの後ろに侍っていた幹部たちが口を開いた。

「彼女は元々我々の協力者だ。お前たち悪魔がいつどこで何をしているのかをずっと監視していた」

「監視って……!? 人のプライベートを覗いていたというのですか! ひどいですよ! そんなの、人権侵害です!」

 はるかがぷんぷんと怒りをみせる。

「ふん……悪魔に与するような輩に人権などありはしない」

「私怨はない。だが、平和のためには消すも止む無し」

「さぁ勝負よ、キュアベリアル! 変身して私と闘いなさい」

 既に洗礼教会側は戦闘準備を整え、いつでも戦える姿勢を作っている。

 昼食を食べる暇も与えずこの場に現れた敵の策略を卑怯とも思いつつ、リリスはこうも評価する。

「エネルギーが枯渇した昼食時を狙うとは、卑怯でもあるしなかなか強かで計算高いじゃないの」

「リリスちゃん、こんな馬鹿げたことに付き合うのは良くありません。この方々にはさっさとご退場してもらいましょう!」

 憩いの時間を奪った彼らをどうにかこの学校から退散させるため、リリスとはるかはプリキュアの力を発動させた。

 

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

 二人の共通の変身アイテムは指輪である。

 超人的な力を秘めたプリキュアに変身する際、少女たちは指輪に力を込め、特定の言葉を口上する事で自らを伝説の戦士プリキュアへと変貌させるのだ。

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」

「偽りの善幸を根絶やし!」

「邪な悪行を断罪する黒き力!」

 今はまだ昼間だが、天空に満月が浮かんでいるものとし、少女たちはそれを背に中空へ舞い上がり、地面へと着地し口上した。

「「我ら、悪魔と魔女のコラボレーション!! 『ディアブロスプリキュア』!!」」

 

【挿絵表示】

 

 

 キュアケルビムは決めポーズを見届けると、ベリアル目がけて宙を蹴った。

「いくわよ!!」

 私立シュヴァルツ学園を舞台に、悪魔と天使の二大勢力がぶつかり合う。

「「はあああああああ!!」」

 キュアケルビムとキュアベリアル、二人の因縁がぶつかり合う傍ら、ウィッチは洗礼教会の三大幹部を一人で相手にしていた。

 しかし、プリキュアになって日の浅いウィッチにとって、実力の高い三大幹部をたった一人で相手にするには、分が悪いのは明白であった。

「ははははは!! どうした小娘!! その程度か、貴様の力は!!」

「女の子を三人がかりで襲うなんて……あなた方には紳士としての誇りはないんですか!!」

 ウィッチはなんとか三人の攻撃をいなすが、

「ほざけ!!」

「きゃあ!!」

 本来ならこの時間はランチタイム。ウィッチは弁当も食べられず、本来持っている力を十分に発揮できずにいた。

「やっぱりお昼ご飯も食べずに闘うなんて……無謀ですよ!! 力が全然入りません!!」

 ウィッチが圧倒されて地面に吹き飛ばされる。

「はるか!!」

「よそ見しないでよ!」

 ウィッチの窮地を知ったベリアルが彼女の元へ行こうとすれば、ケルビムが全力で止める。

 そうこうしている内に、三大幹部たちが地に倒れ伏すウィッチの元へ降り立った。

「ふふふ。あっけないものだな」

「人間を滅ぼすのは我々の活動方針から逸脱しているのだが、この場合は止むを得まい」

「消えよ、悪に染まりし邪悪な魂!!」

 彼らは首元の十字架を掲げ、文字通り邪悪な力を光によって洗礼しようとする。

 だが次の瞬間、どこからか飛んできた銀色の銃弾が十字架を弾いた。

「なに!?」

「ゲームはまだまだこれからだろうぜ!!」

 そう言って来たのは、銀色の銃と光の剣を装備したはぐれエクソシスト、コヘレトだった。傍らには今の主である堕天使のラッセルがいた。

「コレヘト……!」

「バカな!? どうして堕天使が……結界を破ったというのか!?」

 洗礼教会の面々が疑問を抱くと、コヘレトが即座に解消した。

「俺は元々教会側の人間だ。てめーらの結界ぐらい破れないはずねぇだろうが」

 卑しく笑うコヘレトのそばで、ラッセルが不敵な笑みを浮かべる。

「ふふふ。飛んで火にいる夏の虫とは彼らのことよね。憎き悪魔と邪魔な教会連中……あんたたちがいがみ合って潰し合ってくれるなら好都合だわ」

 堕天使勢が割り込み、さらに戦闘が激化してきたところで、校舎からざわざわと声が上がり始めた。

「おい、なんだあれは!?」

「変な格好したのが空を飛んでる!」

 結界が破壊された事で、学校内にいた生徒たちがこぞって窓側に集まり戦闘に注目する。ケルビムはこの状況を極めて危険と判断した。

「いけない!! 一般人の目に我々の存在が……」

「ちょうどいいわ。この好機を利用させてもらうわ」

 口角をつり上げたラッセルは、漆黒の波動を作り出し、口上する。

「御身に宿りし邪悪なる心……今こそ、我の前にさらけだせ!!」

「「「うわあああああ!!」」」

「出でよ、カオスヘッド!!」

 学校の生徒たちを素体に、彼らの中に眠る邪心から忠実なる下僕――カオスヘッドを大量に生み出した。

『『『カオスヘッド!!』』』

「生徒たち をカオスヘッドにするなんて……!」

「堕天使ラッセル、貴様!!」

 ケルビムは無関係な生徒たちを巻き込んだことに怒りを湧かせる。打倒悪魔の邪魔が入ったことで、洗礼教会も怒りをあらわにした。

「ではははははは!! それではみなさーん、パーティーの始まりですよ!!」

 品の無い笑いとともにコヘレトは銀の銃を空へと発砲した。

 その瞬間、生み出されたカオスヘッドたちがディアブロスプリキュアと洗礼教会に攻撃を開始する。

「お行きなさい!! 悪魔も天使も、すべて叩き潰しなさい!!」

『『『カオスヘッド!!』』』

 シャープペンシルや三角定規、その他学校生活で使われる物を模ったカオスヘッドたちが一斉に攻撃を仕掛ける。

 予期せぬ堕天使の乱入によって悪魔と天使側の均衡が崩れ、いがみ合っている場合ではなくなった。

「こんなことってあるんですか!?」

 学友たちをも巻き込んだ混沌とした状況にウィッチが言葉を漏らす。

「ちょっとあんた、こんな状況でも私と闘えって言うつもり?」

「ちっ……こんなはずじゃなかったのに」

 想定外の状況にケルビムは舌打ちする。

 

「オラオラオラオラ!!」

「ぐああああ」

 洗礼教会を裏切り堕天使に寝返ったコヘレトはかつての同志、エレミアに連続攻撃を浴びせる。激しい銀の銃弾による攻撃を受けたエレミアは地面に激しく叩きつけられた。

「エレミア!!」

「大丈夫かよ!?」

 モーセとサムエルはエレミアの安否を気遣い、中空に浮かぶ悪意に満ちた笑みのコヘレトを睨み付ける。

「コレヘト!! かつての同志に手をかけるというのか!?」

「同志だぁ? 残念ながら俺はおまえらを同志と思った事は一度もねぇな! 何が人の世の繁栄と恒久の平和だ……かび臭いんだよ、お前らのその教えは!! 人間もっと欲望に忠実に生きてこそだろ! だから俺は教会を見限って堕天使に付いたんだ! 堕天使と一緒にいるほうがスリリングでおもしれ―からな!!」

「き……貴様っ!!」

「こうなれば、もう容赦はしない!」

 自らの欲望のためだけに教会を裏切り、ただの愉快犯へとなり下がったコヘレトに、三大幹部もこれ以上彼の思い通りにさせるわけにはいかないと、数で劣る状況を同じく数で対抗しようとした。

「「「平和の騎士よ、生まれよ!! ピースフル!!」」」

 校舎にあるもの――サッカーゴールや教師たちの車、転がったボールなどを素体に幹部たちはピースフルを生み出した。

『『『ピースフル!!』』』

「今度はピースフルまで生まれてしまいましたよ!」

「ああもう!! 次から次へと!!」

 タイミングが悪かったのか、それとも運が悪かったのか。

 ベリアルとウィッチは日常生活を脅かす迷惑な敵が立て続けに増える現状に頭を抱える。

「はあああ!」

「はははは!」

 混沌とする戦局。堕天使のラッセルとケルビムは光の槍を用いた激しい攻防戦に突入していた。

「ふ~ん、あんたがキュアケルビム。あんたを倒してもいいけど、私と協力してあの小生意気な悪魔を二人で一緒に倒さない?」

「キュアベリアルを倒すのは私よ。その邪魔をするなら、誰であろうと容赦しないわ」

「おーほほほほ! 天使の口から出る言葉とは思えないわね。まるっきり悪魔じゃない」

 共闘を持ち掛けたラッセルの言葉をはねつけ、ケルビムはラッセルを相手にその後も衝突を繰り返す。

 火花を散らし実力も拮抗する両者の傍らで、ディアブロスプリキュアは出現したカオスヘッドの対処に追われていた。

「ベリアルスラッシャー!」

「キュアウィッチロッド! ファイアーマジック!!」

 悪魔の翼から放たれる紅色に輝く無数の手裏剣と、魔法の杖から放出される膨大なエネルギーが炎と化し、カオスヘッドたちをなぎ倒す……はずだった。

『『『カオスヘッド!!』』』

「「きゃあ!!」」

 しかし多勢に無勢……おまけにエネルギー補充もままならない状態での戦闘は、ベリアルたちの体力を急激なまでに消耗させていき、結果として押され気味だ。

「もう……!! 何なんですかねこれは!? 誰が敵で味方なのかさっぱりわかりません!!」

「少なくとも悪魔に味方している者はここにはいないわよ。でも困ったわね……これじゃ本当にキリがない」

 グウ~~~~……

 不意にウィッチの下腹部からそんな情けない音が鳴り響いた。ウィッチの体力は既に限界を迎え、その場に這いつくばった。

「ああ……もう充電が切れて、力が……」

「ちょっと萎れないでよ!! ここで倒れたら、学校がメチャクチャにされるのよ!! 捕われた生徒たちも助けないといけないし、かといってキュアケルビムに期待をかけることもできない……私たちがやらなかったら誰がこの学校を守るのよ!!」

「は!!」

 ベリアルの呼びかけが、ウィッチの正義の心を呼び覚ました。

 自分たちがやらなければ、この学校は独善的な二つの勢力の好き放題にされてしまうのだ。

「そうですね……リリスちゃんの言う通りですね」

 ウィッチはベリアルの言葉がきっかけで、失いかけた戦意を取り戻し、ゆっくりと上体を起こす。

「私たちがやらなかったら、この学校の平和は誰が守るんでしょうね!! お腹が空いてるからってへこたれてる暇なんてありませんよね!!」

『『『カオスヘッド!!』』』

『『『ピースフル!!』』』

「とは言いましたけど……レイさんもクラレンスさんもいないのに、この状況を打破するのはちょっと……」

 

 だがそのとき、遥か上空から猛スピードで何かが落下してきたのが見えた。

 三大勢力がこぞって頭上を見上げれば、紫紺の鎧と仮面、盾付の剣を装備した謎の戦士――暗黒騎士バスターナイトが現れた。

「あれは!?」

 ベリアルが驚愕する中、バスターナイトは盾からバスターソードを取り出し、いがみあう洗礼教会と堕天使を剣の衝撃波で吹き飛ばした。

「ぐっが!」

「「「だああああ!!」」」

「一体なんなの!?」

 コヘレトと洗礼教会の幹部たちはもろに衝撃を食らって弾き飛ばされ、ラッセルは腕で衝撃から身を守るようにして突如現れた新たな敵を睨みつける。

 混沌とした戦場に降臨せし暗黒騎士。大地へと降り立った彼は、ベリアルとウィッチを庇うように前に立ち、やがて彼女たちの方へと振り返る。

「オレが手伝おう」

「バスターナイト!!」

「ほら見てください!! やっぱり私たちの味方だったじゃないですか!!」

 目を見張るベリアルの横でウィッチが歓喜の声を上げた。

「奴は……報告にあった例の騎士……!」

「やはり悪魔に与する者だったか」

「ならば!!」

 第一級殲滅対象としてリストに上がっていた敵が現れたことで、洗礼教会の三大幹部は標的をコヘレトからバスターナイトへ変更――三人がかりで一斉に向かって行った。

 だがその瞬間、バスターナイトはバスターソードを構えると、ダークネススラッシュを繰り出して、三人の幹部たちを容易く退けた。

「「「あひゃあああああああ!!」」」

 ダークネススラッシュの威力は凄まじかった。三大幹部たちは空の彼方へと飛んで行き、やがて星のように光り輝いた。

「す……すっご~~~いです!! 一撃でしたね!! 一撃でしたね!!」

 ぴょんぴょん跳ねるウィッチの傍らで、ベリアルが疑問を投げかける。

「あなた……どうして?」

「君を不幸にする悪因をオレは許せないんだ。さぁ、今のうちに。ちょうど応援も到着した」

 するとそのとき、戦闘が始まってから十五分遅れでレイとクラレンスが現地入りを果たす。

「リリス様!!」

「レイ!! あんた、遅すぎるわよ!!」

「遅れて申し訳ありません!!」

「クラレンスさん、来てくれましたね!!」

 それぞれの使い魔が主と合流すると、即座に彼女たちのサポートへと回った。

「キュアベリアル・グラーフゲシュタルト!!」

「カリバーチェイーンジ!!」

「今こそ、ひとつになるとき!! 我が主――キュアウィッチに力を!!」

 バスターナイト、そして使い魔が味方になってくれれば百人力。ベリアルとウィッチは一気に勝負を片付けようとした。

「おらああああああ!!」

 ベリアルたちが今持ちうる最強の力でこの状況を打開しようとする中、バスターナイトはコヘレトと激しい剣戟戦を繰り広げる。

「テメェコノヤロウ……この前はよくも!!」

「そのまま押さえておきなさい、コヘレト! そいつは私が……」

 バスターナイトに恨みを抱くのはコヘレトだけではない。ラッセルが高所から光の槍を構え、バスターナイトの心臓を一突きしようとした――その瞬間、ケルビムが視界を遮り強烈な蹴りをお見舞いする。

「きゃああああああ!」

「よそ見は禁物よ」

 ケルビムがラッセルにクリーンヒットを喰らわせた直後、バスターナイトはコヘレトの剣の応酬に見切りをつけ、大きく距離を取る。

「お前と遊んでいる暇はない」

 そう言うと、左手に装備した暗黒魔盾バスターシールドの目を開眼させて、そこから闇の波動を直射上に放出した。

 

「シュヴァルツ・エントリオール」

 

「う……うぎゃああああああああああ!!」

 邪悪な者を浄化する正しき闇の力を正面から浴びたコヘレトは、大ダメージを受けた末、エレミアたち同様彼方へと飛んで行った。

「プリキュア・ポーラルリヒト!!」

「うああああああああああ!!」

 ケルビムが神々しく輝く白き光のシャワーを放つ。その光は堕天使という神の加護を受けられない存在に極めて有効に働き、ラッセルの黒く染まった翼を焼き焦がした。

 

「プリキュア・スカーレッドインフェルノ!!」

「プリキュア・オーバー・ザ・レインボー!!」

 ――ドンっ!! ドドン!!

 炎を纏った真紅の刀身と杖から繰り出される虹色の波動が、それぞれの陣営の下僕を焼き払い、浄化する。

『『『へいわしゅぎ……』』』

『『『こんとん~~~♪』』』

 バスターナイトの助けとケルビムがラッセルを押さえ込んでいた事で、ディアブロスプリキュアは余計な邪魔立てをされる事無く、ピースフルとカオスヘッドを殲滅――素体にされた学校の生徒たちを救出し、破壊されたものはすべて元通りに復元した。

「キュアベリアル、今日はとんだ邪魔者が入ったけど……今度こそはあなたと決着をつけさせてもらうわ」

 ケルビムはベリアルにそう言い残し、背中の翼を広げ飛び去った。

 人間界での三大勢力による本格的な衝突は今回が初めてだった。ベリアルたちは窮地に立たされながらもこれを退けることができたことに安堵する。

 戦いが終わると、バスターナイトは何も言わず静かにその場を立ち去ろうとしていた。

「あ、あの……!」

 そんな彼をウィッチは呼び止め、律儀にもお礼を言う。

「今日は本当にありがとうございました! やっぱり、バスターナイトさんは私たちの味方だったんですね!!」

「少し違うかな」

 そう言うと、バスターナイトは振り返り、ベリアルの方を見る。

「オレが味方しているのは、キュアベリアル――君だ」

「私、ですって?」

「は!! き、貴様まさか……!! リリス様に言い寄る新手のストーカーか!?」

 レイがムキになるとバスターナイトが仮面の内で笑い、

「はははは。そんなんじゃない。ただ……オレは昔から君の事を知っている、とでも言っておこうか」

 何やら意味深長な言葉を残して、バスターナイトは魔法陣とともに彼女たちの前から忽然と姿を消して行ってしまった。

 

           *

 

黒薔薇町 悪原家

 

「何だか意味深な言葉でしたよね。しかし奴がストーカーという可能性も捨てきれません!! ここは、警戒を強化すべきかと!!」

 帰宅後、バスターナイトの去り際のセリフを思い出し、レイは調理場で夕飯の支度をしながら鼻息を荒げていた。

「そうね……」

「にしてもバスターナイトとは何者なのでしょうか? 私の記憶が正しければ、リリス様が幼少の頃、亡き魔王様に読んでもらったという『暗黒卿と紫紺の騎士』という物語に登場する主人公で、邪悪な暗黒卿を討伐する英雄の名前と同じはずですが」

「…………」

 レイの話を耳に入れつつ、彼が淹れてくれた紅茶の表面に反映する自分の顔を覗き込み、リリスはバスターナイトの言葉を思い出す。

 

『オレは昔から君の事を知っている』

 

(あの言葉……どういう意味かしら? それにあの技……)

 リリスは自分たちの味方をするバスターナイトが戦闘時に頻繁に使用していた技・ダークネススラッシュについて思案する。

(あれはお父様が最も得意とした魔法剣技……魔王の側近でさえ操れる者はいなかったとされる超高等技術をいとも容易く操れるなんて、並大抵のことじゃない。もしかして、バスターナイトは私の知っている誰かなの!?)

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

は「そう言えば、リリスちゃんのベリアルリングってどこで手に入れたんですか?」
リ「もらったのよ。プリキュア研究の第一人者を自称するマッドサイエンティスにね」
は「でもちょっと気になりますね! プリキュアの研究をしているその人のこと!! リリスちゃん、今度会わせてくださいよ!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『天才科学者!?ベリアルリングを開発した男!』」
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