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黒薔薇町 市街地中心部
「早く逃げて!! 安全な場所へ!!」
「落ち着いて!! 警察の指示に従ってください!!」
堕天使ザッハの手によって悪の芽を持つ人間から順にカオスヘッド化していく。
通報を受けた警視庁の警官隊は住民の避難に加え、大量発生したカオスヘッドの処理に難色を示している。
「撃ち方用意……撃てッ!!」
機動隊を中心にカオスヘッドへの攻撃が開始される。
だが、鉛の弾をいくら撃ったところでカオスヘッドには効果なし。その頑丈な体で銃弾をポップコーンのように押しつぶす。
『カオスヘッド!!』
「「「うわああああ!!」」」
そして、巨大な身の丈から生まれる 圧倒的な物理破壊能力で、束になって攻撃する警官隊を叩き倒す。
市民を守る使命を負った警察官でも人外の化け物が相手ではまるで手に負えない。
それこそ、この場に戦車でも持って来れば状況はだいぶ変わるだろうが――少なくとも戦車が登場する見込みはない。
「ダメです!! 我々の攻撃がまるで通じません!!」
「諦めるな!! 警察は市民の平和と安全を守るのがその責務……何人たりともこの国の治安を乱すことは許さん!」
「しかしこのままでは!!」
「こんなときプリキュアが来てくれたら……」
と、誰かがぼやいたのを機動隊長は聞き逃さない。
臆病風に吹かれた事を嘯く隊員の胸ぐらを機動隊長は思い切り掴み、怒りの形相を浮かべ喝を入れる。
「貴様、なんだその腑抜けた言葉は!? バカモノ!! そんな得体の知れぬものにいつまでも頼っているから舐められるのだ!! この国の治安は我々警察が守る!!」
大人には大人としてのプライドがある。
警察官には警察官としてのプライドがある。
決して面子を保つ為だとか、そんないかにもさもしくて不純な理由ではない。ただ、目の前の化け物にせめて一矢報いたいという意地が、彼らを突き動かす。
警官隊が意地になってカオスヘッドに戦いを挑む一方、ベリアルたちディアブロスプリキュアは、彼らの分までできるだけ多くのカオスヘッドを処理していく。
『カオスヘッド!!』
「はああああああ!!」
鈍重な動きで殴りかかるカオスヘッド。
ベリアルは悪魔の翼で空中を縦横無尽と飛び回り、隙を見つけるや瞬時に懐へと飛び込み強烈な拳を叩きこむ。
『カオスヘッド!!』
無情にも襲い来るカオスヘッドたち。
プリキュアとなって日の浅いウィッチだが、目の前で起こるどのような理不尽にも怯まない強さを実戦の中で培っていた。
「キュアウィッチロッド!! サンダーボルト!!」
手持ちの杖の先に埋め込まれた神秘の貴石。
集約した魔力は電気エネルギーへと変換され、カオスヘッドたちに雷撃をお見舞い。
雷撃の直撃を免れなかった彼らは、こぞって黒焦げとなって倒れる。
一方、二人のプリキュアたちの使い魔であるレイとクラレンスは人間態の姿で背中を合わせる。
『『『カオスヘッド!!』』』
四方には凶悪なカオスヘッドたち。完全に囲まれた状況で、クラレンスはレイと目配せをする。
「レイさん!! あなたの力を私にお貸し下さい!!」
「了解だ!! カリバーチェインジー!!
レイは人間態からエクスカリバーとなった。
刀剣へと姿を変えたレイをクラレンスは装備――周りで待ち構えるカオスヘッドたちへ突撃する。
「はああああああああ!!」
決して臆さず、怯まず――ディアブロスプリキュアとその使い魔たちは持てるすべての力を集約して目の前の理不尽な現実に抵抗する。
カオスヘッドと戦うプリキュアはキュアベリアルとキュアウィッチだけではなかった。
本来、ディアブロスプリキュアとは敵対関係にある天使族出身のプリキュア――キュアケルビムもまたカオスヘッドと死闘を繰り広げている。
元々が天使である彼女。いかなる理由があろうと堕天使の行いを見過ごす事はできないし、正当化するつもりもない。
たとえ黒薔薇町が悪魔たちの拠点だと分かっていても、彼女が戦う理由はただひとつ――この町で平穏な生活を営む一般市民、すなわち人間のためである。
「プリキュア・ポーラルリヒト!!」
聖なる光のシャワーの一撃。
カオスヘッドたちはそれによって次々と浄化され、多くが元の人間の姿へと戻る。
だが不幸なことに、カオスヘッドは尋常じゃない数だ。いくら倒しても限りという物がまるで見えない。
「このカオスヘッドたちは、数が多いのもさることながら一体一体が非常にタフで手強いです!!」
ケルビムのパートナー、ピットがそんな弱気な言葉を漏らす。
「だから何なの!? そんな事で音を上げるなら、お笑いだわ!!」
絶望的な状況だろうと、諦めるわけにはいかない。
ケルビムはピットを聖弓ケルビムアローの姿にし、その手に装備した。
襲来するカオスヘッドたちに狙いを定め――聖なる光の力を込めた一矢を射る。
「ホーリーアロー!!」
『カオスヘッド!!』
堕天使の力の一部を受け継ぎ、光の槍を使ってベリアルを攻撃するカオスヘッド。
悪魔にとって光の槍は掠るだけでも凄まじいダメージを蓄積させかねない危険なもの。ベリアルは細心の注意を払い一撃一撃を慎重に躱し、一旦中空へと逃げる。
「ベリアルスラッシャー!!」
そして一気に急降下。翼から手裏剣を高速で撃ち出す。カオスヘッドは力のごり押しによって、後ろへ倒れる。
だが直後、ベリアルの背後に二体のカオスヘッドが接近する。
「は!!」
『『カオスヘッド!!』』
息の合ったコンビネーションを発揮する二体のカオスヘッドのダブルパンチ攻撃が、ベリアルの体に炸裂。
「きゃあああ!!」
「「「リリスちゃん(様)(さん)!!」」」
不覚にも背後を取られたベリアル。中空から地面へと激しく叩きつけられた。
凄まじい一撃だった。ただの人間なら全身の骨が折れて即死は免れなかっただろう。
プリキュアとはいえ基本は女の子。ベリアルの全身の骨が軋み、表情も苦々しいものとなる。
二体のカオスヘッドは、怯んだ彼女に光の槍を向けるという非情な攻撃で止めを刺そうとする。
『『カオスヘッド!!』』
「しま……」
この攻撃が決まればベリアルは……躱しきれないと思ったまさにそのとき。
「――ダークネススラッシュ――」
足下から紫の魔法陣が現れ、そこからバスターナイトが出現。
『『カオスヘッ……!!』』
バスターナイトはバスターソードを払い、X字の斬撃をカオスヘッド二体へと浴びせ、見事迎撃――ベリアルの窮地を救う。
思わぬ助っ人の登場にベリアルは唖然とする。
カオスヘッドを撃退したバスターナイトはベリアルへと振り返り、その身を案じる。
「大丈夫かい?」
「バスターナイト……! どうしてここに!?」
「オレだけじゃないさ」
そう言ってバスターナイトは空を指さした。
全員が空を仰ぎ見ると、意外な者が宙を舞っているのに気付く。
純白の翼を広げ、滑空する天使――キュアケルビムは装備した弓を使い、地上のカオスヘッドたちを聖なる光の力で浄化する。
「キュアケルビムさん!!」
「なぜ来た!?」
「堕天使の侵攻を野放しにするほど天使は落ちぶれていないわよ」
ウィッチやレイの疑問に答えると、ケルビムはディアブロスプリキュアを援護する形で目に映るすべてのカオスヘッドを撃破。
それが済むと、ベリアルの元へとゆっくりと降りてくる。
「キュアケルビム……」
「べ、別に勘違いしないで欲しいけど私はあなたを……」
明らかに照れているケルビムだが、ベリアルは最後まで彼女の言葉を聞かず素通りした。
「って!! なにスルーしてるのよ!!」
話の途中だというになんて失礼な――そう思うケルビムとは裏腹に、ベリアルから返ってきた言葉は予想外のものだった。
「だって……ツンデレ系の台詞は正直色んなもので取り上げられてるでしょ。もう聞き飽きてるのよ、こっちは」
「だ、誰がツンデレですって!? もう一回言ってみなさ……!」
反論しようとした直後、ベリアルはケルビムの言葉を遮り次に現れたカオスヘッドの相手をするため空へと移動。
「ってコラー!! だから人の話を聞きなさいよ!!」
ツンデレという言葉ができて久しいが、ベリアルにはこれまでのツンデレ理論はまるで通用しない様だ。
ウィッチと二体の使い魔は、ベリアルのペースに振り回されるケルビムの事を気の毒だと思いつつ、こっそりと笑う。
「何というか、分かりやすい人ですよね」
「あんな絵に描いたツンデレがまだこの世界にいたんですね!」
「その上リリスさんのペースに嵌められて……いいキャラしていますよね」
「ちょっとそこ。何か言いたいの!?」
「「「いいえ! 何でもありません!!」」」
小声でも人の悪口とははっきりと聞こえるらしい。
案の定、地獄耳なケルビムから怒号が飛んで来るや、あまりの迫力にウィッチたちは声を震わせながら謝った。
『『『カオスヘッド!!』』』
「はあああああああああ!!」
倒したそばから魔法陣を通じて召喚されるカオスヘッドたち。
ベリアルは底の知れないカオスヘッドたちを相手取りながら、ケルビムへと呼びかけた。
「キュアケルビム! 天使としてのあなたの使命が悪魔の殲滅なら、それはそれでも構わないわ!!」
言葉の途中でカオスヘッドが攻撃を繰り出す。紙一重で攻撃を躱し、ベリアルは更に続ける。
「だけど、今はお互いのためにも一時休戦にしてこいつらを倒すのに協力しましょう!! いえ…… 協力してほしいの!!」
思いがけない提案、もとい懇願だった。
聞いた瞬間、ケルビムは一瞬聞き違いだと思った。だがベリアルは本気らしく、その瞳からは微塵の悪意も感じられない。
「……ふふふ。天使と悪魔が堕天使討伐のために共闘なんて、実に突飛でナンセンスな発想だわ」
『カオスヘッド!!』
隙を見てカオスヘッドがケルビムへ拳を叩きこむ。
ケルビムは敵の拳を片手で受け止め、口角つり上げる。
「でも、あなたのそういうところ嫌いじゃないわ!!」
刹那。柔道の要領で巨大なカオスヘッドを一本背負い。
ケルビムの口からいい返事が返ってくると、ベリアルもまた口角をつり上げウィッチたちへ呼びかける。
「はるか、レイ、クラレンス、バスターナイト、あなたたちもいいわね!」
「もちろんですよ!!」
「リリス様の提案に異論はありません!」
「私もレイさんと同意見です」
「オレははじめからそのつもりだったよ」
ベリアルの提案に全員が賛同する。
今まさに、悪魔と天使と暗黒騎士による即席の共同戦線が成立した。
「はああああああ!!」
「うりゃああああ!!」
数の暴力もなんのその。
ディアブロスプリキュアを中心に、全員が力を合わせこの最悪な状況を切り抜けるために全身全霊の力を振るう。
正規のプリキュア三人と暗黒騎士、使い魔も入り乱れての大混戦――カオスヘッドという言葉が示す混沌とはこの事だろうか。
「派手に動くな! 円陣だ!」
周りを見ながら戦っていたバスターナイトが一声を発すると、ベリアルたちも自然と言われた通りの事をし、全員で円陣を組む。
「臆せず隣の者の背中を守るんだ。数は多いがオレたちの力なら倒せる。消耗を抑えて粘れば、いずれこちらが有利になる」
バスターナイトの戦術にレイが称賛の声を上げる。
「貴様もかなりの策士だな」
「ホント。理にかなった作戦だわ」
「いいですよ、それでやりましょう!」
「みんなの力を合わせましょう!!」
ベリアルたちがすんなりとバスターナイトの提案を受け入れたのを見て、ケルビムは内心驚いた。
(バスターナイト……この者の言葉で悪魔と使い魔たちの心が一つにまとまっている。なんという統率力の高さなの?)
『『『カオスヘッド!!』』』
そのとき、空中よりカオスヘッドたちが飛んできた。
ケルビムは弓を空へ向けると、飛来するカオスヘッドたちに光の矢をお見舞い――すべて撃ち落とす。
「世の中にあるのは白と黒だけじゃない……なるほど。あなたの言った通りかもしれないわね、バスターナイト!」
「キュアケルビム……」
『『『カオスヘッド!!』』』
ベリアルたちは円陣を崩さない配慮をしつつ、向かって来るカオスヘッドたちを抑え込む。
バスターナイトが言った様に、おっかなびっくりではなく隣にいる者の背中を守りながら戦う事で、本来あるべき力を発揮できた。
「今こそ、ひとつになるとき!! 我が主――キュアウィッチに力を!!」
数が段々と減ってきたところで、一気に勝負をかけようとクラレンスはキュアウィッチロッドと合体する。
「行きますよ、クラレンスさん!!」
〈はい!! はるかさん!!〉
全身の精神エネルギーを魔力へと変え、ウィッチとクラレンスは互いの想いと意識をキュアウィッチロッドへと集中する。
「〈バーニング・ツイン・バースト〉!!」
次の瞬間、カオスヘッドへ向けてキュアウィッチロッドから橙色と紅色の魔力エネルギーが怒涛の如く放射。
着弾と同時に大爆発――カオスヘッドたちは一網打尽となって瞬時に浄化される。
「ピット!! 私に力を貸してちょうだい!!」
〈もちろんですわ!!〉
天空を舞い、鳥よりも自由に動き回る天使。
ケルビムはピットが変化した聖弓ケルビムアローを力いっぱい引き、圧縮した聖なる光を雨のように降らせる。
「プリキュア・ディバインバプテスマ!!」
光の矢による洗礼――何千という数の光の矢が降り注ぐことで、逃げ場のないカオスヘッドたちはたった一度の攻撃で大量浄化される。
「リリスの平穏な日々をこれ以上壊させない」
恐らくベリアルやケルビム以上に高い戦闘力を持ち、多くの場数を踏んでいると思われる存在――暗黒騎士バスターナイト。
彼は数に頼るばかりで統一性が感じられないカオスヘッドたちの攻撃を的確に捌き、往年の実力の差を見せつける。
「エントリヒ・アーベント」
剣先を地面へと向けると、斬撃が波動となって拡散。
カオスヘッドたちは地面より伝わる強力な力を前に圧倒され、ことごとく吹っ飛んだ。
「フィルストゲシュタルト!!」
ベルーダ製の強化変身リング・フィルストリングを使ったベリアルは風を司るフィルストゲシュタルトへと変身。
レイは強化変身したベリアルの力に合わせて、最も相性の良い武器となる。
フィルストゲシュタルトと相性が良い武器はボウガン。ベリアルはレイボウガンを装備し、風の力で敵を制圧する。
「これで決めるわ!」
全神経を研ぎ澄ませ、ベリアルはボウガンより高密度に圧縮した風の砲撃を放つ。
「プリキュア・スーパーテンペスト!!」
プリキュア・スーパーウインドラグーンより強力な風が辺り一帯に吹きすさぶ。
直後、ボウガンからより高密度に圧縮された空気弾が連射され、敵を瞬く間に撃ち抜く。さらに複数命中することでその分威力が上昇、爆発も連続で起こる。
『『『カオスヘッ……!!』』』
強力無比な力がカオスヘッドを一掃する。
だがそのとき、中空から紅色に染まった光の槍が飛んで来た。
「……ッ!」
咄嗟に光の槍を躱したベリアル。頭上を見上げると、そこにいたのは災厄の根源だった。
「待っていたぞ、プリキュアたち」
「あんたは……!!」
黒い翼を広げ舞い降りてくる因縁の敵。
堕天使ザッハは部下のラッセルとコヘレトを連れて、満を持して参戦する。
「堕天使ザッハ……やはりあなただったんですね!!」
〈それに毎度のことながら、あなた方もしつこいですね〉
堕天使によって悔しい思いをしたウィッチとクラレンスが嫌悪感を示す一方、当人たちはまるで意にも介していない。
「おーほほほほほほ!! 何とでもおっしゃい。忌々しい悪魔どもめ、今日こそ息の根を止めてやるわ!!」
「うちの大将を怒らせたんだ。この前の借りは千倍にして返してやるぜ!!」
と、コヘレトが言った瞬間、地面から複数の魔法陣が出現。
そして先ほどと同様に大量 のカオスヘッドが現れ、邪悪な雄叫びを上げる。
『『『カオスヘッド!!』』』
ベリアルたちは一度散開してカオスヘッドの攻撃を回避。
そして大元の原因である召喚主を攻撃するため、狙いをザッハに集中する。
「イーグルショット!!」
ベリアルはレイボウガンから風の塊を放つ。
放たれた風はザッハへと向けられる。それに対して、ザッハはカオスヘッドを盾にする事で自分へのダメージを回避する。
「まとめてかかってこい、下等種ども!!」
ザッハの言葉に白と橙のプリキュアが反応する。
「言ったわね!!」
「卑しいのはどっちですか!!」
ザッハからの挑発に業を煮やしたケルビムは矢を放ち、ウィッチは魔力弾を撃つ。
二人の攻撃をザッハは華麗に躱す。そして頃合いを見計らったように部下であるラッセルとコヘレトがダブル攻撃を仕掛ける。
「「はあああああああああああ!!」」
堕天使とはぐれエクソシストによる攻撃をケルビムとウィッチはともに躱す。
「グラーフゲシュタルト!」
ベリアルはグラーフリングを装備し、フィルストゲシュタルトからより攻撃力重視のグラーフゲシュタルトへ変身する。
「何をしても無駄だ。貴様らの力では我を滅ぼすことはかなわぬ」
プリキュアの攻撃に一切の恐怖を感じていないザッハ。終始不遜な態度を取る堕天使の鼻を明かす為、バスターナイトとベリアルは互いの顔を見合う。
「ダークネススラッシュ!」
「ついでにこれもおまけよ!」
そして今度はバスターナイトとベリアルがお互いの能力を掛け合わせる。
絶大な威力を誇るダークネススラッシュと、それにプラスされるグラーフゲシュタルトの炎エネルギー 。
闇と炎 の斬撃がザッハを迫ったが、直前でザッハは攻撃の軌道を逸らし、強大なエネルギーの塊はラッセルとコヘレトを直撃した。どうにか致命傷は避けられたが、強大な技の威力に押され後退する。
「チキショウ……ひでーとばっちりだぜ!!」
「よくも私の超高級ブランド服に……!」
無傷でいられるはずもなかった。コヘレトは不可抗力で傷を負わされたことに、ラッセルは華美なチャイナドレスに焼け焦げを付けられた事に怒りを覚える。
怒る二人は邪気から生まれるエネルギーを集約し、合体技を披露する。
「「消し飛べ!!」」
邪気を結集した破壊光線。
禍々しい色を持つ強大な力をベリアルとバスターナイトは真正面から受け止め、必死に耐える。
「「くうう……」」
「私の大切な友達に手を出さないでください!!」
「別に悪魔を助けたいわけじゃないからね!!」
二人の窮地を救うため、ウィッチとケルビムはラッセルとコヘレトを攻撃する。
ウィッチたちの援護もあってベリアルとバスターナイトは危機を脱することができた。
「ラッセル! コヘレト! 下がれ」
「「ザッハ様!」」
ザッハが前にでると同時にラッセルたちが後退する。
「頃合いだ。私が直々にプリキュアを葬りさろう」
「はっ!! このラッセル、ご武運を祈っております」
「ケチョンケチョンにやっちゃってください、大将!!」
いよいよ、この事件の黒幕であるザッハが自らの力でベリアルたちに戦いを挑む。
おもむろに天から舞い降りるザッハにラッセルとコヘレトは片膝を突いて恭しく控える。
ベリアルたちが警戒する中、ザッハは不敵な笑みを浮かべる。
「ふふ……貴様たちに見せてやる。私の真の力を」
言った瞬間、ザッハは全身から邪悪なオーラを発する。
そのオーラは殺気に満ちたものであり、ベリアルたちも思わず後ずさるほどだった。
「我が糧となれ!! 混沌の闇より生まれし亡者ども!!」
『『『『カオスヘッド!!』』』』
周りに集まったカオスヘッドたちを、ザッハは体に取り込み始めた。
腹部に現れた黒いブラックホールに吸い込まれるカオスヘッドたちに、ベリアルたちは驚愕する。
「カオスヘッドの力を……!?」
「吸収しただと!」
カオスヘッドを取り込むことでザッハの外見は顕著に変化していく。
上腕二頭筋は見る見る膨れ上がり、大胸筋もそれに伴い固く逞しくなっていった。
鋭い目つきは寄り鋭く凶暴なものへと変貌。合計四枚の翼は六枚へと生え変わる。
しまいには頭に螺旋状の角まで生えてきた。
人々が思い描く堕天使らしいおどろおどろしい姿へと変貌したザッハに、ベリアルたちは絶句する。
「まとめて引導を渡してやる!」
あふれ出る負のオーラに後ずさりそうになるが、ここで引けば誰がこのおぞましい相手と戦えるというのか。
「「「「はあああああああ!!」」」」
怖いなどとは言っていられない。
四人はほぼ同じタイミングで前へ飛び出し一斉攻撃を仕掛ける。
ザッハは、猟奇的な笑みを浮かべると全身から禍々しいオーラを発し、その圧だけでベリアルたちをまとめて吹き飛ばす。
「「「「ぐあああああ!!」」」」
各々、建物や地面などに激しく叩きつけられる。
「カオスヘッドどもの力を吸収したんだ。こんなのまだまだ序の口だ」
そう言って、亜空間から両手剣を召喚しこれを装備する。
「来るがよい!」
「言わせておけば……」
「調子に……乗るんじゃないわよ!!」
ザッハの挑発を真に受けたベリアルとケルビムが飛び出した。
「リリスちゃん! ケルビムさん!」
「やめるんだ、二人とも!!」
「「はああああああ!!」」
ウィッチとバスターナイトの制止を振り切り二人はザッハへと突進。
「ぬらあああ!!」
口角をつり上げると、ザッハは手持ちの両手剣を豪快に振るいベリアルとケルビムを斬りつける。
「「があああ!!」」
強烈な一撃。
ベリアルとケルビムは想像を絶する攻撃にあっという間に意識を持っていかれそうになる。
「ふはははは!どうしたそんなものか?」
「ザッハ!!」
「許さんぞ!!」
目の前で親友を傷つけられた事をウィッチは黙っていられなかった。
バスターナイトもまたベリアルを傷つけたザッハを許せなかった。二人は怒りを露わに、ザッハへと攻撃を仕掛ける。
「キュアウィッチロッド!! ブリザードスピア!!」
杖の先から無数とも言える氷の槍を放ち、ウィッチはザッハの体を凍結させる。
その隙にバスターナイトが動けないザッハへ接近し、斬りつける。
「はああああああ」
だが直後、氷漬けになったザッハの氷が砕ける。
ザッハは斬りかかったバスターナイトの魔剣を鷲掴みにして受け止める。
「なに!?」
「詰めが甘いわぁ!!」
剛腕でもってバスターナイトをウィッチへと放り投げる。
「「うわああああ!!」」
ウィッチはバスターナイトの下敷きとなって巻き添えを被る。
「この!!」
「堕天使風情が!!」
復活したベリアルとケルビムは、左右からボウガン と光の矢を放って対抗する。
だが、ザッハは容易に二つの攻撃を手持ちの両手剣で弾き返し、ベリアルとケルビムが当たるように仕向けた。
「「だああああ!!」」
ここまではザッハの独壇場だ。
カオスヘッドの力を吸収し、パワーアップした敵に小手先の攻撃は何ひとつ通用しない。
ならば――ベリアルたちのやる事はひとつ。それぞれの必殺技を同時にザッハへ叩きこむ以外に最早勝機は無い。
背水の陣。ベリアルたちは四方に散らばり、中央のザッハ目掛け必殺技を繰り出す。
「プリキュア・ルインフェノメノン!!」
「プリキュア・オーバー・ザ・レインボー!!」
「プリキュア・ポーラルリヒト!!」
「ダークネススラッシュ!!」
四人が繰り出す最強の必殺技が炸裂した。
しかし爆炎が晴れると、ザッハは平然とした様子で立ちはだかっていた。ザッハの体にみなぎる邪気はベリアルたちの想像を遥かに超えていた。
「無力……あまりに無力!!」
体から衝撃波を飛ばして攻撃。
ベリアルたちにダメージを与えたと思えば、手のひらから火球を作り出し、それを四人へとぶつける。
「うらあああああああ!!」
「「「「うわあああああああああああ!!」」」」
今までにない敗色濃厚な雰囲気。ベリアルたち四人の力はまるでザッハの足元にも及ばない。
「どうした、その程度か? ふははははははは!!」
「嗚呼、ザッハ様!! なんと素晴らしい力なのでしょう!!」
「よっ!! 我らが堕天使の大将!! 堕天使一!!
「これが私の力だ。私こそが、真の堕天使!! キング・オブ・フォールエンジェルなのだ!!」
ベリアルたちを圧倒し、部下たちからも称賛の言葉をもらいザッハはすっかり上機嫌となる。
その一方で、ベリアルたちは満身創痍の姿で地に這いつくばり、立つこともままならない。
「な、何て奴だ……」
「歯が立ちません……」
「どうするの……手に負えないわ」
絶望する三人にベリアルが叱咤する。
「あきらめちゃ……ダメよ!! あんな奴の……好きになってたまるもんですか!
これだけの力の差を見せつけられても、ベリアルの闘志は消えていない。
どれだけ傷つこうと諦めずに立ち向かおうとする意志がベリアルにはある。そんな彼女に触発されて、ウィッチにケルビム、バスターナイトも歯を食いしばって立ち上がる。
「往生際が悪いわね。それ以上醜い姿を見せないでくれるかしら?」
「ザッハ様、ひと思いに止めを刺してやりましょう!」
「よかろう。さぁ降伏するがよい!! 我が力の前に!!」
今一度火球を作り出し、ベリアルへ攻撃をしようと狙いを定める。
「消え去れ!! 死に損ないの悪魔が!!」
飛び切り下種な笑みを浮かべるとともに、勢いよく火球を放つ。一直線上に走る灼熱の炎が動けないベリアルへ飛来する。
(ここまで、か……)
だが、次の瞬間。思わぬことが目の前で起こった。
「ダメですっ――!!」
すんで のところで、ウィッチはベリアルへと向けられる攻撃を自らが盾となる事で防いだ。
だがそれは同時に彼女のダメージを蓄積させる事を意味しており、ベリアルは自分の目の前で大ダメージを負った親友の姿に目を疑った。
「はるかぁぁあ!!」
ベリアルの声も虚しく、ウィッチは強制的に変身が解除され意識を失い力なく倒れた。
≒
さかのぼる事、八年前 ――
「ねえねえ、悪原さん。今日学校が終わったらウチでおままごとするんだけど、いっしょに遊ばない?」
「すーんごい立派なセットがあるんだよー!」
休み時間、リリスは自席で頬杖をついて外を眺めているのが日課であった。小学一年生ともあれば、学校が終われば一目散に帰宅して皆で遊ぶのが人並みの生活の仕方だろう。彼女たちもまた例に漏れず遊び盛りであり、いつも一人で物憂げに外を眺めているリリスをターゲットにして、仲間に入れようという算段だった。
しかし、リリスは、
「…………」
ただただ無言を貫く。
「……悪原さん?」
「もういいよ、いこっ」
リリスはすぐに諦めてくれたことに内心ほっとする。
洗礼教会の手によって引き起こされた悪魔界での惨劇は、まぶたを閉じれば昨日のことのように思い出す。最愛の家族を失って、命からがら人間界へと逃げてきたリリスは、わずかな悪魔の生き残りとともに世界各地に散らばって洗礼教会から身を隠すように生きていた。
リリスが最初に降り立ったのは欧州、ドイツ連邦共和国。そこで友人や婚約者、ベリアル家に仕えていた貴族と再会し、幼いリリスは使い魔のレイを伴い、共同生活をしていた。
家族を失った心の傷痕も彼らとの生活で少しずつ癒えてきた頃、洗礼教会の悪魔残党狩りが始まった。
人間界に逃げた悪魔を殲滅するためにやってきた洗礼教会の執拗な捜索によって、一緒に暮らしていた悪魔たちはまたも離散することとなった。徐々に住処を追われ、ついには婚約者とも離ればなれになり、その後の動向を噂で聞くことは一度もなかった。
洗礼教会の手が近くまで迫ってきた時、リリスはまだ奴らの目が行き届いていない遠い地へ、と周囲の大人たちがどうにか手続きを済ませて手に入れた日本国籍と日本の小学校への入学手続き書類を手渡される。
『魔王ヴァンデイン・ベリアルの姫君よ。これからここより遠く離れた日本国へと転送いたします。そこで貴方は――』
『悪原リリス、を名乗るわ。〝悪〟魔の〝原〟種……悪魔界を束ねたベリアル家が名乗るのにふさわしい、いい名前ね……』
かつての悪魔界を思い出し感傷に浸る。
『リリス様……心中お察しいたします』
レイが心配そうにリリスに寄り添う。リリスは首を横に振って気を取り直し、姿勢を正すと、
『今までありがとうございました』
感謝の意を伝え一礼すると、転移魔法陣をくぐって遠い東方の国へと渡ってきたのであった。
(これ以上、大切なものを失わないために、私が自立してしっかりしないと……)
リリスが心の中でぼやいていると、ふいに耳がキーンとなるような大声が頭に響く。
「悪原さん! 今日こそいっしょに遊びましょう! 毎日毎時間座りっぱなしだとそのうち根っこが生えて立てなくなるってテレビで言っていました!!」
また来たか、とリリスは思った。大抵の子は何度か無視すると諦めて立ち去ってくれるのに、この少女だけは一向に諦める気配がなく、毎日果敢に話しかけてくる。
「……何なのよ、そのテレビ。嘘もいいところじゃない。そんなデタラメなことを流していたらそのうち訴えられるわよ」
たまらずリリスが口を開くと、少女はにんまりと笑顔になってさらに言葉を返す。
「悪原さん、今日は返事をしてくれましたね! でもテレビは本当ですよ! はるかの夢でちゃんと見ましたもん!」
リリスの塩対応にもめげない少女、はるかが胸を張って答えると、
「…………」
夢と現実をごちゃ混ぜにした回答に呆れたリリスは半目になって口をつぐむ。
「あれれ、悪原さーん? おーい」
無言になったリリスにはるかが手を振って見せるが、やがてぷいと顔を窓にやり再び無言を貫く。
「ぐぬぬ。でも今日は一言お返事がもらえたので一歩前進です! 明日もお話しましょうね!」
はるかが言うと、リリスは明日も来るのか、とうんざりする。
リリスには友達がいなかった。普通の子どもでは到底得がたい悲惨な幼少期を送ったリリスは、誰かを大切に思えば思うほど、失った時の代償が大きいことを知っていた。いつしか、それはリリスの心を覆う鎧となり、必要以上の接触をしないようになっていた。
周りも子どもながら空気を察してか、積極的にリリスに絡んでくる者などほとんど存在しなかった。
しかし、はるかだけは違った。
来る日も、
「悪原さん! 昨日の帰り道にこーんなちっちゃなネコさんがいてですね!」
来る日も、
「悪原さん! この間はじめてお母さんにお使いを頼まれまして!」
時間を見つけてはリリスに話しかけてきた。最初は無視を決め込んでいたリリスも、底抜けたはるかの明るさに引っ張られるかのように徐々に口数が増えていき、やがて、
「悪原さん! あのですね……」
「リリス」
「ハヒ?」
はるかが首をかしげる。
「リリスでいいわよ。……ねえ、あなたはなんで私なんかにかまうわけ? 他の子と一緒にいた方が断然有意義な人生になると思うけど」
リリスがはるかの理解不能なまでのしつこさに、本心から尋ねる。すると、はるかはいつもと変わらぬ笑みで答えた。
「だって笑っていた方が楽しいじゃないですか! 悪原……リリスちゃんが毎日さみしそうに外を眺めているのを見ていたら、はるかも胸がきゅーっとなっちゃって。気付いたら絶対笑わせてやるぞーって」
えへへ、と笑ってはるかは頬をかく。
それを聞いたリリスは、
「……プッ。何それ」
何の取り留めもない会話であったが、ふと笑いがこぼれてしまった。あの大災厄の日以降、リリスははじめて笑顔を見せた。積もりに積もったはるかの太陽のような明るさがリリスの暗闇の雲に一筋の光を通した瞬間だった。リリスを覆った心の闇はまだ完全に晴れはしないが、今この時はこれで十分だった。
目の前の少女はこれから先もきっと自分に幸いを与えてくれるのだろう。そう思ったリリスの口からは、自然と言葉があふれていた。
「ありがとう、はるか」
……………………
………………
…………
……
≒
「はるかぁぁあ!!」
「はるかさん!!」
あまりに無情な現実。ケルビムとバスターナイトが言葉を失う中、ベリアルとウィッチの変身が解けたことで分離されたクラレンスが倒れたはるかに呼びかける。
「はるか!! しっかりしなさい!!」
「はるかさん!! お気を確かに!!
「リリス……ちゃ……ん」
か細い声ではるかはベリアルの頬に手を添える。
「よかった……生きて……て……」
虚ろな目でベリアルを見ていたと思えば、はるかの力が急に途絶え――ベリアルに当てていた手を下へと落とした。
「はるかっ!!」
「うそ……!? 」
キュアケルビムの正体、テミス・フローレンスはクラスメイトの痛烈な姿に息をのむ。
「はるか!! お願い目を覚まして!! はるかッ!!」
「オレに見せてくれ」
動揺を隠しきれないベリアルにバスターナイトが声をかける。
どうしていいのか分からない彼女に代わって、バスターナイトははるかの脈拍を確かめる。
「……微かだが、まだ息はある」
「本当!?」
「しかし、危険な状態であることに変わりはない。オレが応急措置を―――」
「ヒーリングパルス」
そのとき、ケルビムがはるかに対して救護用の術式を施し始めた。
「キュアケルビム……!」
ベリアルとバスターナイトが目を疑うのに対し、ケルビムは言う。
「本当なら今すぐにでもあの堕天使を殴りつけてあげたいわ。だけど、その役目は私じゃない……あなたよ!!」
ベリアルを指してそう投げかける。
彼女の気持ちを受け取り、ベリアルはザッハへの怒りを沸々と湧き上がらせる。
「よくも……よくも私の親友にこんな仕打ちをしてくれたわね」
「ふふふ。打算で動く悪魔に友情を語る資格があるのか? その人間の娘も実に哀れなものだ。悪魔など庇わなければこんな目に遭わずに済んだというのに」
「そうね。私に関わらなければ、はるかはこんな辛い思いをしなくて済んだのかもしれない……いえ。確実にそうよ」
「断言できるくらい分かっていながら、貴様はその娘を戦いのために利用した!! 悪魔とは実に愚かな存在よ!! そやつが悲しまぬように、貴様もすぐに後を追わせてやろう!! 」
ザッハは狂ったような表情で、その手に光の槍を生み出した。
光の槍をベリアル目掛けて飛ばす――が、その瞬間ベリアルは飛んでくる光の槍を鷲掴みにして受け止めた。
「な……!?」
「……私を咎めるのなら好きにするといいわ。だけど、はるかは何ひとつ間違った事はしていないわ!!」
自分が傷つくことは覚悟の上。だがベリアルを守るためにはるかは身を投げ出し瀕死の重傷を負った――ベリアルにはそれがどうしても許せなかった。。
「十年前……最愛の家族を失い寄る辺の無かった私はこの人間界でひとりぼっちだった。そんな私に声をかけてくれたのがはるかだった。私はあの子から生きる力をもらった。数えきれないくらいあの子の心に救われてきた!! 私の正体が悪魔である事をはるかは受け入れてくれた!! 洗礼教会に復讐するという邪な目的でプリキュアになった私を、あの子は受け入れてくれた!! 四面楚歌の状況でも私と一緒に戦ってくれる事をあの子は受け入れてくれた!!」
並々ならぬはるかへの強い情愛。
父母を失いたった一人で人間界で生きて来たベリアルにとって、唯一の寄る辺であった人間、天城はるか。それを奪う無粋な輩、堕天使ザッハをこの手で倒す――ベリアルはそう固く誓う。
「堕天使ザッハ……私は立ち止まってる暇など無いの。私から大事なものを奪うっていうなら、まずはあんたのその命……獲らせてもらうわ!!」
「笑わせるな! 貴様は既に満身創痍。そんな体で何ができる!?」
確かに、ザッハの指摘は正しかった。
しかし、ベリアルにはとっておきの秘策が残っている。
彼女はこのときとばかりにとっておいた最終兵器――ベルーダから本日受け取ったばかりの第三の強化変身リング・ヘルツォークリングを取り出した。
「それは……!」
ザッハが目を疑う。
ベリアルはベリアルリングの上に重ねるように指輪をはめると、天に向かって腕を突き上げる。
「ヘルツォークゲシュタルト!!」
ヘルツォークリングが光を帯びてベリアルの体を青色のオーラで包み込む。
ベリアルの全身を青々とした雷が彼女に力を与える。青を基調とした衣装へと変化し、全体的にエッジを効かせた様なデザインとなる。
稲妻のように毛羽だった髪を持ち、ところどころに雷の意匠をあしらって背中の翼もそれまでの二枚から四枚へと変わる。
これが、キュアベリアルが発現した第三の強化形態――雷の力を秘めし悪魔公爵。その名を。
「キュアベリアル・ヘルツォークゲシュタルト」
グラーフとフィルスト時とは比べ物にならないエネルギーの密度が全身から滾ってくるのを実感しながら、ベリアルは大きな声で呼びかける。
「レイ!! 来なさい!!」
「リリス様……はい!! いきますよ――!!」
ベリアルが新たな力を手に入れた事で、使い魔のレイにも変化が生じる。
「ハルバード チェイーンジ!!」
それまでは剣とボウガンにしかなれなかったレイが手にする新たな変身能力。姿を戦斧の形をした武器【魔戦斧レイハルバード】に変化させベリアルの装備品となる。
「こけおどしだっ!!」
ザッハは己の力を過信し、何の警戒もせずにベリアルへと突っ込んだ。
「はあああ!!」
繰り出されるザッハの斬撃を、ベリアルはレイハルバードで受け止め、今まで傷ひとつ付けられなかったザッハの体へ深く斬り込んだ。
「ぐああああ!!」
一撃一撃がとても重い。
おまけに雷の力が付加された斬撃はザッハの体力を著しく奪っていく。
「おのれ……ならば!!」
雷には雷と、ザッハは空に雷雲を発生させベリアル目掛け稲妻を落とす。
だが、ベリアルは向けられた雷エネルギーをすべて吸収。その力を逆にハルバードの先端から斬撃と一緒に撃ち返した。
「のあああああああ!!」
「すごい……今までの強化変身とは比べ物にならない力だわ」
グラーフゲシュタルト、フィルストゲシュタルトとは比べ物にならないパワーを持つフィルストゲシュタルトの力は想像を絶しており、ケルビムも唖然とする。
「はあああああああ!!」
やられっぱなしだったベリアルはこの変身を機に反撃――今度はザッハが防戦一方と化し、たちまち傷の数を増やしていく。
「ぐあああああああ!!」
カオスヘッドの力を取り込み自分は強くなったと思っていた。
しかし、ベリアルが手にした力はそれ以上であり、対抗策がことごとく潰される事がザッハには耐え難く信じられなかった。
「認めぬ……認めぬぞ……貴様のような下等な悪魔如きに!!」
「終わりよ」
すべてを破壊し尽くす堕天使に裁きの鉄槌を。
ベリアルはハルバードに魔力を集中させ、四枚の翼を広げ飛翔する。
「プリキュア・ラスオブデスポート!!」
掛け声とともにハルバードを振り下ろす。
その瞬間、ハルバードの刃に重なるようにして雷を帯びた巨大な刃が現れ、二つの刃はザッハの体を斬り裂く。
「う……わあああああああああああああ!!」
「ザッハ様!!」
「そんな……マジかよ!!」
ラッセルとコヘレトが目を疑う。
凄まじい一撃を受けたザッハは爆炎の中から虫の息に近い姿で現れた。
自慢の翼はすべてもぎ取られ、立ちあがる力すら残っていない――ザッハは戯言のように呟く。
「私は……わたしは至高の存在に……」
「無理よ。あんたをこの上も無く優れた存在だと認めるものはあんただけ。周りがそうだと認めない限り、永遠に優れているものにはなれないわ」
「わ、若造が……」
そう言い残すと、ザッハは命の全てを燃やしつくし黒い羽根となって肉体を消滅させた。
「ザッハ様が……負けた!!」
「チックショウ!!」
ラッセルたちはショックを隠し切れなかった。
あまりの衝撃に言葉を無くし放心するラッセルを連れて、コヘレトは強制帰還した。
堕天使による黒薔薇町への襲撃はザッハの消滅とともに終焉を迎えた。
「はるか! 目を開けて、はるか!!」
「う……っ」
バスターナイト及びケルビムの治療の甲斐あって、はるかはどうにか一命を取り留めた。
ベリアルの呼びかけに答える形で目を覚まし、はるかは安堵するベリアルを見ながら屈託ない笑顔を向ける。
「……勝ったんですね」
「そうよ。だけどそのためにはるかは……」
大切なものを守るために、何よりも大切な彼女を傷つけてしまった。
後悔と自責の念を抱くベリアルの目から涙が零れ落ちるが、はるかはそんな親友の涙を優しく拭い去る。
「泣かないでください。リリスちゃんが泣くなんてらしくありません……いつも通り、リリスちゃんは気丈に自然体で振る舞ってください」
「……バカね……私ははるかが思ってるほど気丈じゃないわよ」
美しい友情だと、レイとクラレンスが思っていると――ケルビムがその場を立ち去ろうとするのが目に入った。
「……キュアケルビムさん」
クラレンスが呼び止めると、彼女は背中越しに「壊れた町の修復作業があるからこれで失礼するわ」と言い残し、ベリアルたちの前から飛び去った。
だんだんと小さくなる姿を追いながら、はるかが空に向かって叫んだ。
「また来てくださいねー!!」
「もう来なーい!!」
どこまでも素直じゃないケルビム。
だが今回の事でベリアルたちの中での彼女の評価と認識が着実に変わった事は間違いないことだった。
「バスターナイト」
ケルビム同様、共に戦ってくれた暗黒騎士バスターナイトもまたその場を立ち去ろうとしたので、ベリアルは彼を呼び止める。
「いつも私の前に現れては、私のことを助けてくれる……そのこと自体はとても感謝してる。だけどどうしても腑に落ちないの。あなたが何者であるのかはっきりさせない事には」
バスターナイトは背中越しに彼女の言葉を聞き入れる。
「教えて。あなたはどこの誰なの? どうして私を助けてくれるの?」
「……そうだね。そろそろ正体を明かしてもいいのかもしれない。もっとも、オレの素顔をさらして君がオレを分かってもらえるかどうか自信はないけどね」
刹那、バスターナイトは自身を覆っていた紫の鎧を解除。本来の姿を曝け出した。
濃い茶髪に真紅の瞳を持ち、きりっと引き締まった顔つきはどこか温かみを帯びている――絵に描いたような美少年がベリアルたちに初めて素顔を見せた。
「ハヒ!! なんてレベルの高いイケメンでしょうか!!」
「仮面の下もキザッたらしい顔だったか……チクショウ!!」
「あれがバスターナイトの正体……」
ベリアルの周りで仲間たちが口々に感想を漏らす。
「久しぶりだね。オレを覚えているかな、リリス?」
バスターナイトである少年が温和な顔で尋ねると、ベリアルは目を見開き唖然としながらもゆっくりと口を開く。
「サっ君…………?」
次回予告
ク「強いけど正体不明だった暗黒騎士バスターナイト」
は「今明かされたその素顔は、クラレンスさん顔負けのイケメン王子様でした!!」
レ「そして、リリス様の脳裏に蘇る幼少期の記憶。おのれ貴様、リリス様とはどういう関係だ!! 答えろっ、イケメン王子!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『帰ってきた!!愛しいリリスの婚約者!!』」