ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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暗黒騎士バスターナイトの正体は、リリスの婚約者!
彼の知られざる素性がいよいよ明らかに・・・!!詳しくは本編を確認!!


第14話:帰ってきた!!愛しいリリスの婚約者!!

さかのぼる事、十年前――

人間界 ドイツ南西端 シュタウフェン・イム・ブライスガウ

 

「お父様……お母様……」

 故郷を焼土とされ、人間界へと避難した幼いリリスはいつも悲しい顔に満ちていた。サクヤは故郷を思い出し悲しみに暮れるリリスの顔を見て、ある日、一つの誓いを立てた。

「リリスちゃん」

 サクヤの呼びかけにリリスが顔を上げると、サクヤはしっかりと目を見つめて言った。

「泣かせない、なんて無責任なことはボクには言えないけど、でもこれだけは約束する。これから先何があってもキミの事はボクが……いや、オレがリリスを護る!」

 サクヤの言葉にリリスが目を瞬きながら、もう一度確かめるように聞き返す。

「サっ君……ほんとに? 約束してくれる?」

「うん。オレはずっとリリスのそばにいるよ。キミの婚約者として――」

 

 そう言ったときのサっ君の顔は今でも鮮明に焼き付いている。

 確か、そのときからだ。私は同い年のサっ君を異性として意識するようになっていた。

 

 サっ君はレオナルド・ダ・ヴィンチ顔負けの万能の才の持ち主で、ベリアル家と同じく元・七十二柱に位置する上流家系〝アリトン家〟の血を引いていた。

 物静かだけど、とても誠実で、そして悪魔とは思えないくらい恐ろしく優しかった。

 サっ君と一緒にいるだけで私は心がホッとして、常に満たされていた。

 その感情は日増しに大きくなっていき、やがて明確に恋慕へと昇華していった。

 

 洗礼教会の動向を警戒しつつ、私たちはお父様が若いころに人間界で親交を結んだという、神聖ローマ帝国の跡地にあるドイツ南西端の、かの有名なファウストが生涯を終えたとして有名な都市シュタウフェンに居を構える貴族の屋敷に匿われていた。

 

「――サっ君、呼んだ?」

 あるとき、私はサっ君に呼ばれて彼の部屋を訪れた。

「やあリリス。わざわざ来てくれてありがとう」

「ううん。私もちょうど座学を終えてそのあとの暇をどう潰そうか考えていたところだし――……」

「そっか。だったらいいタイミングだったよ」

 いつものように私にやさしく微笑みかけた後、サっ君が目の前に持ってきたのは、とても美味しそうなベイクドチーズケーキだった。

「うわぁ、美味しそうなケーキ! これ、どうしたの?」

「実は厨房を借りられたものだから、その……キミの為に作ってみたんだよ……」

 照れくさそうに左頬を薄く染め、指でそのあたりを掻きながらサっ君は言う。

 サっ君はとても観察力に優れていた。洗礼教会が襲撃してきたあの日以来、私に元気がない事を気にかけていたらしく、私が好きなケーキをわざわざ手作りしてくれたのだ。

 彼の心遣いに胸がぎゅっと締め付けられそうになる。私は自分の心臓の高鳴りを感じつつ、自分でも頬が紅潮していることがわかると、余計に胸が熱くなる。

 緊張した気持ちを制しながら、

「ありがとう。食べても……いい?」

 とサっ君に尋ねると、

「もちろん。キミの為に作ったものだから」

 と爽やかに笑った。

 フォークを入れて形を崩すのがもったいないくらいきれいなケーキは、とても四歳の子どもが一人で作ったとは思えぬほど見た目も味も完璧だった。小さく切り分けて一口目を頬張ると、私はあまりの美味と、ケーキから伝わる彼の心に、気付けば涙が頬を濡らしていた。

「おいしい……すごくおいしい……こんなにおいしいケーキ、わたし……初めて食べたよ」

「よかった。泣くほど喜んでもらえるとは光栄の極みだよ。キミが良ければ、いつでも作るよ。あ、もちろんキミが太らない程度にだけど」

 ウィットに富んだサっ君のジョークに思わずクスッとなりつつ、私は満面の笑みをサっ君へのお返しとした。

「うん!! ありがとう、サっ君!!」

 私は嬉しかった。

 両親を失いながらも、ただ幸福だった。

 この先何があってもサっ君と一緒なら乗り越えていける。サっ君とこの先もずっと一緒に生きていきたい、と何度も何度も強く心に願い続けた。

 

 離別はあまりにも突然だった。

 サっ君は別れの言葉ひとつ告げることなく、私の前から姿を消した。

 サっ君とその使い魔がいなくなったその日、私は五歳の誕生日を迎えた。本来ならば、ささやかだがサっ君と一緒に誕生パーティーを開くはずだった。

「ウソつき……ずっと一緒にいてくれるって……約束したのに……」

 それは、他の誰よりも深愛していた異性の明白な裏切りだった。

 私はサっ君に失望し、憎み、呪いさえしそうになった。でも……何よりも、悲しかった。

 あなたは、私のすべてだった。私はただ、あなたと一緒にいられる事が幸せだった。あなたがそばに居るなら私は他に何もいらないとさえ思っていた。

 約束したのに……ずっと一緒だと思っていたのに……なのにどうして……。

 お願いだから帰ってきてほしいと思った。神への祈りなんてできっこないけど、このときばかりは私は本気で神に願いたかった。

 サっ君を返してください、私の元に彼を戻してください、と。

 しかし、私の願いを神が聞き入れてくれるはずも無かった。結局サっ君は私の元に帰ってくることは無かった。

 

 それから程なくして、人間界で悪魔狩りを行っていた洗礼教会の魔の手が私たちを庇護していたシュタウフェンにまで及んだ。

 その頃には、私は誰にも心を開かなくなっていた。大切なものを失う気持ちを二度と味わいたくない一心で。そしていつしか、心の底から笑ったり泣いたりすることが出来なくなってしまった。

 

 ――バスターナイト、彼の素顔が暴かれるまでは。

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 

           ≒

 

現代――

黒薔薇町 市街地中心部

 

「サっ君…………?」

「久しぶりだね。リリス」

 堕天使との戦いを終えたリリスたちは、去ろうとしていたバスターナイトを呼び止め、その正体を尋ねた。

 リリスたちとともに堕天使討伐に協力した暗黒騎士バスターナイトは呼びかけに応じ、その正体を今、ついに明かした。

 素顔を晒した美少年を前に、リリスは見知っているかのように「サっ君」という愛称で呼びかける。

 これはどういう事なのか――真偽を確かめるため、はるかはレイとクラレンスと顔を見合わせたのち、おもむろに尋ねる。

「あの……お知り合いですか?」

「知り合いも何も……私の……婚約者よ」

「「「え……?」」」

 呆けた顔となる三人。

 沈黙がしばし周りを支配する。やがて、その沈黙は唐突なまでに破られる。

「えええええええええええええええええええええええええ!!」

「リリス様の婚約者ですとぉおおおおおおおおおおおおおおお!?」

「これはいわゆる運命の再会というものですね!!」

 極端に驚き唖然とする者、事実を認められずにいる者、違う観点で興奮する者とリアクションはそれぞれ。

 ただ、どんなに周りが驚こうとバスターナイトの正体であるリリスの婚約者はすべてを見透かしたように落ち着きを見せ、リリスを真っ直ぐ見つめている。

 リリスは無意識に婚約者の方へ一歩、また一歩と歩み寄りながらも、目の前で起こっている事実を受け入れがたい様子だ。

「でもそんな……だって、だってサっ君は十年前に失踪したっきり行方不明のままだったのに……なのになんで今になって!?」

「すまない……その件に関してはあとでじっくり話したい。いや、まずはキミを一人にさせてしまった事を謝るべきだよね……リリス、本当にすまなかった」

「サっ君……私」

 何か言おうとした時だった。

 リリスの体を包み込む大きくて温かい感触。

 バスターナイトの少年は何の躊躇もせず、リリスの下へ駆け寄り彼女を抱擁する。そしてその口から出た言葉は――

「ずっと会いたかった……」

 ただその一言がリリスの心に染みわたった。

「うううううううううう……」

 これまで気丈に振る舞い続けてきた。

 理不尽な運命で家族を失い、故郷を失った彼女は洗礼教会への復讐という大義を果たすためだけに生きてきた。

 そんな自分の我儘な欲望のために、人間界で唯一心を通じ合わせた親友や町の人々を巻き込んだりすることを不本意と感じながらも、必死に気丈であり続けてきた。

 だが、もうそんな仮面をかぶる必要は無くなった。今目の前に、とっくの昔に死んだものとばかり思っていた愛しい人が戻って来てくれたのだから。

「うわああああああああああああああああああああああ」

 人前で涙など滅多に見せることが無かったリリスが、惜しげもなく涙を流し、声を震わせる。

 はるかたちが居る前で彼女は十年分の涙を流す。

 婚約者の胸の中でこれまでため込んでいた辛い憑き物を洗い流す。

 泣き崩れるリリスを前に、婚約者は何も言わず彼女の気持ちをすべて受け入れようとリリスの事を優しく包み込む。

 

【挿絵表示】

 

「私も……会いたかった……サっ君……どうして私を置いてどこか行っちゃったの!? 私、ずっとひとりで怖かった! 寂しくて死んじゃいそうだったんだから!!」

 切なるリリスの叫びを聞き入れ、婚約者は胸の奥がチリチリする。

「オレは、出会った頃からずっとキミに救われてきた。だからキミを守りたくて……こんなに時間がかかってしまった。本当にごめん」

 謝罪の言葉とともに、リリスの双眸から零れる涙を拭う。

「もういいの……私はもうひとりじゃないから。サっ君、あの子たちを見て」

 リリスは蚊帳の外のはるかたちへと振り返る。

「あれが今の私の大切な人たち……――」

 それを聞いた瞬間、はるかもレイもクラレンスも屈託のない笑みを浮かべる。

 十年の間にリリスが得たものの大きさを知った婚約者は、心の底から安堵する。

「そうか……リリスはこの十年でかけがえのないものを得て、強くなったんだね」

「サっ君……」

 婚約者の顔をまじまじと見つめ、リリスは目の前の愛する彼の首に手を巻き、力いっぱい抱きつく。

「もうどこにもいなくならないでね……これからはずっと一緒だよ」

 切なる願望。これ以上悲しい思いをしたくないというリリスのたったひとつの願い。この願いを聞き入れると、婚約者はリリスを抱き返し一言で返す。

「……ああ」

 約束の返事をすると、リリスの顔が綻んだ。

 愛する者同士のドラマチックな再会場面は、はるかとクラレンスの涙腺を容易に崩壊させる。

「うううううううう……何と言う感動的場面なんでしょうか……涙で目の前が何にも見えません……キャントルッキングです……」

「はるかさん……私のハンカチで良ければ是非……」

「ありがとうございます、クラレンスさん……チーン!!」

 滝のように涙を流す二人と、その一方で、

「だがひとつだけ気に入らないことがあります」

 と、レイが低い声で言う。

 レイは力強く一歩前に出るとともに、リリスと抱き合う婚約者に指さし声を荒らげる。

「おい貴様っ!! いつまでリリス様と抱き合ってるんだ!! さっさと離れろやぁ――!!」

 

           *

 

 日本の治安維持の要たる警察。

 その首都である東京を中心に活動を展開する国家機関――警視庁。

 現在、彼らが協議しているのは度重なり黒薔薇町を中心に出現する未確認生命体ピースフルとカオスヘッド、そして怪物と戦うプリキュアについてどうするか。

 ハト派は温厚にプリキュアの動向を経過観察し、害悪が無ければ彼らを保護すべきだと主張する。

 一方でタカ派は国土防衛のためならプリキュアであろうと容赦すべきではないと意見を述べる。

 二つの考えは真っ向から対立し、議論は紛糾した。

 その一方で、こうしたプリキュアによって発生する事案を一手に担うために創設された専門の部署が秘かに活動を続けていた。

 

           ≡

 

東京都 千代田区 とある雑居ビル

 

 公安部内に秘かに設置されたプリキュアによって発生する一連の事件を一手に担う専門部署――警視庁公安部特別分室、通称【プリキュア対策課】。

 現役の公安部長を務める神林敬三(かんばやしけいぞう)(五三)は、机の上に集められた写真を一枚一枚手に取り、吟味している。

 写真はすべてこれまでのディアブロスプリキュアと洗礼教会、堕天使との戦いの瞬間を克明に写したものばかり。

 そして、先の堕天使ザッハの襲撃時に撮られた写真には、キュアベリアルの新フォーム・ヘルツォークゲシュタルトの姿が映し出されている。

「とうとう本性を出したか……」

 敬三が写真を見て険しい顔を見せる。

「しかし本当なんでしょうか……悪原リリスがプリキュアで、悪魔だというのは?」

「可能性は十分ある」

「なら彼女はなぜ人を守るんです?」

 彼らにはそこがどうにも理解できない。

 悪魔は基本的に人に害をもたらす存在であり、人を守る事などないはず。それが彼らが抱く悪魔のイメージだった。

 しかし、リリスの行動は直接的動機ではないにしろ、結果として町の人を守る行動に繋がっている。

 だからこそ彼らも彼女が本当の悪魔だと断定する事ができずにいた。

「敵なのか味方なのか……何にせよ、彼女が我々の人類の脅威になりうる可能性は十分に高い」

 仮にも一警察官。それも公安部という国家の危機に直接左右するような重大事案を扱う部署の長たるもの警戒は強めるべきだ。敬三は引き続きプリキュアの経過観察を続けることを念頭に捜査方針を決めようとした。

 そのとき、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

「入れ」

「失礼します!」

 快活な返事とともに部屋に現れたのは爽やかな印象を抱かせる少年。

「父さん、ただいま!」

「おお春人か。いつロンドンから戻ったんだ?」

「昨日の夜中だよ」

 少年の名は神林春人(かんばやしはると)(十六)――神林敬三の実の息子で、その筋では有名な高校生探偵である。

 普段はイギリス、ロンドンにあるインターナショナルハイスクールに通っているが、今回彼が日本に帰国したのにはそれなりの訳があった。

「それより父さん、頼まれた例のものができたよ。ほら、ここにある!」

 春人は手に持っていた銀色のアタッシェケースを掲げ父へ見せる。

「おお、ついに出来たか! 我々警察が悪魔や堕天使、化け物どもに対抗できる唯一の手段が……!!」

「やりましたね部長!!」

「『大河内財団』からの資金援助のおかげだな。なんにせよこれで警察も面子が保てるというものだ!」

 警察とて、いつまでもプリキュアやそれと敵対する未知の勢力に後れを取る訳にはいかない。

 このときのためにプリキュア対策課は世界でも屈指の財力を誇る謎の財閥・大河内財団からの資金援助のもと独自に研究を行い、プリキュアの力と引けを取らない独自の防衛対策システムを開発した。

 春人は持ちこんだアタッシェケースを父の仕事机に置くと、その中身を早速公開する。

 ケースが開かれると、さまざまな機能を秘めたハンドガンが一丁、近接戦闘時に用いると思われる金属製の警棒が一本、最後はアルファベットで【SK】と書かれた警察手帳型の道具の全部で三種類が入っていた。

「これがそうか……!」

「さすがは大河内財団。発注してからたった三か月で完成させてしまうとは」

「父さん、早速僕がテスターになってみるね!」

 聞いた瞬間、敬三は焦燥の顔を浮かべ前に身を乗り出す。

「何を言っているんだ春人!? そんな危険なマネを私が許可するはずないだろう!」

「父さんこそ何言ってるのさ? 国家防衛の要たる警察がいつまでも中学生くらいの女子に国を守られて恥ずかしくないの? それに、悪原リリスたちがいつ人類に牙を剥くかわかったものじゃない」

「それはそうだが……万が一お前の身に何かあったら、(こよみ)の……お前の母さんに申し訳がない」

 警察官と言えど人の子。

 一人息子の春人には成る丈危険な目に遭って欲しくないというのが親心だ。

「僕のことは心配いらないよ。そのためにちっちゃい頃から色々鍛えてきたんだから」

 だが春人の決意は固く、そこに一切の妥協も甘えもなかった。

 春人はケースの中に収まった最高機密の秘密兵器に手を触れることで、その決意をより強固なものとする。

「必ず僕の手でプリキュアの正体を確かめてやる。そして人類にあだなす脅威は、一匹残らず排除する。もしも彼女達が抵抗するならば、僕が直々に逮捕してやるんだ」

 

           ◇

 

黒薔薇町 悪原家

 

 ザッハによる黒薔薇町襲撃事件から翌日、リリスは婚約者を自宅へと招き入れ、はるかたちに紹介した。

「改めて紹介するわ。私の婚約者の……」

「デヴィル・ブラックサクヤ・オブ・ザ・アリトンです。日本では十六夜朔夜(いざよいさくや)と名乗っています。よろしく」

 リリスの家へと招かれた彼女の婚約者でバスターナイト……十六夜朔夜ははるかとレイ、クラレンスを前に会釈する。

「こちらこそ。天城はるか、十四歳です!! リリスちゃんとは小一の頃からお付き合いさせてもらっています!! それから、はるかの使い魔のクラレンスさんです!!」

「はじめまして朔夜さん」

「二人ともよろしく」

 はるかとクラレンスは好意的であり、朔夜とも何ら普通に打ち解けることが出来た。

 一方、リリスの使い魔のレイは朔夜とは目を合わせず、面白くなさそうな顔を浮かべるばかりだった。

「ほらレイ。あんたもサっ君に挨拶しなさい」

「しかしリリス様……私はこんな奴の」

 と、悪態を付けた瞬間。

 リリスがレイの態度に怒り、耳を容赦なく引っ張った。

「いたぁぁああああああ!! 地味に痛い、地味に痛いですぞ――!!」

「サっ君をこんな奴呼ばわりする悪い使い魔はどこの誰かしら~♪」

「も、も、申し訳ございません!!」

 笑顔で怒られるとより恐怖感が増す。

 リリスから厳しい制裁を受けたレイは、不本意ながら不承不承にレイと顔を見合わせ素っ気ない態度で言葉を交わす。

「……リリス様の使い魔のレイだ」

「よろしくレイ」

 不貞腐れがちなレイを前に、朔夜は怒るどころか笑顔で接する。友好の証にと朔夜が手を差し出し握手を求めようとすると、

「ま、待て! 貴様と握手を交わす義理はない。それになんだそのすまし顔は!? 貴様、喧嘩を売っているのか!!」

 ――バチン!

 反抗心剥き出しの使い魔だが、リリスは決して許さずハリセンによって頭を叩く。

「レイっ!! あんたさっきから失礼じゃない!! 本当にごめんね、サっ君。私の使い魔だっていうのに、躾が行き届いてなくて!!」

「いいんだよリリス。彼の気持ちもわからなくもない」

「ありがとうサっ君♪ やっぱり優しいね♪」

「くうう……!! どこまでもイラつかせやがる……!!」

 使い魔になって早十年。

 直接朔夜との面識はなかったレイだが、ついに出会ってしまった噂の婚約者に気が気ではなかった。ただ一人の主であるリリスが天然の人たらし、もとい悪魔たらしの朔夜に心を弄ばれているのが我慢ならなかった。

 はるかとクラレンスも普段割と淡白でいることが多い彼女がいつになく女子力を全開にして、愛らしく甘える姿はハッキリ言って異常だと思った。

「あはは……何と言いますか、あのリリスちゃんがこうも女の子らしいのはかなり違和感、もとい新鮮ですね」

「確かに、我々の知っているリリスさんと違って、大分キャラがかわいいですよね」

「はるかは十年間リリスちゃんと一緒に居ますけど、あんな風に人前でイケメンの男性に頭を撫でてもらってる光景を見たことがありません!」

 そんなはるかの言葉を余所に、リリスは朔夜に頭を預け、髪を撫でてもらっている。

「サっ君ったらズルい。十年見ないあいだにこんなにカッコよくなって……」

「リリスの方こそ、すごく綺麗になった。より女性として、悪魔としての磨きがかかってるよ」

「もう~、サっ君、恥ずかしいよ♡」

 これぞギャップの法則と呼ばれる現象である。普段が普段だけに、この急激なまでの変貌振りは見る者を狼狽させる。

「リリスちゃん、見てるこっちが恥ずかしいですよ……一旦その辺にしてくれませんか」

 さすがのはるかたちも段々と気恥ずかしい思いに駆られ、頬を赤く染め上げる。

 

 落ち着いたところで、朔夜に向けてクラレンスからの質問がぶつけられる。

「あの……朔夜さんは本当に悪魔なんですか? とてもじゃないですけど、全然そんな風に見えませんが」

 朔夜の悪魔らしからぬ態度が第一印象として疑念を抱かせる。

 リリスはこうなる事が分かっていたらしく、朔夜の隣で笑みを浮かべる。

「ふふふ。ほーらね、私の言ったとおりでしょ?」

「参ったな。やっぱりオレは悪魔っぽくないのかな……」

「ひょっとして自分でも自覚していたんですか?」

 はるかがおもむろに尋ねると、朔夜は頭を掻きながら苦笑する。

「恥ずかしながら……オレって奴は悪魔としては全然半人前でね」

「ああ、別に悪い意味じゃないからね、言っとくけど!! 確かに、サっ君は見た目よし・性格よし・文武よしでほぼ完璧なんだけど……悪魔としての自分の欲望に欠けていることがただ一つの難点なのよ」

「一応悪魔としての証拠として、ほら……これがオレの翼だよ」

 悪魔である事を理解してもらうため、朔夜は端的な証拠として隠していた背中の翼を広げる。

 コウモリのような翼を見せることではるかたちに自分が悪魔であることを必死にアピールする。

「翼があるということはやはり朔夜さんは……」

「間違いなく悪魔ではあるみたいですね……」

 無難な証拠を見せたことで、はるかたちもとりあえず彼が人間ではなく悪魔だと信じることが出来た。

「だとしてもだ。我々はまだ完全に貴様を信じたわけではない。そもそもあのバスターナイトとは何なのだ!? どうやってそんな力を手に入れた!? なぜリリス様の前から姿を消したのだ!?」

 矢継ぎ早にレイが質問攻めにする。

 朔夜は興奮気味な彼を宥めつつ、ひとつひとつの質問に答えていく。

「なぜオレがリリスの側を離れたのか……ひとえにリリスを守りたかったんだ」

「私を守る?」

 リリスが訊き返すと、うんと返事を返し更に続ける。

「幼い頃からオレはキミに守ってもらっていた。それ自体はすごく嬉しかったけど、同時に男としてどうなんだろうなって気持ちもあった。つまらない意地だね……そしてあの日、悪魔界は洗礼教会による大報復を受けた」

 朔夜は出された紅茶をひと口啜り、息を整える。

「生き残ったのはオレやリリスを含めてごくわずか。人間界に避難してからも、洗礼教会は執拗に悪魔狩りを続けた。現在、生き残った悪魔たちは全世界に散り散りになっている……」

「それは分かっている。では、なぜ貴様はリリス様を見捨ててひとりいなくなったのだ!?」

 レイが机を叩き朔夜へ強い語気で問い質す。これに対し、朔夜の口から出た言葉は、

「結果的にリリスに辛い思いをさせてしまった事は変わらない。それはオレの罪だ。それでも、リリスを守れる力を求めてオレは彼女の下を離れたんだ……。深山に籠る生活を五年近く続けることで心身を鍛え上げ、何事にも動じない強い肉体と精神力、そして高度な魔力を手に入れた。バスターナイトはその力の結晶。リリスを守りたいという一心から手に入れたオレの努力のたまものだ」

 すると、朔夜は左袖を捲ってリリスたちにあるものを見せる。

 朔夜の左腕に巻かれていた濃紺のブレスレット。それこそ朔夜の魔力を具現化した結晶体にして、暗黒騎士バスターナイトに変身するために必要なアイテム。

「この【バスターブレス】を使って、オレはバスターナイトに変身していた。この町に来るまで、世界各地に散らばった悪魔の安否確認をするとともに、時としてそれを狙う洗礼教会の使者を退けていた」

「あいつら……そこまで勢力を伸ばしていたの!?」

「抜け目ない連中ですね……」

 朔夜からもたらされた新情報にリリスとレイは愕然とする。

 自分たちの知らないところで朔夜は仲間の悪魔を守るため、孤軍奮闘していた。

 そして、今はキュアベリアル……もとい悪原リリスという少女を守るために朔夜は黒薔薇町へとやってきたのだ。

「とりあえず、概ねの質問には答えた。オレを仲間と認めるかどうかはキミたちの判断に任せるよ。たとえリリスたちがオレの事を拒んでも、オレのやるべきことは変わらない。リリスがいる限り、何人であろうとディアブロスプリキュアに手出しする相手はこの手で倒す」

 確固たる騎士の信念を見せつけられた。

 同じ十四歳とは思えない強い覚悟を見せつけられた気がする。

 リリスとはるかは互いに見合うと、やがて屈託なく笑いかけ、朔夜の手を取り合った。

「リリス……?」

「私は嬉しいんだよ。十年前にいなくなったはずの婚約者が帰って来てくれた事もそうだし、サっ君はあのころと変わらず私の知ってる優しくて心の強い悪魔だったことが」

「リリスちゃんの親友として、こんなに頼もしい人が味方になってくれるのは大歓迎です!! これからはディアブロスプリキュアの一員としてよろしくお願いしますね!!」

 少女たちから温かい言葉を受ける。

 朔夜はてっきり自分は拒まれてもおかしくないと思っていた。

 だが、現実はその逆でリリスもはるかも自分の事を当たり前のように受け入れてくれた。その事が本当に嬉しかった。

「ありがとう……オレの方こそ、精一杯がんばるよ!」

「うん!」

「はい!」

 リリスとはるかは声を合わせて頷き、暗黒騎士バスターナイトこと……十六夜朔夜を新しい仲間として迎え入れた。

 固い握手を交わし、これから結ばれていく強い絆に思いを馳せて。

「朔夜さん、はるかさん共々このカーバンクル……クラレンスも是非ともよろしくお願いします!」

「リリス様が認めた以上、私も認めるしかあるまい……私はこれっぽっちも不本意だがな!」

「ありがとう、レイ、クラレンス。……よし、今日はオレからキミたちに感謝の気持ちを込めて贈り物をしたい」

「贈り物……ですか!?」

 期待が持てそうな雰囲気にはるかは胸を躍らせる。

 朔夜は何処からともなくエプロンを取り出し着用して、腕まくりをしながらキッチンへと向かう。

「リリス。冷蔵庫の中身、使わせてもらっていいかい?」

「うん! サっ君の手料理楽しみにしてるね!」

 朔夜が冷蔵庫の中を物色するのを見てレイがたまらず茶々を入れる。

「おい貴様! ひとんちの冷蔵庫を勝手に……」

「あんたは黙ってなさい、レイ♪」

「はい……」

 どんな文句を言おうが、悪魔的笑顔でドスの効いたリリスの声がすべて掻き消し、レイは委縮する。

 その傍ら、朔夜は食材を吟味して、今回ふるまうメニューを頭の中で描いていく。

 すべての食材を選び終えると、朔夜は包丁片手に、

「La cucina è iniziata!」

 とイタリア語で軽快に料理の開始を宣言した。

 

           *

 

異世界 洗礼教会本部

 

「キュアケルビム……我らが悪魔を敵視している事は承知の筈でおろう」

「はい」

「ならば聞こう。なぜあの場で悪魔と共闘をしたのか?」

 ホセアから厳しい訊問を受ける。

 堕天使ザッハによる黒薔薇町への襲撃時、キュアケルビム――テミス・フローレンスは結果的にディアブロスプリキュアと共闘した。

 洗礼教会にとってこれは明らかな裏切り行為と見なされる。したがって、弁明の言葉を求めるとケルビムは重い口を開き答えた。

「誤解を招いたのなら謝罪致します。しかし、私は断じて悪魔に協力した覚えはありません。あのまま堕天使の凶行を見過ごす事は、私の天使としての流儀、矜持に反するものでした」

「けっ。何が天使としての流儀だ! この裏切り野郎!!」

「腐ってもプリキュアか。キュアベリアルとキュアウィッチにすっかり感化されたか……」

 サムエルとエレミアから心無い言葉を浴びる。

 ケルビムは聞き捨てならず、彼らに激しい剣幕を向けながら言い返す。

「なら聞きますけど、あなたたちは人類救済と大口を叩く割には大した成果を挙げられていないじゃないですか!? 結局口先ばかりで、肝心な時には何の役にも立っていないのは明白かと?」

「なんだと……!?」

「貴様、今すぐその言葉撤回しろ!!」

 侮辱された幹部たちはケルビムに怒り心頭になり、場が一瞬で一触即発の空気に変わる。

 そのとき、ホセアが錫杖を床について一喝する。

「やめよ。仲間同士で言い争いなど……神の前ではしたないとは思わんか?」

 ホセアが諌める事で、幹部とケルビムは素直に身を引く。

「いずれにしても、お主が我らとの協定を破り、悪魔どもに与した事実に変わりはない。当分の間蟄居を命じる。頭を冷やし己自身を見つめ直せ」

「……かしこまりました」

 頭を垂れ、ケルビムは礼拝堂から出て行った。

 礼拝堂を出ると、彼女が戻って来るのを待っていたパートナー妖精のピットが不安気な顔で声をかける。

「テミス様。私は……」

「いいのよ。こうなる事は分かってたから」

 そう言って、変身を解いたテミスはピットを連れて長い廊下を歩く。

「だけど私は何ひとつ間違ったことはしてないと信じてる。これまで通り、私は洗礼教会とともに悪魔と戦い続けるわ」

 

           *

 

黒薔薇町 悪原家

 

 十六夜朔夜の調理術は、芸術だった。

 ひとたび包丁を持てばニンジン、キャベツなどありとあらゆる食材を切り分ける。

 キャベツの千切りなど朝飯前。リリスたちもついつい見とれてしまうほど驚くべき速さだった。

 すべての工程は彼にとって化学反応式を導くことと変わらない。そこに無駄も無秩序も含まれない。

「さぁ……あとはこいつをかければ完成だ」

 そう言って取り出したのは天然のオリーブオイル。

 器に盛られた新鮮野菜に向かって、朔夜はかなりの高所からオリーブオイルを惜しげもなくドバドバとかけていく。

「すごいですよ、すごいですよ!! あんなにたくさんかけてますよ!!」

「サっ君かっこいい! よっ、悪魔一!」

「ひっこめニセも○ずキッチン!!」

 一部罵声が飛んだ気がしたが、調理を終えた時にはレイが巨大なコブを作って倒れていた。

 でき上がった料理が運ばれる。どれも一流料理店で出てもおかしくない見栄えのよい料理ばかり。とても素人が一朝一夕で作ろうと思って作れる代物じゃなかった。

「ハヒー! こんな豪勢な食事は……はるかは生まれて初めてです!!」

「いやー大したものですよ! 本当に私たちだけでいただいてよろしいんでしょうか?」

「ああ。さぁみんな、食べて批評を聞かせて欲しいな」

「それじゃ遠慮なく……いただきます!」

 朔夜が作った料理を早速リリスが味見する。その味は……、

「うわぁ……おいしいよこれ!!」

「ありがとう。キミが喜んでくれてよかった」

 リリスからの評価は文句なしの百点満点だ。

 はるかとクラレンスも彼女の後に続いて適当な料理をひと口食べてみる。

「ハヒ!! イッツマーベラス!! こんなにおいしい料理がこの世にあったんですね!!」

「本当に美味ですね! お世辞でなくこれはプロ並みです!!」

 褒め言葉が乱舞する。

 あと一人……未だ朔夜への対抗心の消えぬレイだけがなかなか手を付けようとしない。

「レイ。あんたも食べて見なさいよ。サっ君の料理は絶品なんだから!」

「わ、わかりました……」

 主からの命令であれば食べない訳にはいかない。

 恐る恐るスープをひと口すくって飲んでみた。その瞬間、今まで自分でも出せた事のないうま味が口いっぱいに広がった。

「悔しいが……うまいじゃねぇかよ!!」

「変な褒め方ですねレイさん!」

「というより素直じゃないんですよ」

 悪原家に笑いが飛び交う。

 こんなに穏やかなときを過ごすのは久し振りだった。

「く……!」

 レイは余計に自分が惨めに思えてならなかった。

 席を立った彼は、何も言わずに家を飛び出してしまった。

「レイ! どこへ行くんだ!?」

「サっ君気にしないで。きっと何でもないと思うから」

「だといいけど……」

 

「くそ! 何なんだよもう~~~……いきなり出てきてリリス様とイチャイチャ……おまけに私の立ち位置まで奪うとは、許されざるイケメン王子め!!」

 煮え繰りかえる朔夜への嫉妬心、羨望、憎悪。

 彼を恨んだところで何にもならないことは分かっていたが、レイはこの高ぶる感情を押えつけることが出来ないでいた。

「このままでは私の立場がなくなってしまう……くそ、一体どうすれば良いんだ!?」

「なら、このまま消滅してみるか?」

 突然そんな声をかけられた。

 耳を疑うような言葉に驚くレイが頭上を見上げると、そこには洗礼教会の幹部……エレミアが浮いていた。

「ちょうど良かった。悪魔を捜す手間が省けたというもの……お前をエサにして誘き出すとしよう」

 そう言って、エレミアは首の十字架を手に取り力を込める。

「平和の騎士よ、生まれよ!! ピースフル!!」

 十字架から放たれた光は近隣の家の玄関に置かれていた犬の置物へと当たる。

 その瞬間、犬の置物はピースフルへと変貌――レイの前に立ち塞がった。

『ピースフル!!』

「な……なんという災難!!」

「さぁ、大人しく捕まってもらうか!」

「誰が貴様になど捕まるか! とりあえず私が取るべき行動は二つ! Aパターン、ここで勇敢に戦って朽ち果てる! Bパターン、敵前逃亡して生きながらえる!! そして、私が選んだ答えはもちろん……」

 刹那、レイは踵を返すと同時に全速力で逃げ出した。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「待て貴様!! 私から逃げられると思っているのか!!」

『ピースフル!!』

 犬の置物を素体とした《オブジェピースフル》は、咆哮を上げると四足を使ってレイを追いかける。その勢いは凄まじく、走るたびに軽い地震と勘違いするほどの振動が起こる。

「待て、使い魔!! 大人しくしろ!!」

「誰が大人しくするかチクショウ!!」

 レイもリリスたちのように戦えなくはないが、相手が自分の身の丈を遥かに超える大きさのため、著しく戦意を喪失する。

 逃亡を続けること数分。レイの目の前が壁で遮られついに逃げ場所を失う。

「しまった……!」

「はははは。追いかけっこはここまでのようだな」

 レイ、万事休す。オブジェピースフルはレイを睨み付け、いつでも突進できる体制をとる。

「やれピースフル!! その使い魔を攻撃しろ!!」

『ピースフル!!』

「だあああああああああああああああああ!!」

 

「はっ!!」

 オブジェピースフルの突進攻撃が炸裂しそうになった瞬間、オブジェピースフルの顔面を蹴り飛ばす脚がレイの瞳に映る。

「なに!?」

「貴様は……!」

 我が目を疑うエレミアとレイ。

 レイの窮地を救ってくれたのは、彼が何よりも毛嫌いする十六夜朔夜だった。

「怪我はないかい?」

「イケメン王子……! なぜ貴様が!?」

「近くでピースフルの気配を感じたんだ。洗礼教会はオレたち悪魔の仇だからね……見過ごすわけにはいかない」

 朔夜はピースフルとともにそれを操るエレミアを睨み付ける。

「小僧……貴様も悪魔か?」

「ああ。お前たちが大嫌いな悪魔のひとりさ」

「そうか。ならば、そこの忌まわしき使い魔ともども滅ぼしてくれる!」

 オブジェピースフルの攻撃が繰り出されるが、朔夜とレイはともに攻撃を避ける。回避の跳躍と同時に朔夜はオブジェピースフルとエレミアを睨みつけながら語気強く言う。

「洗礼教会の使者よ、よく聞け。オレは悪態を付けられたり、暴力を振るわれたりしようが大抵のことで怒りを露にすることはない。だがな、どんな理由があろうとオレの仲間や家族を傷つける輩は何人たりとも容赦しない!!」

 そう言った直後、朔夜は静かな怒りの籠った瞳でエレミアに宣戦布告。

 左前腕に常時装備してあるバスターブレスを胸の前で構え、右手に対となる短剣型のアイテム【バスターブレード】を差し込む。

 

「バスター・チェンジ」

 

 掛け声とともに、バスターブレスから眩い光が放たれ朔夜を包み込む。

 そして、光が縦方向に切り裂かれると同時に朔夜の体は重厚な紫の鎧に包まれた暗黒騎士の姿へと変貌する。

 左手に持った暗黒魔盾バスターシールドから暗黒魔剣バスターソードを引き抜き、それを天に掲げて雷を受ける。

 

【挿絵表示】

 

 

「影に向かいて影を斬り、光に向かいて光を斬る。暗黒騎士バスターナイト」

 

「お前は……! そうか、貴様がバスターナイトだったか!!」

「だとしたらどうする?」

「無論、排除させてもらう! ゆけ、ピースフル!!」

『ピースフル!!』

 既にバスターナイトの情報はキュアケルビムを通して洗礼教会に知れ渡っている。

 教会の同志に重傷を負わせた罪深き存在として、ディアブロスプリキュアに与する危険因子としてバスターナイトを屠り去るため、エレミアはオブジェピースフルを操りバスターナイトに戦いを挑む。

「鈍い」

 朔夜はバスターナイトの力を手足の如く完璧に使いこなしている。オブジェピースフルの動きを目で捕えて、躱すなど造作もない。

「エントリヒ・アーベント」

『ピースっ!』

 地面から伝わる斬撃がオブジェピースフルを直撃する。その威力は先のカオスヘッドとの戦いで証明済み。オブジェピースフルは呆気なく吹き飛んだ。

「ば……馬鹿な! まさかこれだけの力を!?」

「たまにはピースフルに頼らず、自分の力で勝負してみたらどうだ?」

「小僧め、生意気を言いおる! いいだろう、そこまで言うなら私が直々に相手になってやろう!!」

 分かりやすい挑発にも気づかず、エレミアはバスターナイト目掛けて突進してくる。

「喰らえ小童が!!」

 聖なる力を秘めた正拳で殴りつけようとした、次の瞬間。

「ぐっほ!!」

 横からキュアベリアルに変身したリリスからの飛び蹴りを受け、オブジェピースフルと同じように吹っ飛ばされた。

「リリス様! はるか様!」

「まったく。あんまりサっ君に迷惑かけるんじゃないわよ」

「はるかたちが来たからにはもう安心してください!」

 ベリアルとウィッチの姿を確認すると、バスターナイトは二人に提案する。

「ここは三人で一気に決めよう」

「「うん(はい)!」」

 バスターナイトの提案を受け入れたベリアルとウィッチは、オブジェピースフルと一緒に伸びているエレミア目掛けて必殺技を炸裂する。

「プリキュア・ルインフェノメノン!!」

「プリキュア・オーバー・ザ・レインボー!!」

「ダークネススラッシュ!!」

 すべてを殲滅する紅色と虹色の波動、そしてX字に刻まれた斬撃がエレミアとオブジェピースフルへ直撃する。

 ――ドンッ。

『へいわしゅぎ……』

 ウィッチの放ったオーバー・ザ・レインボーの効果で、オブジェピースフルは浄化され元の置物へと戻る。

「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 そして、お約束とも言うべき事だが、エレミアは二人の悪魔の放った必殺技によって彼方へと飛ばされた。

 

 戦いが終わると、リリスはレイの頭部に拳骨を下ろす。

「このバカっ!」

「痛っ~~~!」

「人に散々心配させて。ほら、サっ君に言う事があるでしょ?」

 悔しい気持ちは拭い切れないが、朔夜に命を救われたことは紛れもない事実だ。

 レイはどこを見ても整った朔夜に深々と頭を下げる。

「……ありがとうございます」

「オレは仲間を守っただけだよ。まぁ、レイがオレを気に入らないのならそれは仕方ないけど、キミはリリスの使い魔なんだ。頼りにしてるんだよ」

「き、貴様にそんなこと言われても嬉しくも何ともないわ!! チクショー、何なんだよ、この圧倒的な敗北感は!! 神さま――っ、世の中不公平ですよ――!!」

 

 

 

 

 

 




次回予告

は「そう言えば、朔夜さんってひとり暮らしなんですか?」
朔「オレにも使い魔が居るんだけど…これがなかなかめんどくさいというかなんというか」
ク「幼少の頃から朔夜さんと一緒だった乳母的存在なんですよね? 一体どんな方なのでしょう?」
レ「ま、私はあまり興味のない話だがな」
リ「ディアブロスプリキュア! 『あたしはラプラス!朔夜を育てた使い魔!』」
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