そして今回の話の最後に重要な伏線が・・・・・・!!
第17話:予想外の衝突!バスターナイトVSセキュリティキーパー!
『暗黒卿と紫紺の騎士』
悪魔界では古くから伝えられ、幼少期にオレやリリスが熱中した童話だ。
その童話を始め、叙情詩など全二百六十から構成される説話集の著者は特定されておらず、実話など各地方に伝わる民話などを吟遊詩人が語り継いだものとされている。
物語の概要としては――闇の力で世界を滅ぼそうとする暗黒卿を倒すために奮闘する一人の青年の英雄譚である。
序盤、闇の力で世界各地を続々と征服する暗黒卿に怯える町から物語は始まる。町には暗黒卿に反発する反乱軍が結成され、主人公もその中の一人だった。
出会い、裏切り、別れ。数々の出来事の中で主人公は大切にしたいモノに気づく。やがて自らを暗黒騎士と名乗り、徐々に暗黒卿の支配から解放していく。
そして、最終決戦。瓦礫の山で作られた暗黒卿の居城で二人は対峙する。
『青二才が……お前は世の中の摂理というものを理解していないようだ』
激しい戦闘の最中、暗黒卿が口を開く。
『力を振るう者には相応の義務が生じる。だが、貴様たちは何だ。世のため悪魔のためと口にはするが、結局、貴様たちのエゴが世界を腐らせるのだ』
『だから、力のあるお前が世界を支配するというのか!?』
『如何にも。私が世界を裁き、腐敗したこの世界を贖罪するのだ!』
互いに一歩も譲らず力をぶつけ合う。
『確かにオレたちは自分勝手かもしれない……でも、やっと見つけた大切なモノをオレは失いたくない! 罪を裁くお前が自分を正義だと言うのなら、オレは罪を背負って悪を名乗ろう!』
暗黒騎士の剣がついに暗黒卿の体を貫く。
『……その護りたいという心が……世界を破滅させる……なんて哀れで愚かなことよ……』
『わかってるさ。だから世界に見せつけてやるのさ。行きすぎた力があれば止めることができることを』
子どもながらに、いや…子どもだからこそ、強烈に羨望した。
いつか自分にも大切なモノを護れる悪魔になりたい――かつて、オレを絶望から救いあげた少女を隣で見ながら。
≒
黒薔薇町 某雑居ビル
今宵、対峙する二人の悪魔。
生粋の悪魔でありながら強く優しい心を持った少年騎士。
生まれも育ちもエリートであるがゆえに傲慢で、非情な心を持った高校生探偵。
互いを悪魔と罵り合う両者の間にただならぬ緊張感が漂う。
ディアブロスプリキュアとプリキュア対策課――二大勢力が誇る最高位戦力同士が各々の『正義』の炎を瞳に宿しながら睨み合う。
静止する二人の間をどこか重い空気を孕んだ風が舞う。空に浮かぶ紅色に染まった不気味な月が戦いの舞台を照らし、お互いの手に握られた得物が妖しく煌めく。
「……バスターナイト、僕が君の仕掛ける博打に付き合うと思うのかい?」
ヘルメットの複眼越しにセキュリティキーパーは淡々とした口調で問いかける。
「オレたちを潰せるうえ、ここを通らなければ洗礼教会も逮捕できないというなら乗らない手はないだろう?」
バスターナイトの魔剣を握る手に力が込められる。一瞬揺れた剣先が赤みを帯びた月明かりを反射し妖艶に光る。
不意に横なぎの風が吹き荒れる。両者の緊迫はより一層深まっていく。
「……僕らの目的が君たち悪魔の殲滅及び洗礼教会の検挙だとすれば、別働隊の存在を彼らに声高に報せれば事足りる。そうすれば人質の首も、今回のようなややこしい状況を引き起こした君たちの首も容易く落ちるさ」
セキュリティキーパーが下す判断は合理的であり、それゆえに冷徹だった。
彼からは洗礼教会の検挙はもとより、当初から警察組織にとって目の上のたんこぶだったディアブロスプリキュアを何が何でも壊滅させたいという思いがひしひしとその言葉から伝わる。
声こそ荒立てぬものの、セキュリティキーパーは確実に悪魔たちを卑下しているのだ。
すると、セキュリティキーパーはバスターナイトと対峙するのを止めて背を見せると同時に、捜査官へ指令を下した。
「……そういうことです。みなさん、安い挑発に乗ってはいけませんよ。制圧すべき敵を前に今回の事件とは直接関係のない悪魔と死闘を演じるなど愚の骨頂。プリキュア対策課にも責任が生じます。一歩たりとも動いてはなりませんよ」
セキュリティキーパーこと神林春人はまだ高校生だが、父親が公安部長であるせいか周りへの発言力も大きい。事実、この場に集まったプリキュア対策課の捜査官は全員セキュリティキーパーの話を真摯に聞き、異を唱えようとする者は一人もいない。
バスターナイトへ背中を向けながら、セキュリティキーパーは淡々とした口調で呟く。
「……残念だったね、バスターナイト。僕らの目的は悪魔の首でも洗礼教会の首でもない。事件の迅速な解決……そのための洗礼教会に対する一斉制圧だ。こんな茶番に付き合う時間も人間性も持ち合わせていないんだ。つまり……」
言った瞬間に振り返る。
右手に持ったSKメタルシャフトをバスターナイトへ向けて一振りし、非情な一太刀を浴びせる。
「……たったひとりの悪魔を、さっさと片付ければそれで済む話なんだ」
だがしかし、セキュリティキーパーの眼前にバスターナイトの姿はなかった。
「そうこなくてはな」
背後からバスターナイトの声が聞こえた。
刹那に繰り出されたセキュリティキーパーの攻撃をバスターナイトは確かに見極め、紙一重という所で躱していたのだ。無論、セキュリティキーパーは別段動揺などしていない。
赤い月に暗雲が陰り、闇に紛れたバスターナイトがセキュリティキーパーの背後に迫る。
「どちらにせよオレと貴様は戦う運命にある。ならば、証明してみるといい……貴様らの言う〝正義の力〟とやらで、悪の権化を根絶してみる事だ」
露骨なまでの挑発に、セキュリティキーパーは口角をつり上げながら左手にSKバリアブルバレットを携える。
「やれやれ。随分と上からものを言うじゃないか……子どもの分際で!」
振り返るや銃口をバスターナイトへと向ける。
再び、暗黒騎士バスターナイトとセキュリティキーパーによる衝突が始まった。
バスターナイトが時間を稼いでいる間に、ベリアルとウィッチの二人はレイたちの救出へ乗り出し雑居ビル内を移動する。
道中、セキュリティキーパーが言っていたプリキュア対策課の別働隊と思われる人間と出くわした。
彼らは活動服の上から特殊なライフル銃のようなものを装備し、雑居ビル内に潜んで待ち伏せしていた洗礼教会の信徒たちを手持ちの武器で制圧する。
「ぐああああ」
「ぎゃあああ」
今、ベリアルとウィッチの目の前で信徒たちはプリキュア対策課が繰り出す非情な攻撃の前に次々と倒され、無造作に横たわっている。
だからといってベリアルたちへの被害が全くないという訳ではない。本来、洗礼教会の標的は飽く迄もディアブロスプリキュアなのだ。
前方ばかりか、四方八方からと攻撃を仕掛ける信徒たち。
煩わしいまでの彼らをベリアルたちは昏倒させていき、先頭を走っているプリキュア対策課に若干遅れがちなペースを必死で取り戻そうとする。
「せっかく朔夜さんが時間を稼いでくれたのに、これじゃキリがありませんよ!」
「それにプリキュア対策課の別働隊も結構やるみたいよ。敵を倒すって点で全くぶれないあの姿勢……まるでロボットそのものだわ」
「感心してる場合じゃないですよリリスちゃん。ああ も派手に暴れられたらはるかたちの居場所が直ぐに敵に割れてしまいます。それに警察のみなさん、このままだとクラレンスさんたちを……!」
元よりプリキュア対策課は洗礼教会と一緒に使い魔たちを一網打尽にするつもりなのだ。ぶれない姿勢と言うのは時と場合によって極めて不都合な展開を生むことがある。今日はディアブロスプリキュアにとって最悪の状況である。
「それだけは絶対に避けないといけないわね。急ぐわよ、はるか!」
「はい!」
何としてもプリキュア対策課よりも先にレイたちを救出せねばならない。
彼らが敵地に乗り込むよりも早くこの場を素早く移動しなければならない。ペースを速めようと、二人が雑居ビルの上階へ向かったその時。
「ぐああああ」
プリキュア対策課の捜査官と思われる人間の呻き声が聞こえ、直後部屋の中から外へと飛ばされた。
「何者だ!!」
「姿を現せ!!」
別の捜査官たちが暗闇の向こうから呼びかけると、返事の代わりに衝撃波が飛んで来た。
「「ぐあああああ」」
強烈な衝撃波の前にはどんな装備も形無しだ。
捜査官たちはことごとく謎の攻撃の前に敗れてしまい、外へと吹き飛ばされた。
「どうなってるの?」
不思議に思うベリアルとウィッチ。
すると、目の前の暗闇から現れる一人の人物。その人物の姿に、ベリアルたちは意外そうな顔を浮かべる。
「ハヒ!? あなたは……」
「キュアケルビム!」
生粋の天使でありプリキュア――洗礼教会が配する正統派プリキュア、キュアケルビムがここに来て登場する。
「久しぶりね。キュアベリアル。キュアウィッチ」
「やっぱりあんたも来ていたのね」
「当然よ。私は天使……腐ってもあなたたち悪魔の敵よ」
以前は堕天使襲来の折に味方となった彼女だが、やはり本質は変わらないらしい。
悪魔と天使はどうあっても交わることのない水と油。ケルビムにとっての正義とはすなわち、悪魔を排する事にあるようだ。
眉間に皺を寄せケルビムを凝視するベリアル。
そんな彼女の横に立っていたウィッチはおもむろに一歩踏み出すと、手持ちのキュアウィッチロッドを両手で固く握りしめ、決意の籠った表情を浮かべる。
「リリスちゃん、クラレンスさんたちの事を頼めませんか?」
「はるか!?」
「彼女とは一度二人きりで話がしてみたかったんです」
ウィッチが言うとケルビムも頷く。
「奇遇だわ。私もあなたとは話をしてみたいと思っていたのよ」
互いに思う所があるらしく、ケルビムはウィッチの申し入れを受け入れ、戦う姿勢を前面に出す。
「さぁ、今のうちに行ってください! 時間がありません!」
バスターナイトといいウィッチといい、ベリアルにとっては辛い選択だった。
幼い日に両親を亡くした彼女にとって、家族にも等しい仲間を失う悲しみは死ぬことよりも辛いのだ。合理主義を重んじる彼女でも割り切れない事がある。
だがここで躊躇していれば、レイたちの命が危ない。
どんなに苦しい状況でも決断を迫られるのであれば……ベリアルはウィッチに背を向け、ケルビムへ呼びかける。
「キュアケルビム……はるかに何かあったら、私はあんたを絶対に許さない。それだけは覚悟しておきなさい」
無事にウィッチが自分の元に帰って来る事を願い――ベリアルはレイたちの元へ急行する。
ベリアルが居なくなった後、ケルビムはウィッチを見ながら呟く。
「あなたもつくづく変わっているわね。どうして悪魔なんかと友達になるのかしら?」
「はるかが誰と友達であろうとあなたには関係ありません。はるかの友達ははるかが決めます!」
キュアウィッチロッドをより強く握りしめる。たとえ相手が天使で同じプリキュアであろうと関係ない。
自分の友は自分で決める――十四歳ながらに強い覚悟が籠った彼女の言葉に、ケルビムは否定ではなく同意する。
「正論ね。まぁいいわ、プリキュアとして目覚めたあなたの力……私に見せてちょうだい。ピット!!」
「お任せください!!」
パートナー妖精のピットを呼び寄せ、聖弓ケルビムアローへと姿を変えた彼女を利き手に所持する。
プリキュア魔女とプリキュア天使――ここに交わる。
*
同時刻――
黒薔薇町 雑居ビル・正面玄関前
暗黒騎士バスターナイトとセキュリティキーパー……両者の衝突は熾烈を極め、激しい火花を散らし合う。
ドン! ドン! ドン!
セキュリティキーパーである春人の実力は先日の戦いで嫌というほど思い知らされた。だからこそ修練を積み、より自分の技を磨き上げて来たバスターナイトだが、そんな彼の地道な努力をも打ち砕き、劣勢に立たされる。
伊達に【三天の怪物】という異名を持っている訳ではない。セキュリティキーパーが繰り出す正確無比な射撃と剣術――それらが組み合わさる事で生まれる攻撃力はバスターナイトが先日体験したものよりもさらに磨きがかかっていた。
ドン! ドン! ドン!
SKバリアブルバレットによる射撃でバスターナイトに攻撃の隙を与えず、接近すればSKメタルシャフトで瞬時に裁く。悪魔の如きその強さ――正に人の皮を被った怪物とは彼の事だ。
「く……」
防戦一方の状況で、バスターナイトは何とか一太刀浴びせようと努力する。
向こうの弾が空になったのを見計らい、バスターナイトは前へ突進。それを見越してセキュリティキーパーはハンドガンの弾倉を装填。銃弾の嵐で迎え撃つ。
ドン! ドン! ドン!
仮面越しに伝わる実弾がかすった際の衝撃。右頬に掠った実弾を上手く避けると、バスターナイトは手元で魔力を練り上げ鎖状に伸ばしたものをセキュリティキーパーの足下に引っかける。
頃合いを見計らって鎖を引き、体勢を崩したセキュリティキーパーに僅かな隙が生まれると、すかさずバスターソードで斬りかかる。
セキュリティキーパーは落ち着いた様子で右手に持ったSKメタルシャフトを垂直に突き立て横なぎの斬撃を受け止める。
わざわざバスターナイトが目の前に来てくれたため、左手のハンドガンをおあつらえ向きとばかりにバスターナイトの眉間に突き付け躊躇い無く引き金に手を掛ける。
――ドン!
至近距離からの攻撃をバスターナイトは刹那に躱す。お返しにセキュリティキーパーの額に頭突きを喰らわせる。
「ぬっ……」
賢しい手だと内心思いながら、自分の脚に引っ掛かる煩わしい鎖状の魔力をハンドガンで撃ち抜き、自由になったその脚でバスターナイトの顎を蹴り上げる。
顎への一撃で姿勢制御が狂わされたバスターナイトを前に、右手のメタルシャフトと左手のハンドガンを交差させる。
「踊りなよ」
「……っ!」
ズキュンという一撃ともに発射されるレーザー光線。
咄嗟に顔を横にずらし銃撃を避けるが、その隙を狙ってセキュリティキーパーは電気を帯びたメタルシャフトで斬りかかる。
「ぐ……」
ドン! ドン!
銃撃と斬撃。銃撃と斬撃。無駄のない動きでバスターナイトの甲冑に傷をつけ、体力を着実に奪っていく。
(銃撃を避けさせることでオレの動きを先読みしている! ならば……)
敵の狙いに気付くと、バスターナイトは肉を切らせて骨を断つ覚悟で真正面からセキュリティキーパーの元へ突っ込んで行く。
セキュリティキーパーは非情にもハンドガンからレーザー光線を発射、バスターナイトの左肩へと貫通させる。
だがバスターナイトの歩みはなお止まらない。決死の覚悟で敵に食らいつこうとし、右手の剣を振りかざす。
「おしまいだよ」
セキュリティキーパーの口からそう言われた瞬間、バスターナイトは後ろへ振り返り絶句する。
放たれたレーザー光線は無造作に放置されたガソリン入りのドラム缶へ着弾していた。程なくして空気と混ざったガソリンに引火し、たちまち爆発する。
――ドカン!!
爆風によってバスターナイトが前に押し出されるように飛んでくる。
すかさず、右手に持ったSKバリアブルバレット表面の番号を【4】から【6】へと切り替える。
〈Are you ready?〉
手持ちのSKメタルシャフトの刀身がとりわけ強く発光する。同時に高密度のエネルギーが蓄えられる。
絶好の攻撃のチャンスが到来した。セキュリティキーパーは右手のメタルシャフトを構え、バスターナイトの体を超電導で斬り裂いた。
「お遊戯は終わりだよ」
今までピースフルやカオスピースフルの攻撃をもろともしなかった甲冑をも容易く砕く驚異的な威力だった。
暗黒騎士バスターナイトは為す術も無く正義の力の前に断罪された。
「さ……朔夜ぁぁぁぁぁぁ!!」
ラプラスが悲痛な叫びを上げる。
「そんな……」
「イケメン王子が……倒された、だと!?」
バスターナイトが倒された。
衝撃的な光景が教会幹部に捕われ腹ばいにされた使い魔たちの目に映る。とりわけ、乳母としてバスターナイト――朔夜を育ててきたラプラスはあまりに呆気なく倒された現実を信じることができなかった。
「かの劇作家、オスカー・ワイルドはこう言った。〝不正義よりも厄介なもの、それは力を持たぬ正義だ〟と」
燃え盛る炎を見つめながら、後ろで横たわっているバスターナイトへセキュリティキーパーは冷たく言う。
「バスターナイト……いや、君らディアブロスプリキュアは変わり種の集団だよ。本来、人間にとって邪な存在であるはずの悪魔。それに魅入られた人間の子どもが皆で力を合わせ今までこの町の平和を守ってきただなんて、なんて素晴らしい美談じゃないか」
踵を返し、虚しく転がるバスターナイトを横切る。
「でもそれもここで潰える。僕らプリキュア対策課の手によってね」
倒れ伏すバスターナイトに一瞥もくれずに、セキュリティキーパーは雑居ビルの入口へと歩き出す。
「ははははは!! やりやがった、とうとう警察どもがやりやがった!!」
大笑いするコヘレトだが、周囲を囲っていた捜査官が整列を始めるのを見て疑念する。
「あ、あれ? おい、なんであいつら集まってるんだ?」
三大幹部たちが見届ける中、セキュリティキーパーは突入のための配置を行う。
「何をしている貴様ら? ここにいる人質がどうなってもいいのか!?」
エレミアの忠告も虚しく、セキュリティキーパーたちはぶれない活動方針に従い突入を開始する。
「って、おい! ちょっと待て!! 止まれ止まれ!!」
当然、捜査官がコヘレトの言うことを聞くはずもなく、列を成して入口へと進む靴の音が響く。
「マジかよあいつら……人質無視して突入するつもりか!」
「これでは人質として何の役にも立たないではないか!」
教会幹部らが慌てふためいている中、今まで数度の裏切りを果たしてきたコヘレトがその悪知恵と交渉術を駆使して必死に命乞いを試みる。
「ま、待てよ大将! 取引といこうじゃないか! あんた教会の根絶やしが目的なんだろ!? 教会の本拠地を教えるといったらどうよ? な!?」
コヘレトの提案に幹部らは黙っているはずがなかった。
「コヘレト、貴様! この期に及んで……」
モーセが反論を口にすると、コヘレトが小さな声でセキュリティキーパーにばれないように説得する。
「フリだよ、フリ! 状況を考えてみろ!」
だが、捜査官たちの歩みは一向に止まらない。
「ど、どうする!? 止まらないぜ?」
サムエルが下の様子を見て伝える。
「ぐぬぬ、わかった! 俺が堕天使連中とつるんでいたことも知ってるんだろ!? 堕天使の居場所も教える! どうだ、文句ないだろ!」
観念したコヘレトがさらに条件を追加すると、眼下のセキュリティキーパーに動きが見えた。
「君たちの首が洗礼教会、堕天使たちの本拠地と引き換え、か。それで釣り合うと思っているのかい?」
だが、捜査官たちの動きはいったん止まった。
「もう少しだけこの茶番に付き合ってあげるよ。で、他には何が差し出せる?」
セキュリティキーパーがコヘレトたちの交渉に応じている一方、捕縛されて這いつくばっているラプラスは地表で砕けた鎧の破片に囲まれて横たわるバスターナイトを見て、声にならない声援を送る。
(何やってんのよ、朔夜! 立ちなさいよ! あんたはこんなところで倒れてる場合じゃないでしょう!)
ラプラスはぴくりとも動かないバスターナイトを見つめ、ふと昔の出来事を思い出していた。
≒
さかのぼること、一年前――
人間界 ドイツ南西端 シュタウフェン・イム・ブライスガウ
午前零時を過ぎた頃、サクヤは匿ってもらっていた貴族の屋敷をそっと抜け出した。遅れてラプラスが家から出てくるのを見るとリリスについて尋ねる。
「リリスはよく眠っていた、ラプラス?」
「ええ。でも、ほんとうにいいの? 明日ってあの子の誕生日でしょ? 朝起きてあたしたち……いやサクヤがいないってわかったら、悲しむんじゃない?」
彼女が問うと、サクヤは目を伏せて、数秒葛藤した末に首を横に振る仕草を見せる。
「……いいんだ。もう決めた事だから。それよりラプラスの方こそ本当にこれでいいの?」
「あたしは別にいいのよ。どこにいたってやることは変わらないし。それに、あたしはあんたの育ての親なんだから当分はあたしが傍に居ないと危なっかしいじゃない」
「そっか……わかった。だったら、もう何も言わない」
サクヤはリリスの事を裏切った自分を恥じながら、彼女を護る為に敢えて彼女のそばを離れる決心を固め、ラプラスとともに屋敷を後にした。
(ごめんねリリス……誕生日を一緒にお祝いするって約束、破っちゃって……だけど、それでもオレは、キミを守るために強くなるって決めたから)
――それから数年間、あたしたちは洗礼教会の追っ手を躱し、世界各地を転々とする日々を繰り返した。
放浪の旅の中でも、朔夜は常にリリスちゃんの事を思って修行に励んでいた。あいつの行動原理は呆れるほど分かりやすかった。でもそれゆえに純粋で一途。今どきの子にはあり得ない熱量だった。
だけど、当時のあいつが強さを求めていた理由は飽く迄も「リリスちゃん」を守るためだった。それががらりと変わったのは、ちょうど黒薔薇町に越してくる一年前にさかのぼる。
イタリアのトスカーナ州の片田舎で、隠居生活をしていた私たちは、偶然にも洗礼教会の司祭が秘か に各地から拉致した悪魔たちを幽閉しているという話を聞きつけ、敵地へと乗り込んだ。
そこで目にしたのは凄惨な光景。同胞たちが次々と実験の犠牲となり、その魂を凶悪な怪物の姿へと変えた。あたしたちは彼らを救おうとしたけど、結局彼らを元に姿に戻してやることはできなかった。
そして、あたしたちにこの事を報せてくれたかつての上級悪魔・オロバス家の当主だった青年は、消滅する間際に朔夜にあるものを渡した。
『オレたちの……未来を……君に……託したぞ……』
粒子となりながら、朔夜へと託された「魔法石の結晶」。それは洗礼教会の手により怪物となり果てた悪魔たちの魂そのものだった。
『待ってくれ……!! 待ってくれ!! オレは!!』
『……ろ……サクヤ』
満面の笑みとともに、その悪魔はあたしたちの目の前で消えた。
――そうして託された魔法石の結晶は、のちに朔夜の想いに呼応し、バスターブレスへ姿を変えたのだった。
≒
――ドン!
交渉に応じていたセキュリティキーパーだったが、所詮は国家の安全を揺るがす敵。時間の無駄であると判断して、手持ちのハンドガンを一発幹部たちの足下に放ち、威嚇する。
「時間の無駄だったね」
いよいよ覚悟した教会幹部たちが意を決して身構える。
「Don’t move。全員一人残らず検挙だ」
そのとき、
「朔夜ぁぁあああああ!!」
ラプラスが泣きながら叫び声をあげた。
「……っ!」
突入を敢行しようとした捜査官がなぜか立ち止まってしまった。不思議に思ってセキュリティキーパーが前を見て、彼らが突入に躊躇する理由が分かった。
瀕死状態だったはずのバスターナイトが、いつの間にか起き上がり正面玄関の前で立ち塞がっていたのだ。
「さ、朔夜っ!!」
ラプラスが声をからして叫ぶ。
「やめてください! お願いだからもうやめてください! 私たちの事はもういいから……お願いですから……朔夜さんっ!!」
クラレンスが涙ながらに訴えかける中、セキュリティキーパーはハンドガンの銃口を向ける。
――ドン!
敢えてバスターナイトには当てず、玄関のガラスを撃ち抜く。セキュリティキーパーなりの最後通告のつもりだった。
「……どうやら君みたいなタイプは、完全に息の根を止めない限り死ぬまで絡みついてくるみたいのようだ」
バスターナイトの背後のガラスが連鎖反応して次々と割れ、砕け散る。
「そこを退くんだ、悪魔」
今度はハンドガンをバスターナイトの心臓へと向け、そして発砲する。
銃弾が放たれると同時に、セキュリティキーパー自身もメタルシャフトを携え前に出る。虫の息である彼を次の一撃で確実に仕留めるために――。
(避けなければ負け……避けても負け……弾丸に刃、どちらでも好きな方を選びなよ)
と、次の瞬間。
バスターナイトは右手の剣を水平に突き出し飛んでくる弾丸を二つに斬り裂き、そして……。
「はあああああ!!」
勢いを殺す事無く懐目掛けて走って来たセキュリティキーパーのハンドガン、並びに左肩を貫き、そのまま後ろへ押し出し壁へと突き刺した。
「い……イケメン王子!」
「「「春人くん(さん)!!」」」
バスターナイトが仕掛ける最後の悪あがき。捕われの使い魔、プリキュア対策課の捜査官たちは我が目を疑い言葉を失う。
「……――貴様は、そうして飾られているのが似合いだ。ここには貴様らの咲く花畑などありはしない」
静かにバスターナイトはぼそっと呟いた。
「ふふふ……悪魔と言えど所詮は子どもだね。君は世の中の摂理というのが分かっていないようだ、バスターナイト」
言った直後にバスターナイトの剣に肩を貫かれていながら悲鳴一つ上げず、セキュリティキーパーは仮面の下で不気味に笑い返す。
「事件の早急な収束よりも身内の安全が大事だとでも? いいや、君は私情を優先しただけだ。君が救いたがっているのは愚かな使い魔なんかじゃない。自分自身をおいて他ならないよ。僕らに課せられた使命は罪をそそぐことじゃない。罪を裁くことだ。罪を恐れる
「ノブレス・オブリージュ……か」
「良く知っているね。悪魔ならば理解しているんじゃないのか? 僕たち人間には誰も救う事などできはしないって事を。己さえも救う権利はありはしない。歯車はただ回るだけ……もう止まる事はないんだ」
そして、今――事態は動き出す。
「時間切れだよ。バスターナイト」
セキュリティキーパーが言うと、秘かに敵地へと乗り込んだ別働隊がビルの屋上の扉を開け放つ音が聞こえた。
「なに!?」
「これは……!」
洗礼教会幹部たちは眼下で再び繰り広げられたバスターナイトたちのいざこざに気を取られ、周囲の警戒を怠っていた。
「全員討ち取れぇ――!!」
洗礼教会幹部たちも予想だにしていなかった衝撃の展開だった。
多くの信徒たちを迎撃用にこの場から放っていたため、残っているのは自分たちだけだ。その隙を突いてプリキュア対策課は一気に総攻撃を仕掛ける。
「く……!」
バスターナイトは状況を理解すると、セキュリティキーパーから離れ焦燥を滲み出しながらレイたちの救出へと向かう。
「やれ!! 一人残らず制圧せよ!!」
レイたちが捕われたビルの屋上へ駆けつけた時には既に混戦状態で、使い魔たちはコヘレトによって凶器を突き付けられている。
「チクショウ!! こうなったら使い魔諸共道連れだ!!」
「「「うわあああああああ」」」
バスターナイトの目の前でメタルシャフトを模した電気警棒を持った捜査官が四方から一斉に畳み掛ける。
コヘレトとともに、レイ、クラレンス、ラプラスの三人の姿が捜査官たちの攻撃と同時に見えなくなった。
「ラプラス!! レイ!! クラレンス!!」
終わった……守るべく存在を結局守ることができなかった。
途方もない無力感に駆られ、バスターナイトはその手から剣を落とし跪く。
こんな結末になるはずじゃなかった。もっと自分がしっかりしていれば……バスターナイトがそう自分を責める事しかできないでいた、そのとき。
「!?」
様子がおかしい事に気付く。
土煙の中を覗くと、背中から悪魔の翼を生やした見慣れた人影が映ってきた。
「――サっ君。一人で無茶しないで。私、あなたがそうやって頑張りすぎるところ好きじゃないんだよ。私はただあなたに居て欲しいだけなの。何事も無く穏やかな時を過ごしたい……ただ、それだけなの」
やがて完全に煙が晴れると、昏倒した捜査官とコヘレトの前に立って三人の使い魔を奪還したばかりのベリアルが立っていた。
「だからここからは、私がサっ君の分まで頑張るから」
「り……リリス!!」
「へぇー。傷つきながらも王女と使い魔を守ろうとするナイトを王女自らが守るというのかい? なんて美しい愛情だろうか。目も当てられぬほどだね」
セキュリティキーパーが呟くと同時に、頭上からプリキュア対策課の捜査官が乗っていると思われるヘリコプターが急上昇してきた。
バスターナイトとベリアルは自分たちを標的として機関銃で狙いを定めるヘリコプターを一瞥する。
(ヤツめ……別働隊の突入はオレをここへ誘い出すため。出入口を固め逃げ場をなくした上でオレたちを洗礼教会と共倒れさせるつもりか!?)
「気が早いわね。さすがはお役所仕事だこと。だけど、これだけはひとつ言わせてもらうわよ。私たちは確かに悪魔。人間を堕落させる邪な存在かもしれない。こうして身内を救う事しか考えていない不器用な生き物。でもね、誰も救おうとしない器用なあんたたち警察にだけは、ああだこうだと言われたくないのよね」
不敵な笑みとなり、ベリアルはこの場にいる警察関係者全員に訴える。
「あんたたちが何も救わないというのなら、私は罪人だろうとまるごと掬い取ってあげるわ。来なさいよ、人の皮を被った悪魔たち。この悪のプリキュア……キュアベリアルの首、獲れるものならとってみなさい!」
ベリアルの正面でバスターナイトになった朔夜が笑い声をあげた。
「ふふふふふ……はははははははは」
心の底からおかしかった。こんなにおかしいと思ったのはいつ以来だろうと、バスターナイトは考える。
「セキュリティキーパー! どうやら貴様はとんでもない計算ミスを犯したようだ」
ベリアルの挑発を前に身構える捜査官。その前を横切り、バスターナイトは捜査官を軽く押しのけ前へ出る。
「やめておけ。彼女を……魔王ヴァンデイン・ベリアルの忘れ形見の身も心も捕らえておける者はこのオレをおいて他にいない」
「ふふふ♪ もうサっ君ったら、こんな人前で恥ずかしいよ♡」
先ほどまでのクールな姿とは打って変わって、もじもじと乙女姿を見せるベリアルにバスターナイトが向き合う。
「……キミの言う通りだよ、リリス。たとえ相手が罪人だろうと関係ない。オレたちはオレたちの救いたいモノのために戦う。目の前に立ち塞がる障害が警察だろうと洗礼教会だろうとこの歩みを止めることはない」
朔夜はかつての自分を思い返す。大切なモノ一つ護る力の無かったあの頃の自分を。
「オレにとって、キミも使い魔たちも等しく同じなんだ。失いたくないから、必死に足掻いてる。世界や神の意志に背いてでもオレは罪を背負って戦ってきた。そんな身で罪を裁くつもりなど毛頭ない。だが、罪は裁けなくても、罪をそそぐことができなくても、オレたちにはオレたちにしかできないことがある」
悪魔であるからこそ出来ること――それが何なのか、バスターナイトの口から語られる答えは。
「自分と同じ過ちを犯さぬよう止めてやる事はできる。節度を越えて暴走する正義を止める事くらいできるんだ。オレはどこかの物わかりのいい男のように誰も救えないと言われて諦めるつもりはない。悪魔が同じ穴の貉を見捨てたらおしまいだからな」
「サっ君……」
バスターナイトの出した答えにベリアルは心から安堵する。
そして次の瞬間、ベリアルは洗礼教会から奪還したばかりの使い魔三人を無造作にビルの外へと放り投げる。
「え……えええええええええええええ~~~リリスちゃん~~~!!」
「リリス様ぁぁ――!! 何の御冗談ですかぁぁ~~~!!」
「た、助けて~~~!!」
まさかの行動に誰もが目を疑う。
折角救い出したはずの使い魔たちを放り投げるという暴挙。一体何を考えているのかとみんなが思っている中、セキュリティキーパーだけが彼女の真意に気付いていた。
「いや……違う」
屋上から突き落とされた使い魔三人は、あらかじめウィッチが仕掛けていた魔法の網で捕獲され、事なきを得た。
「ふう~~~ギリギリセーフですね!!」
そう言うと、ウィッチは屋上目掛けて弓を構えたケルビムへと呼びかける。
「まったく。自分がしていることが本当に分からないわね。でも、不思議と悪い気がしないのはどうしてかしらね」
「さぁここからが、ディアブロスプリキュアの大反撃ですよぉぉ――!!」
ウィッチが意気揚々と声を張り上げて、反撃の狼煙を上げる。
「罠です! 構いません、悪魔たちごと撃ってください!」
次の瞬間、セキュリティキーパーが甲高い声を上げて捜査官へ呼びかける。
「サっ君!」
「ああ!」
ベリアルとバスターナイトは頃合いを見計り、屋上にあるちょうどいい瓦礫をともに破壊し、頭上から狙いを定めるヘリコプターのフロントガラスへ命中させる。
ヘリコプターから爆発が生じたのを合図に、下の階からケルビムは無数の矢を天井目掛けて放つ。
――ドン!!
『緊急連絡! ま、前が! 爆煙で敵が確認できない!』
「どこだ!? どこにいった!?」
多量の煙で前がまるで見えない。
煙に乗じて姿を隠したベリアルたちを捜査官は必死で捜すのだが、すでに彼らはベリアルとバスターナイトの手の中で踊らされていた。
「だあああああ」
「のあああああ」
捜査官の呻き声が聞こえると、案の定ベリアルたちの手にかかった仲間が昏倒し倒れている。
「ヤツら、爆煙に紛れて!」
捜査官は爆煙の中に紛れているであろうベリアルとバスターナイトを討ち取るため煙の中へと突撃する。
その最中、洗礼教会幹部の三人衆も騒ぎに乗じて退散を試みる。
「しめたぞ。連中が戦っている内に退散するのだ!」
「しかし一体どこから……煙で何も見えんぞ!?」
どさくさに紛れて逃亡を図る洗礼教会は視界が定まらない中で、唯一の脱出口を発見する。ケルビムが矢を放った時に生じた巨大な穴だ。
「あれだ! さっきの爆発で空いた穴から逃げるぞ!」
直ちに穴を通って下の階へと降りる。だが……
「サンダーボルト!!」
「「「ふぎゃああああああああ!!」」」
ただで帰れるわけがない。この時を待っていたウィッチが仕掛ける強力な魔法攻撃が三大幹部を襲撃する。
「くそー! 慌てるな、階段を使うぞ! 今なら警察もいない!」
普通に魔法陣を使って逃げれば安全なはずなのに……どうやら三人はパニックに陥っているせいで冷静な判断ができなかったようだ。
「クラレンスさんたちが受けた苦しみはこんなものではないんですよ。あなたたちにはもっとお仕置きが必要ですね!!」
ウィッチはどこまでも卑怯な彼らを徹底的に制裁するため、建物全体を魔力で包み込み、魔法を発動する。
「いきますよ……キュアウィッチ・マジック・ワールド!!」
キュアウィッチロッドを掲げると同時に神秘の貴石から目映い光が発せられる。
「うぎゃああああ!!」
「ははははははは!! やめて、やめてくれぇ――!!」
「俺たちが悪かったから許してぇ――!!」
建物全体にかけられた魔法の効果で、三大幹部は普通では絶対に起こり得ないようなこと……壁に殴られたり、蹴られたり、くすぐられたりなどの仕打ちを受ける。
洗礼教会がこっぴどくやられている一方。
「撃ってください」
セキュリティキーパーは頭上から見える爆煙で攻撃を躊躇う味方に非情な判断を要求する。
『しかし春人くん、これだと敵も味方も判別が……!』
「構いません。動く者は皆標的です」
割れたフロントガラス、あまつさえ目の前からは黒煙が上がっている。こんな状況で攻撃とは随分と思い切った判断をするものだと捜査官は思いながら、目視による敵の捜索を続ける。
――バリン!!
前触れも無く飛んで来た紅い槍。攻撃を仕掛けたのは他でもないベリアルだ。
「操縦不能!! メーデー! メーデー!」
「脱出だ! 急げ!!」
露骨に恐怖する捜査官。
墜落するヘリコプターに狙いを定め、バスターナイトはバスターソードをX字状に動かす。
「ダークネススラッシュ……はっ!」
X字の黒い斬撃はヘリコプターをその形に沿って斬り裂く。
――ドカン!!
爆発の寸前に捜査官はヘリから脱出した。そして、この男も……
「チッキショー!!」
コヘレトはエレミアたちと同様例の穴を通って建物からの脱出を試みる。
「ったく、こんな事なら付いてくるんじゃ……」
「逃がさないわよ」
結果として今回もまた悪魔に手を貸した事になるケルビムがコヘレトの前に立ちはだかる。
「てめぇ……何のつもりだ!?」
「見てわからない? はぐれエクソシストのあんたに天使である私が神の名の下に断罪してあげるのよ」
コヘレトへと向けられる敵意。
ケルビムからの攻撃に備え銀の銃と光の剣を構える彼に、ケルビムは口角をつり上げる。
「そう畏まらないで。私の標的はあんたじゃない」
刹那。
建物を支える柱という柱が瞬時に瓦解――コヘレトの頭上に崩れた天井が降り注ぐ。
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ビルが完全に崩落する前にケルビムは脱出し、コヘレトの呆気ない最後を前に呟く。
「あんたみたいな白にも黒にも染まれない半端者は、そこがお似合いね。コンクリートの下で眠りなさい……似非神父さん」
捨て台詞のように吐き捨てると、背中の翼を広げ、天へと飛び去って行った。
「標的はいましたか?」
『それが、悪魔も洗礼教会も……それに人質もどこにもいません!! 逃げられました!!』
「どうやらしてやられたようだな、春人」
セキュリティキーパーへと呼びかける野太い声。
いつの間にか、公安部長でありプリキュア対策課の責任者兼父親の敬三が現地入りしていたようだ。
変身を解いた春人は溜息を吐き疲労感を露わにする。
「父さん……」
「おそらく悪魔たちは我々に成りすまし、突撃隊を騙し討ちするとともにヘリの銃撃を我々に向け同士討ちさせた、といったところだろう」
「しかし、何分屋上という閉鎖された隔離空間で起きたことゆえ、悪魔たちを任意同行し査問委員会にかけても洗礼教会による犯行であると言い逃れされる恐れがあります。さらには此度の私闘、挑発してきたのは悪魔側とは言え、先に仕掛けたのはこちら。我々の責任も問われるのは必定かと」
父であり上司の敬三に今回の報告を行いながら、春人はある提案をする。
「どうでしょう。事件も無事解決した事だし、我々の今後の活動にも影響が及ばないよう今回の件は痛み分けと言う事で不問に処し、悪魔からは一旦手を引かれては? いかがでしょうか、部長?」
息子からの提案に対する敬三の答えは。
「――結構だ。事件はもう解決した……怪我人を速やかに搬送し、この場を撤収するぞ」
「はっ!」
〈英断心より感謝するぞ、セキュリティキーパー……いや、神林春人。精々警察の厄介にならないように気をつけるさ〉
どこからか聞こえてきたバスターナイトの言葉に春人は不敵に笑う。
「謙遜するね。君たちはもう立派な正義の味方さ――――……今の時代に必要な〝黒い正義〟 だよ」
午後七時三十四分――洗礼教会による使い魔誘拐事件に端を発した悪魔とプリキュア対策課の衝突はこうして幕を閉じた。
事件から一夜が明けた早朝五時。
あれだけの激闘が繰り広げられたにもかかわらず、この事が公になる事は無かった。これもすべては神林敬三が持つ巨大な力ゆえで、ありとあらゆる繋がりを駆使して事件そのものを揉み消し存在を隠蔽したのである。
そんな中、戦いの舞台となった瓦礫の海に向かって塩漬けポークがついた釣竿を垂らし釣りをたしなむ者がいた。洗礼教会大司祭ホセアである。
「――瓦礫の上で釣りとは。あんたもなかなか酔狂な男だな、大司祭殿」
釣りをしている彼の後ろから声が聞こえてきた。
「で、何か釣れたか?」
ホセアは背中を向けたまま、振り返ること無く釣りを続ける。
「安い餌の割には。だが逃がしたよ。些かだが食するのがもったいなくなってしまった」
言った直後に待ちわびた魚こと、コヘレトが瓦礫の中から湧き上がってきた。
ホセアは生き埋めにされていた彼を彼の大好物で釣り上げると、ゆっくりゆっくりと餌を引いていき、彼を誘導する。
「いいのか? あんな連中を泳がせていては、あんたらを推す見えざる神の手に申し訳ねぇだろうよ」
「既に崩れかけた瓦礫の上で権力争いをするつもりなど毛頭ない。見えざる神の手もいずれは滅びゆく定めだ」
ホセアが表情一つ変えずに言うと後ろからの声の持ち主が、
「そんなものなのかね……」と呟く。
「安い餌でこれだけ釣りが楽しめれば十分だ。おかげでこの瓦礫の海にもまだ、泥に塗れても足掻く泥魚たちがいることを知れたのだから」
「……楽しみは先にとっておくと?」
「いずれまた会う事になるだろう」
釣竿を手元に戻し、ホセアは自分へと語りかけていた者の方へ振り返る。
「我々がこの瓦礫の海を更地に変えるとき、水を失った魚がどう足掻くか……楽しみだ。ふふふ……」
不敵に笑うホセアの足元に、カラスの如く漆黒に染まった一枚の羽根が落ちていた。
◇
黒薔薇町 黒薔薇高台
戦いの翌日。町を一望できる高台に、腕や頭に包帯を巻いた朔夜がいた。落下防止の柵に肘をついて寄りかかり、沈む夕陽を見て物思いにふけっていると、後方からよく聞き慣れた声が聞こえた。
「ったく。病院勝手に抜け出してどこ行ったのかと思えば、なに一人で黄昏てんのよ? あたしやリリスちゃんに余計な心配かけないでほしいわね」
ラプラスがゆっくりと近づき、やがて横に並んで「よっこらしょ」と背中で柵に寄りかかる。
腕に嵌められたバスターブレスをもう一方の手でさすりながら見つめると、おもむろに呟いた。
「オレはずっと……ずっと思っていたんだ。オレが、オレだけが生きていいのかって。あのとき、あのときあの場にはオレよりも夢を持った子がいた。オレよりも生きたかった子がいた。オレだけが平和な暮らしを過ごしていいのかって」
それを聞き、ラプラスは溜息を吐いて言った。
「馬鹿ね。そんなの決まってるじゃない」
振り返って朔夜の隣でラプラスも夕陽を見つめる。
「いいに決まってるじゃない。あんたもあたしも。あのとき、あんたに
「…………」
「だから好きに生きればいいのよ。生きて、生きて、生き抜いて、それで死ねるなら悪魔として本望だわ。あの子たちもあんたにそれを望んでる」
朔夜は目を伏せると、やがて優しい笑みを口元に浮かべた。
「――ああ」
静かに呟くと、朔夜はバスターブレスを強く握り、死んでいった悪魔たちの為に強く生きることを決めたのだった。
次回予告
は「ななな、なんと!! リリスちゃんと朔夜さんがデート!!これは何としても見逃せませんよね!!」
レ「イケメン王子とリリス様がデート…ああいかんいかん!! 早まった事があるかもしれない、何としても阻止せねば!!」
ク「阻止しちゃったらマズイですよ、レイさん! それにしてもリリスさんと朔夜さんがどんなデートをするのか見ものです」
リ「ディアブロスプリキュア! 『ドキドキが止まらない!リリスと朔夜の休日デート!』」