ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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今回は朔夜とリリスがラブラブデート・・・!!
だがしかし、無事に済むはずがないのです・・・・・・そうじゃないと物語として成り立ちませんから!!
そして洗礼教会では新たなる動きが・・・!!


第18話:ドキドキが止まらない!リリスと朔夜の休日デート!

黒薔薇町 悪原家

 

『日曜日の今日、関東地方は全般的に晴れており、まずまずの行楽日和となりました。雨の降る確率は東京が十パーセント……』

「うんうん!」

 午前八時過ぎ。

 テレビ画面から伝わる今日一日の天気を聞いて、パジャマ姿のリリスは嬉々とした表情を浮かべる。直後、その手に持った食パンをひと齧りする。

 食べ終わった食器を洗い、着替える前に歯を磨き、ぼさぼさの髪をドライヤーで乾かし、いつも以上に気合いを入れておめかしをする。

 何を隠そう、悪原リリスは今日――婚約者・十六夜朔夜とデートをするのだ。

 無論この事実はレイには知られていない。現在、彼は所用で家を空けており、彼女は使い魔が帰ってこないうちに家を発つつもりだ。

「よし!」

 着替え終えると、再度姿見鏡を見ながら身だしなみをチェックする。

「服よし……髪よし……」

 朔夜に少しでも気に入られたいがために最終チェックには気合いが入る。

 本日のコーデは普段着ている黒や赤など悪魔を連想させるワンピースではない。個性を殺さない程度に女の子である事をアピールする服を昨晩練りに練り、髪もそれに合わせてある。

 すべてのチェックが済み、問題ないと判断した彼女は安堵の息を吐くと、頬をパチンと叩き気合いを入れる。

「よっしゃ! いくか!! ……ふふふ♪」

 確実に朔夜のハートを射止め、自他ともに認めるラブラブなデートを楽しむ――そんな野心を抱きながら意気揚々と玄関へと向かう。

 デート用の靴を履き、いざ出発と扉を開けようとしたその時、おもわぬ事態に直面した。

 扉を開けた僅かな隙間より、ラプラスと思われる金髪美女が立っており、慌てた彼女は咄嗟に戸を閉め激しく困惑する。

「なんでよりによってラプラスさんが……!?」

 今この場で出て行けば、ラプラスに足止めを食らうばかりか、朔夜とのデートに余計な首を突っ込まれる可能性がある。

 普通には出られないと判断した彼女は靴を脱ぐと、一旦家の中へと戻り、二階へと上がる。

 彼女は自室の窓を開けると、誰もいない事を見計らい、勢いよく飛び出した。

「とーっ!!」

 自分でも柄にもなく何をしているんだと思いつつ、非常事態と割り切り部屋を脱出。どうやらラプラスには気づかれていない様子でリリスは一安心する。

「は!」

 ほっとしたのも束の間。

 視線に気付くと、リリスの事を両手いっぱいに買い物袋を掲げた中年の女性がじーっと見つめ、言葉を掛けるか否か躊躇していた。

 彼女はその女性の事をよく知っていた。家の隣に住んでいてよく世話を焼いてくれる佐藤婦人だった。

「ああ、さ……佐藤さん! おはようございます!!」

 動揺しながらも礼節を弁え挨拶するが、佐藤は先ほどから唖然としたまま棒立ちを決め込んでいる。

「えっと、これからデートなもので……!!」

 決して嘘をついている訳ではない。ただ、そんな事よりも佐藤は先ほど見たものへのインパクトが強すぎて、デートかどうかは正直頭に入ってこない。

「じゃそういうことで!!」

 逃げるようにリリスは佐藤の前から疾走する。

 なんだかなーと内心思いつつ、自宅へ戻るためリリスの家の前を通り過ぎようとした……そのとき。

「え!?」

 やけに派手な格好をした金髪美女が、悪原家の玄関前に立っていた事に気付き驚いた。

 佐藤から向けられる異様な視線に気づいたラプラスは、呆然とする彼女を見ながら……

「あんた誰よ?」

 聞いた瞬間、佐藤は深い溜息を漏らす。

「あのね……あたしはリリスちゃんの家の隣に住んでる佐藤ですけど」

「あらそうなの」

「それよりもあなたこそ、こんなところで何やってるの?」

 佐藤が目の前の不審者に眉をひそめながら尋ねる。

「いえね。せっかくの日曜日だしリリスちゃん誘ってどっかに遊びに行こうと思って。でも変なのよ……リリスちゃんったら全然出ないのよ」

「あなたリリスちゃんのお知り合い?」

「知り合いっていうか、あれよ……身内みたいなもんね」

「親戚って事?」

「めんどくさいからそれでいいわ」

 ラプラスがリリスの親戚だと分かった事で妙な不安が消える。

 その後、佐藤は具に語る。

「リリスちゃんならさっきおでかけしましたよ……デートに!」

「で、デート!?」

 聞いた瞬間、頭上から落雷を受けたような凄まじい衝撃がラプラスに奔る。

 気が付くと、眼前の佐藤の首元を掴み激しく問い詰めていた。

「ちょっとー! デートってまさか朔夜とじゃないでしょうね!? そう言えばあの子、今朝起きた時にはあたしの分の朝食置いてどっかに出かけてたけど、まさかリリスちゃんとデートする為だったの!?」

 豹変したラプラスから激しく問い詰められる佐藤――喋る隙を与えられずただただ首を前後に振られるばかり。

「ゆるせな~~~い!! あたしに黙ってデートなんて……たとえ公認の仲とは言え、一言も話さない理由なんてないでしょうか!! それとも何!? あたしがいるとかえって都合が悪い事でもあると言ってるのかしら~~~!!」

 まさに仰るとおりである……リリスも、そして朔夜も最も危惧した事は他ならぬラプラスであった。

 抜け駆けされた気でならない彼女は、怒気を孕んだ声で佐藤へ詰問する。

「あんた! リリスちゃんがどっちの方に行ったかわかる!? 返答次第じゃあんたの魂もらうわよ!!」

「た、たしか駅の方へ向かったと思いますけど……」

 脅迫に応じた佐藤から情報を聞きだすや、ラプラスは全力疾走で飛び出した。

「はぁ……なんだったんだろうね」

 佐藤にとって、今日ほど穏やかじゃない日曜日は無かったことだろう。

 

           *

 

黒薔薇町 くろばら公園

 

 情報を得たラプラスはただちにレイたちを呼び集め、緊急対策会議を開いた。

「事件よ――っ!! これは事件なのよ!!」

「リリス様とイケメン王子がデート……おお神よ!! とうとう来たるべき日が来てしまいました!! この愚かな使い魔にどうかご知恵を……ああああああああ!! 頭が割れる!!」

「レイさん、使い魔も悪魔と変わらないんですよ? あれだけ私に散々言ってきて、忘れたんですか?」

「それはそうとリリスちゃんと朔夜さんがデートとは……はるかはすごぉ――く気になります!!」

「こうなりゃあたしたちもあの二人を追いかけることにしましょう!」

 野次馬根性剥き出しだ。人の色恋ほど気になるものはない……それは人間も悪魔も、そして使い魔にも共通した感覚なのである。

「ですが具体的にどこへ行ったかはわからないんですよね?」

 クラレンスが尋ねると自信満々にラプラスが答える。

「大丈夫! 二人の魔力を辿れば行先なんて直ぐに分かるわ。それに中学生の予算 でいけるデートスポットなんてたかが知れるし。行くとすれば水族館とか動物園とか、もしくは映画館とかよ!」

「そうでしょうか? ああ見えてリリスちゃん、結構稼いでるみたいですよ。FXとか不動産とかで毎月百万くらい得ているとか」

 はるかからもたらされた情報にラプラスは驚愕し絶句する。

「ははは……やるわねリリスちゃん。あ、そうだ。今度何かあったらリリスちゃんに恵んでもらおうかしら?」

「ご婦人! 人の主から金を無心しようとするのはこの私が断じて認めませんぞ!」

 ラプラスの言葉にレイが厳しいツッコミを入れる中、クラレンスが腕時計の針を見ながら皆に提案する。

「もうこんな時間です。追いかけるなら早くしましょう」

「そうですね! クラレンスさんの言う通りです。急がないと電車が出ちゃいます!」

「いえ、はるか様。電車などという悠長な交通手段に頼っていては追いつけるものも追いつけません。ここは私にお任せを!!」

 自信に満ちた笑みとともに、レイはおもむろにジャケットの内ポケットへ手を突っ込み、運転免許証を取り出した。

 

           *

 

同時刻――

黒薔薇町 黒薔薇駅

 

 リリスとの待ち合わせの為、朔夜は彼女よりも先に駅に来ていた。

 周りからイケメンと称される彼の本日のコーデは、黒を基調とするデニムとインナー、その上からジャケットを羽織ったラフなスタイル―――彼の一般的な普段着でもある。

 一流モデルさながらの雰囲気を醸し出し、世の女性たちを魅了する彼は、リリスが到着するまでの間、古典文学を読んで時間を潰す。

「サっ君!」

 やがて、リリスの声が左耳の方から入ってくる。

 朔夜は穏やかな表情を浮かべながら本に栞を挟み、駆け足で近付いてきたリリスと合流する。

「ごめんなさい遅くなって……!」

「いや。オレが早く来すぎたんだよ。待ち合わせ時間までにはまだ十二分ある。気にしないで」

「あ。その本、この前私が貸した『百年の孤独』だよね?」

「リリスが選んでくれただけあって面白い中身だった。おかげでいい時間潰しになったよ。ありがとう」

「うんうん! それはそうと……どうかなこの格好? 変じゃない?」

 気恥ずかしそうに今日の服装について感想を求めると、朔夜はニコッと笑ってから。

「すごくキミらしさが出ていると思うよ。誰が見たって似合ってるから大丈夫」

「あ、ありがとう……」

(よっしゃ――!! 好感度アップ成功!! 出だしは順調ね!)

 最愛の男性からの太鼓判をもらい、リリスは表面的には照れるものの、本心では興奮が収まらないでいる。

(ここからが肝心よ。たしか、『心をHugっと 』の第九巻だとこのあと、主人公が好きな男の子と手をつなぐはずだったけど……あぁダメだわ! そんな破廉恥なこと私にはできない!!)

 大人びた性格の彼女だが、こと恋愛に関してはずぶの素人。恋人と手を繋ぐことさえ破廉恥と考える初心な彼女をはるかたちは知らない。

「おっといけない。もうすぐ電車が出るから、早く乗ろう。切符は先に買っておいたから」

「いつも気を遣わせてごめんね。お金は後から精算するから」

 すると朔夜はさり気無く、リリスの手を握りしめる。

「え!」

 さり気無くも大胆な彼の行動に、リリスは一瞬びくっとする。

「いこう、リリス」

「……うん♪」

 悪魔であるはずなのにリリスには朔夜が悪魔の姿をした天使に思えてならなかった。

 屈託ない顔で笑いかけられれば、リリスも自然と表情筋を緩め満面の笑みとなる。

 二人は恋人繋ぎで駅構内へ入っていった。

 

 リリスと朔夜が電車での移動を始めた中、はるかたちはレイが借りたレンタカーで二人の追跡を行う。

 だがしかし、彼らは序盤から不運な目に遭っていた。

「いきなり大ピ~~~ンチ!!」

 今日が日曜日だという事を考慮すべきだった。

 レイが運転する車の前方には長い列ができている。都内の道路は酷い渋滞を起こしており、出発して間もなくこの状況に陥り、現在全く先に進めていない。

「全然前に進みませんねー」

「やはりはるかさんが言ったように高速に乗るべきでしたね」

「バカモノ! 高速に乗ったらいくらになると思っているのだ!?」

 高速道路という手もあったが、レイの手持ちの資金ではレンタカー代に加えて高速料金を払うだけの余裕がなかった……訳ではないが、単にケチってこのような事態を迎えたのだ。

「男が細かい事で気にしてんじゃないわよ。いいこと、お金って言うのは使わないと回ってこないのよ……わかるかなー、あたしの言ってる事?」

「筋は通っているんですがね……何なんでしょう、ラプラスさんが言うと妙に説得力に欠けるんですが」

「同感です……」

 はるかとクラレンスが納得いかない顔をしていると、運転席のレイが両手で頭を掻き毟って絶叫した。

「くそ~~~……こんな事をしている間にもリリス様とイケメン王子は二人きりでイチャイチャして……ああああああああ~~~!! なんで世の中は不条理なんだ~~~!!」

「落ち着いてくださいレイさん !! 後ろからクラクションが鳴ってますよ!!」

 前が進んでいる事も忘れて発狂するレイの気持ちを知ってか知らずか、後続車からのクラクションが非情に思えた。

 

           *

 

異世界 洗礼教会本部

 

 この日、ホセアは三大幹部とキュアケルビムを集め重大な話をする。

「今日から我々と同じ志を持つ者として新しい仲間を迎え入れたい。お前たちも良く知る男だ」

 そう言われ、ホセアの後ろから現れた人物に一同は絶句――我が目を疑った。

「な……貴様は!?」

「まさか……!」

「そんなバカな!!?」

「うそでしょう……!」

 驚愕する四人の前に現れたはぐれエクソシスト――コヘレト。プリキュア対策課とディアブロスプリキュアとの衝突時ケルビムの手によってビルの下敷きにされた男だ。

 だが彼はホセアによって救われ、その上今回仲間と言う事で再び教会に迎え入れられた。

「本日付をもって私の補佐を務める事となった」

「コヘレトだ。ま、よろしく頼むぜ!」

 ホセアの隣に立ちコヘレトは不敵な笑みを浮かべる。

 予想外の出来事にも程がある。青天の霹靂に見舞われた四人はコヘレトを見ながら終始言葉を失う。

「どうした皆の者、なにゆえそのような顔をしている?」

 訝しげにホセアが尋ねると、三大幹部たちは形相を浮かべ怒鳴り声を発する。

「一体どういうことですかこれは!?」

「ホセア様、正気ですか!?」

「なにゆえそのような裏切り者を再び……!!」

 三大幹部からの戸惑いと怒りの声はもっともである。コヘレトは一度は洗礼教会を裏切り、はぐれエクソシストとなった挙句――堕天使側に付いたのだ。

 コヘレトにしてもホセアにしても一体どういう神経をしているのか、幹部たちにはまるで理解できなかった。

「落ち着くのだ、私はいつも正気だ。それに今回の人事は私個人の判断だけではない――偉大なる〝見えざる神の手〟の意思に基づく決定だ」

「な……! 見えざる神の手ですと!?」

「本当ですかそれは!」

 愕然とする三大幹部を前にホセアは「無論だ」と即答する。

「見えざる神の手は我々にとって重要な後ろ盾。言うまでも無く我々如きが彼らの決定に口を出すことは罷りならぬゆえ、妙な気を起こさぬよう忠告するぞ」

「へへへへ。そういうことだからよ、またいっちょよろしく頼むぜ兄弟!!」

「く……」

 いかなる場合においても上の命令及び決定には逆らえない。

 不承不承だが、一度決まった人事に逆らえない以上――エレミアも、モーセも、そしてサムエルも横やりを入れる事はできない。

 自分の気持ちとは裏腹に、三人はしぶしぶコヘレトを仲間として受け入れる事にした。

 

 会合が終わったあと、変身を解いたテミスは廊下を歩きながら今回の人事について思考する。

(見えざる神の手……洗礼教会のバックアップで天界における最高位機関。同時にその存在の多くが謎のベールに包まれている。ホセア様がどんな手を使ったのかは知らないけど、用心しとかないといけないわね)

 得体の知れない何かが動き始めている気がしてならなかった。

 不安に思う最中、彼女は前回廃ビルでキュアウィッチと対峙した際のことを、ふと思い出す。

 

 

 ベリアルがウィッチと別れ、捕まった使い魔の救出に向かった後、ケルビムとウィッチは互いの武器と技で幾度かの衝突を重ねながら言葉を重ねていた。

『キュアケルビムさん! あなたはどうしてこんなことに加担しているのですか!?』

『人間たちの平和を守るのが私たちプリキュア……であるならば、人間を脅かす悪魔に加担しているあなたこそ異端なのよ!』

『リリスちゃんは確かに悪魔です! 私も魔女ですから、悪魔の味方なのかもしれません。ですが、今回の件も、今までの件も、あなたのやっている事が本当に正義のプリキュアがやることとは思えません!』

『……ッ! それは……』

 言葉に詰まるケルビム。口の中で次の言葉を探していると、ウィッチがさらにまくし立てる。

『あなたは堕天使侵攻の時、私たちに手を貸してくれました! あなたに正義の心があるのなら、この場の正義がどこにあるのかわかるのではないですか!?』

 

 

 テミスがウィッチの言葉を噛みしめていると、廊下の向こうから猛スピードで何かが飛んできた。

「て、テミス様!! 大変です!!」

 飛んできたのは会合の後、足早にどこかへと消えていったピットだった。

「どうしたのピット? 血相なんて変えて」

「お、落ち着いてよく聞いてください……わたしたちに見えざる神の手から直々の御呼び出しがかかりました!!」

「な……なんですって!?」

 聞いた途端に、テミスの顔から血の気が引いた。

 

           *

 

黒薔薇町郊外 ナショナルジオパーク

 

 ラプラスの睨んだ通り、リリスと朔夜は動物園へとやってきた。

 何事も無く動物園へと到着したリリスは朔夜がチケットを購入するまで待機。その間にも身だしなみを小まめに整える。

「お待たせ。さ、入ろうか」

「うん♪」

 二人は仲睦ましく笑い合い、家族連れとカップルで賑わう園内へと入場する。

 その数分後。道中に様々なトラブルに見舞われながらもレイたちの車も動物園内 へ到着――停められる場所を求めて空いてる駐車スペースを探す。

「参りましたな……どこもいっぱいですぞ!」

「結果として出るのが遅れてしまいましたからね」

「それに今日は日曜日。しかもここは動物園と水族館が併設された総合アミューズメント施設ですからね。駐車場が車でいっぱいになる事は想像に難くはありませんでした」

「まったく。誰の所為でこうなったのかしら?」

 ラプラスが大きな溜息を吐くとハンドルを握るレイが大声で訴えた。

「ご婦人が途中パーキングでトイレに行ったり、買い食いなんかするから決定的に遅れたんですよ!!」

 

 園内へと入ったリリスと朔夜は早速動物を見て楽しむ。

 先ずは猿山でサルを見る。とりわけ、サルの親子の仲睦ましい姿は見ていて微笑ましく自然と癒される。

「かわいいね、赤ちゃんザル」

「うん、人間でも動物でも子供って本当にかわいい!」

「リリスならいい母親になれると思うな」

「うふ。早くサっ君との子供が欲しいな……」

 何気なく言った一言に昨夜も、そして言った本人も赤面する。

 甘い甘い雰囲気に包まれていたそのとき、一瞬で雰囲気をぶち壊す声が背後から聞こえた。

「ちょっと待ちなさいよ、あんた! あたしのバッグ返しなさい!!」

「ご婦人、早まらないでくださいね!!」

「今の声は!」

 リリスにとって聞き覚えのある声――しかも最悪の状況を生み出しかねない存在のものだった。

「猿山って見飽きないよね」

「え、うん!! そうだね!!」

 まさか と思い顔を青ざめるリリスとは裏腹、隣に立つ朔夜は視線に映るサルを見続ける。

「ほら、あそこにも親子が!」

「あ、本当だ! かわいい~!!」

 とは言いつつも、正直なところリリスは非常に焦っている。

 デートを楽しむどころか、デートそのものをぶち壊すような輩にストーキングされているなどあってはならない事だった。

(まずいわね……せっかくのデートだって言うのによりによって一番タチ の悪い二人がここにいるなんて……ちょっと待って、という事はまさかはるかたちも!?)

「どうかしたの、リリス?」

「え!?」

 唐突に朔夜から声をかけられた。

 リリスは自分を心配して顔を覗きこむ朔夜にドキッとする。

「顔色が悪いよ。大丈夫?」

「あ、うん! 何でもないよ!! そろそろ違う場所見ない? 私、アライグマとかラッコ が見たいなー!」

「わかったよ」

 二人は猿山から移動を開始する。

 リリスたちが立ち去って行く様子を、草むらに隠れていたはるかとクラレンスは秘かに見守っていた。

「どうやら私たちがいることは、リリスさんたちにはバレなかったようですね」

「いえ、あれはきっと気づいていますよ……だってあれじゃ」

 言いながら、はるとクラレンスは近くにいるレイとラプラスの方を注視する。

「よくもあたしのエルメスのバッグを~~~!!」

「ご婦人、どうかそれくらいにしてあげましょう!! 死んじゃいますよ!!」

 バッグをスられ 、それをひったくりから奪い返したラプラスは必要以上に犯人の男に暴行を加えている。

 レイと駆けつけた係員らによって止められる彼女の姿を見るうち、はるかとクラレンスは深い溜息を吐く。

 

 その後、ラッコを見にやってきたリリスと朔夜。

 しかし依然としてリリスはどうにもはるかたちの視線が気になるあまり、動物を見ることはおろか、デートそのものに集中出来ずにいた。

(どうやら邪魔者はいないみたいだけど……さっきから妙な胸騒ぎがしてならないわねー……)

「リリス、さっきから辺りを窺っているけど誰かいるの?」

「ううん! 誰もいないよ!! うわぁ~ラッコかわいい! 私、ラッコ大好き!!」

「喜んでもらえてよかったよ」

(落ち着くのよ悪原リリス……今はとにかくデートに集中しなくちゃ……)

 大きく息を吸って乱れた心を落ち着かせる。やがて、リリスは意を決し言う。

「あ、あの! サっ君、おなかすいてない!?」

「そう言えば、もうすぐ昼餉の時間になるかな?」

「私ね! 今日のためにお弁当作ってきたんだけど、よかったら食べない?」

「本当に!? 嬉しいな、じゃお腹も減ってきたしありがたく戴こうかな」

「うん♪」

(できるだけあの子たちの目に付かない場所で食べないと……)

 何が何でも朔夜との昼食を見られる訳にはいかなかった。

 だがこの時すでにリリスを監視する者――クラレンスによってマークされており、リリスと朔夜が移動をするのを見計らい、クラレンスは無線で連絡を入れる。

「こちらホワイトロック! はるかさん、キツネはそちらへ向かいました!」

『ラジャーです!』

 

「どこで食べようか?」

「そうだね……」

 歩いていたとき、たまたまイタリア語を話す外国人のカップルが話しているのが聞こえてきた。

「Questa è una gabbia di panda, no?(ジャイアントパンダの檻はここじゃないかな?)」

「No, penso che sia laggiù.(いいえ、違うわ。こっちじゃないかしら?)」

 すると、困ってる様子だったので朔夜がリリスに待ったをかける。

「ちょっと、待っててくれるかい?」

「うん」

 朔夜は駆け足でカップルの元へ近づきイタリア語で話しかける。

「Hai bisogno di aiuto?(助けが必要ですか?)」

「Si, ho così voglia di andare alla gabbia di panda.(そうなんだ、パンダの檻に行きたいんだ)」

「Vai dritto qui e lo troverai alla fine.(この先をまっすぐ行った突き当たりにあります)」

「うわあああああ!!」

 リリスはイタリア語を理解してぺらぺらと話す朔夜の姿に感嘆の声をあげた。そして、乙女な表情で目をキラキラ光らせる。

 やがて、戻ってきた朔夜にリリスは尋ねる。

「サっ君、凄い流暢だったね! 今のってイタリア語?」

「よくわかったね。一年くらい前まではトスカーナに住んでたから。それで覚えたんだ」

「すごいねー! 私、日本語以外だったら英語とドイツ語ならわかるんだけど……イタリア語は全然」

 リリスが首を横にふるふると揺らすと、朔夜がそれなら、と提案する。

「オレがわかる範囲であれば教えようか?」

「いいの?」

「あんまり役に立たないかもしれないけど。リリスならすぐに上達するよ」

「ありがとう! よろしくお願いします」

 すると、朔夜に道案内をされたカップルが仲睦しい二人を見て、くすくすと笑う。

「È una bella coppia.(可愛いカップルだね)」

「Davvero.(ほんとに)」

 イタリア語ゆえに、朔夜だけがそれを理解し赤面する。

「サっ君、どうしたの?」

「いや……なんでもない」

 朔夜は耳まで赤くしながら怪訝するリリスを連れて移動する。

 このとき、隠れて様子を窺っていたレイはますます距離を縮める二人を見ながら、激しい憎悪と嫉妬の炎を燃やす。

「ぐうぅぅ~~~! あのクソイケメン王子がぁ~~~!」

 

 昼食時。

 なるたけ人気の無いところをチョイスしたリリスは、木陰に腰を下ろし、ランチョンマットを広げると、鞄から朔夜のためにと手作りした自作の弁当を披露する。

「うわぁ……これはすごい!」

「うふふ♪ 朝四時起きして作ったんだよ」

「彩りといい栄養バランスといい、すごくおいしそうだ。リリス、本当にありがとう!」

 朔夜ほどではないが、基本は文武両道であるリリスにとって、弁当を作ることなど造作もない。しかし、相手は婚約者である朔夜。いつもレイに作っている弁当とはわけが違うのだ。

「それでね……もしよかったら私が食べさせてあげるけどいい?」

 頬を赤らめもじもじとしながら懇願する彼女の仕草が何ともかわいらしく思えた。朔夜は理性を擽られると、照れくさそうに頬を掻く。

「オレはその……き……キミが良ければ構わないけど」

「じゃ、じゃあ! 口を開けてねサっ君!!」

 割り箸でハンバーグを掴むと、リリスは朔夜の口元へゆっくりと運んでいく。

 激しい動悸に見舞われ気が気でないリリスと朔夜――だが悲劇は突如として起こるのがこの世の常である。

「きみは~~~おれの~~~しゃけ弁さぁ~~~!」

 前触れも無く聞こえたはるかの大声。彼女は園内でたまたまかかった演歌のBGMに合わせて熱唱していた。

 天城はるかは根っからの演歌好きであり、音楽を聞くと唄わずにはいられないという体質だった。

 我に返ったリリスが辺りを見渡すと、人目を憚らず大声で演歌を吟ずる親友の姿がレイやクラレンス、ラプラスらと一緒に確認できた。

「決まりました~~~! やっぱり『オレのしゃけ弁』は最高ですね!!」

「は、はるかさん! そんな大声で歌ったりなんかしたら見つかっちゃいますよ!」

「ぎく……もう見つかっちゃったわよ」

「ふぇ!?」

 向けられる、刺すような視線へ恐る恐る振り返ると――案の定悪鬼の表情を浮かべるリリスに睨まれていた。物々しい雰囲気を醸し出し、今にも食ってかかってきそうな感じだ。

「あははは……リリスちゃん、どうも……奇遇ですね」

「なにしてるのよあんたたち……」

 今にも拳が飛んできそうなリリスをレイがなんとかなだめようとする。

「リリス様、どうかお鎮まり下さい! お叱りはあとで受けますから……」

「ところでリリスちゃん、朔夜なんだけど……」

「大変な事になっていませんか……?」

「え!?」

 周りに言われ慌てて朔夜の方を見ると、いつしか手元は狂い彼に食べさせようとしていたハンバーグが朔夜の眼球に深くめり込んでいた。

「しまっ……」

 朔夜の目からハンバーグが離れた瞬間――彼は当てられた方の目を抑え、声を殺し悶絶する。

「朔夜!」

「大丈夫ですか!?」

「サっ君! ごめんなさい、大丈夫!?」

 彼を心配し全員で声をかける。

 すると朔夜はゆっくりと顔を上げ、リリスたちに苦い笑みを浮かべ言う。

「オレはなんともないから……大丈夫だよ」

 明らかに無理をしている。

 それに何より、朔夜にこんな酷い仕打ちをしてしまった事がリリスにはこの上も無く恥ずかしくて情けなかった。

「あの! 私ちょっとトイレに!!」

「リリスちゃん!?」

 動揺した彼女は羞恥で赤く染まった顔を伏せ、朔夜から逃げるように走り出す。

(私ってサイテ――!!)

「あ! リリス様、前を見てください!!」

「危ないですよ!」

 レイとはるかが忠告をするも時すでに遅し。

 目の前が見えなくなっていたリリスは、前方にあった樹に額を思い切りぶつけ、体を二回半回転させてから仰向けに倒れる。

「り、リリス!!」

 目を回し気を失ったリリスの元へ朔夜は慌てて駆け寄る。

 気絶に加え、リリスは鼻血まで出している。悪原リリス――踏んだり蹴ったりな展開となってしまった。

 

           *

 

 【天界】――それは天使たちが暮らす場所。地上で暮らす人間は俗に「天国」と呼んでいる。

 雲の上にあるとされているそこは人間には見えないよう特殊な結界で隠されている。天界は全部で七つの層に別れている。

 

           ≡

 

天界 第三天

 

 テミス・フローレンスこと、キュアケルビムはパートナーであるピットを伴い故郷である天界へと戻って来た。ある重要な用事を済ますために。

「天界に戻るのは久し振りね」

 第三天は一般的な天国と呼べる場所で、一番広い階層だ。広大すぎるため、端がどこにあるのかわからないとさえ言われている。

 周りに存在する天使たちを一瞥しながら二人が向かうのは天界の最上部で、神の住まう場所とされた第七天――見えざる神の手と呼ばれる組織が拠点を置く場所だ。

 道中、ピットが不安気な顔でつぶやく。

「あの……テミス様。本当に大丈夫なんでしょうか?」

「わからない」

「そもそも見えざる神の手とはなんなのでしょう?」

 ピットが不安そうに尋ねると、ケルビムが淡々と説明する。

「神と天使、堕天使、悪魔の間で起こったかつての大戦争……数が激減し乱れた三大勢力の秩序を図るために発足した調停機関、それが見えざる神の手。表向きは洗礼教会の後ろ盾って言うけど、実態を知る者は天使の中でもごく僅かよ」

「わたしたちにお呼びがかかったって事はひょっとして、処罰されるのでしょうか? 何だかんだ悪魔と共闘したり、教会の意思に背いたりと命令違反を続けていますし……」

「確かに向こうからすれば私たちが目障りなのは間違いないでしょうけど、多分それはないわ。公にそんな真似をすれば、他の天使たちから反発を招きかねないし。むしろ危険なのは今よ……城に来いと言うのはただの名目で、私たちが二人揃ったところを闇討ちするなんて事も十分に考えられるわ」

「そ、そんな……」

 これまで二人……正確にはキュアケルビムによる独断がほとんどだが、事あるごとに命令違反を犯している。

 自らの正義を貫くために教会の意に反する事も厭わないケルビムの行動は洗礼教会でも問題となっていたが、今回はついに教会の後ろ盾である見えざる神の手にまで情報が知れ渡ってしまったのだ。

 どんな仕打ちを受けるか分からない。最悪の事態も考慮するケルビムに対し、ピットの不安は益々大きくなる。

 パートナーが不安一色の顔を浮かべる様子を横で見ながら、ケルビムは彼女を慰めようと柔らかい笑みを浮かべる。

「でも大丈夫。たとえ相手が誰だろうと、私は誰にも負けない。二人で一緒に無事に帰りましょう」

「テミス様……はい!」

 二人でならきっと乗り越えられる――ケルビムとピットは絆を強くし、見えざる神の手の拠点がある第七天を目指す。

 

           *

 

黒薔薇町郊外 ナショナルジオパーク

 

 雨雲がかかり始める東京の空。

 気を失ったリリスが目を覚ますと太陽は隠れ、自分は鼻にティッシュを詰められたままベンチの上で横になっていた。

「嫌われちゃったな……きっと……」

 確実に朔夜から距離を置かれてしまった。デートは大失敗に終わったに違いない……そう思っていると、朔夜が戻って来た。

「どう、鼻血止まった?」

「え! う、うん……」

 慌てて起きようとするリリスに、朔夜は「ああ、いいよ、寝てて」と言う。

「リリスが寝ている間にお弁当は頂いたよ。すごくおいしかった。あ、そうだ。自販機で飲み物買って来たよ」

「ありがとう……」

 起き上がったリリスの隣に座り、朔夜は「どっちにする?」と言って、コーラかオレンジジュースのいずれかを勧める。

「じゃあ、コーラで……」

 もらったコーラをちびちびと飲むかたわら、リリスは朔夜を気にすると、彼は怒っているどころか穏やかに笑い返してくる。

 リリスにとって余計にバツの悪い話だった。

(最悪だわ……すべてお終いよ。サっ君がいることを忘れてあんなはしたないマネするなんて私……かぁ~~~!!)

「オレは気にしてなんかいないよ」

「え!! ううう……」

 どうして彼はこんなにも寛大なのだろう。器の大きい朔夜を前に、リリスの羞恥は一気にピークに達し、とうとう涙腺が崩壊する。

 涙を浮かべるリリスを前にした朔夜は、情緒不安定な彼女を慰めようと優しく手を握りしめ、おもむろに語り出す。

「リリスは完璧主義なところがあるから今日のデートは百点満点とはいかなかったのかもしれない。だけどね、オレはすごく楽しかったよ。もちろん今この瞬間もね。たとえイレギュラーな事があっても、キミとこうして穏やか日常を送れることがオレにとって至福のひとときだから」

「サっ君……」

 見つめ合う二人。

 実にロマンチックな雰囲気に包まれる二人を、茂みからはるかたちが見守る。

「いいわよ朔夜! そのまま押し倒しなさい!! でもって、チュウ~~~って!!

「ハヒ!? ラプラスさん、いくらなんでも中学生でそれは早すぎますよ!」

「く~~~、イケメン王子とリリス様がせせせせ……接吻!! そうなったら私は……あああああああああ!!」

「レイさん、少し静かにしてください! 雰囲気を大事にしましょう!」

 

 ――ドン!

 不意に聞こえてきた物音。

 地響きを起こすほどの大きな音に、リリスたちは不審に思う。

「なんの音だ?」

 音のする方へ振り返ると、歩いてきたのは大きなクラリネットとそれに見合うだけの巨体を持つ怪物――《クラリネットカオスヘッド》 だった。

「カオスヘッド……!?」

「どうしてカオスヘッドが!?」

「まさか、近くに堕天使が居るのか!?」

「リリスちゃん!」

「リリス様!!」

 カオスヘッドと言う最悪のイレギュラーを前に、隠れていたはるかたちはリリスと朔夜と合流する。

 近くを見渡すと、ライオンの檻の上には堕天使ラッセルがいた。

「ザッハ様を失った私の悲しみと傷は癒えない……この世に生きるすべての生き物は、私と同じ悲しみを味わいなさい!!」

 崇拝していたザッハを失った心の傷は相当深く、傷心中の彼女は腹いせとばかりにクラリネットカオスヘッドを作り出し、家族連れやカップルで賑わうこの場で暴れさせていた。

『カオスヘッド~~~……』

 クラリネットカオスヘッド自身も何だか悲しそうな声を発しており、その手に持ったクラリネットを吹くや、不幸のメロディを奏でる。

 この笛の音を聞いた瞬間、園内にいる全ての人間の心がどんより重くなり、楽しい気持ちから一変――最悪の気分となる。

「ハヒ……なんですかこれ……聞いてるだけで心がベリーサッドになってきました……」

「どうやら発せられる音色には我々の感情に強く働きかけ、悲しみの気持ちを呼び起こすのでしょう……」

「もう~なによこれ……さっきから涙が止まらないじゃないのよ……」

「私も色んな意味で泣きたい気持ちだけど、今は我慢して戦うしかなさそうね」

「みんな、いこう」

 身内といい、堕天使といい、リリスにとって今日は最悪のデート日和だった事は間違いない――ならばせめてこの状況だけは解決しなければと思い、ベリアルリングを取り出す。

 

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「バスター・チェンジ」

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」

「影に向かいて影を斬り、光に向かいて光を斬る。暗黒騎士バスターナイト」

「偽りの善幸を根絶やし!」

「邪な悪行を断罪する黒き力!」

「我ら、悪魔と魔女、暗黒騎士のコラボレーション!!」

「「「『ディアブロスプリキュア』!!」」」

 

 変身完了と同時に雨が降り始めた。

「はあああああ」

 ついには天にまで今日のデートを邪魔される形となった。

 ベリアルは湧き上がる苛々をすべて敵に押し付けようと、肉弾での攻撃でクラリネットカオスヘッドの顔面を徹底的に殴りつけ攻撃する。

 彼女の怒涛の殴打に加え、ウィッチとバスターナイトが魔術的な力でこれを援護する。

「ファイアーマジック!」

「シュヴァルツ・エントリオール!」

『カオスヘッド~~~……』

 ただでさえ悲しいクラリネットカオスヘッドを追い詰める情け容赦ない攻撃。

 怒りたくても怒れず、悲しみを募らせるクラリネットカオスヘッドは涙ながらにクラリネットを吹き、ベリアルたちの戦意を奪おうとする。

「おうううう……戦う気力が削がれていきます……」

「こいつは……意外と強烈ですぞ……」

「いいわよカオスヘッド!! 憎き悪魔どもめ……思い知りなさい!!」

 クラリネットカオスヘッドの力でベリアルたちの動きが鈍ったのを見計らい、頭上から堕天使ラッセルによる光の槍を用いた攻撃が仕掛けられる。

「「「うわあああああ!!」」」

「「「どああああああ!!」」」

 衝撃で吹っ飛ばされる悪魔、魔女、騎士、そして使い魔たち。

 その間にも不幸のメロディは鳴り続けており、確実に彼女たちのやる気――もとい闘気を奪っていく。

「キュアベリアル……私から大切なものを奪ったあなたを絶対に許さない!!」

『カオスヘッド~~~……』

 ラッセルから向けられる強い敵意。

 ベリアルは心も体もボロボロに追い詰められながら、体を立たせようとする。

「ザッハを殺した私への復讐って訳ね……上等じゃない。だけど私だって負ける訳にはいかないわ」

 重い身体を起こし、ベリアルはその脚でしっかりと地面の上に立つ。

「今日のデートは何日も前から綿密に計画してた。サっ君と過ごす数少ない二人きりの時間を大切にしたくて一生懸命準備してきた。だけどどういうわけか、世の中自分の思い通りになんかちっともいかない。予期せぬ事ばかりが起こって綿密な計画もすべておじゃん! だけどそれでも……私はあんたとは違っていつまでもメソメソしたりなんかしない!!」

「よく言うわよ!! あんたは私からたったひとつの希望を、愛を奪った!! 奪われた者の気持ちがあんたみたいな小娘に分かるものか!? もしも、あんたも大切なものを奪われれば私の気持ちがわかるかもしれないけど」

「奪われた者の気持ち? ……そんなもの、あんたよりも前から私は知ってるわよ」

 十年前のあの日――洗礼教会が行った悪魔への大粛清によって彼女はすべてを奪われた。

 大切なものを奪われる悲しみ、憎しみ、虚しさ、それを彼女はたった四歳の頃に知ったのだ。

「どんなに不条理で理不尽な事に直面しても私は前に進むと決めたわ。逝ってしまった者のためにも生き残った者ができることはひとつだけ……残りの命の炎が尽きるその日まで精一杯自分の脚で立って前を歩くことよ!」

 言うと、ベリアルは今現在の自分が持ちうる最強の力でこの戦いに終止符を打つことを決め、懐からヘルツォークリングを取り出す。

「ヘルツォークゲシュタルト!!」

 堕天使ザッハを打ち破ったキュアベリアルの切り札。

 雷のエレメントが強化されたキュアベリアルの背中に四枚の悪魔の翼が生える。

「キュアベリアル・ヘルツォークゲシュタルト!!」

『カオスヘッド~~~……』

「レイ、来なさい!!」

「了解です!! ハルバードチェイ~~~ンジ!!」

 ヘルツォークゲシュタルトに対応して、レイもその姿をレイハルバードへと変え、ベリアルの武器として装備される。

「はるか、オレと息を合わせてくれ」

「アイムシュアーです!」

 ベリアルのサポートに徹すると決めたバスターナイトとウィッチは、頃合いを見てクラリネットカオスヘッドへ同時攻撃を仕掛ける。

「ストリクト・タイフーン!!」

「ブリザードスピア!!」

『カオスヘッ……』

 バスターソードの剣先から発生する暗黒の竜巻で体を中空へ浮かばされ、そこへ猛烈な寒波が槍となって飛んでくる。

 氷漬けになった体を地面へと叩きつけたクラリネットカオスヘッドはもう身動き取れない。

「リリス!」

「今ですよリリスちゃん!」

 仲間が作ってくれた隙を決して無駄にはしない。ベリアルは全身全霊の力をレイハルバードへと込め、必殺技を繰り出す。

「プリキュア・ラスオブデスポート!!」

 ――ドンっ!!

『こんとん~~~……』

 

 戦いが終わると雨は晴れ、園内には太陽光が降り注ぐ。

「ありがとうサっ君。あのとき、サっ君が言ってくれた言葉で気持ちが楽になったよ」

 感謝の気持ちを述べるリリスに、朔夜は屈託なく笑い返事をする。

「前にリリス言ったよね。オレが頑張りすぎるのは好きじゃないって。でもそれはオレも同じなんだよ。リリスも頑張りすぎないでくれるかい。じゃなきゃ、なんのためにオレやはるかたちがいるのかわからないから」

「そうですよ。リリスちゃんに必要なのは人に頼る勇気です!」

「って、随分上から目線ね……大体あんたたちは揃いも揃って人のデートを無茶苦茶苦にして、ただじゃおかないんだから!!」

「ひいい~~~! リリス様~~~どうかご勘弁を!」

「お願いだから落ち着いて話を聞いてちょうだい!」

「問答無用!! あんたたち全員そこに直りなさぁーい!!」

「「「「ひやあああああああああああああ~~~~~~」」」」

 こっ酷くリリスからお叱りを受けた四人は教訓として、人の色恋沙汰に関わると命はないという事を知った。

 

           *

 

第七天 見えざる神の手・居城

 

 天使の中でも上位の存在しか立ち入ることを許されない聖域――それが天界・第七天である。

 ケルビムとピットは今、洗礼教会の後ろ盾であり天界における最高の意志決定機関【見えざる神の手】居城の扉の前に立っている。

「さて、そろそろ時間よ……」

「いよいよですね」

 覚悟を決め、二人はおもむろに開かれた扉を潜り中へと入る。

 中は太陽光が直に降り注ぎ、一面真っ白な空間には素顔を隠した幹部の上級天使たちが七角形状に散らばり、柱の上に鎮座している。

「――洗礼教会よりテミス・フローレンスこと、キュアケルビム。同じく、パートナー妖精のピット。ただいま参上仕りました!」

 ケルビムとピットは恐れ多い彼らに注視される形で部屋の中央まで歩いて行き、やがて畏まった態度で挨拶をする。

「……うむ。よく来た。本日主らを呼び出したのは先日の一件、堕天使による黒薔薇町侵攻および悪魔と警察組織との武力衝突について話があって……」

 話の途中、幹部の一人が小刻みに体を震わせ顔色も優れないピットの様子が気にかかった。

「お主どうかしたか、顔色が優れぬが?」

「いいい……いえなんでもありません……緊張して喉が渇いているだけですので……」

「ぬふふふ……無理もありませんよ。天使と言えど、ここに来ることができる者などそうはいない」

「我ら見えざる神の手は天界と地上、そして冥界すべての世界を監視しておるゆえ。近頃の堕天使と来たら品の無い下衆な者ばかりで困るよのう~」

「その点お主らの働きは見事よ。悪魔たちと共にわずか数人で堕天使の侵攻を食い止めこれを鎮圧したとか」

「地上への被害を最小限に止め、事件を迅速に解決した主らは天使の鑑である。天使と堕天使、そして悪魔の三大勢力の均衡が取れているのも主らのお陰じゃ。褒めて遣わす」

 予想していなかったお褒めの言葉にピットはすっと肩の力が抜けた。

「あ、ありがとうございます!!」

「謹んでお受けいたします」

「うむ。しかし功を焦り過ぎ先走りはせぬことじゃ。正義感も結構だが、辺り構わず噛み付いていると、噛み付いた野良犬の尾が狼の尾であったなどと言う事にもなりかねん」

 一拍置き、見えざる神の手のリーダー格はケルビムとピットたちを見据え言葉を投げかける。

「分かるな? あまり勝手に動いていると身を滅ぼす事になるぞ。もしも長生きをしたいのなら、利口に生きることも覚えよ」

「「はい!! その言葉、肝に銘じておきます!!」」

 

 

 

 

 

 




次回予告

朔「闇に蠢く者たち。黒原町に忍び寄る怪しき異形の影」
は「次々と襲われる悪魔関係者。そして、その魔の手はとうとう私たちにも及び始めてしまいました!!」
ク「敵は洗礼教会か、堕天使か、それとも新たなる敵なのか……!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『闇からの脅威!クリーチャー、襲来!!』」
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