ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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今回登場する未知なる脅威・・・一応第五勢力と位置付けておきましょうか。
この事件を機に、物語は一気に動き出すと思いますのでお見逃しなく。


第19話:闇からの脅威!クリーチャー、強襲!!

黒薔薇町 住宅街

 

「ぐあああ」

 夜半過ぎに響きわたる唸り声。

 声を発したのは森永という男。某金融会社に勤める夜警で、仕事へ向かおうとしたところ突然の悲劇が襲った。

 暗闇から声をかけられたと思えば、唐突に顔面を殴られた。そして殴る蹴るなどの暴行を加えられ滅多打ちに遭ったのだ。

「弱すぎるぜ。こんな弱いヤツ相手にするのは苦痛でしかねぇな!!」

 辺りが暗く、眼鏡も外れているためはっきりと姿を見ることはできないが、少なくとも森永が捉えた襲撃犯の影は二つで、どちらも人の姿をしていない。

「お……おまえら……なにもんだ?」

「はっ! 雑魚に名乗る名前は無ぇーんだよ!!」

「……ゴルザ、こいつはハズレのようだ。早く済ませろ」

「へーい」

 相方からゴルザと呼ばれた襲撃犯は、地面に倒れ伏す森永の元へとおもむろに歩み寄る。

「恨まないでくれよ。上の命令なものでな……」

「よせ!! く、来るな……ぐああああ!!」

 一体何の恨みで自分がこんな目に遭うのか……森永は身に覚えのない理不尽な暴力を受け、気を失った。

 骨を何本も折られ、体中に生々しい傷跡をたくさん作った彼が発見されたのはその翌朝の事だった。

 

           ◇

 

黒薔薇町 天城家

 

「はるかー、学校行くわよー」

 襲撃事件から一夜明けた黒薔薇町は一見すると平穏な空気が流れていた。

 悪原リリスはいつものように親友である天城はるかと学校へ行くため、彼女の家へと出向き玄関先から呼び出す。

 しばらくすると、玄関から出て来たのははるかではなくその母・翔子だった。

「あらリリスちゃんごめんなさい、はるかなら先に行ったわよ」

「え? 何かあったんですか?」

「それがね……この土日でシュヴァルツ学園の生徒が何者かに襲われて、重傷で発見されたらしいのよ」

「え! ……本当ですか!?」

 穏やかではない話を聞かされたリリスは目を見開き、右手を口元に持ってくる。自分の知らないところでそんな物騒な事件が多発しているとは思わなかった。

「だから風紀委員は朝早くから全員で学校の周りを警備するんだって、あの子張り切っていたわね」

「そうでしたか。おばさま、ありがとうございます。じゃ、私学校に行きますね」

「リリスちゃんも気をつけてねー」

 翔子に一礼すると、リリスは天城家を出発し学校へと向かう。

「物騒な話だわ。よりによってうちの生徒が襲われるなんて……」

 道中、リリスはひとり思案する。

 ここ数か月のあいだに黒薔薇町管内で起こった様々な事件について――リリスの記憶する限りでは、洗礼教会や堕天使による襲撃が大多数を占めている。彼らが関わること以外でこの町で襲撃事件が起きたという話は聞いたことがない。

 まして、自分たちの学校の生徒が襲われたのだ。対岸の火事で済ましていい問題ではない事は明白だった。

 

           *

 

私立シュヴァルツ学園 校門前

 

 学校へ着くと校門前には翔子の話にあった通り、一年生から三年生までの風紀委員が朝早くから警備に当たっていた。

「あ、リリスちゃん!!」

 やがて、警備中だったはるかが登校してきたリリスを発見し、彼女の元へ駆け寄った。

「お怪我はありませんでしたか!? 暴漢とかに襲われたりしなかったですか!?」

「あのね……真っ昼間から暴漢なんて出ないわよ」

「どうしてそんな風に断定できるんですか!? 今の時代、昼間からでも暴漢は出るんですよ! ずいぶん昔に大阪にある小学校にナイフを持った凶悪犯が押し入った事件があったこと、リリスちゃんは知らないんですか!?」

「はいはい分かりましたよ。だいたいあんたね、早く家を出るならLINEのひとつやふたつくらいよこしなさいよ」

「あ! す、すみません。ついうっかりしてました」

「まったくもう。それにしても……」

 はるか以外の風紀委員は皆、怖い顔で立っている。

 普段は腕に掲げた腕章を誇らしげにして学校の治安を守っている彼らだが、今はそれを誇りにするだけの余裕が感じられない。むしろ、未曾有の恐怖に戦慄を覚え内心はビビりまくっているのである。

「何だか物々しいわね……」

「それはそうですよ。あんな事件が多発しているんですから……ピリピリもします」

「犯人の目星はついてるの?」

「今のところは有力な目撃情報はありません。どっちにしろ、早く捕まってくれないとおちおちお外も出歩けませんよ」

 嘆息を漏らしたはるかが肩を落とした時だった。

 風紀委員会に所属する一年生の男子が「ちょっと失礼します……」と言って、はるかへ近づいてきた。

 怪訝そうにするはるかの耳元に、下級生は小声で極めて重要な報告をする。

「は、ハヒ!?」

 聞いた瞬間、はるかは驚愕の声を上げた。ただ事ではないと直感したリリスは、動揺する彼女に意を決して尋ねる。

「ちょっとはるか、一体どうしたのよ?」

 すると、リリスの肩にはるかは手を置き、ふうーと息を吐いて気持ちを整える。気持ちの整理がつくと、リリスと面と向き合う。

「リリスちゃん……とんでもなくデンジャラスな事になりました!!」

「とんでもなくデンジャラスですって?」

「たった今、三枝先生が暴漢に襲われて病院に運ばれたそうです!!」

「な、何ですって!?」

 

           *

 

黒薔薇町 黒薔薇総合クリニック

 

 クラスの担任教師・三枝喜一郎が暴漢に襲われ重傷を負った。リリスとはるかは授業そっちのけで病院へ直行した。

 病室には打撲から始まり、肋骨から腕に至るまでを折られた三枝が酸素マスクを付けた状態で眠っている。

 リリスとはるかは胸が締め付けられる思いで三枝を見た後、静かに病室を後にする。

「酷いありさまでしたね……」

「シュヴァルツ学園の人間が無差別に襲われるなんて……犯人の目的は何なの?」

「まさか、うちの学校への怨恨とかじゃ!?」

「違うよ」

 はるかの推測をキッパリと否定する者の声が聞こえ振り返ると、二人の前に意外過ぎる人物が顔を見せた。

 思わず目を見開き驚くリリスたちを余所に、眼前に立つブロンドヘアの美青年――神林春人は不敵な笑みを浮かべ立ち尽くす。

「やぁ。こんなところで会うなんて奇遇だね」

「ハヒ!? あなたはプリキュア対策課の……!!」

「神林春人……!! どうしてここにいるのよ!?」

「捜査だよ。誤解がないように言っておくけど、別に今回は君たちを逮捕するつもりはないから安心しなよ。勿論、理由さえあればいつでも僕が捕まえてあげるけど」

「ハヒ!! この人……やっぱりデンジャラスです……」

 顔を青くしたはるかは、鳥肌を立たせ体を硬直させる。

 ただでさえ、自分たちは警察とは折り合いが悪い。しかもプリキュア対策課とは先日の一件で激しく衝突したばかりだ。ほとぼりが冷めるまでなるべく接触しないよう穏便な生活を心がけていたつもりだが、思わぬ場面で厄介な相手と遭遇してしまうとはリリスも、そしてはるかも思っておらず、まさに青天の霹靂だった。

「それより捜査ってどういう事なの? あんたの管轄はプリキュア関連の事件でしょ? こんな傷害事件、生活安全課にでも任せておけばいいじゃない」

「普通ならね。だけど、事は君たちが思っているほど単純な話じゃない」

「どういう事ですか?」

 はるかから尋ねられると、春人はリリスたちに背を向けてから「ちょっと君たちに見せたいものがある」と言い、廊下を歩き出す。

 ひとまず春人の後について行ってみたところ、リリスたちは予想だにしなかった事実を無情にも突き付けられる。

 春人にとある病室へ案内され、中へ入ると、三枝と同様に満身創痍となって酸素吸入をしたまま床に就く知り合い――森永の姿があったのだ。

「ハヒ!! この人は確か……!!」

「森永さん!!」

「やっぱり君たちの知り合いだったようだね」

 森永はリリスと契約している人間であり、はるかとも面識がある。

 襲撃犯は三枝だけでは飽き足らず、森永というシュヴァルツ学園とは一切関係の無い人物を襲った――訳が分からないリリスは怖い顔で春人に問い詰める。

「ちょっとあんた、これはどういう事よ!? どうして何の関係もない森永さんまでこんな目に遭ってるのよ!!」

「彼だけじゃないよ。周りをよく見てみなよ」

「え?」

 言われた通り病室の中をぐるりと見渡した。すると衝撃の光景がリリスの瞳に映る。

 森永の隣のベッドには同じく悪魔と契約を交わしたスウェーデンから留学している女子大学生ヘレンと、その向かい側には自宅の隣に住んでいる世話好きのおばさんこと――佐藤が変わり果てた姿で臥床しているのだ。

「ヘレンさん……! 佐藤さんまで!?」

「まさかあの外国人さんは、以前にはるかとクラレンスさんが見たフルーツ鎧武者さんに変身していたあの人じゃ!?」

「他にもまだまだいるよ。いずれも、悪原リリス……君にとっては見覚えある顔ぶればかりだと思うから」

 春人からの言葉を聞き、リリスは病室を飛び出し他の病室も見て回った。

 悪魔と契約を交わした者、隣近所に住んでいる者、学校関係者。悪原リリスと何らかの関わりを持った人物がこの階だけでも十人以上も入院している。話によれば、彼らは何れもが同様の手口――夜陰に乗じたり人気の無い場所を歩いているところを襲われ、酷い姿となって発見されたらしい。

 リリスは笑い話にもならないような事態に愕然とした。

「どうして……こんな」

「まったく、つくづく君たち悪魔は穏やかじゃないな。だから僕らが捜査しているんだよ。これは単なる襲撃事件じゃない……いずれもが悪原リリスと何らかの関わりを持つ者ばかりが襲われているんだ」

「私と……!?」

「じゃあ犯人は洗礼教会ですか? それとも堕天使ですか?」

「可能性はあるけど、確たる証拠は出ていない。もう少し詳しく調べてみないとね」

 三人が話し込んでいると後方から騒がしく音を立てて近づいてくる影があった。

「どきなさい!」

「また同じ手口で人が襲われた!!」

 廊下から聞こえてきた声にハッとするリリスたち。

 リリスたちを最も驚かせた理由――ストレッチャーに乗せられ運ばれてきたのは、はるかの父・晴彦だった。

「お父さん!!」

 我が目を疑う光景を目の当たりにしたはるかは、処置室に搬送されようとしていた晴彦へ駆け寄り、耳元で呼びかける。

「お父さん!! しっかりしてください!!」

「うう……は……るか……」

「一体誰にやられたんですか!?」

「分からない……突然目の前が暗くなったと思ったら……うう!」

「お父さん!!」

「急いで処置室へ運ぶぞ!」

 意識を失った晴彦はそのまま処置室へと運ばれる。

 はるかは残酷な現実に打ちひしがれると、力なく膝を突き泣き崩れる。

「ああああああああああああああ……」

 リリスはかける言葉が見つからなかった。

 すると、彼女の隣に立っていた春人のスマートフォンに着信が入った。おもむろにスマートフォンを取り出し、対策課の捜査官からの報告を聞く。

「……そうですか。分かりました」

 通話を終えると、春人は踵を返しそのまま病院を後にした。

 

           *

 

黒薔薇町 くろばら商店街

 

 リリスと関わりある人物が次々と襲われ重傷を負う中、彼女の婚約者・十六夜朔夜は使い魔ラプラスに振り回され朝から買い物に付き合わされていた。

 朔夜の両手いっぱいに掲げられた服という服。その隣ではラプラスが満足そうな顔で歩いている。

「いやー! 今日は戦利品たーくさん手に入れたわね!」

「まったく。お前って奴はどうしてこうも大量に買い込むんだ?」

「だって仕方ないじゃない。どれもこれもあたしに似合うものばっかりなんだもん。ああ……美人すぎるっていうのも罪なものねー」

「はぁ……一大事だからと聞かされてわざわざ学校を休んでみればこの様とは。オレもまだまだ詰めが甘いな」

「女性のエスコートのひとつやふたつできないでどうすんの! いずれはリリスちゃんにも同じ目に遭わされるんだから今から練習できて良かったじゃない!」

「リリスはお前とは違う」

「市立黒薔薇第一中学二年A組、出席番号一番、十六夜朔夜……」

 不意に覇気の籠っていないような声が朔夜を呼びかけた。

 声のした方へ振り向くと、声もさることながら見た目も非常に冴えない風体の男がすぐ近くに立っていた。

「早く済ませよう。汗をかくのは好きじゃないんだ……」

「ちょっと、あんた誰よ?」

「名乗る程の者じゃない。ただお前を壊しに来た……」

 いかにも怪しい雰囲気を醸し出し、物騒な事を口にする男。その口調から真面な人間でない事は明白だ。

 ラプラスは目の前の男に不信感を募らせると、朔夜の耳にそっと囁いた。

「朔夜、あんたまた他校の奴に絡まれてんじゃないの?」

「どう見ても他校じゃないだろう。しかし何故だろうな……こっちは結構地味に生きているつもりなんだが」

「俺とやるのか、やらないのか……どっちなんだ?」

 どういう理由で朔夜と戦いたいのかはわからない。

 日頃からその高すぎるスペックと端正な容姿ゆえに他校生からやっかみをつけられる朔夜はこの手の事には慣れていたし、敵はその都度圧倒的な強さで叩き潰してきた。無論、相手が二度と自分に戦意を向けて来ない様にして……

 深い溜息を吐くと、朔夜はラプラスの洋服類を地面に降ろし男と向かい合う。

「……オレとしては無益な争いはしない主義だが、どうやらそれだとお前が納得しないようだ」

 すると、この状況をたまたまこの町の不良が見かけた。

「なんだ、喧嘩か?」

「おもしれー!」

「見世物じゃない……」

 刹那、男の手元から飛び出た無数の針が不良たちの肩へ突き刺さる。直後、不良たちはたちまち意識を失い後ろへ倒れる。

 朔夜とラプラスは一瞬の出来事に目を疑い、目の前の男を警戒する。

「な……あんた何したのよ!?」

「これ以上邪魔が入ると面倒なのでな……」

(マズい!)

 男からの攻撃が飛んで来そうになった瞬間、朔夜はラプラスの服が入った箱を蹴り飛ばし、咄嗟に男の視界を封じる。

「ラプラス、逃げるぞ!」

「うわああ!!」

 彼女を抱え朔夜が建物の影に逃げ込もうとするや、男の手元から無数の針が飛んでくる。針は服の箱を貫き、朔夜たちへ襲い掛かる。

 辛うじて、針から逃れた朔夜はラプラスとともに建物の陰に隠れ出方を窺う。

(あの男……ただの人間ではない。さっきの攻撃といい、戦い方といい……この感じはなんだ!?)

 男は朔夜を狙い続け、逃げる標的を執拗に追い回し続ける。

 

『おかけになった電話をお呼びしましたがお出になりません』

「もう~! こんな時に限ってサっ君の携帯に繋がらないなんて……!」

 天城家の人間にまで被害が出たことを懸念し、リリスは朔夜との連絡を試みるが、肝心の彼は謎の男に命を狙われており、携帯に出ている余裕などなかった。

「リリス様!!」

 焦りを募らせていたリリスの元に、レイとクラレンスの二人が駆けつけた。

「あんたたち……!」

「はるかさんのお父上が襲われたと聞いて飛んで来たんですが……」

「はるか様は!?」

「今は病室よ。少しそっとしておいてあげましょう。それより……サっ君とラプラスさん見てない?」

「イケメン王子とご婦人ですか? それなら、商店街の方を二人で歩いていたのを見た気がしますが……」

 聞いた途端、リリスはレイとクラレンスを残して病院から飛び出した。

「あの、リリス様!!」

「どうかしたんですか!?」

(サっ君……無事でいて!)

 

           *

 

黒薔薇町郊外 旧大型レジャー施設跡

 

 プリキュア対策課の捜査官と合流した春人は、敵の潜伏先と思われる廃墟へ向かった。

「この中です」

「行きましょう」

 武装した捜査員とともに建物の中へ入る。

 敵が待ち伏せをして襲って来るかと思われたがそう言う訳ではなく、建物の中は思いのほか静かだった。

 やがて、建物の三階へと到着した春人は強烈な邪気を感じ、最も広い部屋の扉をバタン、と蹴ってこじ開ける。

 眉を顰め中を覗きこむと、日の光が入らない様に厚手のカーテンで閉め切った部屋の真ん中にいかにも怪しげな雰囲気を醸し出す黒装束の男が座っていた。

「ふふふ……よくぞここまで辿り着いた。大したものだ」

 プリキュア対策課の捜査官が警戒する。春人は代表して襲撃者との対話に応じる。

「……随分捜したよ。君が件の襲撃事件の首謀者かい?」

「そんなところだろうか。そして、我こそがこの国の新しい秩序だ」

「寝ぼけてるのかい? この国の秩序は警察だよ」

「警察……か。無能な貴様らにはこの国を……いや、この世界に秩序をもたらす事などできはしない」

 聞いた途端、春人は懐から出していたSKバリアブルバレットを使ってセキュリティキーパーへと変身――右手にSKメタルシャフトを携える。

「どうとでもほざきなよ。君はここで逮捕する」

 

「あああ……!」

 病院にいたクラレンスを突然の偏頭痛が襲った。

「ハヒ!? クラレンスさん、どうしたんですか!?」

「急に頭痛が……割れるように痛い!」

「大丈夫ですか!? しっかりしてください!」

「おい、気をしっかり持てクラレンス!」

「ああああああああ!!」

 はるかとレイから心配を寄せられるクラレンスだが、突如襲った頭痛はより一層激しさを増す。

「本当に何がどうなっているんですか!? 一度に不吉な事が起こり過ぎですよ!!」

 

 余裕の表情を浮かべる襲撃事件の首謀者と、セキュリティキーパーに変身した春人はメタルシャフトとハンドガンを両手に持ち、おもむろに歩み寄る。

「……座ったままお縄につきたいの?」

「ふふ……面白いことを言うな。立つ必要がないから座っているんだ」

「……君とはもう口を利かない」

「好きにしてくれ。ただ、今喋っておかないと二度と口が利けなくなるぞ」

 首謀者の男がセキュリティキーパーに目を向けた途端、異変は起こった。

「!?」

 セキュリティキーパーの視界が唐突に歪み始めた。機械の故障かと思われたが、どうやらそうじゃない。景色が歪むにつれて足下がおぼつかなくなる。

「どうかしたか、先ほどに比べて顔色が悪いぞ?」

「……黙れ」

「自分でも気づいていなかったようだな。貴様が喧嘩を売った相手が一体何者なのか」

 酷い熱にでもかかったようにセキュリティキーパーの体はふらつき、景色が酷く歪む。これでは倒すべき敵を前にしても攻撃する事も難しい。

「ほら……しっかりしろ。我はこっちだぞ」

 不敵な笑みを浮かべるとともに、首謀者は足元がふらついて姿勢制御もままならないセキュリティキーパーを凝視。セキュリティキーパーは右へ左へとふらつきながら、襲撃者の手の甲に刻まれた〝666〟という数字を捉える。

(獣の数字……)

 666―――ヨハネの黙示録に出てきた詩に由来するそれは、サタンや反キリストにつながるとされる不吉の数字。春人にとって、眼前の敵はまさに人類に凶事をもたらす不浄の存在だった。

 

           *

 

黒薔薇町 くろばら商店街

 

「貴様、堕天使か? それとも洗礼教会の手の者か?」

 眉間に皺の寄った朔夜から尋ねられるとき、男は僅かに口元を緩め「やっと当たりが出た……」と無機質な声で呟く。

「ちょっと、それどういう意味よ!?」

「お前たちにはヴァンデイン・ベリアルの氏族の居所から知っている事をすべて、洗いざらい吐いてもらう……」

「なんだと?」

 男は朔夜が目当ての相手と関わりの深い事を理解すると、先ほどよりも無遠慮に攻撃を繰り出してくる。

 朔夜は飛んでくる無数の針という針を躱しながら、出方を窺う。

(奴の狙いはリリスか……! なら絶対に止めないと)

「これ以上手を煩わせないでくれ。速攻で片を付けてやる……」

 言うと、男は人間の姿から本来の姿へと戻る。

 朔夜とラプラスが目を見張る中、男は背中に黒い翼を生やし、肉体は大型のライオン、サソリの尾を持つ異形の怪物へと変身。尾には不吉を表す〝666〟の刻印が刻まれていた。

「その姿は……!!」

 朔夜の予想通り相手は人間などではなかった事がこれではっきりした。

 異形の怪物――マンティコアは咆哮を上げると強靭な脚力で朔夜へ突進、一振りで電柱をも破壊する鋭い爪で襲い掛かる。

 マンティコアからの攻撃を紙一重で躱すと、朔夜は中空で回転しながら左腕のバスターブレスにバスターブレードを差し込み変身する。

「バスター・チェンジ!」

 変身と同時に朔夜の体を包む重厚な鎧。

 装備したバスターシールドから剣を取り出すと、バスターナイトはマンティコア目掛けて鋭い剣閃を仕掛ける。

「ダークネススラッシュ!」

『遅い……』

 飛んでくるダークネスラッシュを回避すると、マンティコアは尻尾から発射した無数の毒針を頭上から雨のように降り注ぎ、バスターナイトを狙い撃ちにする。

「まだだ!」

 針の雨を手持ちの剣で払い除けたバスターナイトはマンティコアに接近しながら、バスターソードをX字に動かす。

「ダークネスラッシュ!」

『芸のない奴め……』

 

 至近距離からのダークネススラッシュもマンティコアは難なく躱してしまった。

 だが、それこそバスターナイトの狙い。こうなる事を分かったうえで彼は頭上に待機しているパートナーに合図を送った。

「ブラストトルネード!!」

『ぐっほ……』

 巨大コウモリに変化したラプラスの翼から放出される双子の竜巻が、マンティコアの頭上から降り注ぎ、直撃を受けたマンティコアは防ぐ事も出来ず後方へ吹っ飛んだ。

「かかったな。お前はオレばかりに気を取られ、ラプラスの存在を蔑ろにしていた。今のダークネススラッシュはお前をオレに釘付けにするための囮で、本命のラプラスは既に頭上からお前を狙っていたんだ」

『悪魔を舐めるんじゃないわよ!』

「これで終わらせる……」

 バスターナイトはマンティコアがラプラスの攻撃で動きが著しく鈍っている間に決着をつけようと、バスターソードを構え、地面へと斬撃を放つ。

「エントリヒ・アーベント!」

『ぐおおお……』

 

 地面を這って飛来する斬撃がマンティコアを直撃した。

 ちょうど、バスターナイトの元へ急行していたリリスは商店街から聞こえてきた轟音に気付き、立ち止まる。

「この感じ……まさか!」

 急いで現場を目指し全速力で駆け抜ける。

 やがて、現場へ到着したリリスの目の前にはマンティコアとの戦いを終えたばかりのバスターナイトとラプラスが道路の真ん中で座り込んでいた。

「サっ君! ラプラスさん!」

「リリス! どうしてここに!?」

「神林春人から悪魔関係者が狙われているって聞かされて、それで私急いで……!」

「なっ、あの男が……!?」

 バスターナイトは先日激しく衝突したばかりの春人のことを脳裏に浮かべ、驚きを見せる。

「それより大丈夫、怪我は無い!?」

「心配ないわよリリスちゃん! ちょっとビックリしただけだから。敵も追っ払ったし」

「え!?」

「ほら、そこら辺に転がってると思うわ!」

 ラプラスが土煙の方へ目を向けたとき、倒したはずのマンティコアの姿がどこにも見当たらなかった。

「あ、あれ?」

「いない……!」

 

『手間が省けた……』

 そのとき、耳を疑いたくなる声がした。

 邪気を感じると、三人の前には満身創痍になりながらも殺気を漂わせるマンティコアが立っていた。

「あ、あれでノビてないなんて……」

 驚異的な耐久力に圧倒されそうになった次の瞬間。

 威圧感を発するマンティコアの尾から毒針が放たれた。狙いは元よりこの場に現れたリリスだった。

「リリス危ない!!」

 ――グサッ。

「ぐ……」

 咄嗟にリリスの正面に立ったバスターナイトはマンティコアが放った毒針を胸部に受ける。

「え……サっ君……?」

「リリス……逃げてくれ」

 刺された箇所から血が滲みだし、バスターナイトはリリスの目の前で力なく膝を突き、意識を失った。

「きゃあああ!! 朔夜あぁっ――!!」

「サっ君! 大丈夫!? サっ君! サっ君!!」

 倒れたバスターナイトの体を強く揺さぶり安否を確かめるリリスとラプラスの元へ、ボロボロの身のマンティコアが一歩ずつ近づいてくる。

『壊してから連れていく……』

 

「あんたぁぁぁぁ……!!」

 バスターナイトがリリスを庇った――その事が彼女の怒りに火を点けた。

 激昂と同時にリリスの体から禍々しい紅色の魔力が溢れ出る。間近で感じるその魔力の濃さと途方もない質量にマンティコアとラプラスは揃って畏怖を抱く。

「よくも……よくも……私の大切な婚約者(フィアンセ)を……ただで帰れると思わないことねっ!!」

「リリスちゃん……!」

 世にも恐ろしい悪魔の逆鱗にマンティコアは触れてしまった。

 だがそのとき、意外すぎる出来事がマンティコアの身の安全を保障した。

「お巡りさん、こっちです!!」

「こら、君たち何をしている!?」

 地元住民の通報を受けた警察官が現場へと走って来た。

『ちっ。面倒事になるのはごめんだ……』

 

 マンティコアはただちに人間の姿へと擬態し、何事も無かったように傷ついた体でリリスたちの前から移動する。

「待ちなさい!!」

 追いかけようと思ったが、今はそんな事よりもバスターナイトの事が大事だった。

「朔夜!! 朔夜、しっかり!」

「サっ君、死んじゃイヤ!! サっ君――!!」

 

           *

 

同時刻――

黒薔薇町郊外 旧大型レジャー施設跡

 

「ぐっ……」

 カーテンが閉め切った部屋の中で倒れるプリキュア対策課の捜査員。

 セキュリティキーパーの変身は解除されており、全身に生々しい傷を負って、襲撃事件の首謀者による滅多打ちを受けている。

「なぜ、暗黒騎士を圧倒した自慢のセキュリティキーパーシステムでまるで歯が立たないのか……そう言いたげだな? それこそが人間の傲りだ。貴様レベルの男は何人も見てきたし、幾人も葬ってきた。そう……地獄のような場所でな」

 紅色に染まった瞳で春人を見つめる男。

 若干口が開いているが、彼の歯はどれも普通の人間には見られない鋭く尖ったものばかりだ。

「さ、続けようか」

 男は傷つき倒れる春人の体を持ち上げ、殴る蹴るなどの暴行を加える。

 

           *

 

黒薔薇町 黒薔薇総合クリニック

 

 マンティコアの毒針にやられた朔夜は病院へ運ばれた。

 現在、毒針の影響で身動きが取れず床に伏せる彼の安否を気遣い、悪魔関係者が周りに集まっている。

「イケメン王子……」

「朔夜さんまでこんな目に……あ~神様!! どうしてはるかたちの周りはこうもデンジャラスな事ばかり起きるんでしょう~~~!!」

「ちょっと黙っててちょうだい!!」

「ハヒ!! す、すみませんでした……!」

 眠り続ける朔夜の側に座っていたリリスは騒ぐはるかを怒鳴りつける。はるかはあまりの迫力に委縮し、自らの行動を猛省する。

(サっ君……私の所為で)

 酸素マスクをつけ苦しそうにする朔夜。リリスは目に悔し涙を浮かべ、寝ている朔夜の手を握りしめる。

「こんな事なら初めから行くべきじゃなかったわ! 私が足手まといになったから、サっ君は私を庇って!」

 激しく自分を責めるリリスだが、ラプラスは彼女の手を包み込み優しく言い聞かせる。

「自分を責めちゃダメよリリスちゃん。あなたは悪くないわ」

「そうじゃぞ。後悔などしてる場合ではないのだ、リリス嬢」

 ラプラスの言葉の後に続いて病室の外から誰かが声をかけてきた。

 すると、前触れもなく現れたのはリリスたちディアブロスプリキュアの支援者である正体不明の自称〝天才科学者〟ベルーダだった。

「ベルーダ博士!」

「貴様、いつからそこにいたのだ!?」

 驚愕するリリスたちの言葉を右から左へ受け流し、ベルーダはベッドで苦しそうな顔で眠る朔夜の胸に手を当てる。

「ふむ……相当手酷くやられたようじゃのう」

「ちょっとあんた! 汚らしい手で朔夜に触らないでよ! ていうか、何者よ!?」

「おっと自己紹介がまだじゃったか。ワシこそは!!」

「社会不適合者のニートです」

「ちがぁぁぁ――う!!」

 当たり前のようにレイがそう言うと、ベルーダは大声で真っ向から否定する。

「こんな一大事に何の用ですか?」

「最初に言っておくぞニート博士。貴様の魂胆は分かっている。大人しくゴミ屋敷へ帰れ! そして二度と姿を現すな!」

「何もまだ言っておらんぞ! なぜワシはお主にそこまで全否定されねばならんだのだー!」

 理由もわからぬまま存在そのものを否定されるのは心が痛い。生理的に自分を受け付けないレイからの厳しい糾弾の声にさらされながら、ベルーダは咳払いをしてから重要な話題に触れる。

「ここへ来たのは他でもない。お主たちに重要な情報を持ってきたんじゃぞワシは」

「重要な情報?」

訝しく問い質すリリス。ベルダーはおもむろに言葉を紡ぐ。

「つい先日、冥界で起きた『集団脱獄』についてじゃ」

「冥界の集団脱獄?」

 興味深い内容だった。リリスたちの注目を一身に集める中、ベルーダは持ちこんだ情報について具に語り始める。

「冥界――この世での生を全うした者が行き着く場所、文字通り死後の世界じゃ。冥界にもいろいろ種類があってのう、今回ワシが取り上げるのは日本の『地獄』に近い場所で起きた事件じゃ。二週間前に大罪を犯した凶悪犯ばかりを収容している監獄で脱獄事件があってのう。脱獄の主犯はイドラと言うクリーチャーで……部下二名と共に下界、しかもこの日本へ向かったという」

「クリーチャーだと?」

「一体それは……あたたた!」

「クラレンスさん、大丈夫ですか!?」

 謎の片頭痛に悩まされるクラレンスと彼を心配するはるかを一瞥、ベルーダは端的にクリーチャーの意味について説明する。

「神ならざる存在によって創られた異端の者たち……それが《クリーチャー》と呼ばれる者たちじゃ。かの有名なフランケンシュタインの怪物や狼男も、本質的な意味は異なるところはあるが、大きく括ればクリーチャーなのじゃよ」

「じゃあ、一連の事件の犯人は洗礼教会でも堕天使でもない……全部クリーチャーの仕業って事ですか!?」

「これも洗礼教会の差し金なのかニート博士!?」

「いや。クリーチャーは本来、独立独歩の存在ゆえ誰かの命令で動くような輩ではない。奴らは自らの意思に基づき行動してる」

「狙いは……リリスちゃん?」

「まず間違いないじゃろう」

「……」

 リリスの表情が険しくなる。クリーチャーの標的が自分であり、そのために自分と関わりを持った者、身内が襲われたことが彼女には耐えられなかった。

 

           *

 

同時刻――

黒薔薇町郊外 旧大型レジャー施設跡

 

 プリキュア対策課と春人を返り討ちにしたクリーチャーで、ヴァンパイアのイドラは静かに部下の帰還を待っていた。

 やがて足音が聞こえると、朔夜との激闘の末に有力な情報を持ち帰ったマンティコアが人間態の姿で現れる。

「ギリガンか?」

 呼びかけた途端、ギリガンは力尽き、バタンと床に倒れる。

「どうやらその様子だと、当たりが出たようだな?」

「ギリガン来ましたー?」

 そこへ、イドラとともに冥界から脱獄した狼男の体を為すクリーチャー・ガルムのゴルザが別室から現れた。彼の足下にはちょうどギリガンが倒れている。

「ひゃ~、だっせーな! ボロボロのじゃねぇか! このまま俺が食ってやってもいいんだぜ、へへへへ!!」

「やめておけ、ゴルザ。気を失っているだけだ。悪魔について何も掴まずギリガンが帰ってくるはずがない。目を覚ますまで待とうではないか……」

 

           *

 

黒薔薇町 黒薔薇総合クリニック

 

 クリーチャーたちが動き始める中、リリスたちは未だ目を覚まさぬ朔夜を気に掛けつつ話し合いを進める。

「これからどうしますか?」

「どの道目を逸らす訳にはいかないでしょう。考えてもみなさい……リリスちゃんを誘き出すために連中がやった汚いやり口を」

「許せません! 今まで散々酷い光景を目の当たりにしてきましたが、こんなの絶対に間違ってます!! それに敵ははるかの……はるかのお父さんにまで手を出したんですから」

「そして、私の目の前でサっ君を手に掛けた」

 低い声で呟いた後、リリスは椅子から立ち上がりこの場に集まった全員に呼びかける。

「奴らの息の根を止めるわよ! 洗礼教会も堕天使も、そしてクリーチャーも! この町を……私たちの町で好き勝手にさせてたまるもんですか!!」

「リリスちゃん!」

「そうと決まれば早速敵地に乗り込みましょう!」

「ならばこれを持っていくがよい」

 すると、ベルーダがタブレット端末らしきものをリリスに渡した。起動させると、ディスプレイにはクリーチャーの拠点が地図に表示されていた。

「クリーチャーの潜伏場所じゃ。奴らはここにおる」

「ベルーダ博士……」

「一体いつの間に調べていたんですか?」

「ワシを誰だと思っとる! 天才科学者ベルーダじゃ!」

「何でもいいわ。待ってなさい……クリーチャー!! 私たちに喧嘩を売った事を絶対に後悔させてあげるわ」

 

           *

 

異世界 洗礼教会本部

 

 ケルビムが地上で起こっている危機に対処すべく礼拝を終えてから外へ出ようとしたとき、

「どこへ行くつもりだ?」

 後ろから声をかけられる。振り返ると、ホセアが呼び止めていた。

「ホセア様。なにやら黒薔薇町で不穏な者の気配を感じます。かつて遭遇したどの勢力とも異なる存在が人間界に紛れ込んでいると可能性が高い為、これから調査に向かいたいと思います」

「ならぬ。キュアケルビム、貴殿の勝手な行動は決して認められぬ」

「なぜですか!? 天使でありプリキュアたる者、人間の世界を守るのが本懐! 私はいまでも洗礼教会こそ人類を、世界を救済できる唯一無二の存在であると信じております!  ならば、なぜ今ここで動かないのですか!?」

「ケルビムよ。目先の事だけに捕らわれているばかりでは真に世界を救済する事はまかりならぬ。常に俯瞰で物事を捕らえる心眼を磨く必要があるのだ」

「では、教会が掲げる世界の救済とは何なのですか!? ホセア様!」

「それを己自身の心眼で見極めるのだ。キュアケルビム……いずれにせよ、見えざる神の手は今回の一件に関して、『静観せよ』と我々に通達を下している。お主が我々と行動を共にする以上、その方針には従ってもらう」

「お待ちください!! ホセア様!!」

 ケルビムの叫びも空しく、ホセアは扉の向こうへと消えていく。

「く……なんなのよ……なんなのよ一体!!」

 力いっぱい拳を握り、やり場のない怒りで全身を震わせる。

「私は、こんなことのために……プリキュアになったんじゃないのに……これじゃ、キュアベリアル以下じゃない!」

 

           *

 

黒薔薇町郊外 旧大型レジャー施設跡

 

 ベルーダの開発した探知機に示されたクリーチャーたちの居所を掴んだリリス、はるか、レイ、クラレンス、ラプラスの五人は町の郊外へとやってきた。

 道路の真ん中に立っているというのに、車は一台も通っていない。それどころか、人の気配すら感じられないゴーストタウンのような有様だ。

「……嫌に静かね」

「新しい道が出来て以来、ほとんど車は通っていないようです」

「というかクラレンスよ。頭痛はもう大丈夫なのか?」

「はい。少し休んだら何ともなくなりました」

「あまり無理はしないでくださいね」

 奇妙な偏頭痛を頻繁に起こすクラレンスの身をはるかは自分の事のように心配する。

 そんな中、リリスは閑散とする辺りでアジトらしい場所を見つける。

「ここよ」

 広大な土地に建設された遊園地や植物園、その他娯楽という娯楽を詰め込んだ大型複合施設の成れの果てとも言うべきか、中には廃墟となった建物が点在しているだけ。クリーチャーがアジトに使っているとすれば合点がいく。

「なにやら既に不気味ですな……」

「この一帯廃墟ですか?」

「ハヒ? そう言えばここ……」

 ふとはるかの脳裏に蘇る幼少期の記憶。

 幼い頃、確かに彼女は父母とともにこの施設を訪れたことがあったのだ。

「そうです! 昔、小さい頃に来たことがあります!! 確か複合娯楽施設で、カラオケや映画館、小さな動植物園とかがあったんです!」

「けど今じゃ、すっかり夢の跡ってワケね」

 ラプラスの言う通り、バブル時代に多額の資金を投じたこの施設もまた時代の波に呑みこまれ、かつての賑わいが嘘のように静まり返ってしまった。

 レイは門の前まで近づき、封鎖された錠前に手を掛ける。

「門の鍵は錆切ってる……奴らはここから出入りしていないようですね。どうします?」

「決まってるじゃない。正面突破よ」

「ハヒ!? ま、待ってくださいリリスちゃん!!」

 はるかの制止を無視し、リリスは強引に魔力で鍵を破壊――五人はアジトへの潜入を試みる。

 

           *

 

天界 第七天 見えざる神の手・居城

 

「よもやこのような事態になるとは……」

「脱獄不可能とされた【ハデス】から脱獄……しかもよりによって、我らをかつて裏切ったあのクリーチャーが首謀者とはな」

 見えざる神の手と呼ばれる天界・地上・冥界自治における最高位機関。ここに所属する上級天使七人は厳しい状況に表情を険しくさせている。

「冥界の管理はアースガルズのうつけ共が担っていたはずだが、よもやこのような事態を引き起こした失態をどう糾弾すべきか」

「思えば同じようなことが三百年ほど前にもあったな。アースガルズの貴族共が娯楽の為に闘技場で飼育していたとあるクリーチャーが脱走。その後、人間界において『ジェヴォーダンの獣』の名で知れ渡るほどの騒ぎを引き起こした」

「結局、一連の後始末は我らが忠実な手駒たる〝神の密使(アンガロス)〟によって片付いたな。いずれにせよ、アースガルズには徹底した抗議が必要であるな」

「話が逸れてしまったな。イドラの狙いは何だ?」

「大方察しはつくがな。もし、奴が我々が隠蔽してきたあの秘密を知っているとすれば……口外される前にこれを早急に処分しておく必要があるな」

「だが地上には悪魔共がおる。敵の狙いが彼奴(きゃつ)らなら、まずは泳がせておこう。我らが手を出すのはそれからでも遅くは無い」

「よかろう。悪魔共には気の毒だが、これもすべては天界と地上、そして冥界の秩序を保つためだ。彼らから多少の犠牲が出ることも止むを得まいか……」

 上級天使たちの間で交わされる言葉の真意は正直なところ分かりかねるところが多々ある。

 だがひとつだけ言える事があるとすれば、彼らがイドラたちクリーチャーの存在を目の上のたんこぶと思っていながら、その後始末をリリスたちに任せようとする狡猾さが窺える。

 かのような者たちを野放しにしている神が果たしているのだろうか……いや、これこそ【見えざる神の手】という存在が成り立つ最たる理由であった。

 

 

 

 

 

 




次回予告

レ「我々の前に現れたクリーチャー、ヴァンパイア・イドラ!!」
ク「圧倒的な強さで私たちを窮地に追い込む。ヘルツォークゲシュタルトに変身したリリスさんですら容易くはねのけてしまうなんて!!」
は「リリスちゃん……こんな理不尽な運命に絶対に抗ってみませす!! 私が、みんなを守ってみせます!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『進化する魔女!!ヴァルキリアフォーム覚醒!!』」
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