ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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ついについに、はるかのパワーアップが見られます!!
そして動き出す闇・・・・・・さて、その正体とは!?


第20話:進化する魔女!!ヴァルキリアフォーム覚醒!!

進化する魔女!!ヴァルキリアフォーム覚醒!!

 

 

 

 その昔、世界(宇宙)が始まるとき、まず初めにカオスが生まれた。それにより有と無が生まれ、光と闇が生まれた。生と死を分かつ混沌の大地が創成された。世に言う『天地創造』である。

 

 やがて、世界には人間を中心として、その上位種である『天使』と、人間を誘惑し罪へと導く『悪魔』、天界を追放され神の庇護を失った『堕天使』―――三大勢力が拮抗し合う三竦みの状態が作り出された。その後、三大勢力は悠久の時の中で永遠とも呼べる戦を勃発させた。

 

 永きに渡る戦いの末、三大勢力はその数を大きく激減させた。しかし、種の存続が危ぶまれる三大勢力とは異なり、人間はさらなる繁栄を極めた。また、その陰で新たなカオスより生まれ出でた異形の存在があった。

 

 天使でも悪魔でも、堕天使でも、まして人間ですらない。混沌の象徴と呼ばれ、神ならざる者の手によって生み出されたもの。

 名を【クリーチャー】――破壊と不浄を司り、世界に凶事をもたらし終末へ導く者たちをそう呼ぶ。

 

           ≡

 

黒薔薇町 黒薔薇総合クリニック

 

 リリスを庇いマンティコア・ギリガンの毒針にやられ黒薔薇総合クリニックで入院中の朔夜が、ようやく意識を取り戻した。

「う……」

 重たい体を起こし酸素マスクを外した朔夜がすぐ横を見ると、リリスからの言いつけで彼を見張っていたベルーダと目を合わせる。

「気が付いたか、暗黒騎士バスターナイト……十六夜朔夜よ」

「ドクターベルーダか……何でもいい。オレを今すぐ動けるようにしてほしい」

「ワシは医者ではない。科学者だ。死にたくなければ大人しく寝ている事を勧めるぞ」

「リリスが狙われているんだ……こんな時に惰眠を貪っていられる訳がない!」

 思った通り朔夜はリリスたちを助けに向かうつもりだ。

 無茶な我儘だと思った。だが朔夜にとってリリスとは生まれて初めて自分を等身大で受け入れてくれた初めての悪魔であり、命を懸けて守るに値する存在だ。

 ベルーダは、どんな苦痛も障壁も乗り越えるという彼の強い覚悟をその瞳より感じ取った。

 深い溜息を吐くと、おもむろに白衣の内ポケットから銀色の小箱を取り出す。

「……確かに動けるようにはできるが、副作用がある。それでもよいのか?」

「オレの事はどうなっても構わない」

「……本当に知らんぞ」

 

           *

 

黒薔薇町郊外 旧大型レジャー施設跡

 

 朔夜が動き出そうとしている頃、リリスたちは園内へ潜入し、クリーチャーの捜索に当たる。

「ところで、イドラというクリーチャーですが……どんな奴なんでしょう?」

 おもむろにはるかがリリスに問いかける。

「ベルーダ博士によれば、イドラは伝説のヴァンパイア・カーミラの末裔とのことよ。太古より、幾人もの人間の生き血を啜り、自分の目的のために目の前に立ち塞がる敵は誰であろうと排除してきた恐るべき存在……そして神と堕天使、悪魔との間で勃発した大戦後にとある大罪を犯して、ついには冥界に落とされたらしいわ。今回の脱獄も処刑を前日に控えての事だったみたい」

「ハヒ!! な……なんてデンジャラスな話なんでしょう……」

「にしても不思議な話よねー。ただの人間がどうやって冥界の脱獄事件について知ったのかしら」

「確かに奇妙な話ですね」

 事の次第をベルーダはどこでどのようにして手に入れたのか。

 ベルーダは悪魔でも堕天使でもない。ラプラスの言う通りただの人間だ。それがどのような方法を使えば冥界で起こった脱獄事件の詳細を知り得るのか……リリスたちの謎は深まるばかりだ。

 数分後。園庭を越え、リリスたちは廃墟となった建物の中へと入る。

 あちこちが瓦礫の山であり、何十年もの間人の手入れもなく放置されたその場所にはひんやりとした空気が満ちている。

 辺りに敵の気配は感じられない。だが、クリーチャーはこの建物の中に必ず潜伏している――リリスたちの緊張はより強まる。

「うう……何だか緊張してきました!」

「こんな時に朔夜が居れば心強いんでしょうけど……」

「無い物ねだりしても仕方ありません。イケメン王子のためにも、我々の手でクリーチャーを倒しましょう」

 五人は目的を果たすためには無関係な者を巻きこむ事も辞さないクリーチャーのやり方に沸々と怒りが込み上げる。

 何としても彼らに制裁を加えたいと心から願った。

 道中、五人はクリーチャーが移動に使っている場所を捜索していた。三階建ての建物の上階へと通じるエレベーターは既に故障して動かない。上への移動には階段を使うしかない。

 しかし、行く先々で主要な階段は破壊されていた。

「ここもか。階段が壊されています」

「イドラはおそらく上の階ね。どこかにひとつだけ生きている階段があるはずよ」

「リリスちゃん、それどういう事ですか?」

「こちらの移動ルートを搾った方が守りやすいでしょう? 逆に言えば自分たちの退路を断ったのよ。勝つ気満々って事ね」

「か~生意気ね! 顔合わせたらギッタンギッタン にしてやるんだから!!」

「ん……スマホ が落ちてる?」

 そのとき、クラレンスが足下に落ちていた黒いスマートフォンを手に取った。電源ボタンを押すが、液晶画面には何も映らない。

「壊れていますね……」

「それ、神林春人のだわ!」

「ハヒ!? じゃあ、あの人もここに来ているんですか!」

 クラレンスが拾ったのは神林春人の所持品だった。

 悪魔と敵対する勢力の中でもトップクラスの戦闘力を誇るセキュリティキーパーも、イドラには手も足も出なかったようだ。

 彼の無事を祈りつつ、五人は上の階へと続く階段の探索を続ける。

「ここでもないわね」

「ここも壊されているわ」

 東西南北にある階段と言う階段を虱潰しに探すが、生きている階段は見つからない。

 そして探索を始めて数十分――ようやくリリスたちは見つけ出した。クリーチャーが残した唯一のルートを。

「あ、ありました!」

「非常用のハシゴですね」

「間違いない。奴らはあそこを使っているわ」

 苦労して見つけた階段。早速全員で上の階へ上がろうとした――そのとき。

「……!」

 殺気を感じたリリスが振り返ると、リリスとラプラスにとって憎むべき相手がいた。マンティコア――ギリガンだ。

「ハヒ!! 出ました!!」

「クリーチャー……!」

「あんた……よくも朔夜を!!」

『ここから先へは行かせない……』

 ギリガンは最初から真の姿で既に戦える状態にあり、プリキュアへの変身をおろそかにしていたリリスたちは厳しい表情で後ずさりをする。

 ――ドカン!!

 直後、壁が豪快に破壊される音とともにギリガンへと向けられる斬撃。

『く……!』

 斬撃を紙一重で回避しギリガンが警戒すると、現れたのは紺碧に輝く重厚な騎士甲冑を装備した暗黒騎士バスターナイト――十六夜朔夜だった。

「お前の相手は、オレだ」

「サっ君!!」

「イケメン王子、怪我はもういいのか!?」

「ドクターベルーダに頼んで治してもらった。こいつはオレに任せて、リリスたちは上の階へ行くんだ」

「サっ君、あんな似非科学者に治療してもらったの!? だとしたら、きっと体に何らかの副作用が出る! それでもやるの!?」

「当然だよ。キミを守るのが、オレの役目だからね」

 副作用があろうともバスターナイトの決意と覚悟は固い。

 リリスはこれまでの彼の行いから自分を守るためには一切の妥協も許さない悪魔らしからぬ騎士道精神を持つバスターナイトの姿を散々見せられてきた。

 ここで彼の邪魔をすることは彼の誇りを汚す事になる。リリスは断腸の思いで、この場を彼に一任する事にした。

「……行きましょう。サっ君の思いを無駄にしないために」

「リリスちゃん、でも……!」

「大丈夫だよ。オレは死なない」

 言うと、バスターナイトはリリスたちの方へと振り向き、仮面越しに優しい表情で言葉を投げかける。

「リリス、これが終わったらまたデートにでも行こう」

「サっ君……うん、そうだよね! また行けるよね!!」

「当然さ。オレはキミの婚約者でディアブロスプリキュアの一員なんだ」

 そう言い切ると、バスターナイトは再びギリガンと対峙する。

 リリスははるかたちに納得してもらうと、イドラが潜伏している上の階へと向かうため、非常用のハシゴを上って行った。

 彼女たちが居なくなった後、バスターナイトはバスターソードを握る力を強くし、ギリガンを見ながら口角をつり上げる。

「大人しく行かせてくれたな」

『イドラ様の命令だ……お前を倒す』

「そのセリフ、そっくり返させてもらう」

 

 バスターナイトがマンティコアの注意を惹きつけている間に二階へと向かったリリスたちは、イドラの捜索を行う。

 二階にはボウリング 場があった。隈なく辺りを捜すが、敵の影は見当たらない。

「二階にはいないみたいね」

「ここから三階に行けるわ」

 ラプラスが三階へと通じる階段を発見。全員は更に上の階へと上がる。

 三階に到着すると真っ先に目の前に映ってきたのは、CINEMAと書かれた映画館の看板だった。

「三階は映画館だったんですね……」

「油断しないで。イドラは近いわよ」

 ここに来てから先ほどまで感じられなかった強い殺気をピリピリと感じるようになった。リリスは額に汗を浮かべつつ、映画館の扉を開ける。

 暗い部屋の奥――映画を投影 するスクリーンの真ん中にぽつりと座り込む物影。

 彼こそがこの事件の首謀者であり、冥界の監獄【ハデス】からギリガンとゴルザを引き連れ脱獄した凶悪なクリーチャー……ヴァンパイア・イドラである。

「ようこそ、魔王ヴァンデイン・ベリアルの娘……いや、ディアブロスプリキュアと言った方がよいかな?」

「ハヒ!? あの人、私たちの事を……」

「そうか。お前がイドラか……!」

「いかにも。我こそが最恐のクリーチャー……イドラである」

 ただならぬ殺気。周りの空気が震えるような……そんな感覚に陥る。

 おもむろに歩み寄ってくるイドラを前に、リリスは懐からベリアルリングを取り出し、中指に装着する。

「はるか、いくわよ」

「はい、リリスちゃん!」

 掛け声とともに、リリスとはるかは所有するリングの力でプリキュアの力を顕現する。

 

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」

「偽りの善幸を根絶やし!」

「邪な悪行を断罪する黒き力!」

「「我ら、悪魔と魔女のコラボレーション!! 『ディアブロスプリキュア』!!」」

 

 ベリアルたちがイドラと対峙した頃、一階ではバスターナイトとギリガンによる激しい攻防が続いていた。

 ――ドカン!! ドドン!!

 マンティコアの尾から飛び出す毒針と、鉤爪と牙を用いた突進攻撃。バスターナイトは絶妙のタイミングで怒涛の如く襲い掛かる攻撃を回避しながら建物の中を走り回る。

「どこを狙っている? オレはここだぞ!」

 わざとギリガンを挑発して敵を罠に誘い込む。

 バスターナイトの挑発に対し、ギリガンは素直に乗ってきた。逃げるバスターナイトを追って四本足で追い回す。

 だが、角を回ろうとしたとき――ギリガンの瞳に仕掛けられたトラップが映る。

 ――ドカン!!

『ぐっ……』

 バスターナイトが仕掛けたトラップが起動し、爆発。

 衝撃を受けて窓辺へ飛ばされた瞬間、バスターナイトが鋭い斬撃を何重にも飛ばしてきた。

 ギリガンは飛来する斬撃という斬撃の軌道を見切り、すべて紙一重で躱して致命傷を避ける。

「前回やられたのが余程脳裏に焼き付いているらしいな。素早すぎる反応だ。お陰で足下がお留守だぞ」

 刹那、ギリガンの足下に浮かび上がる紫の魔法陣。その中から伸びた紐状の雷がギリガンの体を雁字搦めに縛り付ける。

『ぐおおおおおおおおおおおおお!!』

「〝トリーズン・ディスチャージ〟――敵を雁字搦めにして体内から魔力を奪う。ここで待ち伏せた時点でお前の負けだ」

 バスターナイトの強さは剣術を主体とした複合戦術である。瞬時に置かれた状況を理解し、地形を生かして敵を罠に掛けたりする事もまた彼の得意技である。

 トリーズン・ディスチャージによってギリガンの魔力が大幅に奪われた。

 かなりのダメージを負わせたと思われたが、ギリガンは前回の戦いで見られたように常軌を逸した耐久力を見せつけ、バスターナイトの前に立ち続ける。

「相変わらずしぶといな。安心しろ、すぐに楽にしてやるさ」

 おもむろに盾から剣を引き抜き、止めの一撃を加えてやろうとした――そのとき。

「がっ……!」

 バスターナイトの体に奔る激痛。

 あまりの痛みにバスターナイトは剣を手放し、窓際に体を預け胸元を抑える。

(くそ……こんな時に副作用が)

 ベルーダの言っていた副作用が今になって現れたのだ。

 全身の感覚がおかしくなりそうなほどの痛みと高熱がバスターナイトの体に襲い掛かる。

 それに被せてくるように、バスターナイトの身に更なる不幸が襲い掛かった。

 ――グサっ!

「がぁ……」

『へへ、隙ありだぜ!』

 窓の外から伸びてきた獣の腕がバスターナイトの胸元に鋭い爪を突き立てた。

『遅いぞ……ゴルザ』

『わりーわりー。ははは! ザマーミロ、バーカ!』

 救援にやって来たもうひとりのクリーチャー……ガルムのゴルザは長い舌に刻印された〝666〟の数字をこれ見よがしに見せつけ、獲物を見定めてから口元を舐める。

 そして、奇襲を受けて立っている事もやっとなバスターナイトを嘲笑う。

「は、は、は、は」

 副作用に加えての敵の攻撃。バスターナイトは激しく息を切らしながら、足元をふらつかせ、

「ぐああああ」

 カーテンで遮られた地下へと続く階段を転がり落ちていった。

『はっ、無様だぜ!』

(か……体が……動かない……何がリリスを守るだ……何の役にも立っていないじゃないか。このまま何を為せぬままオレはやられるのか?)

 どうする事も出来ないで終わるのか――諦めかけたときだった。

 仰向けになって倒れるバスターナイトの瞳が捉えたのは、殺風景な壁。その近くに落ちている土ぼこりをかぶったハンドガン。

 これを見た途端、バスターナイトは希望が潰えていない事を確信――掌に紫色の魔力を圧縮させる。

『かー! こいつまだ戦う気かよ』

「……ふん」

 バスターナイトは鼻で笑うと、何の躊躇いもなく圧縮させた魔力を壁に向かってぶつけた。

『ははー、どこ狙ってやがる!?』

 ガルムが嘲笑する中、土煙上がる壁の向こうを見ながらバスターナイトは言葉を投げかける。

「――まさか貴様がやられていたとはな。オレをひれ伏せたはずの力はまぐれだったのか?」

『あ? こいつ……!』

 壁の向こうにいる何者かと会話を行う朔夜の言動を見るや、ギリガンとガルムは目を見張る。

 壊れた壁の向こうから姿を現したのは、イドラの手にかかって全身ボロボロとなり地下室で幽閉された三天の怪物の異名を取る少年。

『プリキュア対策課所属の高校生探偵、神林春人……!』

 ギリガンがそう発すると、じっと機が来るのを待っていた春人がおもむろに顔を上げ、目の前に転がるバスターナイトを見る。

『ひゃははは! もしかしてこの死に損ないが助っ人か?』

 嘲笑うクリーチャー。対するバスターナイトは仰向けの状態で、柄にもなく満身創痍な春人に皮肉を込めて問いかける。

「元気そうだな……その割には随分とみすぼらしい形をしている」

「……自分で出られたけど、まぁいいや」

 言うと、満身創痍の体を起こして春人はおもむろに前に出る。

「……そこの二匹は僕にくれるの?」

「好きにしろ……」

「ふふ……じゃあいただくよ」

 そう言った時の春人の目はとても猟奇的であり、朔夜はどことなく悪魔を思わせる春人に奇妙なシンパシーを抱く。

『この死に損ないが何ほざいてやがる! こいつは俺がやる!』

『言うと思った……』

 ガルムは復活した春人と対峙し、本来の姿であるガルムの力を咆哮とともに解放する。

『ワオオオオオオオオオオオオ!!』

「わぁお。子犬かい?」

『ウルセー!! その喉噛み千切ってやる!!』

 春人は素早い機動力が持ち味のガルムの突進攻撃を躱すと、落ちていたハンドガンを足で持ち上げ、手元まで持っていく。

「実装!」

 掛け声とともにセキュリティキーパーへと変身。腰に携帯したSKメタルシャフトを使ってガルムの顔面を思い切り叩きつける。

『ぐあああ』

 一撃のもとに敵を制圧――ゴルザは窓の外へと吹っ飛んだ。

『ゴルザ!』

「まだだよ」

 ギリガンの前に立ち塞がる最恐の人間。ここまで自分を虚仮にしたクリーチャーに、セキュリティキーパーの怒りは頂点に達する。

「次は君を……逮捕する」

 

 主犯格イドラと対峙するディアブロスプリキュア。

 キュアベリアルとなったリリスは当初から莫大な魔力を解放し、気を練るととともに余裕綽々と言わんばかりに何もせずに出方を窺うイドラに向けて、破壊の波動を放つ。

「消し飛びなさい!!」

 両手を交差し、そこから赤み帯びた黒い波動が放つ。

 龍の姿を模した波動はイドラへと飛んで行き、飛んで来たそれをイドラは不敵な笑みを浮かべつつ真っ向から受け止める。

「おもしろい、魔王の娘……ヴァンデイン・ベリアルの娘よ!!」

「はああああああああ!!」

 強い魔力をゴリ押しするベリアルと、彼女からの攻撃を真面に受け止めるイドラ。

 ウィッチたちは固唾を飲んで見守っていたが、やがてベリアルの魔力が徐々に弱まっていき、先に限界を迎えたのは彼女だった。

「ぐ……は、は、は、は」

「リリス様!!」

「クラレンスさん、行きますよ!」

「今こそ、ひとつになるとき!! 我が主――キュアウィッチに力を!!」

 キュアウィッチロッドに埋め込まれた宝石の中に入り込み、クラレンスはウィッチの力となる。

「キュアウィッチロッド! サンダーボルト!!」

 ウィッチは、凄まじい雷撃をイドラ目掛けて放つ。

 攻撃を予期すると、イドラは羽織っているマントで全身を包み込み、ウィッチの魔法攻撃から我が身を守る。

「人間の小娘よ、我の邪魔をするか?」

「リリスちゃんを傷付けることは、この私が許しません!!」

「人間風情が……いい気になるでない!!」

 マントで受け止めていたサンダーボルトのエネルギーを丸ごと吸収し、イドラは掌からそっくりそのままウィッチ目掛けて雷撃を放出する。

「きゃあああ〈のあああああ〉!!」

 技をも吸収し跳ね返すヴァンパイアの恐るべき力が露わになる。

 ベリアルたちはイドラの持つ圧倒的な力の前に出鼻を折られ、跪く。

「ふはははは!! 全く愉快な身内を持っているな、キュアベリアル。スプライト・ドラゴンの捨て子、堕天使によって命を奪われた哀れなカーバンクル、アリトン家の血を引く妾の子供、その使い魔のサキュバス、そして悪魔に魅入られた人間の娘……貴様は相当なるゲテモノ好きと見て取れる」

 この言葉が、ベリアルの怒りをあからさまに逆撫でした。

「私の使い魔……それにはるかやサっ君たちへの侮辱は万死に値するわ!!」

「ならば滅ぼしてみるがいい!! 魔王の娘……悪原リリス……ディアブロス・ブラッドリリス・オブ・ザ・ベリアルよ!! 貴様が対峙しているのは最凶最悪と言われたヴァンパイア・カーミラの末裔なのだぞ。我を倒せぬというのなら洗礼教会への復讐など夢のまた夢に終わるというものだ!!」

「く……」

 厳しい状況に立たされるベリアル。と、そのとき――

「伏せてくれ、リリス!!」

 不意に聞こえてきた婚約者の声と共に、X字状の斬撃がベリアルの横を通り過ぎ、イドラへと放たれる。

 イドラがそれを避けると、館内にバスターナイトがセキュリティキーパーに肩を担がれた状態で入って来た。

「遅くなった……すまない」

「サっ君!!」

「朔夜さん! 春人さん!! 二人とも……無事でしたか!!」

「……借りは返したよ」

 言うと、セキュリティキーパーは肩に担いでいたバスターナイトを邪魔とは言わなかったが、あっさりと捨てた。

「ハヒ! 捨てちゃうんですか!?」

「これはこれは……外野がぞろぞろと。ギリガンとゴルザは何をしているのだ?」

「あのマンティコアとガルムなら、まとめて葬り去ってやったさ」

「すごいじゃない朔夜!」

「見直したぞイケメン王子!!」

「いや……オレが倒したわけじゃないけどね」

 面目が立たないバスターナイトと、彼に助けられ彼の代わりにクリーチャーを葬ったセキュリティキーパーは右手に警棒、左手にハンドガンを装備し、イドラの前に立つ。

「……覚悟はいいかい?」

「怖いものだな。だが今は我と悪魔の戦いに邪魔をしないでもらいたい。第一、貴様は立っている事もやっとのはずだ。骨を何本も折ったからな」

「ハヒ!? 春人さん……そんなヒドい事をされたんですか!?」

「……遺言はそれだけかい?」

「面白い事を言う。仕方ない、そんなに死に急ぐのなら貴様から片付けよう……一瞬で終わせてやろう!」

 次の瞬間。

 右手に生成した光の剣を装備して、イドラがセキュリティキーパー目掛けて突進してきた。

 セキュリティキーパーは右手のメタルシャフトで剣を受け止めると、以前にバスターナイトを苦しめた銃と警棒の連携コンボでイドラと互角以上に渡り合う。

 その応酬はあまりに激しく早すぎるため、素人目には何が何だがわからない。

「は……早すぎてよく見えません!!」

「ていうか、あいつ本当に人間なの!?」

 呆れるほどの戦闘力を持つセキュリティキーパーは、イドラが持つ光の剣と自分の警棒をぶつけ合わせる。

「君の一瞬っていつまで?」

「ふん……小生意気な」

 両者は一歩も引かず、離れては接近……離れては接近し互いの力を全力で打ちあった。

「神林春人……やはり強いわね」

「だが今のアイツはほとんど無意識で戦っている。余程一度負けたことが悔しかったようだな」

 バスターナイトの言う通り、セキュリティキーパーは自分の体が物理的に動かせないことなど度外視し、気力だけで体を動かしている――正に怪物である。

「なるほど、三天の怪物とはよく言ったものだ。だが所詮は人間だ」

「!?」

 唐突にセキュリティキーパーの動きが止まった。

 何かに怯えたように体は膠着し、右手に持ったメタルシャフトも床に落とす。

「ちょっと、どうしたの!?」

「時間の無駄だ。てっとり早く済ませてやる」

 言うと、イドラは以前にも使用した強力な幻術でセキュリティキーパーの視覚、聴覚、嗅覚、触覚を狂わせる。

 酷く歪む景色に心理的、肉体的に強い重圧が加わる事でセキュリティキーパーの体力は急激に消耗していく。

「は、は、は、は」

 セキュリティキーパーはとうとう耐えきれなくなり、変身を解除するとともに膝をつく。

 このとき、春人が幻術に苦しめられるようにベリアルたちも同じだけの苦しみを味わっていた。

「なんでしょうか……すごい気持ち悪いです……」

 あまりの強力な幻術の威力にロッドと合体していたクラレンスも強制的に合体を解除され、元の姿に戻される始末。

「目が回って平衡感覚がおかしくなりそうです……!」

「気をつけてみんな。奴の幻術に惑わされないで」

「不可能な話だ。我の作り出すこの幻術空間で立っていられた者など一人たりとも居はしない。さぁ人間よ……再び跪くがよい!」

 イドラは春人の体を蹴り飛ばした。

 肉体と精神の限界をとう の昔に迎えていた春人はそのまま気を失い、電池が切れたおもちゃの如くピクリとも動かなくなった。

「春人さん!!」

「ははははは!! 我に逆らった事を死をもって贖(あがな)うがよい」

「ウソでしょう!? あいつまでやられちゃうなんて……」

 ディアブロスプリキュアが誇る最強戦力のバスターナイトを打ち破った相手が、イドラによって倒 された――ベリアルたちが受けた衝撃は非常に大きかった。

「しかしなんだ……人間だけならともかく、悪魔がプリキュアになれる時代がこようとは。まぁ無理もない。最早この世に絶対主なる者がいないのだからな」

「なに?」

「どういう事?」

 周りが疑問に思う中、クラレンスは一際怖い顔でイドラへ問うた。

「イドラ……〝この世に絶対主がいない〟とはどういう事だ?」

「おっと。口が滑ったか」

「答えろイドラ!!」

「クラレンスさん……」

 ウィッチは嘗てないほどに怒り、そして焦っているクラレンスを見たことがなかった。

「ふふふふふふ……はははははは!! はははははははははは!! ははははははは!!」

 すると、イドラは狂ったように笑い始める。

「そうだな、どの道我に倒されるのなら死に際に聞かせてやるのも悪くない話だな……先の三つ巴の戦争で、聖書の神は死んだのだ!!」

 青天の霹靂――イドラの口から語られた衝撃の事実に誰もが絶句した。

「う……うそだ」

「神が……死んでいた?」

「バカな事を……! そんな話聞いたことないわ!」

 神の死をベリアルたちは知らされていないし、信じられないでいる。

 当然だ、生と死をも司るばかりか、そう言った生物既存のルールすらも超越したとされる「神」が死ぬなど絶対にあり得ない事だからだ。

 イドラは開いた口が塞がらないベリアルらに声高に話を続けた。

「あの戦争で悪魔は七十二柱の上級悪魔の多くを失い、天使も堕天使も幹部以外のほとんどを失った。最早純粋な天使は増える事すら出来ず、悪魔とて純血種は貴重なはずだ」

「そんな……そんな事!」

「どの勢力も人間に頼らねば存続が出来ないほど落魄れた。天使も堕天使も、悪魔も三大勢力のトップ共は神を信じる人間を存続させるために、この事実を封印し隠蔽したのだ」

「うそだ……うそだ……」

 次々と暴露される受け入れ難い驚愕の事実。使い魔となる以前から神への忠誠心が強かったクラレンスの理性が瓦解し始める。

「だがそんな事はどうでもよい。我が耐え難いのは、神の不在を良い事に私腹を肥やす天界の者どもだ!! 奴らは、大戦後に我の力を自らの都合の良いように利用した! 奴らの傀儡として我は操られることが耐え難かった……神がこの世に居ないのなら我が神に取って代わり世界を手中に治めればよい!! だから我は奴らを見限り反乱を起こした。だが力及ばず冥界に落とされハデスに投獄された!!」

「主はもういらっしゃらない……それでは、私たちに与えられる『愛』は!?」

 クラレンスが恐る恐る問いかけると、イドラは鼻で笑う。

「見えざる神の手はよくやっているさ。神の代わりとして天使と人間をまとめているのだからな」

「見えざる神の手……だと!?」

 聞き覚えのない謎の組織の存在をレイは初めて知るとともに復唱した。

「システムさえ機能していれば、神への祈りも祝福も悪魔祓いもある程度は動作はするだろうからな」

 神なくしてシステムのみが機能する――最早クラレンスの理性はこの事実を承服できず、ついには失神した。

「クラレンスさん!!」

「無理もないわ。その子は神への信仰心が強かったから」

「とはいえ、神を信じる者は格段に減ったがな。聖と魔のバランスを司る者が居なくなったため、悪魔がプリキュアに変身するなどという特異な現象も起こる訳だ。本来なら聖と魔は決して混じり合う事はないからな」

「じゃあ何のためにオレたちを!?」

「決まっている。三大勢力の中でも一番若く伸びしろのある貴様らの力を奪い、今一度天界に襲撃してやるのさ……今度こそ我が新世界の神となるために!!」

 それこそがイドラの目的。ベリアルたちの力を奪い、天界に再び反乱を起こし自らが空白となった神の席に居座る事が最終目標だった。

 何と馬鹿げている法螺だろう……ベリアルは内心思いながら、おもむろに立ち上がる。

「ふざけるんじゃないわよ。あんたの勝手な言い分で、私たちの町を……仲間たちを消されてたまるものですか!!」

 ベリアルは魔力を解放するとともにヘルツォークゲシュタルトへと変身。レイハルバードを携え、イドラに敵意を向ける。

「新世界の神ですって? そんな少年漫画みたいな中二全開のセリフは……夢の中だけで吐きなさい!!」

 一気に駆け抜けると同時に、ベリアルは正面から必殺技を繰り出す。

「プリキュア・ラスオブデスポート!!」

 

 ――ドカン!!

「やりました!!」

「いや……まだだ!」

 勝利を確信と思ったウィッチに、バスターナイトは注意を促す。

 土煙が晴れると、ベリアルの全身全霊の一撃をイドラは掌で受け止め不敵な笑みを浮かべていた。

「な!?」

「ふらあああああああああああああ!!」

「きゃあああああ!!」

 ハルバードごと、ベリアルの体を振り回しイドラは前方へと放り投げる。ベリアルは打ち所悪く、そのまま気絶した。

「リリス!!」

「アンタよくも!!」

 怒り心頭にラプラスは人間態からコウモリ態へ変化。バスターナイトは即座にラプラスと合体し、イドラを空中から狙いを定め――急降下する。

「〈ダークナイトドライブ〉!!」

「バカめ」

 攻撃してくるバスターナイトたちに、イドラはため込んでいた魔力を解放――掌から赤茶色に輝く竜巻を発生させた。

「〈のああああああ〉」

「朔夜さん!! ラプラスさん!!」

 瞬く間にベリアルとバスターナイト、レイ、ラプラスの四人が倒された。クラレンスも気絶し、意識が残っているのはウィッチだけだ。

「つまらん。もう少し楽しめると思ったんだがな……」

 溜息を吐いたイドラは、肩を軽く回してからおもむろにウィッチの方へと歩み寄り、光の剣を動けない彼女の顔に突き付ける。

「チェックメイトだ。貴様たちは我には勝てん。大人しく、我の糧となるがよい」

 剣を突き付けられた直後にウィッチの足が硬直する。全身の血の気が引いていく錯覚に襲われ、迫る死の恐怖に生気を吸い取られているようだった。

(もうおしまいなんですか……こんな……こんな不条理な事になるなんて……)

 一縷の希望さえも絶たれてしまった。ウィッチは自分の力ではどうしようもない現実に為す術も無く打ちひしがれ、周りで倒れる仲間たちを一瞥する。

(リリスちゃん……レイさん……朔夜さん……ラプラスさん……クラレンスさん……はるかにはどうする事もできないんですか……)

 

 ――それは違います、はるかさん。

「……!!」

 ――たとえどんなに絶望的な状況だとしても、はるかさんなら絶対に乗り越えられます。だって、あなたは私の主でパートナーですから。

 気を失っていながらも、ウィッチの心に呼びかけるクラレンスの言葉。ウィッチは彼の心の叫びに耳を傾ける。

 ――ザッハから私を救い出そうとしたときのように、はるかさんの気持ちを素直に吐き出してください。

(私の……気持ち?)

 ――はるかさんの気持ちを吐き出せば、それがすなわち『答え』になるんです。

 クラレンスからの問いかけに対し、ウィッチが強く思った事は――……ただひとつだった。

「勝ちたい……」

「ん」

「仲間を守りたい……この手でみんなを……リリスちゃんたちを助けたい」

 握っていた拳が小刻みに震える。ウィッチはイドラから剣を突き付けられた状況で、心から強く思った言葉を吐き出す。

「イドラに……勝ちたいんです!」

「ほお……この期に及んでそんな()をするか」

「こんな酷い相手に……負けたくありません。このバケモノにだけは勝ちたいんです!!」

「バケモノか。確かにそうだ……だが、もう幕引きにしよう。このまま生きていられるのも困るからな!」

 無情にもイドラの剣がウィッチへと襲い掛かろうとした、そのとき。

 クラレンスの額に埋め込まれた魔法石から目映い光が放たれると共に、そこから何かが生み出され外へと放出された。

「な……なんだ!?」

 ――はるかさん!! これを!!

 クラレンスから生み出されたものをウィッチは受け取り、手中に収める。

「貴様ぁ、何をした!?」

「これは……」

 彼女の手に握られたもの――ウィッチリングがクラレンスを救いたいという想いから作り出されたように、仲間を守りたいという想いから再びリングが生み出されたのだ。

 光が収まると、ウィッチリングと良く似た六角形に剣の模様が刻まれたリングが目に入る。

 ――それが、あなたの『答え』ですよ……はるかさん。

 心の中で呼びかけるクラレンスの声。ウィッチはリングをウィッチリングの上に重ねるように上から重ねると、おもむろに立ち上がる。

「イドラ……あなたは大切なものを傷つけた。己の欲の為に。無暗に人を傷つけた事を私は決して許さない。その罪を悔やみ、そして懺悔なさい!!」

 目を見開き、ウィッチはその手に嵌めた新たなる指輪――【ヴァルキリアリング】を天高くへと掲げる。

「ヴァルキリアフォーム!!」

 刹那、聖なる光がウィッチの全身を包み込む。

 眩い光の中で、ウィッチはヴァルキリアリングに秘められた力によって青色と紫色の衣装に身を包み、長髪に青色の大きなとんがり帽を被った姿へと変化。キュアウィッチロッドもより強力な力を宿した【魔宝剣(まほうけん)ヴァルキリアセイバー】へと変化する。

 

「キュアウィッチ・ヴァルキリアフォーム」

 

 それまであどけなさが残るキュアウィッチとは異なる、大人びた風格。そして、それに見合う凛々しい雰囲気――イドラはその目を見開きウィッチの今の姿を凝視する。

「……はっ! 見てくれが変わったぐらいでいい気にならない事だ。所詮は一時凌ぎの力! 我の力の前には無に等しい!!」

 語気強く言うと、イドラは春人を苦しめた幻術を発動。ウィッチを幻覚空間へと誘う。

(視覚情報に惑われてはいけません。見えているものすべてが幻覚……本物は)

 冷静に状況を判断し、ウィッチは一旦目を瞑って敵の気配を感知――そして。

「そこです!」

 魔宝剣ヴァルキリアセイバーから魔力弾を背後へと放つ。すると、周りの景色と同化していたイドラへ見事に着弾した。

「ぐっほ!! バカな……我の幻覚を見破ったというのか!?」

「クラレンスさんがはるかに託してくれた想いの形……進化した魔女の力を侮らない方がいいですよ」

「き……貴様っ!!」

「ヴァルキリアセイバー!!」

 杖の形状から剣へと姿を変えた武器を握りしめ、ウィッチはイドラへ接近。

 イドラはウィッチの斬撃を光の剣で受け止め肉薄する彼女の剣戟をどうにか捌いていく。

だが、明らかに彼女の戦闘スキルは先ほどまでとは別人の如く跳ね上がっていた。

(魔法による中距離支援だけでなく、接近戦にも対応できる力を得ているだと!!)

「はああああああ」

 油断した瞬間、ヴァルキリアセイバーがイドラの剣を弾き飛ばした。

「な……!」

「私は負けません。あなたを倒して、リリスちゃんやみんなと一緒にここから帰るまで……私は何が何でも負けません!!」

 力強く宣言すると、ウィッチは剣の姿から再び杖の姿へと戻したヴァルキリアセイバーを用いた必殺技を繰り出す。

 

「プリキュア・マジック・イリュージョン!!」

 

 杖を掲げると同時に周りの景色が変化。宇宙空間へと誘われると、イドラの頭上から星という星が幾重に降り注ぐ。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 超ド級の必殺技がイドラへと炸裂する。

 ウィッチは手に入れた新たな力をもって最凶と謳われるヴァンパイアを見事この手で倒し、引導を渡したのだ。

「リリスちゃん!!」

 イドラを倒した後、彼女は真っ先に気絶したベリアルの元へ駆け寄った。

「しっかりしてください、リリスちゃん!」

「う……」

 ウィッチの呼びかけに答え、ベリアルはおもむろに目を覚ます。

「やったわねはるか……進化、したのね」

「はい……」

 ゆっくりと体を起こすと、ウィッチの必殺技の前に敗れたイドラが仰向けになって倒れているのが窺えた。

「……終わったのね」

「ええ」

 そう思った次の瞬間――倒されたはずのイドラがピクッと手を動かし、体を起き上がらせる。

「終わってなど……いない」

「「は!!」」

「我はヴァンパイアだ……心臓を仕留めない限り我が死ぬ事はないのだ!」

「く……」

「そんな……」

「ははははは!! 愚かなる人間と悪魔ども、残念だったな!! 貴様らに我を裁く事は永劫敵わぬ! いや貴様らだけではない、他の誰にも、まして神にも我を裁く事などできはしな……!!」

 

 ――グサッ。

 高笑いを浮かべていたとき、勢いよく体を貫く感覚にイドラは笑いを止める。腹部には煌々と輝く光の剣が突き刺さっている。

「な……」

 おもむろに振り返ると、そこにいたのは顔を目深にかぶったフードで覆い隠した三人組の集団だった。

「――…… その通りだ。たとえ悪魔だろうと神だろうと、誰にも貴様は裁かせぬ。貴様を裁くのは……我々だ」

「き……きさまらは……!」

「一体誰ですか!?」

「わからない。ただ、途方もなく強い力を感じるのは確かよ」

 突如、この場に現れた正体不明の集団。正体こそ不明だが、ベリアルは直感的に自分たちとは比べ物にならないほど凶悪なものを感じ、額に汗を浮かべる。

「イドラよ……随分と痛いしっぺ返しを受けたようだな。敢えて訳は訊くまい。理由の如何に関わらず、天下の膝元たるこの地でこれ以上騒ぎは起こすは双方本意ではないはず。そなたらにも言い分はあろうが、この争い……一旦我らに預けよ」

 三人組の真ん中に立つフードで素顔を覆った者がベリアルとウィッチに言い、残りの二人が動けないイドラの身柄を拘束する。

「イドラの身柄は我らが預かろう。その処遇は十分な詮議な上、慎重に取り計らせてもらう」

 刹那、ベリアルとウィッチへと語りかけていた者は一瞬でイドラの元へと移動する。

「貴様は少しばかり勝手が過ぎた。力づくでも連れてくるよう、見えざる神の手から命を受けている」

「ぬああああああああああああああああ!!」

 艶の無い悲鳴を上げながら、フードを被った謎の者たちによってイドラは連行され、魔法陣とともに消滅する。

 理解も追いつかぬ間に起こった出来事に、ベリアルとウィッチは困惑する。

「あのクリーチャー……どうなっちゃうんですか?」

「おそらく罪を裁かれ、罰を受けるでしょうね」

「罰とは……どんな?」

「さぁね。でも、決して軽くはないでしょうね」

 

           *

 

天界 第七天 見えざる神の手・居城

 

「イドラめ……下手を打ったな」

「己の力を誇示しようとするあまり、足元が崩れゆく音にも気づかなんだか」

「奴は秘密を知り過ぎた」

上級天使たちが口々にイドラを糾弾していたそのとき、

「――既にイドラは我らの手で、コキュートスでの永久凍土の刑に処しましたのでご安心ください」

 城の門が開かれると、フードで素顔を隠した例の者が現れた。上級天使七人の前にやって来ると、恭しく膝を突き態度を改める。

「帰ったか(あま)が使い……神の密使(アンガロス)よ」

「してどうだったか? ディアブロスプリキュア……魔王の娘は?」

 問いかけられた直後、その者は淡々とキュアベリアルが今後の活動に脅威に成りうるかどうかを踏まえ報告する。

「所詮は子供。やはり我々の存在には気づいてはおりませんでした」

「そうか……神の不在を知られた以上、あれも始末しておくべきであろうか」

「いえ、それは時期尚早というものです。あれにはまだ()としての価値があります」

「餌とな?」

「憂むべきは悪魔の存在にあらず……。あれもまた洗礼教会等と同じ我らにとって都合の良い傀儡に過ぎません……むしろ、これらを擁し天に近付く存在、それこそが真なる敵」

「その敵を炙り出すため、まだあの悪魔(人形)が必要であると?」

「いずれ時期(とき)が来ます。そして次に会うときは、悪魔共の羽根が散る事になりましょう」

 フードの影から覗く左頬には、イドラたちと同じく不吉な〝666〟の数字が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 




次回予告

朔「警察やクリーチャーの台頭が際立つ一方、オレら悪魔とは根本的に敵対する相手…それが天使だ」
は「キュアケルビムさん…どうして私たちは戦わなければならないんですか!? 同じプリキュア同士、戦う必要なんてないじゃないですか!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『悪魔を倒すため!キュアケルビム、新たなる姿!!』」
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