ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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しばらく休みをもらって帰ってまいりました!
ようやく第三章のスタートが切れそうです・・・・・・ファンの皆様、長らくお待たせしました。
今回から始まる「五大勢力乱立編」は、より過激になる各勢力の争いやリリスの重大な秘密などが明らかになるはずで


第3章:勢力均衡崩壊編
第21話:悪魔を倒すため!キュアケルビム、新たなる姿!!


異世界 洗礼教会本部

 

「はっ!!」

 悪魔との戦いに備え自らを鍛錬する天使―― テミス・フローレンス、またの名をキュアケルビムは、最近の心境の変化に戸惑っていた。

 以前までの自分なら悪魔に対して容赦なく断罪を行っていたはずだ。それこそ洗礼教会の如く大義を果たすためならどんな非道も厭わないような事も平気で行っていただろう。

 だが、悪原リリス――キュアベリアルやその仲間との触れ合いを通じて明らかな気変わりが起こったのだ。

 確かに、古来 悪魔と天使は敵同士、遇えば 即座に闘う運命にある。

 しかし、それでも彼女は進んで悪魔を滅ぼそうという気にはなれなかった。折角悪魔たちの行動を監視するためにわざわざ同じ町の同じ学校へと通い、同じクラスの一員としてリリスたちと行動を共にしているにもかかわらず……

「……」

 正義の為ならどんなことでも出来る、そう思っていたからこそ戦ってこられた 。

 だが現実はどうだろう。悪魔を滅ぼす事だけが目指すべき正義でもなければ、平和への近道なのではないという事をここ最近になってようやく分かりつつあった。

 堕天使や警察勢力の台頭、さらには独立して動くクリーチャーの脅威など……世の中を広く見渡せば正義と悪は人の数だけ無数に蔓延っている。まるでウィルスのように……

 これから先もこんな苦悩を抱えていかなければならないのか……と、思っていた矢先。背後からコトコトという足音が聞こえてきた。

 おもむろに振り返った際、ケルビムの瞳に映ってきた のはひとりの若い神父だ。ふてぶてしい笑みを浮かべ、思惑ありげに自分を見てくる洗礼教会のナンバー2 に君臨する元はぐれエクソシスト――コヘレトだ。

「……私に何か用事かしら、コヘレト」

「コヘレトさま、だろうがよ。どっちが立場上か分かってんのか、キュアケルビム?」

「……あなたに敬語を使うくらいなら、私は自分で舌を噛んで死ぬことを選ぶわ」

「ばぁーか。舌噛んだくらいで死ねる 生き物なんざいねえんだよ! 俺 ですらんなこと無理だからな! ハハハハハハ!!」

 彼女は純粋にはこの男の事が嫌いだった。常に打算的で自分の利害で のみ行動し、あるときは堕天使側に付き、あるときはフリーになったり、そしてまたあるときは洗礼教会と、コロコロと自分の立ち位置を器用に変える蛇 のような彼を嫌悪した。

「……用件を言いなさい。あなたみたいな人の血が通っているのかさえ危うい人間と会話をするほど暇でもないわ。こうして上級天使と会話に臨めることこそがあなたにとっての奇跡と思ってほしいほどにね」

 ケルビムから露骨なまでの嫌みを受けたコヘレトは、そのふてぶてしい笑みを崩す事は無かった。

「じゃあお望み通り率直に言ってやるぜ。キュアケルビム、俺さま直々にお前に話があるんだよ。こいつは今後の進退にも大きく関係してくる重要な話だぜ」

「私の?」

 ケルビムは眉を顰め、心中何を考えているかも不明なコヘレトを注視し警戒する。

 

            *

 

黒薔薇町 悪原家

 

「えー、みなさん……天城はるかはこの度のクリーチャー戦で、ヴァルキリアフォームへとパワーアップすることができました――!! 」

 リビングでそう宣言するはるかと、彼女の成長を自分の事のように祝福するのはリリスの使い魔でスプライト・ドラゴンのレイ、はるかの使い魔であるカーバンクルのクラレンス、そして朔夜の使い魔でサキュバスのラプラスだ。

「おめでとうございますはるかさん!!」

「はるか様、ほんとうに素晴らしいことです!!」

「アンタはいざという時はやる子だとあたしは信じていたわ!!」

「いや~~~それほどでも……ありますけどね♪」

 ここはもっと謙遜すべきだと思ったが、やっぱり褒められるのは嬉しいものだ。はるかは頭を掻きながら頬を薄いピンク色に染め上げ、だらしなく口元を緩める。

 そして何よりも彼女の成長を喜んでいるのは他でもない――親友であるリリスだろう。使い魔たちのような反応こそ示さないものの、リリスは紅茶をひと口飲んでから、はるかに今回の結果について率直なコメントをする。

「確かにおめでたい話ではあるわ。でも、力が強くなることは同時により強い敵と戦う性(さが)を背負う事でもあるわ」

 リリスから向けられる重たくも客観的な言葉。はるかたちの視線が自然と彼女へと向けられる。

「強者は、常に孤独よ。強者は、常に勝ち続けなければならない。その為に孤独になる……はるかはそれに耐えられるかしら?」

「えっと……その……」

「今は確かにチームで戦っているけど、戦いの途中で私やサっ君、レイたちが敵に倒されるって事も十分にあり得るわよ。はるかはそんな厳しい状況に立たされても、強者として常に勝ち続けなければならない」

「リリスちゃん……その……お話はわかりますけど、縁起でもないこと言わないでください!  そんな悲しい運命なんて……想像したくもありません!!」

「はるか様の言う通りです。リリス様のそのネガティブな思考は、時に戦いの士気を下げかねます」

「ネガティブな思考、か……現実に起こり得る可能性をシミュレートする事の何がいけないというの? あなたたちだって分かってるでしょ。私たちを狙って来るのは最早洗礼教会や堕天使だけじゃない。そして敵がその度にどんな卑劣な手を講じるかもわからない……今回はたまたま運が良かったかもしれないけど、一歩間違えれば私たちはあの場で全員イドラに殺されていたわ」

「「「「……っ!!」」」」

 認めたくはないのだが、リリスの言ったことは紛れもない事実だ。自らの野望を成就するため黒薔薇町に住む悪魔関係者を次々と襲撃したヴァンパイア・イドラの強さは計り知れなかった。現時点におけるリリスの最強フォームであるヘルツォークゲシュタルトや、セキュリティキーパーの力ですらも無力であると思い知らされた。あのとき、はるかがヴァルキリア フォームに覚醒できなければ、リリスの言った通りイドラに殺害され、こうしてこの場に集合することなど できなかった。

「奇跡って言葉を多用するつもりはないわ。そもそも奇跡なんて言葉、私から言わせれば都合のいい逃げ口上みたいなものだもの。戦いはいつだって勝つべくして勝つ。敗北は勝つべくして勝てなかった結果だから……」

 いかにも彼女らしい現実主義に沿った言葉だ。リリスが奇跡を軽々しく 信じられないのは、十年前に起きたあの事件――洗礼教会によって行われた【デーモンパージ】が原因だった。最愛の母や仲間の悪魔たちが次々と手に掛けられていく中、炎の中で彼女は何度も仲間を助けて欲しいという奇跡を信じた。だがそんな奇跡など起こる筈もなかった。何も起こらぬ奇跡を期待したが為に、彼女は大事なものを根こそぎ奪われたのである。

「リリスちゃん……でも、でもはるかは!」

 はるかが何とか食い下がろうと言いかけた途端、不意にリリスの表情が綻んだ。

「でも確かに、奇跡は奇跡たるポテンシャルを持っている者にこそ起こるべきものであるとも考えるわ。はるかにはその力が備わっていた。だからそのリングが生まれた」

 奇跡は祈るだけでは起こり得ない。もし本当に奇跡というのが現実の事象として現れるとすれば、奇跡を求める者がそれに相応しい可能性を秘めているか否か。

 リリスは思考する。はるかがプリキュアの力に覚醒したとき然り、イドラとの戦いのとき然り、大切な仲間を守りたいという彼女の強い想いがいつだって彼女に力をもたらし幾多の奇跡を実現させたのだ。プリキュアになれたのも、彼女が奇跡を引き起こす潜在的な可能性を自然と持っていたからなのだと結論付ける。

 リリスから思いがけない言葉をもらったはるかは、手の中にある新たなる力――ヴァルキリアリングを凝視する。

 そんなはるかへと近づき、リリスは優しく包み込むように彼女の手を握りしめる。

「こんな理不尽な運命に巻き込んでしまった私を恨むなとは言わないわ。だけど私にははるかの力が必要なの。だから、これからも私と一緒に戦ってくれる?」

 過酷な戦いへ巻きこんでしまった事への謝罪と、これから先も力を貸してほしいという小さな願い。いつだって人に頼らず弱音を吐かないリリスが初めてその口から「自分を」頼りにしたい と言って来たのだ。これを聞いて嬉しくないはずがなかった。

 ゆえに、はるかの答えは当然にしてひとつだった。

「――――リリスちゃんにははるかが付いていないといけませんからね。これから先も、全力で戦わせていただきます!!」

 一番の笑顔で元気よく答えた。この瞬間、リリスの頬が薄いピンク色に紅潮し口元が緩んだ。

 その直後に、キッチンでひとり調理に没頭していた朔夜が両手いっぱいにお祝いの料理を運んでやってきた。

「さてと、二人の絆が深まったところで食事といこうか。これからの戦いに備えて英気を養おう」

「うん!!」

「朔夜さんのお料理、待ってました――!!」

 今後の戦いに備えて朔夜が用意したのは飛び切りのフルコース。いち中学生が作ったとは想像もつかない豪勢かつ栄養バランスが考えられたメニュー。リリスたちはただ見ているだけでもお腹が膨れて来そうだった。

「うわああ……本当においしそうですね!!」

「相変わらず大した腕ねーあんたは」

「いつもありがとうサっ君。あなたも私にとってかけがえのない人なの……」

「分かってるよ。オレは二度とキミ の元からいなくなったりしない。キミの側でずっと守ると誓うよ」

「サっ君……」

 自然と手を取り合い二人は見つめ合う。

 婚約者同士だからある種普通の光景なのかもしれないが、人目を憚るという事も学習して欲しい。二人が無遠慮にイチャイチャし甘いピンク色のオーラを放散するものだから、レイの嫉妬はたちまち最高潮に達する。

「おのれ~~~……イケメン王子が!! やはりこいつだけは死んでも好きになれそうにない!!」

「あ~、なんという素晴らしい光景でしょうか。これが青春のラブロマンスですね !」

「リリスさんと朔夜さんの場合は特に絵になりますねー」

 基本美しいものを素直に美しいと思えるはるかとクラレンスは、レイとは違い愛に溢れた二人の事を微笑ましく見守った。

「あ、そうだわ。折角だから記念写真撮ってあげるわ! んでもって、あとでSNSにでも投稿しようっと!!」

「こらラプラスさん、それだけは絶対やめてくれ!!」

「お願いですから変な事はしないでくださいラプラスさん!!」

 

 何の気なくラプラスが言い放った言葉を聞き、ようやく我に返ったリリスと朔夜は大慌てで彼女に制止を求める。何はともあれ一同は食事を摂る 事にした。

 全員はその手に乾杯用のジュースを持つ。乾杯の口上をする直前、各々がそれぞれの口から語り出す。

「今まで色んなことがありましたけど、その度にみんなで力を合わせて乗り越えて来ました!」

「たとえ何が出てきたって、はるか達が力を合わせれば大丈夫ですよね!!」

「できればそう願いたいけど」

「リリス、悲観的に考えるのはダメだよ」

「あ、ごめんなさいサっ君! つい、いつものクセで……そうだよね、私たちなら何がきても大丈夫よね!!」

「その通りです!!」

「ではみなさん、乾杯しましょう!!」

 全員はグラスを掲げると、これからの自分たちの明るい未来に向かって行けるよう願いを込めて、威勢のいい声で、

「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」

 クリーチャーとの戦いを経て、「ディアブロスプリキュア」の団結はこれまでよりも一層深く強まった。

 彼らはなおも結束して、未来に降りかかる如何なる困難にも決して屈せず、打ち勝っていくことを決意した。

 

           *

 

異世界 堕天使総本部

 

 悪魔たちを疎ましく思うのは洗礼教会だけではない。女堕天使ラッセルもまた、ディアブロスプリキュアを敵視する者のひとりである。

「ディアブロスプリキュア……くっ!!」

 崇拝していた上司のザッハをリリスによって斃され、一時は傷心していたラッセルだが、次第にキュアベリアルへの憎悪が激しくなり、それが皮肉にも彼女のモチベーションの回復へとつながったのだった。

「ああああああああああ!! くそっ!! くそ!! くそくそくそ!! くそ――っ!!」

 彼女の苛立ちは何もキュアベリアルだけにある訳ではない。それまで散々飼い慣らしてきたはぐれエクソシストのコヘレトがいつの間にか洗礼教会側へと寝返ったこともまた彼女を憤怒させる要因となっていた。ザッハを失い、その上部下にまで見限られた彼女の怒りは一向におさまらず、周囲に置かれた装飾品を手当たり次第に破壊する。

「まったくムカつくったらないわ!! コヘレトの奴、帰りが遅いと思ったら私を裏切って教会側に寝返るなんて……いい根性してるじゃない!!」

 

「飼い犬に手を咬まれるとはこの事だな」

 そのとき、奥の方からラッセルへと呼びかける声がした。おもむろに声のした方へ振り返ると、

「な……あなたは!!」

 真っ暗な廊下から歩いてきた人物に、彼女は目を見開き冷や汗をかいた。

 現れたのは高貴な衣裳に身を包む赤い仮面で素顔を隠した人物。おもむろに仮面に手を掛けると素顔を覆い隠していたそれをゆっくりと外した。

 隠されていた素顔――黒い髪に紫色のメッシュを入れたザッハ以上に若く容姿端麗な青年であった。

「ダスク…… さま…… !」

 冷や汗をかいて硬直するラッセルを前に、彼女からダスクと呼ばれた青年は不敵な笑みを浮かべる。

「まぁ、元より野良犬を躾けようとすること事態に無理があったんだ。そんな手の付けられねぇような根無し草は早くに始末しておくべきだって……再三に渡って忠告してきたはずなんだがな」

「も、申し訳ありません!!」

 自分よりも明らかに年下と思しき相手から叱責されるも、ラッセルは逆切れを起こすばかりか、片膝を突いて自らに非があることを素直に認め陳謝する。

「まぁいいさ。今は逃げた野良犬の事よりも悪魔共の方だ。先日のクリーチャーの一件で、人間の娘が新たな力を手に入れたらしい」

「キュアウィッチ、ですか……」

 ザッハが健在だった頃、クラレンスから神秘の貴石 を強奪しようとしたところ、そのザッハから逆に貴石を奪ってプリキュアの力を覚醒させた少女――それが天城はるかだ。ラッセルにとってもキュアウィッチはキュアベリアルと並ぶ脅威であり、同時にザッハを死地へと追い込んだ憎むべき存在だ。

「どっちにしろ、これ以上は悪魔共の増長を見過ごすわけにはいかねぇな」

「ダスク様、ここはわたくし奴 が!! 今度こそ忌まわしき悪魔共を一匹 残らず殲滅して……!!」

「その必要はねぇよ」

「え!?」

 予想だにしなかった返答に思わず困惑するラッセルを余所に、ダスクは足を動かしながら口を開き語りかける。

「ザッハを殺されたお前の憎悪は分かる。俺だって同胞を殺された事に変わりはねぇ。遣る瀬無えのは当然だよ。だが、今のお前で果たして奴らに勝てるのか?」

「そ……それは…………」

 口籠ったラッセル。彼女も重々に理解していた。今の自分の力ではダスクの言う通り、ディアブロスプリキュアを殲滅することは容易ではない事を。

「そういうわけだ。お前は大人しく留守番してな。たまには俺が戦いの場に出向くのも悪くない」

 言うと、ダスクは背中に生えた漆黒の翼を左右に五枚ずつ、計十枚を広げる。十枚の翼が意味するところ――彼はザッハやラッセルとは一線を画す強い力を秘めた堕天使という事だった。

「まさか、ダスク様が直々に!?」

 本来ならば考えられない事態に吃驚するラッセルの反応を伺い知るとともに、ダスクは口元を緩め、人間界へと続く時空ゲートの前の立つ。

 

「ディアブロスプリキュア……その力がどれほどのものか、俺が直々に確かめてやる」

 

           ◇

 

黒薔薇町 私立シュヴァルツ学園 図書室

 

 とある日の昼下がり。はるかは 、図書室でひとり『ワルキューレ』に関する資料を集め調べていた。

「ヴァルキリアとは……北欧神話に登場する複数の半神のことで、戦場において死を定め、勝敗を決する女性的存在である。別名として『ワルキューレ』という呼び方もされている……へぇー、そういう事だったんですか!」

「あら。ずいぶん熱心に北欧神話について調べてるわね」

  すると、いつにも増して読書に集中するはるかの事が気になったのかリリスが分厚い本を手に歩み寄る。

「はい! 自分が手に入れた能力や名前について調べていたんです。知ってますかリリスちゃん、ヴァルキリアって『戦死者を選定する女性』って意味なんですよ!」

「それくらいの事ならとっくに知ってるわよ。ドイツに居た頃、北欧神話に関する書物は飽きるほど読み漁ったもの」

「あ! そういえば、リリスちゃんって黒薔薇町に越してくる前はドイツにいたんですよね。すっかり忘れてました」

  うっかりしていたと頭に軽く手を当てるはるか。やがて、リリスが手に取っていた分厚い本に自然と目が行った。

「ところで、今日はまた一段とすごそうな読み物を手に取っていますね?」

 問われた後、リリスは 、本の表題を見せるとともに端的に説明する 。

「『マレウス・マレフィカルム』 ――〝魔女への鉄槌〟 という本でね。十五世紀、ヨーロッパで魔女裁判の際に利用されていたマニュアル本みたいなものよ。四歳の頃にも読んだ事があるんだけど、まさかこの学校に寄贈されてあるとは思っていなかったものだから。つい懐かしくて」

「四歳の頃に何を読んでいるんですかリリスちゃん……それより、魔女裁判といいますと?」

「はるかはヨーロッパで『魔女狩り』と呼ばれるものがあった事を知ってる?」

「はい……一応は。クラレンスさんからも聞いたことあります」

 リリスははるかの正面の席へ座ると、マレウス・マレフィカルムに書かれてある内容に照らし合わせて、世界史上で語られる魔女狩りについて話を掘り下げる。

「ヨーロッパでは元々『魔女』とは、薬草を使って病気を治したり、呪いで人の心を癒したりするちょっと知識のある物知りな女性を指していたわ。ところが、キリスト教の布教に伴い、社会構造が宗教色で塗り固められていくうち、魔女はキリスト教社会を破壊する悪魔の手先というイメージに変わっていった 。やがて、大勢の罪もない者が男女問わず魔女裁判にかけられ、厳しい取り調べや、時に拷問や死刑に処される事もあったわ」

「ハヒ! 聞くだけで背筋が凍る話です! はるかはその時代に生まれなくて本当にラッキーでした」

 今にして思えば、はるかは自分が魔女のプリキュアになった事をある種の運命や因果に思えてならない。悪魔と魔女――互いに切っても切り離せない存在。リリスという悪魔のプリキュアに触発され、魔女のプリキュアとして覚醒した事は単なる偶然などでは言い表せないものを感じた。

「そうそう。魔女裁判といえば、今から三百年くらい前に、アメリカのセイラムで大規模な魔女狩りがあったの」

「アメリカで? 魔女狩りってヨーロッパだけじゃなかったんですか?」

 気になって問いかけるはるかの疑問にリリスは詳細な説明を行った。

「一六九二年一月、人口千七百人ほどの小さな村の有力者パリス牧師の家に住む九歳の娘と十一歳の姪の二人が、突然何かにおびえるように叫び出した。発狂した少女たちはモノを投げつけ、奇声を発し、そうした異常行動は伝染するかのように急速に拡大していった。医者は治療を施したが効果は無く、匙を投げた挙句「悪魔の仕業」と根拠もない事を言ってしまったの。それが、結果的に二十人以上の死者を出す凄惨な魔女狩りを引き起こすとはこのとき――誰も予想だにしていなかったわ」

「悲しい話ですね。でも、どうしてそんな風になっちゃったんですかね? 結局、女の子たちの異常行動は何が原因だったんですか?」

「一説によれば、集団ヒステリーとかあるいは少女たちの悪ふざけっていう解釈をしている学者もいるけど、真相ははっきりしないわ。ただ……このセイラム村の話が悪魔界で実際に起こった事件と極めて酷似しているのよ。時期的にもちょうど三百年くらい前なの」

「そうなんですか?」

「その事件の首謀者は私たちと同じ悪魔だった。でも、その悪魔の名を口にすることは禁忌とされている。なぜなら、その悪魔は悪魔の歴史上最も卑劣で残酷で、最悪と呼ばれる犯罪者だから。ゆえにその悪魔は冥界の牢獄にて永遠に捕らわれ続けている――」

 

 このとき、誰一人予想だにしていなかった。

 遠くない未来――混沌と破壊を求める悪意ある者の手によって、永きに渡り幽閉された史上最悪の悪魔が世に解き放たれることを。

 そして、ディアブロスプリキュアにとっての最大の脅威となることを――

 

           *

 

異世界 洗礼教会本部

 

 後日、詳細な理由はわからぬまま、コヘレトからただ話があるだけと言われたケルビム は誰もいない聖堂へと呼び出された。

 しばらくしてコヘレトが現れると、訝しげな情を浮かべケルビムは率直な事を尋ねる。

「それで……あなたが私に何の話があるというのかしら?」

「ふふふ。お前よ……つくづく自分の立場って言うのがわかってねぇようだな」

「……どういう意味かしら?」

「どういう意味だぁ? ハハハハハ、まったくめでたい頭してんな……自分がこれまでにしてきた事を振り返ってみたらどうなんですかって、わざわざ忠告してやってるっていうのによ!」

 意地の悪い顔から窺える明確なる悪意。

 身構えるケルビムへ近づくと、コヘレトは馴れ馴れしく彼女の顎に手を添え、至近距離から言って来る。

「たび重なる無断行動。命令違反。そしてこの俺さまへの越権行為……おめぇが俺をビルの下敷きにしたことは忘れてねぇからな!」

「くっ……」

 過去の事を蒸し返し傷口を鋭く抉るコヘレトの言い分に、ケルビムは返す言葉もない。

 思えば最近は悪魔退治よりも、悪魔たちとの共闘だったり、その使い魔を救出するのに力を貸したという行動に出ているものだから、洗礼教会だけでなく後ろ盾である【見えざる神の手】からも呼び出しを受け、忠告をされる始末だ。

 ハッキリと言えば、キュアケルビムは自分から立場を危うくし、悪い意味で教会から目立つ存在となってしまった。

「あんとき、人間の娘に絆されたか何だか知らねぇが……妙な真似をしやがる。そんなに悪魔共を助けたかったのか? 偉大なる天使様よぉ?」

「私は別に、悪魔を助けたつもりじゃ……」

「まさかとは思うが、自分の使命を忘れたわけじゃねぇだろうな? それに悪魔共がこれまでに行って来た所業も……太古の昔、お前の先祖のキュアミカエルは邪なる欲望に駆られた悪魔共から人間を守るために自らが犠牲になったんだぞ!」

「……」

 先祖の話にまで遡ると、彼女の心が大きく揺れ動く。

 コヘレトは意地の悪い言葉で彼女の精神を徐々に追い詰めていき、疲弊したところに追い打ちを掛けるが如く、耳元でそっと囁いた。

「これまでのお前が犯してきた罪の数々……俺が拭ってやらんでもない」

「拭う、ですって?」

「ようは免罪符を出してやるってことさ。お前にチャンスを与えてやるよ。お前が俺たちの味方であるって証拠を示せば、俺たちはお前の事を本当の仲間として認めてやるし、ホセア様にも取り計らってお前の身の上を最大限にカバーしてやらんでもない」

「私に何をさせるつもり?」

「悪魔共をてめえの手で一人残らず刈り獲ってこい」

 とりわけ悪辣な笑みを浮かべ言うと、コヘレトはケルビムの手の中にあるものを収めた。

「俺からの餞別だ。そいつで証明して見せろ――てめぇの『正義』って奴をな!」

「私の、正義……」

 正義という言葉に複雑な胸中を抱えるケルビム。右手の平の中に収められた左右二枚ずつ、計四枚の天使の翼が生えた純白の指輪。餞別と称して渡された未知なるリングを見つめる彼女は、最早時間的な猶予が残されていないという事を悟った。

 生き残る方法はひとつだけ――――決断を迫られたケルビムは、手の中のリングをぎゅっと握りしめる。

 

           *

 

黒薔薇町 市立黒薔薇第一中学校

 

 放課後、リリスとはるかは使い魔たちを連れて朔夜が通う学校を目指す。朔夜が通学しているのは市立黒薔薇第一中学――黒薔薇町管内に三つある公立中学のひとつで、同時に唯一の男子校だ。

「朔夜さんの学校はこの辺なんですか?」

「ええ。私も行くのは今日が初めてなんだけどね」

「あ、あれじゃないですか!」

 クラレンスがそれらしい校舎を発見した。校門から続々と学ラン姿の男子たちが下校して来る中、なぜか他校の女子たちが多く集まっているのが目に見えた。。

「ここって男子校よね?」

「そのはずですが……」

「にしても何なんですかねあの人だかりは……しかも女性ばかり」

「なんでだろう……すごく悪い予感がする」

 ひとまず朔夜が校舎から出てくるまでリリスたちも他の女子に交じって校門前で待つことに。

 しばらくすると、昇降口から他の男子と混じって一際爽やかなオーラを発する男子生徒が出てきた。

「あ、サっく 」と、口走ろうとしたリリスだったが、次の瞬間――

「きゃ――!! 朔夜く――ん!!」「こっち見て――っ!!」

「今日もカッコいい――!!」

「イケメン王子っ!!」

 彼女の声を容易に掻き消すほどの大音声が遮った。イタリアからの帰国子女である朔夜の噂を聞きつけた黒薔薇町管内の中学校を始め隣町や他県からも朔夜目当てにミーハーな女子生徒たちが挙って集まり、その姿を一目見ようとした結果、いつの間にか朔夜を出待ちするファン層が自然と形成されたのだ。

 本来ならば、迷惑極まりない行為なのだが、朔夜は彼女たちを無下にする事はなく、爽やかな笑みで一人一人を丁寧に扱った。この紳士然とした行為こそ、彼の人気を盤石なものとした。

 朔夜が校門前の女子生徒に愛想笑いを振りまき手を振ると、その瞬間、女子たちが更に興奮し黄色い声を張り上げる。

「きゃ――!! こっち見たわ!!」

「笑顔が爽やか!!」

「あたし、もう死んでもいい♡」

 国民的アイドルにでもなったような朔夜と、彼の魅力に取りつかれた女子たちは大フィーバー 。当然、朔夜をおもしろく思わないと感じるこの学校に通う何人かの男子生徒たちは朔夜を「リア充の申し子」と呼んで密かに罵倒しているという。

 薄々こうなる事は分かっていたが、予想以上の人気振りにはるかたちは言葉を失くしかけている。

「な、なるほど……彼女たちは所謂イケメン王子ファンクラブという奴ですか」

「でも確かに朔夜さんはモテますよ、あれだけカッコ良かったら」

「あれ? ちょっとリリスちゃん……なんかおかしくない?」

「ハヒ!? リリスちゃん、体から黒いガスが噴き出していませんか!!」

「えへへへへ……えへへへへ……」

 不気味な笑みとともに体から異様な黒いガスを噴き出すリリス。彼女は凄まじい嫉妬に駆られ、精神に異常を来してしまっている。婚約者である朔夜が他の女子と仲良くすることはもちろん、人のいい朔夜が見知らぬ女子へ笑顔を振りまくなど言語道断。はるかたちはこれまで見たことのないリリスの姿に背筋を凍らせる。

 

「ごめんごめん、お待たせ……あ……えっと……リリス」

 ようやく朔夜が女子たちの輪を抜けてリリスらと合流を果たしたとき、彼女は満面の笑みを浮かべると共に目に見えるほどのどす黒いオーラを発していた。

「サっ君……ちょっとオハナシがあるんだけど、いいかな?」

 朔夜は自分の気づかぬうちに死亡フラグを立ててしまった事を理解した。現にリリスの口からオハナシがあるなどという言葉が飛び出したのだから間違いない。

「えっと……リリスさん、ここで話すとなにかと人の迷惑になるからさ。どうだろう、公園の方に移動しないかい? そこでならゆっくり話ができると思うし」

「うふふふ……じゃあそうしようか♪ こんな時でもないとサっ君とゆっくりお話しできないもんね♪」

「そうだね……オレも是非ともゆっくりキミと話がしたかったから……あはははは」

 引き攣った笑み誤魔化しているが、内心リリスが怖くて仕方なかった。自分に非があるとは言え、嫉妬深い彼女に怒られるのは正直言って辛すぎる。彼女の場合は本当に容赦という言葉を知らない。きっとオハナシが終わった時には自分は半分死んでいるかもしれない……そう思いつつ、朔夜ははるかたちに目配せをする。

(みんな……ちょっと逝って来るよ)

 明らかに字が違っているのだが、無理もない。はるかたちは気の毒な彼にガンバレとも死なないでほしいとも言えず、ただ無言で彼を見送った。

 

 数十分が経過し、ようやくリリスと朔夜が戻って来た。

 戻って来た朔夜の顔はネコにでも引っ掻き回されたかのような生々しい爪痕があり、ところどころにビンタをされた痕もある。そして何故だか わからぬが、歯型のようなものも残っている。

 満面の笑みを浮かべるリリスの隣で、朔夜は精気を失っている。

 はるかたちの想像を超える凄惨なお仕置きがあった事は間違いない。そして同時に、ディアブロスプリキュアで最も強く恐ろしいのはやはりリリスなのだという事を自然と悟った。

「えっと……ちょっとしたホラー体験ご苦労様でした、朔夜さん」

「何がホラー体験なのかしら、はるか♪」

「す、すみませんでした!! 変な事は言いませんから、どうかお許しください!!」

「「「どうかお許し下さいませリリス様!!」」」

 条件反射ではるかは平謝りをした。使い魔たちも何かあったらマズイので、はるかに倣って頭を下げてる事にした。

 などと冗談めいたやりとりもそこそこに。リリスは溜息を一旦吐く。やがて、周囲から感じとった気配に目を細めると、おもむろに口を開く。

「さてと……そろそろ出てきていいんじゃないのかしら?」

 不意にリリスの口からそんな風に語られた。

 刹那、自分たちと周りにいる人間を隔絶する結界が発生した。はるかたちはこの結界についてよく知っていた。

「これって、まさか……」

「またですか?」

 全員は空間結界が施された直後、目の前に立ち尽くす敵――キュアケルビムとパートナー妖精のピットを凝視する。

「懲りないわね。あなたも」

「そっちこそ。いい加減にしてほしいものね……あなた達に力を付けられちゃこっちが困るのよ。大体、悪魔の癖して人助けなんて本当に訳がわからないわ。そんなのは警察にでも任せておけばいいのよ。あなた達は静かに暮らしていればそれでいいじゃない」

 このように発言をするケルビム だが、リリスはどこか彼女の言動らしからぬものと違和感を覚える。

「意外だわ。いつもなら私たちに敵意を見せて攻撃してくるはずなのに……その言い方だと、まるでもう戦いたくないから引っ込んでいてほしいと言ってるようじゃない?」

「…… 」

 リリスの鋭い追及にケルビムは厳しい表情となる。

「キュアケルビムさん、どうして私たちは戦わないといけないんですか!? 同じプリキュア同士、戦う理由なんてないはずですよね!?」

 はるかが大きな声で自分の切実な思いを訴えかける。なぜ同じプリキュアである自分たちは戦う宿命にあるのかと問えば、彼女から返ってきた答えは……

「……私が天使で、悪原リリスは悪魔。そしてあなたは悪魔に味方する人間。戦う理由なんてそれで十分じゃなくて?」

「そんな理由で納得できるわけありませんよ!! それに、あなたは敵ではあっても何度も私たちを助けてくれたじゃないですか!! 堕天使がこの町を攻撃してきたときも、クラレンスさんたちが捕まってしまったときも……あなたの正義は洗礼教会の人たちとは明らかに違っています!! あなたはプリキュアであって天使であるはずなんです!! こんな事をしても意味がない事は分かってるハズじゃないですか!!」

「止しなさいはるか」

 心からケルビムへと思いを伝えようとするはるかだが、途中でリリスが制止を掛けた。

「思いを伝えるのは決して簡単な事じゃないわ。キュアケルビムにはキュアケルビムの……私たちには私たちの正義や信念がある。この途轍もなく強大な力は言葉ひとつでどうにかできるものじゃない……そうでしょう?」

「……ええ」

 リリスの言葉を否定しない。彼女の言う通り、ケルビムにはケルビムとしての確固たる決意、覚悟、信念、正義があるのだ。

「今日私がここに来たのは他でもない――今日こそ、あなたたちを屈服させるため。そのために私は新たな力を得て来たわ」

「新たな力だと?」

 その言葉を、朔夜は決して聞き逃さなかった。

 リリスたちが警戒する中、ケルビムはコヘレトから渡された四枚の翼が生えたリングを右手中指へと嵌め、秘められた力を解き放った。

「オファニムモード!!」

 次の瞬間、神々しい光に包まれたと思えば、ケルビムの姿が消える。

 眩い光の中でケルビムの装備は白い純白の衣裳から、青いブロンズの重装甲となり、左手には聖なる盾【セイクリッドディフェンダー】が装備される。極め付け、背中の翼が四枚へと生え変わった。

 

「キュアケルビム・オファニムモード」

 

 新たな力を手に入れ生まれ変わったキュアケルビム・オファニムモード。戦う覚悟を固めた天使の瞳は凛としており、闘志がヒシヒシと伝わってくる。

「キュアケルビム……」

「さぁ、さっさと変身しなさい。三人まとめて私の力の前に跪かせてあげるわ……いくわよピット!!」

「はい、ケルビム様!!」

 ケルビムに付き従う妖精ピットは、主人の新たな能力解放に伴ってその身を変化させる。レイがリリスの成長に合わせて武具の姿を変えるように、ピットもまた聖弓の姿から邪悪を射抜く聖なる武器【聖槍ジャベリン】へと変化し、セイクリッドディフェンダーとともにケルビムの右手に装備される。

 ケルビムとの戦いは正直気乗りしない。だが、ここで戦わなければ彼女の誇りを傷付ける事にもなりかねない。

 決断を迫られた末――リリスとはるかは変身リングを取り出し、朔夜は左腕を捲ってバスターブレスを見せる。

「なぜかしら、敵と戦うのにこんなに心がもやもやするのは……」

「はるかもです……」

「それでもオレたちは、戦うしかないのか」

 ケルビムと 戦う覚悟を決め、三人は意を決し能力を解放する。

 

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「バスター・チェンジ」

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」

「影に向かいて影を斬り、光に向かいて光を斬る。暗黒騎士バスターナイト」

「偽りの善幸を根絶やし!」

「邪な悪行を断罪する黒き力!」

「我ら、悪魔と魔女、暗黒騎士のコラボレーション!!」

「「「『ディアブロスプリキュア』!!」」」

 

「いくわよ――エデンズジャベリン!!」

 手に持つ聖槍ジャベリンの先端をベリアル たちへと向け、ケルビムは聖なる光束を放ち攻撃する。

 ベリアルたちは聖なる光束を回避する。回避後すぐに、バスターナイトが手持ちの剣をX字状に動かし、漆黒の斬撃を放つ。

「ダークネススラッシュ――!!」

 飛来する斬撃を、ケルビムは盾を使うことなく体で受け止めた。爆発こそ生じたが、ケルビムを守るブロンズの鎧は罅 はおろか傷一つつかない。

「聖なる光の加護を受けたこの鎧……斬り裂けるものなら斬り裂いてみなさい!」

「く……」

 再び光の束がジャベリンより放たれる。バスターナイトは空中へ上がってそれを回避し、今度はベリアルがグラーフゲシュタルト状態での攻撃を行う。

「ブレイズバーン!!」

 灼熱の炎を渦状にした超圧縮エネルギーを、ベリアルはレイエクスカリバーの切っ先から豪快に放つ。

 空中から降り注ぐ業火を、ケルビムは左手に装備した聖盾セイクリッドディフェンダーで防御――ベリアルの攻撃を完璧に防いだ。

『これならどうかしら!!』

 そのとき、コウモリ態となったラプラスが翼を大きく羽ばたかせ、竜巻状の風を発生させる。ケルビムは襲い掛かる竜巻に足場を崩されそうになりながら、これも辛うじて耐え忍んだ。

「ヘブンズバインド!!」

 守ってばかりだけではない。反撃の狼煙を上げ、ケルビムは聖なる力を秘めた光輪で空中のベリアルとラプラスを拘束する。

「く……!」

『しまった!!』

〈リリスさんとラプラスさんを助けましょう、はるかさん!!〉

「勿論です!!」

 ウィッチは彼女たちを助けるべく、先日手に入れたばかりの力――ヴァルキリアフォームを発動させた。力強く地を蹴るとともに空中へと飛び上がり、魔宝剣ヴァルキリアセイバーを振るう。

「はああああああああああ!!」

 一振りでベリアルとラプラスを雁字搦めに拘束していた光の帯が切断され、自由の身となった彼女たちは体勢を立て直すために距離を置く。

「それがあなたの新しい力というわけね、キュアウィッチ!」

「キュアケルビムさん……やっぱり、私たちが戦うのなんて間違ってますよ!!」

「あなたにとっては間違っている事でも、私にとっては正しい事なの。分かってちょうだい……」

「あなたがどんなに頭を下げようと、はるかはこんな事実は認めませんし、分かりたくもありません!!」

 どうあってもウィッチはこの戦いを割り切る事が出来なかった。ケルビムを心の底から敵として認識できないゆえの甘さか、あるいは彼女の本来の優しさを知っているせいか、どちらにせよ戦う事でしか思いを伝えられない事がもどかしかった。

「トリーズン・ディスチャージ」

 隙を見て、バスターナイトはギリガンとの戦闘時に用いた技をケルビムにも仕掛ける。紐状の雷が彼女の足下から伸びて、体内から魔力を抜き取られる感覚に苦しみながら、ケルビムは自力で拘束を解こうとする。

「舐めるんじゃ……ないわよ!!」

 全身を神々しく発光させ、わざと魔力エネルギーを放散させる事でケルビムはバスターナイトの技から逃れる。

 このとき、遠く離れた場所から彼女たちの戦いを傍観する者がひとり……堕天使総本部から人間界へと降りて来たダスクだった。

「ふん、三人集まってもこの程度か……見立てよりも大したことねぇなこりゃ」

 

「はあああああああ!!」

「やあああああああ!!」

 天使と悪魔、そして人間……一進一退の行動が続いた。

 

「――プリキュア・セフィロートクリスタル!!」

 

 十個のクリスタルの結晶 が召喚されると、ケルビムは狙いをベリアルたちへと定め、勢いよく放つ。

「ヘルツォークゲシュタルト!!」

 聖なる力を秘めた飛んでくる十のクリスタルに被弾すれば ひとたまりもない。ベリアルは即座に強化変身を行い、レイハルバード を振り上げる。

「プリキュア・ラスオブデスポート!! はああああああ!!」

 ヘルツォークゲシュタルトの必殺技を用いて真っ向から相手の必殺技を打ち消そうとした。二つの異質な力は衝突時に強く反発しあうことで膨大なエネルギーを発生させ、辺りは大爆発に見舞われる。

 爆炎が晴れると、ベリアルとウィッチ、バスターナイト、レイ、クラレンス、ラプラス、そしてケルビムも土ぼこりで装備が汚れ、傷もそれなりに生じていた。

「は、は、は、は、は……往生際も諦めも悪いわね……」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……それはお互いさまよ……」

 ベリアルもケルビムも互いに牽制をしあっていたそのとき――意を決して、ウィッチは張り裂ける様な思いで呼びかける。

「もうやめましょうよ!! 私たちが戦う事にどれだけ重大な意味があるというのですか!?  キュアケルビムさん、あなたには見えていないですか!!」

「え!?」

「傷ついているのは、私だけじゃありません。あなたも、あなたのパートナーも……みんな傷ついちゃうんですよ」

 ウィッチに言われると、ケルビムは傷つく自分と手に持ったジャベリンを見た。武器として使っているそれはパートナーのピットが姿を変えたものであり、先ほどの爆発で彼女もまた傷ついた。

 戦っているときはそうした意識が薄れがちになっているが、紛れもなく彼女は生きているのだ。気づかぬうちに自分はパートナーを戦いの道具として粗暴に扱っていたことに気づかされた。

「……わ、私は」

〈ケルビム様……〉

 後悔の念が込み上げるケルビムと、彼女の手足となり、武器にもなって戦うピットは主人の葛藤を気に掛ける。

 そんな中、バスターナイトは手持ちの剣を盾に収め先ほどまで見せていた戦意を潜めケルビムへと問いかける 。

「この戦いに大義など無い。キミは一体何の為に戦っているんだ? キミ自身が守りたいものはなんだ?」

「私の……守りたいもの…………」

 言われてみて、ケルビムは考えた。自分が本当に守りたいものは何なのか……バスターナイトやウィッチたちが言うように、この戦いに大義がないのなら闘争自体が無意味なものとなる。

 彼女は何もつまらぬプライドや自尊心を守るために戦って来たわけじゃない。彼女の願いはいつだって……

 

「なんだよ、もう止めちまうのか?」

 そのとき、話の腰を折って突然上空から呼びかけられた。

 頭上を見あげると、十枚の漆黒の翼を生やした若い青年がベリアルたちを不敵な顔で見下ろしている。

「あいつは……」

「その翼、まさか!!」

「誰なんですか、あなたは!?」

 尋ねられると、青年はゆっくりと地上へと降り立った。やがて、途方もない雰囲気を醸し出すとともに自らの正体を明かした。

「俺は堕天使の王――――ダスクだ」

「堕天使の……」

「王!?」

 突然現れた堕天使の王を名乗る青年・ダスクに、ベリアルたちは底知れない畏怖を抱いた。

 

 

 

 

 

 




次回予告

リ「突如私たちの前に現れた堕天使の王ダスク!!」
は「ハヒ!? どうしてでしょう…この人、爽やかな笑顔の下にすごくデンジャラスなものを感じます!!」
朔「こいつは今までオレたちが闘って来た敵とは違いすぎる!! 全員交戦は回避して逃げる事だけに集中するんだ!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『プリキュア全滅!?恐るべき闇の力!』」
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