ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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先週から現れた新たなる敵、堕天使の王ダスクとプリキュアによる総力戦。
果たしてリリスたちはダスクの力を打ち破る事はできるのでしょうか・・・・・!?


第22話:プリキュア全滅!?恐るべき闇の力!

『プリキュア』とは何か。

 

 かの大戦で大いなる災いを退けた伝説の戦士がどこの何者であり、それは果たしてどこから来た存在だったのか?

 

 それは、天界に住まう人々の多くが一度は頭に思い浮かべた事のある疑問である。

 下層界の一般住民たちですら、おとぎ話や小説、映画などの媒体物を通して時折登場するプリキュアと呼ばれる者がどのような存在なのかを意識したことがある者は多い。

 無論、プリキュアという存在自体に興味が希薄な者も一定数いるとは思うが、そうした例外を除けば、大概の者は『プリキュアという異なる世界とを繋ぐ大いなる存在』について思い浮かべた事はあるだろう。

 天寿を全うして現世から天界に移り住んだ者たちは「あの世とは本当に存在していたのか」という驚きと共に、『天使』を名乗る者たちですら、『プリキュア』の姿を知る者は殆ど存在しないという事実に驚き――。

 実際のところ、漠然とした『聖なる力の象徴』『神の力を受け継いだ至高の存在』として奉られ、偶像の如く受け止めている者が大半だった。

 

            ≡

 

 テミス・フローレンスは、天使の中で唯一プリキュアの力を宿した存在だった。

 

 彼女はかの大戦でその名を知らしめた伝説のプリキュア、キュアミカエルの血を受け継いだ正当な末裔だ。

 天界で五指に入る上級天使である父親と、キュアミカエルの血脈である母親との出会いとその想いの成就。

 悪魔同様に純粋な天使族の出生率は非常に低い中で、育まれた二人の愛はやがて聖なる神の加護を宿した一人の赤子を受胎―― 生誕した存在こそ、テミスだった。

 そして、十数年後。

 すくすくと成長したテミスは、プリキュアの力たる神の力を顕現することに成功し、ミカエルの再来とも言うべき天界唯一無二の存在――キュアケルビムとして覚醒した。

 

 ――「喜べ、私たちの子供が、偉大なるプリキュアが生誕したのだ 」

 

 ――「正当なるキュアミカエルの末裔。テミスはまさに、神の加護によって魅入られた特別な存在なのだわ」

 

 ――「すばらしい限りだよ。これからの天界と冥界、そして地上世界は、彼女が導いていくのだな」

 

 ――「見えざる神の手も、この大いなる奇跡をきっと祝福して下さるはず。さっそくご報告を……」

 

 ――「テミス、おまえは我々すべての天使の誇りだ。おまえが世界を導くんだ」

 

 周りからの過度な期待と歓喜、そして祝福に織り交ぜた重責 の言葉を聞きながら、テミスはいつも不思議に思っていた。

 ――どうして、私なんだろう?

 ――どうして?

 ――私がプリキュアになったのは、たまたまなのに。

 ――どうして周りは、私に世界を導け、だなんて 期待を向けるの?

 ――導かないといけないの?

 ――たしかに、私は天使だから、下界の人々を導くのが使命だけど。

 ――プリキュアになったら、すべて一人でそれを果たさなきゃいけないの?

 ――私には、選択肢は一つもないの?

 

 ――なんで、私は『プリキュア』に選ばれたの? 誰か、教えてよ。

 

 プリキュアとしての大役を務める任を与えられたテミスは、ふと、そんな事を考えた。

 

 テミスは、愛をもたらす天使でありながら、その実「愛」を感じられなかった。

 いや、愛らしきものは感じられた。だが、いつだって彼女はそれが本当の「愛」であると強く信じる事は出来なかった。

 なんとなく感覚的に、昔から愛情を感じられぬまま――。

 子供の頃からどこか「寂しい」と感じており、周りに溢れる「愛」を享受する者たちが常に羨ましくて仕方なかったのだ。

 だからこそ、彼女はより強く、誰よりも「愛」の為に戦おうと心に強く刻んだ。愛を感じられないからこそ、何よりも「愛」を尊ぶべきである。天使として、プリキュアとして生を受けた自らの使命である―― そう自分に言い聞かせ続けた。

 ゆえに、彼女は悪魔というものを敵視した。悪魔こそ、周りから「愛」を奪う諸悪の根源そのものである。

 欲望を貪り食らい、虚飾に塗れた栄華に浸り続け、ぬるま湯の中で積み上げられた歴史をただ徒に消費し続ける一族を。

 彼らは絶対悪であり、唾棄すべき存在に過ぎぬと。

 燻る炎を心中で無理矢理凍らせながら、少女はただ静かに時を待ち続けた。

 

            ≡

 

 彼女がプリキュアとして覚醒してから数年の時が経ち――彼女は、自らの意思で人間研究の一環として下界へ降り立った。

 フランスのミッションスクールに通い、天使である身分を隠し、一般的な社会生活の中に溶け込んでいた。

 無論、自らの使命を忘れたわけではなかった。常に彼女はプリキュアとしての使命を全うすべく、自己研鑽を絶やさなかった。真実の「愛」を知らぬがゆえに、誰よりもプリキュアらしく、誰よりも強くあろうとし続ける様は、まさに周囲が彼女へと押し付けたプリキュアのイメージそのものだった。

 事実として、彼女はプリキュアとして申し分ない力を秘めていた。人間界には多かれ少なかれ、天界人ですら認識していない異形の悪が存在しており、それは常に彼女の目の前に湧いて現れるのだが――テミスは十数年で鍛えたプリキュアと天使の力を組み合わせる事でことごとくを浄化した。

 それでも、彼女は未だその手で一度たりとも「悪魔」を手に掛けたことはなく、むしろ、彼らの存在を一度たりとも認識できたことはなかったのだ。

 いつしか、悪魔など元より存在しないのではないか。悪魔という言葉自体、天使や人間が自分の都合の悪い事実や罪を換言しただけの空想の産物ではないか―― そんな風に思い始めていたのだ。

 

「悪魔はいる。悪魔の根絶こそ、お主にとっての真実を突き止める唯一の方法である」

 そして、その不安を明確に否定した『声の主』は、テミスを見ながら問いかけた。

「お主がキュアケルビム、天界では テミス・フローレンス、と呼ばれている者か? 私はずっと貴殿 を探して続けていた」

 『ソレ』はある日、彼女の前に唐突に現れた。

 妙に時代がかった祭服を着ている壮年の男は、こちらを値踏みするように観察しながら口を開く。

「その歳でそれほどの力を宿すか。それも、プリキュアとしての基礎技術のみを用いてとは興味深い」

 そう言いながら、男は周囲に転がる、今しがたケルビムが始末した邪悪な怪物たちの残骸を足蹴にした。

「……貴方は、誰ですか? 人間ではないのですか」

「申し遅れてしまった。私の名は、ホセアだ。洗礼教会という組織で大司祭を務めさせてもらっている」

 ―― 洗礼教会。

 彼女の中に思い起こされたのは、天界に居る時に『人間界』についての書物などに時折出てくる、人間界で密かに活動し続ける宗教組織の名前だった。

「洗礼教会……?」

 テミスの呟きに対し、ホセアと名乗った男はおもむろに語る。

「率直に言おう。キュアケルビム、貴殿の持つプリキュアの能力を活かし、主の探し求める『(こたえ)』を見つけ出そう。そのために我らの同志として力を貸してほしい」

「同志……私が、貴方の? なんの為に?」

「この世界にある『愛』を知りたいのだろう? ならば、我らとともに真実の『愛』を見つけ出そう。この世界は今、愛が枯渇している。ある者の手によって、世界から愛が急速に奪われている。我々はその者たちと戦い断罪しなければならない。この世界を今一度主が望んだ『愛』に溢れた世界へと変えるために」

 雄弁に物語るホセアの言葉に思わず息を飲み、彼女は食い下がるように問いかけた。

「誰なんですか、その愛を奪うものとは?」

 その問いに対し、ホセアは、一つの真実をテミスに告げる。

 

「悪魔界を統治した魔王の娘にして……主と同じ『プリキュア』に覚醒した悪魔だ」

 

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 

           ≒

 

現代――

黒薔薇町 住宅街

 

「なんだよ、もう止めちまうのか?」

 突然、空の上から呼びかけられた。頭上を見ると、十枚の翼を生やした若い青年がベリアル たちを不敵な笑みで見下ろしている。

「誰なんですか、あなたは!?」

 ウィッチに尋ねられると、青年はゆっくりと地上へと降り立った。やがて、ベリアルたちに自らの正体を明かす。

「俺か?  俺は堕天使の王―――――― ダスクだ」

「堕天使の…… 」

「王!?」

 こんな若い姿をした男が、堕天使たちを束ねる頭目―― 俄かには信じ難い 話だ。

 だがしかし、ベリアルたちは本能的にダスクがその身に秘めた途方もない闇の力――誤って踏み込めば二度と戻ることを許さない重力の奔流そのものを感じており、自然と額から汗が滲みだす。

 皆その場を一歩も動かず額に汗を浮かべ、張り詰めた空気の中で敵を牽制している。

 すると、ダスクは背中の翼をピンと広げ、口元をつり上げる。亜空間より漆黒の大剣を出現させた。

「くるぞ!!」

 バスターナイトの掛け声に全員が瞬時に身構える。

 触れるものすべてを非情にも切り裂くであろう闇の凶器を携えたダスクは、その切っ先をベリアルたちへと突き付けた。

「お前たちの力、見せてもらおう!」

 突き出した剣先を軽く振る。

 刹那、紅色の剣閃が生じるとともにベリアルたち目掛けて飛んで行った。

 発生した剣閃はコンクリートで固められた大地をもプリンを掬う要領で容易く抉る。直撃を受ければひとたまりもないと直感し、ベリアルたちは回避を決め込む。

 気が付くと、地面は無残にも抉り取られており、周辺の木々は倒されブロック塀も跡形もないほど粉々になっていた。

「なんなの、今のは!?」

「ハヒ!? たった一回剣を振っただけなのに……」

「堕天使に何を怖気づく事があるというの? 相手は一人じゃない! あんな奴に負けてたまるものですか!」

 天使としての誇りから、堕天使に後れを取る事は罷りならないと感じたケルビム 。

「あいつは、この私が倒す!!」

 空の上から敵の姿を見据えると、勇猛果敢にもたったひとりダスクの元へ飛んで行く。

「ちょっと待ちなさい!! 無謀よ!!」

「あなたの指図は受けないわよ、キュアベリアル!!」

 ベリアルの制止も無視して、ケルビムはダスクの元へと飛んで行き、加速による勢いをつけた状態から右手に装備した聖槍ジャベリンを構える。

「はああああああああああ!! 」

 一突きで仕留めるつもりであるらしく、切っ先は確実にダスクの心臓を狙っていた。

 ケルビムらしからぬ一直前 な戦法にベリアルたちが危惧を抱く中、標的にされたダスクはフンと、鼻で笑う。

 その瞬間、全身から圧倒的な量の「闇」をオーラとして放出した。

 濃厚なる闇のオーラはキュアケルビムの渾身の一撃を真正面から受け止めるばかりか、彼女自身の力を急激に奪掠していく。

「ぐうううううう……!!」

〈テミス様、これ以上は持ちません……!!〉

 ピットもあまりに強すぎる闇の質量に根負けてしまい、主人の意思とは無関係に攻撃を中断せざるを得なかった。

「パワーアップした状態のキュアケルビムの攻撃を受け切るあの闇のオーラ……なんという質量だ!」

「堕天使の王を自称する相手に一人で立ち向かうなんて、正気の沙汰じゃないわ! レイ、ドラゴンモードになって援護しなさい!」

「わかりました!」

 ベリアルの命に従い、レイはハルバード モードから真の姿である蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)へと変身。そしてベリアル自身はヘルツォークゲシュタルトを解除、機動力に優れたフィルストゲシュタルトへと変身する。

『ブレス・オブ・サンダー!!』

 雷の力を司るスプライト・ドラゴン本来の能力を惜し気なく解放。口腔内から数億ボルトという電気エネルギーを吐きだし、ダスクへ豪快にぶつける。

 ダスクの足下へと雷が直撃し、爆炎とともに土煙が多量に舞い上がる。ベリアルはその間隙を突いて懐へと忍び寄る。

「はあああああああああ」

 右脚部から繰り出す鋭い蹴撃がダスクの左頬を確実に捕えた……そう思った瞬間、ベリアルの視界からダスクの姿が消えた。

「なんですって?」

 消えたダスクを目で探そうとしたときだった。

「きゃああああ!!」

 左腕を強い力で握られたと思えば、いつの間にか背後へと回り込んでいたダスクによる一本背負いを食らい投げ飛ばされた。

「「「リリス(様)(さん)!」」」

「「リリスちゃん!」」

 周りがダメージを受け倒れるベリアルを気遣う一方で、戦いの最中、欠伸さえしているダスクは非常に退屈そうな顔で尋ねる。

「どうした? ちゃんと見せてみろよ。お前たちの力を。こんなんじゃ眠気覚ましにもなりゃ しねぇ」

「おのれ……!!」

 キュアケルビムやベリアルを軽くあしらうだけでなく、自分たちではまるで相手にならないと毒気を吐かれている気でならないレイは、怒りを募らせる。

「レイ、相手の挑発に乗るな」

 バスターナイトはレイの怒りを鎮めつつ、冷静に状況を分析しながら如何にしてダスクと戦うかを思案する。

「奴は動きが早い。オレとキュアケルビムが奴の懐に回り込む。リリスとはるかは合図とともにヤツに攻撃してくれ!」

「「うん(はいです)!」」

 ベリアルとウィッチが潔い返事をする中、ケルビムは難しい表情を浮かべている。

 そんな彼女にバスターナイトは凛とした目で見つめながら問いかける。

「敵の敵は味方――共闘の理由としては不服かい?」

「私は…… 」

「どの道ヤツを野放しにはできない。どうか、オレたちに協力してくれないか? 頼む!!」

 バスターナイトとしても全滅だけは避けて通りたい。今の自分たちの力だけで堕天使の王(あれ)を倒せるとは思っていない。だからこそ、キュアケルビムの力を借りてこの場を退けたいと思った。

 恥も外聞もかなぐり捨てて彼女へ深く頭を下げ懇願するバスターナイトの態度に、キュアケルビムもとうとう折れた。

「……言っとくけど、私は一度だって悪魔の味方をするつもりはないんだからね」

 いつもながら素直じゃない彼女の言葉を聞いた事で 、ベリアルたちは逆に安堵した。

 ここに再び―― 堕天使対悪魔と天使の共同戦線が実現した。

 堕天使の王こと、ダスクは余裕の表情を浮かべ仁王立ちを決め込んでいる。自分から攻撃を仕掛けないのは敢えてベリアルたちを誘っているからだ。

 極めて挑戦的かつ高慢な態度に全員は内心イラッと思いながら、この戦いに集中しようと思い、意を決し攻撃を仕掛ける。

「いくぞ!」

「「「「「「うん(はい)(ええ)(おう)!!」」」」」」

 各自一斉に動き始めた。

 戦いの指揮を執っているのは暗黒騎士バスターナイト。その横を走るのはキュアケルビム・オファニムモードだ。

「同時攻撃で仕掛けるぞ!」

「わかったわ!」

 走りながらプランを確認し合い、バスターナイトは暗黒魔剣バスターソードを、ケルビムは聖槍ジャベリンを携え、前方に佇むダスク目掛けて斬りかかる。

「「はあああ!!」」

 息を合わせて二人が同時に斬りかかる。

 当初は闇のオーラが反射的にダスクの身を守ろうとしたが、バスターナイトとケルビムが力を合わせたことでオーラは打ち破られた。

 自らの闇のオーラによる絶対防御を二人が打ち破った事にダスクは僅かに瞠目。思わず嬉しくなり少しだけ口元を上げると、すぐさま持っていた大剣でバスターナイトとケルビムの一太刀を受け止めた。

 異質な力と力がぶつかり間近でせめぎ合う瞬間、凄まじいエネルギーが突風となって周りへと拡散する。

「「ぐうう……」」

 苦しそうに刃を乗せるバスターナイトたちとは対照的に、ダスクは終始平然とした表情のままだ。

「俺の闇のオーラを破った事は褒めてやろう。だが、これがお前たちの力の底なのか?」

「く…… っ。私たちの底まで掴み取るつもりなの!?」

「浅い底だ。いちいち掴むまでもねぇ」

 露骨なる挑発。それだけの余裕がダスクにはあるのだ。

 バスターナイトとは違い、ケルビムは挑発という行為自体に慣れていない。ゆえにダスクの明らかな挑発にさえも気色ばむ。

 二人掛かりでも手一杯な状態のバスターナイトとケルビムは、何とかこの状態をキープしつつ、頃合いを見て周りへ呼びかける。

「みんな!!」

「あとは頼むわよ!!」

 合図が出された瞬間、頭上で待機していたキュアベリアルはフィルストからグラーフゲシュタルトに変身し直しており 、キュアウィッチ・ヴァルキリアフォームとともに、飛翔態のラプラスの三人でほぼ同時に必殺技を披露した。

「プリキュア・プロミネンスドライブ!!」

「プリキュア・ジャッジメント・フィニッシュ!!」

『ウィンド・オブ・ペイン!!』

 炎と宝剣、疾風による同時攻撃。

 しかし、三人が仕掛けたいずれの技もダスクにヒットする事は無かった。攻撃が完了した瞬間、ダスクの姿が忽然と消えていた。

「どこに消えた!?」

「ここだ」

 声が聞こえたのは真上――すなわち空だった。

 全員が見上げれば、背中に生えた十枚の翼を広げたダスクが悠然と浮遊している。

 呆気にとられる彼女たちの様子を面白く思いつつ、ダスクは両手を天に掲げ、自身の闇の力を七つの球体状に圧縮させる。

「喰らえっ!!」

 攻撃を宣言すると、ダスクの闇から作られた七つの球体から破壊光線が放たれた。

「逃げろ!」

 バスターナイトの呼びかけで全員が射程圏内から離れる。放たれた黒色の破壊光線は大地を抉り、途轍もない衝撃を伴い拡散。ベリアルたちはその余波を受けた。

 攻撃が終わると、ダスクは再び地上へと降り、ベリアルたちへ問いかける。

「この程度か? お前たちの力は、この程度のものなのか?

「こいつ……!」

「強すぎます!!」

 強い敵との戦いはこれまでに何度か有った し、その都度彼女たちは互いの絆を信じて危機的状況を乗り越えて来た。

 しかし、今回現れた敵は今まで遭遇した敵とは明らかに次元が異なる相手。同じ堕天使のザッハやクリーチャーのヴァンパイアとも引けを取らぬ実力。否、彼らですら凌駕する実力を目の前の敵は備え持っているのだ。

 ケルビムは満身創痍になりながら、必死で這い上がろうともがき足掻く。そんな彼女の姿勢に苛立ちを抱き、ダスクは右手を伸ばす彼女の手を踏みつける。

「ぐあっ…… !」

「見苦しいぞ、キュアケルビム。お前じゃ俺には勝てねぇよ」

「舐めないで頂戴……ザッハを倒せたのなら、あなただって倒せない道理はない……ぐあああああああ」

 かつての経験則からダスクとて倒せない筈はないと推測するケルビムだが、その言葉を聞いた直後、ダスクがより力を込めてケルビムの手を踏みつける。顔を歪める彼女を見下ろし、ダスクは物語る。

「俺があんな小物と一緒だと? 笑わせやがる。見識が足りないからそんなつまんねえ答えしか出てこねーんだよ。そもそもなんで聖なる加護を持って生まれた天使が悪魔共と協力しても勝てねーかわかるか? そこに絶対的な『壁』があるからだっ」

「ふざけないで!! どこまで私を、いや…… 私たちを掌握していたというの!?」

「ムカついたか天使さまよぉ。これが〝王〟の力だ。所詮オメーもそこに転がってる悪魔共も俺からすればケツの青いガキなんだよ!」

 王たる貫禄と気風。あらゆる状況を覆すだけの絶対的な力を持つ存在――ベリアルは今は亡き魔王にして、父であるヴァンデイン・ベリアルと同じ立ち位置に君臨する支配者の振る舞いに内心慄いた。

「さて……これ以上お前たちに期待する事もなさそうだ。ここで幕を退くとしよう」

「言ってくれるではないか……堕天使風情がっ!」

 確かな実力を持つゆえに高慢な態度を取りがちな若き堕天使の王の言葉。聞いた直後、レイの堪忍袋の緒がついに切れた。

「そんなに見たければ見せてやろう……我々の力をな!!」

 言うと、レイは今一度ドラゴンモードへと変身した。

 巨体をそれに見合うだけの翼で浮き上がらせ、空中高く舞い上がる。

 高所から豆粒ほどの大きさのダスクに狙いを定め、加速しながら一気に地上へ急降下。その際、空気抵抗を受けつつ体の表面に静電気を発生させる。

『ライトニング・タックル!!』

 高電圧の体を直接敵へとぶつけるレイの力技が、ダスクへとクリーンヒット。ダスクは猛烈な磁気嵐に包まれる。

『やったぞ!』

「退くぞ、レイ!」

 勝利を確信するレイにそう声をかけたのはバスターナイトだった。一瞬聞き違えではないかと思ったレイは驚愕の表情を浮かべる。

『何を言っておるのだイケメン王子!? 奴は今私が……!』

「この程度で奴を倒せるとは思えない。だから今は退くんだ」

『どういう意味だ?』

「いいからサっ君の言う通りにして!! 早くしなさい!!」

「レイさん、行きましょう!」

 撤退を決め込む全員の対応にレイは激しく困惑しつつ、仕方なくこの場を退く事を受け入れた。

『リリス様、みんなも待ってくれ!!』

 ベリアルたちが退却した直後、磁気嵐の中に閉じ込められていたダスクはと言うと、

「やっぱこの程度かよ……」

 まるで何事も無かったように無傷のまま磁気嵐を打ち破り、想定していた以上にベリアルたちの実力が自分の足下にすら及ばない事を悲嘆する。

「ったく。つまんねぇな……」

 

            *

 

黒薔薇町 悪原家

 

「まったく……あと一歩で奴を倒せたというものを!」

 敵を倒す事も無く逃げ帰ってきた事を、レイは到底承服などしていない。そればかりか朔夜を内心臆病者とすら思っているほどである。

 レイから軽蔑を受ける事も覚悟してあの場であのような判断を下した朔夜は、コーヒーを口に含みながらダスク生存を危惧するリリスたちを見る。

「あの堕天使、本当にまだ生きているんでしょうか?」

「間違いない。ヤツの戦いを見ていただろ。みんなはあの程度で本当に倒せると思うかい?」

「正直なところ……思いませんね」

「私も同感……」

 皆思うところ同じだった。ダスクと自分たちの実力差は火を見るより明らかと、先の戦闘で否が応でも分からされたのだ。

「気に病む事などありませんリリス様!! 今度会った時はあの生意気な堕天使の若造を必ずや玉砕しましょうぞ!! なーに、いつもみたいにみんなで力を合わせればあんなの大したことはありません!!」

 ただひとり、レイだけを除いて――。

「ところで……」

 不意にそう口にしたのは、ケルビムだった。あの戦いのどさくさに紛れて 、彼女ははるかに言われるがままにリリスたちと一緒に逃げ、気付いたら彼女の家に上がっていた。

「どうして私がここにいるのかしら?」

 鋭い眼光でリリスを睨み付ける。

 彼女から敵意に近いものをぶつけられる中、リリスは口元を上げて言う。

「いい加減に素直になりなさいよ。別に獲って食おうってわけじゃあるまいし。大体いつまで私たちに正体を隠せば気が済むのよ……テミス」

「な――っ!」

「え!?」

 リリスの口から出た単語を聞くや、はるかは耳を疑った。

 何よりも驚いているのはケルビムの方であり、リリスにはごく自然な流れで正体を看破されたのだ。

 全員がケルビムへ熱い視線を向ける。

 やがて、観念したように彼女は嘆息して から、おもむろに変身を解除した。

 変身が解かれ、眩い光の中から姿を現したのは帰国子女として私立シュヴァルツ学園に転校してきた金髪の美少女――テミス・フローレンスだ。

「テミスさん、あなたがキュアケルビムでしたか!!」

 今の今まではるかは全く気付いていなかったから、改めて驚いている。

 一方、呆気なく正体を見破られたテミスは当惑した様子で率直な疑問をリリスに尋ねた。

「いつから気づいていたのかしら?」

 問われると、リリスはカップの紅茶をひと口啜り、「最初からよ。あんたがうちのクラスに転校して来た時からね」と、端的に答える。

「ハヒ!? じゃあ、リリスちゃんは全部分かってたんですか!? でしたら、どうして教えてくれなかったんですか!?」

「はるかの言う通りだ。分かっていた上で、どうして正体を話そうとしなかったんだい?」

 朔夜が仲介に入ってリリスが話をし易くしようと促すと、リリスは実に意外な事を語ってくれた。

「結論から言えば……静観してたのよ。向こうが私たちを監視しているだけならわざわざ手を出すつもりもないし。逆にテミスの方も洗礼教会の連中と違って無暗やたらと襲ってこようとはしなかった。お互いにとって無用 な衝突は避けて通りたかったの。テミスもテミスでクラスに馴染んでいたから、手を出しづらかった……そんなところかな」

「あなた……」

 どうやらテミスが思っていた以上にリリスは悪魔らしからぬ悪魔だった。

 幼い頃から天使として敬虔な神の使い、信徒であり続けてきたテミスの頭には悪魔=抹殺すべき対象という構図が出来ていた。洗礼教会に嘱託戦力として協力しているのは、人類に悪影響をもたらすであろう彼らを根絶する為であり、最も勢いづいている悪魔……すなわちリリスを監視する目的で彼女が通う学校へと転入してきた。

 それからずいぶんを時間が経った。テミスはいつしかリリスを倒す事に躊躇いを抱き始めるようになった。そればかりか、彼女の仲間たちに触発され意図せざる行動をたくさん取るようになった。

 悪魔=敵と考えていたテミスだが、リリスや彼女の仲間たちとの関わりが心に明確なる変化をもたらした。そして何よりリリス自身に自分を倒したいという「悪意」を感じられなかった。むしろ彼女は降りかかる火の粉以外を積極的に振り払おうという意思がないのだという事を、今この場で理解した。

「ま、そんなわけでこの話は終わり。で、これからどうする?」

 テミスの正体を暴露した事を割とあっさり受け流して、リリスは最優先で対処すべき事案――ダスクの出現について協議を持ちかける。

 この場に集まった全員が真剣に考え、何をすべきかを話し合う。

「あいつ、結構なイケメンだけど……正直ヤバい感じがするのよね」

「どこか安全な場所へ逃げましょうか?」

 そう提案したのはテミスと共にいたピットだった。聞いた直後、テミスは臆病風に吹かれるパートナーを嗜めるように言う。

「そんな場所どこにあるというのピット。戦って勝つ以外にこの脅威から逃れる方法は無いわ」

「その通りである! だから私はあの場で叩いておくべきだったと主張したのだ、なのにそこのイケメン王子が……」

「何が言いたいんだい?」

 分かっていた事とは言え、朔夜が敢えてそう尋ねると、レイはキッパリと「弱気すぎるのだ!」と非難し、更に続ける。

「貴様という男はいつだってそうだ! たまには攻める気持ちも必要なのではないのか!?」

「ちょっとレイ! あんたね!!」

「リリス様は黙って下され!!」

 いつもなら主人の尻に敷かれる側のレイが、強い口調でリリスを黙らせた。

 全体的にピリピリとした雰囲気に包まれるリビングにおいて、朔夜はふうと溜息を吐いてから、レイへ聞き返した。

「レイは何も感じなかったのか?」

「なに?」

「ダスクと戦った時、キミは何も感じなかったのかと聞いているんだ」

 少なからずこの場にいる全員が何かを感じとっていると朔夜は考えている。少し力み過ぎているレイに考えを改めさせようと思ったが、逆にそれがレイの不満を増長させる。

「だがあのとき……―― !」

「そうだご飯にしましょう!」

 唐突にラプラスが手をポンと叩いて口にする。

 あまりに突拍子もない彼女の言動にレイは思わず力が抜けてしまった。

「な、なんなんですかご婦人!! 人が喋ろうとしてるのに横から!」

「あんたがそんな風に怒りっぽくなっているのはお腹が減っているからじゃないかしら? まずはご飯を食べてそれからゆっくり考えましょう!」

「賛成です!」

「私も賛成!」

「わたしも!」

「まぁ……確かにお腹は空いているけど」

 ラプラスの提案は皆に受け入れられた。

 ひとまず、全員は食事を摂ってからこれからの事について改めて考える事にした。

 

            *

 

黒薔薇町 スーパーくろばら

 

 八人分の食事を用意するため、はるかはやや強引ながらテミスを誘って近所のスーパーへと買出しに向かった 。

 はるかが品定めをしているとき、テミスは躊躇いがちに彼女に問いかけた。

「ねぇ……どうして私を誘ってくれたの?」

「いやぁ~、こういう機会でもないとテミスさんとゆっくりお話しできないじゃないですか♪ クラスでもリリスちゃんとは違う意味で何となく遠い存在ですし……なかなか親近感が湧かなかったんですが、同じプリキュアだって分かったら急に親しみを感じちゃいました!!」

「そう……」

 テミスが見る限り、はるかはクラスメイトの中でもとりわけ気さくであり、分け隔てなく 誰にでも優しく接している人間だ。その彼女でさえ自分には遠慮がちだったというのだから、テミスは些か寂しくも思った。

「ところで、あの二人の事なんですけど」

「え?」

 不意に話を振られたと思えば、はるかはテミスに現在ぎくしゃくしている朔夜とレイの事について言及した。

「テミスさんはどう思います?」

 尋ねられたテミスは少し考え、陳列された食材を手に取ってから、率直な所感を述べる。

「いいんじゃないかしら」

「ハヒ?」

「考えてもみなさいよ。完璧な生き物なんてこの世になんていないわ。無鉄砲な使い魔もいれば、冷静過ぎて扱いづらい悪魔もいる……バランスじゃないかしら」

「バランス、ですか……」

「今だから言えるけど、私は『ディアブロスプリキュア』はいいチームだと思ってるわ。いいバランスを保ってる。一人一人違った個性を持っていながら、自然と足りない部分を補っている。そして一人の『個』の力はやがてチームと言う『和』の力を作り出し、それ自体が大きな『個』ともなる。まるで、日本と南米流のサッカーのやり方を折衷したような感じがするわ」

 こんな言葉をテミスが語るとは夢にも思っていなかった。何より本人が一番驚いているのだが、彼女自身が語ったその言葉に嘘偽りの気持ちは全くない。

 テミスはサッカーのスタイルになぞらえた自分なりに分析したディアブロスプリキュアの特徴を説明しつつ、次のような質問を投げかける。

「例えばの話だけど、もしもリリスが二人いたとしたらどうなる?」

「リリスちゃんが二人……ですか?」

 おもむろに、はるかは頭の中で想像する。

 日常生活で悪原リリスという少女、もとい悪魔が二人いたらどうなるか。おそらく嬉しい気持ちよりも厄介だという気持ちの方が上回るだろう。しかもはるかは想像力が豊かすぎるから、その顔が段々と悲壮に満ち溢れたものとなる。

「あの……なんかものすごい想像してない?」

 横で彼女を見ていたテミスは心配になって声を掛ける。

「あははは……かなり恐ろしいかもしれません ね」

「でしょう? 多分私が二人いても同じ。どんな事でもとどのつまり塩梅が大事なのよ」

「あん……ばい?」

「塩に梅と書いて塩梅。料理だって、どんなにいい食材でも塩加減を間違えれば途端に食べられないものになってしまう……結構難しいものなの。みんな必死にやってる、ぶつかるのはその証拠よ」

 同い年のリリスが理路整然と何かを語るように、テミスもまた客観的かつ達観とした様相で物事を語る様はどこか違和感を覚えるが、はるかはそんな彼女を純粋に羨望の眼差しで見つめる。

「テミスさんって……」

「え」

「なんだかリリスちゃんと似てますね!」

 聞いた瞬間、テミスは酷いショックを受けると共に、はるかの言葉を撤回しようと激しく抗議する。

「だ、誰があんな悪魔と一緒ですって!! 私はあの子とは違うんだからね!!」

「ど、どうか落ち着いてくださいよ!!」

 こうやって直ぐにムキになるところも、リリスとの共通点だとはるかは思った。

 

            *

 

黒薔薇町 悪原家

 

 いつものメンバーに加え、今日の食事会にはテミスとピットも同席している。

 同じプリキュア同士はるかは彼女とこうしてひとつ屋根の下、同じ釜の飯を食べて語り合えることを何よりも嬉しく思い、満更テミス自身も悪くは思っていなかった。

 そんな食事会の席で、不意にレイとクラレンスが立ち上がり、リリスたちにある提案を持ちかけた。

 それはダスク打倒を掲げた彼らの一世一代ともいえる大胆不敵な作戦だった。

「「「「「「一斉攻撃?」」」」」」

「「はい!!」」

 レイとクラレンス曰く、ギガントすごい作戦らしいのだが、周りはそうは思っていない。

「あんたたちね……一斉攻撃ならさっきやったじゃない」

「それ、作戦と言えるのかしら」

 呆れるリリスと疑問を呈するテミスを見ながら、レイは無駄に鼻息を荒くする と、いつも以上に胸元を大きく見せ自信満々に答える。

「ふふふ……わたくし奴 の考えたギガントすごい作戦はさきほどのものとは一味も二味も、三つ味も違うのですぞ!! クラレンス君、例のものを頼む!!」

「はい、ただいま!!」

 言われた直後、クラレンスは紙粘土で出来た手作りの人形を取り出した。

 ひとつひとつが精巧に作られ、ディアブロスプリキュアとケルビム 、そしてダスクの人形が机の上に並べられる。

 レイはこの人形を使って具体的な作戦の内容を掘り下げる。

「いいですか、ここにあのクレイジーフォールンエンジェル、ダスクがいるとします。まずは私とリリス様がヘルツォークゲシュタルトとなって奴の動きを止めます」

 言いながら、ダスクの人形の前にリリスを設置する。

「他の方々は各自ダスクの四方に回り込んで攻撃すると言うのが、この作戦のギガントすごい所です!!」

 嬉々として語りながら、レイは残りの人形をダスクの四方へ配置する。

「はるか様とテミス氏は前で、動きの速いイケメン王子とご婦人が後ろへ回り込む。そしたら合図と共に一斉に奴へ必殺技を叩きこむ。すると……」

 リリスの人形を退かしてから、四方を囲まれたダスクの人形を無造作に叩いた。

「どうですか? 完璧な作戦でしょ!!」

「すごいですレイさん!」

 と、クラレンスは褒め称えるが頭の良いリリスたちには酷く短絡的でお粗末な作戦にしか思えなかった。実際話を聞いた直後、リリスから痛いコメントが飛び交う。

「レイ……完璧な作戦と自惚れている所悪いんだけど、これには大きな問題があるわ」

「なんと!? い、一体どこに問題があるというんですか?」

「ダスクの動きを止めるとは言っていたけど……私さっきダスクに思いっきりやられてたじゃないの?」

「ギク!!」

 本人の口から厳然たる事実が語られるや、。レイの表情が露骨に引き攣った。

 根拠の無い事を言うものではないと、クラレンスが教訓として次回に活かそうと思った直後。

「オレは反対だ」

 朔夜からの厳しい言葉が飛んだ。当然、レイはこれを面白く思わず厳しい表情で朔夜を睨む。

「またか? いい加減に勘弁してもらえぬか」

 一触即発の雰囲気。

 女子たちが仲裁に入るべきか迷っていると、朔夜はレイへと近付き声を掛ける。

「話がある。ちょっと付き合ってくれ」

「上等だ」

 甘んじて提案を飲むと、レイは朔夜に連れられ家の外へと向かった。

「サっ君! レイ!」

「ちょっとふたりとも喧嘩はダメですよ!」

「勘違いしないでくれ。男同士で話をするだけさ」

「私は話だけじゃなくても構わないのだがな」

 そういうと、朔夜はレイと共に一旦家の外へと出ていった。

 

            *

 

黒薔薇町 くろばら公園

 

 曇天に包まれた午後の黒薔薇町。この日、公園で遊ぶ子供の姿は一人もいない。

 話し合いをするにはおあつらえ向きだと思いつつ、レイは怖い顔を浮かべる朔夜へと問いかける。

「話とは、なんだ?」

「なぜレイはここにいる?」

「なぬ?」

「答えろ。なぜ戦うんだ?」

「なぜって……」

 話の意図が全く掴めず困惑するレイを余所に、朔夜は淡々と問いかける。

「もしレイが、ゲームの主人公になったつもりでいるなら……今すぐ考えを改めることだ」

「何言ってるのだ!? 私は別に……」

 弁明しようとするレイの方へ振り返り、「違うと言い切れるのか?」と、朔夜は若干強い口調で問うた。

「忘れるな。負ければ死ぬんだ! やり直しは利かないんだ!」

「そんなこと……言われなくても分かっている」

「だったらなぜ、あんな無謀な作戦を立てる? 実力も分からない未知の相手に!」

「ではイケメン王子は逃げれば何とかなると思っているのか!?」

「そうは言ってない!」

「じゃあどうするのだ!?」

 感情的に叫んだ瞬間、朔夜はレイの胸ぐらを思い切り掴みかかって来た。

 いつも温厚で知性的な彼が取るとは思えない行動に、レイは戸惑いながら彼の心の叫びを聞く。

「よく聞くんだレイ! オレは、あいつと剣を交えたんだ! あいつは実力の半分も出していない。オレたちはあいつに遊ばれていたんだ!」

「うっ……」

 悔しいがそれは事実だ。レイも、痛いほど分かっているつもりだった。

「そんなこと……わかっているさ」

「だったら……!」

「確かにあいつは強いし顔もいい! しかし、私たちだって苦難を乗り越え力を手に入れてきたではないか! 一対一で敵わなくても、みんなで力を合わせれば絶対に何とかなる!」

「レイ……キミは……」

「今までだって、そうやって私たちは勝ってき たではないか! イケメン王子だってそれは知っているだろう!?」

 最初はリリスと自分だけだったが、いつしかはるかとクラレンスが加わり、そして朔夜とラプラスが仲間となった事で少しずつではあるが、悪魔陣営は勢力としての力を取り戻してきている。今まで一方的に虐げられてきた現状が確実に変わってきている。

 だからこそ、レイは今度も仲間と力を合わせれば不可能な事も可能になる。絶望も希望に変えられると信じているのだ。

 やがて、曇天の空から驟雨が降り始める。

 暫しの沈黙ののち、朔夜はレイの胸ぐらから手を放し、雨に打たれながら背中を向け、低い声で言葉を紡ぐ。

「……約束しろ。レイが無茶をやって死ぬのは勝手だ。だがリリスや他のみんなを巻き込むな。それが約束できないなら、オレはキミを斬らなきゃならない!」

 朔夜なりの最後通告だった。

 何があってもここでチームの誰か一人でも欠ける事は許されない。これを許せば他の勢力から一気に畳み掛けられるのを許してしまうのだ。

 

 ――ドカン!!

 そのとき、リリスの家の方角から爆音が鳴り響いた。雨音越しにもハッキリと響く独特の重低音に、レイと朔夜は焦りを抱いた。

「あの轟音は……」

「まさか!?」

 踵を返し、急いでリリスの家へ戻る事にした。

 

 二人が家に向かっている間、悪原家を襲撃してきたのは他でもない――堕天使の王ダスクだ。彼は彼女の家の周りに施されている強固な結界をたった一人で壊し、直接家を狙って来たのだ。

 予想外の出来事にリリスたちは困惑しながら、不敵な笑みを浮かべるダスクと対峙する。

「ふん……俺はガキの頃から隠れ鬼が得意でな。ここを探す事もさほど難しい事じゃなかった」

「く……サっ君とレイが居ないこんなときに!」

「対ピースフル兼カオスヘッドの攻撃に備えて何重にも張られたこの家の結界をたった一人で破るなんて、とんでもないパワーだわ!!」

「もう~、朔夜とレイの二人は何をやってるのよ!」

 苛立った様子でラプラスが声を荒げた、そのとき。

「リリス様っ!」

 ちょうどいいタイミングで、レイと朔夜が彼女たちの危機に駆け付けた。

「イケメン王子! 今更逃げようなどとは思うなよ!」

 無言のまま朔夜は静かに左腕に手をかけ、バスターブレスを握りしめる。

「リリス様! 参りますぞ!」

「ええ! みんな、変身よ!!」

 

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「バスター・チェンジ」

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」

「影に向かいて影を斬り、光に向かいて光を斬る。暗黒騎士バスターナイト」

「偽りの善幸を根絶やし!」

「邪な悪行を断罪する黒き力!」

「我ら、悪魔と魔女、暗黒騎士のコラボレーション!!」

「「「『ディアブロスプリキュア』!!」」」

 そして今日はこの場に、テミス・フローレンスがいる。人間の姿から初めて、彼女はベリアルたちにプリキュアになる瞬間を披露する。

 テミスはベリアルのベリアルリングと良く似た構造を持つ、二対の天使の翼が生えた変身アイテム――【ケルビムリング】を取り出し、中指に嵌めると天高く腕を掲げ宣言する。

 

「シャイニングパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ !!」

 

 神々しい純白に輝く指輪を掲げたテミスの周りを、同じ色のオーラが包み込む。オーラの中で、金髪のロングヘアーはポニーテールへと変わり、汚れひとつ無い純白の戦闘衣服に身を包む。そのうえ、腰には向かって左側に薄いピンク色のリボンが付帯。アームカバーは手首周りを覆う程度の長さとなり、編み上げの白いロングブーツを装備する。

 変身が完了すると、ケルビムは背中に生えてある聖なる天使の象徴――白銀の翼をめいっぱい 広げ、閉じていた目を開くと大きく右手を下から上に動かした。

 

「不浄を焼き払う聖なる光! キュアケルビム!」

 

「壮観だな。悪魔と天使の力……相反する力をひとつにしたとき、果たして奇跡は起こるかな?」

 目の前の現状を指して 遠まわしにダスクが嘲笑う。

〈調子に乗るなよ若造が!!〉

「わぁああ!! ちょっとレイ!!」

 レイはベリアルの強化変身・ヘルツォークゲシュタルトが完了すると同時にレイハルバードへと変わり、彼女を半ば強引に引っ張る形でダスクへと向かって行った。

「リリス! 待つんだレイ!」

「こうなったらやるしかないでしょ」

「しかし!」

「あの作戦に懸けて みましょう」

「どの道ほっとくわけにもいかない し」

 懸念するバスターナイトの横に立っていたラプラスとテミスは、事前にレイが提案した一斉攻撃作戦プランに運命を託すことを決意する。

〈見ているがよいイケメン王子! 無茶かどうかはここで証明してやる! リリス様!!〉

「まったくあんたって子は……」

 使い魔の暴走にほとほと呆れ返るも、ベリアルはこの戦いに集中する事にした。

 自分の攻撃を待って攻撃の素振りすら見せないダスクに狙いを集中し、頃合いを見計らい地面を蹴って飛び上がる。

 

「――アヴァランチステップ!!」

 

 空中で舞いながら幻影を作り出し、その幻影でダスクを翻弄しながらベリアルはレイハルバードで激しく切りかかる。

 しかしダスクは幻影などに惑わされず、ベリアルが仕掛ける攻撃すべてを的確に見極め、平然と躱し続ける。

「この……ちょこまか動いてるんじゃないわよ!」

 さすがのベリアルも苛立ちを募らせた。

 一気に必殺技を叩きこもうとレイハルバードを振り上げ、エネルギーを切っ先に圧縮させると共に豪快に振り降ろす。

「プリキュア・ラスオブデスポート!!」

 

 ――カキン!!

「決まりました!」

「いや違う!」

 バスターナイトの予測通り、ベリアルの放った必殺技がダスクにダメージを与える事は無かった。ダスクは振り降ろされたレイハルバードの刃を人差し指一本で受け止めていた。

「――それで終わりか?」

「そ……そんな……」

〈バカな……ヘルツォークゲシュタルトの必殺技を指一本でだと!!〉

 あり得ない現象を前に、ベリアルとレイは恐怖する。

 ベリアルは目の前の絶望的な恐怖から逃れようと、手持ちのレイハルバードをむやみやたらと振り回しダスクを攻撃する。

「はああああああああああああ!!」

 だが、斬撃という斬撃はことごとくダスクの闇で強化された頑強な体で受け止められてしまう。どれだけ斬撃を浴びても、ダスクの鈍い金属音のような音を鳴らしながら体は疵どころか痕さえもつかない。

「それで終わりかと聞いているんだが?」

「そんな……そんな……そんな……私の技が通用しない!?」

〈こんなことが……あり得るのか!?〉

 ベリアルと共にレイ自身も圧倒的強者の言葉に平伏。それまで積み上げてきた自信が木っ端微塵に打ち砕かれる。

 

 

『一対一で敵わなくても、みんなで力を合わせれば絶対に何とかなる!』

 

 

 だがそのとき、レイはバスターナイト に言った言葉を思い出し、気持ちを切り替える。

〈そうだ……我々はもう一人ではない。リリス様や私には仲間がいる。まだ終わったわけじゃないのです!!〉

「レイ……そうね!!」

 仲間がいるという言葉に勇気をもらうと、ベリアルはダスクの背後へと回り込み、逃げられないよう自らが盾になる覚悟で押さえつける。

「今よ!」

「行くわよ!」

「「「はい(おう)!!」」」

 待機していたウィッチたちが一斉に動き始め、シミュレーション通りの配置へ散らばった。

〈これが本当の終わりだ、堕天使の若造が!〉

 

〈ウィンド・オブ・ペイン!〉

「エントリヒ・アーベント!」

「プリキュア・セフィロートクリスタル !!」

「デュナミス・ヴァルキリア!!」

 四人の一斉攻撃の瞬間、ベリアルはダスクから離れ攻撃を回避する。

 ダスクには回避という選択肢は無かったらしく、そのまま四人の同時攻撃を受けると、虹色の光に包まれる。

「やったわ!」

〈見たか堕天使、これがチームワークの勝利だ!〉

 と、レイが自信満々に言った次の瞬間。

「はあああああああああ」

 ダスクは四人から受けた技のエネルギーを自身の闇の力で全て吸収し、ダメージをゼロにした。

「わ、技を吸収したですって……!!」

「そんな馬鹿な!?」

「チームワークの勝利か? そんなもの、俺には関係ないがな」

 言うと、ダスクはベリアルたちの視界から消えた。

 消えたダスクの行方をベリアルたちが目で追いかける前に、ダスクは止まっている時間の流れを移動するかの如く、彼女らの懐に強力な一撃を叩きこむ。

「「「「「「「「 ぐああああああああああ」」」」」」」」

 攻撃を受けたベリアルたちは悲鳴を上げながら地面に倒れ込む。そして、呆気なく変身を解除されるという結末を迎えた。

「やはりこの程度か。つまらねぇ……」

「私たちの……技が……」

「まったく通用しないなんて……ぐう」

「これが……堕天使の……王の力……か」

「理解したか? これが俺とお前たちの実力の違いだ。ただ殺すだけじゃつまらねえ。お前たちには、もっと深い絶望の闇を味わってもらうぞ」

 ダスクは地面に倒れ伏すリリスたちにそう話すと、全身からどす黒い闇を放出する。

 放出された闇は瞬く間に辺りへと広がっていき、リリスたちをより深い闇の中へと誘った。

「「「「「「「「うわああああああああああああああああ!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 




次回予告

レ「私の所為だ!! 私が無鉄砲なばかりに、リリス様やみんなを!!」
ベ「恥じる暇があるなら今すぐ堕天使総本部へ乗り込むんじゃ! ワシの作った新たな変身リングを、リリス嬢に届けるんじゃ!!」
レ「リリス様、こんな使えない使い魔ではありますが……何が何でもあなたと、みんなを助け出してみせます!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『仲間を取り戻せ!起死回生グロスヘルツォークゲシュタルト!!』」
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