ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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遅れてしまって申し訳ありません。
社会人になって研修も始まり執筆に避ける時間が極端に少なくなってしまいました。
そんな忙しい状況で何とか書き上げました。末筆ですが、最後までお付き合いください。


第23話:仲間を取り戻せ!起死回生グロスヘルツォークゲシュタルト!!

 意識が戻ると、そこは闇の中だった。

 あの戦いが幻などではなかったのなら私は……ダスクの闇の力の畏怖を抱き、その力に完敗した。

 私だけではない。リリス様も、はるか様も、イケメン王子も、そしてテミス氏も、みんなみんなあの闇の力に為す術なく敗北した。

「ここは……」

 闇はすべてを飲み込むと言うが、まさにその通りだ。どこを見てもあるのは闇。闇。闇。闇。闇―― どこまで行っても黒一色だ。

 この真っ黒で肌寒い場所にいるのは私だけ。最愛の主人と、その仲間たちの姿は何処にも見当たらない。

「リリス様っ!  はるか様っ! イケメン王子っ!」

 暗中大声で呼びかける私に、返事をする者はいない。

 兎に角ここから早く脱出しなければ。もしかしたらリリス様たちの方が先にこの闇から逃れられているかもしれないし…… そんな事を考えながら、私は闇の中を疾走する。

「リリス様、どうか返事をしてください! はるか様、イケメン王子でもいいから返事をしてくれー!! クラレンスっ! ご婦人っ! テミス氏! ピット!」

 闇がすべてを掻き消してしまう。この私の声すらも。

 まるでこの闇はブラックホールの様に、強い引力でもって全てを引き寄せ、そして呑み込んでしまう。

 本当に私だけがこの場に取り残されてしまったのか。そう思うと急に強い不安に駆られてきた。

 以前、滅びた世界にたったひとりだけ取り残された男の生き様を描いた洋物映画を見たことがあるが……この状況はそんなカッコいいものじゃない。私はリアルに間近に感じているのだ、死の恐怖を。

 恐怖が顔に冷や汗と言う形で現れた。直後、膨張した私の恐怖がより凶悪な幻影を作り上げてしまった。

 この闇を作り出した張本人にして、我々が手も足も出なかった相手――ダスクだ。

「ああ…… 」

 幻影とは思えない威圧感を目の前から放ってくる。

 ひょっとしたらこいつは実体なのかもしれない……あまりの恐怖に私は生まれて初めて失禁する。

「くるな……!  くるな……!! くるな……!! くるな……!!」

 気が付くと、私は走り出していた。

 一刻も早く逃げなければ、即座に殺される。

 こんなにも敵に恐怖を感じたのも、おめおめ尻尾を巻いて逃げ出したのも初めての経験である。

 走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って……走り続ける、この無限の如き地獄 の闇を。

 情けない。あまりに無力。非力。弱者。腰抜け。チキン野郎。そうだよ…… 私は自分で言うのも何だが、とんだ臆病者だった。

 イケメン王子の忠告をもっと真に受けておくべきだった。

 あのとき私が自信満々に立てたあの作戦は作戦でも何でもない、ただの自己満足に過ぎなかった。

 後悔先に立たずだ。どうしていつだって気付くのが遅いのだ……気付いた時には既に、取り返しのつかないところまで来てしまった。

「あ…… あああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! 」

 ………… …………

 ………………

 …………

 ……

 

           ≡

 

黒薔薇町郊外 ベルーダの洋館

 

「はっ!!」

 絶望の闇から抜け出したとき、レイの意識は現実世界へと戻っていた。

 どうやら相当に魘されていたらしい。ベッドの中に長時間いた彼の体は汗でぐっしょり、布団を握る手は痙攣している。

 そして何より、今寝ていたベッドは普段自分が使っているものでも、リリスが使っているものでもなかった。何だか黴臭い上に埃っぽい。

「気が付いたか。やっと起きおったわい」

 すると部屋の扉が開かれ、コーヒーカップを持った人物――ベルーダが入室した。

「貴様は……ニート博士!」

「誰がニートじゃ!! 誰が!!」

 どうして起きて間もないのに寝ぼける事無く目の前の人物を罵倒できるのだろうと、ベルーダは内心思いながら近くのイスに腰を下ろす。

「ふう…… 酷く魘(うな)されておったな。寝汗で凄い事になっておるぞ」

 言いながらコーヒーをひと口含み、更に付け足した。

「しかし股のそれは果たして寝汗なのかのう~」

「え?」

 おもむろに足下を確認すると、シーツには寝汗によって出来たにしてはあまりに大きすぎる巨大なシミがある。

「はっ」

 確信するや、レイは羞恥の余り赤面する。

 まさか本当に失禁しているとは思ってもいなかったのだ。

 失禁したという事実に半ば動揺するレイを横目に、ベルーダは話を進める事にした。

「どうやら堕天使の王が現れたようじゃな。ワシがその事に気付いてリリス嬢の家に行ったら、お主と朔夜だけが無造作に転がっておったぞ」

「私とイケメン王子だけ? おい、それはどういう事だ…… ひょっとして、リリス様や他のみんなは!?」

 恐る恐る尋ねるレイに、ベルーダは酷だと思いつつカップを置いてから真実を語る。

「誠に残念な事じゃが……堕天使の王に連れ去られてしまったようじゃ」

「くそっ!!」

 湧き上がる悔しさは相当なものだった。

 感情が爆発した瞬間、レイは枕をベルーダの顔面目掛けて投げつけていた。

 これが故意によるものなのか無意識化の行動かは別として、個人的にベルーダは枕を何の躊躇もなく投げられたという事実そのものが悔しかった。

 しかし枕を理不尽にぶつけられながらも、ベルーダは悔恨の念に駆られているレイを冷静に諫言する。

「悔しがっている暇などないぞ。朔夜は既に堕天使総本部へ向かったのじゃ」

「なんだと!? だが、あれも傷を負っている筈では…… !」

「止めたところで無駄じゃよ。あの男は、リリス嬢の為なら命をも投げ出す覚悟で持って戦っておる。いや、彼女だけではない…… 十六夜朔夜の守るべき対象はディアブロスプリキュア全員に及んでおるのじゃ。無論、お主やテミス、ピットの事も含めてな」

 言うと、ベルーダは白衣の下に手を伸ばし、朔夜から預かっていた手紙を取り出した。

「読んでみよ」

 渡された手紙を受け取り、レイは朔夜の自筆で書かれた手紙の中身をおもむろに読み始める。その中身はこうだ。

 

『レイ、こんな事を言うと君を侮辱してしまうかもしれない。だが、今の君の力ではダスクには到底太刀打ちできないだろう。無論、オレ自身もヤツに勝てるとは思っていない。だがリリスたちをこのまま堕天使の好きにはさせないつもりだ。少しの間だけ、留守を頼む。安心してくれ、オレは必ずリリスたちを連れ戻しこの場所に帰ってくる。どうか……オレのわがままを許してほしい 朔夜』

 

 読み終えた途端、手紙を持つ手がプルプルと震え出すとともに途方もない感情が湧き上がってくる。

「なんだこれは……あの男、どこまでキザを貫き通せば気が済むのだ!!」

 怒声を上げ、手紙をくしゃくしゃに握りしめ、無造作に床へ放り投げる。

「クールでスマートなイケメン王子だと思っていたのは、とんだ勘違いだった。あの男…… 狂っている!!」

「うむ。ワシもそう思う」

「ひとりであのダスクがいる堕天使総本部に乗り込むなど、浅慮どころか最早酔狂の域に達している。己の力をどれだけ過信しているのだ!? 」

 朔夜が堕天使総本部へ乗り込む旨がハッキリと分かったからには、レイも行動を移さない訳にはいかなかった。

「何をぼやぼやしておるのだニート博士!! 我々も堕天使総本部へ乗り込むぞ!!」

 ベッドから飛び降りるや、レイはベルーダを叱責する。

「やれやれ……段取りも聞かんで勝手な事を言いおって。ま、どの道こうなる事は分かっていたつもりじゃ……付いてくるが良い」

 乗り込む前に手筈を整える必要があった。そこで、ベルーダは一旦家の外へと向かった。

 レイを外に連れ出し何をするのかと思えば、格納庫にしまって いたある物を引っ張り出した。

 ガラガラ…… 、

 シャッターを開けた瞬間、ベルーダとっておきの秘策が目に映る。だがしかし、この状況ではかなりシュールな雰囲気を醸し出していたから、レイは恐る恐る尋ねた。

「おい……まさかこれで乗り込むつもりじゃないだろうな?」

「何か不満でもあるのか?」

 格納庫から現れたおでん屋の旗を掲げた年季の入った屋台。そう、ベルーダの言う秘策とは即ちこの屋台を指していた。

「何が不満かだと……仮にもタイトルにプリキュアって付いている事を忘れたのか!? こんないかにも昭和を彷彿とさせる中年の悲哀を感じさせる演出、一体誰が得をするというのだ!!」

「ワシが得をする為に作ったんじゃ!! 文句は言わせんぞ!!」

「言い切りやがった!!」

 過去プリキュア作品でこんなにも見る側の利益を無視した斬新な設定があっただろうが。ベルーダと言う男はこれまでの既成概念を破壊し、自らの欲望に従った発明をする事によって新たなジャンルを確立したのである。

「四の五の言わんとさっさと乗らんか。見た目こそ時代錯誤に感じられるが、最新式の次元エンジンを搭載しているから、堕天使総本部までひとっ飛びじゃぞ!!」

「しかしこれ……どこに座ればいいのだ?」

 座れるような場所はまるでない。と言うよりも、屋台に座る場所などそもそも最初から付いていないのだが。

「やっぱり貴様真面ではないな!!」

 改めてレイはそう思いベルーダを非難するが、当の本人は高笑いを浮かべ、開き直った態度で反論する。

「よく覚えておくのじゃ、レイよ。科学者とは皆斉しく狂愚な生きものよ。ハナから堅気と分かり合う事など出来はせぬ」

 そう言って、レイの手の中目掛けてベルーダは何かを投げ込んだ。

「ん?」

 投げ入れられた物を確かめようとおもむろに手を開く。左右三枚ずつ、計六枚の悪魔の翼を持った琥珀色に輝くリングが、レイの手の中にあった。

「リリス嬢を助けた暁、お主がそれを渡すのじゃ。少なくとも、堕天使の王を倒すまでは行かなくとも一方的にやられると言った事態は回避できるはずじゃ」

「ニート博士……恩に着るぞ!」

 準備は万端整った。

 堕天使によって捕えられた最愛の主と仲間たちを救うべく、レイは決意を固め、空を覆い尽くす赤茶けた雲を仰ぎ見る。

(リリス様……必ず私が助け出してみせます!!)

 

            *

 

堕天使界 常闇の森

 

 レイとベルーダが堕天使界への突入を決起した頃。

 ひと足先にリリスたちの救出へ向かった十六夜朔夜は、堕天使が総本部と置く居城から一里ほど離れた『常闇の森』に来ていた。

 その名の通り、森は一日中深い闇に鎖されており、森に生息しているのは堕天使の配下であるカオスヘッドか、 夜行性の生き物がほとんどだ。

『カオスヘッド!!』

『『カオスヘッドー!!』』

 森へ足を踏み入れたバスターナイトへの手厚い歓迎。数多のカオスヘッドたちによる攻撃を捌きつつ、手負いの身ながらバスターナイトは善戦する。

「ダークネススラッシュ!!」

『『『カオスヘッ…… !!』』』

 ダスクとの戦闘でダメージを蓄積したとは思えないほどの強さで、出現したカオスヘッドを圧倒する。

 彼にはリリスという命を賭して守るべき女性(ひと)がいる。そして彼女を始め、ディアブロスプリキュアのメンバー全員を守りたいという思いが彼に力を与える。

 迷いなど微塵も無い。立ち塞がる者はすべて振り払う。覚悟を持って、暗黒騎士バスターナイトは全ての障害物をその剣を以って薙ぎ払う。

「みんな、待っていてくれ。すぐに助けに行くからな」

 眼前の敵を制圧し、バスターナイトは森の奥にひっそりと立つ居城――すなわち、堕天使総本部を目指し邁進する。

 

            *

 

同時刻――

堕天使界深奥 堕天使総本部

 

 常闇の森の奥に佇む堕天使総本部は、何千年という古い歴史を持つ太古の城だ。歴代の堕天使の王がこの城の主となって堕天使界を統治し、深き闇を以って安寧を守り続けている。

 そして現在、若くして堕天使のすべてを束ねる立場となった野心家―― ダスクが王として君臨し、この地を治めている。

 ダスクとの戦いに敗れたリリス、はるか、テミス、クラレンス、ラプラス、ピットの六人は彼の手により拉致されるとともに幽閉された。

「ハヒ…… もうダメです!」

「あきらめないでよ! きっとサっ君とレイが助けに来てくれるわ」

「リリスの言う通りよ、はるかさん。彼らを信じましょう」

「信じたいですけど……この状況はさすがに悲嘆しないわけないじゃないですか……」

 か細い声を出しながら、はるかは自分たちの状況を冷静に確認する。

 今現在、彼女たちは城内の中庭に立てられた 十字架に括り付けられており、手足を鎖で拘束され完全に身動きを封じられている。力尽く逃げようにも変身リングはすべて没収されて、手首に付けられた枷には悪魔および天使の力を封じ込める作用がある。

 一切の打つ手は無し。まさに八方塞がりの状況。

 全員が悔しい顔を浮かべていたそのとき、中庭へと続く門がギギギ…… という音を立てながらゆっくりと開かれる。

 開閉された扉の向こう側からやって来たのは居城の主であるダスクと、彼の直属の配下である堕天使の幹部ラッセル。

「手荒い 歓迎済まなかった。ようこそ、我が城に」

「無様なものね。悪魔と天使が力を合わせても、ダスク様の闇の力の前では全くの無力…… おーっほほほほ! 実にいい気味だわね!」

「自分じゃ何にもできなかった奴がエラそうにすんな」

 確かにラッセルは今回何もしていないし、今までの戦いにおいてもリリスたちを追い詰めたという話は聞いた事が無いから、ダスクが辟易するのも頷ける。

 そんな中で、リリスは鋭い眼光で目の前で佇むダスクを見ながらおもむろに問いかける。

「あんた…… 私たちをどうするつもり?」

「ん~…… それなんだよな。とりあえず捕縛してみたは良いが、あとどうすっかな……まぁ時間はたっぷりある。テキトーに遊んだらどっかに捨ててやるよ」

「な…… 人を粗大ゴミ扱いする気!? どういう神経してるのよあなた!」

 思わず声を荒らげ、テミスが何の気なくそんな質問をぶつける。

 すると、彼女の質問を真面目に捉えたダスクは亜空間からスケッチブックを取り出した。

 一瞬、彼の行動の意味を捕らえかねるテミス。その間にダスクはもの凄い勢いで何かの絵を描き続け、やがて彼女に対し、 実にリアルで忠実な人体(自分の体の中身)に青と赤の神経が煩雑に絡まった何とも不気味な絵を見せてくれた。

 思わず我が目を疑う とともに 、テミスは自らの言葉の比喩を素直に受け止めた堕天使の王による滑稽な一芸に更に声をあげた。

「いやわざわざ描かなくていいから! 誰もあなたの神経見たいだなんて一言も言ってないから!」

「んだよ。せっかく描いてやったっていうのにつれねぇな」

「ほんと、見た目よりもうるさい小娘だこと。ダスク様、この三人もうやってしまいませんか? ぎゃーぎゃー耳元で喚き散らされて、ほんと耳障りなんですが」

「頭を使えよラッセル。あと二人残ってるじゃねぇか。そいつらが現れたとき、こいつらを人質 として使えるだろう」

「しかし、待っているのもじれったくはありませんか? 仲間の居場所こいつらに吐かせた方が手っ取り早いですよ 」

「バーカ。俺がそんなつまんねーヘマするわけねーだろ。敢えてそうしたんだよ」

「「「え(ハヒ)(なんですって)!?」」」

 ダスクとの言葉を耳にするや、リリスたちは挙って驚愕の反応を示した。

 やがて、吃驚するリリスたちの反応を見ながら、ダスクはその口を開き朔夜を捕らえなかった真意を告げる。

「俺は強い奴と戦いたい主義でね。特に、信念の強い者ほど倒し甲斐がある。あの中で唯一暗黒騎士バスターナイトだけが俺の御眼鏡に適う戦士だった。ヤツを発憤させ、戦いへと駆り立てる為には何が必要か?」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる堕天使の王。リリスは朔夜との再戦をしたいが為に自分達を捕らえた彼の常軌を逸した行動に思わず……

「正気じゃない……サっ君はあんたの玩具じゃないのよ!!」

 これ以上ない怒りをこみ上げ、最愛の人を自身の退屈凌ぎの道具―― 文字通りの玩具にしようとするダスクを強く非難し恫喝。当人はこれに一切の反省の色を示さない。そればかりかリリスを更に激情させかねない言葉を紡ぐ。

「そう声を立てるなよ。殺そうが殺されようが所詮は単なる暇つぶしなんだからよ」

 生きる事も死ぬ事もまた一興でしかないという、ダスク独自の人生観。常人には決して理解することの出来ない境地に達する堕天使の王。リリスたちはただただダスクと言う存在に戦慄を抱く。

「ダスク様。あなた様の真の獲物が到着するにはまだ時間を要するかと思いますゆえ、しばし余興を楽しまれては如何でしょうか?」

「余興だと? 悪いがお前のジュリアナダンスになんざ興味はねぇよ」

「失礼な! 私のジュリアナダンスのどこがいけな……って、そうじゃなくて。せっかく捕らえた悪魔たちをこのまま野放しにするのは実に勿体ありません。ここは是非ともわたくしにおまかせください!」

「好きにしろ」

 妙に自信満々な態度を見せたラッセルは、ダスクの許諾を得るやおもむろに前へ出る。そして右手の指をパチン、と鳴らす。

 すると、彼女のフィンガー・スナップを聞きつけ、森の奥から何かが飛んでいた。青黒い身体をした小型の夜行成物――ピクシー だった。

「なに!?」

「ハヒ…… なんでしょうか!」

「嫌な予感がする…… 」

 顔を引きつるリリスたちを前に、ラッセルはどこからかクラッカーを取り出し、上機嫌な様子で鳴らす。

「パンパカパーン!! ただ今より! 悪魔と天使、人間の小娘に対する拷問タイムを始めたいと思いまーす!」

「はるかさん!!」

「テミス様!!」

「やめなさい!! その子たちに手を出すなら、私たちを…… !!」

 リリスたちが拷問されると聞くや、クラレンスたちに動揺が走る。自らを身代わりに差し出そうとラプラスが激しく抵抗するも、十字架から逃れる術など無く、ラッセルからの叱責を受けるのみ。

「そっちもぎゃーぎゃーとうるさいわね! あんたたちはそこで指を咥えて見ていなさい…… 世にもえげつない拷問で、主人たちが苦しむその様をね!!」

 語気強い口調で使い魔たちを黙らせると、ラッセルは再びフィンガー・スナップによる合図を出す。

 拷問の為に呼び集められたピクシー達は、悪戯っぽい笑みを浮かべると、はるかとテミスの元へ近づき、拷問を開始した。

「は、は、は、はっくしょん!」

「は…… は……はちゅちゅん!!」

 思わず呆気に取られてしまうような拷問の内容である。ピクシーはテミスとはるかの鼻元に羽根を近づけ、皮膚表面を刺激する事でくしゃみを誘発する。

「こ…… これが拷問ですって?」

 拷問と言う言葉に一瞬身構えたリリスだったが、拍子抜けもいいところだ。

「おーっほほほほ! これだけじゃすまないわよ」

 言うと、ラッセルは三度指を鳴らす。

 彼女が出した合図を受け、ピクシー達ははるかとテミスの靴を脱がせ、足裏に羽根を近づけ刺激を与える。

「や、やめて…… くしゅぐったい」

「ははははははは!! はははははは!!」

「テミス! はるか!」

 拷問にしてはぬる過ぎるとも思えるが、受ける側にしてみれば結構しんどいものなのだろう。現にはるかとテミスは手足が拘束されているから、抵抗する事もままならないのである。

「さぁ己の罪を数えなさい! ダスク様を殺した罪を懺悔なさい!」

「私は殺してなんていないわよ!」

「ダスク様がいなくなった所為で、私は三日で三キロも太ったんだからね!」

「そんなのはるかたちは知らないですよ!!」

「あ~あ……結局自分の腹いせしてんじゃねーかよ。俺の事完全に無視だよ」

 ダスクも半ば呆れており、前回までのシリアスな雰囲気がすべて台無しだろうと内心不満に感じつつ、ラッセルの私的な拷問の様子を見守った。

 

            *

 

堕天使界 常闇の森

 

 一方、ベルーダの発明した屋台型次元転送装置によって、レイもまた一足遅く堕天使界へ到着した。

 空間の歪 みを突き破った時、眼前には常闇の森が広がっている。ベルーダは周囲の安全を確認すると、屋台を一度地上へと降下させた。

 屋台から降りたレイは、ここが堕天使の世界である事を疑っているらしく、何度も屋台と森の光景を交互に見て確かめる。

「本当に来てしまったのだな……こんなボロ屋台で」

「どれ、ここはどのあたりかのう~」

 現在地を確認する必要があった。持参した通信端末を取り出すと、ベルーダはGPSさながらの機能が搭載された端末で位置関係を把握する。

「ふむ…… どうやらここは常闇の森と呼ばれる場所の様じゃな。堕天使の本山、総本部は恐らくこの奥じゃろう」

「なぜわかるのだ? 人間であるはずのお主が、なぜこのような場所の事について我々以上に知り得る!?」

「気になるか?」

 ベルーダが問いかければ、レイは興味津々に彼を見る。じっと見つめられると、ベルーダは口籠り沈黙。

 やがて観念したかのように、彼はレイの目を真剣な眼差しで見つめ――おもむろに重い口を開いた。

「……ワシが科学者だからじゃ!!」

「って、答えになっとらんわ――!!」

 盛大なツッコミが向けられようとも、ベルーダは歯牙にもかけない。

「ワシの事などどうでもよい。さっさとリリス嬢を助けに行かんと手遅れになるぞ」

「わ、わかっている! お主に言われずとも私はリリス様を救い出してみせる!」

 捕われのリリスたちを救出する為、レイとベルーダは堕天使総本部を目指し、おでんという暖簾が掲げられた屋台を引いて出発した。

 

            *

 

同時刻――

堕天使界深奥 堕天使総本部

 

「「あはははははは!! あはははははは!!」」

 中庭で甲高い笑い声を上げるはるかとテミス。

 そんな間抜け…… もとい、苦しみ喘ぐ彼女たちの声を聞きつけ、森の奥からバスターナイトに変身した朔夜が現れた。

 園庭の岩陰に身を隠し、捕まったリリスたちの様子をじっと窺う。

「あれは…… 」

 状況は見ての通りだ。

 今も尚、はるかたちは生温い拷問を受け続けており、その間にリリスがラッセルからの追及に対して否定の言葉を突き付ける。

「さぁ言いなさい、バスターナイトは今どこにいるの?」

「本当に知らないのよ! きっとサっ君もレイも身の安全第一に私たちを置いて逃げたんだわ!」

「ウソおっしゃい! バスターナイトはあんたの婚約者だって事は、とっくの昔に知ってるんだから! 素直になりなさい」

「だれが素直になるもんですか! こんなひねくれた性格の私だからね、サっ君だって嫌気が差したのよ!!」

「ついでにこんな碌でもない使い魔もいるしね!!」

「ダスク様が嘘を吐いているとお思い? 悪魔の小娘とその使い魔なら、奴の魔力の波動くらい感じ取れないわけないでしょ? それに惚れた女を見殺しにして逃げるような男は男じゃないわ!」

(リリス……)

 朔夜の身を案じ、見え透いた嘘をつくリリスとそれに便乗するラプラスの気遣いに、思わず胸が締め付けられる。

 何とか彼女達を助け出すタイミングを見計らうが、どうにも隙は見当たらない。それどころか、リリスたちの前にはラッセルと、現時点で最強の障害であるダスクが控えているのだ。

(ここでオレが飛び出して…… しかもこんな体で何とかなるのか? 何より、あのダスクが居ては……くそ、どうすればいいんだ!?)

「さぁ、バスターナイトはどこにいるの?」

「こっちが教えてもらいたいわよ!」

 今すぐにでも助け出したい気持ちを堪えつつ、バスターナイトはうんと堪え、機が熟するその瞬間を待ち望む。

(みんな…… もう少しの間頑張ってくれ!)

 

            *

 

堕天使界 常闇の森

 

 ひたすらに暗黒が覆う森の中を疾走するおでん屋台。

 ガラガラという音を立て一直線の道のりを進んでいた折、不意にレイが後悔の念を呟いた。

「……私は間違っていたのだな」

「なんじゃ急に?」

 突然何を言い出すのかと思えばと、ベルーダが問いかけたところ、レイは沈痛な顔を浮かべるとともにダスクとの戦いで浮き彫りとなった自己の判断能力の甘さについて猛省する。

「自分で言うのも何だが、私は救いようの無い愚か者だ。イケメン王子の忠告を無視したばかりか、自分勝手な判断でリリス様やみんなに怖い思いをさせてしまった。そう…… これはすべて私の責任だ! 私は責任を取らなければならない!!」

 レイなりに、今回の件に関して重く受け止めていた。

 リリスたち全員の力を結集させても敵わなかったダスクの力を見誤っていた事も、楽観主義から来る軽率な判断や作戦も、何もかもが無責任であり大いなる誤算だという事に気付いたのである。

 このような事態を招いた自分自身に罰を与えなければならないと、レイは心中考えていた時だった。

「――自惚れるなよ若造が」

 傍らその話を聞いていたベルーダが、態度を豹変し、凄むような声で言った。

「自分ひとりに責任があるじゃと? いつからお主はそんなに偉くなったというのじゃ。一介の使い魔風情がナマを言うでない 」

「に、ニート博士……」

 今迄にない様な迫力を醸し出すベルーダに睨まれ、レイは屋台を引くのを一旦やめる。

 普段の飄々とした雰囲気とは掛け離れた重々しくも真剣な面構え。目の前の人物がまるで別人であるかのような錯覚を抱きかねる中、ベルーダはレイを凝視し、持論を交えた説法をする。

「責任とは自由意志を前提としておる。法的には『相応の罰を受けること』であり、道徳上は『自分が原因となった結果に対応する』ことじゃが、『誰もが納得する』なんて事は所詮無理な話じゃ。ワシから言わせれば、責任を取るなど言うのは他人から自分に対する期待じゃよ。だがレイよ……ワシはリリス嬢や他の皆がお主にそんな期待を向けているとは到底思えぬよ」

「それは……」

 思わず口籠ってしまった。

 ベルーダは、顔を伏せたまま口を閉ざしてしまったレイに更に問いかける。

「レイよ。リリス嬢が攫われたのは紛れも無くあの娘が敵の力を見誤ったゆえの迂闊じゃ。お主にも責任がないとは言えぬが、リリス嬢にもまた責任はある」

「しかし! 私はリリス様の使い魔なのだ! 使い魔が主の身を守れぬなど……ならば、私は何のためにリリス様の御傍に仕えていたというのだ!? 何のために私は存在している!? 私はリリス様の様に強くなど無いのだ!」

「確かにお主は弱い。だがそれはリリス嬢とて同じ。それどころか彼女はまだ十数年しか生きていない若輩なのじゃ。成長の最中にある子供と大人の中間。その心は強くもあり、脆くもある。悪原リリスは、確かに多くの素質を持った悪魔じゃが…… 生まれた時から一人で完結した万能の英雄でも、決して折れぬ大樹などでもない。それ故に、彼女は強くなれたのじゃ」

 ベルーダの言葉には有無を言わさぬ圧力があり、まるで何十年、何百年、いやもっとそれより遥か昔から英雄というものについて知っているような口振りで 話す姿を奇妙と思いつつ、レイは含蓄ある話に聞き入った。

「惑い、嘆き、時には絶望と恐怖に塗れ、それを振り払う事で強さに変えるのがリリス嬢ならば……涙に暮れる瞬間の彼女の弱さを護るのは、同じ時を恐怖と共に歩んできた者の役目じゃろう。お主が持ち合わせているのは、そういう強さじゃよ」

「ニート博士……」

 そこまで言い切った後、ベルーダはコホンと咳払いをして言葉を締めくくる。

「……おっと、ワシとしたことがつまらん説教をしてしもうたわい。正直な話、ワシの柄ではないのじゃが」

 次の瞬間――レイは自らの顔面に己の拳を叩きつけていた。

「な、なんじゃ!?」

「……ありがとうございます……ベルーダ博士。今ようやく目が醒めました」

 レイはようやく、自分が為すべき本来の役割を思い出した。

 ベルーダは、その時にレイからこちらに向けられた瞳を見て安堵する。

 彼の目からは、既に不安も迷いも消えていた。

 深々と人生の先達へと一礼したレイは、迷いを振り切り、屋台の持ち手を力強く握りしめ――悪原リリスの使い魔としての役目を果たす為に動き出す。

「すっ飛ばすぜコノヤロウ!!」

「その意気じゃ!!」

 激励により元気を取り戻した レイは、屋台を力いっぱい引っ張った。

 目指すは堕天使総本部――おでん屋台が闇に鎖された森を抜けるのはそれから間もなくの事だった。

 

            *

 

同時刻――

堕天使界深奥 堕天使総本部

 

「拷問タイム終了っー!」

 数十分に及んだラッセル曰くえげつない拷問が唐突に終わりを告げた。

 はるかとテミスの傍を飛行していたピクシー達は一斉に退去。一方、すっかり笑い疲れてしまった二人は体をぐったりとさせている。

「飽きたのか?」

 手持ち無沙汰なダスクはラッセルの拷問を静観しており、それが終わりを告げたとき、彼女の心境を汲み取って真っ先に尋ねた。

「どうにもこの二人だと味気ないものですから。やっぱり、拷問するなら拷問し甲斐のある個体を選ぶべきかと」

 そう言うと、ラッセルは疲労困憊のはるかとテミスの間に立つリリスに視線を向け、悪魔染みた笑みを浮かべる。

「悪原リリス……あんたには地獄の苦しみを与えてあげるわ!」

「え!?」

「リリス…… ちゃん!!」

「卑怯者…… 彼女をやるなら私をやりなさい!」

「何よ、天使のくせに悪魔の心配なんてしちゃって! かわいくないわね……」

 はるかより、テミスより、ラッセルが最も苦しみを与えたい相手は他ならぬ リリスだ。彼女によってザッハは斃され、ラッセルに消えぬ心の傷を作った張本人である。

 決してその事を忘れていない彼女は、リリスに最も残酷な拷問を行う事で己の中の鬱憤を晴らそうとした。

 やがて、彼女が拷問の為に選んだ道具はと言うと――何の変哲もない黒板だった。

 真意を計り知れぬ中、ラッセルはリリスの目の前まで持ってくると、鋭く尖った自らの爪を立てる。

 刹那ようやく状況を理解したリリスの顔がたちまち恐怖に青ざめていく。

「や、やめなさい……それだけはやめなさい!! 絶対にダメなの!!」

「おーっほほほほ!! 散々私を虚仮にした代償は大きいのよ」

「わ、悪い冗談だって…… そうだって言ってよ!!」

「さぁ、地獄を楽しみなさい!! 我が積年の恨みを受けよぉぉ!!」

 狂気染みた顔で声高に宣言する。

 次の瞬間、ラッセルは尖った爪先をゆっくりと下ろし始める。それに伴い、黒板の表面がキキキキキ…… という不快極まりない音を立てる。

「いやああああああああああああああああああああ!!」

「ひゃああああああああああああああああああああ!!」

「だめえええええええええええええええええ!!」

「ラッセル、てめぇやめろー!! 俺までおかしくなりそうだ!!」

「おほほほほほ!! 苦しみなさい、苦しみなさい!!」

「「「あああああああああああああああああああああああ!!」」」

 聴覚機能が正常な者すべてに作用する地獄の苦しみ。

 リリスたちを始め、無関係なダスクも大いに苦しんでいる。ラッセルはすっかり周りが見えなくなり、上司の制止も完全に無視して気が触れた様子で黒板を引っ掻き続ける。

「あああああああああああああああああああああああああああ!!」

「リリスーっ!!」

 もうこれ以上は耐えられなかった。

 苦しむ婚約者の名を叫ぶとともに、バスターナイトは岩陰から身を飛び出し、迷いなくラッセルの方へと突っ込んだ。

「ほおおおおおおおおおおおお!!」

「な!?」

 突如、岩陰から現れた敵の気配にラッセルが気付いた瞬間――バスターナイトが繰り出す強烈タックルを真面に受けた。

「ぐへえええええええええええ!!」

 タックルを食らった事でラッセルは地面に激しく叩きつかれ、顔面から勢いよく滑らせる。

「サっ君!!」

「来てくれたんですね!!」

 リリスたちは辛うじてこの窮地を脱する事が出来た。しかし、それは同時にダスクをもまた地獄から救い出した事を意味していた。

「は、は、は、は……マジで死ぬかと思ったぜ。 礼を言うぜ、バスターナイト」

「いててて……紳士のクセして、レディーの扱い方も知らないのね!? いいわよ、まずアンタからやってあげるわ!」

 二人の堕天使が暗黒騎士に凶悪な牙を剥ける。

 刹那、全てを呑み込む強大な闇の力を宿したダスクは目を朱く光らせてから手持ちの大剣を豪快に振り回し、突風を起こして地面を抉る。

 抉られた地面から無数の飛礫(つぶて)が飛んでくる。バスターナイトは飛来する飛礫を回避し、瓦張りされた城の屋根へと飛び乗った。

 刹那、ダスクは瞬間移動の如く飛行スピードで屋根瓦 へと飛び乗った。

 再び凶悪な武器を構え、バスターナイトを威嚇する堕天使の王。

 勝てる見込みがあろうと無かろうと、バスターナイトはこの戦いから決して背を向けて逃げ出す事は出来ない。おもむろに、バスターシールドからバスターソードを抜刀――ダスクと対峙する。

「来な」

 露骨に指を立て、バスターナイトの攻撃を挑発する。

 ダスクからの挑発行為に、バスターナイトは従順になりバスターソード片手に前に飛び出した。

「はああああああ!!」

 突進してくるバスターナイトを、ダスクは肉食獣の如く瞳で捕らえる。

「おおおおおおおおぉぉ!!」

 雄叫びを上げ、腹の底から力を引き出すバスターナイト。ダスクの大剣を裁くことに成功すると、相手の武器に合わせるために手持ちの片手剣と盾を合わせ―― 暗黒大魔剣マラコーダを召喚する。

「食らえええ!」

 対峙する堕天使の王目掛けて、渾身の一撃を剣に込めて勢いよく振り払う。バスターナイトが剣を振り払った瞬間発生した高熱高電圧の剣閃はダスクを捕らえ、強烈な衝撃をもたらす。

「ちっ……」

 予想だにしなかった高出力 に難色を示すも、ダスクは苦とも思えぬ様子でバスターナイトの一撃を凌ぎ切った。

と、次の瞬間――怒涛の如くバスターナイトが放ったⅩ字状の一撃がダスク正面から飛来。直撃を免れなかった。

 強力なコンボ攻撃によって爆風が生じる中、バスターナイトは多大な魔力の消耗に息を上げながら、敵の様子を注視する。

 やがて、爆風が徐々に収まり始め物影が姿を現す。

 バスターナイトが険しい表情で見つめる先にはかすり傷ひとつ付いておらず、背中に生えた十枚の翼で見事に攻撃を回避したダスクが不敵な笑みを浮かべる。

「……ダークネススラッシュ。魔王ヴァンデイン・ベリアルが得意とした剣技だったな。俺も奴とはサシで何度も戦ったから、その脅威は知っていたが…… お前のそれは奴の足元にも及ばねぇ。ただのお遊びだ」

「く…… 」

 嘗ての魔王とさえ互角に渡り合い、その魔王の剣技を熟知する堕天使の王からの痛烈なまでの批判。バスターナイトはこうも赤子の如くあしらわれる様を忌々しく思う。

「俺が見せてやるよ。本物とニセモノの違いって奴をな――」

 大剣を右手のみで持ち、ダスクはバスターナイトに狙いを定めるや、黒い烈風を帯びた圧倒的質量の斬撃を放つ。

「ぐあああああああああああ!!」

 襲来する斬撃は最早斬撃と呼べる生易しいものではなかった。バスターナイトがこれまでの血の滲む努力と厳しい修練によって得たダークネススラッシュを遥かに凌駕する闇の波動が巨大な海嘯(かいしょう)の如く自らを飲み込む。

 ダスクの反則的ともいえる一撃を受け大ダメージを負ったバスターナイトは、屋根瓦の上を激しく転がりながら後退する。

 僅か数分足らずで満身創痍と化したバスターナイト。と、そこへ今度はラッセルが光の槍による一撃を空から放つ。

「串刺しになりなさい!」

「く…… !」

 ここでやられるわけにはいかなかった。

 悲鳴を上げる肉体を不屈の精神で以って無理矢理動かし、光の槍による致命傷を辛うじて回避する。

 堕天使の幹部二人を相手にバスターナイトが激戦を繰り広げる中、ちょうどレイとベルーダが引くおでん屋台が堕天使総本部を一望できる崖の上までやって来た。

「見つけたぞ!」

「あれは!!」

 遠目から確認できる屋根の上での激戦。城内中庭には、十字架に捕われたリリスたちがいる。

「リリス様にはるか様、クラレンスやご婦人たちがいるぞ!」

「キュアケルビムとそのパートナー妖精も一緒じゃな。朔夜は既に堕天使相手に戦闘中か…… 」

「ラッセルはともかく、ダスクの実力がどれほどのものか分からぬ イケメン王子でもない癖に……助けなくては!!」

 と、行動に移そうとした時だった。レイは一旦冷静になって考えてみた。

(このまま私が飛び出したところで…… リリス様たちを人質に取られたら、どうしようもない。まずは全員が変身して態勢を整えなければ……)

 闇雲なままではダメだ。それこそ針の穴を通すような 作戦を立て救出しなければ、この場所から脱出することはおろか、最悪全滅する。

 バスターナイトが懸命に戦う様子を見ながら、レイは無い頭を振り絞って作戦を立てる。

 そして、ようやく一つの妙案を思いつき実行に移す事を決意する。

「ニート博士! 私の指示通りに動いてくれ!!」

 

「があああああああぁぁ」

 堕天使二人を相手に奮戦したバスターナイトだが、やはり力の差は歴然。圧倒的な強さを誇るダスクの前にはまるで手も足も出なかった。

 屋根の上から叩き落とされたバスターナイトはボロボロであり、立つ余力も残らぬほど疲弊している。

「サっ君!!」

「「「「「「 朔夜(さん)(君)!!」」」」」」

 リリスたちは身動きの取れない状況で、そんな痛々しい彼の姿を見る。

 やがて、ラッセルとダスクが天空よりゆっくりと降下し――虫の息に近い姿のバスターナイトの足下へと近づいた。

「あらあら、もうへばったの。あんたそんなに弱かったっけ?」

「そいつは良く頑張った方だぜ。堕天使の王と幹部相手にたった一人で戦ったんだ…… 悪魔にしておくにはもったいない騎士道精神、英雄だよ」

「じゃあ最期くらい、なんかご褒美あげないとね。というわけで、私からのプレゼントを!」

 おもむろにラッセルが右手を掲げると、頭上に雷雲が現れバスターナイトに狙いを定める。

「いけー!」

 合図と共にゴゴーンという摩擦音が鳴り響く。数百万~億単位という高出力 の赤い稲妻 がバスターナイトを直撃――その凄まじい衝撃に悲鳴を上げる。

「ぐ……ぐあああああああああああああ!! 」

「サっ君―――― !!」

 絶体絶命に陥るバスターナイトを案じ、リリスが悲鳴を発したとき――状況は一変した。

 唐突に強い突風が吹き荒れたかと思えば、空から大きめの氷の粒が勢いよく降り注ぐ。

「な、なによこれ!?」

「氷の粒です!」

「何がどうなってるのよ?」

 自然の気まぐれ…… そう考えるのが普通だが、実はそうじゃなかった。

 この自然現象は意図的に起こされ、操られていた。空に上がったスプライト・ドラゴン――レイが持つ本来の力によって。

『風よ! 雷よ! 私たちの力となれ!!』

 極限にまで自然の力を解放する。

 やがて機が熟したのを見計らい、レイは体内の電気エネルギーを地上目掛けて放出する。

『喰らえ!!』

 放出された雷の砲弾は自然のエネルギーを吸収する事でさらに肥大化。大量の電気エネルギーを溜め込んだ球体が、ダスクとラッセルの頭上より降り注ぐ。

「なに!?」

「ウソでしょう!!」

 仮に【雷玉(かみなりだま)】と称するこの技を直撃すれば、ひとたまりもないだろう。

 ダスクは咄嗟にこれを避けるが、ラッセルは判断に迷ってしまい、雷玉の射程範囲からの脱出に遅れてしまった。

「う…… うわああああああああああああああ!!」

 凄まじい電気エネルギーを帯びた球体がラッセルを直撃した。

 目映い光の後に来る鼓膜を突き破る勢いのある 轟音。

 リリスたちが固く閉じた目を開くと、そこには見事なまでに黒焦げに焼きあがったラッセルが、巨大なクレーターの真ん中で倒れていた。

『リリス様――!!』

 攻撃が決まったのを見計らったように、雲の上からレイがリリスたちのいる地上へと降りて来た。

「レイっ!!」

「そうか、レイさんが私たちを助けてくれたんですよ!!」

「ハヒ!! すごいです、レイさん!!」

「悪魔娘の使い魔か……まったく、少しは場所を考えろっつーんだ」

 雷玉を撃ち込んだ場所が自分の城だけに、ダスクは不機嫌だった。大剣を振り上げ降りてくるレイを叩き落とそうと思った、そのとき。

「!?」

 突如として、城門を飛び越えてベルーダが引くおでん屋台が乗り込んで来た。

「おでんはいらんかねー!!」

「な、なんだおめぇは!?」

 堕天使界におでん屋台など存在しないから訳が分からなかった。

 あまりにシュールな光景に攻撃する機会を逃してしまったダスクを余所に、ベルーダはリリスたちの救出へと参上した。

「待たせたのう!」

「ベルーダ博士!?」

「まさか、それで助けに来たんですか?」

「うまくレイがダスクの注意を惹きつけてくれた。感謝するんじゃぞ」

 そう――すべてはレイが考えた陽動作戦だった。

 自分が派手に攻撃し、堂々と敵の前に現れる事が敵を欺く為の作戦。リリスたち救出の本命は飽く迄もベルーダだった。

 ベルーダは手際よくリリスたちを拘束していた枷を外すと、城から持ち出した変身リングをそれぞれに返却する。

「ワシの役目はここまでじゃ。あとはお主たちに任せる!」

「御膳立てどうも。さーて……ここからは思いっきり暴れて上げるわよ、みんな!!」

「「「「「「「はい(おう)!」」」」」」」

 

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「シャイニングパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ !!」

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」

「不浄を焼き払う聖なる光! キュアケルビム!」

「影に向かいて影を斬り、光に向かいて光を斬る。暗黒騎士バスターナイト」

「偽りの善幸を根絶やし!」

「邪な悪行を断罪する黒き力!」

「我ら、悪魔と魔女、天使と暗黒騎士のコラボレーション!!」

 

「「「「 『ディアブロスプリキュア』!!」」」」

 

 吹き荒ぶ雪。集められた三人のプリキュアと一人の暗黒騎士、そしてその使い魔と妖精たち。

 錚々(そうそう)たる顔ぶれにダスクは思わず興奮し、武者震いとともに笑みを浮かべる。

「ふふふふ……イイねイイね! 俺こういう状況大好きなんだわ。今度はもうちょっと楽しませてくれよな!」

「言われなくてもそのつもりだ! 今までの我々とは違うところを見せてやる! リリス様、これを使ってください!!」

 使い魔の姿へ戻っていたレイは、ベルーダから託された新たな変身リングを彼女へと渡した。

「第四の強化変身……鬼が出るか蛇が出るか、試してみる価値はあるわね」

 ベリアルはレイから受け取ったリングをベリアルリングの上に重ね、力強くピンと腕を伸ばしてその力を解放する。

「グロスヘルツォークゲシュタルト!!」

 リングが琥珀色に輝いた瞬間、眩い光を帯びてベリアルの体を黄色のオーラが包み込む。

 キュアベリアルに新たに付与される大地のエレメント。黄色を基調とした衣装へと変化し、ゴシックドレス風のデザインで、髪型は腰丈まで届く三つに分かれる。

 意匠の細部には岩の意匠があしらっており、背中の翼が一気に六枚へと生え変わる。

 これこそ、ベルーダの手によって開発された最新式の強化変身リングが持つ力にして、キュアベリアル第四の強化形態――その名を。

 

 

「キュアベリアル・グロスヘルツォークゲシュタルト」

 

「ほう……ますますおもしれ―」

「行くわよ、レイ!!」

「了解です!! コライダーチェイーンジ!!」

 彼女の成長・進化に合わせて自らの変身能力も進化させてきたレイがこの度変身する新たな姿は、力場を自在に操作する武器【魔加速器レイコライダー】。今、ベリアルの両腕にレイコライダーと称する新たな武装が装備される。

「みんな、私があいつに一発デカイの喰らわせてあげる から時間を作って!」

「「「「「「はい(ええ)(ああ)!!」」」」」」

 ベリアルの言葉と彼女が新たに発現させた力を信じ、ウィッチたちは時間稼ぎに乗り出した。

「キュアウィッチロッド!! サンダーボルト!!」

 ウィッチは魔力を電気エネルギーへと変換し、杖の先から雷撃を放出。ダスクは吹雪も相まって強化されたウィッチの攻撃で肌を焦がす。

「はあああああああああああ!!」

 ケルビムは体を逆さにすると、強烈なスピニングバードキックを炸裂する。ダスクはその一撃を受け、体を僅かに後退させる。

「なんだこいつら…… 急に力が増してやがる!?」

「まだまだこんなものじゃありませんよ!! ブリザード スピアー!!」

 続けざまにキュアウィッチロッドから氷の槍を放ち、ダスクの足下へと飛ばした。

 たちまちダスクの足下は氷付き、身動きが取れなくなったところでバスターナイトが頭上からラプラスとの合体攻撃を繰り出す。

「〈ダークナイトドライブ〉!!」」

 体をドリル状に包んで急降下し、バスターナイトは足場が氷漬けとなって動けないダスクに重たい一撃を叩きこんだ。

「ぐうう……何がどうなってやがる!?」

 そう思い辺りを見渡した。そして瞬時に、ダスクはディアブロスプリキュアの戦力アップのタネを理解する。

「そうか……こいつら自然現象を味方につけてやがるのか! 結構賢いじゃねぇか!!」

「お褒めの言葉ありがとう。でも悪いけど、あんたはこれで終わりよ」

〈この前の雪辱は果たせて もらうぞ、雪だけに!!〉

 必殺技の準備が整ったベリアルは、浮遊するレイコライダービットを巨大な砲門状に配置させる。

 そしてチャージしたエネルギーを前方のダスク目掛け放つ。

 

「プリキュア・メテオールブレイカー!!」

 

「ぐうううう……ぐあああああああああああああああああああああああ!!」

 巨大砲門より放たれる特大のエネルギー砲撃。

 すべてを飲み込むその威力と質量はダスクの闇の力でも吸収する事は敵わなかった。圧倒的質量の違いによってダスクは完全に押し負けてしまい、常闇の森の彼方へと吹き飛んだ。

 

 こうして、ベリアルたちは辛うじて最大のピンチを乗り越えた。

 レイは主とウィッチたちが無事な姿に安堵するとともに、この場にいる全員に対し深く頭を下げた。

「この度は、誠に申し訳ありませんでした!!」

「レイさん!?」

「どうしちゃったんですか?」

「今回の件で、私は自らのバカさ加減に嫌気が差した。そして二度とこのような事が無いように軽率な行動は取らない事を固く誓った」

「レイ……」

 人は誰でも間違いを犯す。それは使い魔も同じである。

 大きな失敗を乗り越え一回り成長したレイの姿を見て、ベリアルは内心嬉しかった。そしてほんの少しだけ彼を見直した。

 やがて、ベリアルはレイの元へとゆっくりと歩み寄り始めた。

「リリス様……」

 ゆっくりゆっくりとベリアルが近づいてくる。

 どんな言葉で自分の成長を祝福してくれるのだろうと期待していたレイだったが、その予想は見事なまでに裏切られる。

 彼女はレイを素通りすると、そのままバスターナイトの方へと歩み寄って行った。

「え……」

 呆気にとられる中、バスターナイトに近付いたベリアルの方へ恐る恐る振り返ると、満面の笑みを浮かべてから彼女はバスターナイトの首元に手を回し、全力で抱きついた 。

「きっと助けに来てくれるって信じてたよ♡」

 飽く迄もベリアルが評価しているのはバスターナイト一人であり、レイではなかった。

 薄々こうなる事は……いや、敢えて予想もしていなかったレイにとって、これ程までに屈辱的な光景は無かっただろう。

 自然と涙腺が崩壊するとともに、彼は切実な言葉で訴える。

「リリス様ぁぁ―― !! 私の立場ゼロなのですかっ―――― !!」

 

 

 

 

 

 




次回予告

リ「巷で話題の謎の天使。あの神林春人も警戒に当たる」
は「そんな折、預言者を名乗る男の人がテレビ画面に! そして次々と起こる謎の連続爆破事件…ハヒ、デンジャラスです!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『悪夢のはじまり!預言者と聖なる炎!』」
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