ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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今回はいつもとは趣向を変えて、神林春人に視点を置きました。
彼の過去に触れつつ、次回に渡って展開される謎の脅威が着実に地球に忍び寄ります。リリス達はこの問題を解決する事が出来るのでしょうか!?


第24話:悪夢のはじまり!預言者と聖なる炎!

 その目撃者は、東京で次々と増え続けていた――――…… 。

 

「ちょっとすいません、いいですか!?」

 テレビの女性リポーターが街頭インタビューを敢行。その内容は……

「〝天使〟なんですけれども、ご存知ですか?」

「知ってますよ」

「この辺で見られるって聞いたんです!」

 荒唐無稽とも取れるリポーターの問いに対し、インタビューを受けた二人の女性は笑顔で答える。

「天使なんですけどご存知ですか?」

「あ、知ってます。先週大学の窓から外を見てたら見えたんですよ」

「会社の課長さんがゴルフしてたら見たって騒いでたんですよ。それで今日、見に来たんですよ」

「友達 がね、ここで見たっつうからおじさんも見に来たの」

 その後もインタビューに答えるほとんどの人が『天使』の存在を信じ、それを見る為にこの場にやって来たのだと主張する。

「あの天使なんですけど、ご覧になった事はありますか?」

「ええ、見ましたよ。天使様は光り輝いております。天使様は私たちを必ず見守って下さるに違いありません」

 老若男女問わず、『天使』は多くの人に認知され――その影響力を確実に強めていた。

 

           *

 

黒薔薇町 悪原家

 

 このテレビのニュースをリアルタイムで見ていたレイ、はるか、クラレンス、朔夜、ラプラスの五人はどう思ったのか……

「天使……か」

「本物の天使なら、我々はずいぶん前から知り合いなんですけどね」

 クラレンスはこの場にいない本物の天使たるテミスの事を口にする。朔夜はテミスの事が気になり、はるかに問う。

「はるか、今日彼女は学校に来てなかったのかい?」

「午前中は居たんですけど、午後から早退しましたよ。何でも天界の様子が気になると言ってました」

「でもこれって何なのかしら? 洗礼教会の連中が趣向を変えて来たとか?」

 普段、あまり自分とその欲望以外の事に無頓着なラプラスもそれなりに気がかりな様子だった。

「リリス様は今回の件、どう思われますか?」

 敵の新たなる戦略かもしれない―― レイがリリスへ意見を求めた所、この家の世帯主である悪原リリスは、ソファーの上でうとうとしていた。

「リリス様?」

 意識は薄れており、非常に眠そうにしている彼女。

 紅茶の入ったカップを持ったまま眠気を催していたが、やがて不意に力が抜けると、リリスは紅茶が入ったカップを指先から落とした。

 膝元に落ちたカップから熱々の紅茶が零れ、その熱さでリリスは微睡から一気に目が醒めた。

「熱っ!」

「ハヒ!! 大丈夫ですか、リリスちゃん!?」

 彼女を心配して、はるかたちが直ちに駆け寄った。

 紅茶が掛かったリリスの膝元に乾いた布巾を当てながら、朔夜は彼女に大事が無いかを問う。

「大丈夫、火傷はしてないかい?」

「う、うん……ごめんなさい、うっかりしてて」

「リリスの所為じゃない。キミが何ともないならオレたちはそれで何よりだよ」

 優しい言葉を掛け慰める朔夜と、傍らでははるかたちが手際よく割れたカップの破片を回収し、カーペットに零れた紅茶を拭き取る。

「リリスさん、ひょっとしてお疲れなんですか?」

「え、ええ……最近ものすごい眠気が……」

「そう言えばリリスちゃん、授業中もなんだか眠そうでしたね」

「春眠暁を覚えずって言うなら分かるけど、今は夏よ。暑くて寝れないなら分かるけど……」

「大丈夫ですよラプラスさん。私は何ともないですから。ちょっと、着替えて来ますね!」

 そう言うと、リリスは逃げるように二階の自室へと向かった。

 彼女の発言にどこか違和感を覚えたメンバーは、リリスが自分たちに何か重大な事を隠しているのでは無いかと言う懸念を抱いた。

 周りから疑いの目が向けられて居る事を重々承知した上で、何かを隠している当人リリスは、自室に戻るや、扉に寄りかかりながら暗い顔を浮かべる。

「…… そろそろ来る頃だと思っていたけど、結構早かったわね」

 自虐的な口調で低い声で呟くと、彼女はギュっと、拳を強く握りしめる。

「それでも私は―――― 立ち止まる訳にはいかない。私自身の目的を果たすその日まで、絶対に」

 

           *

 

第七天 見えざる神の手・居城

 

 地上世界と隔絶した天の上、天界へ一時帰投したテミス・フローレンスは、天界と地上における正義を司るとともに、すべての天使たちの意思を尊重する為の機関―― 【見えざる神の手】との謁見を求めた。

 交渉の末、見えざる神の手の幹部たちからの許諾が下り―― テミスは幹部たちがいる居城へと招かれた。

「テミス・フローレンス、またの名をキュアケルビムよ……わざわざ我らの元を尋ねた、貴殿の目的は何かな?」

 するとキュアケルビムの姿で謁見する彼女は、端的かつ率直な事を幹部たちへの質問としてぶつける。

「最近、人間界では『天使』の目撃情報が相次いでいるのですが……これについて僭越ながら聖上陛下からの見解をお聞かせ願いたく、参上いたしました」

 彼女としても、ここ最近の人間界の異変―― 殊更『天使』の出現については気になっていた。本物の天使である自分以外の天使が、何の前触れも無く人前に姿を現すと言った軽率な行動が出来るのか、彼女にはそれが不思議で仕方なかった。

 ゆえに今回、見えざる神の手に事の真相を追求し『天使』出現の意図について問い質す。

 率直なる若い天使からの問いかけに、七角形状に散らばる柱の上に鎮座した上級天使たちは口角をつり上げた。

「ほほほほほ。覚えておくとよい、キュアケルビムよ。人間とは常に真新しいものに目を奪われやすい性分なのじゃよ」

「畏れながら聖上陛下、それでは私の質問の答えになっておりません」

「何をそう怖い顔を浮かべておるか?  まるで我々が裏で糸を引き、何か大事を為そうとしている、そう思っておるようじゃぞ」

 幹部の一人が鋭い指摘をすると、キュアケルビムの眉が一瞬ピクっと動いた。あまつさえ、額からは露骨に油汗が滲んだ。

「案ずる事はない。我々が人間界の事情に関与している等と言った事は決して罷りならん。単なる自然現象のひとつであると、結論付けよ」

「しかし、今も確実に『天使』の目撃情報は増え続けています! これが単なる偶然や自然現象であるとは私にはとても!!」

「口を慎め、キュアケルビムよ。貴殿が立つこの場所こそ、天界の中でも最も重要な箇所であり神の座に最も近き場所である事を努々忘れるな」

「…… 僭上な物言いをしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」

 半ば強引に話を区切らされた感はあったが、下手に上級天使たちの機嫌を損ねると自分の立場が不利になると悟り、キュアケルビムは自らの非を認め、大人しくこの場を退く事にした。

 彼女が城を後にした後、幹部たちはキュアケルビムへの警戒心を露わにする。

「あの娘……やはり気づいておるな」

「今計画を邪魔される訳にはいかんぞ」

「ここは小娘の口を封じるか?」

「そう焦るでない。いずれにせよ、キュアケルビムはお払い箱よ……だがまだ奴には利用価値がある。今はゆるりと泳がせておけば良い」

 総意 が見られると、幹部たちは視線の先に映る人間界の映像を注視する。

 現在も『天使』と称される謎の現象が相次いで報告され、人間界ではちょっとした騒ぎになっている――彼らはこうなる事を予期していた。

「フフフ……我らが仕掛けるこの偉大なる実験の意味を、あの小生意気な小娘にも分からせてやろうぞ」

 不気味な笑みを浮かべるとともに、上級天使の一人は意味深長な事を呟いた。

 

           *

 

東京都 国道沿い

 

 噂の天使をこの目で確かめる為、ラプラス発案のもとリリスたちは東京の中心部を目指し車で移動していた。

 いつも通りレイがレンタカーを運転し、その間リリスたちはタブレット端末から流れるテレビのリアル映像をモニタリングする。

『ただいま、東京に巨大な白い像が浮かんでいます』

 ビルとビルの間に向かって流れる気流が、巨大な白い像を作り出している。天使を見に集まった人々は常識の範疇では理解し難いその現象を神秘的なものと捕え、興味津々に頭上を仰ぎ見る。

 リポーターは、目で見たありのままの情報を視聴者へと訴える。

『これが天使なのでしょうか!? 街の人々も沢山集まっていますが、まだはっきりとした形にはなっていません』

「美しい……」

「でも、何かイヤな感じするわ」

 クラレンスが好意的な意見を口にする傍ら、ラプラスは少々気味が悪いと思った。

 その後も映像を視聴していると、リポーターが集まった人々の様相について リポートし始めた。

『今、東京では〝天使〟がブームになっています。街の人々は皆、〝天使〟が降りて来るのを心待ちにしているかのように…… ご覧ください! 〝天使〟の人形を持ったり 、〝天使〟の羽を付けています』

 カメラが捉える 街の人々は、大事そうに『天使』の人形を持ち、人工の素材で出来た『天使』の翼を背に付けた状態で空を仰ぎ見ている。

 何がそうまでして彼らの心を捉える のか。『天使』の降臨を待ち、崇め奉ろうとする彼らの行動は宗教さながらだ。

「なんか気持ち悪い……」

 リリスには『天使』を妄信する様がかなり異様な光景に思えた。

「リリス。いつだって人は、自分の頭では理解出来ない超常現象を物珍しく思うものだよ」

「しかしここまで夢中になるのも珍しいですよ」

「みなさん、そろそろ到着しますよ」

 そうこうしている内に目的地へと到着した。

 レンタカーを適当な場所に駐車させると、リリスたちは早速皆が集まる広場へ行ってみた。

 すると人混みの中、はるかが意外な人物の姿を捕えた。

「ハヒ? あの人は……」

 彼女の瞳が捉えた 意外な人物こと、プリキュア対策課所属の高校生探偵兼セキュリティキーパーの少年――神林春人がリリスたちの方へと近付いて来た。

「やぁ、君たちも見に来たのかい?」

「あんた、どうしてこんな所に!?」

「貴様も意外と俗っぽいのだな」

皮肉交じりに問いかける朔夜に、春人はきっぱりと答える。

「僕はあんなまやかしになんて興味はない。これも立派な仕事でね……上からの命令であの天使もどきを調査しているんだ」

「と、言いますと?」

 クラレンスから問いを受け、春人は懐からある物を取り出し、リリスたちに見せた。春人が見せてくれたのは周囲の磁場を計測する為の特殊な機械だった。

「見なよ。天使と称されるものが目撃された場所ではいずれも強い磁場が形成されている」

「磁場? それがどういう関係が?」

 純粋にはるかが尋ねると、リリスがハッと何かに感づいた様子でおもむろに推測を口にする。

「……強い磁気は、時として人間の脳に作用して幻覚を見せつける」

 聞いた瞬間、春人も一瞬驚いたが、直ぐに平静さを取り戻すとともにリリスの高い推理力に脱帽する。

「わぁお。さすがは合理的思考に長けているね、悪原リリス。君の言う通りだよ……人間の脳は強い磁気を受けると、側頭葉の『ニューロン』と呼ばれる神経細胞が活性化し、過去の記憶が無作為に呼び起こされる。それによって、実際にはその場に存在しない映像や音などが、あたかも体験しているように感じてしまうんだ」

「つまり……あの『天使』は誰かが意図的に何かのデモンストレーションとして、オレたちの脳に働きかけ見せている、ということか?」

 これまでの話を総括した朔夜からの問いに、春人も同意する。

「誰が何の為にこんな事をしているのかは分からないけど、少なくともあれは『天使』じゃない。天使を装ったトリックだよ」

「トリックなどではございません」

 そのとき、春人の考えに異を唱える者が現れた。

 声がした方を見ると、茶色のローブに身を包んだ男が立っている。不敵な笑みを浮かべ春人らを見つめる男に、リリスは眉を顰める。

「失礼ですが、貴方は高校生探偵の神林春人さんではありませんか?」

「ええそうですけど、あなたは?」

「名乗る程の者ではございません。ご高名は窺っております。しかし、貴方があれをトリックだと言った事にはどうにも承服しかねるものですから、つい口を出してしまいました」

「ではあなたは、『天使』が本当にいるとお思いなんでしょうか?」

「ええ。私たちを導いて下さる方は、もうすぐ地に降り立つのです」

 人々の関心を集める存在、すなわち『天使』を春人は科学的現象のひとつと考えている。その一方で男は彼の考えを真っ向から否定する。

「人はその心の裡に救済を求めています。現代に生きる我々にとって最も必要なのは心の安息…… すなわち、心の祝福です。あの姿こそ、我らが心の裡に求めるところの救済の形そのものなのです」

「では逆に、何をもって祝福とするのか、そのうえで僕たちをどこに連れていくつもりなのですか? 僕は具体性の見えないオカルト染みた話は昔から信じない性質なものですから」

 そう聞くが、男は明確な回答はせず、不敵に笑みを浮かべるばかり。直後、男は春人を見ながら彼の琴線に触る一言を口にした。

「もしも貴方が信じられるのなら、貴方が遠い過去に失くした大事な方にも会える かもしれませんよ」

 聞いた 瞬間―― 春人は怖い顔を浮かべ凄むような声で言う。

「……あなたが 僕の何を知っているというのですか?」

「これは失礼。ですが、あなたも天使に出会えば、必ずやお分かりいただけます」

 それだけを言うと、男は春人らの前から早々に立ち去った。

 何の目的で近付いたかも分からない素性 不明の男の不審な行動にリリスたちが訝しむ中、ついに人々の前に『天使』が降臨した。

「見えました!! 『 天使』です!! 『天使』が舞い降りました!!」

 カメラマンとともにリポーターが出現した『天使』を仰ぎ見、視聴者へと訴える。

 神々しくもありながら人間の知性を超越したかのような『天使』の体を為す存在は、見る者すべてに神秘と畏怖の両方を齎す。

 降臨した『天使』を前に信者たちが異様なまでに熱狂する一方、リリスたちは怪訝そうな顔で空の上の『天使』を見る。

「あれが……『天使』!?」

「全然そうは見えませんけどね」

「ま、ぶっちゃけバカみたく巨大になったクリオネってところかしら」

 ラプラスの率直な感想を漏らす。

 謎の『天使』と称される存在への疑念を持つかたわら、春人は先ほど自分の考えに異を唱えたあの男の事が妙に気になった。

 

 帰りの車中、不意にはるかがリリスに切り出した。

「リリスちゃんって、『神様』って信じていましたか?」

「話が唐突ね。どうしてはるかはいつも脈絡もなく話をしたがるのかしら? そういうときは普通〝ところで〟とか、〝話は変わるんですけど〟とか、その場にふさわしい接続詞を入れるものだと思うけど」

「うぅ……。それはそうと、実際どうなんですか?」

「どうしてそんなことが気になるの?」

「前にイドラが言っていた事を思い出したんです。『神様』はとっくの昔に戦争で死んでしまったと。クラレンスさんの前でこんな話をするのは不謹慎かもしれないんですけど…… 」

 はるかが申し訳なさそうに言うと、クラレンスが首を振って答える。

「ああいえ! 私の事はお気になさらずに。はるかさんのその気持ちだけで私は救われます。とはいえ、私も未だに信じ難いんです。本当に主が亡くなられたのなら、我々が主を信じるこの気持ちは偽りなのかと」

「神を信じる気持ちと神の存在を付会する必要はないわ。大体、私だって生まれてこの方『神』の存在を信じた事はなかったわ」

「そうなのですか? 初耳ですね」

 車を運転するレイは顔を正面にやりながら会話に入り込む。

 そんなレイの反応を見てラプラスがぶっきらぼうに答える。

「まぁあたしら悪魔からすれば、『神』なんて天使の味方をするイメージが強かったし、ぶっちゃけ目の上のたんこぶみたいな感じだったから」

 と、ここまで黙って話を聞いていた朔夜がぽつりと言葉をこぼした。

「しかし、『神』が死んだという話の真偽はともかく、同じ言葉を使って、ニーチェはこの世界の真理を見事感得していたと言えるな」

「真理だと?」

 レイが朔夜の言葉を理解しかねていると、朔夜はさらに言葉を続ける。

「彼は〝神の死〟 というそれ自体がアンチテーゼを含んだオクシモロンを用いる事で、この世界が希求すべき〝祝福〟という帰結へのアプローチを行っていたのかもしれない」

「アンチテーゼ……オクし……なんでしょう?」

 朔夜が考え込むようにして呟くそばで、はるかは次々にインプットされる横文字に目が回りそうになっていた。

 ラプラスはパートナーのいつもの癖に溜息を吐きながら問いかける。

「回りくどいうえに小難しい話ね……で、結局あんたはそれが何だって言いたいわけ?」

「ひと言で言えば『虚無』――いや、『終焉』という言葉に置き換えるべきか」

「終焉?」

 クラレンスは朔夜の話を自身の中で消化して、自分なりの結論として言葉に変える。

「つまり、何も存在せず終わりを迎える事こそが本当の意味での救済、そういうわけですか?」

「でもそれって救済なんですか? 何もなかったら誰も助けられませんし、誰も助ける必要もないんじゃないですか? リリスちゃんもそう思いませんか?」

「そうね……」

 リリスは 後部座席から暮れなずむ夕日を眺めつつ、心の中でふと考える。

(ニーチェが仮に虚無主義の果てに終焉こそ祝福とする考えに至っていたとして、それを賛美できたとしても…………今の私にはまだ理解しかねるわね。でも不思議と、わからなくもないのよね)

 リリスには愛する家族を奪った洗礼教会への復讐という究極の目的があり、これまで十年という年月を復讐の為だけに費やしてきた。この目的を果たす為に自分のすべてを捧げてきた彼女にとって、復讐の成就なくして終焉に至ることなどあり得ないことだった。

 しかし、憎しみの中に身を置く一方で、無意識に自身の心が無常の風に吹かれることを望んでいることにリリスは未だ気付いていなかった。

 

           *

 

異世界 洗礼教会本部

 

「ホセア様。キュアケルビムの姿が見えませんが」

 最近ずっとうろちょろしていたケルビムの姿が見えず、エレミアは上司であるホセアに疑問を投げかける。

「一身上の都合により、しばらく教会への出入りを控えたいという本人たっての希望があったものでな」

「へっ! 結局何の役にも立たなかったな、大した天使さまだぜ! でぁははははは!!」

 馬鹿笑いするコヘレトを尻目に、モーセは最近地上で起きている珍妙な出来事に対して疑念する。

「それはそうと、人間界で話題となっている例の『天使』の件に関して、見えざる神の手は我々に何も命令を下さないのでしょうか?」

「今こそ我らが活動の正当性を人々に知らしめ、神への不敬を改める とともに、打倒悪魔を掲げて勢力の拡大を目指すべきです !」

「ホセア様、どうか我々にも聖上陛下の御意思に御身を捧げたく思います」

 サムエルとエレミアが続いて宣言すると、ホセアは深く頷きながらも拙速な行動に移すことを制止する。

「お主たちの厚い気持ちはしかと受け取った。だが、機は未だ熟しておらぬ。この件に関しては追って見えざる神の手の方から通達がもたらされる。それまでは各々自らの役目を全うするように務めよ」

「「「御意」」」

 三人が聖堂を去ると、コヘレトはたった今彼らが出て行った扉を見ながらどこか馬鹿にしたような口調で言葉を放つ。

「あーんなこと言っちゃって……ぶっちゃけ、もうこれ以上あの三人を手駒として泳がせておく理由なんてないくせに!」

「言葉を慎めコヘレト。偉大なる主の前で不敬であらせられるぞ」

「不敬も何も、一番『神』を冒涜してるのはそっちじゃないっすか。俺も馬鹿じゃないんでね。いい加減あんたの腹積もり聞かせてほしいな? じゃなかったら、俺がここにいる理由がなくなっちまう」

「……ふん」

 

           ◇

 

 東京が空前の天使ブームに包まれる一方、黒薔薇町ではある不穏な動きが見られていた――……

 

           ≡

 

黒薔薇町 某宗教団体事務所

 

「二回目の警告です。警視庁公安部です。立ち入り検査を実施しますので速やかに開けなさい!」

 ある朝、リリスとはるかが通学中に見た光景。

 物々しい雰囲気に包まれ、現場は騒然としている。警視庁公安部と書かれたジャンパーに身を包んだ捜査官数十名が集合住宅前に集まり、中にいる者たちへ強い語気で呼びかけている。

 扉をドンドンと叩き、呼びかけに応じない住人に高圧的な態度を取る。よく見るとテレビカメラも入っているから、はるかはただ事ではないと直感した。

「ハヒー…… 朝から一体何の捜査ですかね? 麻薬でしょうか?」

「違うわ。多分きっと、宗教団体『アリフ』の件よ」

「アリフ?」

「世界初のNBCテロ(核兵器・生物兵器・化学兵器を用いたテロ事件の総称)を実行した、凶悪なカルト教団の片割れだよ」

 リリスの回答に詳細な説明を施すのは、応援部隊に加わっていた神林春人だった。

驚く二人に近付くと、彼は十 年前に起こったとある惨劇について話し始めた。

「通勤ラッシュの地下鉄車内に『IFRIT』と呼ばれる大量殺戮を目的として開発された化学兵器がばら撒かれた…… 死者十三 名、負傷者六千三百人以上を出した日本の犯罪史に残る最悪の事件が十年前の十一月十五日に有った んだよ。それを引き起こしたのが名前を出すのも忌々しいカルト教団でね……これ以外にも、教団と対立する弁護士一家を殺害したり、教団内部では自動小銃の密造まで行われていたという話だ。これら凶悪な事件の数々を起こした教団の教祖、並びに幹部は皆逮捕され死刑が確定した」

「ハヒ!!  なんて恐ろしい話なんでしょう……はるかたちが生まれる前にそんな事があったなんて」

「いや生まれてるじゃない、十 年前ならはるか四歳よね?」

 背筋が凍る程の凶悪なテロ事件の概略を聞かされたはるかの発言の中に齟齬があったので、リリスが冷静に間違いを指摘した。

「でも最近、この事件を知らない若い人が増えているんだ。アリフは解散した教団の主流派で、ヨガ教室やインターネット、最近はSNSを使い少しずつ信者を増やしていたんだけど、最近の天使ブームにかこつけて入団者を一気に募ってた。公安部はそれを懸念して立ち入り検査の日程を早めたんだ」

「なんか忙しない話だこと……」

「大変ですね公安部も」

 リリスとはるかがそう言った後、春人は真顔を浮かべながら二人に言う。

「他人事のように言っているところ悪いけど、僕らプリキュア対策課は本来君たちの行動を監視しているという事を忘れないでほしいね。この間も、堕天使絡みの騒動を起こしていたみたいだけど……」

 鋭い所をツッコまれてしまった。

 二人は露骨に冷や汗をかき、苦笑いを浮かべながら後ずさる。

「あははは……えーっと……あれはその、不可抗力でして!!」

「はるか、真面に相手する必要ないわ。早く学校行くわよ」

 この男を敵に回す事は他の勢力と争うよりも厄介だった。

 リリスとはるかは、逃げるように退散する。そんな彼女たちをからかった春人は、口角をつり上げ二人を見送った。

 と、その時だった。春人は背後に強い邪気を感じとった。

 がっと、後ろを振り返る。すると茶色のローブに身を包みフードを目深にかぶる怪しげな女性の姿を捕えた。

「あれは……」

 ローブの女性は春人を誘っているのか、林の中へと姿を消した。

 春人は何かを直感した。そして、現場を離れ消えたローブの女性を追いかける。

 女性が消えた林の中へと向かったが、途中で足取りが分からなくなってしまった。何処にいるのか探していたとき、斜め上からつい先ほど感じた邪気と同じ気配に心づく。

 振り向くと、ぽつぽつと並び立つ街灯の上に 例のローブの女性が立っており、春人を見下ろしながら口角をつり上げた次の瞬間――掌から衝撃波を発生させた。

「ぐぁっ……」

 衝撃波を受けた瞬間、春人は近くの木にぶつかり、やがて気を失った。

 

           *

 

黒薔薇町 十六夜家

 

「あはははは!! 」

 リビングにて、朔夜の使い魔ラプラスは家事をするわけでもなく、ダラダラとテレビのワイドショーを見ながら、ソファーでお菓子をボリボリと貪っている。完全なるカウチポテトと化した彼女は言葉は悪いが、世間一般が抱くぐうたらな中年おばさんとやっている事は何ひとつ変わらない。

「あはははは!!  何それ、おっもしろーい!!」

 しかし、ラプラスは自らの欲望に忠実であり、誰に何を言われようともこの怠惰な生活習慣を改めようとはしなかったから、朔夜も半ば諦めていた。

 そんなぐうたらライフを満喫していた彼女だったが、不意にテレビの映像が著しく乱れ、砂嵐と化した。

「もう~、なによ!!  今地デジでしょ? アンテナでも折れちゃったの?」

 折角いいところだったのに…… 内心そう思いつつ、地デジ移行後は決してあり得ない通信途絶による砂嵐と化すテレビに文句をぶつぶつと垂れながら、ラプラスは昭和の感覚に立ち戻ってテレビを手でバンバンと叩く。

 すると、画面上の砂嵐が徐々に収まり映像が復活した。

「あ、映ったわ。……ん?」

 しかし映像を見るや、ラプラスは驚愕する。

 先程まで見ていたお笑い番組の再放送から、チャンネルを変えた訳でもないのに映像が変わっていた。

 テレビ画面の向こうに不気味な笑みを浮かべる謎の男の顔がドアップで映し出されると、男はテレビを通じて人々に呼びかける。

『私は預言者……すべての人間に〝イフリート〟からのお告げを授ける』

 その男は以前、天使の存在を否定した春人に異を唱えたあの男で、自らを『預言者』と称する。

 公共の電波をジャックしてテレビ画面に現れた男の言葉に、全国民が どよめいた。

『地球はもう直ぐ生まれ変わる。〝聖なる炎〟 が〝穢れ〟を焼き払うだろう……!』

 リアルタイムで流れるこの映像を、警視庁公安部部長 兼プリキュア対策課の責任者を務める神林敬三とその部下たちも見ていた。

「部長、これは一体!?」

「分からん。だが……春人はどうした!?」

「それが、さっきから連絡しているのですが……携帯に繋がりません!!」

「まさか……春人の身に何かが!?」

 敬三が悪い予感を抱く中、テレビ画面の預言者は両手を広げ力強く宣言する。

『イフリートに従うのだぁ…… !! その証を見せよう……!!』

 

           *

 

同時刻――

黒薔薇町 私立シュヴァルツ学園

 

 預言者の出現に東京中が騒然と化す一方、事の次第を知らないリリスたちシュヴァルツ学園の生徒たちはただ今授業の真っ最中。

 リリスたちのクラスでは現在、担任の三枝が日本史の授業を行っていた。

「以上のように、一四六七年に起こった『応仁の乱』で室町幕府の権威は失墜。この戦いを境にして現れた『戦国大名』が天下平定を掲げて各地に現れ競い合った時代を、戦国時代と呼びます。そしてこれら戦国大名が……」

 と、話をしていた直後。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……と、突然地鳴りのような音が校舎全体へと伝わって来た。

「何っ!?」

「ハヒ!?  地震です!!」

 教室中が縦方向に大きく揺れる。

 授業どころではなくなった生徒たちがパニック状態に陥る様子を見て、三枝は教師として毅然とした態度を示す。

「みんな慌てるな! 避難訓練を思い出すんだ、直ぐに机の下に隠れるんだ!!」

「先生の言う通りです、みなさん!!  机の下に隠れましょう!!」

 テミスの一声で、生徒たちは我に返るや急いで机の下に隠れる。

 しばらくして、大地の揺れが収まり 音も鳴り止んだ。生徒たちは揺れが収まったのを確認し、恐る恐る机から身を出した。

「どうやら収まった ようね……」

「ハヒ……地震はとってもデンジャラスです!」

 しかし、それは地震ではなかった。

 リリスたちが安堵の溜息を漏らした次の瞬間。

 ピカッ、ドゴォォォォォォォォォォォ――――――――――――!!

 教室の窓から見える建設中のビルが突如として大爆発。ビルは忽ち炎に包まれ焼失した。

「ビルが爆発したぞぉ!!」

「大変だぁああ―― !!」

 校内にいた全生徒、全教職員が窓から見える光景に驚愕する。リリスとはるか、そしてテミスも予想だにしなかった出来事を前に呆気にとられる。

「何がどうなっているんでしょう……」

「わからない。だけど……」

「ええ。何かとても邪悪な力が作用している事は間違いないわ」

 

 ビルの爆破が確認された頃、神林春人はと言うと……

「ぐああ……!」

 ローブの女性から襲撃を受け、通行量が少ないトンネルへ連れて行かれた。そこでも彼は正体不明の彼女から衝撃波を喰らわされ、徹底的に暴力に服従させられる。

 最終的に壁に磔にされた春人を、ローブの女性は嘲笑う。

「惨めな生き物だわね、人間って? 悲しいほどに愚か。滑稽なほどに弱々しい」

 言うと、念力を弱めて春人を地面に落とす。

 異能の力に苦しめられ、傷を負いながらも春人は闘志を宿した瞳で女性を捉えつつ、腰に忍ばせたSKバリアブルバレットを取り出した。

 明らかに人間でない彼女に銃口を突き付ける。そんな春人に近付きながら女性は嘲笑を続ける。

「撃ってどうなるというの? あたしはもう死んでいるのよ」

「なに?」

 言っている意味が理解出来なかった。

 刹那、困惑する春人目掛けて女性の後ろから衝撃波が発射され、彼の体に被弾する。

「ぐぁっ!!」

 再び壁に叩きつけられる春人。目の前の女性は満身創痍の彼の腹部にめりこむ様な蹴りを入れながら、不気味な笑みを浮かべる。

「ふふふ、覚えておくといいわ。世の中には人間が知るには 余りにおこがましい事があるのよ……我々イフリートが、お前たち愚かな人類で埋め尽くされたこの穢れた大地を、聖なる炎によって焼灼するの!!」

「言いたいことは……それだけかい?」

 どれだけ傷つけられようとも、春人の中にある正義の炎は燃え尽きない。

 相手がどんな凶悪な力を持つ存在であろうと、敢然とした態度を最後まで貫いた。そんな彼の瞳の輝きが、女性には非常に気に食わなかった。

「……ふん。人間の癖にイフリートの神々に歯向かおうなんて…… 思い上がりもいいところだわ!」

 眼前の春人を女性は徹底的に嬲った。二度と減らず口が利けぬくらい彼を痛めつけ、反抗する気力も奪い尽くすつもりで。

 しかし春人は屈強な肉体に加え、心も非常に頑強な人間だった。傷ついた体を起き上がらせ、頑として言う。

「人間は…… 君らが思っているほど弱くはない!」

 ちょうどその頃、春人のGPS の発信記録を頼りに捜索を行っていた父・敬三と部下が乗った車が春人がいるトンネルへと接近した。

 車内、敬三はトンネルの中で見えない何かと奮闘する満身創痍の息子の姿を発見した。

「あそこだっ!!」

 敬三たちが来た事を受け、暴行を加えていた女性は春人の前から一旦姿を消した。

そして、春人自身は惨い拷問から解放されると――緊張の糸が切れるとともに忽ち気を失った。

「春人っ!!」

 急いで車を止め、敬三とその部下が負傷した春人の元へ駆け寄った。

「春人っ! 大丈夫か!?」

「ひどい、誰がこんな事を……!」

 春人は、『イフリート』と称する謎の存在との交戦の末――プリキュア対策課の仲間によって保護され、事無きを得た。

 

           *

 

黒薔薇町 悪原家

 

 爆破事件が有った 日の夕方。

 シュヴァルツ学園は臨時措置として学校を早めに終わらせ、生徒たちを帰宅させると、その外出を厳しく制限した。

 学校から帰宅したリリスは、はるかたちを呼び集めると、全員で今日起こった事件の全貌について 話し合う事にした。

『まさに白昼の出来事でした。ご覧ください、ビルが見るも無残に破壊されています! 幸い、建設中だった事から人的被害はありませんでしたが、このような爆発が万が一人のいるビルで起きた時、その被害は甚大なものだったでしょう。今回、公共の電波をジャックした預言者を語る謎の男の行方と事件の真相につきましては、警視庁からの正式な発表は未だありません』

 破壊されたビルの映像がヘリコプターに搭載されたスタビライザーカメラによって生中継され、改めて全員は凶悪極まりない事件に背筋を凍らせる。

「コンクリートビルがあんな綺麗に蒸発するとは……」

「いつ爆弾は仕掛けられていたのでしょう?」

「いや、あれは爆弾じゃない」

「それはどう言う意味なのかしら?」

 同席していたテミスが朔夜に尋ねると、彼は真剣な顔で説明する。

「もしも爆弾が仕掛けられていたとしたら、何かしらの痕跡が残る。しかし今回の爆発にはそうした痕跡が全く見つからなかったんだ」

「あ……あの……朔夜さん、一体どこでそんな情報を……!?」

「こっそり現場に行って調べて来たんだ。間違いないよ」

 相変わらず抜け目ない奴だ…… レイがそう思うのは勿論だが、質問した側のピットもまた彼の行動力の高さには唖然とする。

「サっ君の言うように爆発物でないとしたら……遠隔的に何らかの力を加えたって事かな?」

「恐らくはね……」

「ですが、ビルを蒸発させちゃうほどのエネルギーをどこから!?」

「考えられるとすればひとつ……多分、『レイライン』を悪用したんだ」

「レイライン?」

「聞いたことがあるわ。古来より地球各地のパワースポットを結んでいる地脈や龍脈、光脈の類……とか?」

 うろ覚えな知識を頭から引っ張り出したテミスが端的にレイラインという言葉の意味を周りに説明。首肯した朔夜は両手を組み合わせた状態である推理を披露する。

「レイラインを流れるエネルギーは俗に『レイエネルギー』と呼ばれ、凄まじい力を秘めていると言う。敵の目的がはっきりしない為、憶測の域を脱しないが……奴らがレイエネルギーをある場所から集約させ、それを解放しビルを爆発させる。そうする事で自らの力を誇示しようと考えたとしたら?」

「ある場所?」

 すると朔夜は、テレビ画面に映る爆破されたビルに視線を合わせ、暫し見つめたのちリリスたちにその場所を指さした。

 彼が指示したのはビルの土台部分。いや、この場合はもっと下の方――すなわち、レイエネルギーが巡る場所そのものを示していた。

「まさか、地下からですか!?」

「一体誰が……」

 

           *

 

東京都 大田区 田園調布 神林邸

 

 謎の女性からの襲撃を受けたのち、実父らによって救出された春人は怪我の手当てを終えると、そのまま自宅へと戻った。

 車から降りた春人の顔と手のあちこちに包帯と絆創膏が貼られている。敬三は負傷した息子を労った。

「とりあえず今日一日は安静にするんだぞ」

「ごめん父さん……心配かけて」

「お前が謝る必要はないさ。じゃ、私はこれから謎の預言者に関する対策会議があるのでな」

 そう言うと、敬三は車を発進させ春人と別れた。

 父を見送った春人は、家の門を潜り自宅へと入って行った。

「ただいま」

「お帰りなさい、春人様」

 真っ先に出迎えてくれたのはこの家に仕える初老の執事・武者小路幹彦だ。仕事が忙しい敬三に代わって、この家の家事及び守護全般を担っている。

「ただいま、爺や。心配をかけてしまったね」

「春人様、お怪我の方は大丈夫なのですか?」

「ただのかすり傷だよ。僕の事は大丈夫、しばらく自室で休むよ」

「畏まりました。お夕食はどうなさいますか?」

「あとで食べるよ」

 武者小路は恭しく春人の言葉を受け入れる。春人はそのまま二階へと上がって、自室へと戻った。

 部屋に戻った春人の目に真っ先に飛び込むのは、机に置かれた今は亡き母の写真が収められた写真立て。春人の母は、十 年前に起こった例のカルト教団によるテロ事件の 犠牲者だった。母が亡くなったのは、春人が六歳の頃だった。

 カルト教団によって引き起こされたテロによって最愛の母の命を奪われた春人は、このような経緯から犯罪者が蔓延る世界を変える為、また市民に無差別に牙を剥く凶悪なテロリストから人々を守る為に父と同じ道を歩むことを志すに至った。

 理不尽なテロ事件の犠牲となった母に抱かれた幼い頃の春人は、無邪気に笑っていた。それを見て、一瞬ながら春人は懐かしい気分になった。

 だがそのとき、昼間感じたあの邪気を春人は部屋の中で感知した。

 慌ててその場を振り返ると、ベッドの上にいつの間にか人が座っていた。昼間、公共の電波をジャックした例の預言者の男だった。

「お前は!?」

「どうか騒がないで下さい。私は貴方と話をしに来ただけです」

「なるほど……君が『イフリート』とか言うふざけた存在なのか……?」

 春人の問いに対して、男はおもむろに答える。

「私は……私は預言者です。メッセージを伝えるだけです」

 春人は自称〝預言者〟を語る男に気付かれない様に、スマートフォンの通話ボタンをON にし、父や対策課の仲間たちに会話が聞こえるよう全て筒抜けにした。

「イフリートは、何処から来たんだい? まず自己紹介をするのが筋ってものじゃないか?」

「ハハハ……さすがはプリキュア対策課の切り札、セキュリティキーパーだ。ユーモアがある」

 言いながら立ち上がり、それでも……、と付け足しながら彼に歩み寄る。

「イフリートへ敬意を表して下さい。まず、貴方が……」

「どうして、僕なんだい?」

「時間はあまり無いですよ。貴方が今、この場で地球人類を代表して敬意を表さなければ……次は世田谷地区を……」

「止めろっ!!」

 思わず、春人は声を荒らげた。

 しかし、預言者の男はそれに動じる事無く、机に置かれた幼い春人と母が映った写真立てを手に取り、さらに言い続ける。

「穢れを焼き払う炎は神聖なもの……しかしそれを止める事は出来る。貴方なら……」

「ふざけるな……」

 目の前 の預言者を鋭く睨み付け、凄む声を発する。

 何だかんだと言いながらも、結局預言者が言っている事は、ただの脅迫でしかない。春人の怒りは徐々に募る。

「答えをお聞かせください、神林春人さん?  敬意を表しますか? 」

 預言者を自称するテロリストからの脅迫に、春人は決して屈しなかった。沈黙を守り続ける彼に対し、預言者は深く溜息を吐く 。

「……残念だ……」

 そう言うと、預言者は春人目掛けて持っていた写真立てを粗雑に投げつけた。

 春人がそれをキャッチした直後、男の姿はどこにもなかった。

 慌てて部屋を飛び出すと、居たのは心配になって様子を見に来た執事の武者小路だけだった。

「あの男は!?」

「男? いいえ、誰も出てきておりませんが」

「そんな……!! ……そうだ、世田谷!!」

「春人様!?」

 血相を変えて階段を下りて行く春人を呼び止める武者小路。呼び止められた春人は立ち止まり、武者小路に強く言う。

「爺や!! 急いで車の手配を頼むよ!!」

 もしも預言者の言う事が本当ならば……一刻も早く現場へ行って爆発を食い止める必要がある。

 武者小路が運転する車内、春人は現場の映像をタブレットを通して監視を行う。

「今のところ特に異常はない様ですが……」

「だといいけど……」

 モニタリングをする限りだと、世田谷は至って平穏無事の姿だった。

 しかしその直後、事態は一変する。

 ピカァァァ―― ッと強く光ったと思えば、世田谷のとあるビルから凄まじい爆発が発生した。

「「な!?」」

 ドゴォォォォォォォ――――――ン!!

 巨大な爆発とともに、窓ガラスが割れ、ビルの素材に使われている鉄筋コンクリートが蒸発。ビルの下に止めてあった車から人に至るまで全てが木っ端微塵に吹き飛んだ。

「なんて強力なエネルギーなんだ……!!」

 春人は人智を超えた爆発のエネルギーに驚愕した。

 預言者が宣言した通り、世田谷の街は一瞬にして地獄へと変わった。

 一足遅く、春人たちが現地到着するとそこには焦げ臭いにおいが立ち込めたビルが炎に焼かれる瓦礫と化しており、爆破されたビルの中には大勢の人が残っていた。

 余りに凄惨かつ残酷な光景だった。

 爆破を目撃した仕事帰りのサラリーマンが、慌てて携帯で一一九 番通報をする。

「もしもし一一九番!!  さっきビルが爆発したんだ、えらい事だよ大惨事だよっ!!」

 何の関係もない一般市民を巻沿いにする異能のテロ集団。

 春人の脳裏に蘇るのは、十年前のテロ事件の被害を受け死亡した亡き母の姿。

 致死性の高い化学兵器により尊い 命を奪われた母の亡骸に直面した際、六 歳だった春人はただ泣き崩れ、この世で最も強い絶望と虚無を味わった。

「……何が〝預言者〟だ………」

 こんな暴挙があっていいはずはない。

 拳を握りしめ、春人はイフリートと呼ばれる謎の存在を崇拝する預言者とその信者たち、そして元凶であるイフリートを必ずこの手で逮捕・制圧してやると誓った。

 

 

 

 

 

 




次回予告

リ「東京の大空に浮かび上がる『冥界の門』!!」
は「春人さんへと忍び寄る預言者の影。そして、恐るべき侵略計画!!」
朔「クリーチャー・イフリートによる人類およびプリキュアへの挑戦が始まる!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『最後の審判!プリキュアVS炎の魔人!』」
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