ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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今日はサブタイトルにもあるように、バスターナイトのパワーアップ回です。
リリスに並々ならぬ思いを抱く朔夜は、彼女や仲間たちを守る力をどうのようにして手に入れたのか、ご覧ください。


第26話:朔夜の誓い!紅蓮のバスターナイト!!

第26話:朔夜の誓い!紅蓮のバスターナイト!!

 

 

 

東京都 世田谷 ビル跡地

 

 クリーチャー・イフリートによってもたらされた都心の被害は甚大だった。

 事件から三日。聖なる炎によって爆破された世田谷のとあるビル周辺からは、今も焦げ臭い匂いが立ち込めており、警察による調査が続いている。

 この事故で犠牲となったのは一〇二〇名。いずれもが即死だったという。

 瓦礫の山と化したビルとその敷地に「立ち入り禁止/KEEP OUT」と書かれた黄色いテープが引かれ、関係者以外の侵入を制限する。

 そんな中、私服姿で現場の様子を監察していた少年――十六夜朔夜は、神妙な表情を浮かべたままじっと立ち尽くしていた。

「………」

 無言の彼の脳裏に蘇るイフリートとの戦い。

 一度は窮地と呼べるところまで追いつめられたが、街の人々から与えられた光によってベリアルらプリキュアの力は復活し、イフリートを辛うじて退ける事が出来た。

 だがそれでも、朔夜はあの結果に満足などしていなかった。

 やがて、朔夜は踵を返すと聖なる炎によって破壊されたビル跡地からの移動を開始した。

 

 数十分後。

 彼がやって来たのは――堕天使の王であるダスクと初めて刃を交えた場所。

 ここでも彼はしばらくの間、物思いにふけった様子で辺りを見渡した。

 眼前に広がる光景は平穏そのものだ。だが、いつこの平穏が異界からの侵略者によって蹂躙されるかも分からない。そういう生きるか死ぬか瀬戸際の状況が常に近くに潜んでいるのだ。

 強敵たちが次々と現れる度、朔夜はバスターナイトとして戦い、戦った後にやってくる自分の力の及ばなさを痛感していた。

 やがて、誰もいないその場で――朔夜は内心焦りの言葉を呟いた。

(――わかってるんだ……ダメなんだ……このままじゃ……)

 おもむろに空を仰ぎ見ると、瞼を閉じた。

 その瞬間、朔夜の脳裏に思い浮かんだのは――幼い頃の自分に優しく手を差し伸べてくれた少女・リリスの姿だった。

 彼女から差し出された手を握った瞬間、生まれて以来ずっと孤独だった彼は初めて人の温もりと言うものを感じられた。そして、この温もりを感じさせてくれた彼女に心から感謝するとともに、命を懸けて守りたいと幼いながらに思った事を思い出した。

 いつだって、朔夜の行動原理はリリスにあった。

 純粋にリリスを護りたい……リリスに降りかかる不幸を自分の力で振り払いたい……リリスが大切にしているものすべてを守りたい……。

(このままじゃ……リリスを護れない……)

 心の中でそう呟くと、朔夜は閉じていた瞼をゆっくりと開ける。

 やがて、彼は自らの力を見つめ直す為にある行動に移すのだった……。

 

           ◇

[newpage]

黒薔薇町 十六夜家

 

「さ――く――や――く――ん!!」

 ある朝、いつものようにお腹を空かせたラプラスが階段を勢いよく下りながら、キッチンで調理をしているであろう朔夜へ呼びかける。

「ねーねー朔夜、あたしのごはん……」

 と、言いかけた時だった。ラプラスはいつもとは異なる光景を目撃した。

 リビングに下りて来た時には、朔夜の姿は無かった。代わりに彼女の為に作っていた今日の分の朝食だけがラップにかぶさった状態でテーブルに置かれている。

「ちょ……どこ行ったのよあの子!?」

 不審に思ったラプラスは、食べる事も忘れて朔夜を探し出す。

 家中をひっくり返し、家の外も見て回ったが、朔夜の姿は何処にもない。まるで神隠しにでも遭った様に彼の気配を感じられなかった。

 それもそのはず。玄関を今一度見渡してみると、朔夜の靴が無くなっていた。既に学校にでも行ったのかと思ったが、朔夜の部屋には学ランと通学鞄が有ったから、恐らく彼は学校には行っていないと思われる。

「変ね~……」

 自分が寝ている間、朔夜の身に何かが起こった事は間違いない。

 腕組みをしながらラプラスは今一度リビングへと向かうため、階段を下りる。

 そして、宛がわれた朝食を食べようと冷蔵庫へ飲み物を取りに行ったとき――彼女は朔夜が残した一つの痕跡を発見した。

「あら?」

 冷蔵庫に貼られた一枚の書置き。

 二つ折りにされたそれの中身を開くと、朔夜の字でラプラス宛てにメッセージが書かれていた。

 ラプラスが書置きの中身を読んでみると……

「なっ……なんじゃごりゃあああああああああああああああああ!!」

 読み終えた瞬間、思わずそんな声を上げ驚愕した。

 

           *

[newpage]

黒薔薇町 悪原家

 

「さ……サっ君が、蒸発したぁぁ――!?」

 初っ端からひどい勘違いを起こすリリス。ラプラスは彼女の誤解を解こうと弁明する。

「ちっ、違うわよリリスちゃん落ち着いて。蒸発なんかしてないから」

 かたわら、レイたちは朔夜が残した書置きの中身を見てみる事に。

「えーっと何々……『訳は言えないが、一週間ほど家を空ける。夕食はリリスの家で食べてくれ。オレが戻るまでの間、家はなるべく綺麗に保つようにする事。あと資源ごみと燃えるごみを一色単にしない事 朔夜』……」

 まるで留守中の子供を心配する母親のような文言だと、読んでいたはるかたちは率直に思った。

「相変わらず置手紙が好きなイケメン王子だ。しかもさり気無くご婦人の分まで私に食事を作れとは……いい度胸ではないか!!」

「それにしてもラプラスさんを一人残して、朔夜さんは一体何処へ行かれたのでしょう?」

「魔力の波長を辿る事はできないんですか?」

「もちろんしたわよ。でもあの子ったら、あたしに探されるのを見越して魔力のパターンを変えてしまったのよ!! まったく、そんなに一人旅を邪魔されたくないって言うの!!」

「何となく朔夜さんの気持ちは分からなくもないですがね……」

「クラレンス、それどういう意味よ!?」

「あ……えっと……特に深い意味は無いんですが!!」

 と、思わず苦い表情を浮かべるクラレンス。

 それなりに長い時間ラプラスの行動を見て来たから、クラレンスにもレイほどではないものの、彼女に振り回される不都合さを理解し始めていた。

「ん?」

 そのとき、テミスがふとリリスに目線を運べば――彼女はリビングの片隅でひとり蹲り、意気消沈としていた。

「リリスちゃん?」

「ちょっと大丈夫!?」

「大丈夫ですって……大丈夫な訳ないじゃない!!」

 露骨なまでにリリスは朔夜がいない事を寂しがっていた。

 婚約者である朔夜への愛の度合いが少々強すぎるリリスの場合、彼と一緒にいられない事が何よりも耐えがたい苦痛だった。それがこの先あと一週間続くというのなら、その寂寥感は並み一通りではない。

「私が何をしたって言うのよ、一週間もサっ君と会えないなんて……こんなに理不尽で残酷な拷問はないわ!! こんな仕打ちを受けるくらいなら、堕天使に黒板を目の前で引っ掛かれる方がよっぽどましだわ!!」

「ああ……そうなの」

 いつも強気なリリスからは想像もつかない弱々しい姿に、テミスは若干戸惑いを抱く。ちなみにテミス的には、恋人に会えないよか黒板を目の前で引っ掛かれる事の方が苦痛な事だと感じていた。

「リリス様、お気を確かになさってください! ご安心を!! イケメン王子が不在の間は、このわたくしが支えとなります!! 必ずや、あなた様の心にポッカリと開いた穴を埋めて差し上げますぞ!!」

 朔夜がいない事を好機と捉えたレイは、ここで一気にリリスに対する好感度ポイントを稼ごうと積極的な姿勢を見せるのだが……

「レイにサっ君の代わりが務まる訳ないじゃない!! あんた自分がどれだけカッコいいと思ってるのよ!?」

「え!! いや……あの……自分で言うのも何ですが、こう見えてこの顔は御近所の奥様方からはかなり人気が高いのですぞ!!」

「へぇ~。アンタ人妻にモテる顔だったんだ」

「でも肝心のリリスには全く受けてないみたいだけど」

 グサっ、と突き刺さる一言だった。よりによってテミスの口からそのような先鋒鋭い毒舌が飛び出すとはレイ自身思ってもいなかった。

 この上もないショックを抱くとともに、レイは朔夜不在に落ち込むリリスの隣に体育座りをし、片隅で縮こまった。

「あははは……テミスさんも意外と毒舌ですね」

「レイさん、誠に申し訳ありません!」

 悪気は無いと思っているテミスの代わりに、ピットがレイに謝った。

 それにしても、レイだって天使から手厳しい発言をもらうとはさすがに思っていなかっただろう。

 

           *

[newpage]

 黒薔薇町を離れ、十六夜朔夜は日本からおよそ七九七〇キロメートル離れた北ヨーロッパ――スカンディナヴィア半島に位置するスウェーデン王国の、とある渓谷地帯に足を踏み入れていた。

 

           ≡

 

スウェーデン王国 渓谷地帯

 

 日本全土に北海道をもう一つ足した程度の国土を持つスウェーデン。

 だが、面積の割に人口は少なく、人口密度は日本のおよそ十九分の一程度だと言う。そんな理由から、豊富な資源はもちろん、手付かずの土地も数多く存在する。

 朔夜が踏み入れた渓谷もそんな土地のひとつで、大昔から人々は谷の奥には恐ろしい魔物が棲むとして、探検家を除いて地元民は誰一人近づこうとはしなかった。しかも調査に出向いた探検家もその悉くが消息を絶って二度と帰ってこなかった。

 朔夜の目的は人々が忌避し畏れる古代の魔物に遭うためだ。

 若干十四歳の悪魔の少年が何故、たった一人でこのような場所に生息すると言う魔物に遭う必要があるのだろうか。その胸の内を知るのは、朔夜本人だけである。

 数ある難所と言う難所を乗り越え、朔夜はついに目的の魔物が棲む谷の最深部へとやってきた。

 魔物との戦いの備え、首尾は万端整っている。魔物の位置を把握すると、朔夜はバスターナイトの姿に変身。さらに奥を目指す。

 谷の奥から聞こえるゴーゴーゴー……、という虎落笛(もがりぶえ)のような音を聞くと、朔夜は眼前の暗みに向かって声を発した。

「――ブレイズ・ドラゴン、〝火炎龍〟の生き残りとお見受けする」

『……誰ゾ』

 野太い声で朔夜の声に反応するもの。

 視界が開けると、猛火の炎に例えられる紅蓮色に輝くゴツゴツとした鱗を持った凶悪そうな顔のドラゴンが姿を現した。

 それこそ古来より人々が「紅蓮の悪魔」と呼び魔物と畏怖してきたドラゴンの生き残り、【火炎龍】。またの名を【ブレイズ・ドラゴン】だ。

「我が名は暗黒騎士バスターナイト。来て早々失礼仕るが……貴殿の持つ力を根こそぎ貰い受けに来た」

 なぜ朔夜がたった一人この地に足を踏み入れたのか。

 単純明快にして、答えはひとつ。今より強い力を求めての事だった。リリスとその仲間たちを守る為に、朔夜は貪欲にも今以上に強い力を欲し、その為の糧として眼前のドラゴンを選んだのだ。

『ブッ、ハハハハハハハハハハハ』

 朔夜からの突拍子もない申し出に対し、ブレイズ・ドラゴンは周りの空気が震えるほどの笑いを発した。

『笑ワセルナヨ、小僧メガ』

 ドラゴンは皆誇り高き存在だ。悪魔や人間に限らず、すべての生き物を下等と見なし自分たちこそが最も優れた存在であるという自負を長い事持ち続けている。スプライト・ドラゴンのレイが朔夜に対抗心を抱くのは単なる嫉妬心だけではなく、元来そう言う気質だからである。

『ソウヤッテ我等ノ力ヲ求メテ、無謀ニモ挑ミカカッテ来タ悪魔、堕天使、ソシテ人間ガ一体ドレダケ居タ事カ。貴様ノ様ナ粋ガッタ者ガ現レル度、我ハ愚者共ノ魂ヲ根コソギ奪ッテヤッタ。ドノ面下ゲテホザキオルカ』

「オレは貴殿とこのような問答をする為に、この地へ足を踏み入れた訳ではない。オレに斃されて糧となるのかならないのか、どちらなんだ?」

『ハハハハハハハ!! コレハマタ……随分ト威勢ノイイ言葉ダ。ナニユエソコマデ力ヲ欲スルカ、若キ騎士ヨ』

 ブレイズ・ドラゴンに挑みかかって来た者の中で、朔夜は最も若く、気骨のある相手だった。だからこそ彼に興味が湧き、彼が自らを斃して力を得ようとする理由が気になった。

 問いかけに対する朔夜の返答はと言うと……

「オレには命を懸けてでも護るべき女性(ひと)がいる。そして、仲間がいる。大切な者たちを何があっても守り抜く力がオレには必要なんだ!!」

『喧シイゾ!!』

 怒声を発したその瞬間、朔夜は凄まじい威圧感を覚えた。実際、ブレイズ・ドラゴンの声は谷中へと轟き、この地に住まうすべての生き物が戦慄した。

『……何ヲ言イ出スカト思エバ。ソンナ事ハ貴様ノ自己満足デシカナイノダ。誰モ貴様二守ラレル事モ望ンデイナケレバ、ソレヲ許容スル事モナ』

「たとえそうだとしても……オレは力が欲しい。婚約者を、リリスへと降りかかる災厄すべてから薙ぎ払う圧倒的な力が!!」

『ソレホドニ力ヲ欲スルカ…………哀レナ』

 言うと、ブレイズ・ドラゴンは巨体を起こす。そして、朔夜の事を見下ろしながら語気強く挑発する。

『ナラバ思ウ存分力ヲ得ルガ良イ!! コノ我ヲ……〝ブレイズ・ドラゴン〟ヲ下シタ暁ニナ!!』

 この挑発を受け、朔夜は――暗黒騎士バスターナイトは魔盾バスターシールドから魔剣バスターソードを取り出し、力強く返答する。

「望む所!」

 

           *

[newpage]

異世界 洗礼教会本部

 

「諸君たちに誠哀しき報せをせねばならない」

 ホセアはエレミア、モーセ、サムエルら三大幹部を招集すると深刻そうな表情を浮かべるとともに、人間界の映像を公開する。

「これを見給え」

 空間上に投影された映像が砂嵐から徐々に克明な画へと変わる。

 映し出されたのは、先日東京で発生した連続予告爆破事件の首謀者イフリートと、ディアブロスプリキュアによる戦闘シーンだ。

「こやつはクリーチャー!」

「おい、あれは!!」

 幹部たちが目を凝らす中、とりわけ驚いた要素がある。

 天界――厳密に言うとホセアとの間で契約を結び、洗礼教会に出向して悪魔討伐の為に戦って来たはずの同志――テミス・フローレンスこと、キュアケルビムとそのパートナー妖精ピットが、リリスたちと何食わぬ顔で共闘し、更には日常生活においても平穏無事に過ごしているという光景だ。

 通学途中の彼女とリリス、はるかの表情は年相応の女子と大差ない朗らかなものがあり、以前のような敵意は欠片も見られない。

「キュアケルビム……やはり我らを裏切ったか!!」

「所詮同じ穴の貉。相手が悪魔であっても、プリキュアはプリキュア同士で結び合うという事かよ」

 怒りの感情も湧いたが、薄々こうなるのではないかと言う気持ちも全くないわけでは無かった。

 だが結果として共通の目的を見出し、人類の平和の為に戦って来た同志が自分たちと袂を分かった以上、最早仲間として見る事は出来ない。

 ホセアは三人に対し、苦々しい顔を浮かべながら説明する。

「キュアケルビムの裏切り行為は我らとしても大変遺憾なものである。しかし、悪魔共の手に堕ちた以上、我らは悪魔共々キュアケルビムを断罪しなければならない。それが神の御意志である――」

 その言葉に、幹部たちは耳を傾ける。

「諸君に最後のチャンスを与える。キュアケルビムとディアブロスプリキュアを『正義』の名の下に誅するのだ。我々の崇高なる目的を阻もうとする邪悪の根源……それこそディアブロスプリキュアなのだ」

「「「はっ!!」」」

 威勢よく返事をする三大幹部。

 そんな彼らにコヘレトはふてぶてしい笑みを向けて言って来る。

「ひひひ。ホセア様がどんだけ寛大だったか分かってんのか? 今度失敗なんかしたら……お前らに生きる資格は無ぇって言ってんだよ」

「ふん、貴様に言われるまでも無い!」

「ご安心下さい、ホセア様。必ずや悪魔共並びに裏切り者のキュアケルビムに、裁きの鉄槌を下して参ります!!」

「どうか、我らの勝利を信じ神へ祈りを捧げていただけますか?」

「よかろう。諸君に神の加護があらん事を――」

 これ以上の失敗は許されない。ホセアから貰った最後のチャンスを何としても生かすべく、三大幹部はテミスとディアブロスプリキュアの討伐へ出発した。

 

「あれが噂の洗礼教会三羽烏か……」

 彼らが教会を出発した直後、礼拝堂の中で秘かに身を潜め様子を窺っていた人物が、ホセアとコヘレトの前に姿を現す。

 コトコト……、足音を立てながら近づく不敵な笑みを浮かべる青年。背中に生えた十の漆黒の翼を持つ者――堕天使の王ダスクは、右手を顎に沿えながら幹部たちへの率直な印象を漏らす。

「確かに……ありゃ典型的な能無しみてーだな。俺からのアドバイスだけどよぉ、甘っちょろい事は言わずにさっさと斬り捨てちまえばいいじゃねぇか?」

 ホセアに対し、ダスクは堕天使染みた助言をする。これに対しホセアの見解は……

「あの三人は私を信じている。その私が彼らを裏切る事など罷りならぬのでな」

「だーかーら!!」

 言いながら、一度は裏切った元契約者であるダスクに、コヘレトが主張する。

「連中がヘマした時、この俺が直々に罰を与えてやるんすよ!! 元々俺は汚れ役がお似合いだからな」

「はっ、違いねーな」

 ダスクもコヘレトの言葉には素直に同意した。

 

           ◇

[newpage]

黒薔薇町 私立シュヴァルツ学園 二年C組

 

 朔夜が修行に発ってから、一週間が経過しようとしていた。

「悪原さん、どうしちゃったのかな?」

「あんな悪原さん見るの初めてだよな……」

「何があったんだろう?」

 リリスは抜け殻の状態であり、三日目以降からは深刻な禁断症状を発症し、校内ではちょっとした噂になっていた。

「………」

 学校でも家でも、彼女はすっかり充電が切れたスマートフォンの如く無反応。気の抜けたコーラのように痺れるような毒舌を言わなければ、覇気もない。

 じっと虚空を見つめる、いやそれすらも叶わない乾いた相貌から、何も窺い知る事は出来ない。地に落ちた堕天使ルシファーの意を、神でさえ解する事が出来なかったように。

「あの~、リリスちゃん」

 ここまで酷くなるものなのかと、内心思いつつはるかが心配になって声をかける。

 はるかから呼びかけられると、リリスは油が抜け欠けているロボットを彷彿とさせる、機敏とは程遠い反応を見せる。

「……何かしら、はるか……」

「え~っと……ちょっとお聞きしたいことが……」

 すると、はるかの質問に答える前にリリスの口から言葉が飛び出した。

「……花火が赤や黄色など鮮やかな色を出すのは、火薬に含まれる化学物質によって特定の色を出すからで、これを一般的に炎色反応と言うんだけど……」

「リリスちゃん、誰もそんな事は聞いていませんよ」

 質問の意図からは乖離した返答だった。はるかが訊きたいのは率直に「どうしちゃったんですか? 大丈夫ですか?」、という気遣いの言葉。別に高校で習う化学の講義を先取りして聞きたい訳じゃなかった。

「しかしまぁ、目にも当てられぬほどの禁断症状よね。あなた仮にも悪魔でしょ、もっと堂々と気丈に振る舞いなさい!」

「……サっ君………カムバ~ック」

 諌めるテミスの言葉などまるで耳に入らない。兎に角リリスは、一刻も早く朔夜が帰ってきて欲しいと切実に思っていた。

 こんな彼女を見て、テミスは深い溜息を吐いたのち、はるかの方を見て「朔夜君、まだ帰ってこないの?」と聞いてみた。

「ラプラスさんの方もまだ連絡もらってないみたいですよ。もう直ぐ一週間が経とうと言うのに、未だに音沙汰無しです」

「あ~~~……足りない……圧倒的に〝サっ君成分〟が足りていない!!」

「何なんですかそれ?」

 聞いたことも無い単語だった。百パーセント地球上の物質ではないと、はるかとテミスは容易に確信する事は出来た。

「私にとっては生命維持に不可欠な物質なの……長時間に渡って摂取できないと、体のあちこちに不備が……ああああ、欲しい~~~猛烈に欲しい~~~!!」

 理性を保てない程にリリスは苦悶する。

 半ば朔夜という存在に依存していた彼女にとって、朔夜を断つ事は――長年アルコールとタバコに溺れた中毒者が病気等を理由にキッパリと止める時に味わうものと同じ苦痛を意味している。

 しかし、テミスは今のリリスを見てもっと相応しい表現をしてくれた。

「リリス……あなた、今の姿を鏡で見てみなさい。完全に覚せい剤を使用した後の姿よ」

「結構譬えが生々しいですね……」

 実に的を射ていたと思う。

 決して朔夜を麻薬のように表現する事は本意ではないが、リリスの尋常じゃない空虚感、渇望する様を見るとついそう思いたくもなる。

「あ~~~……サっ君はやっぱり私なんかよりも他の良い子と居る方がずっと幸せなのかな。そうよ、きっと私がわがままで品の無い女だから見限られちゃったんだわ」

「思考もいつも以上にネガティブです……」

「もうこうなったらどうしようもないわね」

 はるかとテミスも、手の施しようがなかった。

 悪原リリスを正気に戻す事が出来るのは、この世で十六夜朔夜――ただ一人だけなのである。

 

           *

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黒薔薇町 悪原家

 

 その頃、悪原家に集まっていた使い魔・妖精組はと言うと……

「ちょっとあんたぁっ!!」

 昼食の準備をしていたレイだったが、突然剣幕を浮かべたラプラスが怒鳴り声を発してきた。

「な、なんですかご婦人!?」

「これは一体何なのよ?」

 言いながら皿をガンっ、と乱暴に叩きつける。その上には昼食として作ったタコ焼きが五個乗っかっている。

「……出来立てのたこ焼きですけど。こう見えても自信作なんです!!」

 と、レイは胸を張るのだが、ラプラスは到底承服する事が出来なかった。

 ラプラスは怒り心頭にタコ焼きの一つを手に取ると、中を割って生地に包まれたタコ焼きの要たるタコを取り出した。

「タコの中身がこんなに小さいなんて、あたし絶対納得できないわ!! 今すぐ作り直しなさい!!」

 そう、ラプラスの怒りの矛先はレイが切ったタコの大きさにあった。

 レイとしてもタコは大き過ぎず小さ過ぎずを意識したつもりだったが、ラプラスからすればかなり小さい部類だったようだ。

「ご婦人、どうか落ち着いてください!! あまり大き過ぎますとタコが口の中で噛み切れないなんて事もあり得ますし……第一、材料のタコにだって限りがあるのですから」

「そんなの知った事じゃないわね!! あたしはね、大きなタコじゃないと食べないの!! ケチケチしてないで早く大きい物を作りなさい!!」

 とんでもないクレーマーだった。兎に角自分の欲望を開けっぴろげに出すラプラスの辞書に、妥協するという言葉は無い。

 どうして毎度の事ながら理不尽な要求ばかりを言って困らせるのか――レイは彼女に文句を言われるたび、胃がキリキリした。

「く~~~……イケメン王子め、なぜまだ帰られぬのだ!? お陰で私は毎日毎日ご婦人の理不尽なクレームを受ける羽目に……」

「クレームは客からのメッセージなのよ!! それを聞いてどうにかするのか生産者の努めでしょうが!!」

「チクショー!! 不公平だ!! やってらんねーよ、コノヤロウ!!」

「逆切れしてんじゃないわよ!! あんたは言われた通りに作ればそれでいいのよ!!」

「私はご婦人の使い魔でも召使いでもないのですぞっ!!」

「将来朔夜とリリスちゃんが結婚すれば、あんたは私の下僕も同然じゃない!! だったら今からこき使っても大差ないわよ!!」

「どういう解釈をすればそう言う答えに辿り着くのですか!? 誰がこんなワガママで自分勝手なご婦人の下僕ですって、誰がぁ!!」

「無駄にカッコつけたがりで、ちょくちょくウザイ事をしている青かびみたいなあんたよ、あんた!!」

「何言ってんですか!! そっちこそチーズ臭いもの棚に上げて言ってくれますね!!」

「なんですって――!!」

 タコ焼きの大きさのクレームから始まり、どちらが主従関係が上か下か、そして互いの粗探しから始まる罵詈雑言へと発展し、当初の会話の内容からは完全に主旨がズレてしまった。

 実に喧騒とした光景に、ピットはすっかり呆気にとられてしまっている。そんな彼女の側で、クラレンスが二人の様子を静観する。

「あ……あの……少々賑やか過ぎる光景ですわね。もしかして、いつもこんな感じなんですか?」

 テミスと生活している限りでは決して起こり得ない事態に心底戸惑いを抱くピット。クラレンスは無理もないと思いつつ、正直に話をする。

「えーと、いつもという訳ではないのですがね……まぁ、あの二人に関して言えば一種の痴話喧嘩のようなものですね」

 クラレンスは飽く迄そう言うが、ピットからすれば痴話喧嘩にもなっていないただの罵声の応酬にしか見えなかった。

「……内容もそうですが、ひどく混沌としていますね。まるで太古に起こった、天使と悪魔、堕天使による大戦をこの目で実際に見ているかの様ですわ」

 レイとラプラスの喧嘩を指して、ピットは古の戦争に擬えた。

「そういえばピットさんはテミスさんと同じ天界出身でしたよね? かの大戦がどのような経緯で起こったのか是非とも天界サイドの視点で話を聞かせてほしいのですが……」

 以前から気になっていた太古の戦争の謎。人間や悪魔よりもこの手の事に詳しいであろう天界側の知り合いが目の前にいるという事実にかこつけて、クラレンスはピットに懇願する。

 すると、ピットは逡巡した末に自分の知りうる限りの全てをクラレンスなら話してもいいという結論に達した。

「――わかりました。では、不束者ながらお話させていただきます。私が天界に居た頃、目にした書物にはこう書かれていました」

 そう言うと、ピットは書物で見た内容を思い起こしながら語り始める。

「――『神と天使、堕天使、悪魔の三大勢力が戦争をしていた時、異形の者たち、そして人間がそれぞれの勢力に手を貸していました。』……ここで言う〝異形〟とは我々の知るクリーチャーの事ではありません。いずれにしても、三大勢力を中心にその殆どがいずれかの勢力に与する形で関わりを持っていました。ただし、その中には例外というのがありました……」

「例外?」

「『ドラゴン』です。あまり知られていない事実ですが、彼らは正確には〝生物〟ではなく、むしろ異能の存在に近い者達なんです」

「そうなんですか?」

 意外な事実に驚くクラレンスが相槌を打つ。ピットは更に話を続ける。

「彼らはどの勢力にも属さず、大半は戦争など我関せずで、欲望のまま好き勝手に生きていたのです。ところが戦争の最中、大暴れをしたとんでもないドラゴンがいたのです」

「とんでもないドラゴン、ですか!?」

「はい。何処からとも無く突如としてこの世界に現れた『それ』は、世界の覇権を巡る大戦争などまるでお構いなし。戦場をたった一匹で暴れ回り、破壊の限りを尽くしたのです」

「なんでそんなに暴れたんですか?」

「それは私にもわかりません。推察するに、最初から真面な理由など無かったのかと思います。暴挙に走る事そのものに関して理由は特に必要ありませんから」

 意味深長な言葉だと、クラレンスは心の中で思い――その後も彼女の話を真摯に聞き続ける。

「そういう訳で、難儀なこのドラゴンを先に始末しないと戦争どころではない。自分達の命すら危ぶまれる。ゆえに、三大勢力は不測の事態に対応すべく一時的に休戦をしてこの最低最悪のドラゴンの始末にかかったのです」

「たった一匹のドラゴンを止める為に休戦とは……一体どれだけ暴れたと言うのですか?」

「文献によれば、世界を破滅寸前にまで追い込んだとの事です。三大勢力の干渉によってドラゴンは怒り狂い……神、魔王、堕天使の支配に全く(まつろ)おうとはしませんでした。それどころか、〝神如きが、魔王如きが、この世で最も崇高な存在である我に歯向かな〟と……まぁ言い方は少し汚くなりますが、要するに完全にバカ丸出しの逆切れ状態だったんです」

「まさに最低最悪最恐のドラゴンですね……」

「しかし、ドラゴンの力は凄まじく、三大勢力が束になっても容易に倒せる相手ではありませんでした。世界が原初以来の光と闇、混沌に包まれそうになった……その時でした。天界側からひとりの勇敢かつ優秀な戦士が現れたのです。それが伝説のプリキュア――キュアミカエル様なのです!!」

 最後に口にした単語、キュアミカエルのところをピットは強調する。

「キュアミカエルって……確か以前、はるかさんから聞いた事があります! え!? それじゃあ、まさか彼女が……」

「いかにも! ミカエル様は、自らの命を引き替えに最低最悪最恐のドラゴンを倒し、その魂を永遠の虚無に満ちた【次元の狭間】へと封印したのです。そして現在この世界は、ミカエル様の勇気ある行動とその尊い犠牲の下によって成り立っていると言っても過言ではないのです。ちなみに、ミカエル様はテミス様の祖先なのですよ!!」

「そうでしたか……」

 意外な事実を知る事が出来た。

 やがて、昔話を語り終えたピットはおもむろにソファーから離れる。

「と……世界の歴史を語るのは、これくらいにしておきしましょうか」

 そう言うと今度は、未だにキッチンで姦しく不毛な罵り合いを続けているレイとラプラスの方へと近寄って行き、心を鬼にして大声で叫んだ。

「コラぁぁ――!! いつまでも喧嘩なんてしてないで、さっさとお昼ご飯をつくりなさぁぁ――い!!」

「「は、はい!!」」

 普段怒鳴る事のない相手から怒鳴られた事もあり、レイとラプラスは瞬時に喧嘩を止めると、それまでの諍いが嘘のように二人で協力して昼食の準備に取り掛かったのだった。

 

 午後三時三十分。

 放下時間を迎えたリリス、はるか、テミスの三人は一緒の帰路を歩いていた。道中、相変わらず朔夜欠乏症のリリスは常に欲求不満の声を発していた。

「あ~~~……このどうしようもなくサっ君成分を欲する私は、一体どうすればいいの!?」

「知らないわよ」

「えっと……リリスちゃん、とりあえず普段通りに振る舞ってくれませんか? らしくないですよ」

 はるかもテミスも正直どうしていいのか分からないのだ。テミスの場合は、完全に呆れてしまっているし、はるかもはるかで平時のリリスに戻って欲しいと切に訴えかけるが、要求されたところで直ぐに戻れるほど簡単な話ではなかった。

「私だって普段通りに振る舞いたいわよ、できることなら!! でも……でも今は正常な状態じゃないって事も察してよ~~~」

 何だか哀れだと思う反面、少しだけかわいいとも思った。

 こう言ってはなんだが、朔夜不在のお陰ではるかたちは日頃なかなかお目にかかれないリリスの愛らしい内面を垣間見る事が出来たのだ。

 

「悪魔に身売りしたというのは本当だったようだな、キュアケルビム」

 そのときだった。

 頭上から声が聞こえたと思えば、リリスたちを空から見下ろす三人の神父がいた。

 見間違える事はない――エレミア、モーセ、サムエルの洗礼教会三大幹部だった。

「ハヒ!! 久しぶりに出ました!!」

「「「久しぶり言うな!!」」」

 声を揃えてはるかの言葉に抗議する三人。

「洗礼教会!!」

「あなたたち、どうして!?」

「どうして? わざわざ理由を尋ねるまでも無いだろう。貴様は天使でありながら悪魔たちに魂を売り払い、我々を――神を裏切ったのだ。その罪は万死に値する!!」

「覚悟は出来てんだろうな? お前共々、ディアブロスプリキュアを殲滅してやるぜ!!」

「モーセ!! サムエル!! 今こそ、我らの力をひとつに合わせるのだ!!」

「「おう!!」」

 エレミアの声を合図に、モーセとサムエルの二人は首にぶら下げた十字架を手に取り、エレミアもまた同じ動作をする。

 三人は頃合いよく、三つの十字架を掲げると威勢の良い声を発した。

「「「三つの力を今こそひとつに束ね、平和の騎士よ生まれよ!! ハイパーピースフル!!」」」

 三つの十字から目映い光が発せられると、神々しくも強い力を秘めた光は三人の肉体を吸収、取り込んでいく。

「「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」」

 吸収された三人は光の中で体組織を再構築させていく。

 やがて、光が晴れた瞬間――身も心も平和の騎士となった神父たちの姿がそこにはあった。

『ハイパーピースフル!!』

「幹部たちがピースフルに……!」

「変身しました!!」

「まさか、こんな事が出来るなんて!?」

 任意に指定した物質をピースフル化させるのではなく、自らがピースフルとなれる事を知らなかったリリスたち。呆気にとられた様子で立ち尽くしていると。

「リリス様っ!!」

「テミス様、ご無事ですか!?」

 運の良い事に使い魔たちがピースフルの気配を感じとり、現場へやってきた。

「はるかさん、このピースフルは!?」

「幹部さんがピースフルに合体しちゃったんです!」

「ええ!? 男同士で合体!? ……うっ、気持ち悪っ!」

 何故かラプラス一人だけが変な風に解釈・想像してしまい、脳内に浮かび上がった男色のイメージを考えるや否や露骨に顔を引き攣った。

《覚悟するがよい、プリキュア!!》

 その一方で、幹部たちはただ一度のチャンスを何としても生かそうと必死な様子だった。

 朔夜欠乏症で呆けていたリリスもこのときばかりは流石に正常な理性を取り戻すと、目の前の現実を重く受け止め――いつもの調子で周りに呼びかける。

「こうなった以上戦って勝つしかないわよ。はるか、テミス、やるわよ」

「「はい(ええ)!!」」

 

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「シャイニングパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」

「不浄を焼き払う聖なる光! キュアケルビム!」

「偽りの善幸を根絶やし!」

「邪な悪行を断罪する黒き力!」

「我ら、悪魔と魔女、天使のコラボレーション!!」

「「「『ディアブロスプリキュア』!!」」」

 

《俺たちの力見せてるやるぜー!!》

『ハイパーッ!!』

 三人が合体し、変身した《ハイパーピースフル》は腰に帯びた巨大な鞘から魔を断ち切る武器・聖剣を抜き放った。

《おらあああああああ》

 頭上へ振り上げると、サムエルの意思の下にベリアルたち目掛けて豪快に一太刀を振り下ろす。

「「「きゃあああああ」」」

 ドン、という音が鳴り響く。その衝撃は凄まじく、ベリアルたちは容易に弾き飛ばされた。

《まだまだ!!》

『ハイパーっ!!』

 モーセの意思の下に眼から破壊光線を放ち、ベリアルたちの動きを攪乱しつつ、ハイパーピースフルは標的であるケルビムの動きを正確に捕えようとする。

 そして、彼女が間合いに入り込んだその瞬間――ハイパーピースフルは口角つり上げてから、巨大な剣を彼女目掛けて振り下ろす。

「はっ!!」

「テミスさん!!」

 ケルビムが気付いたとき、凶刃はすぐ目の前に迫っていた。

 ウィッチが彼女の身を案じたそのとき、ベリアルが割り込む様に間から飛んでくると、ケルビムに一撃が加えられるか否かのタイミングで彼女を窮地から救った。

「リリス!!」

「間一髪ね」

「どうしてあんな真似を?」

「さぁて、何故かしらね。私の気まぐれにでも聞いて頂戴」

 言わずもがな、ベリアルがケルビムを助けたのは彼女をディアブロスプリキュアの一員であると認めた証拠であるとともに、洗礼教会という共通の敵から大切な友を守ろうとしたからである。

 そんなベリアルの行動を見て、ハイパーピースフルとなったモーセは嘲笑う。

《裏切り者の天使もさることながら、悪魔が天使を助けるなどあってはならぬ事だ! キュアベリアル、貴様への積年の恨み……今ここで晴らしてくれる!!》

『ハイパーっ!!』

 ハイパーピースフルからの猛攻に耐えながら、ベリアルはグロスヘルツォークリングを用意する。

「ふん。進歩の無い相手って本当に嫌になるわね。いつまで自分たちが『世界の正義』だと主張すれば気が済むのよ!」

 怒声を上げながら、いざ指輪の力を解放しようとした時。

「う……」

 不意に目の前が暗く歪んだと思えば、ベリアルは突然の倦怠感に襲われた。さらに軽い頭痛も併発し、立っている事もままならなくなって片膝を地面に突いた。

「リリスちゃん!!」

「リリス様!!」

 何の前触れも無く訪れたベリアルの容態の悪化を危惧するウィッチたち。

「は、は、は、は、は」

 ベリアルの顔からは冷や汗が流れ、顔も血色が優れず息を上げている。

「リリス!! ちょっと、大丈夫!?」

「リリスさん!!」

(こんな時に限って……私はまだ、倒れる訳には行かないのに!!)

《何だか知らんが、チャンスだ!!》

《今こそ、引導を渡してやろう!!》

《いくぜテメェーら!!》

『ハイパー!!』

 ベリアルの容態悪化を好機と見たハイパーピースフルが、聖剣片手に彼女の方に向かって来る。

「いけません!! ピースフルが!!」

「させませんよ!!」

 このまま彼らの思い通りにさせるわけにはいかなかった。ウィッチは、ベリアルを守るためにヴァルキリアフォームへと変身する。

「ヴァルキリアセイバー!!」

 ベリアルの前に立つと、ハイパーピースフルの剣閃を自らが受け止める。

「ピット、私たちもはるかの援護に回るわよ!!」

「はいです!!」

 ケルビムもまた、あのとき自分を守ってくれたベリアルを守る為、オファニムモードに変身してウィッチの援護へと回る。

「はああああああああああああ!!」

 ピットが変化した聖槍ジャベリンで、ハイパーピースフルの体を射抜こうとする。だが、火花こそ上げども敵の防御力は相当に固かった。

《こんなものが……』

《我らに》

《効くかっよぉぉぉぉぉ!!》

『ハイパーっ!!』

 業を煮やした幹部たちはハイパーピースフルの力を最大限に発揮し、ウィッチとケルビムの攻撃を退ける。

「「きゃあああああああああああああ!!」」

 弾かれた反動で、二人は地面に激しく体を叩きつけられ重傷を負う。

「はるかっ!! テミスっ!!」

「クラレンスっ!! ピットっ!!」

《なはははははは!! 見たか、我等の結束を!! 聖なる者と邪悪なる者が交わるから、不純が生じ本来持つべき力が損なわれる。そして、このような結果を招くのだ!! キュアケルビム、いやディアブロスプリキュア!! 自らの浅はかさを死の瞬間まで呪うがよい!!』

「いけない、このままじゃ!!」

「もう~、こんな時にウチの朔夜はどこで何をしてるのよ!!」

(サっ君………お願い、サっ君!! 助けてぇ――!!)

 窮地に陥り、ベリアルが婚約者の名を心の中で叫んだそのとき。

 

 何処からともなく、空気中を漂う鮮やかなバイオリンの音色が聞こえてきた。

《なんだ?》

 ハイパーピースフルも攻撃を一度中断し、聞き入ってしまう。

 鮮烈的で躍動感溢れる音色。人の心を巧みに掴むそんな音色を出せる演奏家はそう多くない。

 ごく身近にそれが出来る者がいるとすれば、ベリアルたちが良く知る人物だった。

「このバイオリンの音色は……」

「ええ……間違いないわ!!」

 確信があるのか、ラプラスは笑声を発する。

 やがて、音色が収まり全員の視線がある特定の方角へと向けられる。

 眼前に映る街灯。その上にバイオリン片手に立ち尽くす紺碧の鎧を身に纏いし者――暗黒騎士バスターナイトこと、十六夜朔夜が一週間ぶりに黒薔薇町へ帰還した。

「朔夜さんっ!!」

「おお、イケメン王子が帰って来たぞ!!」

 朔夜が帰って来た。皆彼の帰還を心待ちにしていた。

「サっ君!!」

 ベリアルは他の誰よりも彼の帰りを切望していた。ゆえに、彼が自分の元へ駆け寄ってきたとき、真っ先に彼へと飛び付いた。

「もうどこ行ってたの!? 私に黙って一週間も音信不通だなんて……ひどいよ~!」

「すまない。キミに黙って長い時間留守にして。すべてはリリス……キミやみんなをあらゆる災厄から守る為に力を磨いていたんだ」

「力を磨いていた!?」

「どういう事ですか?」

 皆が気になるところ、バスターナイトはベリアルを一旦解放すると、一人ハイパーピースフルがいる方に体を向ける。

「こいつは、オレに任せてくれ。みんなに迷惑をかけた分、オレがみんなを護る」

「サっ君……うん。わかったよ」

「お願いしますね、朔夜さん!!」

「今のあなたになら、すべてを任せられそうだわ」

「仕方ないな。美味しいところはすべて貴様に譲ってやるとするか!」

「――ありがとう」

 改めてバスターナイトは、自分がベリアルたちからの信頼を得ているのだという事を悟った。信頼されているからこそ、彼女たちはこの戦いを自分に託してくれた。

 何としても彼女たちの期待と思いに全力で答える必要があると感じた。バスターナイトはハイパーピースフルを力強い眼で見つめ対峙する。

《ふん、あまり粋がるでないぞ小僧!!》

《貴様如きの力で我等三人の力が合わさったハイパーピースフルの力に敵うものか!!》

《返り討ちにしてやるぜ!!》

『ハイパー!!』

 バスターナイト目掛けて突進してくれるハイパーピースフル。剣を掲げ豪快に振り下ろすが、既に前方にはバスターナイトの姿は無く、彼は鈍重な斬撃を躱し背後に立っていた。

「――オレはもう、どんな敵にも屈しない。その為にこの力を手に入れたんだ!!」

 言った瞬間、それは起こった。

 バスターナイトの身を包む鎧が燃え盛る紅色の炎を噴き出し、彼の全身を瞬く間に包み込む。

「はああああああああああああああああ」

 ベリアルたち、そして敵であるハイパーピースフルがその身に感じる圧倒的な熱量。紺碧色だった鎧が紅蓮に輝くものへと変わって行き、至る所が鋭くなる。

 さらに、左腕にはドラゴンの頭部を模したガントレットが装備されている。この状態でバスターナイトは右手に片手剣を、左手に巨大な翼の盾を追加装備する。極め付け、体内のパワーを全放出し背部から五対の悪魔の翼を生やし変身完了する。

 

「バスターナイト――スタイル・クリムゾンデューク」

 

「なんと!! 鎧が紅く!!」

「紅蓮の炎……あれは紛れも無く、ブレイズ・ドラゴンの力そのもの! イケメン王子は、あの凶悪な火炎龍の力をその身に宿しているのか!!」

「バスターナイト……クリムゾンデューク!!」

「かっこいいです~~~!!」

「サっ君………やっぱり、あなたは私やみんなの騎士(ナイト)だわ!!」

 一週間に渡るブレイズ・ドラゴンとの死闘の末、バスターナイトが手に入れた新たな力――ドラゴンの力を体内に宿す事で爆発的な攻撃力を手に入れたこの姿こそ、バスターナイトのベリアルと、仲間たちを守りたいという思いの形だった。

「さぁ、これから本番だ――――かかって来るがいい!!」

 

           *

 

第七天 見えざる神の手・居城

 

 天界と人間界、堕天使界、冥界など、分裂した世界の行く末を静観する存在――見えざる神の手と称される七人の上級天使から連ねる組織の目的は未だ不明瞭だ。

 一体いつの頃から世界を見守っているのか。いつの頃に組織として作り出されたのか。その答えを知るのは彼ら自身を置いて他ならない。

 彼らは一千万年前に勃発した天使と悪魔、堕天使の戦争以前から生きているのではないかという噂が立っているが、彼らがそれを周囲に口外する事は決して無い為、下級天使達はその真偽を確かめる術がない。

 創立以来多くの謎を抱えたまま永い間権力をほしいままにし続けるこの組織だが、彼らは常に居城に立てこもったまま、持ち場を離れず、ただ今日も静観し続ける。

 変わりゆく世界の行く末を――幾星霜と移ろい、千変万化する歴史を見守る「傍観者」として。

「時が――急速に動き出そうとしている」

「神の没後から間もなく一千万年。かくもそれは世界が天界、人間界、冥界と分けられ、やがて悪魔界や堕天使界と言ったものが副次的に生まれた」

「世界は絶えず変化している。だが、我々だけは違う。変化する幾つもの世界を常に監視し、より正しい方向へ導く事こそ至上の使命。それが、今は亡き神が我らに託していった頂きに立つ者としての役目なのだ」

 口々に自らの役目について語る七人の天使達。

 すると、七人が鎮座する席の中央からゆっくりと何かがせり上がってきた。彼らの視線が一斉にせり上がってきたものへ向けられる。

 円形の台の上に僅かに浮かぶ巨大な水晶の塊。その中には、人のような姿をした全身が半透明な人物が体を折り畳んだ状態で鎮座していた。背中には天使と悪魔のものと思しき翼が生え、やはり体と同じく透き通っていた。

 見えざる神の手のメンバーは目の前の存在を建前上敬いながら、眼前の存在におもむろに語り掛ける。

「我らが父なる神――〝オルディネス〟よ。世界は御身が危惧した永き停滞を脱し、うねりある変化を望まれておられますぞ」

 そう語り掛ける幹部の一人だが、結晶内に封印された神と崇められる存在から、言葉が発せられる事など無かった。

 

 

 

 

 

 




次回予告

は「朔夜さんが手に入れた新たな力!!」
テ「クリムゾンデュークの力で、ハイパーピースフルを圧倒する!!」
リ「しかしそんな戦いの中で、私たちの目の前で予期せぬ事が起こる……そして、今明かされる真実とは!?」
「ディアブロスプリキュア! 『剥がれた仮面!洗礼教会の正体!』」
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