ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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少し遅くなりましたが、3話目です。


第3話:悪原リリスは悪魔!?それともプリキュア!?

黒薔薇町 くろばら公園前通り

 

 キュアベリアルこと、悪原リリスが洗礼教会のエレミアと交戦を終えた直後――天城はるかはというと、

「ん~~~……今日も塾は大変でしたー!」

 大きく伸びをして公園の近くを歩いていた。勤勉な彼女は複数の習い事をしており、今日は進学塾で再来年に控えた高校受験のために知識を蓄えた。

「今日のお夕飯は何でしょうー」

 心地よい疲れを感じながら、夕食のことを考えていたそのとき――奇妙な物体が空から降りて来たのを偶然にも目撃した。

「ハヒっ! 何ですかあれは!?」

 背中からコウモリに似た翼を生やした人間のような存在は森の茂みの中へと隠れるように消えて行った。

「ひょっとして……噂のプリキュアですか!!」

 はるかの勘は鋭かった。伝説の戦士と称されるプリキュアの姿を一目見ようと、彼女は我を忘れたように全速力で疾走する。

 やがて、幼少期に頻繁に遊んでいた馴染み深い公園へ到着した。辺りを隈なく見渡しプリキュアと思われる人影を探していると――

「あああああああああ!!」

 偶然にも変身を解いたキュアベリアル――悪原リリスの姿を目撃し驚嘆の声を上げた。そして、はるかに正体を知られてしまったリリス本人も彼女を凝視したままその場で固まった。

「リリスちゃんが……リリスちゃんが……プリキュアだったんですね!!」

「は……はるか!? どうして……」

 リリス本人としてはプリキュアの存在を知られる訳にはいかなかった。

 が、そんな自分の都合とは裏腹に今目の前で悪魔という正体を知り、かつプリキュアの姿までもを知った人間の親友が驚喜した様子で見つめている。

 途端、頬を紅潮させたはるかがリリスの方へと走っていき、彼女の手をぎゅっと握りしめた。

「プリキュアになったんですねリリスちゃん!!」

「え……えっとこれは……」

 うろたえるリリスのことなどお構いなしにはるかは言葉を続ける。

「もう~リリスちゃんも水臭いですね!! どうして、はるかにプリキュアになったことを隠しておくんですか♪」

「いや、だから……別に隠してたつもりは……」

「あ! いけません!! こんなところを新聞記者さんや悪意ある動画投稿者さんに撮影されてもいけません! リリスちゃん、とりあえず行きましょう!」

 はるかはリリスの手をつかんでその場を走り去ろうとする。

「ちょ、ちょっとはるか!」

 リリスはどうやってはるかに説明したらよいか困惑していた。だが、説明をしようとする以前にはるかはいつも以上に舞い上がったテンションを抑え きれず、リリスの話を右から左に受け流すばかりか、自分の都合に合わせて彼女を振り回す。

 そうして、説明する暇も与えて貰えぬままリリスは半ば強引にはるかに引っ張られる形で公園から走り出す。

「待ちなさいはるか! 私をどこに連れてくつもり!?」

「詳しい話ははるかの家で聞かせてくださいね! ついでに、時間も時間ですしお夕飯も食べていってください!!」

 未だに興奮が収まらないはるかはリリスの言葉に聞く耳を持たない。

「いいわよ、悪いから。それに私がプリキュアになったことは他言したくないの。たとえ親友のあなたにも」

 リリスの心からの言葉であったが、もはやどんな言葉もはるかには届かなかった。

「リリスちゃん、親友に隠し事なんていけませんよ! もっと心をオープンにしましょう、はるかみたいに!!」

「そのつもりは毛頭ないんだけど……」

 一八〇度ひっくり返したように性格が真逆の二人。秘密裏に静かで穏やかにことを済ませたいと思っている悪魔と、自分の気の向くままに悪魔との距離を縮めようとする人間。こうして比較すると、まるではるかの方が少々小悪魔的だと言えるかもしれない……。

 

           *

 

黒薔薇町 天城家

 

「本当によく来てくれたわね、リリスちゃん! 遠慮しないでどんどん食べて行ってね」

 天城はるかは日本人の両親と三人暮らし。父は一流商社に勤めるバリバリの営業マンで、今日は生憎と出張で家を空けている。

 はるかの実母・翔子はリリスを実の娘同然に可愛がっていた。というのも、リリスが小学校に入るのを機にこの町に引っ越してきた折、一人暮らしの彼女を陰ながら支えてきたのは他ならぬ天城家だった。だからこそ、半ばリリスは天城家の家族も同然であり、遠慮と言うものは不要の関係になっていた。

 とは言え、リリスも最近は遠慮しがちな態度を取っている。幼少期ならともかく、中学生にもなればそれなりに距離感というものを大切にし始める。決して人間と慣れ合うのが嫌と言っているのではない――何となく気が引けてしまうのだ。

「すみませんおばさま。こんな遅くに突然押しかけて」

「いいのよ全然。今日はお父さんも帰りが遅いし」

 リリスと翔子のやり取りにはるかが割って入る。

「第一、はるかとリリスちゃんは小学一年生の時からの親友なんですよ。というか、半ば家族も同然じゃないですか!」

 にひひと笑い、悪魔という身分を越えて、親友であり家族であることの絆を強く主張するはるかだが、リリスは彼女の顔を見るなり嘆息して、

「はるか。ご飯粒ついてる」

 と、静かに指摘する。途端にはるかは赤面し、口元についたご飯粒を手に取り赤く染まった顔を覆い隠すように茶碗を傾けかき 込む様にご飯を食べる。

「本当にこの子ったら……少しは女の子らしくなってくれたらいいのに」

「お母さん! はるかはどこから見てもプリティーでチャーミングな女の子ですよ!?」

 茶碗を置いて、口の中の米粒を飛ばす勢いで反論する。

「自分でそんなことを言うとは、あなたも言うようになったわね」

 食事中だろうと容赦なく炸裂するリリスの毒舌。やや胸の奥がチクチクと痛む感触を覚えるはるかを横目に、リリスは静かに箸を動かした。

「お茶漬けを食べてるんじゃないんだから、ご飯はガツガツかき込まない」

「そうよ、はるか。そうやってかき込むからまたご飯粒つけるでしょ? まったくあなたって子は……こんなおてんば娘を持つ母さんの身にもなってみなさい。できることなら、リリスちゃんの爪の垢を煎じて飲ませてあげたいくらい」

 天と地ほどにも隔たっている両者の扱いにはるかは嘆息した。実の娘には厳しい態度で接する翔子も、リリスの前では一変して彼女を高く評価する。

「ぶ~~~……お母さんもヒドいです。いくら何でも、そんな言い方しなくてもいいじゃないですか!?」

「ま、おばさまの苦労も考えてみなさい。私があなたの母親だったら、こんなつらい現実に辟易していたわね」

 追い打ちを掛けるリリスの毒舌。はるかの胸を鋭くえぐる言葉が突き刺さり、持っていた箸をテーブルの上に落とす。

「つ、つらいとはどういうことですか!? そんなにはるかは悪い子に見えるんですか!? 本物の悪魔の リリスちゃんより悪い子だなんて思いません!!」

「こらはるか、リリスちゃんが悪魔なわけないでしょう! いくらあなたと比べてリリスちゃんがかわいくて優秀だからって、そんなこと言っちゃダメよ」

「ごちそうさま。おばさん、美味しかったです」

「あ! スルーしましたね!! リリスちゃん、ひどいですよー!!」

 食事を済ませたリリスは食器を片づけると、足早にリビングから出て行った。はるかは納得のいかない様子でリリスに抗議をするが、公園からの帰りのお返しと言わんばかりに本人は都合の悪い話をすべて右から左へ受け流した。

 

 食事を終えると、はるかはリリスを自室へと招き入れ、あらためて事情説明を求めた。

「リリスちゃん!! 本当に、本当にプリキュアになったんですね!!」

「……」

 都合の悪い者が誰もいない自分の部屋ならば、思う存分プリキュアの話を聞けると思いはるかは積極的に問い詰める。そんな中、リリスの表情は険しくバツが悪そうに思えた。

「きゃは!! はるかは親友として鼻が高いです!! 女の子の憧れ、無敵のスーパーヒロインのプリキュアが今目の前にいるんですから!!」

 しかしはるか自身はそれに気づいていない様子で、テンションを上げて声高に叫び続けた。

「ちょっと、はるか。少し声のボリューム下げてよ。近所迷惑になるわ」

 親友のはた迷惑な態度に辟易したリリスは嘆息してから彼女を諌める。

「リリスちゃん!! はるかの声はそこまで大きくありませんよ!!」

 と、ヤケになった感じで叫んだ瞬間――台所から翔子の声が聞こえてきた。

「はるか、さっきから声が大きいわよ!」

「あ! ごめんなさいお母さん!!」

 無意識のうちに声を張り上げていたことを反省しはるかは自重する。

「はぁ……」

 直後、そんなはるかに対してか別の意味があってか――リリスは重い溜息を漏らした。

「何ですかその溜息は?」

「いえ。いろんなことがいっぺんに起こるものだからね……ちょっと疲れてるの」

 少し頭を冷やしたはるかは、確かに疲れている様子を感じ取った。リリスとの付き合いが長いはるかには一目でわかった。普段よりも親友の顔がこけていることを。

 はるかは自分の軽率な行動で彼女をこれ以上疲れさせるのはいけないと思った。はるかは先ほどよりも声の大きさとテンションを抑え、おもむろに尋ねる。

「リリスちゃん。単刀直入に聞きますけど、どうしてプリキュアになったんですか?」

「それを知ってあなたはどうしたいの?」

 リリスははるかの目を正面から見つめて問いただす。

「どうしたいって……もちろん、リリスちゃんを応援したいです!! だって、プリキュアは悪と戦う正義の…… 」

「悪は私でしょ」

「え!?」

 聞き間違いではないかと思った。リリスは自嘲した笑みを浮かべるや、悲観的な言葉を語り出す。

「考えてもみなさいよ。私はプリキュアである以前に悪魔よ。悪魔って言えば、人を堕落させ破滅を導く存在……そんな邪悪な奴がどうしてプリキュアになれたと思う?」

 親友の言葉にはるかは身を乗り出して反論する。

「り、リリスちゃんは邪悪なんかじゃありません! 確かに悪魔ではあるんでしょうけど……少なくとも、はるかの知る限りリリスちゃんが無暗に人に危害を加えたりしたでしょうか?」

「あら。私をまるで人畜無害な良い子ちゃんだと言わんばかりの弁明ね。まぁこの際、善悪の判断はどうでもいいわ。それよりも、私がプリキュアになった理由を知りたがっていたわね」

「どうしてなんですか?」

 はるかが問いかける。リリスが答えを口に出そうとすると、

「洗礼教会を討つためですよ」

 問いかけに答えたのはリリスではなかった。

 声がした方へ振り返ると、部屋の窓の外から二人の話し合いを眺めていた1匹のドラゴンがいた。リリスの使い魔――レイである。

「れ、レイ!」

「レイさん! いつからそこに!?」

 窓が開けられると、レイは当たり前の様に部屋へと入り――リリスの膝の上に降り立つと、器用に背中の翼を使ってフォークを掴み、お茶請けのケーキを食べ始める。

「リリス様は憎き洗礼教会を倒すため、奴らに対抗する手段としてプリキュアの力を手に入れることを選んだんです」

「あんたは黙ってなさい! というか、不法侵入に加えて何勝手に私のケーキ当たり前に食べてるのよ!!」

「も、申し訳ございません! あまりにもおいしそうだったものですから!」

 使い魔の身勝手な行為を厳しく叱咤したリリスは、ちょっと悔しそうにレイによって食べられたケーキを手に取り、眺める。

「あの、洗礼教会って何ですか?」

 聞き慣れない言葉だった。はるかは端的に意味の説明を求めた。

「人間世界の幸福と平和を願う異界の宗教組織、と言えばいいのかしら。そして同時に私の家族の仇よ」

「か、仇!?」

 はるかは驚愕した。するとリリスは顔を若干伏せ、悲しげに映る表情で更に語り出す。

「十年ほど前かな……はるかと出会う前、私は悪魔界を代表とする名門貴族ベリアル家の娘として何不自由なく暮らしてた。でも、それをぶち壊したのは他ならぬあいつらよ」

 

           ≒

 

さかのぼること、十年前――

 

 人間界とは別位相に存在する悪魔たちが暮らす世界――悪魔界に歴史上、類を見ない惨劇が起こった。

 襲撃してきたのは洗礼教会と名乗る集団。彼らは人間の敵である悪魔の存在を真っ向から否定し、彼らからすべてを奪い尽くそうとした。

 富、名声、力、そして家族……老若男女に渡って、彼らは悪魔を神の名の下に断罪した。そうして、当時四歳だったリリスとその家族も理不尽なる襲撃を受けた。

 

 紅蓮色の炎で覆われた屋敷。上級悪魔ベリアル家が長い年月をかけて守ってきた土地と財産はすべて洗礼教会の手により奪われた。

 リリスの家系は悪魔界で五指に入る有力な名家。そして彼女の父こそ、悪魔界の統治者ヴァンデイン・ベリアル――魔王であった。

 しかし、洗礼教会は魔王ヴァンデインを討ち、すべての悪魔たちの殲滅を断行した。そしてその魔の手がいよいよ幼きリリスと母・リアスの元に及ぼうとしていた。

 家族で過ごした思い出の数々が炎に包まれ、消えゆく様をまざまざと見せつけられながら、リリスは母に連れられ逃げていた。

 だが、洗礼教会の追っ手はもう目と鼻の先に迫っていた。リアスは娘だけでも生き延びて欲しいと思い、彼女へと振り返り凛とした瞳で訴える。

「リリス……私はここに残るから、あなただけでも逃げなさい」

「いやです! お母様と一緒じゃなきゃいやです!!」

 火の手はますます燃え広がり、教会の追っ手も近づく中、リアスは泣きじゃくるリリスに言い聞かせる。

「いいことリリス、これからは一人で生きて行かなくてはならないわ。でも決して忘れてはいけないことがある。真に心を許した者との間に壁を作ってはダメ……自分ひとりで全てできるような気になることは決してあってはならないわ」

「どういうことですか? リリスには分かりません……!」

「時が経てば、いずれは……」

 と、その時。リリス目掛けて光の槍が飛んできた。

「危ない!!」

 グサッ……

 娘を庇ってリアスは光の槍の一撃で胸を貫かれた。悪魔にとって、その光は猛毒と同じだ。

 

【挿絵表示】

 

「お母様!!」

 光の槍に体を貫かれることは、悪魔としての死を確実に意味していた。

 虫の息の母を起こそうとリリスは体を大きく揺すり耳元で呼びかける。だがそんなことをしても既に母の命は残りわずか――だからこそ、リアスはリリスをこの炎の中から逃がそうと最後の力を振り絞る。

「リリス…………にげ……て………………」

 最後の力を振り絞って発動させた紅色の魔法陣。リリスは魔法陣に包まれると、炎の中で消えて行く母親の姿を泣きながら見送った。

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 

           ≒

 

「気が付くと、私は人間界に到着していた。それからしばらくは僅かに生き残った悪魔たちと一緒に暮らしていたけど、多くは奴らの手にかかったか、あるいは失踪を遂げた ――その中には私の婚約者も含まれていたわ」

 薄らと雲がかかった月を寂しげに見つめ、リリスは当時のことを語り続けた。はるかとレイは沈黙して声を押し殺した。

「洗礼教会にとって、悪魔は人の繁栄と平和を根底から覆し脅かすもの……存在そのものを否定された。だから悪魔界は奴らによる粛清を受けた。そして、多くの悪魔があの場で命を落とした」

「そんな……どうしてそんなひどいことができるんですか!?」

「さっきも言った通りよ。教会の目的は純粋にしてひとつ……人の世の繁栄と平和。奴らが忌み嫌うのは、人の心の隙に入り込んで利益を生もうとする輩と、それに唆され堕落した存在。自分たちの利と大義を正当化する為には手段を選ばない。世の悪役と呼ばれる奴らは大抵がこのパターンに当てはまるわ」

「実際、今日の戦いでもエレミア と名乗る教会の幹部の物言いは独善極まりないものでした。恐らくはあれとよく似た奴がまだ何人かいるはずです」

 リリスの言葉に便乗してレイが静かに語ると、はるかは顔を曇らせた。正直なところ、彼女は混乱していた――どちらが正しくてそうでないのか。

「どっちが悪で正義か、何だかよくわかりません……でも、リリスちゃんが間違ってることは絶対に在りませんよね!」

「はるか。あなたもつくづく浅はかなのね」

 そう言うと、はるかの方へと振り返り――夜空に浮かぶ月を一瞥してからリリスは達観した物言いで放った。

「神様でもない限り、人間も悪魔も同じよ。絶対に間違っていないことを一度たりともできた試しがないわ。第一、私がプリキュアになってしようとしていることが何だか理解してる? 教会への復讐よ。とても模範的な正義の味方がやることじゃないわ」

「それは、そうですけど……」

「幻滅した? だったら私を咎めなさい。あなたの中にある強い正義の心で、私を叱責なさい」

 リリスは心のどこかで願っていた。復讐という悪に手を染める自分を目の前で、はるかが叱責してくれることが、それがリリスにとってのせめてもの救いであり、親友を裏切った自分への罰だった。

 だが、はるかはリリスを責めることはなかった。

「はるかには……できません!」

 できなかった。彼女にはリリスを咎めるだけの気持ちが湧いてこなかった。

「どうして?」

 リリスは率直な思いで尋ねた。はるかは肩を震わせながら声を押し殺したように言う。

「復讐はよくありません……多分、そんなことをしたってリリスちゃんのためにならないと思いますし、亡くなったお母さんや他の悪魔さんたちが喜ぶとも思いません。ですが……ですが……はるかにはリリスちゃんを間違っていると咎めるだけの度胸は…………ありません……」

 親友の顔が涙で汚れる。リリスはその姿を見るのは忍びなく、すぐさま視線を外した。

 その夜、リリスは親友を無下に傷つけてしまった自分こそが浅はかだったと後悔し、心を痛めた。

 

           *

 

異世界 洗礼教会本部

 

「無様だな」

「まったく。情けない話だ」

 周りからの非難の声があがった。エレミアは、何も言い返せず顔も上げられないでいた。

 その一方でホセアは深刻そうな顔を浮かべ、ステンドグラスに映る主に祈りを捧げながら呟いた。

「キュアベリアル……まさかあれほどの力を有しているとは。悪魔がプリキュアの力を手に入れたとなれば、我々も悠長としている場合ではないか」

 直後、その言葉に応える者がいた。

「ホセア様。私はエレミアの様な失敗は致しません。確実にヴァンデイン王の娘を始末してみせます」

「やってくれるか、モーセよ」

 名乗りを上げたのは、三大幹部のひとり――モーセ。青いラインが入ったローブのフードを外して顔を出すと、口角をつり上げる。

「私に妙案がございます。どうか御静観なさっていてくだされ」

 

           ◇

 

黒薔薇町 私立シュヴァルツ学園

 

 エレミア襲撃から二日。いつも通りの日常を送っていたリリスだったが、はるかにプリキュアの正体がばれ、彼女に悪魔界の悲しい諸事情を伝えて以降、何となく距離を置いていた。というか、はるかといつも通りに接することができないでいた。

 親友と距離を取った彼女は、静かな学校生活を送っていた。そして放課後、当たり障りのない日常を終えて帰り支度をしていると――

「悪原さん!!」

 声をかけられたと思えば、いつの間にかクラスの男子生徒が彼女のもとに群がっていた。

「あ、あの! これから予定ある?」

「俺たちと一緒にカラオケとかいかない?」

 毒舌家ではあるものの、それ以外は物静かで勉強・スポーツも万能にこなせる才色兼備な悪原リリスは、クラスメイトはおろか全校生徒の憧れの的である事は最早不変の事実だった。

「ごめんなさい。今日は外せないスケジュールがあるから」

 リリスは誰からの好意も受け付けなかった。まして、見るまでもなく下心ありありの男子生徒の誘いなど耳触りでしかなかった。

 表面上、やんわりとした態度で断りリリスは鞄を持って教室を後にした。

「く~~~いつもクールビューティーだぜ!!」

「彼女の裏の顔も見てみたいな!!」

「コラー!! そこ、サボってないで掃除しましょう!!」

 リリスに骨抜きな男子たちを厳しく叱咤するのは風紀委員となったばかりのはるかだった。彼女に怒鳴りつけられた瞬間、男子生徒は慌てて自分の持ち場へと戻る。

「まったくもう……」

 教室を掃除する傍ら、はるかは親友のことが気になって仕方なかった。

 窓から覗きこむと、彼女の後ろ姿はどこか寂しげであり冷たくも見えた。まるで自分を遠ざけているかのような――そんな態度を取られている様で、はるかは胸の奥がチクリと痛んだ。

「ふふふ……臭う、臭うぞ。悪魔と関わりある濃厚接触者の臭いが」

 そんな彼女の様子を気づかれないところで見つめる法衣姿の男がいた。洗礼教会より参った三大幹部の一人・モーセは、邪悪な笑みを浮かべ謀略を張り巡らせる。

「人間ともあろう者が悪魔と親しくするなど言語道断。何とも不快極まりない! 貴様には死よりも恐ろしい天罰を下してやる」

 

 教室の掃除が終わると、はるかはやや気落ちした様子で一人帰路を歩いていた。

『幻滅した? だったら私を咎めなさい。あなたの中にある強い正義の心で、私を叱責なさい』

 彼女の頭に焼きついた二日前のリリスの言葉が、今になってはるかの心にじりじりとのしかかる。

(復讐の為にプリキュアになった……リリスちゃん、あなたは本当にそれでいいんですか?)

 復讐は良くないことであり、そんな真似を親友にさせたくはないと思いつつ、リリスを否定することができないもどかしさを感じていた。一体どうすれば胸の中に募ったムズムズとした気持ちをすっきりさせることができ、リリスとこれから接することができるのか――思い悩んでいた時だった。

「ご機嫌麗しゅうございます、お嬢さん」

 不意に目の前に現れた紳士的な口調で話す男こと、洗礼教会の幹部が一人・モーセは、右手を胸の前に持っていき、はるかに対して深々とお辞儀をする。

「あの……どちら様ですか?」

「失礼。名乗るほどの者ではありません……ただ」

 そう言った瞬間、モーセは邪悪を孕んだ笑みとなり目を見開き口にする。

「あなたをエサにこの町に潜伏する忌々しい悪魔を倒させてもらいますので、どうかご理解を!!」

「な、何を言って……は! まさかあなたは!?」

 はるかがモーセの正体に気付いた瞬間、首から下げていた十字架を取り外し、モーセはゴミ捨て場 に無造作に捨てられていた古いラジコン飛行機に目を向ける。

「平和の騎士よ、生まれよ!! ピースフル!!」

 十字架から放たされた神々しい光がラジコン飛行機へと放たされた。その瞬間、光を帯びたラジコン飛行機は見る見る姿を変えて、体長三メートルにも及ぶ騎士《ラジコンピースフル》 が姿を現した。

『ピースフル!!』

「ひえええええええええええええええええ!!」

 唐突に出現した巨大なピースフルにはるかは驚天動地した。――モーセは、リリスをおびき寄せるエサとして彼女を捕まえようとする。

「いやああああああああああああ!! こっち来ないでくださ――い!!」

 怪物に捕まるなんて絶対に嫌だった。元々運動がそれほど得意とは言えないはるかであったが、火事場の馬鹿力を発揮してラジコンピースフルから逃げ回る。

 ラジコンピースフルは背中の翼を広げて空から追いかける。普通に考えてどちらに分があるかは明白――が、それでもはるかは逃げ続けることで目の前の現実から逃避しようとする。

「いだっ!」

 しかし、運悪く溝につま先 が引っ掛かって前方から転倒――鼻先を強打した。

「いった~~~い!! 鼻は人体の急所です……って、うわああああああああ!!」

 鼻をさすっているうちに、ラジコンピースフルが追いついた。恐怖するはるかを見下ろしながら、モーセは狂気じみた顔で投げかける。

「そう逃げないでもらえますか。君に危害を加えるつもりはない。協力してほしいのです」

「かよわい女の子を追いかけ回す人の言うことなんて信用できません!! それに、私が捕まったりしたらリリスちゃんをひど い目に遭わせるつもりなんですよね!?」

 はるかがリリスのことを心配する様子を見せると、モーセはまるで理解できないといった様子で言った。

「悪魔は君ら人間の敵ですよ。傷つける道理はあっても、庇う道理はないはず」

「それは違います! あなた方のやり方は強引です! 確かにリリスちゃんは悪魔ですよ。辛辣なことも言いますし、というか……いつもですけど。だけど、はるかはリリスちゃんとは親友です! 家族なんです! 友達を庇うのは当たり前なんです!!」

 凛とした瞳でモーセに訴えるはるかの言葉から、モーセは彼女が持つ芯の強さを感じ取った。

「なるほど、友情というものですね。古の時代より我々人間という生きものはこの感情をひどく絶賛している。無論、私も評価すべき事柄だと思います。ですが、悪魔との間に友情を芽生えさせるのはどうなのでしょう? 分かり合える相手ではないのですよ、アレは」

 モーセの言い分に、はるかはすぐさま反論した。

「あなた方は、悪魔と分かり合おうとする努力を少しでもしたことがあるんですか? そう言うセリフはやったことがある人が言うべきです!」

「これは失敬しました。君の言う通り、我々は悪魔と分かり合おうとしたことはない……分かり合うことすら反吐が出るのですから!」

 モーセが目を見開いた瞬間、ラジコンピースフルが動かないでいたはるかの脚を掴み、彼女を持ち上げた。

「きゃああああ! 何をするんですか!?」

「手荒なマネは申し訳ありませんが、これもすべて君と人の世の為です」

 絶体絶命の大ピンチであるが、はるかの心はまだ折れていなかった。

「リリスちゃんはいい子なんです……絶対にあなた方の好き勝手にはいきませんよ!!」

「君も強情ですね。同じですよ、所詮悪魔はどこまでも悪魔。有害なものは早くに間引かなければ取り返しのつかないことになります」

 レイの言った通り、教会の幹部たちの言い分は独善極まりないものだった。滅多なことで人に嫌悪感を抱かないはるかであるが、この時ばかりは露骨に嫌悪の感情を顔に出していた。

 

 と、その直後。彼方より猛スピードで飛んでくる紅色の光弾がラジコンピースフルの額に被弾した。

『ピースフル!?』

「 な、なんだと…!?」

 反動でラジコンピースフルは後ろに傾き、同時に掴んでいたはるかをその手から放した。

「きゃあああああああああ!!」

 地面に落ちそうになった寸前、どこからともなく悪魔の翼を広げ飛んできたリリスがはるかを抱きかかえ――救い出した。

「大丈夫?」

「リリスちゃん!!」

 はるかは目に涙を浮かべてリリスにしがみついた。

「良かった。間に合った」

 リリスが安堵したのも束の間、モーセの口が嫌らしく歪む。

「来ましたね、魔王ヴァンデインの忘れ形見……不浄な悪魔め!」

 待ちわびた獲物の到着に、モーセの瞳に先ほどよりも強い狂気が満ちる。

 はるかを下ろすと、リリスは軽蔑の眼差しをモーセに見せ、おもむろに口にする。

「はるかをエサにして私をおびき出そうとする……ホントつまらない悪役ね」

「悪役? それは貴様のことだろう。悪魔も悪役も一文字違うだけで同じ穴の貉ではないか」

「ニュアンスが違うわ。悪役は人に憎まれるべき存在に張られる残念なレッテルよ。だけどこの世界には、悪魔を称賛する人もたくさんいる。例えばそう……ダークヒーロ-的な存在として」

 言った直後にリリスは、ベリアルリングを装着し――変身コールを唱える。

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

 紅色のオーラに包まれた彼女は、凄まじい魔力の波動を敵にぶつける。はるかが固唾を飲んで見守る中、彼女は親友の前で初めてプリキュアになった姿をさらした。

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

 変身が完了した途端、はるかの瞳に星が宿り、胸の鼓動が一気に高鳴った。

「キャ――!! プリキュアのナマ変身をこの目で見られるなんて……はるかは感激です!!」

「これがエレミアの報告にあったプリキュアの姿か。おもしろい、似非プリキュアなど返り討ちにしてくれる。ゆけ、ピースフル!!」

『ピースフル!!』

「はるか、私に捕まって!」

 ラジコンピースフルが拳を振り下ろそうとした瞬間、ベリアルははるかを抱きかかえ、背中に生えた翼を広げ――中空へと舞い上がる。

「きゃああああ!」

 ベリアルに抱きかかえられたはるかは有無を言わさず空中ショーに付き合わされる。そして、すぐさまラジコンピースフルが空中を滑空する悪魔を高速で追いかける。

『ピースフル!!』

 ラジコンピースフルが左腕を突き出した。瞬間、ミサイル弾が発射されベリアルに襲い掛かる。着弾を逃れようと高速で移動するが、敵も本気で攻めに来る上、腕に抱えたはるかの身の安全を確保するのは正直厳しかった。

「これじゃ埒が明かない。だったら……レイ!」

「この瞬間を待ちわびていました! 今こそ、真の姿に戻ります!!」

「し、真の姿?!」

 いつの間にかベリアルの隣を飛んでいたレイは嬉々とした様子でそう言うが、はるかには何のことだかわからず疑問符を浮かべる。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 はるかが困惑する中、小型のドラゴンだったレイは力強く声を上げると体を発光させ始める。そして、小さな姿が、巨大な本来の姿へと変わっていく。

「ひ……ひえええええええええええええええええ!!」

 変わり果てたレイの姿にはるかが悲鳴を上げた。普段は愛らしいぬいぐるみのような姿をしている彼が、紺碧に輝く硬い皮膚を持った体長五メートルの巨大なドラゴンの姿となった。

『ウオオオオオオ!! 我こそは、蒼雷龍(そうらいりゅう)スプライト・ドラゴン!! ディアブロス・ブラッドリリス・オブ・ザ・ベリアル様に仕える使役竜である!!』

「バカ!! ただでさえ目立つのに、大声で叫んで自分をアピールなんかして!!」

 久しぶりに真の姿に戻れたことに気分が高揚し、つい叫んでしまったレイを主は厳しく咎めた。レイはその巨体に反してすぐに委縮し、

『だ、だって……目立ちたかったんですもん!!』

 と、涙ながらに訴えた。

「はははは!! いよいよ見せてくれるのかな、似非プリキュアの力を!!」

 ラジコンピースフルの背に乗りながらモーセが言ってくる。ベリアルははるかをレイの背中に乗せ、その上で彼女を庇うように前に出る。

「行くわよ、レイ」

『心を一つにいざ参らん!』

 ベリアルはラジコンピースフルたちを正面に捉えるように、光弾をばらまきながら相手の軌道を調整する。レイは背中のはるかに気を回しながらも、ベリアルの動きに合わせて敵に向かっていく。

(――見えた!)

 ピースフルが避けられない軌道を読み取ったベリアルは掌に紅色に輝く魔力を収束し、レイも主人の考えを読み取って口腔内に緑色の電気エネルギーを圧縮させていく。

「『はああああああああああああああ!!』」

 ベリアルがレイの頭上に乗った 刹那、タイミングを合わせて紅と緑の力が解き放たれ、絶妙に溶け合い一つの攻撃となる。

 紅色の魔力と緑色の雷は互いに相乗効果となって、強力無比な一撃をピースフルにお見舞いした。

「だあああああああああああああ!!」

『ピースフル!!』

 モーセとラジコンピースフルは瞬時に感電――凄まじい電撃に耐えきれず、両者は黒焦げとなって空中から墜落する。

 モーセたちが勢いよく地上に叩きつけられると、ベリアルはレイから降りて自分の翼で地上まで降下していった。

 地上に降りたった彼女は、痺れてまともに動くこともできないモーセに言い放つ。

「あんたの言う通り、私は似非プリキュアよ。でも安心して、人の思ってる本物と偽物の基準は千差万別だから。そういう意味じゃ、私も誰かにとっては本物なのかも」

 本物でも偽物でもどちらでもいい。彼女は自分の信じたものを貫くため、目の前の邪悪を滅ぼすとどめの一撃を加える。

 

「プリキュア・ルインフェノメノン!!」

 

 ―――ドンッ。

『へいわしゅぎ……』

 そんな言葉を唱えながら、ラジコンピースフルは自らの体を消滅させた。エレミア戦と同じく、キュアベリアルの放った攻撃は浄化ではなく存在そのものを抹消した。

「き、貴様のような悪魔が……本物のプリキュアであっていいはずがない!! 我々は絶対に認めんぞ!!」

 心底悔しがった様子で痺れた体を無理矢理動かして、モーセは魔法陣を潜って洗礼教会へと帰って行った。

「リリスちゃん!!」

 戦いが終わると、レイがはるかを伴い地上に降りて来た。変身を解いたリリスは駆け寄ってきたはるかを見るなり、彼女を自分の下へ抱き寄せた。

「え……」

 はるかは夢を見ている様だった。普段からどこか冷たく、愛想のない態度ばかりのリリスが突然ハグをすることなど、普通は考えられないことだった。

 狼狽するはるかだったが、リリスは顔を伏せバツが悪そうに言う。

「怖い目に遭わせてごめんなさい。これから先、私と関わると今日みたいな危険がたくさんある。それでも、私の側にいたい? 私の友達でいたい?」

 それはどこか寂しげな問いかけだった。リリスは親友だからこそ、はるかを危険から遠ざけようと思い、距離を開けていた。

 だが、本音を言えばリリスは心細かった。親を亡くし、仲間も婚約者も失った彼女にははるかしかいなかった。病めるときも健やかなるときも自分の側にいてくれたはるかしか、拠り所が無かった。

 手放したくない。側に居て欲しい――我儘だと理解しながら一縷の望みを託して問いかけた。はるかから返ってきた答えは――

「リリスちゃん」

 誰よりも温かい抱擁だった。これにはリリスも目を見開き驚いた。

「はるかは何がなんでもリリスちゃんの味方ですし、これからもずーっと友達です。今日みたいなことがあっても、はるかは一番近くでリリスちゃんのことを応援したいです!」

 途端、リリスの中で張りつめていた想いが一気に解放された。常に気丈に振る舞い、長い間、我慢を続けてきた彼女の涙腺がようやく崩れ、止めどない涙が滝のように流れ落ちる。

「…………ありがとう」

 

 

 

 

 

 




次回予告

は「リリスちゃん、レイさんがいつも配ってるあれ……貰った人はどうなるんですか?」
リ「だったらちょうどいいわ。これから新規の契約者と接見する予定だから」
「ディアブロスプリキュア! 『秘めたる力!!グラーフゲシュタルト!!』」
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