プリキュアの力に侵され命に危機に瀕するリリス。洗礼教会に新たに加わったはぐれ悪魔のカルヴァドスの凶悪な陰謀。
果たしてディアブロスプリキュアは、振りかかる危機をどう乗り越えていくのか・・・!?
それでは、第4章「世界洗礼計画編」のはじまりはじまり!!
第31話:狂気の侵略計画!合成クリーチャー・キメラ!
『セイラム魔女裁判』
現在のアメリカ合衆国ニューイングランド地方のマサチューセッツ州セイラム――そこは、一六二〇年代にヨーロッパからの移民が最初に入植した町のひとつだった。
今からおよそ三百年前、魔女を巡る惨劇が起きたのは現在のダンバース。当時はセイラム村と呼ばれ、人口一七〇〇人の小さな村だった。
およそ二〇〇名近い村人が魔女として告発され、一九名が処刑、うち一名が拷問中に圧死、二人の乳児を含む五名が獄死したという凄惨な事件。
ヨーロッパの魔女裁判と比べて犠牲者数は際立ったものではなかったものの、歴史上類を見ない残酷な事件ゆえに、全ての魔女狩りの中で最も有名な事件であると考えられているこの事件の裏に、ある一人の悪魔の存在があった事を人々は知らずにいた。
その悪魔、名をカルヴァドスと言う――――……。
≡
さかのぼること、三百年前――
アメリカ合衆国 ボストン近郊 セイラム村
イギリスの植民地時代、多くのキリスト教徒がアメリカへ移住し暮らしていた。
その多くを占めるのが【ピューリタン】と呼ばれるキリスト教の一派。彼らは勤勉で、質素な生活を送り、聖書の教えを厳格に守る実に信心深い人々だった。
このセイラム村は、アメリカ先住民の居住地域とも近い場所にあった。そのため、ピューリタンの人々はいつ襲われるかもわからない不安と恐怖から、彼らの暮らしを閉鎖的なものにしていた。
そんな重苦しい空気を吹き飛ばそうと、セイラム村に住む子供たちは、皆野原ではしゃぎ回ろうとしたが――。
「おい! 何をしている」
野原で駆け回る子供たちを見かけた周りの牧師を始めとする大人たちが厳しく糾弾した。
「神は見ていらっしゃるぞ。外で遊ぶなどもってのほかだ。今すぐ家の中に入りなさい」
結局、子供たちは大人の言う通りにすることにした。重い足取りで彼らは外で遊ぶという自由さえ許されなかった。
ピューリタンにとって娯楽とは〝悪魔の誘惑〟――子供が遊ぶことですら恥ずべき行為とされていた。
しかし、いつの時代も子供たちは好奇心旺盛で、当時の子供たちは卵を使った占いの一種・ヴィーナスグラスに夢中だった。
当時、占いは魔術とみなされていた。その為、少女たちは大人の目を盗んではこっそりとそれを行っていた。
ある時、村の有力者・パリス牧師の娘が厳格な両親の目を盗んでいつものようにヴィーナスグラスを行っていた時だった。
「そんなものよりずっとおもしろい遊びを教えてあげるわ」
どこからか聞こえてきた声。振り向くと、そこには一人の女性の姿があった。
それはパリス牧師の家で奉公するカリブ海出身の奴隷の女性・ティチュバだった。
「ティチュバ……?」
いつも見ているティチュバとはどこか雰囲気が異なると思っている直後。突如として、ティチュバの背中から黒い何かが勢いよく生えてきた。
コウモリの翼によく似たものが左右に四枚ずつ。翼が生えるとともに、ティチュバはその姿をあどけない子供へと変化させた。
「あなた……だれ?」
異様な翼を生やす自分と歳も然程離れていないであろう子供に恐る恐る尋ねる少女。それに対し、ニコニコと笑いながらその子供は名乗り上げる。
「ボクはカルヴァドス。悪魔だよ」
悪魔という単語を耳に入れ、思わず少女は恐怖し、身をのけぞらせる。無理もない。ピューリタンである少女にとって、悪魔とは聖書の中で記された邪悪の中の邪悪。それが今、現実になったのだ。
そんな恐怖感情に思考を支配され、顔を強張らせる少女を見ながら、カルヴァドスはハハハと笑いながら言葉を発する。
「誤解しないでよ。別に君を獲って食おうとかそういうんじゃないから」
「じゃあ……何がしたいの?」
恐怖を堪え声を発し尋ねる少女。カルヴァドスは、一歩前に踏み出すとともに、自らの目的を告げる。
「ボクは君におもしろい遊びを教えたいだけなんだ。毎日そんな意味の無い占いなんてするより、ずーっとぞくぞくする遊びをさ」
少女が親の目を盗んでまで夢中になる遊び・ヴィーナスグラスを意味の無いものと吐き捨てたカルヴァドス。内心、少女も彼の言葉に同意せざるを得ない。
本当ならば、友達と一緒に部屋の中で閉じこもるのではなく、年相応に外で思う存分はしゃぎ回りたいと思っていた。だが――
「でも……パパやママは遊ぶのは良くない事だっていうし」
厳格なピューリタンである両親や周りの大人たちからの反感を買うことが怖かった。
しかし、そんな思いを見透かしたカルヴァドスは嘆かわしく大きく溜息を吐くと、きっぱりと少女に告げた。
「それがそもそも間違いなんだよ。いいかい、人間は生まれたときから何かをしたいと思って生きているんだ。それを理性で無理矢理抑え込んで、自分の欲望を縛り付けるなんてどうかしてるよ。君だって、心のどこかではいい加減こんな閉塞的な日常から早く脱出したいと思ってるんだろ?」
「それは……」
決して間違いなどではない。カルヴァドスの言葉は的を射ており、少女の心は揺らぎ始める。
少女の心が自分の言葉で揺らぎ始めたのを確信した折、目の前の悪魔は口元を緩め、最後のひと押しをした。
「ボクの言う通りにすればいいんだ。そうすれば、君はこれから先自由に生きていけるんだ。周りの大人がなんだ。聖書がなんだ。そんなもの、ぶっ壊しちゃえ!」
これがトリガーとなり、揺らいでいた少女の心はカルヴァドスの術中に落ちた。そして、彼の誘いに乗る事にした。
その日の夜――パリス牧師の家で騒ぎが起こった。
娘とその従妹が突如、奇声を上げて暴れ出したのだ。
「どうしたんだ?」
「あそこに、あそこに何かいる!」
「どこだ? 何もいないぞ」
理由もなく暴れ、両親の制止も空しく少女たちは狂気に走る。そして―――
「聖書を離しなさい!」
肌身離さぬよう持ち歩くことを義務付けられた自身の聖書を、娘は憎悪を抱くかの如く床に激しく叩きつける。
「な……なんてことを!」
「おお神よ」
聖書を叩きつけるというピューリタンにとって信じ難い行動。両親は子供たちの狂気の沙汰の行動を最早自分達ではどうすることもできない状況に陥った。
困り果てたパリス牧師は、医師を呼び、娘を看てもらうが全く原因がわからない。
そして、挙句の果てに医師は――、
「これは……どんな薬でも治りません。この子たちは悪魔に取り憑かれているのです」
「悪魔だと……?」
医師の見解は当たらずとも遠からずなものだった。
事実、娘は悪魔カルヴァドスの誘惑に屈した。そして、時は十七世紀――現代ほど十分に科学が発達していない状況では、説明の出来ないことがしばしば悪魔のせいになるのはそれほど珍しい事ではなかった。
そして、悪魔がいる場合はそれを手引きした者――すなわち「魔女」の存在があると人々は考えた。
「言え! 魔女は誰なんだ?」
パリス牧師を始め、周りの大人たちは娘たちを激しく尋問。悪魔と取引を交わした魔女について吐かせようとした。
尋問を受けた末、娘は重い口を開き、その魔女の名を口にする。
「ティチュバ……」
「ティチュバだと!?」
少女たちが行っていた卵占い・ヴィーナスグラスは、元々はティチュバから教わったものだった。少女たちとティチュバは仲が良く、親の目を盗んでは彼女の台所へと集まり、カリブ海に伝わる怪談話などを彼女から聞かせてもらっていた。
しかし、それらの遊びはすべてキリスト教では許されざる行為。少女の心は神の教えに背いた罪悪感と、それが露見するかもしれないという恐怖から、ついつい奴隷と言う弱い立場のティチュバに罪を押し付けてしまった。
しかし、それもまたカルヴァドスの計算だった。すべては彼の掌の上で起こっていた。
敬虔なピューリタンが神の前で嘘を付けないという心理を巧みに突き、善良な人々が正当な理由もなく伝染した恐怖感情と狂気によって、次々と処刑されていく様を見ながら、カルヴァドスはせせら笑う。
「フフフフフフ……」
そして、このセイラムでの魔女裁判を経て――カルヴァドスは人間界での出来事を自らの生まれ故郷でもある悪魔界でも再現する事を思いついた。
やがて、自らの欲するままに悪魔の歴史に名を残す程の極悪非道な悪行を次々と重ねていったのだった。
≒
現代――
異世界 洗礼教会本部
「カルヴァドス。貴殿の働きは実に素晴らしい」
「ありがとうございます!!」
ホセアの想像以上の働きぶりをカルヴァドスは発揮した。
元々人心掌握と欲望の掌握に長けたはぐれ悪魔。今回のダークナイト事件は、まさにテロ組織としての洗礼教会が押し進める新たなる侵略計画の重大なる一歩となった。
「人の欲望に火を点け大きく駆り立てるのは悪魔の本分ですからね。現代の人間の欲は実に多様化しています。今回は【正義】ってものについて考えてみました。そしてそれを最も強く反映できる素体を探しました」
「で、あれが誕生したと?」
「ダークナイト……―――確かにいい出来ではあるがな」
「が、なんですか?」
あどけない顔でカルヴァドスが疑問を投げかける相手はダスクだった。
何か言いたげな表情で口籠もる彼を凝視すると、おもむろにダスクは口を開き呟いた。
「あれっぽちで終わるようじゃねぇだろうって話さ。あの程度の事だったら俺にも出来るし、お前が三百年間ハデスで燻っていたと聞かされても誰もその話を信じようとは思わねぇって」
要するにダスクが言いたいのはカルヴァドスのやり方にしては些か可愛すぎるという事だった。彼が知る限り、カルヴァドスの性分はもっと無遠慮であくどく、そして凶悪なのだ。ゆえに彼は三百年もの間一度も牢獄から出してもらえずにいたのである。
「いや~!! さすがはダスクさん!! ボクのえげつなさをよく理解していらっしゃる♪」
「ふん……。えげつないって自分で認めてやがる」
「じゃあ、ここからさらにどうにかなるっていうの?」
ラッセルが訝しげに問いかけると、カルヴァドスは「はい」と言って即答する。
「ダークナイトは飽く迄も下ごしらえですよ。これから控えた本番に備えてのね」
「本番だぁ?」
嫌味ったらしい顔のコヘレトが語尾を若干伸ばしがちに復唱する。
「まぁ見ててくださいよ。世界中に飛び切りの恐怖をもたらす究極の仕掛けを用意しているんで。みなさんも思わず身の毛がよだっちゃうかもしれませんのでご注意を♪」
語尾や表情をいくらかわいくしても、内側に秘めた狂気の感情はホセアたちには丸わかり――カルヴァドスは礼拝堂を立ち去ると、再び人間界へと向かった。
「究極の仕掛けね……なぜかしら、急に背筋がぞっとして来たわ」
「知ってるか? 三百年前に悪魔界で起きた【デーモンマドネス】って事件……ありゃ奴が人間界へたまたま降りた時、アメリカのセイラムって村で仕掛けた魔女狩りの模倣なんだぜ」
「あの魔女狩り騒動、真犯人はあいつだったんですね! 道理で似たような話だと思ったわ」
「ホセア様。あんな奴信じちゃっていいんですか? あのクセー笑顔、ゼッテー何か企んでますって!! それこそ俺たちの地位を脅かすかもしれねぇような……!!」
「分かっている。だからこそ、あやつを同志として迎え入れたのだ」
「え……えええ!?」
聞いた瞬間、ラッセルは思わず耳を疑い甲高い声をあげた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!! じゃあやっぱりあいつは私たちを裏切る気満々って事!? なんでわざわざ寝首を掻くことが分かり切ってるような危険悪魔を……!!」
「どうかしてやがるよなホントに。狂愚だぜ」
ホセアの腹の内をそう皮肉るダスクだが、当人はそれを否定するどころか、積極的に肯定する姿勢を見せた。
「狂愚で結構。しかして、その狂気こそ常に世界を突き動かす原動力となる。ゆえに私はその狂気を以ってして前に進むのだ」
たとえ相手がいずれ自分たちを裏切り、反旗を翻す可能性が高くてもホセアは自らが掲げる野望成就の為の重要な要素として、カルヴァドスを大いに利用価値があるものとして重用している。
明らかに普通ではない考え方だ。
常軌を逸し、気が狂っていると周りから非難されるもホセアは歯牙にもかけず、むしろ狂っている事を正当化し、それを確固たる信念として持ち合わせているのだ。
今にして思えば、この男の下に就いた自分の判断はどうかしていたのかもしれない……と、内心思いつつ、ラッセルがふとした疑問を口にする。
「カルヴァドスの事はひとまず置いといて……見えざる神の手、だっけ? あっちの方はいいのかしら? デーモンパージの事とか、教会全体の活動支援をしてくれたのってそいつらなんでしょ?」
「ああ。そうとも」
「三羽烏だって、元はと言えば見えざる神の手が選りすぐったっていう敬虔な信者だって話じゃない。それをアンタと来たら……用済みとばかりに殺しちゃって」
「殺したのは俺っすけどね! ははははははは!!」
エレミアたちを殺害した事に少しの後ろめたさも感じていないばかりか、大笑いするコへレト。彼もまたホセア同様に普通の感情では抑えがたい狂気をその身に宿した立派な狂人であると、ラッセルは確信を持つとともに呆れ返ってしまう。
「……殺したのはコヘレトかもしれないけどさ。連中には連中でなんか、プランとか思惑とかがあったんじゃ……」
教会最大の支援者たる天界の最高意思決定機関【見えざる神の手】――ホセアがしているのは、事実上彼らに対する反逆行為だ。ラッセルが憂慮しているのは、彼らがこのまま自分たちの行動を見て見ぬフリをするはずがないという危惧である。
彼らにはお抱えの軍隊とも言うべき暗部組織・
ラッセルの問いかけに対し、ホセアはおもむろにステンドグラスを仰ぎ見ながら、見えざる神の手という組織についてコメントする。
「見えざる神の手の希望は純粋にしてひとつだ。地上と冥界、そして天界の秩序の平和と安全。中でも神への信仰心を失くしかけた地上の人間たちに再び神への信心を取り戻させ、世界……もとい自らの地位の磐石を図ろうと躍起だった。そのために、見えざる神の手は私を指導者として選出し、地上世界への布教活動と人間にとっての不確定要素を取り除く機関を設置した。それが【洗礼教会】という組織の起源だった。人間世界の平和を守り、世界の調和と自らの正義を貫くためならば罪も無い悪魔達に犠牲を出しても構わないと……なかなか傲慢な矛盾を抱えておった」
痛烈なるアイロニーとして、ホセアは見えざる神の手の実態について掘り下げる。
「まぁ小難しい話はよくわかんないけど。ともかく、スポンサーを無視して勝手にテロ活動なんてものを始めたりしたら……怒られるんじゃないかって私は心配で」
「怒られるどころか、即粛清の対象だろうな。それこそ、見えざる神の手直下の暗殺組織……
「案ずるな。既に手は打ってある。周りをよく見てみろ」
ホセアに言われた通り、周りを見渡してみた。
すると、ラッセルはカルヴァドスと同じ時期に同志として加わった筈の一人のクリーチャーの姿がこの場にいない事に気づいた。
「あれ? そう言えばあいつは……」
*
第七天 見えざる神の手・居城
「ホセアは少々やりすぎたな――」
「まさか我らを欺き他勢力と結託し、テロリズムを画策していたとは」
「そして三幹部をも切り捨てた。奴らとて我々にとっては重要な駒のひとつだったというのに」
洗礼教会の後援者こと、天界における最高意思決定機関【見えざる神の手】。
表向きは自分たちの意向に従っていたホセアが、実は面従腹背の裏切り者で、世界を壊す為に秘かに敵対勢力であるはずの堕天使や悪魔、そしてクリーチャー等と結託していたという由々しき事態をつい最近になって知った。
ゆえに今回は、ホセアの今後の動向偵察および処罰に関する事を議題に据え討論を行っている。
「ヤツはこの世のすべてを壊そうとしておる。一刻も早く止めねばならんな」
「だが、ホセアは貴重な個体だ。消去するにはまだ惜しい」
「我らが求むるは優れた指導者によって統べられた世界と、それによる地上世界の再生。そして我らがその指導者を選び、その陰で世界を導かねばならん」
「遥か古の時代より、悪魔と天使、堕天使による三つ巴の大戦から神の亡き後、世界を見守る為に我が身を捨ててまで永らえたが……もうさほど長くは持たぬ」
「だが天界と地上世界は、未だ我らが見守ってゆかねばならぬ」
遠い昔―――見えざる神の手などと言う神の代行機関が出来る以前、七人の幹部たち、もとい神に次ぐ力を秘めた賢者達は、父なる神に従える者として、地上の人間たち、そして天使たちからも尊敬の念を集めていた。
ところが三大勢力による三つ巴の戦争が勃発し、それによって神や上級天使たちの多くが死亡した事で世界情勢は大きく変わってしまった。彼らは自らの手で封じ込めた、表向きは死と言う帰結に落ち着いた神の不在を地上世界に知られる事を恐れ、その事実を隠蔽し、自らが神の代行を務める事を決めた。これが【見えざる神の手】と呼ばれる機関の始まりだった。
しかし、神の死によって聖と魔のバランスが著しく崩壊した事、物質文明の浸透によって人間自身が神への信仰心を次第に失っていった事で、天使自体の寿命も大戦前とは比べ物にならないほどに縮まった。
だがそれでも彼らは神の代行、もとい権力と言う名の椅子に執着した。そこで彼らは本来の肉体がいつ滅んでもいいように、錬金術を用いて作り出した人工生命体【ホムンクルス】に魂を定着させる事を思いついた。
そして現在、彼らはホムンクルスとして辛うじてその魂を定着させ地位を守りつつ、優れた指導者による世界の平定を念頭に今日まで活動を続けてきた。
だがしかし、今ある仮の肉体も間もなく朽ち果て、寿命を迎えようとしている事を彼らは悟った。ゆえに焦っていた。
「何とかホセアを止める方法は無いものか?」
「状況は極めて難儀しておる。堕天使の王を味方に付けておるばかりか、あろう事かハデスからあのカルヴァドスを脱獄させたらしい」
「あのはぐれ悪魔は我らとて御し切れんよ。悪魔の中でもとりわけ異端な存在だったのが奴だ。ホセアとて奴を丸め込めるとは思えんが……」
ゴゴゴゴゴ……。
そのとき、城の門がおもむろに開かれる。フードで素顔を隠した人物が入って来ると、幹部たちの前に跪いた。
「
「おお帰ったか……」
「内偵調査ご苦労だった。やはり貴公にホセアの監視役を任せたのは最適な判断だった。して、何か新しい情報は掴めたか?」
「はい。実は、ある重大な報告がございます――――――」
フード越しに、アパシーは仕えるべき主たちを見据える。
このとき、幹部たちはある重大な計算違いをしていた事に未だ気づいていなかった。
*
カルヴァドスによる凶悪な陰謀が確実に進められている頃、春人が問題のはぐれ悪魔によって重傷を負わされたという報せがはるかたちへと齎された。
≡
黒薔薇町 天城家・はるかの部屋
「ハヒ!? 春人さんが……悪魔にやられたんですか!?」
「ああ」
驚愕の報せを持ってきたのは朔夜だった。
これまでも似たような話は何度か有った。だが、今回の襲撃犯はクリーチャーではなく悪魔である。自分たちにとって最も身近な存在であるリリスや朔夜と同じカテゴリーに属する何者かが春人を襲った――その事実に、はるかたちは開いた口が塞がらない。
「悪魔って……リリスさんや朔夜さん以外にもいるんですか!?」
「ただの悪魔じゃない。春人を襲った犯人、もとい悪魔の名は……カルヴァドス!」
「か、カルヴァドスだと!!」
「ウソでしょう!?」
名前を聞いた途端、レイは異常な興奮を起こしその場を立ち上がった。ラプラスでさえ、レイほどではないがかなり驚いた様子で目を見開いた。
「あの……それは何者なんですか?」
カルヴァドスとは何者なのか……狂熱を帯びたレイを一瞥し、ピットが詳しい説明を求める。
皆の視線が
「はぐれ悪魔カルヴァドス……悪魔界の歴史の教科書に載った事があるほど、悪魔の中で知らぬ者は居ないとされる。今からおよそ三百年前の事だ。悪魔界を震撼させた大きな事件がある。ある国の平和な村で暮らしていた住民が突如狂気に走り、仲間同士で殺し合ったんだ。その村での出来事を機に、狂気は各地へと伝染し、瞬く間に規模は拡大。ついには一国全体が狂気に呑み込まれ、挙句滅んだ……オレたち悪魔はこの事件を【デーモンマドネス】、または【悪魔の狂気虐殺】と呼んでいる。そして、この事件の黒幕にいたのがカルヴァドスだった。奴は己の
寒心に堪えない、身が竦むような話。聞いている側のはるかたちの額の汗が瞬く間に蒸発し、腕には鳥肌が浮かび上がる。
「そして現代……ハデスを脱獄して奴は人間界へと現れた」
「は、ハヒ~~~……な、なんてデンジャラスなんでしょう……いえ、最早デンジャラスを飛び越えています!! 怖いです!!」
「じゃあ、新聞やSNSに載っているダークナイトって言うのもカルヴァドスが?」
連日のように新聞の社会面を飾り、SNSで拡散され続けるダークナイト事件に関する記事。持ちこんだものをテミスが見せ朔夜に確認を取ると、案の定彼は首肯した。
「春人の話では、ダークナイトとは過剰なまでに正義感が強くなった若者の事らしい。どこかでカルヴァドスに唆されたらしいが……オレが思うに、奴の狙いはダークナイトそのものではないな」
「ダークナイトが狙いじゃないって……じゃあ何が狙いなのよ?」
気になってラプラスが尋ねるも、朔夜は渋った顔で「それはオレにもわからない」と答えるばかり。
しかし直後、「ただ……」と、言葉を紡ぐ。
「さっきも言った通り、カルヴァドスは悪魔の中でもとりわけ計算高い悪魔だ。きっと何かオレたちが想像もつかないような恐ろしい事を企んでいるに違いない!」
朔夜の読みは当たっていた。
現在、カルヴァドスは洗礼教会の幹部達も肌が栗立つ様なある恐ろしい計画を粛々と進めていた。
「嗚呼……満たされる。欲望がどんどん満たされていくよ」
己が手で生み出した現代の怪物・ダークナイトを媒介に、カルヴァドスは自分自身の欲望が満たされる事に至高の喜びを感じていた。
ダークナイトは一躍時の人となり、社会現象へと発展。犯罪行為に働きかける者を容赦なく手に掛け制裁を加えて行くと言った方法に世論は賛否両論。警察はダークナイトの逮捕に躍起になっていた。
ダークナイト自身の負の感情から生まれる欲望の満足度もまた、カルヴァドスから求める高密度エネルギーとなって、彼の元へと送られる。
「いいぞ、その調子でどんどん悪いヤツを根こそぎ刈り取っちゃえ。そうやって犯罪者狩りをすればするだけ、君の欲望はどんどん満たされていく。そして、満たされた君の
選んだ素体に狂いは無かった。
ダークナイトから得られる濃密なる負の欲望の満足度に心底喜びを抱きつつ、カルヴァドスは亜空間の中で封じられているあるものの様子を確かめる。
空間内部が暗い為はっきりと姿を確認する事は難しい。だが、それが危険なものである事は明朗だ。
ウウウ……という唸り声を発するそれは、不気味に目を紅く光らせており、ひしひしとした凶気を内包している。
カルヴァドスは送られてくる負の欲望の多くを、亜空間内部のこれに注ぎ込む。かねてより計画していた
「ふふふ……もうすぐ誕生するんだ。ボクのオリジナルクリーチャーが」
天城家を発ち、はるかたちは病気療養中のリリスの見舞いの為、ベルーダの洋館へと向かう。
リリスが意識を失って倒れ、ダークナイトが犯罪者狩りを始めて今日で一週間が経つ。プリキュアの力を酷使して生命の危機に瀕し回復の兆しがあまり見られないリリスとは対照的に、ダークナイトによる世直しによって、犯罪件数が一時的な効果とは言え爆発的に減少し、世の治安は回復傾向にあった。
こうして街を歩いていてもそれが顕著に分かる。
悪意ある人間も、いつ自分がダークナイトに襲われるかもわからないという恐怖心から、どんなに鬱積した不満があろうと形として外側に出すような事はしない。そんな事をすれば、否が応でもダークナイトが現れ、粛清の対象とされるからだ。
空気は重く淀み、どこか息詰まる思いが街全体に渦巻いている。
はるかとテミスはプリキュアだ。ゆえに、人々が抱える負の感情を機敏に感じ取る事が出来た。
「ダークナイトの出現が結果的に犯罪の数を減らしているみたいですけど……却ってみなさんの心が暗く沈んでいるようです」
「それになぜかしらね。どうにもさっきから胸騒ぎが収まらないのよね」
テミスの胸騒ぎは現実のものとなった。
唐突に空に稲妻が走ったが如く周囲が強く光ったと思えば、混沌の平和と言う名を持つ巨大な怪物――カオスピースフルが出現した。
『カオスピースフル!!』
「きゃあああああ!!」
「バケモノー!!」
人々はカオスピースフルの出現に悲鳴を上げ、逃げ惑う。そんな彼らの退路に逆流するはるかたちは、何の前触れも無く現れた敵を凝視する。
「どうして急に出て来たんでしょう!?」
「知りたければ、あいつに直接聞くしかないわね」
「リリスと春人がいない以上、オレたちであれを食い止めるぞ」
「「はい(ええ)!!」」
「「「「ああ(はい)(やってるわよ)!!」」」」
「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」
「シャイニングパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」
「バスター・チェンジ」
「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」
「不浄を焼き払う聖なる光! キュアケルビム!」
「影に向かいて影を斬り、光に向かいて光を斬る。暗黒騎士バスターナイト」
「「「『ディアブロスプリキュア』!!」」」
『カオスピースフル!!』
恐怖に怯える人々を見据え、カオスピースフルは肩の角から紫色を帯びた電磁波を放出。
すると、それを浴びた人々はこれまで体感した事のない凄まじいまでの頭痛を覚え、逃げる事も出来ず地面の上でのた打ち回る。
「ファイアーマジック!!」
これを見て、ウィッチはカオスピースフルへと魔法の炎をぶつけ、紫の電磁波を放ち人々を苦しめる敵の凶行を強制的に止めさせる。これで電磁波による攻撃が一旦収まった、そう思った直後……
「アアアアアアアアアアアアアア!!」
「は、ハヒ!?」
奇声を放つ一人の男が、ウィッチへと襲い掛かった。
錯乱状態の男はウィッチが所持するキュアウィッチロッドを取り上げようとする。
「な、何をするんですか!? 放してくださいよ!!」
〈どうか落ち着いてください!! 聞こえていますか、我々の声が!!?〉
このとき、クラレンスは既に杖との融合を完了させていた。あまりに唐突な事だったため、ウィッチから男を切り離すという事が出来ずにいた。
「はるか!! クラレンス!!」
「何がどうなってるのよ!?」
気が狂ったように暴れ出した男。
男がウィッチへ襲い掛かったのを皮切りに、カオスピースフルの電磁波を浴びた人々の様子が次々とおかしくなる。邪悪な力に精神を乗っ取られたが如く、狂気を解き放ち手当たり次第に暴れ回る。自分たちの暮らしを自分たちが壊す――その様はまさに、デーモンマドネスの人間版。あるいはセイラム村での惨劇の再来か。バスターナイトはこの光景を前に愕然とした。
「これは………くそっ!」
十中八九カオスピースフルに原因があると悟った。
何の罪も無い人々をおかしくする怪電磁波を放ち、破壊衝動に陥った人々を見てほくそ笑んでいる怪物を、決して許すわけにはいかなかった。
ディアブロスプリキュアは一丸となり、凶悪な能力を秘めた眼前のカオスピースフルに一斉攻撃を仕掛ける。
「ホーリーアロー!!」
「ダークネススラッシュ!!」
『ブレス・オブ・サンダー!!』
「ブリザードスピア!!」
『テンペストウィング!!』
ピットが姿を変えた弓を操り聖なる矢を放つケルビム、バスターナイトの闇の力を秘めた斬撃、スプライト・ドラゴンであるレイの口腔内から放たれる雷砲弾、ウィッチの凍結魔法攻撃、そして巨大白コウモリとなったラプラスが翼を羽ばたかせる事で生み出す突風――それらがひとつに合わさって、カオスピースフルへと襲い掛かる。
だが、彼らの攻撃が当たる事は無かった。
当たりそうになった寸前、カオスピースフルは瞬間移動能力を発揮して現場から忽然と居なくなってしまったのだ。
「き、消えた!?」
「どういうつもりよ?」
*
黒薔薇町郊外 ベルーダの洋館
何らかの目的の為に姿を現したはずが、その後忽然と姿を消してしまったカオスピースフル。消えた敵の行方が気になる一方、ベルーダの元を訪れたはるかたちは敵の狙いについて議論し合う。
「一体あのカオスピースフルの目的は何だったんでしょう?」
「パッと現れたと思ったら、パッと消えちゃいましたしね……いててて!」
「大丈夫ですか、はるかさん!?」
左手の甲を負傷しているはるかの身を案じクラレンスが自分の手をおもむろに重ね合わせ、彼女の痛みを和らげんとする。
「その傷どうしたの?」
いつどこで付けられたかも分からない傷について、テミスが状況説明を求めると、「見ず知らずの男性に襲われたんですよ……」とはるかは告白する。
「そう言えばあのとき……はるか様にいきなり襲いかかって来た男がいましたね」
「他にも戦闘中、妙に暴れ出していた人が何人か……」
「何がどうしたんでしょうか?」
「理由は、カオスピースフルが出していたあの紫色の電磁波じゃよ」
キッパリとそう口にしたのはベルーダだった。
あのとき、黒薔薇町に出現したカオスピースフルが出していた特殊な電磁波を、ベルーダは確りと捕捉し解析をしていた。
「あの電磁波には直接人間の脳を破壊する作用があるのじゃ」
「じゃあ、あの暴れていた人たちは……」
「間違いなくカオスピースフルの電磁波によるものじゃ。あの電磁波は脳の中に一種の恐怖ホルモンを作り出すんじゃ。そして攻撃衝動、殺人衝動を引き起こして、脳のあらゆる部分を破壊してしまう。かつて悪魔界を震撼させたデーモンマドネス……三百年前にカルヴァドスが人間界と悪魔界で使った手口と全く同様の事が今回起きた」
「なんですって!?」
「ということは、リリスちゃんが以前話していたアメリカの魔女狩り事件の黒幕がカルヴァドスなんですか!?」
「まさか……そんな事が」
「いや、あの悪魔ならやりかねん。ひとつの方法だけに留まらない多方面からの侵略行為。もしもこのまま電磁波が広がり続ければ……」
「カルヴァドスは指一本動かさずに人類を滅ぼす事が出来る!」
想像するだけでも恐ろしい結末だった。
ダークナイト騒動に端を発するはぐれ悪魔による侵略行為は、既に第二段階へと突入していた。それが今回の怪電磁波作戦である。
悪魔の歴史上最悪の事件とされるデーモンマドネスの脅威が、三百年振りにアメリカから日本というステージを変えて、地上世界の人間たちへと向けられた。
このままでは地上はカルヴァドスの……いや、洗礼教会の手によって確実に更地となる事だろう。
「そんな事はさせません。私たちが……ディアブロスプリキュアが絶対に阻止して見せます!!」
許されざる暴挙を止めるため、語気強くはるかは宣言する。
プリキュアである事の矜持に懸けて、何としても自分たちの世界を守り抜いて見せると。それが、病床に伏せるリリスへのせめてものはなむけであると信じて――
同時刻――。
洋館の中でもとりわけ設備が整えられた一室において、悪原リリスは生命維持装置に繋がれベッドの上に横たわっている。
徹底的に体調を管理された上での延命治療。しかし実のところはあまり効果が期待できる方法ではなく、ほんの気休め程度にしかならない。そんな事は当の本人が一番理解しているつもりだった。
いつ命が尽きてもおかしくないまでに肉体を酷使し続けたリリス。酸素マスクを着け眠っていた折、誰かの気配を感じ取った。
「ん……」
朦朧とする意識の中、重く閉ざされた瞼をゆっくりと開ける。すると、そこに居たのは見知らぬ人影。
「ふふふ。
「あなた……誰なの……」
話しかけて来た相手を若干虚ろな瞳で見つめるリリスだったが、やがてはっきりと見えた相手の素顔を見るなり、目を見開き、顔の筋肉を硬直させる。
彼女は気付いてしまったのだ。目の前に立つ人物が、悪魔の歴史上最も凶悪と呼ばれた存在であり、残忍非道な存在――はぐれ悪魔のカルヴァドスである事に。
「プリキュアの力を手に入れる代償に自分の命を削るとは……君は本当に悪魔なのかい? 悪魔は悪魔らしく、自分の欲望に忠実であるべきだよ。だからボクも自分の欲望に従って、君にイジワルな事をしてあげるね♪」
「ああ……ああ……!!」
――ビロッ! ビロッ! ビロッ!
洋館の内部から発せられる警報音。何事かと思い調べてみれば、ベルーダはハッとした表情を浮かべ絶句する。
「ドクターベルーダ?」
「どうしたのよ!?」
「これは……リリス嬢の容態が急変しとる!!」
「なんですって!?」
「リリス様!!」
「リリスちゃん……リリスちゃん!!」
矢も楯もたまらずはるかたちはリリスの元へ走り出す。
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」
生命維持装置をカルヴァドスによって滅茶苦茶に操作される。
微妙なバランスを保っているリリスの肉体に激痛が走る。いや、それは最早激痛を通り越した痛み。言葉では言い表せぬほどの辛苦が消耗し切ったリリスの心身を追い詰める。
「ハハハ。いいね、その悲鳴。やっぱり男よりも女の子の悲鳴の方が艶があってさ」
「やめてえええええええええええええええ!! やめてちょうだいいいいいいいいい!!」
あどけない笑顔でリリスを苦しめるカルヴァドス。これこそ、彼が三百年にも渡って冥界の最下層に位置する牢獄から一度も出してもらえなかった理由のひとつである。
尋常じゃないほど苦しむリリスの悲鳴を聞きつけ、はるかたちが彼女の病室に到着した。
「リリスちゃん!!」
「な……アンタは!!」
病室に入るなり、彼女たちの目にカルヴァドスの姿が映る。
「やぁ。お初にお目にかかるよ。ボクがカルヴァドスだよ。以後、お見知りおきを」
「カルヴァドス……貴様ぁぁぁ!!」
陽気に挨拶をするカルヴァドスとは裏腹に、彼がリリスを苦しめているという事実を目の当たりにした直後、朔夜は血走った眼となり、有無を言わさずバスターソードで斬りかかって行った。
「ほおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
鋭い太刀筋が向けられた瞬間、カルヴァドスは両手で刃を挟み込んで白刃取り。
飄々とした笑顔で朔夜を見つめると、露骨なまでの敵愾心を燃やしており、自分の事を殺したくて仕方がないと言わんばかりに殺意を剥き出していた。
「よくもオレの目の前でリリスに手を出したな……殺される覚悟はできているだろうな!!」
「おお~、怖い顔しちゃって。イケメン王子は王子らしく、爽やかな顔してなきゃ」
「黙れぇぇっ!!」
朔夜は激昂した。
カルヴァドスは怒り狂った彼の強烈な一太刀を躱すと、瞬時に部屋の窓から脱出。どこかへと消えて行った。
「リリスちゃん!!」
「リリス様!!」
直ぐにリリスの安否確認を行った。
辛うじて息はあった。だがこれでまた確実に彼女の寿命が縮まった事は間違いない。
ベッドの上で全身汗だくとなって激しく息を上げるリリスの姿を前に、はるかたちは見るのも辛くなる。
「リリスちゃん……ひどい事してくれますね!!」
「カルヴァドス……今度会ったらただじゃおかないわよ!!」
「ははは。いい感じいい感じ。それにしてもあの顔の迫力ったらなかったな~」
子どものようにはしゃぐカルヴァドス。その姿に悪魔らしさは微塵も感じられない。
だが、いつの時代でも我々が忘れてしまっている事がある。幼子の心にこそ、真の悪魔は巣食っている事を――
「さてと……こっちの方もそろそろ最終段階かな」
カルヴァドスは亜空間に封じられている邪悪なものの様子を確かめながら、これを外の世界へ解き放つ頃合いを思案する。
「こいつの完成にはあとちょっと負の欲望が必要かな。それじゃあ、最後の仕上げと参ろうか♪」
そう言うと、フィンガースナップを利かせてから、カルヴァドスは例の怪物を再び街中へと解き放った。
『カオスピースフル!!』
紫色の怪電磁波で人間を凶暴化させるカオスピースフル。デーモンマドネスを引き起こした元凶こそ、紫の電磁波であり、今回カルヴァドスはカオスピースフルにその力を移植した。
肩に生えた角から放散される電磁波。それを浴びた人々は脳組織を破壊され、狂気に走り我を忘れ暴れ回る。狂気の沙汰とは正にこの事だ。
騒ぎを聞きつけウィッチたちが現場へ到着すると、街中に紫の電磁波が漂いそこに居るだけで気がおかしくなりそうだった。
「電磁波がより強力になっているわ!」
「変身状態でも頭がズキンズキンします! 早くカオスピースフルを倒さないと、町は数分で壊滅してしまいます!」
「オレにやらせてくれ。カルヴァドスの好きにさせてたまるかっ!」
最も卑劣な方法で大切な婚約者を傷付けられた事にバスターナイトは怒り心頭だった。
カルヴァドスが仕掛ける今回のような惨事を早急に止める為、彼の身体および心は烈火の炎に包まれる。
「ほおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
リリスと仲間たちを守る為に手に入れた火炎龍、ブレイズ・ドラゴンの力を身に宿した紅蓮の鎧――スタイル・クリムゾンデューク。
太陽の光を浴びて一段と赤々と輝くその姿を見せつけ、バスターナイトはカオスピースフルへと向かって突進する。
『カオスピースフル!!』
突進してくるバスターナイトへ、カオスピースフルが額から光弾を放ち、両手の爪からは電撃を発生させ攻撃する。
が、バスターナイトは飛んでくる光弾にも電撃にも一切臆せず手持ちの剣と盾で薙ぎ払い、相手の間合いへと潜り込む。
「デラシウム・フォース!!」
瞬間移動能力で逃げられる事を恐れ、それを阻止するとともに強力な熱エネルギーを帯びた紐状の炎でカオスピースフルの動きを完全に掌握。身動きが取れなくなったところで、バスターナイトは灼熱の一太刀を振るう。
「終わりだ。ブレイジング・ストーム!!」
――ドン! ドンドン!!
『あんびり~ばぼ~~~♪』
炎の渦に包まれながら言霊を呟き、カオスピースフルの体は炎とともに浄化され天空へと還って行った。
だがカオスピースフルが集めた人々の負の欲望は亜空間へと転送され、封じられた邪悪なるものの糧として吸収された。カルヴァドスはカオスピースフルが倒される事を前提に今回の行動に出たのである。
「これでボクのオリジナルクリーチャーが完成したぞ。さぁ……ここからが祭りの始まりだ。今すぐ出してやるからな、合成クリーチャー・キメラ!!」
亜空間に長らく封じられていた邪悪なる存在。赤く目を光らせた魔物――キメラは満を持して地上世界へと放たれたのだ。
バスターナイトの手によってカオスピースフルが倒され、電磁波が徐々に弱まり始めた頃。
「なにか来るわ……」
ケルビムが悪寒を感じ、メンバーに警戒を促す。
周囲を見渡していた時だった。メンバーは彼方より飛来する物体を凝視。巨大でおぞましい姿をした魔獣が出現するや、全員が度胆を抜いた。
「は、ハヒ――!?」
「なにあれぇ!?」
大型爬虫類を素体に、左右には二本ずつの異なる腕が生え、背中にはコウモリとワシの翼があり、頭部は金属化している。
これこそカルヴァドスが亜空間の中で秘かに制作していた様々なクリーチャーのパーツを組み合わせ作り上げた最強最悪の合成クリーチャー、名をキメラ。同じクリーチャーと言うカテゴリーに属するイドラやイフリートと同じ存在であるとは思えないほどの禍々しさを全身から醸し出す。
「あれもクリーチャーなの!?」
「ですが、あんなクリーチャー見た事も聞いた事もありません!!」
「カルヴァドスめ……あんなものを用意していたのか!」
*
第七天 見えざる神の手・居城
「な、なぜ!? なぜだー!!」
気付いたとき、それは起こっていた。
アパシーによって七人いる幹部のうち、六人が瞬く間に殺害されたのだ。
明らかなる反逆行為に驚きを隠せない最後の一人に対し、アパシーは血の付いた鉤爪を携えながら淡々と語りかける。
「ご老体に無理をされてはよくありません。そろそろ……永いお休みを取られてはいかがですか?」
「貴様ぁ! ホセアに懐柔されおったか……!!」
「誤解しないでいただきたい。我々も所詮利害関係の一致により結託したまで……より条件の良い方を選ぶだけです。貴方方が生み出し、育てた異能の存在。古の地から現在の地上世界のあらゆる智慧という智慧をその身に秘めた人造生命体・ホムンクルス。開発コードネーム【
「バカな!! ……バカなぁぁ!!」
「どうか安らかに、お休みいただけることを切に願います」
裏切られた事に多大なショックを受ける最後の一人を見据え――アパシーは感情の籠もっていない表情で標的目掛け無情にも鉤爪を一振りした。
「貴方方に、どうか主の導きが有らん事を」
――バシュン!!
*
異世界 洗礼教会本部
アパシーによって見えざる神の手の幹部たちが全滅した頃。
元々は見えざる神の手の幹部たちによって生み出された救済の預言者こと、ホセアは……
「〝下にあるものは上にあるものの如く。上にあるものは下にあるものの如し〟」
彼の手持ちの書物――錬金術の基本理念が記された【エメラルド・タブレット】の有名な一文を眺めながら、ホセアは悲嘆に満ちた顔で呟く。
「我が肉体に命を与えし見えざる神の手よ。最早主たちの中に、この言葉が示す純粋でより高貴な心など、なにひとつ残ってはおらぬ」
「眠れ……そして冥府の涯で見守っているといい。貴様たちが愛した世界が更地に変わる瞬間をな」
次回予告
朔「魔王の如き力を秘めたクリーチャー・キメラの圧倒的力に屈するオレたち」
テ「残り少ない命の炎を燃え上がらせ前線復帰したリリス…だけどやっぱり!」
は「リリスちゃん、死んじゃダメです!! あなたがいなくなったら、はるかたちは…」
リ「冗談じゃなわいわよ。私は何が何でも生き残る……悪魔として、私の大事なもの全部をこの手で守って見せるわ!!」
レ「そしてリリス様はついに、奇跡の力を手に入れる!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『悪魔として生き残る!奇跡のカイゼルゲシュタルト!!』」