プリキュアの力に侵されていた彼女の肉体・・・それを克服するものは何なんか!?
いよいよディアブロスプリキュアも32話まで行くことが出来ました。一応予定としては50話くらいをめどにしようと思っています。
では、リリス復活回・・・記念すべき話をご覧ください。
『臨時ニュースをお伝えします!! 突如、東京の空に巨大な怪物が出現し町を次々と破壊しています!! みなさん、この光景は夢や幻ではございません!!』
リアルタイムで報じられる惨劇。
視聴者はキャスターが語りかける言葉を俄かには信じられずにいた。
だが、リアルタイム映像として液晶画面に映し出される光景を見れば、否が応でも事実を受け入れざるを得ないと感じてしまう。
もしも、これが夢や幻などではないのならば、一体どれだけ視聴者の心を弄び、視聴率を第一と考えたテレビ局の性質の悪い演出だっただろう。
『速報です。先ほど政府は東京に突如出現した〝巨大不明生物〟に関する緊急災害対策本部を設置致しました。これにより国民みなさまの安全に対して万全の対策を講じ、速やかな避難活動を実行する為、地上本部及び関係省庁との連絡を密とした――』
テレビから報道される重大事案発生に関するニュース。
人々は前触れも無くその姿を顕現させた未知なる巨大生物の襲来に恐怖し、町は大パニックとなっていた。
『この信号は止まっています。直ちに降車して警察の指示に従って行動して下さい』
『区内全域に避難指示が発令されました。住民の方は直ちに避難して下さい』
避難指定を受けた区域でひっきりなしに避難指示を誘導する放送が流れる。
日本の総人口のうち、その半数を占める東京。様々な世界や国から集まった人がそれぞれの文化を共存させながら決して互いに交わることのない
老若男女問わず街中には人がごった返している。
道路は車と言う車で埋め尽くされ、須らく彼らは地上を征服せんと現れた恐怖の大王の存在に怯え、我先にと逃げる事に必死だった。それこそ他人の事など歯牙にかける余裕すらなく。
「押さないで! 落ち着いて避難して下さい!」
「地震災害の避難場所では役に立たない! 新たな避難場所の指示を乞う! どうぞォ!!」
かつてない異常事態に直面した警察官や消防署員もまた、他の人々と同じく思考が全く追いつかずどうしていいか分からなかった。
おぞましい巨大な魔獣、合成クリーチャー・キメラが町を蹂躙する様は、さながら恐怖の大王が地上を支配するかの如く。
重力を無視して巨体を浮遊させ、眼下を見下ろし口から死の熱線を放ち、ビルや周りの建造物を瞬く間に焼き焦がす。
首都・東京の街並みが火の海に呑みこまれ消えていく。そんな中、キメラの侵攻を必死で食い止めようとする者たちがいた。
人類の希望の象徴という意味を込めて人々は彼らをこう呼ぶ――――伝説の戦士・プリキュアと。
*
東京都 中心部
「〈バーニング・ツイン・バースト〉!」
キュアウィッチこと、天城はるかとその使い魔クラレンス。二人の魔力を掛け合わせ生み出される炎。
炎は空を覆い尽くすほど巨大な魔獣の頭部へと真っ直ぐに飛来、直撃した。
着弾時、カキンという金属音が鳴るだけで炎は直ぐに掻き消されてしまう。魔獣を作り出したカルヴァドスは見えないところで「ふふ。金属化した頭部にそんな火遊びが効くわけがないよ」とウィッチの行為を嘲笑う。
「このっ!!」
『テンペスト・ウィング!』
キメラとの距離を測りつつ、同じく空を滑空していたキュアケルビムこと、テミス・フローレンスはパートナー妖精のピットが変化した武器・聖弓ケルビムアローで狙いを定めると、光輝く矢を連続で放ち攻撃。
それに便乗してバスターナイト、十六夜朔夜の使い魔でサキュバスのラプラスは巨大シロコウモリの姿から翼を羽ばたかせ竜巻状の突風を放つ。
聖なる矢が強風の威力と掛け合わさって一段と威力を増す。しかしキメラは巨体ゆえの鈍重な動きをするどころか、背中に生えた計四枚の異なる翼を使って容易に回避する。逆に素早い動きでケルビムらの背後に回り込む。
「ヒポグリフの翼とワイバーンの翼があるから動きも早いのさ。今度はこっちからいくぞ」
文字通り悪魔的な笑みを浮かべ、カルヴァドスはプリキュアからは見えない場所からキメラを意のままに操る。
敵の攻撃を躱し、咆哮を上げるキメラ。
巨体を動かし周囲を飛行しているケルビムとラプラスの背後へ素早く回り込むと、そのまま体当たりを仕掛ける。
二人はこれを躱すが、その直後に体当たりを上手く避けたばかりのラプラス目掛けて奇襲が仕掛けられる。
『きゃああ!!』
横薙ぎに飛んで来て、身体を叩きつける重くずっしりとした感触。それはキメラの尻尾部分であり、身の丈に合った大きさに加えて先端部には猛毒が備わっている。
「フェンリルの脚に、マンティコアの尻尾」
地上へ叩き落とされたラプラスの身を案じつつ、ケルビムはキメラから死に物狂いで逃げる。
キメラは彼女を執拗に付け狙い、生え備わった左右それぞれ二本の不気味な腕で逃げる標的を補足しようとする。
「フレースヴェルグにゴーレム、それにクラーケンの腕! ボディはミノタウロス! そしてビッグフットの体毛!」
コンピューターゲームに没頭する子供を彷彿とさせるが如く。嬉々としてカルヴァドスはキメラを遠隔操作で操る。
世界中でその存在が確認された凶悪なクリーチャーから採取した、あらゆる遺伝子データを元に作り上げた凶悪な魔獣。その力量を見ながら湧き上がる破壊と殺戮の衝動、言い知れぬ興奮に胸が高鳴っていた。
「きゃあああああ!!」
とうとう、ケルビムもまたキメラによって撃ち落とされた。
パワーでも飛行能力でも、あらゆる面でキメラはプリキュアのそれを凌駕する力を備え持っていた。
「ふふふ……はははははは!! 期待通りの出来栄えだっ! どうですか、ホセアさん!! ボクの作ったオリジナルクリーチャーはすごいでしょう!! 自分でも惚れ惚れする!!」
創った本人も正直、ここまでのポテンシャルを秘めているとは思わなかった。カルヴァドスは想定以上の成果を挙げるキメラに大満足だった。
一方、ディアブロスプリキュアは依然として劣勢な状況を好転出来ぬまま、圧倒的な力を持つ敵の侵攻を止めようと躍起になっていた。
「シュヴァルツ・エントリオール!!」
暗黒騎士バスターナイトこと、十六夜朔夜は暗黒魔盾バスターシールドの目を開眼し、そこから闇の波動を放射する。
闇の波動によってキメラの動きを一時的にでも封じ込めようと試みるが、それすらも意味を為さない。キメラは内側に秘めし邪悪な闇の力を咆哮とともに解放――その力をもってバスターナイトを後退させる。
「ぐあああああああ!!」
結局、単純な力負けをしてしまう始末。
ならば、同じ土俵で戦えば倒せなくても何とか一矢報いる事が出来るかもしれない……そう思ったのはスプライト・ドラゴンのレイ。
『私が相手だぁぁぁ!!』
本来の姿に変身し、巨体を活かし同じ巨体のキメラに真っ向から勝負を仕掛ける。
『ブレス・オブ・サンダー!!』
口腔内で生成された高密度の電気エネルギーを一気に放出する。
キメラは前方から飛んでくる雷光弾を避けると、闘争本能を剥き出しにレイ目掛けて強烈な体当たりを仕掛ける。
『うぎゃああああ!!』
同じ巨体でも内面に秘めるパワーはレイの想像を絶するものだった。
体当たりを食らったレイは地面に激しく叩きつけられ、元の使い魔サイズに強制的に戻ってしまった。
あらゆる敵を踏みにじり、蹂躙する魔王獣。キメラが上げるその咆哮は、周りの空気を震わせ聞く者に畏怖の感情を植え付ける。
これまでに経験した事のない窮地に立たされたディアブロスプリキュア。メンバー全員の体に生々しい傷跡が生じ、勝てる見込みが見出せぬ状況に敗色濃厚だ。
「な、何なのよあいつ!? マジでバケモノじゃない!!」
「ハヒ……こんなの反則です! スーパー戦隊だって巨大ロボがないと倒せないです……」
状況を悲嘆するラプラスとウィッチ。その傍らで、使い魔態に戻ったクラレンスは重い瞼を開け、天空を支配するキメラを今一度仰ぎ見る。
「あのクリーチャー、見たところ色んなパーツが組み合わさってるみたいですけど……」
「おそらく、錬金術を悪用したのでしょう。あれは最早クリーチャーではありません。ただの異形の存在です!」
と、ピットが確信を持った言葉を紡ぐ。それを聞いたバスターナイトとケルビムは厳しい表情を浮かべながら、カルヴァドスの行為を
「カルヴァドスめ……こんな怪物を作り出して、自分が創造主にでもなったつもりか!?」
「だとしたら、思い上がりも甚だしいわよ……!!」
自らの欲望に忠実に従った結果、カルヴァドスは史上最強にして最悪の存在を創り出した。
彼がキメラを作成するに至ったその欲望とは……〝いろんなクリーチャーのパーツを組み合わせたらどんな怪物が生まれて、それを暴れさせたらどうなるのだろう〟、といういかにも子どもの純粋な疑問を具現化させたものだった。
やがて、キメラはディアブロスプリキュアを見下ろすと、口から町を即座に焼き尽くす死の熱線を放射――攻撃を開始する。
「「「うわあああああ!!」」」
「「「「だああああああ!!」」」」
直撃こそ免れたものの、あまりの破壊力に余波も凄まじい。各々ビルの壁に激突するほどの膨大なエネルギーを内包していた。
「な……なんてパワーだ!」
「これじゃあと数分もしないうちに東京全体が焼け野原になってしまいます!!」
早急にどうにかしないといけない。
しかし、キメラの強さは規格外。強さの次元というものが明らかに異なる最強最悪のクリーチャー。だが……
「やるしかないのよ……」
震える声で、ケルビムはボロボロになった体を起こし皆に活を入れる。
「こうなったら、私たちだけであいつを倒すしかないわ! リリスがいない今、私たちが町を守らないといけないのよ!!」
ディアブロスプリキュアの要とも呼べる存在――キュアベリアルこと、悪原リリス。その彼女が不在の今、彼女の分まで戦い町を守る事こそが自分たちが命懸けて果たすべき使命だとケルビムは訴える。
話を聞くと、ウィッチもバスターナイトも、そして使い魔たちも彼女の意志に答えるように傷ついた体をゆっくりと起き上がらせる。
「テミスさんの言う通りです……リリスちゃんの為にも、自分たちの為にもここはネバーギブアップです!!」
「やってやるさ……何が何でも!! オレ達だけでも!!」
「無理だね。君達だけじゃ」
そのときだった。重低音を発するエンジンを備えた一台の装甲バイクが彼方より現れ、猛スピードで接近してきた。
青を基調としたスマートなボディ。時速百キロを超える速度で走りながら、燃えるような赤を彷彿とさせるパワードスーツに身を包んだセキュリティキーパーこと、神林春人が駆け付ける。
「春人っ!!」
思わず吃驚した声を発するバスターナイト。
すると、セキュリティキーパーは背中に背負っていた五連装のミサイルランチャー、正式名称【セキュリティキーパー多目的巡航五連ミサイルランチャー】。通称【SKクラスター】を走りながら構える。
標的をキメラに定めた直後、その引き金を引いた。
着弾の瞬間、多段爆発を起こしキメラの皮膚は燃え上がるとともに焦げ落ちる。悲鳴にも似た声を上げ苦しむ魔王と、その光景に感嘆の声を漏らすディアブロスメンバー。
セキュリティキーパーは満身創痍な彼らのすぐ近くにバイクを停車させると、彼らの安否を気遣った。
「どうやら間に合ったみたいだね。君らが思っているほど、僕ら警察もそこまで無力ではないんだ」
「春人さん、来てくれたんですね!!」
「傷はもう大丈夫なんですか?」
嬉々とするウィッチ。クラレンスが不安げな顔でセキュリティキーパーの容体を気に掛ける。
「あんなバケモノが現れていながら、何もしないで寝ている方が異常だよ。それに、現状ではあいつをどうにか出来るのは僕らしかいないんだ」
「え? それどういう意味?」
セキュリティキーパーの言葉に違和感を抱き、ケルビムが恐る恐る尋ねる。
すると、尋ねられたセキュリティキーパーの口から日本と言う国柄が生み出す遣る瀬無い現実が浮き彫りとなる。
「……既に政府は災害緊急対策の布告を総理が宣言し、巨大不明生物に対する治安維持の為の自衛隊による武力行使命令が下された。だが、他国からの侵略はおろか自国でこのような事案に対処するのは戦後初めての事だからね。全てが後手に回っている。しかも現場は人口密集地。現実問題として、警察による短時間での避難誘導は困難を極めている。防衛出動となれば、逃げ遅れた住民や局員を戦闘事態に巻き込む可能性がある」
「――つまり、国としては内閣総理大臣のゴーサインが出ない限り、あれを攻撃する事は出来ず、大規模な武力行為も制限される。だからオレ達の様な限られた戦力であれをどうにかするしかないと」
セキュリティキーパーの話をバスターナイトは皆にも分かり易い様にかみ砕く。
「そんなの無理ゲーに決まってるじゃない!! まったく、どうしてどこの国も役人っていうのは無能っていうか、大局を見ていないというか!!」
「物事を俯瞰で見るということは、簡単そうに見えてとても難しい話です」
日本政府の後手に回った対応に激しく癇癪を起こすラプラスを見ながら、レイは悟ったかのように自身の意見を呟いた。
「とはいえ、あれを放置する事はこの国の治安に関わる。政府にあまり期待を寄せられない以上、僕らでここを持たせるんだ」
「「「「「「はい(ええ)(ああ)!!」」」」」」
セキュリティキーパーの言葉に鼓舞されるメンバー。
眼前に佇む凶悪な魔王の姿を目の当たりにしながら、セキュリティキーパーは手持ちの武器を準備しつつ、隣に立つウィッチに声をかける。
「天城はるか。君は確かこう言ったね。スーパー戦隊の巨大ロボがないとあれを倒せないと」
「はい……そうですけど」
何故急にそんな事を言うのか、疑問に思っていた矢先、彼の口から意外なポジティブトークが飛び出した。
「確かに、あれを倒すには巨大ロボのひとつやふたつ必要かもしれない……でも、最近のライダーの中には、僕らと同じサイズであれほどの大きさの敵を倒した事例もある事を知っているかい?」
聞いた瞬間、ウィッチは思わず目を見開いた。それは彼なりに周りを気遣う優しさの現われであるとともに、自分達でもキメラを倒すことが出来るという勇気を与える言葉だった。
「……なるほど。それは知りませんでした!」
確証などあるわけではない。だが不思議と、決して無謀な戦いではないという気持ちが湧いてきた。ウィッチはセキュリティキーパーから勇気を得ると、クラレンスを肩に乗せてから杖を手に構え直す。
巨大な敵を前に一致団結するメンバー。
プリキュアと警察組織がひとつとなり、大いなる力を秘めた魔獣に立ち向かう。
町の平和を、人類の未来を守る為……悪魔と天使、人間と言う垣根を超えた共闘が今、幕を開ける――――。
*
黒薔薇町郊外 ベルーダ邸
仲間たちがキメラと戦っている事を知り、ディアブロスプリキュアの要たる悪魔――リリスは生命維持がやっとの体を無理矢理叩き起こし、自らも出陣する覚悟を決める。
ベルーダは戦いに臨む決意を固めた彼女の為に、特別な薬品を用いて体調の最終調整を行う。彼としては、彼女を戦いの場に送る事はどうにも気が引ける。だが彼女の鋼鉄の意志は自分程度の言葉では決して揺れ動かない事も熟知していた。
調整が済み、リリスはふぅーっと息を吐いてから、ゆっくりと立ち上がる。
「ありがとうベルーダ博士。少し楽になったわ」
「本当に行くつもりなのかリリス嬢?」
「あんな奴が出てきた上に、あんなバケモノが現れてみんなが戦ってるのに……私一人だけ黙って寝てられないわよ」
テレビの映像で生中継される魔獣キメラ。それと激しい戦闘を繰り広げるディアブロスプリキュアのメンバーたち。
「じゃがお主の体は既に限界を超えとる! こうして立ってまともに喋れる事も奇跡みたいなものじゃぞ。そんな状態でプリキュアに変身などすれば今度こそお主は……!!」
「分かってるわよ。全部分かってやってるのよ」
強めの語気でそう口にする。
やはりベルーダが何と言おうとリリスの意志は変わらない。
死のリスクがあまりに高すぎる此度の選択がいかに危うい事なのか、それを分からないほどリリスは愚かな悪魔ではなかった。
やがて彼女はベルーダに背を向けながら、おもむろに語り出す。
「ベルーダ博士……私は死ぬ為に今までプリキュアとして戦って来たんじゃないの。これからだってずっとそうよ」
「リリス嬢……」
死ぬ為に戦っている訳ではない――そう口にしながらも、ベルーダは同時に理解した。言葉は裏腹な彼女の、無意識に死へ突き進む矛盾に満ちた心意を。
「しかし!! 科学者として不完全な状態で行かせるわけにはいかん!」
感情が高まり、ベルーダはリリスの自殺行為とも呼べる愚行を制止しようと必死だった。
「――私の人生は灰色だった」
そのとき、ふとしてリリスが声のトーンを下げてから、おもむろに呟いた。
「あの日……洗礼教会にすべてを奪われた日から、私はずっと灰色の世界で生きていた。家族を失い、故郷を失い、憎しみという感情が芽生えてからと言うもの……目に映るものや聞こえてくる音に至るまで一変してしまった。それまで美しいと思えた事のすべてが歪み、見るに堪えず、聞くに堪えず、本当の意味で幸せな時間など一瞬たりとも味わう事なんて出来なくなっていた。でも……そんな灰色だった私に
デーモンパージの日から今日に至るまで様々な出来事を振り返りながら、リリスはようやく気が付いた。淀みくすんでいた自分の世界には、既に鮮やかな色があった事に。その色が次第に集まり、灰色一色だった世界を今一度カラフルにしていった。
悪原リリスの人生は決してモノクロなのではない。あるのは怒りや悲しみだけではない。それに勝るとも劣らない喜びも、楽しみも、幸せもある。それを彼女自身に気づかせてくれたのは、他でもなく今の彼女をありのままに受け入れる者たちに他ならなかった。
「もっと早くに気が付けばよかった。もっと早くみんなに感謝すればよかった。私は、みんなに生きる希望をもらっていた……だから今度は、私が絶望からみんなを救う番」
生きる希望を見出した者たちの為に、リリスは自らを奮い立たせる。たとえそれが、自らの寿命を削る愚行だとしても、彼女は止まらない。なぜなら、それこそが悪原リリスの――最初で最後の真に欲するところの感情だから。
「私の体を気遣ってくれる事は嬉しいけど、こればかりは私の好きにさせてくれないかしら。もし残り少ない命なら尚更よ。最期が近づいているって言うなら、私のやりたい事をやらせてちょうだい」
「狂気の世界で戦い続ける自分の邪魔をするな……そう言いたいのか?」
再三に渡る忠告にもリリスが耳を貸す事は無かった。
僅かばかり後ろの方へ振り返った彼女は、若干潤んだ瞳でベルーダに懇願する。そんな瞳を見ると、ベルーダもこれ以上強く引き止める事が出来なくなった。
とうとう根負けしてしまった。複雑な思いを抱きつつ、ベルーダは彼女の背中を押してやる事を決めた。
「………死ぬなよ」
ただ一言、それだけ伝え彼女を見送ってやる――今のベルーダにとって出来る事はおそらくそれくらいだけだろう。
「――――――……ありがとう」
我儘を聞き入れてくれた事に心から感謝し、リリスは部屋を飛び出した。
館の外に出ると、ベルーダから返却してもらったベリアルリングを中指に嵌め、天に掲げ語気強く唱える。
「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」
紅色に光輝く指輪。
彼女の全身を同じ色のオーラが包み込んだ。
光の中で、リリスの黒いミディアムヘアは紅色の長いポニーテールへと変わる。さらに、左側に悪魔の翼を模した飾りをつけて、黒とマゼンタを基調とするバトルコスチュームを身に纏う。
深い黒の長いソックスとショートブーツを履き、胸に黒のコウモリリボンをつけて、肩を覆うマントを掛け、最後に薄い紅色のコウモリ形のイヤリングをつけ変身完了。
背中から悪魔の翼を生やし、空中で一回転をしてから、翼で体を包み込みながら変身後の名乗りをする。
「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」
キュアベリアルとなったリリスは、仲間たちが待つ戦場へ向かう為、背中の翼をいっぱいに広げ――地を強く蹴ると同時に空へと舞い上がる。
(待っててみんな。すぐに行くから――――!!)
*
東京都 中心部
立ち塞がる巨大なる敵。首都東京を蹂躙する魔獣に立ち向かうべく、日本警察が誇る正義の執行者・セキュリティキーパーは新戦力を投入する。
搭乗してきた特殊装甲バイク【SKビートル】に搭載されたアタッシュケースを手に取り、専用のセキュリティーとパスコードを入力する。
〈Safety device release〉
安全装置が解除された直後、アタッシュケースはその姿を攻撃用のロングバレル砲、通称【SKアヴェンジャー】へと姿を変える。
〈Particle Cannon〉
「ファイア!!」
SKビートルに搭乗し、セキュリティキーパーはSKアヴェンジャーとリンクさせた強力砲撃をキメラへとお見舞いする。
鉄筋コンクリートくらいの厚さのものなら一撃で貫通するほどの威力を誇るパーティクルキャノン。だが、キメラの丈夫さは鉄筋コンクリート以上――黒煙が晴れて見えてきた肌に目立った傷はついていない。
「こうなったら、オレたち全員の技をヤツにぶつけるんだ!」
「はい!!」
「わかったわ!!」
並みの攻撃が通じないのならば、全員一丸となって魔獣に立ち向かう方が最も理にかなっている。バスターナイトの呼びかけにウィッチもケルビムも潔い返事を上げ、各々の強化変身リングを取り出し中指に嵌める。
「ヴァルキリアフォーム!!」
「オファニムモード!!」
魔女と天使の中指に嵌った二つの指輪が目映い光を放つと、ウィッチとケルビムの全身を同じ色の光ですっぽり覆い隠す。
光が晴れた時、キュアウィッチは北欧神話に登場する半神の名を冠する【ヴァルキリアフォーム】となった。キュアケルビムは天使のヒエラルキーにおいて、第三位に位置する天使の名を冠する【オファニムモード】へ変身した。
「ほおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
そして、バスターナイトもまた今一度秘められし力を解き放つ。
紅蓮の炎が全身を包み込むと、火炎龍の魂を封じ込めた宝玉を胸部に埋め込んだ鎧を纏いし騎士の姿【スタイル・クリムゾンデューク】へと変わった。
魔王の如き相手を見据え、キュアウィッチとキュアケルビム、バスターナイト、セキュリティキーパー、そして使い魔たちは機を見て一斉攻撃を仕掛ける。
「プリキュア・イリュージョン・マジック!!」
「プリキュア・セフィロートクリスタル!!」
「スカーレット・インフェルノ!!」
〈Particle Cannon Full Burst〉
「喰らえっ!!」
『ブレス・オブ・サンダー!!』
『テンペスト・ウィング!!』
カオスピースフルを倒す程度であれば身に余る攻撃だったに違いない。
怒涛の如く押し寄せる大火力はキメラの周囲に多量の爆炎を巻き起こし、一時的に魔獣の姿をすっぽりと覆い尽くした。
「やったか!?」
不安と若干の期待を抱きつつ、白煙が収まるを待つ。
ゆっくりと煙が晴れていく。するとそこには目を疑うような光景が広がった。
「な……っ」
あれだけの攻撃を受けていながら、ほぼ無傷と言っても過言ではない巨大な合成魔獣の姿が有った。キメラは正に史上最強の脅威として依然立ち尽くしており、愕然とするディアブロスプリキュアのメンバーを嘲笑するように咆哮を上げた。
「ハヒ……まるで技が効きません!!」
「なんて奴だ……」
「全員で攻撃してもビクともしないなんて……」
「強い……強すぎる!!」
「僕達にはどうする事も出来ないのか!?」
滅多に弱音を吐かないセキュリティキーパーでさえ、素直に悔しがってしまうほど状況は極めて悪い。キメラは茫然自失と化す彼らを見据え、口を広げた瞬間――無暗やたらと死の熱線を放ち始める。
「「「「「「うわああああああああ!!」」」」」」
凄まじいパワーを秘めた死の熱線の威力に全員は吹き飛ばされ、疲弊した肉体に急速な負荷を蓄積させていく。
破壊衝動のみによって暴れ回るキメラ。
本能の赴くままに熱線を放ち、瞳に映るすべてを焼き尽くさんと言わんばかりに攻撃を続けた。
人工物という人工物が、その場にある自然物でさえも無差別に焼却する死の熱線。
町は炎に呑みこまれ気が付くとそこは瓦礫の山と化す……地獄絵図のような光景が寒々と広がっていくのをウィッチたちは各々の瞳に焼き付ける。
「このままでは町が……!!」
「ですが、こっちもパワーを消耗していくだけです……!!」
肉体的ダメージの蓄積は、戦う気力を急速に削ぎ落としていく。
技を放ったところでキメラの前には無意味。逆にキメラの方が終始プリキュア勢を圧倒している。
「諦めて……たまるものか……!」
目元が罅割れた仮面で瓦礫の山を見据えながら、バスターナイトは剣を杖代わりにして、立つことすらようやくといった状態である。にも関わらず、圧倒的な力の前に諦めの色を浮かべ始めたメンバーに、もう一度立ち上がる様叱咤激励する。
「イケメン王子、我々はもう!」
「オレたちなんかよりもリリスの方がずっと辛いんだ……!」
その言葉に機敏に反応するウィッチたち。震える声でバスターナイトは尚も続ける。
「オレだって、洗礼教会から全てを奪われた時、何度この世界を恨み更地に変えてやろうと思ったことか。だが、リリスが……それに耐えているのに。一番この世界を恨んでいるはずの彼女がそれに耐えているのに……オレたちに何が出来る!? 哀しい欲望に手を伸ばし、復讐を果たす為に自らの破滅を厭わない。そんな二律背反の中で苦しみ続ける彼女を救えるのは、オレたちしかいないんだ!! 彼女のすべてを理解することは出来ないかもしれない。その渇いた心のすべてを満たすことは出来ないかもしれない。それでも、あの子の傍に居続けることぐらいは出来るんだ! オレは……オレはもう……」
目を伏せ、幼少期からずっと憧れを抱いていた、太陽のようにまぶしかった彼女の姿を思い出す。そして、噛みしめるようにして自身の願いを吐き出した。
「あの子が苦しむ姿を見たくないんだ……!」
弱みひとつ周りを打ち明ける事も出来ず、袋小路の中でたった一で苦しみもがく悲劇のヒロイン。バスターナイトは最愛の人が心から笑顔を取り戻してほしいと切に願った。
その気持ちは周りにも伝播する。人間界で初めて悪魔の親友となった人間の少女、悪魔と相反する天使の少女の心は奮い起こされた。全身の痛みを堪え、もう一度親友を救いたい――ただその一心で身を立たせる。
「……朔夜さんの言う通りです。はるかも、気持ちは全く一緒です! リリスちゃんにはこれから先幸せになってほしいんです!」
「私も同じよ。リリスの本当の友になると決めたからには、絶対に諦めるわけにはいかないわ」
「やれやれ……揃いも揃って青いね。でも、そういうのは嫌いじゃないよ」
バスターナイトの言葉で奮起したメンバーは再度キメラに立ち向かう決意をする。
衝動のままに破壊を繰り返すキメラに、各々渾身の力を振り絞って技を繰り出す。
しかし、必死の攻撃も依然として通じている様子はなく、キメラは目障りな虫を払うように腕を、脚を、尾を振るう。
そしてとうとう、異形なる腕を使って疲労困憊のバスターナイトとセキュリティキーパーを握りしめ圧力を加え始めた。
「しまった……!!」
「ぐ……ぐああああああああ!!」
「イケメン王子!!」
「春人さん!!」
「あたしたちには、どうする事も出来ないの!?」
強化変身した力を以ってしても魔獣には為す術無し。
仲間がキメラによって倒され糧にされようとしているのを、ただ指を咥えて見つめる事しか出来ないのかと思われた………そのとき。
「クリーチャーぁぁ!!」
彼方より空を切り裂く紅色の閃光が飛来する。
「私が相手よぉ!!」
声に反応して空を見上げると、飛んで来たのはディアブロスプリキュアの要。悪魔でありながらプリキュアという稀少なる存在――キュアベリアルこと、悪原リリスが仲間たちの元へ駆けつけた。
「リリス様ぁ!!」
「「リリス(ちゃん)!!」」
「ダメだリリス……来ちゃいけない……ぐああああああ!!」
一見気丈に振舞うベリアルだが、無理を承知の上で起き上がり前線に舞い戻って来た事をバスターナイトが気付かない筈がない。
下手にキメラを刺激してベリアル自身も魔獣に捕まる事を恐れ、来るなと警告するバスターナイト。だがキメラはその口を塞ごうと彼の体に圧力を加える。
「私の大事な婚約者に何してくれてるのよっ!!」
眼の前で婚約者を傷付ける魔獣に怒髪天を衝き、ベリアルは悪魔の力を解放し、両手から紅色に輝く魔力の衝撃波を放った。
「はっ!!」
衝撃波がバスターナイトとセキュリティキーパーを拘束しているキメラの手の甲を直撃。
その衝撃で反射的にキメラは二人を拘束していた手の力を緩めた。その隙に、バスターナイトとセキュリティキーパーは無事に脱出を果たす。
キメラは獲物を取り逃がした事への怒りを、ベリアルにそのままぶつけようと思い死の熱線を放ち攻撃を開始した。
「ふおおおおおおおおおおおお!!」
次々と飛んでくる熱線をベリアルは高速飛行を繰り返して避け、敵の懐に飛び込みそのまま体当たりを仕掛ける。
ガツーン……。という鈍い音が響き渡る。捨て身とも思える攻撃がキメラに効果的なダメージを与える。
魔獣の体が反動で後ろにひっくり返った。
「ぐうううう……」
だが、それと引き換えにベリアルは急激なエネルギー消耗を伴い宙に浮いている事も辛くなった。地に下りると直ぐに意識が朦朧とし、立っていられなくなってその場に跪く。
(は、は、は、は、は、力が……抜ける……!)
「リリスちゃん、危ないッ!!」
すると、ウィッチが危険を知らせようと大声で呼びかける。
気が付くと、キメラは立ち上がった際に左右二本の腕を使ってベリアルの体を羽虫を叩く要領で叩いてきた。
「きゃあああああああああ!!」
バチンという音を立て、叩かれたベリアルは瓦礫の海へと飛ばされた。
「リリスっ!!」
「リリスさん!!」
無理をしている状態に追い打ちを掛ける攻撃。
ウィッチたちを凌駕する肉体への負荷。激しいダメージを受け心身ともに気息奄々(きそくえんえん)でありながら、ベリアルは歯を食いしばって立ち上がる。
「これしきの事で……キュアベリアルが倒されるものですかぁぁぁ!!」
咆哮を上げると、悪魔の翼を広げ再び飛翔する。
上空からキメラを見据え――ベリアルは急降下をしながら魔獣の顔面目掛けて強烈なパンチを繰り出す。
「ほおおおおおおおおおおおお!!」
信念の籠もったパンチが、キメラの顔面を変形させる。これまでとは一味も二味も異なるパワーにキメラは反動で後ずさる。
「はああああああああああああ!!!」
パンチが決まれば、今度は信念の籠もったキックが炸裂。強化変身も無しに通常状態でこれだけのダメージを与えるベリアルの武勇に一同は唖然。
「強化変身も無しにキメラと互角にやり合っているなんて……!」
「すごいですリリスちゃん!!」
「いや――違うね」
冷静にそう呟いたのはセキュリティキーパーだった。彼はこのとき、キメラをも圧倒する力を発揮するベリアルの姿を見ながら冷静に分析を行っていた。
「君たちは知っているかな。技には消耗限界を超えると全く出せなくなるものと、それを超えても命を削って出す事が出来るものがあるんだ。悪原リリスの場合、明らかに後者と見た」
すると、バスターナイトはハッとした表情を浮かべた。
「まさか……この期に及んで自分の命を糧に力を出していると言うのか!?」
「おやめくださいリリス様っ!! リリス様っ!!」
レイの制止も無視して、ベリアルはキメラと戦い続ける。連続パンチとキックで徹底的にダメージを与えると、一旦距離を置く。
「ベリアルスラッシャー!!」
悪魔の翼から放たれる紅色に輝く無数の手裏剣がキメラを攻撃する。
しかし、いつまでもベリアルに攻撃の隙を与えるほどキメラは生優しくはない――むしろそれを踏みにじる凶悪な性格なのだ。
目を剥いた瞬間、キメラはベリアルの体を異形の腕で鷲掴んだ。
「ぐっ!! ぐああああああああ!!」
「リリス様ぁ!!」
「早くリリスちゃんを助けないと!!」
「しかしラプラスさん、あのクリーチャーは様々な生き物のパーツを組み合わせて作られた魔獣です! 通常の攻撃は通用しません!!」
ピットが客観的事実を述べた直後だった。
ウィッチとケルビム、バスターナイトの三人は迷いなくベリアルを助け出そうと飛び出した。
「リリスちゃーん!!」
「リリスを放しなさいバケモノ!!」
「リリスっ!!」
三人がかりでベリアルを救おうとし、ベリアルを掴むキメラの手に激しい攻撃を浴びせる。
その甲斐あって、ベリアルを拘束していた腕が開き、何とか脱出させることに成功した。ベリアルは激しく息を乱す中、懐に手を突っ込みヘルツォークリングを取り出した。
瞠目するウィッチは「リリスちゃんいけません!! そんな状態で強化変身なんてしたら……!!」と警告するが、
「私は死ぬ為に戦ってる訳じゃないのよ!!」
無理矢理そう言い聞かせ、ベリアルはヘルツォークリングの力で雷のエレメントを宿した強化形態――ヘルツォークゲシュタルトへと変身した。
「レイ、来なさい!」
「リリス様……御意っ!」
本当ならば主を止める事が正しい判断なのかもしれない。だが使い魔である以上、主の思いを組み主の為に我が身を捧げるのが最も献身的な行為なのかもしれない――そう判断したレイは、レイハルバードへ変身しベリアルの手元へと収まった。
「はあああああああああああ!!」
レイハルバードを両手で持ち、キメラへと斬りかかる。
しかしキメラは異形の腕の一本でハルバードの一太刀を受け止めると、別の腕を使ってベリアルを体を地面へと叩き飛ばした。
「きゃああああああ!!」
叩き飛ばされたベリアルの体が地面へと深く食い込んだ。
「リリスちゃんに乱暴をしないで下さいっ!!」
「ほおおおおお!!」
「ふん!!」
ウィッチとバスターナイト、セキュリティキーパーがキメラに向かって反撃を行う傍ら、ケルビムは傷ついたベリアルの元へ向かった。
「大丈夫!? 待ってて、すぐに治療を……」
「うるさいっ!!」
あろう事かベリアルはケルビムの治療を拒否。少しばかりの気休めの治療が何の意味を持たない事を分かっているからこそ、ベリアルは治療を受けるよりもキメラを倒す事に集中する方が合理的であると考えた。
「ぐ……うううううう!!」
しかし、限りなく命を削ってきた今のベリアルに戦う力はほとんど残っていない。限界を超えた体ゆえに強化変身も直ぐに解けてしまい、反動の激痛が全身を駆け巡る。
「ふふふ。さぁ、リリスちゃんはどうするのかな? キメラに倒されてジ・エンドか。それともプリキュアの力に呑まれてジ・エンドか。どっちにしても君の死は免れないけどね♪」
遠くの方から戦況を見守っていたカルヴァドス。子どものようなあどけない表情でどす黒い笑みを浮かべ、ベリアルの命からがらな状況を嘲笑う。
「こうなったら……」
「リリス!?」
心配を寄せるケルビムが見つめる中、最後の力を振り絞ってベリアルは一世一代の大博打に打って出る。
「こうなったら、刺し違えてでもアンタを倒す!!」
そう口にした次の瞬間。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ベリアルの全身から紅色に輝く魔力光が凄まじい勢いで放出される。強い魔力の光はオーラとなって彼女の体を包み込みドーム状に形成される。
「何をするつもりなの!?」
「自らの命を消費して瞬間的にプリキュアの力を極限まで高め、その凄まじいエネルギーを敵にぶつける気なんだ!!」
「リリスっ!! そんな事は無意味だ!! やめるんだ――っ!!」
「リリスちゃ――ん!!」
「はああああああああああああああああああああああああはあああああああああああああ!!」
仲間たちの声を右から左へ受け流し、ベリアルは全身を紅色の魔力で包み込むと躊躇いなくキメラへ突進して行った。
熱線を放つキメラの攻撃を正面から受け止め、押し返しながらベリアルは心の中で呟く。
(私は……もう、誰もいなくなってほしくないから……失くしたくないから……だから!! だから!!)
「リリス様っ―――!!」
誰も失いたくない……誰もいなくなってほしくない……臆病な彼女が求めたものは結局のところそれだった。
仲間を失うくらいなら、自分の命を投げ打ってでも仲間を守ると心に決めた。例えそれが意味のない事、愚かな事だと非難されようと彼女の意志は変わらない。
「ほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
――ドカン!! ドドドーン!!
キメラとの衝突時、大爆発が発生した。
黒煙が晴れると、ウィッチたちは見た。コスチュームもボロボロになったベリアルが中空で浮遊している姿。そして刺し違える覚悟で一撃必殺の攻撃を繰り出したベリアルの技にも屈しない強靭な肉体を持つキメラを。
「そ……そんな……………」
希望が潰えた瞬間、とうとうベリアルは力尽きた。
「リリスちゃん!!」
「「リリス!!」」
「「「リリス様(さん)!!」」」」
力なく垂直にベリアルは墜落し、地面に転がり動かなくなった。
直ぐに仲間たちがベリアルの元へと駆け寄り安否を確かめるが、ベリアルの体は氷のように冷たくなっており、唇は紫色に変色し、肌の色も不自然なまでに白くなっていた。
「リリスさんが……死んだ……?」
「ウソよ……こんなのウソよぉ!!」
「リリスちゃん、目を開けてください!! リリスちゃん、リリスちゃん、リリスちゃん!!」
耳元でどれだけ大きな声を発しても、ベリアルはまるで目を覚まさない。
仲間たちを守る為に我が身を捨てて戦い散った彼女の魂は、果たして何処へ……。
*
悪原リリス、キュアベリアルの魂はどこか分からない暗黒の中にあった。
――暗い……。
――そうか、堕ちていくんだ。このまま地獄の底へ……。
――私は……死んだみたいね……。
今にして思えば、なんて哀れな最期だったと思う。
故郷を奪われ、憎むべき敵へ復讐する手段として選んだプリキュアの力。他人を守る為に戦っていたつもりなど毛頭ない。すべては洗礼教会という怨敵を滅ぼす為の力でしかなかった。
しかし、今ではどうだろう。自分にとってかけがえのない仲間を――顔も知らない他人を救う為の手段としてプリキュアの力を使っていた。いや、元々それが一番正しい使い方だったと、今になって理解した。悪魔のリリスにとって己の欲望の成就以外でこの力を使う事は全くもって予想外の事だった。
刹那、走馬灯のように駆け巡る記憶と言う記憶。
今までの戦いが目まぐるしい速さで脳裏を駆け抜け、肉体は漆黒の闇の深淵へと堕ちていく。
すると、暗黒が渦巻き重力の奔流と化した底から一筋の光が差し込んだ。
――何かしら……。
遠のいていた意識が薄らと蘇る。
リリスの体は差し込む光に吸い寄せられながら、ゆっくり……ゆっくりと光に向かって下降していった。
…………
………
……
…
気が付くと、リリスは意識を取り戻していた。
眼の前に広がる光景。明らかに地球の黒薔薇町の光景とは異なるもの。ただ何となく懐かしい情景に思えた。
「ここは……」
思案しようとした直後、それは聞こえてきた。
『あはははは!! サっ君こっちこっち!!』
『待ってよリリスちゃん!』
『ふたりとも、そんなにはしゃいだりしちゃ転ぶわよ』
普段から聞き慣れた声。
眼前に見えて来たのは一人の少女と、その少女の後を追いかける気弱そうな少年、そして二人の子どもに振り回され困惑気味な女性。
紛れも無くそれは幼い頃の自分と、婚約者の朔夜、人間態に扮したラプラスであった。リリスは幼い自分と朔夜たちの姿を目の辺りにして瞠目する。
「あれは……昔の私! それにサっ君とラプラスさん!」
驚く自分を余所に、幼いリリスはとにかく笑っていた。花のような笑顔を絶やさず、いつだって元気いっぱいで、側にいる誰かを幸せな気持ちにする。
そんなリリスと戯れている朔夜とラプラスの二人も、自然と屈託ない笑みを浮かべていた。
今のリリスから想像もつかないような明るい性格。リリス自身もすっかり忘れていた事実だった。
「そうだった……昔の私はああやってよく笑っていた。悪魔の癖に曲がった事が嫌いで、身内が酷い目に遭ってると放っておけなくて。それがいつからだったかしら……私は心の底から笑う事も、筋を通す事も出来なくなってしまった。ずいぶん落魄れたものね」
「それは些か拙速な判断じゃないかしら。あなたは自虐するほど、落魄れたりなんてしていないわ」
唐突に後ろからそう呼びかける声がした。しかもその声はリリスの記憶の中にある物の中で、最も大切であり愛おしいものだった。
声に驚きながら恐る恐る振り返ると、一人の女性がリリスの元へゆっくりと、だが確実に一歩、また一歩と近づいてくる。
紅色に輝く肩を超えるほどの長髪をなびかせ、気品あふれる美しい容姿を持ったリリスが最も尊敬し愛した母――リアス・ベリアルが目の前に現れた。
「……お母様……!!」
見た瞬間、目を丸くし絶句する。
当然だ。リアスは既に十年前のあの日に死んでいるのであり、夢でもない限りはこうして会う事も話す事も出来ないのである。
眼前の光景に終始唖然とする娘を見ながらリアスは静かに微笑み、やがて口を開く。
「少し見ない間に立派になったわね。リリス」
目の前にいるのは最愛の母。願ってもなかった光景が本物であると認識した瞬間、リリスは全速で駆け寄り、その胸の中へと顔を埋めた。そんなリリスを受け止めたリアスは優しい表情で愛娘の頭を撫で、抱擁する。
「リアスお母さま……長いあいだずっと、お会いしたかったです!」
「私もよ。ほんとうに、辛い想いをさせてごめんなさい。十年の月日は残酷ね。私もできることなら、あなたの成長を傍で見守りたかった」
「……私は死んだのですね。もう何もかも終わってしまいました」
「いえ。正確に言えば、今のあなたは生と死の境界線を彷徨っているのよ」
「だとしても、こんなに安らかな気分なのはどうしてなのでしょうか」
ここはかつて自分が暮らした悪魔界と非常によく似通った場所。ゆえにいつにも増して心が安らいでいるのかもしれない。それとも、半分死んでいる状態だからかもしれない。どっちにしろ、リリスは生まれてこの方十四年――これほど心が安らいだのは生まれて初めての経験だった。
リアスは、心も体も成長した目の前の娘に対し言葉を紡ぐ。
「リリス。あなたは十分すぎるほど苦しんだわ。あなたが背負っていたのは、一人で引き受けるには重すぎる荷だった」
すると、その言葉にどこか違和感を抱いたリリスは母の顔を見ながら首を横に振り、自虐的な表情で返答する。
「違います。私は何も背負ってなどいません……その逆です。私は怖かっただけです。あの日のトラウマを抱えてからずっと、私はまた失うのが怖くて、荷を負う事をやめたただの臆病者。故にすべてを拒んだつもりでした」
きっと母の前だからであろう。普段はるかや朔夜には隠している弱音の感情が、次々と、自然にあふれてくる。
「失う苦しみを味わうくらいなら、最初から何も背負わなくていい。居場所も仲間もいらない……ですが、そんな私の想いとは裏腹に、私にはいつの間にか、仲間が、居場所が出来ていました。だからこそ怖かった。また失うのが……みんなを愛おしく思えば思う程、いつか私の元から遠く離れていってしまうように思えて。その手を離すまいといつの間にかみんなを私の我儘の巻きこんでいました。私は結局、誰も守ってなどいません。私が今の今まで守っていたのは自分だけです。私はそんな自分に愛想が尽きました……こんな私がみんなを守るプリキュアである資格などありません」
「リリス……」
そのとき、それを否定する声がもう一人聞こえてきた。
「戦士にとって、最も大切なものは力ではない。怖れる心だ。怖れるからこそ、同じく目に見えぬ力に怖れる者達の為に、拳を振るって戦える」
聞き違いではないかと思った。しかし、それは決してリリスの聞き違いなどではなかった。
「っ!」
おもむろに目の前に歩いてきた人物に目を向け、リリスは目を見開く。
「お父様……どうして……」
母に続き現れた父の姿に目を丸くする中、そんな娘を見ながら口元を緩め、父・ヴァンデインは諭すように言葉を紡ぐ。
「自分の力に怯えぬ者に力を振るう資格は無い。そしてだからこそ、王は民を守ることが出来る。リリス、お前が本当に仲間の事を思い、心の底から怖れているのなら……お前は既に戦士として、プリキュアとして、かけがえの無いものを手にしているのだ。お前にはやはり王たる者としての血が流れている」
「私に……王たる者の血が……」
実の父の言葉とは言え、些か信じ難い話だと思うリリス。面を食らいどう言葉を紡いでいいか分からずにいた時だった。見かねたリアスがリリスの目を見ながら、真剣な眼差しで話しかける。
「リリス、よく聞いて。ヴァンの言葉を聞いた上であなたに頼みたい事があるわ」
「こんな私に今更何をしろと……仰るつもりですか?」
母の顔を見ながら尋ねると、リアスは即答する。
「みんなの所に戻りなさい」
何度目となる瞠目だろう。
リリスは父母に背を向けると、自信の無い風に呟いた。
「私は……みんなになんて言えばいいのでしょうか。散々私の我儘に振り回した挙句、勝手に私の方が先に倒れてしまった。こんな臆病者な私をみんなは許してくれるでしょうか」
「大変なのは分かっているつもり。今ではもう……あそこの場所はあなたにとって辛い場所になる事も。いっそこのまま眠りに就いた方が幸せになるかもしれないわ」
そう言いながら、リアスはリリスの方へゆっくりと近づく。やがてリリスの肩に手を当て、娘が自分の方を見た瞬間「だけどね」と言葉を付け足し、持論を口にする。
「どんな過去を背負っていたって、新しい道を見つけて先に進むことが出来る。たとえそれが何者であっても……」
「……それは、私にも出来なかった事です」
「随分と簡単に諦めるのだな。私とリアスの……魔王の子がそんな事でいいと思っているのか? リリス、確かにお前は臆病者かもしれない。だが、どれだけの臆病者でも変わる事が出来るのだ。悪魔であるお前が伝説の戦士プリキュアになれたように」
「そうよリリス――変身するのよ!」
「お父様……お母様……」
両親の言葉が、諦める方向に進んでいたリリスの心に待ったをかける。
「今の自分が許せないなら、新しい自分に変わればいいわ」
「うむ。聖なる力に呑みこまれそうだと言うなら、悪魔本来の力でそんな都合の悪い事実を塗り変えてしまえばよいのだ」
「だいじょうぶ、あなたならできるわ」
すると、リアスとヴァンデインは互いの右手をリリスの手に重ね合わせてから力を込める。
直後――隙間から窺える紅色の光。光が晴れると、その手には悪魔の両翼が五枚ずつの指輪があった。
我が子を想い夫とともに作り出したその指輪を、リアスは娘の掌へと託し彼女の手ごと自分の手で包み込んだ。
「リリス。あなた自身が変わる事で道は開かれる。親として、私たちがして上げられる事はこれだけ……悪魔として、最後の最後まで悔いを残さない様に精一杯生きなさい」
「悪魔として生きる……それが私の、新しい変身……!!」
リリスの心に火が灯ると同時に、自身を包んでいた温かい風景は陽炎のように揺らいでいく。その目に新たな信念が宿ったことを見届けた二人は、最後の最後まで手を重ね、やがて穏やかに消えていった。
それは、リリスの決意が過去を拭い去った瞬間だった。
*
東京都 中心部
「!?」
今の今までキュアベリアルは仮死状態だった。だが、今目の前で起こっている事態にウィッチたちは驚愕する。
血色の無かったベリアルの肌に血の気が戻り、ボロボロになった肉体には高密度のエネルギーが宿り、聖なる力を糧に悪魔本来の闇の力が戻り始めていた。
「リリスちゃん!!」
「何が起こっている?」
刹那、宙に浮かび始めた体。
ゆっくりと体を起き上がらせたベリアルは、重く閉ざされた瞼を開け視界を見定める。
「――たとえ、誰にも選ばれず、資質らしいものを何ひとつ持っていなくても、私のたった一つの大切なものの為に、私はそれを守る王に、プリキュアに変身する!!」
生と死の境目を彷徨い見つけ出した新たな答え――それを実現するために父母より託された力を今、彼女は出し惜しみする事無く発動させる。
「カイゼルゲシュタルト!!」
右手中指に嵌った新たなる強化変身リング・カイゼルリングが強い紅色の光を発するや、ベリアルの体は同色のオーラに包み込まれた。
元々の配色である紅と黒を基調としてコスチュームの上半身から下半身に足るまでがゴスロリチックな装飾へと変化。背中の翼が十枚へと生え変わり、頭部には皇帝の証たる王冠が乗っかった。
「キュアベリアル・カイゼルゲシュタルト」
それは奇跡のような進化だった。
聖なる力の象徴、プリキュアの力をベリアルは悪魔本来の力によって完全に制御した。
カイゼルゲシュタルト――今ここに、聖なる光エネルギーを必要としない歴史上初となる純粋な闇の力だけを秘めたこの世で現存する唯一無二のプリキュアが誕生した。
「カイゼルゲシュタルト……?」
「なにあれ……あんな姿があるなんてあたし聞いてない!」
「新しい強化変身!」
「しかし、ニート博士から新たな変身リングは提供されていないはず……!!」
「リリスは、自分の力で全く新しい力を生み出したんだ!!」
「だとしたら、あれにはどんな能力が備わっているだろうね」
悪魔としての力を百パーセント解き放った悪魔プリキュアの真の力と姿に、仲間たちから期待と羨望の眼差しが向けられる。
ベリアルは咆哮を上げ威嚇するキメラを見据え、宣言する。
「私は――――どんな事が有っても生き残ってみせる。魔王ヴァンデイン・ベリアルとリアス・ベリアルの娘である限り、悪魔の王として何が何でも生き続ける!!」
次の瞬間――声高に宣言するリリス目掛けて、キメラが死の熱線を放ってきた。
カイゼルゲシュタルトの力に目覚めたベリアルは、内側から湧き出る強大な魔力を外側へと解放し強力なバリアを発生させた。
バリアの強度は通常のものとは比べ物にならない。あらゆるものを焼き尽くしてしまうキメラの熱戦とて安々と防ぎ凌いでしまうほどだ。
「哀れな魔獣よ。ひと思いに私がすべて消し飛ばしてあげるわ」
そう言った瞬間。
ベリアルは目を瞑り、右手を先に、それから左手を天に掲げてから、紅色の輝く七つの光球を作り出す。
人間を罪に導く可能性があると見做されてきた欲望と感情。七つの大罪を意味する【傲慢】、【嫉妬】、【憤怒】、【怠惰】、【強欲】、【暴食】、【色欲】――それら欲望のエネルギーを一遍に集めた力がキメラへと向けられた。
「プリキュア・セブン・デッドリー・サイン!!」
七つの欲望の力はキメラの肉体を前に膨れ上がり、悪しき欲望の権化とも言うべき魔獣を同じ欲望の力で飲み込んでいった。
キメラは跡形も無く蒸発、消滅した。断末魔の悲鳴を上げる事もかなわずに。
「そんな……ボクの……キメラが負けた……」
あり得ない光景だった。
こんな結末になるとカルヴァドスは全く予想していなかった。キメラがプリキュアの力に負けるはずがないという、それなりに根拠のある自信を持っていたからだ。
「へへへへ……へへへへへへ……へははははははは!! ははははははははははは!! ははははははははははは!!」
笑い狂う。狂い笑う。
カルヴァドスの中でプツンと切れる音が聞こえた。
「上等だよ………キュアベリアル、この代償は高く付くから覚悟しておきなよ。今度は確実に君を無茶苦茶にしてあげるからね!!」
瞳孔を開き、狂気を内包した瞳からベリアル目掛けて途方もない殺意を放つ。
ベリアルがこれに気付いたとき、遥か彼方から見つめるカルヴァドスの方を見ながら、冷や汗をかいた。
次回予告
は「無事にリリスちゃん復活です!! と言う事で、戦勝祝いも兼ねて海に行きましょう!!」
リ「なんでそう言う話になるかはこの際聞かない事にするけど…レイったら、夜中の肝試し大会には絶対に参加したくないって言い出すし」
レ「暗い暗い洞窟の涯で私は確かに見た!! 我々が住み慣れた世界とは明らかに法則を異にする別世界を!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『肝試しパニック!迷いの洞窟の使い魔!』」