ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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前回の続きです。
海へと出かけたリリスたち。肝試しの途中でレイが行方不明になったと思えば、謎の地底世界へと迷い込んでしまった。
そこでレイが見たものとは何なのか・・・ちょっとぞくっとする内容となっております。
それでは続きをご覧ください。


第34話:驚異の地底世界!クン=ヤンの怪!

黒薔薇海水浴場エリア 洞窟内

 

「レイさーん!! どこですかー!!」

「居たら返事ぐらいしなさいよ! レイっ!!」

 行方不明となったレイを探し求め、再び洞窟の中へと足を踏み入れたリリスたち。

 だが、いくら呼びかけても返って来るのは洞窟内で反響する自分たちの声だけ。レイの悲鳴はおろか、気の狂った彼の歌声さえ聞こえてこない。

「まったくどこへ消えちゃったのかしらね~」

「えっと……確か『ド〇〇〇ん』の歌を歌い出したと思ったら突然走り出して、それで消えてしまったのよね?」

「まさかあのタイミングであの歌を歌うとはオレも思わなかったが……。それにしてもやっぱり変だ。これだけ捜しても見つからないなんて」

 本来ならば、使い魔とその契約主の悪魔同士は魂と魂が見えない糸で繋がっている。このため、ある程度場所が離れていてもその位置を特定する事が出来る。しかし、リリスはレイの位置を全く把握する事が出来ずにいた。

 不思議に思いつつもリリスたちは捜索を続ける。そんな折、テミスがふと呟いた。

「これ関係あるかどうか分からないけど……」

「ハヒ? なんですか、テミスさん」

「最近、海や山などの洞窟で多数の人が行方不明になるっていう事件が世界中で頻発しているって噂よ」

「世界中で?」

「人里離れた山奥にあるものから、ここみたいに比較的人の出入りも多い洞窟も含めて。あるとき、人が何の前触れも無く消えてどこかへ行ってしまう……彼らが消えた場所は人間が足を踏み入れてはならない異界の地なのか、あるいはもっと恐ろしい処か。いずれにせよ、そんな怪事件が確かに起こっているのよ」

 テミスの話が本当ならば、この話は【神隠し】と言う事になる。余談だが、神隠しの内、天狗が原因で子供が行方不明となる事象を特に【天狗隠し】とも言う。

「つまり、レイもそれに巻き込まれてしまったと?」

「飽く迄ひとつの可能性よ」

「スリリングでエキサイティングな肝試しをしていたはずが、身の毛もよだつデンジャラスな話に変わって来ちゃいましたねー」

「とにかく、一刻も早くレイを見つけ出してやらないと」

「そうね。あの子の精神はきっと持たないでしょうね」

「あのビビり方は尋常じゃなかったもんねー」

 洞窟の最奥を目指し、リリスたちは前進する。

 本当にレイは何処へ行ってしまったのか……リリスの中の不安は次第に膨れ上がるばかりだった。

 

           *

 

同時刻――

異相空間 中心部

 

 テミスの推察は的を射ていた。

 洞窟内を走り回っているうち、突如として異相の地へと入り込んでしまったレイ。たったひとり地上とはあまりに雰囲気が違う場所を彷徨っている。

 群青色の空の下、歩き回っていたレイが見つけた街らしき光景。天を劈(つんざ)くほどの尖塔とその周りを取り囲む石造りの建造物が立ち並ぶ。

「ここは廃墟なのか? 誰もいない……」

 街と思われる場所に人の気配はなかった。異様なまでの静謐(せいひつ)さがそこら一帯を支配している。小心者であるレイの心臓は、いつ張り裂けてもおかしくない。

 しばらく街の中を探索してみたが、やはり人っ子一人いやしない。

 完全なる廃墟……と思ったがどうやらそういう訳でもない。と言うのも、一軒一軒を覗くと人間らしき生きものがたった今まで生活を営んでいたと思われる風景が確かに存在していた。詰まる話、彼らは何らかの目的の為に一時的に家を空けている。あるいは集団で神隠しに遭った可能性が高いという事が推理出来る。できれば、前者であるとレイは切に信じたい。

 途方に暮れながらレイは街の中心部に位置する巨大な尖塔の下へとやって来た。雲を突き抜け、果てしなく続きそうな巨塔のスケールに目を奪われ圧倒される。

「何という大きさだ。それにしても随分と古そうだ……」

 なぜこんな地下にこのような街が存在しているのか。

 街の人々は果たしてどこに行ってしまったのか。

 そもそもここは一体どこなのか。

 山ほどの疑問がレイを思考の迷路へと誘(いざな)おうとした、そんなとき――。

「ん?」

 尖塔の土台付近に人が出入りできるくらいの大きさの穴を見つけた。しかもその穴からは何やら音が聞こえてくる。

 穴の近くまで寄ったレイは耳を澄ませ確かめる。そして、彼は音の正体を突き止め確信した。この音は人の声であると――

「声だ!! 間違いなくこの下に人がいる……私は助かったんだ!!」

 非常に楽観的で安易な事を口にしつつ、嬉々としたレイは穴の中に入り塔の地下へと続く道をずんずんと突き進んで行った。

 地下深くまで進んで行くうちに声は段々と明朗に聞こえてくる。だが生憎とレイの知っている言語ではなかった。どこか不気味な感じがした。

 尖塔の地下数百メートルを下降した折、レイは辺りが血の色よりも濃い紅色に染まった広い空間へと辿り着いた。

 さっきから理解不明な不気味な人の声が歌となって反響している。何事かと思い岩陰からこっそり様子を覗き込む。

 レイが目撃したのは極めて異質な光景――ある宗教的な儀式が行われていた。ネイティブアメリカンを彷彿とさせる姿をした人々が自分では理解する事すら及ばない意味不明な言霊(ことだま)を唱えている。

 彼らの視線の先には巨大な蛇の石像があり、数十メートルに及ぶ地面の裂け目が彼らとを隔てている。割れた地面の下からはドロドロの溶岩が常に熱を放出している。

「何をしているのだ……これは何の儀式なのだ……!?」

 見るからに怪しく恐ろしい。言い知れぬ恐怖にレイが固唾を飲む中、忽然とドラムを叩く音が聞こえた。

 すると、蛇の石像が立っている場所の奥から黒と赤を基調とする衣服に身を包み、左右に曲がった角が生えた髑髏(どくろ)の兜を着けた男が現れた。どうやらこの儀式を執り行う最重要人物――司祭もしくは呪い師であると思われる。

 司祭が現れるや民は畏れ多いとばかりに膝を突き、前のめりになった。

 足下から湧き上がる火山の放熱を全身で浴びながら、司祭は口元をつり上げる。そして一声かけると、奥から部下たちを呼び出した。

「HELP ME!! HELP ME!!」

 声高に助けを求める声がしたと思うと、司祭の命に従い部下たちが連れて来たのは上半身が裸の外国人。レイの見る限りアメリカ人のような風貌だ。

 なぜ地上人がここにいるのかはさておき、どうやら彼は無理矢理連れて来られてきたらしく、母国語で「助けてくれ!」と何度も連呼しながら拘束を逃れようと必死に抵抗している。

 これから何が始まるのだろう……心臓の鼓動が次第に高鳴る中、静かに見守っていると天上より実に粗末な作りをした鉄格子状の乗り物が降ってきた。「ま、まさかこの展開は……!」

 レイは状況から察しぞっとした。司祭はこれから儀式の【生け贄】として選出した地上人をこの鉄格子に乗せ、崇拝する神への供物として捧げるつもりなのだ。

 早速、生け贄として選ばれた地上人の男を鉄格子へと乗せる。間違っても逃げられぬ様に確りと手足を固定。死の恐怖に怯える生け贄の男に、司祭は恐ろしげな顔つきでおもむろに語りかけながら、眼前に立ち尽くす蛇の石像に唱える。

「イグ……!! イグ!! イグっ!!」

 イグと言う言葉を連呼して民たちの興奮を煽り、それが今まさに最高潮に達した。頃合いと見て、司祭が合図を送ると男を拘束した鉄格子は上下に反転――男の体は格子の下でうつ伏せにさせられる。

 やがて、足元にある床が開放された。真下にはドロドロの溶岩が見える。

 鉄格子はゆっくりと下降を始め、生け贄の男は迫りくる絶対的な死の恐怖に思わず品の無い悲鳴を上げる。

「OH MY GOD!! OH MY GOD!! Ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!」

 レイも思わず絶句し口元を押さえる。

 溶岩の放熱は生け贄の体を徐々に燃やしていき、やがて摂氏数千度という熱によって男の体を跡形も無く完全に燃やし尽くしてしまった。

 あまりに残酷極まりない光景だった。断末魔の悲鳴が聞こえなくなると、何故か溶けた形跡すらない空の鉄格子だけが回収される。

 見てはならないものを見てしまった事と、彼らに見つかる事への恐怖からレイは慌てて顔を引っ込め乱れた息を整える。

「は、は、は、は、は……これは本当にプリキュアシリーズなのか!? 明らかにR15指定の光景だったぞ!! とても幼児が見ていい代物ではない!! 即深夜枠へと左遷だぁ!!」

 確かに幼児が見る事を前提とした作品だと仮定すれば、あまりに刺激の強いものだったと思う。時に残酷な戦闘シーンが盛り込まれるプリキュアシリーズも、ここまで飛びぬけて酷いシーンは恐らく存在しないはずだ。

 禁断の儀式が終わり、司祭と民たちは儀式場を離れ散開する。

 彼らがいなくなったのを確認し、レイは岩陰から身を乗り出し儀式が行われた場所へ降りて行く。

 足下をうっかり滑らせ溶岩の底に落ちぬよう細心の注意を払う。そうしてレイはここの民たちが神と崇める蛇の石像へと近づいて行った。

「っ!」

 そこで彼はある物に目を奪われた。石像の真下にある髑髏の彫像――両目と鼻の穴に不思議な輝きを放つ光る石が三つ埋め込まれていた。

「光っている……」

 思わず魅了されると、レイは石のひとつをおもむろに手にして穴から取り出す。

 すると、残り二つの石の光が途端に収まった。そこでもう一度石同士を近づけると、三つの石は瞬時に輝きを取り戻した。

 石が持つ不思議な魔力にレイはすっかり魅入られてしまった。やがてあろう事か、彼は三つある石を全て持ち出してしまった。

 辺りを見渡し入念に確認すると、何事も無かったかのようにレイはその場を後にしようとした。

 そのとき、不意に奥の方から不気味な声が聞こえてきた。何だか人の悲鳴にも似ていた気がするが、きっと幻聴だと思いレイは涼しい顔で行こうとした。

 だがレイの不届きな行動を、地下世界の神は決して見逃さない。

 唐突に、蛇の石像の目が紅く光った。それと同時に周囲から無数の毒蛇が現れレイの周りを一斉に取り囲んだ。

「うお!? おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 毒蛇の出現にレイは戦いた。うじゃうじゃ集まった蛇たちはレイの足下から徐々に迫っていき、猛威を振るう。

 レイは辺りを見渡し、咄嗟に近くにあった棒を拾い上げるとそれを使って毒蛇を薙ぎ払う。

「あっちいけ!! コノヤロウぉ!!」

 咬まれたら一瞬で終わりだ。だからレイも必死だった。

 ある程度の数を棒で追っ払うと、レイは早々にその場から離れ奥の方へと逃げる。

 どうにか撒くことが出来た。ひとまず安心とほっとしたのも束の間――また一難が迫ってきた。

「ひいい!?」

 今度は槍を携えたあのネイティブアメリカンに酷似した地下の住人たちが多数現れた。見るからに殺気を剥き出しにしている。

「な……なんだお前たちは!?」

 鋭利な武器を首元に突き付けられると、レイは一歩、また一歩と後ろへ下がる。それに合わせて彼等もレイの方へと歩み寄ってくる。

「やめて……お願いだからやめてくださいよ……仲良く話し合いましょうよ!! 私たち心の友じゃないですか!!」

「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」

「お願いだから友達だって言ってよね~~~!! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 どんなに強く願っても、レイの懇願は決して受け入れられる事は無かった。

 

「ハヒ?」

 洞窟内を歩いていたとき、はるかが不意に立ち止まった。

「はるか、どうしたのよ?」

「今レイさんの声が聞こえたような気がしたんですが……」

 と言うので、リリスたちは耳を澄ませてみた。しかし、レイの声など全く聞こえない。

「何も聞こえないじゃない」

「空耳だったんじゃないの?」

「そんなはずはないんですけど……」

 そう思った直後。「助けてくれぇぇぇ――!!」と、レイのけたたましい悲鳴がどこからともなく聞こえてきた。全員はその声を聞き違える事は無かった。

「今のは!!」

「あの品の無い情けない声は、間違いなくレイよ!!」

「はるかの聞いたのは空耳なんかじゃなかったわ!!」

「レイっ!! どこにいるの!?」

 リリスが大声で呼びかけるが、聞こえてくるのは過剰なまでに何かに怯えているレイの悲鳴だけ。急いで彼がいる場所を特定しようとしたとき――

「みんなー!! こっちに来てくれ!」

 朔夜がある重大な手がかりを見つけ出した。

 洞窟内において、柱と柱の間に生じた位相のズレ。すなわち、レイが今いる場所とこの洞窟とを結ぶ異界への入口がそこにはあった。

「ここだけ空間が歪んでいる……!」

「本当ですわ……! しかし、一体これは!?」

「ちょっと待って! レイの声、こっから聞こえて来るわ!!」

 耳を澄ませると、確かに空間の歪みを通じてレイの悲鳴が明朗に聞こえる。間違いなく彼はこの歪みの先に居る。確信を得た一同はこの空間に飛び込む決意を固める。

「みんな行くわよ!!」

「「「「「「はい(ああ)(ええ)!!」」」」」」

 意を決して、現実世界と地底世界とを繋ぐ位相のズレから生じる空間の歪みへとリリスたちは飛び込んだ。

 やがて、彼女たちは辿り着いた。自分たちの常識と見識もまるで及ばない巨大で奇妙、そして異様な地底世界へと。

「な……何よここ!?」

「ハヒ!! 洞窟の中にこんな開けた場所があったなんて……」

「レイはどこ!?」

 

「おやおや。これはどうした事かな。まさかディアブロスプリキュアがここに来ていたとは驚きだ」

「飛んで火に居る夏の虫とはこの事ですね」

 一度はその声に戦慄を覚えた事がある。男の声を聞くなり、リリスたちの額に冷や汗を浮かび上がった。

 恐る恐る声のする方へ振り返る。漆黒色に染まった十枚の翼を生やした青年と、同じ色の翼を四枚生やした美女が立っていた。一瞬目を疑った。紛れも無く目の前に現れたのは堕天使の王ダスクと、その部下である上級堕天使ラッセルだ。

「ダスク!! それにラッセルまで!!」

「なぜお前たちが? ここは一体どこだ!?」

 強い語気で朔夜がダスクに詰問する。彼からの問いかけに対するダスクの返答は実に素直且つ端的だった。

「ここは地上世界とは異なる位相に存在する地下世界【クン=ヤン】。お前たちのように通常位相から迷い込む者が数多くいる」

「まさか、世界中で頻発している洞窟内での行方不明事件は……!」

「ええ。哀れにも位相の歪みに入り込んでしまい、出口を見つけられなくなってしまった結果よ」

「堕天使ども……いや洗礼教会は性懲りも無く何を企んでいるんだ!?」

 ザッハ以来堕天使とは因縁深いクラレンスが鬼気迫る表情で問い詰めると、ダスクは「怖い顔するね~」といなしながら、素直に答える。

「ちょっとした交渉さ。クン=ヤンの住民どもに一度でいいから地上の空気を吸ってみないかってな」

「でも、わざわざ私たちが話を持ちかける必要なんて無かったみたいよ。なぜなら彼らは最初からそのつもりだった事がついさっき分かったんだから」

 すると、堕天使二人の後ろから黒い影が浮かび上がった。直後にリリスたちの周囲を取り囲むようにクン=ヤンの住民が奇怪な姿の家畜を伴い槍を携え現れた。

「こいつら!?」

「ハヒ! 見るからにデンジャラスな人たちです!!」

「どうやらクン=ヤンは、地上と比べてあまり高度な文明ではなさそうね」

「【和平の使者ならば槍は持たない】――……最初から地上世界を征服するつもりでいるらしい」

「まったく……ひと夏の思い出を作ろうと海に来たのに、結局今は亡き神様は私たちに戦いを止めろと言う甘い言葉を吐くつもりはないようね」

 死した神への愚痴を呟きながら、リリスは懐よりベリアルリングを取り出した。

 

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「シャイニングパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「バスター・チェンジ」

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」

「不浄を焼き払う聖なる光! キュアケルビム!」

「影に向かいて影を斬り、光に向かいて光を斬る。暗黒騎士バスターナイト」

「偽りの善幸を根絶やし!」

「邪な悪行を断罪する黒き力!」

「我ら、悪魔と魔女、暗黒騎士と天使のコラボレーション!!」

「「「「『ディアブロスプリキュア』!!」」」」

 

 変身と同時に、クン=ヤンの住民たちが奇声を発しながら一斉に襲い掛かって来た。

「ベリアルスラッシャー!!」

「サンダーボルト!!」

 ベリアルとウィッチによる息の合ったコンビネーション技が炸裂。

 プリキュアの力に圧倒されるクン=ヤンの民たち。しかし、数は遥かに多いのでプリキュアの力の質に対抗すべく数の暴力で畳み掛けようとする。

「ホーリーアロー!」

 ケルビムはケルビムアローを装備して、クン=ヤンの民たちを狙い撃ち――不浄なる心を射抜き浄化する。

「ストリクト・タイフーン!」

 バスターソードを用いて竜巻を発生させると、バスターナイトは奇怪な家畜【グヤア=ヨトン】をすべて薙ぎ払う。

 それから間もなくして、底知れぬ闇の力を備え持つ堕天使の王が大剣片手にバスターナイトへと突っ込んできた。

 ――カキン!! 鋭い金属音が鳴り響く。バスターナイトは斬り込んできたダスクの大剣を辛うじてバスターシールドで防いだ。

「くっ……ダスク!」

「少しはやるようになったな。さぁ見せてもらおうか、成長したお前の力を!!」

「言われなくてもそのつもりだ!」

 すべてはこの日の為に。

 ダスクとの敗戦を引き金に更なる力を求めた暗黒騎士バスターナイトは、堕天使の王にもその他の敵にも二度と屈しないと心に近い、愛する者たちすべてを守り抜く力を身に付けた。

「はああああああああああああああああ!!」

 煌々と燃え上がる体。鎧部分が灼熱の業火に包まれると、バスターナイトは強化形態であるスタイル・クリムゾンデュークの力を解放した。

「ほう……ブレイズ・ドラゴンの力をその身に取り込んだのか。おもしろい」

「いくぞ――ダスク」

 堕天使界での戦い以来となる十六夜朔夜とダスクによる因縁の対決が始まった。

 

「ダークネスウェーブ!!」

 無数のコウモリを放ち、敵を焼き尽くすラッセルの必殺技がベリアルたちを襲う。彼女もまた、愛する者を奪われた哀しみを糧に力を増し強くなっていた。

「あんた達はここから生きて帰さないんだから! 今日こそザッハ様の仇、獲らせてもらうんだから!!」

「ハヒ! 執念深い人ですね、あなたも……。はるかたちはこんな所に一分一秒でも長く居たくないんですけど!!」

「リリス。ラッセルは私たちに任せて、レイの救出に向かいなさい」

「分かったわ」

 仲間たちの厚意を受け、ベリアルはウィッチとケルビムらにこの場を任せレイの救出へと急ぎ空を駆ける。

「ちょっとアンタ! 前々から思っていたんだけど……」

 ベリアルが離れた後、ふとしてラプラスがラッセルに対し物申す。

 怪訝そうにラプラスを上から見下ろすラッセル。皆も自然とラプラスへ視線を向けた正にその時、彼女の口から飛び出たのは思いがけない言葉だった。

「あたしさぁ……アンタと名前が似てるからよく作者に書き間違えられるのよね!」

 語気強く口にした直後、ラプラスを除いて一瞬周りが変な空気に包まれた。

「って……一体何の話してるのよ!?」

 何を言い出すかと思えば、まさかのメタフィクションな愚痴だとはラッセルも到底思いもしなかった。そんなラッセルにラプラスは更に続ける。

「要はあんたが気に入らないってだけよ! この世に二人も美女はいらないよ!!」

「使い魔が変身した分際で生意気な……その高飛車な態度もろともすり潰してあげるわ!!」

「上等じゃない!! やれるものならやってみなさい、堕天使風情があたしに逆らうとどうなるか思い知らせてあげるわ!!」

 ラプラスとラッセル……名前が被りやすい者同士が激しく火花を散らし合わせる様は、見る者全員に圧倒的な緊迫感を抱かせる。

「ハヒ~……これぞ女の戦い、テリブルです」

〈この勝負どっちが勝つのでしょうかね……〉

 ウィッチとクラレンスは、ちょっとだけ先行きが怖くなってしまった。

 

           *

 

地下世界クン=ヤン 最深部

 

「うう……」

 意識を取り戻したとき、レイは手足を鎖に繋がれたまま牢の中で立て膝をついていた。自らが置かれた状況を冷静に分析しながら、気絶する以前の記憶を辿る。

「なぜこんな事に……私は確か」

「マナスストーンを盗もうとしたからだよ」

 突如として自分に話しかける声が近くから聞こえてきた。

 すると、牢の中には自分と同じ境遇に置かれた地上人が複数いて、皆やつれた表情を浮かべていた。

 レイは不思議に思いつつ、自分に声をかけてくれた日本人の男性に尋ねる。

「あの……あなたたちは?」

「君と似たようなものさ。洞窟の中で歩き回っている内に帰り道が分からなくなって、気が付くとこの地に辿り着いていた。そして、あのマナスストーンに魅入られた挙句がこれさ」

 言いながら、自由を奪われた事を如実に示す手足の鎖を見せつける。

「その……マナスストーンとは何ですか?」

「何でも大昔からこの地で崇められている【蛇神イグ】を奉るもので、生け贄とされた人間の魂を封じ込めたとされる石さ。石同士が近づきあう事で光を帯びる」

「それであのとき光っていたのか……」

 レイが持ち出そうとした石こそがマナスストーンであり、石同士が光っていたのは生け贄とされた人間たちの魂が互いに共鳴し合っていたからだ。

「あの石を持って帰ろうとした者はことごとく捕まり、そして……あのようになってしまった」

 石を盗み出そうとした者たちの末路を示そうと、男性は牢の外を指さした。

 ちょうど外ではさっきからカンカンと言う音が鳴っている。何事かと思えば、多くの地上人があくせくと鉱山で働き何かを掘り出す事に躍起になっている。ただ、彼らは皆生気を奪われた廃人の如く目が死んでいる。

「悪魔の神イグに、皆魂を奪われてしまったのだ」

「どういう事ですか?」

「イグの血を無理矢理呑まされると、誰でも悪魔の暗い眠りに落ちてしまう!」

「何ですって!?」

「そして、生きたまま悪夢の世界に入る……命はあっても魂を奪われる。血を飲んだら、もう悪魔の眠りから覚めない!!」

 何ともぞっとする話である。レイは自由に生きる事すらも奪われ悪魔の眠りへと落ちた人々が奴隷のように働かされ、成果を上げられなければ地底人の手により虐待される姿を牢の中から指をくわえて見守る事しか出来なかった。

 

 その後、蛇神イグを崇拝するクン=ヤンの最高権力者であると同時に地上世界への進出を目論む邪教集団の司祭である男・ヨスの前にレイは連れて来られた。

 ヨスの手には、レイが神殿から盗み出そうとしたマナスストーンが握られている。

「お前もまたマナスストーンを盗もうとして捕えられた。最初石は七つあったが、皆お前のような盗人によって二つが地上へと持ち出された」

「はっ。だったら盗まれぬよう管理を徹底しておくべきだったな!」

「それが石を盗もうとした者の言いぐさか。聞いて呆れる」

 侮蔑の念をレイへぶつける司祭。レイは露骨に視線を逸らしていたが、ふとヨスが持っているマナストーンを見てふと疑問に思った。

「まだ二つ足りんようだな……」

 話によれば、石は全部で七つあり、そのうちの二つが地上へ持ち出され紛失した。残り五つのうち三つが先ほどの儀式場にあった。では、残り二つの石はどこにあるのか。そんなレイの疑問にヨスは答えた。

「数百年前、スペインの探検家共がこの地に押し入り神殿を襲い人々を虐殺した時、一人の僧侶があと二つの石を地下の納骨堂に隠した」

「だから地上から迷い込んできた人々を捕え、奴隷としてこき使い掘り出させているのか……彼らには何の罪も無い筈だ!! 直ぐに解放しろ!!

「我らが聖地に土足で踏み入る無作法な地上人どもに、我らが力を思い知らせてやる。五つのマナスストーンが揃った時に、我がクン=ヤンは権力を得(う)るとともに、地上世界を制するのだ」

「大した想像力だ。恐ろしい夢物語(・・・)だな!」

 ヨスが抱く野望を、レイはあからさまに嘲笑い露骨なまでに蔑如した。

「ふふふふ……そうか。儂の言葉を信じないのか? じゃあ信じさせてやろう。我らと我らの神に背くことが如何に愚かな事なのかをな」

 

 程なくして、レイが連れて来られたのはイグの石像を奉ったあの儀式場。すなわち、ヨスはレイを生け贄として捧げようという魂胆だった。

「だからって私を生け贄にしていいと思っているのか!! 放せコノヤロウ!! 私を誰だと思っているんだ!! ディアブロスプリキュアが誇る最も美しく気高い上級悪魔にして、かの魔王ヴァンデイン・ベリアル王の後継者たる存在――悪原リリス様の使い魔だぞ!!」

「そんな事はどうでもいい! さぁ、儀式を始めよう!! 我らが神イグに新たなる生け贄を捧げる!! 我が肉体を捧げ、父イグに忠誠を誓う!!」

 生け贄を乗せるための鉄格子がゆっくりとレイの前に降りて来た。

 ヨスの部下たちの手に捕まってレイは、鉄格子の方へ無理矢理移動させられる。

「生きて帰ったら地上のみんなにここの悪口を言いふらしてやるからな!! リリス様~~~どうか私をお助けてくださ~~~い!! おねがいしま~~~す!!」

 よくまぁこれだけ情けない声が出せるものだと、内心自嘲するレイ。抵抗する事も虚しく手足を鉄格子へと固定させられる。

 レイが固定されると、ヨスがゆっくりと近づいてくる。ただならぬ圧力を醸し出す彼を前にレイの心は委縮しそうになる。ヨスは後ろに聳えたつイグの石像に手を翳すと、奇怪な言葉を唱え始める。

「あああ……リリス様……どうか私を見捨てないでください……」

 いつまで経っても助けに来る気配のないリリスの事ばかりを考え涙目になる。レイを乗せた鉄格子がゆっくりと宙へと浮かび、上下の向きが反転する。

「こんなのは嘘だ……悪い夢を見ているのだ……早く目を覚まさなきゃ……」

 何度も自分にそう言い聞かせるが、この現実からは逃れられない。ドロドロのマグマへと誘う死出の扉が今――開放される。

 その瞬間、凄まじい熱気がレイの体を直撃する。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! 助けてえええええええええええええええええ!!」

 レイを乗せた鉄格子がゆっくりとマグマに向かって下降を開始。このまま下へ向かって行けば確実にレイの体は他の生け贄同様にマグマの熱で燃え尽きる。そうなったら二度と愛するリリスと会う事も出来なくなる。

 しかしどうする事も出来ない。最早諦めて自らの数奇な運命を呪いながら死んでいくしかないのか――ほぼ百パーセント諦めかけた、そのとき。

 

「私のかわいい使い魔に手を出さないでよ!!」

 聞き違いなどではなかった。レイを助ける為に遥々地上から駆けつけた悪魔の声。いや、レイにとっては唯一無二の主にして救世主のような存在だったのかもしれない。

 今まさに、キュアベリアルとなったリリスが悪魔の翼を翻し儀式場へと駆けつけた。

「はあああああああああ!!」

 クン=ヤンの住民が驚きを隠せない中、ベリアルはレイを生け贄にしようとした彼らに制裁を加えるとともに、急いで鉄格子のコントロールレバーを奪い下降を中断させた。

 ゆっくり、ゆっくりと鉄格子ごとレイの体を引き上げていく。全ての作業を終え無事に救い出したレイを、ベリアルは床に下ろした。

「レイ、レイ!! しっかりしなさい、起きなさい!!」

 半分意識の無くなっているレイに強く呼びかける。すると、顔から大量の汗を流すレイが目の前にいるベリアルを見ながら譫言(うわごと)のように呟く。

「リリス様……あぁ、まだ私は夢を見ている様だ……」

 この発言に対し、ベリアルはレイの頬を叩き目を覚まさせる。

「寝ぼけたこと言ってるんじゃないの! まったく世話の焼ける子なんだから」

 呆れる気持ち半分。ベリアルは「でも……」と呟き、レイの事を愛おしげに力いっぱい抱きしめ耳元で囁いた。

「無事で良かったわ……」

「リリス様……申し訳ございません!!」

 主に心配をかけてしまった事に対する羞恥心。同時に自分へと向けられる慈愛の心。すべての感情がレイの内から一遍に湧き上がる。

「さぁ、急いでここから出るわよ」

 ベリアルの提案に、レイは「そうですね」と一言言って頷いた。

「しかし出るならみんなで逃げませんと」

 

 レイは自分と同じ境遇に置かれた地上人を救い出す為にベリアルと共に立ち上がった。

 奴隷として鉱山で働かされ、マナスストーンを掘り出す手伝いをさせられている彼らを救い出すべく、ベリアルとレイは救出作戦に打って出る。

「ぐあああああ」

「があああ」

 作業監督をしていた暴漢たちを次々と昏倒させるベリアル。その間にレイが人質となった彼らの鎖を破壊し、身柄を自由にする。

「さぁ、急いでここから離れるのです!!」

 ようやく自由の身になれた。嬉々とした表情の人質たちは喜びを共有し合う。

「急ぐわよレイ!」

「了解です!!」

 レイは真の姿であるスプライト・ドラゴンに変身すると、ベリアルらを背中に乗せて神殿の奥に作られた鉱山を脱出した。

 

「ブレイジング・ストーム!!」

「笑止!」

 バスターナイトが繰り出す灼熱の炎の竜巻。ダスクはその攻撃を正面から受け止め威力を削る。

「ふむ。以前よりも格段に成長している事は認めよう。だがこんなものではないだろう。見せてみろ、お前の全力を!!」

「言わせておけば……」

 やはり一筋縄ではいかなかった。ダスクを倒す為には最大質量での必殺技を叩き込まなければならない。

 バスターナイトは手持ちの剣・炎龍剣(えんりゅうけん)ドラゴンブレイカーと盾・炎龍盾(えんりゅうじゅん)ドラゴンイージスの二つを合体させ、炎龍斧(えんりゅうぶ)ドラゴンバルディッシュ】を携える。

 これでようやくバスターナイトの本気の力を見られると思ったダスクは、気合十分なバスターナイトを前にほくそ笑み、愛用の大剣を両手でしっかりと握りしめる。

 刹那。

 バスターナイトとダスクの二人はほぼ同時に前へ飛び出した。

「「ほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

 ――カキン!! カキンカキン!!

 

「ダークネスウェーブ!!」

 幾度となく襲い掛かる無数のコウモリたち。

 ラッセルが繰り出す激しい攻撃をケルビムはオファニムモードの防御力を以って辛うじて防いでいる。

 だがそこへ、ダークネスウェーブを囮としてラッセルがケルビムの背後へと回り込み、彼女自慢の長髪を鷲掴み思い切り振り回す。

「おっほほほほ!! ほらほらほらほら!!」

「きゃああああああ!!」

 地上へと吹っ飛ばされるケルビムを、ラプラスとウィッチが受け止め事なきを得る。

「大丈夫ですか!?」

「もうガマンできないわ!!」

 女の命とも言っても過言ではない髪の毛を無下にするラッセルの行為に業を煮やすと、ラプラスは彼女の方へと向かい、躊躇すること無くビンタ。

 バチンという綺麗な音が鳴り響く。頬をぶたれたことに対して、ラッセルも「何よ!!」とムキになり、ラプラスにビンタを返す。

「そっちこそ何よ!!」

 バチン、バチン、バチン――ラプラスとラッセルによる醜いビンタの応酬。その鬼気迫るやり取りを見ていたウィッチとクラレンスは同じ事を思った。

「ハヒ!? デンジャラスを超えるウルトラデンジャラスな光景です!!」

〈やはり怒ると怖いものなのですね、女性と言うのは……〉

「負けちゃダメよラプラス!! 私の髪をみだりに扱ったそんな奴、やっちゃいなさい!! キャメルクラッチ!! いえスリーパーホールドよ!!」

〈テミス様……女子プロレスを見ているんじゃないんですから、もう少し自重しましょう〉〉

 ジャベリンの姿に変化していたピットが思わず嘆く中、ラプラスとラッセルのビンタの応酬は更に熱を帯び始める。

「使い魔風情が生意気なのよっ!!」

「そっちこそ堕天使だからっていい気になってんじゃないわよっ!!」

 ビンタに端を発して、互を睨み合い、頬を引っ張り合うなど実に泥臭い争いへと発展する。このまま泥臭くて醜い争いが永遠に繰り広げられるのか思われたが……やはり長くは続かなかった。

 

 ――ドンッ!!

「あ痛っ!!」

 ラッセルの背中へと走る凄まじい衝撃。

 何事かと思い後ろを見れば、クン=ヤンの最奥よりスプライト・ドラゴンこと、レイがベリアルと人質として捕えられていた地上人を背中に乗せて飛んで来た。

「リリスちゃん!! レイさんも無事です!!」

「あの人たちは……そっか、世界中で行方不明になった人たちね!!」

「よくもやったわね……!! 許さないわよ!!」

 背中への不意打ちを受けたラッセルは怒りを露わにベリアルたちの方へと飛んでいく。

 ラッセルが向かって来ると、ベリアルはレイの背中から飛び降りラッセルに向い飛んで行く。

「はああ……はっ!!」

 掌に紅色に輝く魔力を固めると、それを波動として炸裂する。

「うぎゃあああああ!!」

 馬鹿正直にベリアルに向かって行ったのが運の尽きだった。

 ラッセルは豪快にも顔から地面に突き刺さった。その情けない姿にダスクも思わず辟易する。

「堕天使の幹部のクセして情けねぇ奴だな。お前もザッハみたいになりたいのか!?」

「く……私はザッハ様の無念を晴らしたいです!!」

「だったらちったー粘れよ!!」

「はい……!!」

 上司からの激励を受け、ラッセルは顔を引っこ抜いてからおもむろに立ち上がる。

 ディアブロプリキュアと堕天使軍団。三つ巴の大戦以来長らく対立する二大勢力による戦いが今、幕を開けようとしたそのとき――事態は急変する。

 

「ふはははははは!! ははははははは!!」

 甲高い笑い声が両者の耳に入る。

 いつの間にか、邪教集団の司祭ヨスがクン=ヤンの民たちを率いて現れた。

「愚かな者たちよ。神の裁きを受けるがよい」

「神ですって!?」

「我らが神……イグよ、今こそその姿を現せ!!」

 三つのマナスストーンを掲げるヨス。するとマナスストーンに封じられていたこれまで生け贄になった者たちの魂が、一度に解放された。

 放たれた魂は儀式場にあるイグの石像へと注ぎ込まれる。

 魂を受領したイグの石像の瞳(め)が紅く怪しげに光る。やがて、ゴゴゴ……という音を立てながら石像自体に亀裂が走る。

 次の瞬間、長き眠りに就いていた荒ぶる蛇の神――【イグ】が目を覚ました。

 斑紋のある緑色の蛇神が神殿の方から、大地を揺らしながらディアブロスプリキュアと堕天使二名の元に現れた。

「ひええええええええええええ!! へ、ヘビいやああああああああ!!」

「こんなものまで居たなんて……!!」

「おいてめぇらどういうつもりだ? まさか俺たちまで始末しようってつもりじゃねぇだろうな」

 当初とは話が違うと、ダスクがいちゃもんをつける。ヨスはそんなダスクを嘲笑いながら言ってやった。

「堕天使如きが我らと我らが神を懐柔しようとしていたようだが、とんだ思い上がりだったな!! 我らは我ら自身の手で地上に進出する!! 誰の力も借りずともな!!」

「ダスク様……」

「ったく。言ってくれるじゃねぇかよ」

 珍しくいっぱい食わされたと、ダスクは内心悔しがりながらこの最悪な状況をどう切り抜けるか、思考をフル回転させる。

「ははははははは!! さぁ、裁きの時を受けるがいい!!」

 声高に叫ぶヨス。

 だが直後、イグの取った行動は予想外のものだった。

「う、うおおおおお!!」

 ベリアルたちを攻撃する事はおろか真っ先にヨスの体を鷲掴みにして、それを丸ごと食らい始めた。

「ぐああああああああああああああ!!」

「なに!?」

「食われた……!!」

「ハヒ!! プリキュアシリーズではあっちゃいけないグロさです!!」

 思わず目を背けたくなる光景だった。

 ヨスを丸ごと食らい尽くしたイグは、その後も近くにいたクン=ヤンの民たちを次々と食らい出した。イグが民たちを食らうたび、品の無い悲鳴が聞こえ続ける。その度にベリアルたちは耳を押さえ目を瞑る。

 本来イグを制御するためには、七つのマナスストーンが必要だ。しかし、うち二つが地上へと持ち出され、さらに二つが欠けている状況で今回ヨスは三つのマナスストーンの力だけでイグの力を制御しようとした。その事が神の怒りに触れる結果となり、彼らは復活したばかりのイグの糧とされてしまったのだ。

 荒ぶる蛇の神はヨスたちの魂を食らう事で更に力を増し、巨大な姿へと膨れ上がる。

 禍々しさと獰猛さを兼ね揃えた蛇に睨まれた瞬間、ラッセルはカエルの如く体が竦み尻餅をついて動けなくなった。

「ダスク様……私……動けません!!」

「ちっ。こっちもてめぇの命がかわいいからな……ここは一時退却だ」

 冷静に考えてもイグに真っ向から立ち向かうなど正気の沙汰とは思えない――そう判断したダスクは腰が抜けて動けなくなったラッセルを担ぎあげ、空間の歪を通って地下世界を脱出する。

 取り残されたディアブロスプリキュアは、立ち塞がる巨大な蛇神を前に冷や汗をかいており、本能的な恐怖から拳が震え上がっている。

「ど、どうするの!?」

「プリキュアがこの程度の苦難で根を上げる訳にはいかないわ。プリキュアはプリキュアらしく、最後まで諦めずに戦う――そうでしょう?」

 凛とした表情でベリアルが周りに呼びかけると、ウィッチもケルビムも、そしてバスターナイトも納得の表情を浮かべる。

「リリスちゃん……本当にその通りですね!!」

「それでこそ、オレが心の底から愛した悪魔だ」

「確かにリリスの言う通りだわ。プリキュアはどんな状況でも決して諦めない。最後の最後まで希望は捨てない。どんな絶望的な状況も、必ず打ち勝ってみせるわ!!」

「みんな、ディアブロスプリキュアの底力を見せてあげるわよ。蛇神だか何だか知らないけど、私たちの前に立ち塞がる敵は完膚なきまでに叩き潰す!!」

 仲間たちと最後まで戦い抜くという決意を固めたディアブロスプリキュアは、クン=ヤンの民を食らい力を増した蛇神イグに対し攻撃を開始した。

「バースティングスラッシュ!!」

『テンペストウィング!!』

 燃える炎を斬撃として飛ばすバスターナイトの技。加えて巨大コウモリへと変身したラプラスが巻き起こす突風が威力を付加し、イグの表面を覆っている鱗を剥しダメージを与える。

 この攻撃に対しイグは激怒。口から溶解液を吐いてバスターナイトたちを狙い撃ち、巨大な胴を動かし尻尾を縦横無尽に振り回す。

「ヘブンズ・バインド」

 イグの動きを止める為、ケルビムはオファニムモードの状態から聖なる天使の象徴である光輪を何重にも組み合わせた拘束具を作り出すと、イグの体を光輪の力によって封じ込める。

 強固な拘束具となった光輪によって思うように体を動かせないイグ。大地を激しく叩きながら拘束から逃れようと必死で暴れ回る。

 この間隙にヴァルキリアフォームとなったウィッチが、反撃の狼煙(のろし)を上げる。

「セイクリッド・ファンタジア!!」

 クラレンスの力が融合した状態の武器、魔宝剣ヴァルキリアセイバーを天高く掲げる。

 刹那、聖なる力を溜めた武器の力で魔法がランダムに発現。天空より巨大な岩という岩が雨の如くイグの体へと降り注ぐ。

 イグの体が岩に押しつぶされる。しかしまだ完全にその息の根を封じた訳ではない。

 最後の止めを刺す為に、ベリアルはキメラ戦を経て手に入れたあの力を顕現させる。

「カイゼルゲシュタルト!!」

 プリキュアでありながら純粋な悪魔の力だけを宿したキュアベリアルの最強形態。左右五対、計十枚の羽を生やした悪魔の女帝が今――地下世界に降臨する。

『リリス様、我々の手で引導を渡してやりましょう!』

「ええ!!」

 最愛の使い魔スプライト・ドラゴンのレイとともに、キュアベリアルは地底に巣食う凶悪な神に滅びの一撃を加える。

「プリキュア・セブン・デッドリー・サイン!!」

『ブレス・オブ・サンダー!!』

 七つの大罪を封じ込めた超高熱の光球を放つカイゼルゲシュタルトの必殺技と、スプライト・ドラゴンであるレイ自身の必殺技が絶妙な具合で融合する。

二つの力が合わさった攻撃はイグの愚鈍なる肉体を瞬時に焼き焦がし、その魂を天空へと誘って行った。

 

           *

 

黒薔薇海水浴場エリア 洞窟前

 

 地底世界を支配する蛇神は、ディアブロスプリキュアの手により滅び去った。

 イグを倒し、行方不明となった人たちとともにクン=ヤンからの脱出に成功したリリスたちは、洞窟の前で立ち尽くしていた。

 先ほど自分たちが見た謎の地底世界。あそこに住まう彼らが果たしてどこの誰であったのか――ふと考える。

「何だか凄い経験をしましたね」

「あれは一体なんだったのかしら……」

「さぁね。でも、これだけは言えるわ。世の中には人間や悪魔でも知らない、知られちゃいけないような事がたくさんあるって事よ」

 リリスがそう言うと、皆も内心そうかもしれないと思った。

 やがて、朝日が海の彼方より昇り始めた。古い昨日が終わり、新しい今日がまた始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

編著:東雅夫 『ヴィジュアル版クトゥルー神話FILE』 (学研パブリッシング・2011)




次回予告

テ「洗礼教会を離脱した私。そんな私を付け狙うコヘレト」
リ「オファニムリングを使ってアイツが仕掛ける卑怯卑劣な作戦って……」
は「ハヒ!? テミスさんが……二人! しかも片方は黒いテミスさんです?!」
朔「それはまるで光と闇。あれは正にテミス自身の影……!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『コヘレトの復讐!戦慄のフォールダウンモード!』」
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