楽しい楽しいハロウィンに集まる子ども達に言い寄る謎の魔女。その脅威からリリスたちは子どもたちを守る事が出来るのか!?
それでは、本編ご覧ください。
十月三十一日
ハロウィンの夜――
秋空に満月が良く映えるこの日、警視庁公安部特別分室――洗礼教会対策課が黒薔薇町の半径五キロ圏内で強力な磁場を感知した。
ジジジジジジジ……。ジジジジジジジ……。
「こんな強い磁場……初めて見たな」
「ただの気象現象とは思えません」
コンピューターが観測した磁場は自然のそれとはあまりに常軌を逸していた。ゆえに公安本部長兼対策課部長の神林敬三と、息子の春人は作為的に何者かによって引き起こされたものである可能性が高いと推測した。
「洗礼教会の仕業かもしれないよ、父さん」
「うむ。調査してみる価値はありそうだな……春人、様子を探って来てくれ」
「了解」
*
洗礼教会対策課が調査に乗り出す数時間前の夕方、悪原家では夜に行われるハロウィンフェスティバルの準備に追われていた……。
≡
黒薔薇町 悪原家
「ん~~~どれにしましょう!!」
天城はるかは年に一度のお祭り行事に何を着るかで迷っている。リリスはかれこれ小一時間以上も悩み続けているはるかに呆れつつ、四杯目の紅茶をカップに注ぎながら「早くしなさいよはるか」と思わず急かす。
「そう急かさないで下さいよリリスちゃん。年に一度のハロウィンですよ、うんとキュートでハートフルな格好をしたいというのが女の子というものです!!」
「そんなのどれでも一緒よ。そもそも日本のハロウィンなんていい年した大人がただ意味もなくバカ騒ぎしたいだけのコスプレパーティーじゃない」
「えーっと……それはちょっと極論ではないでしょうか?」
思わず苦い笑みを浮かべながらピットが口を挟んだ直後、意外にもリリスの意見に賛同した者がいた。
「いえ、ピット。リリスの言うことはあながち間違いじゃないと思うわ」
ピットの主であるテミスだった。彼女は自分の使い魔を嗜めるように昨今の日本のハロウィンに関して感じる違和感を具に口にする。
「私も常々疑問には思っていたの。本来のハロウィンとは北欧に起源を持つ一年の豊作を祝う収穫祭だったの。だから、日本の異様な雰囲気にはちょっとツイていけないわ」
「だいたい、ちょっと前までハロウィンなんて誰も興味なんてなかったじゃない。それを日本企業ときたら、クリスマスやバレンタインと同じように商業主義の産物にしたてあげたわ。メディアもメディアよ。バカ騒ぎした挙句に暴徒と化す一部の人間をこれ見よがしに取り上げて煽り立てて……」
「おまけに、イベントに参加した人々も節度も弁えずにやれインスタだ、ティックトックだのでネットに自分の醜態を晒して……言っておくけど、誰もあなたたちの仮装なんかに興味なんてないのよって言ってあげたいわね」
「あ~、やだやだ……いつからこの国は楽しければなんでもいいという風潮が罷り通るようになってしまったのかしら」
普段反発し合う事の方が多い天使と悪魔が珍しく意見を一致させた事には周りも少々驚くとともに、少女たちが辟易する理由もあながちわからないではなかった。
それにしても、かつてプリキュア作品においてこれほどハロウィンを否定的かつ酷評したという例はあっただろうか。概ねシリーズの多くは小さな子供に受け入れ易い様にハロウィンに対して明るく肯定的な捉え方をする。だが、ディアブロスプリキュアでは全くの逆であり――先鋒鋭く近年の社会問題を痛烈に批判する。
しばし口籠っていたはるかたちだが、どうにか二人から少しでも現代のハロウィンに対してネガティブなイメージを払拭せんと言葉を投げかける。
「まぁ、お二方の言いたいことはよくわかりますが……せっかくの楽しいイベントですし。我々もこの機に乗じて楽しみましょうよ」
「そそ、そうですよ! リリスちゃん、テミスさん! 仮装だって案外やってみるとおもしろいですって!」
「それではるかさん、結局何を着る事にしたんですか?」
クラレンスが問いかけるが、未だはるかは何を着るか決めかねている。
「ダメですっ――! 着てみたいものがいっぱいありすぎて訳が分からなくなってきました――!」
用意してあった多量のコスチュームを無造作に放り投げ、膝を突いたはるかは途方に暮れる。すると、見かねたリリスが嘆息してからはるかに予想外の助言をした。
「もういっそのこと、キュアウィッチの格好でもしなさいよ?」
「は、ハヒ!? 公衆の面前でプリキュアの格好を……ですか!!」
リリスにしては大胆な提案だったと思う。確かにキュアウィッチは名前の通り魔女をモデルとしているし、ハロウィンフェスティバルに参加するならおあつらえ向きな格好ではある。だが――
「いやいやいや!! いくらなんでもそれはちょっと無防備過ぎる気が……それに折角のハロウィンなんですから、プリキュアの格好をするのは多少場違いなのでは?」
「何言ってるのよ。名前がキュアウィッチ、魔女でしょう。ハロウィンにこれ以上おあつらえ向きな衣装があるかしら?」
「そういうリリスだって、ハロウィンにはおあつらえ向きなんじゃないの?」
テミスはリリスが悪魔である事を指してそう言った。無論、本人も否定は一切せず「まぁ元々が悪魔だからね」と呟いた。
「あんまり気乗りはしないけど、気分転換に私も参加してみるとしましょう。今夜のハロウィンフェスティバルにはキュアベリアルの姿で行こうと思うわ」
「り、リリス様!! な、何という大胆不敵な!!」
「それはさすがにやめましょうよリリスさん。万が一本物の悪魔だって事が周囲にばれたりでもしたら……」
レイとクラレンスの二人は、リリスの軽はずみな行動が周囲の人間に悪魔であると悟られる事を危惧するが、本人はどこか自信に満ちた様子でひとつの見解を並べる。
「二人とも大丈夫よ。みんな思い思いの格好してるわけだし、はしゃいで有頂天になって誰も私がキュアベリアル本人だなんて思わなければ、気にも留めないわよ。ていうか、誰も人の仮装なんて毛ほども興味ないわよ。みんな自分のが一番だって思ってるでしょうから」
「そ、そうでしょうか……」
あまりに極論ではないかとピットは思うが、リリスが言うと妙な説得力があるようにも思えた。
「仮に私の格好に興味を持つ人がいたとしても、小さな子どもにはあまり変な目で見られる事はないし、大人にしたって大抵はお酒で酔ってる人が多いと真面に思考判断する事は出来ないわ。せいぜい『あっ! あの翼精巧な作りしてるなー』とか『キュアベリアルの格好してるんだー、写真撮らせてもらおう!』……くらいの気持ちで見るわよ。彼らの目的なんてSNSで〝いいね〟を多くもらいたいだけなんだから」
「確かに一理あるとは思いますが……本当に大丈夫なんでしょうか?」
いつにもまして毒気を持つリリス節が軽快にさく裂する。だが、完全には心配が拭えない。そんな折、ふとテミスが周りを見てからある疑問を抱き、ラプラスに尋ねる。
「ところで、今日は朔夜君はどうしたんですか?」
「ああ。あの子ならね……なんでも学校の吹奏楽部が、ハロウィンフェスティバルの出し物で演奏するんだけど。その演奏会を盛り上げる助っ人としてあの子のバイオリンの腕が評価されてね、ゲストに選ばれたらしいわ」
「なるほど。確かに、朔夜さんはバイオリンの名手ですからね」
「あ~……サっ君、どんな格好で演奏するのかな。きゃあ、どうしよう! 見ただけでキュンキュンしちゃうのかな♡」
安易に想像するだけでもリリスのハートはときめいてしまう。
気が狂うほど婚約者に夢中な彼女のこうした周囲とのギャップの激しさには、はるかたちも思わず苦笑するばかりだった。
*
そして、日もすっかり暮れた頃合い――年に一度のビッグイベント・ハロウィンフェスティバルが満を持して幕を開けた。
≡
黒薔薇町 ハロウィンフェスティバル・メイン会場
毎年十月三十一日に開催されるハロウィン。発祥は古代ケルト人が起源とされる祭りであり、それがやがて、古代ローマやキリスト教的教義が加えられた現在のようなスタイルに変化していったらしい。
現代の日本では、ハロウィンはクリスマス同様立派な年中行事のひとつとして定着しつつある。もっとも各国のそれと比べると、日本のハロウィンは公の場でコスプレをする社交場としての意味合いが強く、毎年この時季になると、多くの若者が箍が外れた様に大騒ぎを起こしては警察沙汰となるのが恒例となりつつある。
では、この黒薔薇町管内におけるハロウィンの様相はどうか――首都圏で見られるようなバカ騒ぎも無く、比較的平穏な空気が漂っていた。
「「「〝Trick or Treat〟!! おっかしをくれなきゃいったずらするぞー!」」」
ジャック・オー・ランタンやケットシーなどと言った西洋の怪物の仮装を着こなす子どもたちが元気いっぱいに声を上げ、近所の家を回っては〝Trick or Treat〟と言ってお菓子を求める。
「うわああ!! かわいいオバケさんたちねー! はい、いっぱい持ってってねー」
「「「ありがとう!!」」」
ハロウィンフェスティバルは子どもが主役のお祭りだが、大人も大いに楽しめる数少ない行事だ。ハロウィンに適した仮装に扮したリリスたちが会場入りをすると、そこら中オバケとカボチャランタンだらけだった。
「へぇ~。結構盛り上がってるわね」
「どの仮装もユニークでキュートですね!!」
「で、結局はるかはプリキュアの格好で落ち着いちゃったわけね」
洗礼教会との戦いで幾度となく来ている戦闘装束に身を包んだリリス、もといキュアベリアルが口元を緩めはるか、もといキュアウィッチに言う。
悩みに悩んだ末、はるかがチョイスしたのはキュアウィッチの格好だった。一応本人としては最後まで抵抗したつもりだったが、最終的には親友の強引な圧力が加わり現在に至る。
「ぶ~~~っ。半ば無理矢理そうしろと言ったのはどこの誰ですか!?」
「あら、誰の事かしら?」
と、ベリアルが白々しく言う様を傍で見ていたテミス、もといキュアケルビムに変身した少女は苦笑を浮かべる。
「悪魔だー!」
「こっちは天使さんだ!」
「魔女さんもいるよー!」
「かわいい♪」
そのとき、三人の元へ頑是ない子供たちが大勢集まってきた。
悪魔と魔女、そして天使は子どもからも非常に人気が高い。元来リリスとテミスの二人は美少女であり、はるかも二人に埋没して気づきにくいがその性格と愛らしさもあって校内でもそれなりに人気が高い。また、三人はプリキュアゆえに自然と子どもの心を鷲掴みにする性質を持っていた。
気がつくと、仮装をした子どもたちに取り囲まれていた。
きゃっきゃ、きゃっきゃと黄色い声を上げる彼らを前に、ウィッチとケルビムは些かアウェイな気持ちとなり困惑する。
「ハヒ~~~……何だかちょっと恥ずかしいですね……」
「私もあんまり慣れていないかも……」
「ふふふ。悪魔に自分から寄って来るなんて、かわいい子たちね。じゃあお礼にあなたたちのお菓子をとっちゃおうかしらー」
「あああ!! それはダメー!!」
「お菓子とられるぞー! 逃げろー!」
ベリアルの冗談を真に受けると、子どもたちはお菓子を奪われる事を恐れ、急いで逃げていった。そんな子どもたちに対するベリアルの態度を見たウィッチとケルビムは、顔を見合わせてから率直に思った事を口にする。
「リリス。あなた随分と柔らかくなったんじゃない?」
「え……そうかしらね」
「ぜったい優しくなってますよ! 今の子どもたちへの態度がそれを証明しています!! これもプリキュアになったお陰ですね!!」
「どうかしらね」
本人はあまり自覚がないようだが、ベリアルの心の変化はプリキュアになって以来如実に現れている。元々優しい性格だった彼女は十年前の惨劇以来、心に深い傷を負い他人との関わりを無意識のうちに避けていた。
しかし、最近では僅かずつだが昔の性格を取り戻しつつある。これこそ、ベルーダ曰くプリキュアがもたらすプラスエネルギーが働いている事の証拠である。
「カボチャのオバケはだれだぁー!」
すると唐突に、子どもたちを追い回すパンプキンキングが目の前に現れた。素顔こそカボチャの被り物で隠しているが、ベリアルには直ぐに正体がバレてしまう。
「待ちなさい!!」
だから子どもを追い回すパンプキンキングの首根っこを平気で鷲掴みにすることが出来た。なぜならそれは自分の使い魔なのだから。
「ちょっと、レイ!」
怒鳴りながら、ベリアルはカボチャマスクを強引に外してレイの素顔を露わにする。もの凄い剣幕で睨み付ける主を前に、レイは冷や汗をダラダラかきながら兎に角笑って誤魔化した。
「はははは!! いやいや……これはこれはリリス様。今日の格好は一段と麗しいですな~~~……はるか様とテミス氏も楽しんでいますかな?」
「バカ。いつも見てる格好じゃない。それより、子どもを追い回して何してたの?」
「誤解です、勘違いしないでください! 私はただ子どもたちと仲良くしたいという純粋な思いからですね……」
「傍から見れば変質者じゃない!! やめなさいよ、紛らわしいから!!」
「いやしかしリリス様! 私を叱咤するよりも先に、ご婦人の方をどうにかしてもえませんか?!」
「ラプラスさん?」
レイに言われ、近くにいるであろうラプラスを探して視線を移してみると……
「ん~~~、やっぱハロウィンは最高ね!! あ、これもおいしい!!」
朔夜という歯止めがないラプラスにとって、今宵は欲望を解放するのにまたとないチャンスだった。妖艶なサキュバスの格好(本物ではあるが)で世の男性陣を誑(たぶら)かせ、かつ子どもっぽく出店のポップコーンやチュロスを貪り食らうなど、ひとりハロウィンを満喫していた。
「見てください、あの欲望に忠実なサキュパスの本性を!! あれこそハロウィンテロ予備軍とも呼べるダメな大人の典型ですぞ!!」
ラプラスの姿勢を指して強く非難するレイだが、その直後――ベリアルから返って来た反応は全く見当違いなものだった。
「――別に。良い事じゃないの」
「え……えええええぇぇ!!」
予想外の答えに、レイはショックを隠し切れなかった。
「なぜですか!? なぜ私はダメで、ご婦人は称賛されるのですか!?」
「悪魔の使い魔が欲望に忠実なのは自然な事よ。それにラプラスさん、今のところ自分の欲望の為に誰にも迷惑をかけていないみたいだし」
「いや確かにそうかもしれませんけど……!! ご婦人の性格からすればいつ問題行動を起こすか分からないのですぞ!!」
「そうなったらアンタに任せるわ。さぁみんな、急がないとサっ君の演奏会見逃しちゃうわよ」
と、ベリアルはレイを軽くあしらってハロウィンフェスティバルに来た主目的とも言える朔夜のコンサートへと急いだ。
「リリス様!! 私にはご婦人の尻拭いなど重過ぎますぞ!! 今すぐイケメン王子を呼んできてください!!」
「レイさん、残念ですけどもう聞こえてませんよ」
「ここは何もない事を祈りましょう」
「くう~~~」
ウィッチとケルビムが横から呼びかけると、レイは文字通り涙を呑んだ。
彼には悪いが、ベリアルの頭の中では朔夜>レイという明確な構図があった。彼女もまた己の欲望に忠実な悪魔である事に変わりは無かった。
しばらくして、コンサート会場に到着したべリアルたち。
特等席を確保しようと混雑する会場。有象無象の人混みの中、先に場所取りをしていたクラレンスとピットがベリアルたちに呼びかける。
「みなさんこっちですよー!!」
クラレンスが大きく手を振ると、それに気づいたベリアルたちも挙って彼らの元へ集まる。
「場所取りお疲れ様です、クラレンスさん! ピットさん!」
「大変だったでしょう。はいこれ、場所取りのお駄賃」
二人の労をねぎらって、ケルビムはここへ来る途中に出店で購入したカボチャのカップケーキを差し入れた。
「ありがとうございますテミス様!! いただきます!!」
「実を言うとここへ来る前に私も結構なお菓子を貰いまして……これ、はるかさんたちへおすそわけです」
「ハヒっ――!! 何と言う幸運なんでしょう!! ありがとうございますクラレンスさん、はるかは今まさに幸せハピネスです!!」
朗らかに笑いながら、クラレンスは場所取りの前に女性たちの多くから分けてもらったお菓子の詰め合わせ袋をウィッチを始めベリアルたち全員へと手渡した。ウィッチはクラレンスのこの厚意に大興奮だった。
「えっと……サっ君はどこかしら?」
ステージ上を見渡し、ベリアルは朔夜がどこにいるかを目で探す。するとそのとき、壇に上がったMCと思われる女性が、特設会場に集まった人たちへ呼びかける。
「お待たせしました。間もなく、市立黒薔薇第一中学吹奏楽部によるスペシャル演奏会を行います。みなさん、拍手をお願いします!!」
パチパチパチ……。温かい拍手とともに壇上に照明が灯されると、ハロウィン用の仮装に身を包んだ吹奏楽部のメンバーが各々の楽器を手に所定の位置に着いている。その中には、特別ゲストである十六夜朔夜の姿もあった。
「あっ。リリスちゃんいましたよ!」
「え、どこどこ!? どこなの!?」
「ほら、あそこよ」
ウィッチとケルビムの二人は血眼になって朔夜を探すベリアルの為に、彼がいる方を指さした。
壇上から見て右奥に立つバイオリン演奏者の朔夜――その格好は、ドラキュラ伯爵。かつてイドラと言う名の吸血鬼と戦った事があるベリアルだが、今はそんな過去の事はどうでもよくなるくらい朔夜の魅力に心奪われていた。
「ああ……思っていた通りサっ君が一番カッコいい!! 写真撮らなきゃ……でもビデオにも映しておきたいし、どうしよう~~~!!」
「まるで学芸会のときに我が子を熱心に撮影する親みたいね……」
率直なるケルビムの感想。これには周りもついつい苦笑いを浮かべるばかりだった。
そうこうしている内に吹奏楽部による演奏が始まった。朔夜は得意のバイオリンを奏で、吹奏楽部もそれに合わせて見事な演奏を行う。
この演奏会が終了したとき、会場に集まった全ての観客が今宵の演奏に満足し、若き奏手たちに称賛の拍手を送ったのだった。
演奏会終了後。
ひと仕事終えた朔夜とともにベリアルたちは引き続きハロウィンフェスティバルを楽しむのだった。
「素晴らしい演奏だったわ」
「ダントツでサっ君が一番上手だった! 当然だよね、サっ君のバイオリンは世界一だもんね♪」
「ありがとうリリス。それにしても、リリスにはるか、テミスも随分と思い切った格好をしたんだね」
案の定、朔夜からも衣装について触れられた。ウィッチやケルビムはやや気恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
「あははは……いろいろ考えてたんですけど、やっぱりこれが一番しっくりきたと言いますか」
「リリスが言うように、私も翼を出してみたけど案外バレないものなのね」
ケルビム自身こんなにも人が集まる場所で誰かしら勘のいい人間が自分の格好に疑問を抱くだろうと思っていた。だが、どうやらそれは杞憂に終わったらしい。
「みんなぁー!」
と、そこへ。ひとり演奏会には来ずにいたラプラスがロリポップキャンディを舐めながら近づいてきた。
「あら朔夜、あんた演奏会はどうしたの?」
「とっくの昔に終わってるよ。ていうか、お前は今までどこで何をしていたんだ?」
「何って……せっかくのハロウィンなのよ、片っ端からお菓子を食べて食べて食べまくってるに決まってるじゃない!」
「虫歯にならないように帰ったら歯をきちんと磨くんだぞ」
「わかってるわかってる!! ていうか、あんたはあたしのおかんかって」
調子の良い事を言いながら、ラプラスは手の中のロリポップキャンディを舐め続ける。これを見たクラレンスがふと、そのロリポップキャンディの事が気になった。
「ところで、それはどこで買ったんですか? 売店にそんなもの何処にもなかったと思うんですが……」
「ああこれ! さっきあっちで魔女の格好をしたおばあさんがワゴンで配ってたんだけど、子どもにしかくれないって言うからこっそり拝借してきちゃった」
「な……お前盗んできたのか!?」
「だーかーら、拝借して来たんだって! いいじゃない、いっぱいあったんだから」
「そう言う問題ではありません! リリス様、私の言った通りではありませんか!! さぁご婦人、今すぐそれを返しに行きましょう!!」
「止しなさいよレイ。一度舐めたものを返しても意味ないって。ま、ここは目を瞑ってあげますから、代わりにそのおいしそうなキャンディを配ってるお店に案内してください」
「いいわよー! じゃ、案内するからついてきてー」
咎められずに済んだラプラスは気前よく、ベリアルたちを引き連れてロリポップキャンディを配っている場所へと誘導する。
取り残されたレイと朔夜は、毎度毎度人騒がせな上に破天荒なラプラスの行動にほとほと疲れた様子で、共に頭を抱えるばかりだった。
「イケメン王子……いい加減どうにかならんのか?」
「すまないレイ……すべてオレの監督不行き届きだ」
「夢がある子は集まっといでー。夢をいっぱい持ってる子には褒美においしいキャンディをあげようー」
ラプラスの言っていた通り、魔女の格好をした老婆が子どもたちにロリポップキャンディを配っていた。
「おばあちゃんちょうだい!!」
「わたしにもキャンディ!!」
「ぼくにも!!」
魔女のワゴンは大人気だった。ベリアルたちも嬉しそうにキャンディをもらう子どもたちにあやかって、魔女から一本貰おうとする。
「〝Trick or Treat〟!!」
「おばあさん、私たちにも一本くださいなー」
笑顔で問いかけるはるかたち。しかし、魔女は「子どもにしかあげないよ」と冷たくあしらってきた。
「あら、私たちまだ中学生じゃない?」
と、ベリアルが反論すれば「中学生は子どもじゃないよ」とばっさり言い放ち、やはり冷たく切り捨てる。
「え~~~そうなの? このケチん坊!」
「ケチで結構!」
全く悪びれる素振りすら見せない。
すっかり不貞腐れ、朔夜たちの元へ戻ろうと踵を返そうと思った直後。ベリアルはある違和感を抱くとともに、気づいてしまった。
ショッピングワゴン近くの鏡を見た際、他の子どもたちが映っているのになぜか魔女の姿だけが映っていなかったのだ。
すると、一人の子どもが鏡に映らない魔女に対し話しかけて来た。
「おばあさん、もう一本ちょうだい!」
「なぜだい?」
「弟が夢をいっぱい持ってるんだ!」
「そりゃいい子だ。ほい!」
「ありがとう!」
(鏡に魔女が映ってない? ……どういう事なの?)
驚愕したベリアルは、鏡をしばらく見つめてから今度は魔女の方を凝視。
すると魔女自身もベリアルから疑いの目を向けられている事に気付き、慌てて行動を起こす。
「さぁ今日は店仕舞い。どいたどいた!!」
慌てて店をたたむと、魔女は足早にワゴンを押してその場を立ち去る。ベリアルは衝動的に魔女の事を追いかける。
そんな中、魔女から二個のロリポップキャンディをもらった子どもが近くにいたウィッチに呼びかけると、持っていた一つを手渡した。
「ぼく、二つもらったから一個あげるよ」
「いいんですか?」
「ぼくの弟が夢をいっぱい持ってるんだって言ったら、二つくれたんだ」
「でもそれだと弟さんに怒られませんか?」
「お姉ちゃん美人だから」
「ハヒー! なんてキュートでチャーミングな良い子なんでしょう♪」
「良かったですね、はるかさん」
「はい!!」
思わぬ嬉しいサプライズに、ウィッチは満面の笑みを浮かべる。するとそこへ、レイと朔夜が合流する。
「みんな、リリスはどうした?」
「あれ? そう言えばいないわね」
「先に帰ったんじゃないの?」
「しょうがない子ね。じゃ、私たちも帰りましょう」
ケルビムの発案で全員が帰路に向かって歩き出す。道中、ウィッチは子どもから貰ったロリポップキャンディを美味しそうに食べるのだった。
「ん~~~! このキャンディ、マーベラスです!!」
「ははははははは!! あははははははは!!」
「待ちなさい!!」
ワゴンを押しながら、暗がりの道を疾走する謎の魔女。高笑いを浮かべながらひたすらに前へと進む魔女を、ベリアルは飛翔し全力で追いかける。
しかし、驚くべきことに魔女が移動する速度は尋常ではないくらい早かった。いつしかベリアルは魔女の姿を見失ってしまった。
「く……っ」
逃がしていいという気にはなれなかった。彼女は消えた魔女の気配を辿って追跡を続行する。
やがて、気配を追ってベリアルが辿り着いたのは「立入禁止」という張り紙が貼られた何もない空き地だった。近くには西洋式の墓がちらほらとあった。
しばらく辺りを窺っていると、何も無かった空き地に突如として怪しげな洋館が出現した。まるで空気に溶け込んでいたかのように。
「あれは……!」
ベリアルも思わず目を奪われた。だが同時に彼女は直感した。魔女はここにいるに違いない――自らの勘を信じ、彼女は早速洋館の中へ入っていった。
ギギギギギ……。
建物の中は暗く、蜘蛛の巣がそこらじゅうに張り巡っていて、趣味の悪い絵画や壺が無造作に放置されている。不気味な静けさに満ちた謎の洋館内を慎重に探索しながら、ベリアルは魔女の居場所を探る。
『へへへへへ。はははははははは……』
すると、ベリアルを出迎えるとともに彼女を嘲笑うかのような魔女の笑いが空気に溶け込んで聞こえてきた。
笑いは二階から聞こえてくる。そこでベリアルは、階段を足早に上がっていった。
『へへへへへ。はははははははは……』
二階へ到着すると、魔女の誘いなのかより鮮明に聞こえてきた。
すると、ギギギ……という扉が開く音がした。ベリアルはそれが魔女の挑発であると悟った。敢えてその誘いに乗ってみる事にした。
おもむろに廊下を歩き、光が漏れる扉の前に立つ。息を飲むと、慎重に右足から光の中へ入っていく。
光の中には、不思議な世界が広がっていた。
辿り着いたのはいわゆる公園のような場所だった。地面や近くの遊具には壊れたおもちゃが無造作に放置されている。
(どこなの? ここは……)
辺り一帯を見渡しながら、ベリアルは名も知れぬ場所に困惑する。気のせいか、赤ん坊の笑い声が空気に溶け込んで聞こえてくる。
バタン――。
直後、外の洋館とこの世界とを繋ぐたった一つだけの出入口が唐突に閉じ、忽然と消えてしまった。
「あっ!!」
気付いた時には既に扉は無く、ベリアルは迂闊だったと深く自省する。
兎に角出口を探さなければと思い、彼女は気を取り直して公園の中を散策しようとした――そんなときだった。
不意に目の前から飛び込んできたのは、地面にポツンと座り込んだピエロ帽を被ったパジャマ姿の子どもたちだった。
「ちょっと、あなたたち!」
なぜこんな所に子どもがいるのか。ベリアルが思わず呼びかけると、子どもたちがおもむろに振り返る。
顔は真っ白に染まり、目はとろんとなっていて、まるで死んだ魚の如く。元気、覇気、生気、諸々の気が全く感じられない彼らはまるで廃人の様だった。
思わず言葉を失うベリアル。子どもたちはゾンビのようによたよたと彼女の方へと近付いて来る。が、直ぐに彼らは方向転換をし、そのまま立ち去って行く。
「ちょっと! どうしたのよ!?」
何があったのかと問いかけようとした直後、ベリアルの体を覆い尽くす巨大な影が足下から伸びて来た。
振り返ると、体長五メートルはある巨大な姿の魔女がいつの間にか立っていた。
『ハハハハハハ』
魔女の出現に驚きながら、ベリアルは慌てて迎撃しようと態勢を整える。
しかし次の瞬間、攻撃をしようとするベリアル目掛けて、魔女は両目から紫色の光線を放ち攻撃した。
「きゃあああああああああああ!!」
攻撃を食らったベリアルは悲鳴を上げ、やがて変身が強制的に解除され、そのまま意識を失った。
同じ頃――。
春人を始めとする洗礼教会対策課の捜査員が、例の空き地へと集まっていた。彼らが現地入りをした時には既に、洋館は跡形も無く消えていた。
リリスが魔女の罠に落ちているとは露知らず、春人らは特殊な機械を使って、辺り一帯の磁場の数値を測定する。
「ここが磁場の中心源ですね……」
「しかし何もない。どういう事だ?」
「目に見えない何かが、ここから強力な磁場を発しているという訳か……地下をスキャンしてください」
「了解!」
春人の指示の下、捜査員はこのまま調査を続行する。
随時報告を受けつつ、本部での総指揮に当たる神林敬三らも調べを進めていた。そんな折、部下の一人がふと呟いた。
「……嫌な予感がしますね」
「どうした?」
「昨年までのハロウィンのデータを調べてみたんですけど……」
そう言いながら、部下は一枚の調査資料を提示してきた。
「毎年ハロウィンの日に、世界のどっかで子どもが大量に蒸発してるんです!」
「大量に?」
世にも奇妙な話だと思いながら、敬三にはこれが単なる偶然によるものとは思えなかった。
ピピピ……。ちょうどそのとき、春人からの連絡が入った。
「こちら基地局!」
『父さん。磁場の中心地をスキャンしてみたんだけど、怪しいものは何も見つからなかったよ』
「そうか……」
もしもの事を想定し、敬三はハロウィンフェスティバル会場へ出張っている別の捜査員たちにも連絡を取ってみた。
「黒薔薇町を巡回中の捜査員。子どもたちはみんな無事か?」
『はい。子どもたちでしたら、みんな楽しそうですよ』
「ならいいのだが。念のため、子どもたちが無事に帰り着くまで警戒を怠らないでくれ」
*
異世界 洗礼教会本部
「魔女が動き出したか」
「そのようですね――」
今ある世界を一度破滅させ、新たな世界構築を目論み裏で暗躍する洗礼教会。その要である『世界バプテスマ計画』を推し進めるべく、ホセアは元・見えざる神の手直下の暗殺組織【神の密使(アンガロス)】から引き抜いたクリーチャー・アパシーの力を使い事を運ばせる。
「さすがは神の密使(アンガロス)の首領。数あるクリーチャーの中から選りすぐっただけの事はある。お主にはこのまま世界バプテスマ計画遂行とその最大の障害であるディアブロスプリキュアの殲滅の任を担ってもらう」
「承知しました――」
フードで顔を覆い隠している為、表情こそはわからない。が、アパシーの態度を見る限りどうやらホセアには恭順の姿勢を見せている。かつての主だった見えざる神の手とは比べものにならぬ程に。
「それと……例の件についてだが、頃合いを見てこちらも調査を進めて欲しい」
「分かっておりますプリースト。必ずやあなたの期待に答えてみせます。我々が追い求める真の世界を作り上げる為に――――」
*
異次元空間 魔女の洋館内
気がついたとき、リリスは透明なカプセルの中で閉じ込められていた。
どうしてこんな場所にいるのかと戸惑いながら、カプセルを破壊しようと試みる。しかし生憎とカプセルは頑丈に作られており、ちょっとやそっとの力では壊れない。逃げようにも逃げられないのだ。
すると、不意にオルゴールのメロディが聞こえてきた。外ではミラーボールが明滅し、目の前には木馬に乗って楽しげに歌を歌うピエロ帽を被った子どもがいる。どうやらリリスが今いる場所はメリーゴーラウンドの中らしい。
子どもはリリスの事など歯牙にもかけず、上下する木馬の上で楽しげに歌を歌い続けている。その近くにある机には、魔女が没収したと思われるリリスの私物――プリキュアの変身には不可欠なリング一式が無造作に放置されていた。
(あんなところに……)
何とかリングを取り戻したいが、カプセルから出られない以上どうする事もできない。リリスは無力な自分に腹が立ち、ついカプセルの内側から頭をぶつける。
ギギギギギ……。
すると、例の魔女が異次元の扉を通って現れた。
「ちょっと! あんた誰なの!? ここはどこなの!? ちょっと! 聞いてるの!!」
魔女が現れるや、リリスはカプセルの中で声を荒らげる。しかし魔女は彼女の言葉に聞く耳を持たず、子どもの方へと近付いていく。よく見れば、子どもの背後にはお菓子やおもちゃなど様々な映像が複数のモニターで表示されていた。
魔女は楽しげに歌を歌い続ける子どもの顎にそっと手を添えると、自分の方へ軽く向けさせる。
「やめなさい! 子どもに触らないで!!」
制止を求めるリリスを無視して、魔女は子どもの耳元から虹色に輝く何かを吸い取り始める。するとそれに伴い、背後にあるモニターが砂嵐へと変わり始め、一つずつ画面が消えていった。
「やめなさい! その子から離れてっ!」
リリスの叫びも虚しく、魔女は子どもから吸い取り続けた。
やがて、全てのモニターが何も映らなくなった。魔女の干渉を受けた子どもは歌を歌う事も出来なくなり、ぐったりと体を倒す。こうなると、魔女は子どもから離れリリスの近くの机に置いてあるワインを手に取った。
「何をしたの!? 子どもに何をしたの!?」
「〝夢〟をぜーんぶ吸い取ってあげた!」
「夢を? そんなバカな……夢を返しなさい! その子の夢は、全部その子のものなのよ!」
夢とはすなわち人の欲望。生きる糧そのものだ。それを奪った魔女をリリスは強く非難し、即座に夢の返還を求める。
魔女は空になったグラスを無造作に捨てると、夢を奪われ抜け殻となった顔面蒼白の子どもを抓み上げる。
「子どもに夢は要らない。どうせ大人になるまで、人形やおもちゃのように夢も捨ててしまうのさ」
言うと腕を一振りする。瞬く間に、子どもの姿が消えてしまった。突然の事態にリリスは目を剥いた。
「アンタ……あの子を何処へやったのよ!?」
「【夢の墓場】に捨てたのさ。へへへへへ……」
「夢の墓場? さっきの公園の事!?」
そう尋ねた直後、リリスを閉じ込めているカプセルの中に白い煙が充満し始める。
この事態にリリスが大いに戸惑う様を見ると、魔女は彼女を嘲笑いながら一人異次元の扉へと歩き出す。
「悪魔はこの世に要らない。悪魔の腐った欲望を吸っても、腹を壊すだけだ! はははははははははは!!」
「待ちなさい! ちょっと!」
リリスを一人残して、魔女は扉の向こう側へと消えてしまった。
「げっほ! げっほ! げっほ!」
たちまち蔓延する煙を吸ってリリスは激しく噎せ返る。呼吸が苦しい状況で、彼女はカプセルの向こう側に見えるベリアルリングを凝視する。
(なんとかしないと……!)
*
ハロウィンフェスティバル終了後の午前零時――突如として異変は起こった。
魔女が配ったロリポップキャンディを舐めた子どもたちが、オルゴールの音が鳴り始めたのを機に一斉に目を覚まし、活動を始めたのだ。
覚醒した子どもたちは催眠術にでもかかったかの様に、自分の意識とは関係なく動き出す。皆パジャマ姿のままある場所へと向かって移動を開始した。
同じ頃、朔夜が日課の夜間ランニングをしていた時の事だった。
いつものようにコースを走り終え、自販機でジュースを買って帰ろうとしたちょうどそのとき。偶然にも、彼は見てしまったのだ。パジャマ姿のまま裸足で夜道を歩くはるかの姿を――。
「はるか?」
怪訝そうに朔夜は瞳の奥に映る彼女をじっと見る。彼女の目はとろんとしていて、まるで夢遊病を起こしたかの様だ。
朔夜は慌ててはるかの元へ駆け寄り、何処かへ行こうとする彼女の足を止めた。
「どうしたんだ? こんな夜中にそんな恰好で?! 聞こえるかい、はるか!」
朔夜が強めに肩を振ると、糸が切れた人形のようにはるかは意識を失いぐったりと後ろへ体を逸らした。
「はるか! おい! しっかりしろ!!」
意識が戻ったはるかから事情を聴く為、朔夜はテミスらを直ちに公園へと招集した。そしてはるかは気になる節を赤裸々に話す。
「キャンディ?」
「はい……。魔女の格好をしたおばあさんが、子どもたちにキャンディを配っていたんですよ」
「キャンディならあたしも食べたけど、何とも無かったわよ」
「ご婦人は神経が図太い方ですからね。そもそも催眠術に掛かりにくい体質なんですよ」
「まさかあのキャンディが夢遊病を誘発するものとは知りませんでした……」
「夢遊病ではないよ」
きっぱりとそう断言したのは朔夜でもテミスでもなかった。公園の外から春人が現れると、おもむろに歩み寄って来た。
「春人?」
「どういう意味なの? というより、いつ来たの?」
そんな疑問を軽く受け流すとともに、春人ははるかを見ながら真顔で説明する。
「君が陥ったのは後催眠暗示(ごさいみんあんじ)――後催眠の一種だよ」
「後催眠……ですか?」
「〝後でかかる催眠〟――文字通りの意味だよ。まず、あらかじめ対象者に何らかの方法で催眠をかけ、ある暗示をかける。例えば、〝夜中の十二時にオルゴールの音が鳴ったら目的地に向かって移動を始めろ〟とか」
「「「「「「「ハヒ(えっ)(何)(なんですって)!?」」」」」」」
「そして、合図とともにその対象者が一斉に行動を開始する。これが後催眠だよ」
「もしあなたの言うように、徘徊の原因が後催眠暗示だとすると……キャンディは催眠術を掛けるための触媒で、それを食べた子どもたちもはるかみたいになってるって事?」
「だから、僕たちが付近をパトロールしているんだ。ところで、悪原リリスはどうしたんだい?」
「そう言えばリリスさんがその魔女のおばあさんを調べてたはずでは……」
怪訝そうに尋ねるクラレンス。これを受けたレイの顔が忽ち渋くなり、やがて重い口を開く。
「実は……ハロウィンフェスティバルからまだ帰って来ていない様で、街中を探したのだがどこにも見当たらないのだ!!」
「そ、そんな!!」
「早く言いなさいよそういう大事な事は!!」
プルルル……。
直後、春人の携帯に着信が入った。連絡を受けた春人は真顔のまま「分かりました、直ぐに行きます」と言って、通話を終える。
「都内各地で大量に子どもたちが失踪している事が分かった。どうやら魔女の呪いが本格的に動き出したようだよ」
「磁場の中心源で空間が異常に歪んでます! まるで、まるでブラックホールみたいだ!」
異常磁場の中心こと、例の空き地で異常なまでの時空間の歪みが生じている。洗礼教会対策課基地局がその事に気付いたとき、現地の地中から巨大なパンプキンが出現した。
それは魔女が使用する次元を移動する為の船だった。魔女はオルゴールの音に釣られて空き地へと集まる子どもたちを、この船に乗せて運ぼうとしていた。
「さぁ、みんな! パンプキンに乗って夢の国へ行こう!! あはははははは!!」
パンプキンの上から魔女が声高らかと呼びかける。子どもたちは柵を乗り越えると、何の躊躇いも無くパンプキンの中へと入っていく。
ちょうどそこへ、変身したディアブロスプリキュアのメンバーが現地へ駆けつけた。直ちにウィッチたちは、魔女に操られる子どもたちを救い出そうと、制止を求める。
「おい! 目を覚ませ! しっかりするんだ!!」
「騙されないで! あれは悪いヤツよ!」
「いやだ放して!!」
「あれに乗るんだー!!」
催眠状態にある子どもたちは激しく抵抗する。魔女はパンプキンの上からディアブロメンバーの行為を激しく糾弾する。
「ほーれ見ろ! 大人は敵だ! 大人はいつでも子どもの邪魔をする! 夢も自由もぜーんぶ、大人は子どもから奪っていく!!」
「あのおばあさんです!!」
ウィッチの言葉を聞き、セキュリティキーパーはSKバリアブルバレットで魔女を狙い撃つ。
――バチン!
「熱(あち)っ!!」
セキュリティキーパーからの一撃を食らい、魔女は一先ずパンプキンの中へと隠れる。
やがて、我を失い暴れていた子どもたちが催眠状態から解放され正気に戻った。
だがその直後。パンプキンの目が不気味に光ると、ゆっくりと地中に向かって沈み始めたのだ。
「逃げろ!! みんな逃げるんだ!!」
急いで子どもたちを連れ避難するメンバー。
魔女は数こそ少ないものの捕えた子どもたちとリリスを連れて、このまま異次元への逃亡を図ろうと思っていた。
「次元を移動するつもりなの!?」
「そうはさせないわよ!!」
ラプラスが迷わず前に出ようとするが、咄嗟にバスターナイトが止めに入った。
「まだ子どもたちが中にいるんだぞ!」
「だけどこのままじゃ!!」
バスターナイトが危惧する中で、パンプキン内に取り残されていたリリスはカプセルから辛うじて脱出する事に成功した。
大量の煙を吸った為に体が思うように動かない。フラフラになりながら床を這い、ベリアルリングが置かれた机に手を伸ばす。
どうにかリングを指に嵌める事が出来た。リリスは全身の力を振り絞り言霊を詠唱する。
「ダークネスパワー……プリキュア、ブラッドチャージ……!!」
すると突然、パンプキンの沈下現象が止まった。
何事かと思いウィッチたちが怪訝そうに見つめていると、キュアベリアルへと変身したリリスが巨大なパンプキンを持ち上げ、地面の底から上がって来たのだ。
「リリス様!!」
「リリスちゃん!! 無事でしたか!!」
無事なベリアルの姿を見て安堵するメンバー。魔女はパンプキンの口から箒に乗って脱出すると、地面に降り立ち激昂する。
「お・の・れ~~~!!」
業を煮やした魔女は巨大な黒いドラゴンに変身した。
怒りに燃える邪竜は黄緑色の炎を吐いてディアブロスメンバーを攻撃する。上手く炎を避けながら、ベリアルたちは魔女との最終決戦へと臨む。
「いくわよ、みんな!!」
「「「「「「「「はい(ええ)(ああ)!」」」」」」」」
四方へと散らばり、邪竜の攻撃を誘いながら攻撃の隙を窺う。
パワーはあるが巨体ゆえに小回りが利かないドラゴンは、豆粒ほどの小さなベリアルたちを直ぐに見失い、その逆にベリアルたちはドラゴンの懐へと入り込んで攻撃を仕掛ける。
「「「「「はああああああ!!」」」」」
五人の力を合わせて邪竜の体をひっくり返す。
邪竜は慌てて翼を広げて空へと逃げようとするが、オファニムモードとなったケルビムが放つ拘束技【ヘブンズバインド】によって行動不能となった。
「カイゼルゲシュタルト!!」
ベリアルはカイゼルゲシュタルトの力を解放する。
ケルビムが動きを封じているから、狙いを定め損ねる事無くゆっくりと攻撃が出来る。そしてタイミングを見計らい、ベリアルは必殺技を放つ。
「プリキュア・セブン・デッドリー・サイン!!」
空中で動けない邪竜へと放たれた七つの火球。
技の直撃と同時に邪竜の身を黒い炎が焦がし、キマイラやイグの時と同様に全身が灰燼となるまで焼き尽くしやった。
邪竜、もとい魔女が倒された事であの巨大パンプキンも自然消滅。パンプキン内に閉じ込められ夢を奪われていた子どもたちに本来の夢が戻り、真っ白だった顔は生気がみなぎるものとなった。
「みなさん、子どもたちです!!」
「無事に戻ったようね」
何とか子どもたちと、その夢を邪悪なる者の魔の手から救い出す事が出来た。
戦いを終えたメンバーは、昇る朝日を高台から望みながらふと思った。
「地球の宝ものが危うく盗まれるところだったわね」
「そうね。これからの地球の未来を作っていくのは、子どもたちの夢なんだもの」
「子どもたちの夢が地球の宝ものか……」
「じゃあ戻ったらたっぷり寝て、ベリーグッドなドリームをたくさん見ましょう!」
「そうもいかないわよ。戻れば学校っていうものが待ってるんだからね」
「うがぁ~~~!!」
実のところ眠り足りないでいたウィッチは、現実へと突き戻すベリアルの言葉に深く肩を落とした。
「はるかは夢を見る事すらできないなんて……しょんぼり……」
「夢を実現するためには、まず現実にぶち当たらないとな」
「朔夜の言う通りさ。君もプリキュアなら、その辺の覚悟を決める事だね」
「ハヒ~~~……」
次回予告
朔「どうしてこうなってしまったんだ!?」
ラ「なんでこうなっちゃったわけ!?」
朔「どうしてラプラスがオレの体で学校に行っている!?」
ラ「なんで朔夜があたしの体で炊事・洗濯と主夫仕事しちゃってるのよ!?」
リ「ディアブロスプリキュア! 『あべこべ関係!?オレがあたしで、あたしがオレ!?』」