ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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今回は朔夜とラプラスの入れ替わりネタです。
一度でいいから入れ替わりネタを書いてみたかったんですが・・・あんまりおもしろく書けた自信がありません。
とにかく二人が入れ替わるとどんな不具合が生じるのかを想定しました。それでは、37話をお楽しみください。


第38話:あべこべ関係!?オレがあたしで、あたしがオレ!?

東京都 黒薔薇町

 

 ピッカピカに輝く銀色の外車が止まる。車を運転している若い男性は、助手席に座る女性――ラプラスに対し申し訳なさそうに言う。

「ごめんね、家まで送ってあげられなくて」

「いいのいいの! 映画楽しかったわ、ヒロフミ君!」

 笑顔で言うと、ラプラスはシートベルトを外し車から降りた。そう、彼女は今の今までデートを楽しんでいたのだ。

「じゃねぇー、ヒロフミ君! バイバーイ!」

 ラプラスにとってデートとは、リリスと朔夜のような情熱的なものではない。娯楽の一環として楽しさを優先としたものだった。

 彼氏と別れた後、ハンドバッグ片手にスキップをしながら家路に向かい帰ろうとする。

「ん」

 すると、ふと周りにある建物に目が行った。よく見ると、【市立黒薔薇第一中学校】と書かれた校門があった。見た瞬間、そこが朔夜の通う学校である事に気が付いた。

「あぁ、やっぱり!! ここ朔夜の学校じゃない!」

 すると好奇心から、朔夜が居ないかどうか知りたくなって校門に手を添えると、何の躊躇いも無く校舎内を覗き始めた。

「あの子ったら、中学生らしく青春してるかしらね~~~」

 派手な格好をした美女が校舎の中を覗くという行為は誰が見ても異様である。自然と近づかぬようにと周りが意識的に避ける中、他人の目も憚らずラプラスは不審者ぶった行動をし続ける。

「そこで何をしているんですか?」

「え? ……げっ!!」

 後ろから声をかけられ振り返った途端、ラプラスは露骨に顔を歪め硬直した。

 目の前に立っていたのは彼女が最も苦手とするお巡りさん――ちょうどこの学区内を自転車で巡回していたのだ。

「失礼ですが、あなたこの学校とはどのような関係が?」

「えっと……!! あたしはただその……!!」

「真っ昼間から随分と派手な格好ですね。理由も無いのに校舎を覗いてるなんて怪しすぎる。ちょっと交番まで来てもらいますよ」

「ちちちちちがうちがうちがうっ!! あたしは本当にやましい事なんてなーんにもしてないからぁ!! 交番なんてぜっ――たい行きたくないんだから!!」

「だったら、何の目的で校舎を覗いていたか教えなさい。やましい事はしていないんでしょ?」

「してないしてない!! ぜ――ったいしてない!!」

 校門前でちょっとした口論に発展する二人。

 するとしばらくして、放課時間となった事で生徒たちが一斉に昇降口から出てきた。その中には朔夜もいて、ちょうど仲のいいクラスメイトを左右に挟んで談笑をしながら歩いてくる。

「それでさ、やっぱ俺の母ちゃんの作る弁当って作りすぎだと……おい何だよあれ!?」

「うっひょー、すっげーキレイな人だなー!! おれのタイプだわー。なぁなぁ、朔夜はどう思うよ?」

「え?」

 言われて校門の外に目をやる朔夜。友人たちが言っている美女を見ると、巡査からの事情聴取を受けかなりテンパっている様子だ。しかも遠目から見てもそれが自分の使い魔のラプラスであるという事は直ぐに分かった。

「なっ……なんであいつが?!」

 朔夜は反射的に口を開け呆然とした。

 ややこしい事になる前に急いでフォローに向った方がいいと直感。駆け足で校門まで走っていくと、巡査からの追及を受けるうちに涙目を浮かべるラプラスと巡査の間に割って入る。

「ま、待ってくださいお巡りさん!! これには事情が……おいラプラス、お前こんなところで何やってんだよ!!」

「あら朔夜っ!! ちょうど良かった、助かったわ!!」

「君、この人と知り合いかい?」

「ええまぁ。つまり、同居同一生計の親族でして……」

 取り繕った言い訳をする朔夜の目はやや泳いでいたが、ラプラスもそんな朔夜のフォローを無駄にしまいと必死で食い下がる。

「だ、だからさっきから言ってるでしょ! あたしはただ、かわいい息子の様子がちょーっと気になっただけなのよ!!」

「そんな話は今初めて聞きましたけど……」

「細かいことは気にしない気にしない気にしなぁーい!! あはははははは!!」

「全く調子の良いヤツめ……」

 いつもながら、ラプラスの打算的で疎放な性質には呆れるばかり。一瞬だが、朔夜は「どうしてこんなのがオレの使い魔なんだろう」…――と、内心割と本気で思ってしまった。

 

           *

 

異世界 洗礼教会本部

 

 ガシャン!! という花瓶の割れる音がする。堕天使ラッセルの仕業だ。彼女は怒りのボルテージや欲求不満が募ると、無性に何かを壊したくなるのだ。

「あ~~~もうっ!! ムカつくんだよぉ!!」

 自棄になった様子で、酒を飲んではあたりにあるものを手当たり次第に壊しまくる。が、それでも彼女の苛立ちは露聊(つゆいささ)かも鎮まらない。

「ホントにもう!! どうすればこのやり場のないイライラは収まるのかしらね……」

「荒れてますね、ラッセルさん。ひょっとして、ダイエットにでも失敗しちゃいましたか?」

 軽い冗談のつもりで居合わせたはぐれ悪魔――カルヴァドスが彼女の神経を逆撫でする様なデリカシーに欠ける事を言って来た。

 聞いた瞬間――目を剥いたラッセルは光の槍を手にして、カルヴァドスの喉仏に切っ先を突き付けた。

「カルヴァドス……あんたってどうしてそう無神経でいられるのかしら?」

「はははは。ラッセルさん、神経が通ってない生き物なんてこの世にいませんよ。いや、待てよ……センモウヒラムシっていう神経も筋肉も無い生き物もいたかな?」

「んなことは知らないしどうでもいいわ!! 人の揚げ足を取るなって言ってるのよあたしは!!」

「へへ。揚げ足ってどういう足ですかね?」

「そう言うのを揚げ足を取るって言うのよ!! 野〇し〇〇〇けみたいなこと言ってると、その喉今すぐに掻き切ってあげるわ」

 いたずらに敵愾心(てきがいしん)を煽るカルヴァドスの態度に、ラッセルの怒りがついに爆発。一刺しで悪魔を昇天させるという光の槍でカルヴァドスを刺殺しようとする。

 しかし、刺そうとした瞬間――それを止めた者がいた。

「なっ……!?」

 ラッセルも思わず目を見開き愕然とした。フードで素顔を覆い隠した暗殺部隊【神の密使(アンガロス)】の首領――アパシーは、ラッセルの槍の一撃を素手で受け止める。

「ちょっと!! あんたそこどきなさいよ、こいつ殺さないとあたしの気が済まないんだけど!!」

「心を鎮めよ……。さすれば視えなくなっている事も自然と視えてくるだろう……」

「あ、あたしが何を視えなくなっているって言うの!? 答えてみなさい、アパシー!!」

 意味深長な事を言うアパシーに再度問いかける。

 しかし、彼はそれ以上を言うことはなくその場から静かに立ち去ってしまった。そんな態度がラッセルには益々腹立たしく思えて仕方なかった。

「ああもうっ!! 全くどいつもこいつもムカつくわね……やっぱあんた十回くらい殺さないと気が済みそうもないわね!?」

 怒りの矛先は依然カルヴァドスへと向けられる。殺意を孕んだ鋭い瞳で睨まれる中、カルヴァドスは子どものような屈託ない笑顔を浮かべる。

「ボクを殺すのは構いませんけど、どうせなら憎い相手を殺す方がスッキリしませんか? 例えば、悪原リリスちゃん……とか?」

「ディアブロスプリキュアを? 確かに、あの子たちは憎んでも憎み切れないものがある。でも、今のあたしじゃあの子たちと真面に戦ったところで……」

 尊敬していた同じ堕天使のザッハを殺された事もあり、ラプラスはディアブロスプリキュア――キュアベリアルであるリリスをこの上もなく憎んでいた。だが冷静に考えても、今や彼女との実力差は天地を隔てるが如く拡がっている。真面に戦って勝てる相手ではない。

 状況をよく理解している。理解しているからこそ手が出せない。それがラッセルにはもどかしく、ストレスの原因となっていた。

 するとそんな彼女を見かねて、カルヴァドスが悪魔の囁きをした。

「ラッセルさん――ボクが手伝ってあげましょうか?」

「えっ?」

「ボクに任せてもらえれば万事オッケイです! 悪魔と相乗りする気、ありますか?」

 

           *

 

黒薔薇町 繁華街

 

 ひと悶着後にラプラスを伴い帰路へと就く朔夜。

 マイペースかつ破天荒な行動が多く見られるラプラスに、今日と言う今日はガツンと言ってやろうと彼は心を鬼にして言う。

「全くいつもいつももういつも……お前はなぜそうトラブルばかりを起こすんだ。今日の事だって正直に巡査に事情を話していれば、あんな面倒な事にはならなかったんだ。あの後、オレがクラスメイトたちになんと言って誤魔化したか分かるか?」

 と、尋ねるのだがラプラスからの返事はない。

「おい、少しはオレの話を聞いているのか!!」

 心ともなく怒鳴る中、横のラプラスは左手にあるスケジュール帳を確認しながら、右手のスマートフォンを操作していた。

「よし! これで明日のデートスケジュールはバッチリ! みんなに送信っと!!」

「え? みんなだって? デートは普通ひとりだろ?」

「ノンノン!」

 朔夜からの指摘に首を横に振る。人差し指を唇辺りに添えると、「ん~今週はちょっと少ないけど………十五人♪」とラプラスはとりわけ隠す事も無く言ってきた。

「十五股!? あり得ないだろ……」

「あらっ! デートは人生の大事な事を教えてくれるのよ。だ・か・ら……♪」

 楽しげな口調で語りかけると、ラプラスは朔夜の肩に腕を回し悪戯っぽい笑みを浮かべ言う。

「リリスちゃんとの事は……恋愛マスターのラプラスちゃんにおまかせー!」

「ふざけるな!」

 聞いた途端に朔夜はラプラスの腕を払い拒絶した。

「それこそあり得ない話だ」

「え~~~。遠慮は無用よ、どんと任せて!」

「死んでもゴメンだね!!」

 ラプラスに恋愛を指南されると今のリリスとの関係が崩れてしまうかもしれないというのが朔夜の抱く危惧だった。恋愛を娯楽の一種と認識するラプラスと、真剣な恋愛を希望する朔夜。両者の考え方は、まるで水と油だった。

 

「怪物が出たぞー!!」

 突如として周囲からそんな声が上がったと思えば、逃げ惑う人々が目の前から走って来るのが見えた。

 ハッとした表情となる二人。視線を前に向けると、はぐれ悪魔のカルヴァドスがカオスピースフルを伴い人々を恐怖させていた。

 逃げ惑う人々の波を掻き分け、朔夜とラプラスは前触れも無くこの世界に現れた敵を見据え身構える。

「貴様はっ……!!」

「いつかのはぐれ悪魔ね!! 名前は………えっと、なんだったかしらね?」

「カルヴァドスですよ。エレミアさん、モーセさん、サムエルさんたち三幹部に代わる新参者です。それはともかく、本当にボクの名前出ませんでしたか? 一応悪魔界じゃ結構有名なはずなんですけど……」

「そんな事はどうでもいい! この前はよくもオレの大切なフィアンセを苦しめてくれたな。リリスを傷付ける輩は、誰であろうとオレが容赦しない。元犯罪者のはぐれ悪魔なら、殺されても悲しむ者はいまい」

 鋭い瞳の奥に宿る明確な憎悪と殺意。温厚な悪魔騎士が人前で滅多に見せない負の感情。カルヴァドスも鬼気迫るものを感じた。

「いやぁ~~~参りましてねー。どうやらボクって相当嫌われているみたいだ」

「アタリ前よ!! 大体あんたみたいなクズ、好きになる奴なんかこの世のどこにもいないわよ!!」

「蓼(たで)食う虫も好き好きって言葉があるくらいですからね。探せばきっといますよ」

「いいや居ないさ、断言してもいい」

「どっちにしてもアンタはここであたし達二人に倒されておしまいよ!」

カルヴァドスとカオスピースフルに向き合う二人。朔夜は鞄を放り投げ、かけていた伊達眼鏡を外してから、左腕の裾をめくり上げて変身アイテム【バスターブレス】を取り出す。

「バスター・チェンジ!」

 右腕に装備されたバスターブレスに短剣を挿入し、朔夜は瞬時にバスターナイトの姿へ変身する。魔盾バスターシールドから剣を引き抜くと、鋭い切っ先をカルヴァドスへと突き付けた。

「辞世の句ぐらいは読ませてやろう。オレの婚約者に手を出した事を、もう一度冥界で後悔するんだな!」

「やれやれ。同じ悪魔のはずなのに、こんなにも敵意を向けられるのは……逆に嬉しくて仕方ないね!!」

『カオスピースフル!!』

 猟奇的な笑みを浮かべたカルヴァドス。次の瞬間、カオスピースフルを操りバスターナイトとラプラスへの攻撃を開始した。

 攻撃を避けた二人は左右へ展開。ラプラスはシロコウモリの姿となって空中へ舞い上がり、カオスピースフルに狙いを定める。

『ナスティ・ノイズ!』

 翼を羽ばたかせる事で生まれる特殊超音波。鼓膜を突き破り直接脳髄(のうずい)へと伝達される不快な音は強烈な耳鳴の如きもの。カオスピースフルはあまりの不快さに攻撃を中断するとともに、頭を抱え泣き叫ぶ。

「ダークネススラッシュ!」

 間隙、バスターナイトは動きが止まったカオスピースフルへと斬撃を叩き込む。

『カオス~~~!!』

 リリスたちが居なくても二人のコンビネーション能力は相当に高い。カオスピースフルをモルモット代わりに彼らの実力を観察していたカルヴァドスは素直な気持ちから拍手をし、これを称賛する。

「すごいすごい! 伊達にディアブロスプリキュアのメンバーだって事はあるよね。君たちのような見事なコンビネーションは早々見られるものじゃない」

 伊達にという言葉に二人は内心不愉快となる。リリス達と行動を共にするようになってから自分達は紛れも無くディアブロスプリキュアの一員として戦って来た。にもかかわらず、それをあたかも本物ではないかの如く繰り出される皮肉は耳障りであり、業腹でしかなかった。

『余裕ぶっこいてるようだけど、そうやっていつまでも御託並べてる暇なんてないからね!』

「次は確実に貴様を斬る――」

「もう~しょうがないなー。じゃあ、とっておきの使わせてもらおうかなー」

 軽い口調で言うと、カルヴァドスは仰向けになっているカオスピースフルを叩き起こし、そして……

 グサッ――。

「『な!?』」

 一瞬だが目を疑った。カルヴァドスはカオスピースフルの体に右腕を刺した。非常にグロテスクな光景を目撃し硬直するバスターナイトとラプラスを余所に、カルヴァドスの猟奇的行為の影響か、カオスピースフルに変化が見られた。

 全身から禍々しい紫色のオーラを放つと、肉体のあちこちから血管状のものが鮮明に浮かび上がり、顔つきもより凶悪なものへと変貌する。

『カオスピースフルっ!!』

 地上に轟く鬼気迫る咆哮。先程とはまるで雰囲気が異なるカオスピースフルを前に、バスターナイトとラプラスはあどけない表情のカルヴァドスを睨み付ける。

『ちょっとあんた……何したのよ!?』

「ボクの力の一部をコイツに分け与えたんだよ。気を付けなよ、どんな能力が付与されるか分からないからね♪」

『カオスピースフル!!』

 次の瞬間、カオスピースフルは両肩に出来た突起から前方のバスターナイト目掛けて透明な粘液を放出してきた。

『朔夜っ、危ない!』

「うわあああああ!!」

 直感で危険を悟ったラプラスは、咄嗟に人間態へと戻りバスターナイトを庇った。その結果、彼女とバスターナイトは一緒に毒を浴びてしまい階段を派手に転げ落ちた。

 だが不思議な事に、二人に特別異常は見られなかった。これにはカルヴァドスも拍子抜けだ。

「あっれ? 溶けてないや。と言う事は今のは溶解液じゃなかったのかな……まぁいいか♪ どっち道生け捕りにしないと、あとでラッセルさんがうるさいしね」

 元よりカルヴァドス自身この二人を斃すつもりは無かった。生け捕りにしたところをラッセルの元へ連れ帰る――それが今回の任務である。

 転倒時のショックで起き上がるのが遅くなっているバスターナイトとラプラス。その隙にカルヴァドスはおもむろに近づいていく。

「ファイア!」

 バンバン!! と、前触れも無く飛んで来た銃弾。それがカルヴァドスへとヒットし、身体から火花が散った。

「熱(あち)っ! なんだよもう~」

 すると、異変に気付いたディアブロスプリキュアのメンバーが応援に駆け付けて来た。バスターナイトたちは命拾いをした。

「サっ君、遅くなってごめんなさい!!」

「ラプラスさんも大丈夫ですか!?」

 ベリアルとウィッチがカオスピースフルの毒を浴びた二人を気遣うと、バスターナイトとラプラスは重い体をゆっくりと起き上がらせる。

「ああ。何ともない……」

「ぜんぜん平気よ!」

「あ~あ……お仲間さんの登場か。ダメだよ、そんな都合よく駆けつけちゃ…リアリティに欠けるじゃないか」

 と、落胆するカルヴァドス。ケルビムはそんな態度が気に入らず、「ふざけないで!!」と怒号を発し、セキュリティキーパーに至ってはバリアブルバレットの銃口を向けて来た。

「はぐれ悪魔カルヴァドス……いつかの決着をここで付けて上げよう」

 敗戦の悔しさから今日この場で雪辱を果たそうと考えるセキュリティキーパー。しかし、当のカルヴァドスはそう言ったやる気は欠片も見られなかった。

「燃えてるところ悪いんだけど、ボクって気分屋だからさ……ちょっとでも予定が狂うともうその時点で興醒めなんだよね。悪いけどさ、この続きはまた今度にしよう」

 言うと、カオスピースフルを連れてカルヴァドスは亜空間の中へと消えてしまった。

「あ……ちょっと!!」

「逃げられましたね」

「何だったのよあいつ!?」

 何をしにわざわざ人間界にやってきたのか、ベリアルたちにはカルヴァドスの意図する事がまるで理解できなかった。

 

           *

 

異世界 洗礼教会本部

 

「生け捕りに出来なかったってどういう事よもう~~~!!」

 収穫ゼロで本部へ戻って来たカルヴァドス。この結果に対し、ご立腹のラッセルはカルヴァドスを咎め糾弾する。

「これでも一生懸命頑張ったんですけどね……。なんか調子が狂っちゃったっていいますか、いまいちモチベーションが上がらなかったといいますか」

「言いわけなんて聞きたくないわよ!! アンタはあたしのイライラをさらに高めてどうしたいの? ひょっとして、猟奇的な殺人悪魔はついに猟奇的な自滅を求めるようになったのかしら?」

「別に失敗なんてしてませんよ。カオスピースフルが放った毒にはちょっとおもしろい仕掛けがあるんです」

「おもしろい仕掛け?」

「今に分かりますよ♪ もっとも、当人たちにはどうなるかわからないってついウソついちゃいましたけど」

 

           ◇

 

黒薔薇町 十六夜家

 

 午前六時。いつものように十六夜朔夜は起床する。だが……

「うう……」

 起きた途端、身に覚えのない頭痛に襲われる。おまけに吐き気も若干ある。頭を抱えながらおもむろに体を起こす。

「なんなんだ……この頭痛と吐き気は?」

 ひとまず用を足しにトイレへと向かう。階段を下る際、朔夜は違和感を抱いた。

「妙だな……ものの見える高さが増している気がする。気のせいか」

 いつも見ている光景なのにどこか見える位置が異なっているような感覚が否めない。多分寝ぼけている所為だろうと内心決めつけ、トイレへと入る。

 そして、入って間もなく……

「ああああああああああああああ!!」

 寝ぼけも一瞬で吹き飛ぶほどの絶叫が上がった。

 バタンと勢いよく扉を開けた朔夜は何故か鼻元を手で覆い隠し、急いで洗面所へと直行する。

「どうなっている!? なぜ昨日まであったものが突然なくなっている!!」

 等と言いながら洗面所の鏡を見る。瞬間、朔夜は言葉を失くした。

 鏡に映っていたのは十六夜朔夜という少年ではなく、その使い魔ラプラスの人間態だったからだ。

「へ…………?」

 性質の悪い夢でも見ているのだろうと、朔夜は一旦頬を抓る。

「痛(いて)っ!」

 だが、夢ではないらしく明確な痛みがあった。そして、恐る恐るパジャマの上から胸元に手を当てる。そこには昨日までの朔夜であれば持っていなかったものがあった。

「ラプラスっ!! 起きろ!! すぐに起きるんだ――!!」

 甲高い声で朔夜が叫ぶ。しばらくすると、何ひとつ事情を知らないでいるラプラスが二階から降りて来た。

「ふぁぁ~、何よ朝っぱらからうるさいわね……せっかく良い夢見てたっていうのにもう~」

 大あくびを掻きながら洗面所へ行ってみると、眼前には本来の姿でありながら中身は朔夜である自分が立っていた。

「……へ?」

 ラプラスは一瞬目を見開き言葉を失った。しかしその後、あからさまに現実の出来事を無視しようとする。

「……まだ昨日のスピリタスが抜けてないみたいね。もうひと眠りしようっと~」

「現実を直視するんだっ!! 今のお前はオレなんだぞ!!」

「エエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 盛大な悲鳴を上げるラプラス。声は勿論朔夜のものだった。

「ある!! ない……!! ある……!! ない~~~!!」

 何度も何度も自分の胸と股間にあるものをチェックする。

しかし、幾度確認したところで、それが朔夜の肉体である以上あるものとないものが明確だ。ラプラスは今一度鏡を見、今の自分が間違いなく朔夜の姿であると認識せざるを得なかった。

「やっぱり朔夜と入れ替わってる……背もちっこくなってる!!」

「悪かったな背が小さくて……これから伸びる予定なんだ!!」

「もうイヤよあたし……こんなちっこくて股に変なものがぶら下がってる男の体なんて~~~!!」

「卑猥な表現を使うな!! それにオレだってこんな体気持ち悪いよ!!」

「何ですって!? あたしの体のどこが気持ち悪いって言うのよ!?」

「ああいや……そう言う意味じゃなくって」

 思わず感情が高ぶり、勢いよく胸ぐらを掴むラプラス。朔夜も少々言い過ぎたと内省しながら苦い顔を浮かべる。

「でもどうしてこんなオカシな事に?」

 問題はそれだ。何が原因で一晩のうちに二人の体と魂が入れ替わってしまったのか。思い当たる節は無いか熟考すると、二人はほぼ同じタイミングで悟ったのだ。

「ひょっとすると、昨日のカオスピースフルの毒液を浴びたからか!!」

「それであたしと朔夜の魂が入れ替わっちゃったの!?」

「恐らくは……ん?! という事は、さっきからオレの頭がガンガンするのはまさかお前の二日酔いか!?」

「ああ多分ね……。昨日は結構飲んだから」

「あれほど飲み過ぎるなって散々言ってるじゃないか!! そう言えばスピリタスがどうとか言っていたな? アルコール度数九十六もある酒をジュースみたいに呑みやがって、どうしてくれるんだ!!」

「どうしてくれるんだはこっちのセリフよ!! 誰もこんな王道パターン、望んでないわよ! 何でもいいから元に戻してよ! あたしの体を戻してよ! さぁ、早く!!」

「オレだってそうしたいよ!! あっ、ダメだ……気持ち悪いっ」

 大声で怒鳴り続けていた折、急激に襲って来た吐き気に耐えきれなくなった朔夜は洗面所へ直行。苦しそうに嘔吐する朔夜、もといラプラスの背中をさすりながら朔夜の姿を借りたラプラスは問い質す。

「ねぇ、こういうのって魔法薬で何とかならないの?」

「うぅ……カオスピースフルによって生じた事態だ。これに効く薬など無い」

「そんなぁ……」

 こんな事態に陥った事にラプラスは愕然とする。

「……やむを得ない。こうなったら彼に頼むしかない」

 そう言うと、朔夜は険しい表情を浮かべながら重い腰を起こし、悲壮な表情のラプラスを引き連れある場所へ向かう事にした。

 

           *

 

黒薔薇町郊外 ベルーダの洋館

 

 二人が向かったのは、ベルーダの館だった。ディアブロスプリキュアの数少ない支援者であり、これまで奇怪だが役に立つ発明をしてきた彼ならば、元の身体に戻すことが出来るかもしれない――そんな一縷の望みを抱き、足を運んだ。

「ほほぉ~……これはまた、実に興味深い話よのぉ~」

 ベルーダは早速中身が入れ替わった二人をじっくりと観察。嬉々として二人を凝視する様はかなり異様であり、ラプラスは居心地が悪いのか朔夜の身体で鳥肌を立てていた。

「ふむ……入れ替わりネタは比較的イージーかつ鉄板ではあるが、近年ではそのパターンが王道過ぎるがゆえに逆に新鮮味がなく敬遠されてがちじゃ。最近の視聴者は目が肥えとるからな」

 と、至極どうでもいい話をしだすベルーダに沈黙していたラプラスは我慢の限界に達した。胸倉を掴み上げ、勢いよく怒鳴りつける。

「んなことは聞いてないのよ!! なんでもいいからあたしたちの身体を元に戻してちょうだい!!」

「落ち着けラプラス、冷静になれ!」

 興奮したラプラスを落ち着かせるとともに、朔夜はラプラスの姿で真摯にベルーダを見つめ、深く頭を垂れる。

「頼むドクターベルーダ。頼れるのはあなただけなんだ」

「ふふ……。無論、天才科学者であるワシの手にかかれば主らの肉体と精神を入れ替える事は造作もない」

「本当に!?」

「だったらさっそく……!」

 しかし、そんな束の間の喜びを露にした二人にベルーダは不敵な笑みを浮かべ、言葉を付け加える。

「じゃがのう、ただでとはいわんぞ。手術にはそれ相応の費用がかかるでな」

「あ、あんた……! 人の足元見て……!」

 この期に及んで手術費用を捻出する様求めてくるマッドサイエンティストの言い分に、ラプラスは再び身を乗り出しベルーダを掴みかかろうとする。

 しかし、それを朔夜はすんでのところで抑え、思念通話で訴える。

(ラプラス、耐えるんだ)

(くぅ……わ、わかったわよ!)

 癪な話だがベルーダの力を借りない限り、元の肉体に戻る事は不可能だった。不承不承だがラプラスは仕方なく大人しくする事にした。

 やがて、気を取り直して朔夜がベルーダと話を進める事にした。

「……存じています、ドクターベルーダ。オレ達もそこまで図々しくありません。ここはお互いにビジネスライクでいきましょう」

「さすがは朔夜じゃな! 話が理解できてなによりじゃ」

「それで、費用はどれくらい出せばいい?」

「うむ……そうじゃな。安く見積もって」

「見積もって?」

 背中に手を回し、しばし考えた末――ベルーダが提示した金額は二人の想像を絶するものだった。

「手術料は五千万円じゃ!」

 聞いた瞬間、二人の思考が一時的に停止した。

 しかし数秒後、我に返った瞬間――二人はあまりに法外な治療費を請求する目の前のマッドサイエンティストに対してこの上もない怒りがこみ上げ、堪えていた感情が一気に爆発した。

「「ふざけるなぁー!!」」

 気が付くと、二人は怒号を発するとともにベルーダの事を殴りつけていた。その勢いはすさまじく、ベルーダは窓ガラスを突き破って館の外へ吹っ飛んだ。

 

           *

 

黒薔薇町 十六夜家

 

 小一時間後、何の成果も得られぬままベルーダ邸より帰宅した二人は、椅子に腰かけるや互いに深い溜息を吐く。

「あたしたち……これからどうすればいいのよ?」

と、切実な思いを口にするラプラス。朔夜としても戻る手段が分からない以上「オレに聞くな」と返すしかなかった。

「あ、そうだ!!」

 不意に何かを思い出したラプラスは、小走りで階段を上って行ったと思えば、部屋から何かを持ち出し駆け降りて来た。

「朔夜、悪いけどこれお願いっ!!」

 そう言って、体の入れ替わった朔夜に手渡したのはぶ厚い白色の手帳だった。

「なんだこれは?」

 未だ続く頭痛に悩まされながら、恐る恐る手帳の中を改める。見れば、カレンダーにはぎっしりと予定が書きこまれていた。しかもそれに加えて、ラプラスがこれまでに知り合った若い男性の名前や性格、職業などが事細かく整理されていた。

「今日のあたしのデートスケジュールと、データ。みんな、あたしの大事な王子様だからよろしくお願いね!」

「王子様だって!? お前なぁ状況分かってるのか? そんな場合じゃないだろ! だいたい普段ずぼらなお前がよくまぁこれだけまめに……適当に理由付けて今日は全部断ったらどうだ?」

「ダメダメ! 申し込まれたデートは必ず受ける! これがあたしの恋愛ルールなの!」

「はぁ?」

 朔夜にはまるで意味が分からなかった。デート手帳片手に困惑する彼を見かねると、ラプラスは彼の両肩に手を添える。

「その代わり、学校にはあたしが行ってあげるから……安心して!」

「な……それだけは止めろぉ!!」

「何よ~ケチくさいわね! あたしだってほんとはデート行きたいんだからね! あたしが我慢してるんだから、あんたも我慢しなさい!! 等価交換よ!

「ぐっ……」

 何が等価交換だよ!? と、心の中で声高に叫びあげたい朔夜だが、他にどうする事も出来ない以上受け入れざるを得なかった。

 

 結局、朔夜はラプラスの代わりに多人数の男とデートする事になった。待ち合わせの場所に到着した時にはもう、彼の心は萎れていた。

(あ~もう……リリスならともかく、男のオレが同じ男とデートだなんて屈辱だ!)

 等と思っていたその時。後ろから肩をポンと叩かれた。

「うわアアアアア!!」

 唐突な事に朔夜は声が裏返るほど驚いた。

「お待たせ……ラプラスさん?」

 振り返ると、最初のデート相手と思われる軽い感じの男が怪訝そうに話しかけて来た。

「ああ……こんにちは!! えーっと……!!」

 急いで手帳をパラパラとめくり、名も知らぬ男のデータを確認する。普段雑なイメージなラプラスだが、デートをする相手の男性に関してはプリクラを貼って事細かくデータを作り上げていたから調べるのに苦労はしなかった。

「た、た、タカアキさんでしたっけ?」

「はは。何言ってんだよ。で、どうする? お茶でも行く?」

 肩に手を乗せられると、朔夜は反射的に苦笑いを浮かべる。

「おほほほほほ……おまかせしますわ!!」

 

 一方、ラプラスは朔夜の代わりに学校へと向かった。

「よう朔夜!」

「おっはよう♪」

「おう……おはよう」

 いつもと違う朔夜のテンションに男子生徒も戸惑いがちだ。

(男子校なんて初めてだから楽しい~~~♪)

 普段なかなか体験する事が出来ない学生ライフに若干ノリノリな様子で、スキップをしながら廊下を移動する。

(あ、トイレトイレ!!)

 不意にもよおしてきた。そのままトイレに入ったのだが、ラプラスはここで思わぬアクシデントに遭遇する。

「って……」

 ここが男子校であるという事にもっと注意を払うべきだったと後悔する。男子が用を足す際の小便器の使い方をラプラスは知らない。おまけに個室は別の誰かが使っていて満室。使い方も知らぬ小便器を前に、ラプラスは呆然と立ち尽くす。

(男子トイレの使い方聞いてくるの忘れた~~~!!)

 

 波乱に満ちた学校ライフを送るラプラスとは対照的に、朔夜はタカアキと喫茶店でお茶を楽しんでいる、はずが――

「やぁ~あれ良かったよねー! ラプラスさんも気に入ってくれたかな? あ、それでさ! この間いいレストラン見つけたんだよ!」

 タカアキは一方的に自分の話を捲し立てるばかりで、聞いてる朔夜としては苦痛であり耳が痛かった。

(あ~……何なんだ一体。この男、さっきから一人でしゃべり続けて何が楽しいんだ……オレならリリスにこんな不愉快な思いはさせない)

 聞いてるのも嫌になるが、下手な会話は災いの元になると思い、朔夜はコーヒーを飲みながらひたすら聞き役に徹する。

 するとこれを不審に思ったタカアキが、ラプラスの前で手を振って来た。

「どうしたの? 今日は随分と静かだね」

「そ……そ、そうかしら……おほほほほ///」

 自分でもこんなに演技が下手だったとは知らなかった。とにかく何とかこの場を乗り切る事が朔夜にとっての最重要使命だった。

「ラプラスさん!」

「ぶっ!」

 突然誰かに名前を呼ばれ、朔夜は含んでいたコーヒーを盛大に吐いた。

 すると、タカアキとは対照的な理知的な雰囲気を醸し出す好青年が目の前に現れた。

「ラプラスさん!」

「君は誰だ?」

 何も知らないタカアキは率直な事を尋ねる。

「僕はラプラスさんの彼氏だ!」

「何だよ急に俺だってラプラスさんの彼氏だよ」

「そんなわけないだろ!」

「何なんだよお前急に押しかけてきて……!」

「いいから帰りたまえ!」

 突然の事態に狼狽がちな朔夜。揉み合いになる二人の男たちを前に急いで手帳を広げ調べると、この場に現れた男に関するデータが克明に記録されていた。

「ヒロフミさん……って、ことは……!!」

 そう――所謂修羅場だ。どうやら慣れない体と不本意なデートへのストレスからデートスケジュールを管理し切れていなかったらしく、次のデート相手であるヒロフミが痺れを切らしてやって来たのだ。

 決して鉢合わせてはいけない者同士を鉢合わせてさせてしまった事から朔夜は責任を抱く。

 直後、ヒロフミが「ラプラスさん!」と名前を言って、固くその手を握りしめて来た。

 中身が入れ替わっている事など何も知らないヒロフミは、朔夜を真剣な眼差しで見つめながら言って来る。

「ラプラスさん! 君には何人ものボーイフレンドが居るのは知ってる」

「ちょ、どけって!」

「君にとって僕は大勢の中のひとりかもしれない。でも、僕にとってラプラスさんはただひとりの人なんだ!」

「キミ何を今更! オシャレじゃないね!」

「僕を君の、たったひとりの王子様にしてくれ!!」

 遊びでデートを楽しむラプラスとは異なり、ヒロフミの恋愛は真剣そのものだった。この熱い思いにシンパシーを感じた朔夜は……

「――そうですよ。本当にその通りだ!」

「え!?」

「じゃあ!!」

「うん――」

 驚愕するタカアキと嬉々とした笑みを浮かべるヒロフミ。直後、朔夜は結論を導き出す。

「私は――――……」

 

           *

 

黒薔薇町 繁華街

 

 どうにか一日が過ぎた。学校帰り、朔夜の体に入ったラプラスはリリスたちと待ち合わせをし、諸々の事情を話した。

「はぁ~……男の体ってのも案外疲れるわねー」

「でもまさかサっ君とラプラスさんが入れ替わるなんて……」

「大丈夫ですか朔夜さん?」

「あたしはラプラスよっ!」

「ハヒ! すいません、つい……」

「ところで、本物のイケメン王子はどうしたんですか?」

 レイが不思議がって尋ねると、「あの子ならあたしの代わりにデートに行ってるけど……」と、タピオカジュースを飲みながらラプラスは答える。

「デートって……まさか男の人と!?」

「そんな~~~……サっ君が男色に目覚めちゃったの!!」

「落ち着きなさいリリス。彼に限ってそんな事……いや、あるかもしれないわね」

「って、あってたまるもんですか――!!」

 テミスの不用意な発言はリリスを激怒させた。というか、朔夜が男色に目覚める可能性が必ずしもゼロではないとテミスは内心思っていたらしい。

 気が付くと、恐ろしい形相を浮かべたリリスがテミスの胸倉を思い切り掴みかかった。

「テミスっ!! あんたやっぱりそっち系の趣味があるんでしょ!? さては『サっ君攻め』とか、こっそり妄想してるんでしょ!?」

「違うわよ!! LGBT問題には関心はあるけど、私は断じて腐女子じゃなんかじゃないから!!」

 変な言いがかりを付けられたうえ、公衆の面前で大声を上げる天使と悪魔の少女二人に周りの目が自然と向けられる。

「リリスちゃん、テミスさんもやめましょうよ! 見ているこっちが恥ずかしいですよ!」

「どうか落ち着きましょう!」

 口論する二人を何とか止めようと、はるかとクラレンスが慌てて間に入る。

「やれやれ。BLでも総受けでもどっちでもいいじゃない」

「よくありません! だいたい元はと言えばご婦人が事態をややこしくしたようなものじゃないですか!?」

 ラプラスは二人が喧嘩する傍らでさも無関心な態度を取る。これにはレイも声を荒らげ、朔夜の姿でタピオカジュースを飲む彼女を叱咤した――そのとき。

 

「ん?」

 不意に空が暗くなった。何事かと思い頭上を見上げると、赤い稲光が奔り亜空間が発生した。

「あれは!!」

 全員が目を見開き亜空間を注視する。しばらくして、堕天使ラッセルとはぐれ悪魔カルヴァドスが例のカオスピースフルを伴い人間界に降りて来た。

「おーほほほほ!! 私は堕天使のラッセル! あんた達に特別恨みはないけど、この世界を滅茶苦茶にしてあげるわ!!」

『カオスピースフル!!』

 ラッセルらの出現に恐れ戦き悲鳴を上げる住人達。

 カオスピースフルは、恐怖する人々に例の毒液をまき散らし、無作為に肉体と魂とを入れ替える。

「きゃあああ!! 何よこれー!!」

「オレの体が~~~!!」

『やだこれ犬じゃないの!?』

 不幸にも動物の体と精神が入れ替わる者まで現れた。この混沌とした状況を前に、カルヴァドスはひとり楽しんでいた。

「ははは。これは思った以上におもしろいですね♪」

「確かにこれならあの憎たらしいプリキュアを倒すのも目じゃないかも……さぁ出てきなさいプリキュア!!」

 

 ――バンバン!!

「痛い!!」

 突然の銃撃だった。ラッセルの願いとは裏腹に、真っ先に現場へ駆けつけたのは洗礼教会対策課とセキュリティキーパーに変身した春人だった。

「テロリストは正義の名のもとに僕が断罪する」

「やれやれまた彼か……。ラッセルさん、彼は僕に任せてください。暇つぶしがてらにちょっと遊んであげますよ」

 言うと、カルヴァドスはセキュリティキーパーの方へと向かっていき、両方に刃が付いた身の丈を超える巨大な武器【魔戦斧(ませんぶ)アドラメレク】を召喚――勢いよくそれを振り降ろす。

 カキン、という金属音が鳴り響く。咄嗟にSKメタルシャフトで攻撃を受け止め捌いたセキュリティキーパーはカルヴァドスと熾烈な戦闘を繰り広げるのだった。

『カオスピースフル!!』

 そうこうしている間にもカオスピースフルは人々の魂を無作為に入れ替え続ける。ディアブロスプリキュアのメンバーも順次駆けつけ、眼前の敵を見据える。

「あいつはあたしと朔夜の魂を入れ替えた奴だわ!!」

「あいつがサっ君とラプラスさんを!?」

 するとそこへ、漸くデートを終えた朔夜が現場へ到着した。

「遅れてすまない!」

「えーっと……ラプラスさんの体だけど朔夜さん、ですか?」

 念のため、はるかは間違わないように確かめてみる。

「すまないな、ややこしい状況で。だが、あのカオスピースフルを倒せばオレたちの魂は元に戻る!」

「みんな行くわよ!」

 

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「シャイニングパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」

「不浄を焼き払う聖なる光! キュアケルビム!」

「偽りの善幸を根絶やし!」

「邪な悪行を断罪する黒き力!」

「我ら、悪魔と魔女、天使のコラボレーション!!」

「「「『ディアブロスプリキュア』!!」」」

 

「って……サっ君!?」

「何をしているのだ、イケメン王子! 早く変身せぬか!」

 いつもなら変身をして決め台詞と決めポーズを取っているはずが、今日に限って朔夜が変身できない状況だった。同様にラプラスも戦闘時のシロコウモリの姿になれない。

「ダメだ! 身体と精神が入れ替わっているせいで、変身が出来ない!!」

「そんな~~~!!」

「おーほほほほ!! 実に無様ね」

 この二人の状況を嘲笑いながら、堕天使ラッセルがベリアルたちの前に姿を現した。

「あんた達はそこで指を咥えて見ていなさい。この子たちを嬲り殺した後で、あたしがゆっ~くり甚振ってあげる」

「そうはさせないわ!!」

 と、ベリアルたちが身構えた瞬間。

『カオスピースフル!!』

 カオスピースフルが唐突に飛び出し、両肩の突起から例の毒液を吐いたのだ。

「「「きゃああああ」」」

「「「うわああああ」」」

「しまった!!」

「リリスちゃん! みんな!」

 透明な毒液を浴びてしまったベリアルたち。その結果、ベリアルたちもまた朔夜とラプラス同様のややこしい事態へと陥った。

「もう~なによこれ……え!?」

「は、ハヒー!! これはまさか……!!」

「私たちまで身体と精神が入れ替わってる!?」

 ベリアルはピットに、ピットはウィッチ、ウィッチはレイ、レイはケルビム、ケルビムはクラレンス、そしてクラレンスはベリアルの体に入れ替わってしまった。

「おーっほほほ!! なんて哀れなのかしら!! さぁ、今日と言う今日こそ年貢の納め時よ!! ディアブロスプリキュア!!」

『カオスピースフル!!』

 ラッセルはカオスピースフルと力を合わせ、肉体と精神が入れ替わったが為に力を発揮出来ないでいるベリアルたちを徹底的に甚振った。

「「「きゃあああああああ」」」

「「「のああああああああ」」」

 こんな状態ゆえに真面に戦う事すらできないベリアルたちは良いようにされるばかり。ラッセルはこの上も無くいい気分だった。

「おーっほほほほ。とっても無力なものを甚振るのも嫌いじゃないのよね、あたし」

(まずい……このままでは)

 どうにかしないといけない。朔夜は必死で策を考えるが、生憎と何もアイディアが浮かんでこない。

「さぁ、これで止めよ!!」

 十分に甚振ったところで、ラッセルは最後の一撃を加えようとした――次の瞬間。

「はあああああああ!!」

 朔夜の肉体のまま、ラプラスが唐突に走り出した。

「ラプラス!!」

「こんのアバズレがっ!!」

 身軽な朔夜の肉体を使って、ラプラスはラッセルの顔面目掛けて勢いよく飛び蹴りを叩き込んだ。

「いった~~~……!! 何すんのよアンタぁ!!」

 怒りに燃えるラッセルは、光の槍でラプラスを貫こうとする。

「だああああああ!!」

 しかし間一髪のところで朔夜がラプラスを護り、事なきを得た。

「熱くなり過ぎだぞ!」

「朔夜はナイスフォローね!」

「あんた達……いいわよ、二人まとめて地獄に落としてあげる!」

 怒髪を衝くとともに、ラッセルは光の槍を携えベリアル達よりも先に、朔夜とラッセルの二人を始末しようと思い至り特攻する。

「サっ君!!」

「ラプラスさんも逃げて!!」

 絶体絶命のピンチ。狂気の瞳でラッセルが朔夜とラプラス目掛けて突っ込んできた、次の瞬間――。

 

 ――バキュン。

「「うわあああああ!?」」

 不意に何処からともなく光線が飛んで来たと思えば、光線は朔夜とラプラスへと向けられた。その一撃を浴びた二人は互いの体を密着させ回転する。

「「あれ!?」」

「な、なんですって!?」

 気が付くと、入れ替わっていた二人の精神と肉体が本来あるべき形に戻っていた。

「ある! ある! ……ない!!」

「元に戻ったのか?」

「どうして!? どうしてよ!!」

 なぜ二人の精神と肉体が突然元に戻ってしまったのか。ラッセルは困惑と焦燥を隠し切れない。そんな中、ピットの体に一時的に魂が移動していたベリアルが光線が放たれた方向へ目を向けると、意外な人物がいたことに気付いた。

(あれは……!?)

 そこにいたのはベルーダだった。彼は入れ替わった朔夜とラプラスを元に戻した直後、静かにその場を立ち去った。

「この際理由はなんでもいい。いくぞ、ラプラス!!」

「オッケイ!!」

「バスター・チェンジ!」

 元の体に戻って早々、朔夜はバスターナイトへと変身。ラプラスもシロコウモリの姿に変身すると、怒涛の反撃を開始した。

「エントリヒ・アーベント!!」

『ブラスト・ウィング!!』

「『きゅああああああ(カオスピ~~~)!!』」

 形勢が一気に逆転した。朔夜とラプラスは抜群のコンビネーションを発揮して怒涛の如く勢いで敵を追い詰める。

「これで止めだ」

 そう言ってラプラスと合体したバスターナイトは、上空高く舞い上がるとともに、地上のカオスピースフル目掛けて必殺技を叩き込む。

「〈ダークナイトドライブ〉!!」

 

 ――ドンッ。

『「あんびり~ばぼ~~~♪』

 見事に決まったダークナイトドライブ。カオスピースフルが浄化された事で全ての人々の魂が元の肉体へと戻った。

 結果は洗礼教会の惨敗だった。負けたと分かった途端、カルヴァドスはセキュリティキーパーとの戦闘を中断し、亜空間へと逃げ込んだ。

「この続きはまた今度ね♪ じゃねー!」

「……」

 前回に続いて後味の悪い結果だと、セキュリティキーパーは内心思いながらいつか必ずカルヴァドスを仕留めてやると、決意を新たに両手の武器を強く握りしめるのだった。

 

 どうにか窮地を乗り越える事ができた。

 暮れなずむ帰り際、ラプラスは朔夜に気になっていた事を尋ねる。

「ところで朔夜、今日ちゃんとデートしてくれた?」

「あぁ。その事か」

 ラプラスの代行として何人もの男性とデートをした朔夜は、今日の結果を具(つぶさ)に報告する。

「色々遭ったんだが……」

「うんうん♪」

「別れて来た――」

「あらそう良かったわ! ……ん? 別れた……?」

「ああ。全員とな」

 聞いた瞬間に変な間が空いた。

 やがて、我に返ったラプラスは悲壮に満ちた表情となりあまりのショックに金切声を上げるのだった。

「ひえええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 

 

 

 




次回予告

テ「またまたあいつがやってくる!! 人の心を蝕む死神のようなあいつが!!」
は「テレビ局を襲撃した根源破滅教団とは!? そして、その教祖と春人さんの因縁とは何か…!?」
リ「ディアブロスプリキュア! 『破滅の交響曲!悪魔の種、芽吹く時!』」
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