ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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キュアベリアルの変化にご注目ください。


第4話:秘めたる力!!グラーフゲシュタルト!!

黒薔薇町 悪原家

 

 鳥のさえずりが告げる早朝。今は亡きヴァンデイン王の娘・悪原リリスはただいま寝室で熟睡中。

 スースーという息を立て、ドレスのようなパジャマに身を包んで気品を感じさせる寝姿は彼女の育ちの良さを映し出していた。

 午前六時五〇分。いつもなら使い魔のレイが彼女を起こしに来るのだが、今日に至ってはどこか様子が違っていた。

「リ、リリス様――っ!!」

 部屋の外から甲高い声が響き渡る。一瞬にして居心地の良い夢から不快な現実へと連れ戻されたリリスは眉間に皺を寄せながらゆっくりと覚醒し、身を起こす。

 直後に人間態のレイがバタンと乱暴に戸を開け、ベッドの中のリリスへ呼びかけた。

「リリス様!! 一大事にございます!! リリス様!!」

「うるさいっ!」

 寝起きの彼女は大声を上げるレイに容赦ない制裁として顔面にグーパンチを決め込んだ。

「ごべっ!」

 主の無慈悲な鉄拳を食らいひっくり返るレイに対し、リリスは心底不機嫌そうに寝癖のある髪を片手で押さえつつ、もう片方の掌に魔力を圧縮させる。

「朝から大声でぎゃーぎゃーと……私の貴重な睡眠行為を妨げる愚者にはきついお灸が必要なようね……」

 背中から悪魔の翼を生やし、鋭い睨みで自らの使い魔を睨み付ける。レイは冷や汗をかきながら、後ずさり気味に弁明する。

「リリス様! ど、どうか私の話を聞いてくれませんか!? 今朝の新聞の一面 にこんなものが!!」

 そう言ってレイが差し出したのは今日の朝刊。不思議に思いながらレイから新聞を受け取ったリリスは彼が朝からなぜ大騒ぎをしていたのか、その理由を知るのだった。

「あ……あああああああああああああああああああああああ!!」

 悲鳴にも似たリリスの叫びに窓際に留まっていた小鳥たちは驚き、一斉に飛び立った。

 新聞の一面にびっしりと掲載されていた昨日の戦いの記録。見出しには『プリキュアと巨大ドラゴンが東京の街を徘徊!!』と書かれ――キュアベリアルとなったリリス、真の姿へと戻ったレイの姿がデカデカと写真付きで載っていた。

 

           *

 

私立シュヴァルツ学園 二年C組

 

「『都市伝説として語り継がれていた謎の戦士・プリキュアと関連性の深いと思われる正体不明のドラゴンが突如東京の黒薔薇町に出現。数分間を滑空したのち忽然と姿を消失した…』」

 学校に行くと、生徒のほとんどがこの話題で持ちきりであり、クラス中が「プリキュアってやっぱいるんだな!!」「あたしプリキュアに会 ってみたい!」と憧れや身勝手な願望を口にする者でいっぱいだった。

 不注意にも新聞の一面に写真が載ってしまったことを激しく後悔するリリスは新聞を読むはるかの側で机に突っ伏し意気消沈していた。

「えーと……『日本政府は緊急会合を開くとともに、プリキュアと今回観測された巨大なドラゴンの脅威に備え警戒を強める模様。またそれに先立って、警視庁ではプリキュアによってもたらされる物理的被害に対処するための特別な部署を設けることも検討している』……ハヒ!! これってすっごくマズイんじゃありませんか!! 正義の味方のプリキュアが警察に捕まるなんてことがあっていいんでしょうか!!」

「日本の警察組織に目を付けられたら逃げ場なんて無いじゃない……。彼らの捜査能力は超がつくくらいに優秀だし、このままじゃ見つかるのも時間の問題だわ……」

 彼女がプリキュア活動で最も恐れていたのは警察の力だ。

 日本の治安を守る為に集められたエリート集団にかかれば、噂に名高いプリキュアの一人や二人、簡単に特定され、場合によっては最悪、逮捕されてしまう。スーパーヒーロー云々の話で誤魔化せるほど大人という生きものは甘くないと理解しているつもりだった。

 だが、不覚にも昨夜は自分の正体を世間にわざわざ公表するような軽はずみな行動をとってしまった。このまま何もしなければ、いずれ自分の正体を突き止められるのは時間の問題だ。

 リリスはひたすら自分の無思慮な行動を責め立て、後悔する。

「だ、大丈夫ですよ!! リリスちゃんならきっと何とか切り抜けられますって!」

「無責任なこと言わないで!! はるかはいいわよ、プリキュアでも何でもないんだから!!」

「元はと言えばリリスちゃんが街中でレイさんを元の姿に戻したりしたから事態がややこしくなったんじゃないでしょうか?」

 はるかの鋭い言葉がリリスの胸に突き刺さる。

「あ、あれは仕方がなかったのよ! あの状況で背に腹は代えられなかったし……教会連中と戦いながらはるかを守る私の身にもなってちょうだい!! 片手間でプリキュアやっていけるほど私も器用じゃないの!」

「そ、そんな風に怒らなくても……」

「とにかく、何とか警察の目から逃れる方法を考えないと……」

 早急に手を打つ必要があった。だが一体どうすればいいのか……考え始めた矢先、教室の扉が開かれクラス担任の三枝がやってきた。

「ホームルーム始めるよ、みんな席に着けー」

 まだまだ新米感が消えない三枝だが、それなりに職務に慣れてきた様子だった。

 と、そのとき――彼の後ろから見慣れない女子生徒が現れ、恭しくその場に控えた。

「うわぁ! かわいい~~~!!」

「外国人だぜ、おい!!」

 男子、女子を問わず、クラス中が目の前の美少女に釘付けとなった。ゴールデンブロンドのロングヘアーに青い瞳を輝かせるお人形のような少女は、誰もが魅了する癒しの笑みを浮かべる。

「ハヒ! フランス人形さんみたいにキュートですね!」

「そうね……」

 はるかとリリスも周りと同じように転校生の少女を見た。

 このとき、リリスは若干だが目の前の少女に穏やかではないものを感じていた。だが単なる気のせいかもしれないと思い、邪な感情は自分の胸の中にそっと収めた。

 喧騒する教室において、三枝は黒板に転校生の名前を書きつづり、改めて全員に紹介を始める。

「みなさん、始業式には間に合いませんでしたがこの学校に転校してきた生徒を紹介します」

「はじめましてみなさん、ルーブルの聖マリア女学院からやって来ましたテミス・フローレンスです」

 懇切丁寧に挨拶をし、目の前の生徒たちにお辞儀をするテミス。男子生徒はテミスの殺人級のかわいさに心奪われ、骨抜きとなる。

「えー、フローレンスさんは敬虔なカトリック教徒で日曜日には必ず教会に行って礼拝を捧げるようです」

 と、補足説明として三枝が言うと――テミスはおもむろに手を合わせて目を瞑り、祈りを捧げ始めた。

「どうかみなさんに、主のご加護と祝福がありますように」

 ――ズキン!

「あ痛っ!」

「リリスちゃん!?」

 テミスが祈りを捧げた直後、激しい頭痛がリリスに襲い掛かった。リリスは目に涙を浮かべて後頭部を抑え、それをはるかが心配する。

「あれ? 悪原さん、どうかしました?」

「い、え……何でもありません……」

 三枝に尋ねられると、明らかにやせ我慢であるが、リリスは平気を装う。

「じゃあ、フローレンスさん。席は天城さんの隣に座ってください」

「はい」

 指定された席を聞くと、テミスがゆっくりと教壇から降りて歩き出す。歩く姿も実に美しく煌びやかとした風貌。男子の目線を一身 に受けながら、テミスははるかの左隣に着席 し、彼女に笑顔で挨拶した。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ! 風紀委員の天城はるかです!」

 笑顔で握手を交わす二人の様子を見ながら、リリスは転校生・テミスのことを秘かに恨んだ。

 

【挿絵表示】

 

(もう、私に祈りなんか捧げるんじゃないわよ……!!)

 

 一気に注目の的となったテミスであったが、彼女は容姿が優れているだけでなく、勉学や運動神経においても一際輝く、まさに才色兼備の少女だった。

 朝のホームルームが終わり、最初の授業は社会の地理で、日本地理について取り扱った。

 小学生の頃から基礎的な日本地理はみんな学んできているはずであるが、土台となる知識をしっかり積み上げてこなかった生徒にとっては、ただただ混乱する時間だ。

 日本人ですらそのような状況なのに、異国の出身である彼女は知らないことがまるで罪であるかのように完璧な回答を先生に返していた。

 さらには先生がやや誤った情報を発すれば、

「先生、無礼を働くことをお許しください。――確かに少し前の状況を考えれば、その考え方は間違いなかったと思います。ですが今の日本の情勢で見れば、その見解は少し古い考えだと言えるかと。現状を考えれば――」

 と、先生の立場を立てつつも自分の考えを伝え、教室内からは自然と拍手が湧き上がった。

 その状況を見ていたリリスはテミスを見つめながら、

(何よ、それくらい考えられて当然のことじゃない。自分たちの置かれた現状を学び、理解しようとしない人が悪いのに)

 とつまらなそうに教科書へと視線を移した。

 

 また、次の体育の時間でもテミスの才色兼備は発揮された。

 授業の内容は、新しいクラスの親睦を深める目的で行われた男女混合ソフトボールだ。

 持ち前の運動神経からピッチャーに抜擢されたリリスは、たとえ男子が相手でもあっという間に三振を取る。

 周りからは、

「さすが悪原さん!」

「悪原さん相手じゃ野球部だって打てるかどうかわからないよなぁ」

 といつもの歓声を受ける。リリスとしては、この程度のことは日常茶飯事だった。

 そして、攻守交代の時間がきた。

 マウンドを降りて自陣に戻るリリスに、特徴的な金髪のロングヘアーを短く結ったテミスが近づいてきた。

「悪原さんはとても運動神経があるのですね。もし私の番が来たときはお手柔らかにお願いいたしますね」

「ええ……」

 まさか話しかけられると思っていなかったリリスが短く返事をしたところで、にこりと笑ってテミスは走っていってしまう。

(わざわざ何のご挨拶?)

 走り去る背中に目線を追っていると、相手側のピッチャーとしてマウンドに上がったのはテミスだった。

 攻撃側に移ったリリスのチームメンバーは、

「お、テミスさんが投げるのか?」

「こっちが美人の悪原さんに投げさせたから、向こうも対抗意識を燃やしてるんじゃない?」

「まあ所詮親睦会だし、華があったほうがいいよな」

 など、あくまでその美貌で担ぎ上げられたように思われていたが、最初の投球でその評価は一瞬にして塗り替えられた。

 

 ――ズバンッ。

 

 みんなが口を開けて呆然としていた。守備側のキャッチャーですら、驚いてミットのボールとテミスを交互に見比べる。

「あの……みなさん? 私、何かおかしなことをしてしまいましたか?」

 テミスは恐る恐るクラスメイトたちに尋ねると、たちまち歓声の声に包まれた。

「うおおおおお!! テミスさんすごいよ!!」

「野球クラブとかに入ってたの!?」

「悪原さんもすごいけど、テミスさんもやるなぁ……」

 照れ笑いを浮かべながらも、テミスも大人顔負けの投球を見せつけた。

 リリスはその光景を見ながら、やはり頭の中で不満を募らせた。

(筋肉の使い方と力の伝達の仕方を合理的に考えれば、中学女子にだってそれなりのピッチングはできるわよ……)

 その後、リリスもテミスも打って、投げて、走って、とお互いに大活躍を見せた。時間の関係で二人の直接対決は惜しくも実現しなかったが、クラスの全員が二人に大きな期待を寄せていたのであった。

 

 昼食時間を迎えると、テミスの周りには人だかりができていた。

「テミスさんってすごく頭がいいんだね!」

「あの投球すごかったよなー! 今度投げ方教えてくれよ!」

 質問の雨を受けて戸惑うテミスに、風紀委員であるはるかが割って入った。

「みなさん、テミスさんが困っています! 質問は順番にお願いします!」

 たちまち場を制したはるかに促され、みんな挙手をして順番に質問を投げかける。

「好きな教科は何ですか?」

「どのお勉強もこれからの未来を作っていくためには大切なものです。そこに優劣はありません」

 にこりと微笑んでテミスは答え、周りからは、おー、と感嘆の声が上がる。

 そして次は自分がと手を上げる男子に指名がいく。

「好きな食べ物を教えてください!」

 少し悩む仕草を見せたテミスは、

「体の糧は心の糧です。すべてのお恵みは主からの贈り物です。主の祝福が与えられたお食事は、すべて私の好物と言えましょう」

 と、目の前の食事に祈りを捧げる。それを見た周りのクラスメイトたちもマネをして祈りを捧げる。

 それを遠くからはた目に見ていたリリスは、

(……くっ。一体何の嫌がらせよ!)

 と頭を抱える。直接自分に向けられた祈りではないため、ホームルームのときのような痛みには襲われなかったものの、祈りのオーラはやはり悪魔の体に影響を及ぼすのだ。

 祈りが終わるタイミングで、別のクラスメイトが次の質問を投げかける。

「テミスさんはどうしてシュヴァルツ学園に転校してきたんですか?」

 その質問を受け、テミスの体に一瞬ピクリと緊張が走ったのをリリスは見逃さなかった。無論、他のクラスメイトたちが察した様子はまるでない。

「ええ、そうですね……実はこの町にある探し物がありまして……」

「探し物? 私たちも協力しよっか?」

「いえ、これも神から与えられた試練ですので」

 笑ってごまかすテミスの表情は、いつも携えている笑みとは別の、何か張り付いたような笑みだとリリスは遠目に見て感じた。

(……あの子はまさか、天使の血を引く末裔……?)

 リリスは考えていた。いくらリリスが悪魔だとはいえ、一般人レベルの人間が捧げた祈り程度で激痛に悩まされることはそう多くない。もちろん、下級悪魔であれば話は別だが、リリスは王族の娘、上級に位置する悪魔である。そのリリスに影響を与えられる存在は、やはり同レベルの神族、あるいは神に属する者に他ならない。

(警戒するに越したことはないわね)

 リリスは遠くから一人、警戒を怠らないことを心に決めるのであった。

 

 光陰矢の如し。午後の時間もあっという間に過ぎ去って学校が終わり、リリスははるかと一緒に帰路に就いていた。

「リリスちゃん、クラスの子全員がテミスさんに釘付けだったのに、リリスちゃんはまるで逆でしたね。終始彼女から遠ざけていた様に見えました……」

「遠ざけていたわ。あの子は危険よ。私とは相性最悪」

「どうしてですか?」

 はるかは理由がわからず頭をかしげる。

「またいつ祈りを捧げられるか分からないもの。悪魔に祈りや神の言葉はご法度なのよ」

「ああ! だから頭痛になったんですね!!」

 悪魔にとって神・天使・光などとは先天的に相容れない性質を持っており、低級悪魔など非力な者は太陽の光の下では倦怠感や力の減少が見られるが、リリスを始めとする上級悪魔など強力な者は昼間でもほとんど問題なく動ける。

 しかし、聖水・聖剣・十字架など神聖なものは彼らにとって天敵であり、たとえ低クラスのものであっても上級悪魔にすら脅威となるほか、神に祈りを捧げる行為などでもダメージを受けてしまう 。

 合点がいったはるかの隣を歩く傍ら、リリスは今日一日のことを振り返り、つい溜息を漏らしてしまう。

「まったく。警察は動き始めるわ、厄介な転校生がやってくるわ、今日は最悪ね」

「リリスちゃんは相変わらずネガティブすぎます。もっとポジティブに考えませんか?」

「明るく前向きになれっていうアドバイスだけじゃ、かえって追い詰められてしまう人もいるのよ。私がそうだから」

 そう言った直後、リリスの懐から前触れ無く緑色の光が強く輝き始めた。

「ハヒ! リリスちゃん、何か光ってますよ?!」

 何事かと驚くはるかだが、リリスはいたって冷静に胸ポケットから緑色に輝く物を取り出し掌に握りしめる。

 発光していた物の正体は悪魔の意匠を施した水晶体で、召喚呼び出しという言葉が表示されていた。

「お呼びがかかったようね」

「ハヒ? 誰にですか?」

 はるかの疑問に、リリスはいいことを思いついたといった様子で答えた。

「契約者の人が私をご所望しているの。そうだ、はるかも付いてくる?」

「はるかがですか? 嬉しいですけど……本当にいいんでしょうか?」

 彼女のプライベートな事情に人間である自分が関わっていいのか逡巡し、恐る恐る尋ねるはるかにリリスはあっさりと肯定の意味を込めて返事する 。

「大した時間は取らせないわ。それに前から私たちのチラシ配りの意味について知りたがっていたじゃない」

「そうですね……じゃあ、同行させてください!」

 

           *

 

黒薔薇町 リバーサイド荘

 

 リリスははるかを伴い契約者と呼ばれる人間の下へとジャンプした。あらかじめ、人目がつかない場所まで移動してからリリスが転移魔法陣を発動させ、学校からおよそ十キロ離れた場所へ瞬間移動した。

 そうしてやってきたのは、河川敷がすぐ目の前にある川沿いのアパートだった。

「ここがそうなんですか?」

「ええ。さぁ、行きましょう」

 ゆっくりと階段を上っていきながら、リリスは簡単に契約者と悪魔における関係性について説明する。

「悪魔は人間と契約して、対価をもらうことで力を蓄えるの。今どき魔法陣を描いてまで悪魔を召喚する人はいないから、召喚してくれそうな人に配っているわけ」

「なるほど、レイさんが駅前でやっているのはそのためだったんですね。でも対価って具体的に何を払うんですか?」

 と、当たり前の質問をしてきたはるかにリリスは不気味な笑みを浮かべ、「……魂よ」と解答する。

「ええええええええええええええええええええ!!」

 あまりに恐ろしかったらしく、はるかの驚きは驚きを通り越して慄きを表していた。

「冗談よ。私への対価は契約者が願いを叶えてもらった際の満足度。それをエネルギーに変換して私は自分の力を蓄えているの」

 これを聞いた途端、はるかは脱力しほっと胸を撫でおろした。

「よ、よかったです……本当に魂をもらうわけありませんよね?」

「昔の悪魔は魂を対価にしてたけど、今どきそんな悪習じゃ契約者も集まらないしね」

「ほ……本当に合理的思考です」

 現代に生きる悪魔は、今の社会情勢と環境に適用するために、かつては当たり前とされてきた習わし・因習をあっさりと捨て去り、今の時代に合う方法で人間と悪魔の補完関係を築き上げようとしていた。

 そうして、目的の部屋の前まで到着したリリスは表札に書かれた「森永」という文字を確認してから、扉をコンコンと二回叩く。

「こんにちは森永さん。召喚に応じました、悪魔ディアブロス・ブラッドリリス・オブ・ザ・ベリアルです」

 ガチャっと扉が開き、中から出て来たのは――白いTシャツに短パン、髪は伸び切った上で寝癖も直っていないものぐさな男だった。眼鏡の位置もずれており、あまりいい印象は与えない。

「あれ、リリスちゃん。その子は?」

「すみません、森永さん。今日は私の友人も一緒なんですがいいですか?」

 森永はリリスの隣に立ってがちがちに緊張するはるかを一瞥する。その後、鼻の下を伸ばしてリリスに笑いかける。

「もちろん、全然構わないよ! さぁさぁ、お美しいお嬢さんたち。中へ入ってください!」

 二人を部屋へ招き入れる森永に続いてリリスが中に入ろうとする。その直前、はるかが彼女の制服の袖を引っ張りおもむろに尋ねる。

「あの……こんな明るいうち から家に閉じ籠っているということは、ひょっとして……ニートですか?!」

 はるかが心配していたのは、大人であるはずの森永が昼間から一人で家に閉じこもっているということ。普通の人間ならば朝早くに会社へ出勤し、夕方まで帰ってこない。まともな生活環境で生きている彼女にとって森永は――言っては何だがニートにしか思えてならなかったのだ。

「失礼ね。森永さんは某金融 会社に勤める夜警さんよ。普段は夜の十時から勤務して朝の八時まで働いてるから昼間は家で休んでるの」

「そ、そうなんですか…」

「誰もが朝早くから働いてるわけじゃないの。正社員でもシフトで働く時間が決められてる人や、自分で仕事時間を選んでる人も世の中にはたくさんいるんだから」

 森永の職種に絡んで働き方の形態について補足説明を終え、リリスははるかを連れて部屋の中へと入った。

 

 中に入ると、森永の趣味趣向を反映したアニメ・漫画関連のグッズが所狭しと並んでおり、そうした部屋の内装からも森永の人間性を窺い知ることが出来る。

 はるかは確信していた。森永は所謂ヲタクなんだと。――すると不意に森永がお茶を持って現れた。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます……」

 ぎこちなく返事をするはるかとは対照的に、リリスは平常心を保ちお茶を啜っている。

「いやぁ~、でもびっくりしたな。リリスちゃんにこんなかわいいお友達がいたなんて! 彼女も悪魔なのかい?」

「いいえ、普通の人間です。私を悪魔と知る数少ない友人でして……それで森永さん、今日のご要望は?」

「ふふ。この前アキバで手に入れたレアものなんだけど……」

 何やら嫌な予感を感じる中、はるかが森永の方を注視すると――段ボール箱の中から取り出されたのは薄ピンク色のナース服だった。

「これを着てお姫様抱っこで!!」

「ハ、ハヒ――っ!?」

 はるかの頭の中では、これは不純異性交遊に当たった。

 ―――バタン!

 と、そのとき。玄関の扉が突き破られた大きな音が聞こえたと思えば、人間態のレイが現れ凄まじい剣幕を浮かべ森永を凝視していた。

「き~~~さ~~~ま~~~!!」

「れ、レイさん!?」

「ちょっと、あんた何勝手に入って来てるのよ!?」

 はるかが驚き、リリスが諌める中、どこからともなく不意に現れたレイは森永に詰め寄り、胸ぐらを掴んで激しく責め立てる。

「貴様っ!! リリス様になんて格好をさせるつもりだ!!」

「ひいいいぃ!!」

 突然のレイの介入に森永は恐怖で顔を引きつらせる。

「リリス様はな、リリス様はな、ゴスロリの方がよく似合うんだっ!!」

 これを聞いた瞬間、リリスはレイの首根っこを引っ張り、無言のまま彼に容赦ないプロレス技を仕掛けた。

「ぎゃああああああああああ!!」

 口は災いの元。主の怒りを買ってしまったレイはひどい姿となって横たわり、ピクリとも動かなくなる。使い魔 への折檻を終えた悪魔は得意の営業スマイルで森永に笑いかけ、彼からナース服を受け取った。

「大変お見苦しいモノを見せてしまい、申し訳ありませんでした。直ぐに着替えてくるので、待っててくださいね♪」

 ナース服を持ち、洗面所へと直行するリリスを横目に、はるかは目の前で起こった惨劇とリリスの凄まじいギャップに恐れおののいていた。

「リリスちゃん……やっぱりあなたは……恐ろしい子です……!!」

 

           *

 

異世界 洗礼教会本部

 

 悪魔を忌み嫌い、それを排除するための宗教結社【洗礼教会】。

 三大幹部のエレミア、モーセの二人は既にキュアベリアルとなったリリスに敗北しており、残るのは同期であり最年少でもある緑のラインが入ったローブを見に纏う美少年・サムエルだけとなった。

「エレミアもモーセも何やってんだよ? たかだか悪魔一人もどうにかできないっていうとか無しだぜ」

「「………」」

 若いゆえに口がやや粗暴なサムエルに、エレミアとモーセは揃って口籠り、黙って彼の前に立ち尽くしている。

 互いにプライドが高く、意地でも自分の非を認めたくない様子だ。そんな二人の姿に呆れ、サムエルは小馬鹿にした様に鼻で笑った。

「あ~あ……これだから大人って奴は。いいぜ、あんたらダメな大人には任せてられねぇ。俺が直接出てやるからよ」

 そう言うと、ローブのフードを目深に被りサムエルは魔法陣を潜り人間界へと出発した。

 彼がいなくなった後、エレミアとモーセは顔を見合わせサムエルの態度について愚痴をこぼし合う。

「ふん。あんな若造ごときにあの悪魔がどうにかできると?」

「ダメな大人とは言ってくれる……。いいさ、帰ってきたらたっぷりと後悔させてやるまでだ」

 

           *

 

黒薔薇町 市街地

 

 契約者・森永の願望を叶え、対価である満足度を獲得したリリスははるかと人間態のレイを伴い家路へと就こうとしていた。

「それにしても変わったお願いでしたね。まさかコスプレをしたリリスちゃんが森永さんをお姫様抱っこするとは……」

 森永の願いは、ナース服にコスプレをしたリリスをお姫様抱っこ するのではなく、リリスが森永をお姫様抱っこするというものだった。

 奇妙な願いを成就し、絵に描いた様に満足気な顔をしていた森永のことを思い出すと、はるかは思わず苦い笑いを浮かべる。

「えっと……森永さんはいつもあんな感じなんですか?」

「あの人はお得意様だからね。他にもアニメ・アヴァンダリオンの最終回の是非について延々語り合ったり、風邪を引いて動けないときに私を呼んで家政婦として重用したり……」

「割とこき使われていませんか?!」

「これも対価を得るためよ。実際あの人からもらう対価が一番大きいんだから」

「ですがあの男は危険です!! リリス様にナース服を着せるなど……断じて許されるべきことではありません!!」

「ゴスロリ衣装をさり気無く所望したアンタの方がよっぽど許せないけど」

 と、そのとき――リリスとレイは忌まわしい気配を感じ立ち止まる。

「悪魔さまご一行、見ぃ―――つけた!」

 刹那、洗礼教会の幹部サムエルが空中に現れた魔法陣から出現し、リリスらを高所から見下ろした。

「ご機嫌いかが? 俺は洗礼教会三大幹部のサムエル。最初に言っておくが、俺はエレミアやモーセと違って、何もかもがキレッキレだかんな!」

 宣戦布告をしたサムエルは、ピースフルを生み出す素体として近くの家の盆栽に目をつけ、手首に掛けていた十字架を握りしめる。

「平和の騎士よ、生まれよ!! ピースフル!!」

 十字架から放たされた神々しい光は盆栽を直撃した。

 瞬間、光を帯びた盆栽が巨大化し、家の塀を突き破ると盆栽鉢から根を出し、それを脚に見立てた植物の騎士《盆栽ピースフル》へと変化した。

『ピースフル!!』

 突然の敵の出現だがリリスは冷静に対処する。

「レイ、はるかをどこか安全そうな場所に連れてって」

「わかりました!」

「リリスちゃん、気をつけてください!」

 はるかの安全を最優先に考えて、リリスははるかのことをレイに任せ、この場からの退却を命じる。

 それから周囲に他の人間が居ないことを確認してからベリアルリングを取り出し、右手中指へと装着する。

「さーて、細かいことはひとまず後回しよ。今は全力で目の前の害悪を排除させてもらうわ」

 全身の魔力をベリアルリングへと集中し、リリスは変身コールを唱える。

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

 最初は若干の抵抗を感じていた変身コールにもすっかり慣れ、板につき始めたリリスはプリキュアの力を発現させ、洗礼教会に対抗するための姿となる。

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

 変身が完了した瞬間、盆栽ピースフルが葉っぱをカッター状に飛ばして攻撃を仕掛ける。飛来する葉っぱカッターを躱し、ベリアルは魔力の波動を掌から炸裂させる。

 しかし今までのピースフルと違い、サムエルの作り出した盆栽ピースフルは機動性に欠ける分、防御力が一際高く、盆栽の葉を密集させることでベリアルの魔力攻撃を真っ向から受け止め、弾いた。

「だから言ったろう? エレミアやモーセの雑魚ピースルとは違うって」

「そうね。確かに一筋縄ではいきそうにないわ」

「へっ、だったらもっと苦労してもらおうじゃねぇか。こいつを見てみろ!!」

 そう言ってサムエルが見せたのは、信じがたい光景だった。十字架に磔にされ、気を失っているのは――リリスの契約者・森永がサムエルに捕えられていだった。

「森永さん!?」

「この男はお前の契約者みたいだからな。お前が家を出た後にとっ捕まえてやったぜ」

 サムエルは口元を残虐に歪ませ微笑む。

「その人を放しなさい!! 彼は私の大事な契約者よ!!」

「あ~あ、それだよそれ。悪魔は自分の欲望の為には平気で人を利用しやがる。自らの欲望のために人を利用して価値が無くなったら使い捨てる……そんなんだからお前らは滅びの運命を辿ったんだよ!!」

 刹那、動揺するベリアルに向けて盆栽ピースフルの葉っぱカッター攻撃が繰り出され、彼女は怒涛の勢いで迫り来る攻撃を受け止めきれず、ついに直撃を許した。

「きゃあああ!!」

 まともに受けた攻撃の反動で、後方へ吹き飛ばされ地面に体を打ち付ける。

 サムエルは猟奇的な笑みを浮かべながら、満身創痍と化したベリアルを見下ろす。

「お前らのような打算で人を弄び、やがて破滅に追い込むような邪悪な種族は俺が一匹残らず排除する。お前さえ倒せば、この男も邪悪な意思から解放され心の平安を得られるだろうぜ」

「……打算で人を利用して何が悪いのよ」

「あっ?」

 傷つきながらも体を叩き起こし、ベリアルは人間の道徳感情として恐らく正しいことを言っているサムエルの言葉に反論した。

「悪魔だろうと人間だろうと、互いに利用し合ってないと生きていけないのよ。私たち悪魔は人間の望みを叶えて力を蓄える。人間は悪魔に望みを叶えてもらい満足を得る。そうした持ちつ持たれつの関係を保っていて誰一人不幸な者がいないなら、それでいいじゃない……」

 ベリアルの言葉に賛同できないサムエルは心底理解できない様子で言葉を返す。

「この男のように誰もがそうだとは限らないんだぜ。世の中の人間は他人を損得のために利用することはダメだと知っている。自分の損得だけで動く人間は人として扱われず、邪な者として忌避され疎まれる。そうさ……悪魔に身を売る人間はみんな お前ら悪魔と同じこの世界の害悪なのさっ!!」

「人間の善意を信じる割に、随分と強引な論理ね。ちょっとの悪意を持つことさえ許さないっていうなら……ほとんどの人間はあんたたちの敵じゃない。生憎、悪魔の私が知る限り人間はそれほど高潔な生き物ではないわ。どんなに崇高な理念を掲げようと、欲望の前では無力!」

 ベリアルはさらに言葉をたたみかける。

「人間は紛れも無く欲望の塊よ。それは否定する生き方などできはしないし、その欲望こそが文明、強いては自分たちを進化させてきた。そしてそれは悪魔も同じ……私は自分の欲望を叶えるために他人を利用し、彼らから得た対価を糧に――洗礼教会を倒す!!」

 未だ闘志が消えない彼女の瞳に苛立ちを覚えたサムエルは盆栽ピースフルに攻撃を命じる。

「ごちゃごちゃうるさい奴だ。ピースフル!! ぶちのめせ!!」

『ピースフル!!』

 三度、葉っぱカッターが炸裂する。ベリアルは高くジャンプして攻撃を避けると、ブロック塀の上へと降り立ち、盆栽ピースフルを見据える。

 刹那、ベリアルリングの上に重なり合うように赤色に輝く炎を模したデザインのリングを取りつけた。

「グラーフゲシュタルト!!」

 赤いリングが輝くと共に、同じ色のオーラに包まれるベリアル。

 オーラの中では、高圧縮された魔力がベリアルの全身を包み込んでおり、彼女の胸に魔力の炎が宿っていた。それに伴い衣装も赤みを帯びたものへと変わり、髪はストレートヘアをシュシュでまとめ、ところどころ炎の意匠があしらわれていった。

 ゴシック式甲冑を必要最低限な部分だけを残し、宙を舞うような戦闘軌道に背旗が乗った絢爛な姿と化した彼女の名は――

 

「キュアベリアル・グラーフゲシュタルト」

 

 オーラを割って出て来た彼女の姿は、先ほどよりも高密度かつ高エネルギーの塊そのものと化した、いわば人の形をした炎のようだった。

「これは……まさか、エレメントチェンジか?!」

「あんたが否定した打算で得た力よ。グラーフゲシュタルトの力、とくと味わうがいいわ」

「リリス様!!」

 頃合いを見計らってレイがベリアルの下へ飛んできた。

 レイは彼女の元に飛んでくるなり、魔剣レイエクスカリバーとなって彼女の手の中に収まる。その刹那、刀身から煌々と赤い炎を放出される。

「いくわよ!!」

 大きくジャンプしたベリアルは、燃えたぎる炎の剣を構え猛スピードで盆栽ピースフルへと接近する。そして、圧倒的な力で盆材ピースフルの防御を切り崩す。

『ピースフル!! ピースフル!! ピースフル……!!』

「何だこの速さは!? さっきとは比べ物にならない……」

「はああああああ」

 瞬間、紅蓮の炎の斬撃がサムエルと盆材ピースフルを直撃した。凄まじい炎が怒涛の如く襲い掛かり、敵は灼熱の業火に身を焦がす。

「ぐああああああああ!!」『ピースフル!!』

 全身黒こげになったサムエルと、すべての葉を燃やし尽されて木の枝と幹が丸裸となった盆栽ピースフルは未だに消えぬ紅蓮の炎にうめき声を上げる。

 ベリアルは人質として捕えられた森永を救出し、安全な場所に退避させてから盆栽ピースフルにとどめを刺す。

「すべて残らず燃やし尽くしてあげるわ」

 勢いよく地面を蹴って空中へ舞い上がると、レイエクスカリバーの刀身に炎の渦を作り出し、全身全霊の力で振り下ろす。

 

「プリキュア・スカーレッドインフェルノ!!」

 

 渦を巻く炎が龍となり、もはやその身を守る術を持たず、防御力を失った盆栽ピースフルの体を飲み込んだ。

 ――ドンッ。

『へいわしゅぎ……』

 そんな言葉をうわごとのように唱え、ピースフルは炎に焼かれ炭と化し、空へと昇って いった。

 盆栽ピースフル消滅後、サムエルは焦げついた体で立ち上がり、悔しそうな顔でベリアルを睨み付ける。

「他人を利用して得た力なんかでいい気になるなよ!!」

「あんただってピースフルを利用してるじゃない」

 サムエルはベリアルの言葉に反射的に応じる。

「う、うるせーよ!! 俺はお前とは違うんだ!!」

 彼もまたプライドが高く自分の非を認められない性質だった。転移魔法陣を呼び出すと、それを潜ってベリアルの前から逃亡を決め込んだ。

 

「へぇ。あれが噂の悪魔のプリキュアね……」

 ベリアルが洗礼教会を撃退したその頃、この戦いの様子を遠目から傍観している者がいた。

 背中から純白に輝く翼を生やし、白を基調とした衣装に身を包んだ謎の戦士は、蝶の羽を持つリスのような姿をした妖精を伴い空中を浮遊している。

「プリキュアは聖なる力の象徴。天使とその力を一部受け継ぐ人間だけが持つことを許された力をどうして悪魔が使えるのかは分からないけど、私の相手として不足はなさそうね」

 純白の戦士は一人、つぶや呟くと不敵な笑みを浮かべ、キュアベリアルへの興味を募らせた。

 

 

 

 

 

 




次回予告

リ「はるか。都市伝説として語り継がれているプリキュアって、一体誰のことなの?」
は「ずーっと昔なんですけどね、この世界を暗闇一色に染め上げようとした悪い奴から地球を守ったのがキュアミカエルって言うプリキュアだったんです!」
リ「ミカエルね……私にはとっても耳障りな名前でしかないんだけど……もしその後継者と思われるプリキュアが洗礼教会と手を組んでいたとしたら」
「ディアブロスプリキュア! 『悪魔と天使!キュアベリアルVSキュアケルビム!』」
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