ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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今回は前回とはまた異なる意味でテーマが重いかもしれません。
春人を主役にする回は大抵話が重くなるのですが、イフリート事件で一度触れた春人の過去に関わる話を今日は書きました。そしてこの回と次回の回を含めて、今まで謎に包まれた疑問や敵の目的が判明すると思います。
それでは第4章の締めくくりとなるお話の前編をお楽しみください。


第40話:破滅の交響曲(シンフォニー)!悪魔の種、芽吹く時!

 【死刑】――凶悪犯罪を犯した者の中で最も重い刑罰。死を以って罪を贖(あがな)うという意味合いから他の受刑者とは異なり拘置所に身柄を拘束される。

 そして今日、とあるひとりの男の死刑が秘密裏に行われようとしていた……――。

 

           ≡

 

十一月二十三日――

東京矯正管区 東京拘置所

 

 午前九時、処遇部門の刑務官および警備隊数名が死刑囚官房へとやってきた。確定囚たちは刑務官が自分の独居房の前にやってくるこの瞬間を「魔の時間」と呼んでいる。

 ガチャ……。扉が開かれる音がした。三畳ほどの広さしかない独房内、その真ん中でこの瞬間がやって来るのをずいぶん前から待ち望んでいたかのように静かに正座をしている男がいた。

 男の名は『若王子素十九(わかおうじすじゅうく)』、本名は『三輪康弘(みわやすひろ)』。

 過去に遡ること、十年前――日本中を震撼させた世界初のNBCテロを実行したカルト教団の元教祖である。

 死刑判決が言い渡されてちょうど十年という節目の今日、若王子の死刑執行が正式に法務省から通達されたのだ。

「百三十五番、三輪。出房だ」

「…………」

 刑務官の呼びかけに若王子は無言のまま立ち上がると、おもむろに独房の外へと出る。

 死刑執行は必ず午前九時から十時の間に行われる。前もって執行の予告などはせずに当日の朝、不意打ちの如く処刑場へ連れて行かれるのが現実だ。

 一九七〇年代までは死刑執行の言い渡しは二日前ないし前日にあり、親族とも最後の面会をさせていた。しかしある時、絶望した死刑囚が処刑の前夜に自殺をしてしまったことがあった。以来、死刑執行は国家の「超極秘事項」となり、本人や家族にさえ事前告知はされなくなったという。

 執行当日の朝、死刑囚は何かをやりかけていたとしても、部屋の片付けはおろか、荷物の整理も許されず、そのまま処刑場へ連れて行かれる。

 通達を受けた死刑囚の反応は様々である。素直に覚悟を決める者もいれば、腰を抜かし立てなくなる者、物を投げたり暴れたりして抵抗する者などがいる。ゆえに通達には刑務官が数人で立ち会う。

 一秒でも長く生きたい――そう考える死刑囚は少なからずいる。混乱し暴れる死刑囚に対し、刑務官が有無を言わさず彼らの両腕を抱え、処刑場まで連行する。これが死刑というものの現状なのだ。

 若王子の場合は抵抗の意思というものは一切感じられず、むしろ清々しいほどの表情を浮かべ、いつでも死後の世界へ行ってやるといった意気込みさえ感じられた。

 処刑室へと続く廊下。途中で死刑囚が暴れたり逃げたりしない為に拘置所の職員が五メートルおきに立っている。若王子はその間をずっと通りながら死刑執行室の隣にある広さ八畳ほどの「前室(ぜんしつ)」と呼ばれる場所へ向かう。

 中で待っていたのは神父や僧侶などの教誨師(きょうかいし)(民間の牧師や僧侶を始めとする、教え諭す役割を担った人の事)と、十数名の刑務官。ここで初めて拘置所の署長が正式に死刑の執行を本人に告げるのだ。

「『〇〇年十一月二十三日、三輪康弘の死刑執行を命ずる 法務大臣××××』――」

 署長から死刑執行の旨が伝えられる。

 これを聞いた若王子は口元を若干釣り上げ、「……思ったよりも生き永らえさせてくれたな」と感謝にも似た言葉を呟いた。

 教誨師による最後の祈り。さらに、生前死刑囚が好きだった嗜好品を楽しむ時間が設けられた後、いよいよ若王子の死刑が執り行われる。

 まず目隠しをされ、背中に腕を回されてから手錠が嵌められる。それが終わると、それまで閉ざされていたカーテンが開き、「執行室」へと向かう。

 天井には純白の太いロープ。その下には九〇センチ四方の踏み板がある。

 刑務官たちは速やかに死刑囚・若王子素十九の両足を縛り、首にロープをかけた。これですべての準備は整った。

 やがて、執行ボタンが設けられた部屋に赤いランプが点灯した。このボタンこそ死刑囚の踏み板を開くものだ。全部で五つ用意され、どれか一つが踏み板に繋がっている。これはボタンを押す刑務官の心理的負担を軽くするための処置だ。「執行したのは自分ではない」と思えるようにというせめてもの配慮だ。

「これでお別れだ。最期に言い残したいことがあれば言ってくれ」

 幹部の一人が確認をする。対する若王子の答えは、

「今更そんなものはない。殺すなら殺せ……」と、自らの死を全面的に受け入れるものだった。

 若王子が最後の言葉を言い終わったのを見計らい、ボタン室で待機していた刑務官六名のうちのひとり、指揮官が「押せ!」と合図を出し残り五名が一斉にボタンを押そうとした……――次の瞬間。

 

 ――ドカン!!

 何の前触れも無く、死刑室の壁が外からの力が加わり豪快に破壊された。

 突然の事態に刑務官を始め死刑に携わった者すべてが驚愕する中、土煙の中から人影のようなものが見えてきた。

「あ~、良かったー。まだ息があるある」

 そう言いながら煙の中から現れたのは、はぐれ悪魔・カルヴァドスだった。

「な、なんだ貴様は!?」

「へへ。ボクが誰かって? ボクは悪魔だよ♪」

 あどけない笑顔で答えると、カルヴァドスはボタン室の方へ左手を突き出し、黒ずんだ衝撃波を放つ。

「「「「「「グアアアアアア!!」」」」」」

 ボタン室に控えた執行官がカルヴァドスの攻撃を受けた直後に絶望した。さらに、カルヴァドスは前室と若王子の付近に控えた刑務官及びこの場に居合わせた関係者全員を次々と手に掛けていった。

 死刑執行寸前で起こった突然の事態。目隠しをされた状態の若王子も思わず言葉を失っていた。

 やがて、死刑に関わるすべての人間をその手に掛けたカルヴァドスは若王子の首のロープを引き千切る。目隠しを外され、手足の自由が利くようになった若王子は内心驚きを禁じ得ない様子だが、平静を装い訝し気に尋ねる。

「……何者だ、君は?」

 すると、問いかけにカルヴァドスはあどけない笑顔で答える。

「あれれ~? 聞こえなかったかな? ボクは悪魔だよ。だから君を助けに来たんだ」

「悪魔が私を助ける? 何の為に? そもそも出してくれなどと頼んだ憶えは無いんだが」

「生憎君の意見は求めてないよ。まぁ君とボクは同じ穴の貉って意味では親近感が湧くんだけどね」

 そう言うと、カルヴァドスは自分を悪魔である事に疑念を抱き猜疑心を向け続ける若王子の顔を見据えながら、本題へと入る。

「ボクらと君の利害はきっと近いところにあると思ってる。そうさ、ボクらに必要なのは利害関係なんだよ」

「悪魔と契約しろと? この私が、何の為に?」

「決まってるよ。この世界をしっちゃかめっちゃかにする為さ。君ほどの男なら解るだろう。強大な力を得た者だけが世界がどうあるべきかを決めるべきなんだ。君にはその資質がある。悪魔は君にとってのビジネスパートナーってところさ」

「物はいいようだな」

「へへへ♪ 兎に角さ、君にはまだ生きててもらいたいんだよ。ボクたちの野望の為に――君だって世界を変えたいという気持ちがあったからテロなんて起こしたわけでしょ? ファウスト博士も、力を得るために悪魔と契約を交わしたでしょう?」

「己の魂と引き換えにな。しかし、君にメフィストフェレスほどの力があるとは到底思えないのだが」

 ドイツのファウスト伝説に登場する有名な悪魔を引き合いに出すとともに、若王子は目の前の子供をただの子供ではないと認識しながらも、それが悪魔であるとは決して認めようとしなかった。

「辛辣だなぁ~。いいよ、そんなに疑うんなら証拠を見せてあげるよ。悪魔カルヴァドスの名に懸けて、君を身も心もボク色に染め上げてあげるから」

 出会うはずの無かった世紀の大悪党同士の邂逅。破滅へと向かって運命の歯車が今、ゆっくり廻り始める……――。

 

           ◇

 

十一月二十五日――

東京都 八王子市 某霊園

 

「もう、十年か……」

 【神林家之墓】と書かれた西洋式の墓標に向かって手を合わせる喪服姿の親子。神林敬三とその息子・春人は故人を偲んで線香を上げ、故人が生前に好きだったマーガレットの花を手向ける。

「元気にしているか……暦(こよみ)……」

 敬三が呟く隣で、春人は亡き母の事を思って黙祷を捧げる。

 今日は春人の母親である神林暦が、若王子を主犯格とするカルト教団が起こした地下鉄テロによって落命した日。同時に春人の心に消えない傷が生まれた日でもある。

「父さん……」

 不意に春人が神妙な面持ちで敬三に尋ねる。

「死刑執行寸前のところで、あの男がはぐれ悪魔に助けられ拘置所から脱走したっていうのは本当なの……?」

「……ああ」

 警察関係者の根回しで逸早く先の事件の全容を知った春人。敬三は事実を隠蔽すること無くありのままに事実を伝える。

 すると、それを聞いた上で春人は胸の内ポケットに手を突っ込み何かを取り出した。

 敬三は少し驚いたように春人が取り出した物を見た。金色に光り輝く聖ペトロ十字に似た形のペンダント――それは生前母・暦が好んで付けていたものである。

「お前、それ……いつも……」

「うん……片時も忘れないようにね……」

「……思い出すなぁ……暦のお気に入りはそのペンダントだった……」

(母さん……)

 しんみりとした表情で敬三が故人を偲ぶ中、春人は亡き母の姿を思い返しながら、ペンダントを胸元で強く握りしめ、固く誓う。

(アイツは……必ず……僕が斃すんだ……)

 瞳に宿るのは、母を死地に追いやった若王子への強い怨恨から来る殺意。秘かに復讐に燃える春人を待ち受ける運命とは……――。

 

           *

 

私立シュヴァルツ学園 二年C組

 

 帰りのホームルーム時、リリスたちの担任教師である三枝喜一郎から全生徒共通の注意喚起が行われる。

「えー最近、頻繁にこの辺りでも不審者などが目撃されています。下校するときはなるべく一人ではなくて、集団で帰るようにしてください。また、習い事や部活動等で帰りが遅くなる方は必ずご両親に連絡を取って迎えに来てもらえるように」

 ホームルームが終わり、リリスたちはいつものように三人で下校する。帰路の途中、リリスがはるかとテミスに言って来る。

「最近、軽犯罪の発生率が高くなっているようね」

「そう言えば……この間も黒薔薇町のコンビニ店で、3Dプリンターで作られた銃を使った強盗事件がありましたねー。しかも一件だけじゃなくて、同じような事件が全国で同時多発的に起こっているとか!」

「専門家の話じゃ、犯人は全員過去に服役した事実があるとか。しかも3Dプリンター銃は警察内部のごく一部しか知らないデータを元に、何者かが送り付けてる可能性があるとも言っていたわ」

「なんだか怖いですね~」

「3Dプリンター銃事件も確かに怖いけど、カルヴァドスがまた何かやらかしてる事の方が怖いんじゃなくて?」

「例のカルト教団教祖脱走事件の話ですか?」

 はるかがそう尋ねると、リリスは言うか言わないか迷った末に隣を歩くはるかとテミスにおもむろに話をする。

「サっ君経由で聞いた事なんだけど……その教祖、春人のお母さんの命を奪ったテロ事件の主犯格だそうよ」

「ハヒ!! 春人さんのお母さんをですか!?」

「それは知らなかったわね……」

 今の今まで知らなかった事実に、はるかとテミスは仰天した。

「だからなのかしら、春人は逃げた教祖の行方を追おうと躍起になってるみたい。それこそ血眼になって捜してるとか」

 リリスの話を聞いた直後だった。テミスが眉を顰めながら呟いた。

「〝愛は何よりも恐ろしい悪魔である〟……」

「ハヒ、テミスさん?」

「それってマルケスの言葉……だったかしら?」

 唐突にテミスが呟いた言葉に二人が耳を傾けると、彼女はガルシア・マルケスの言葉を引き合いに出してから、自分の考えを口にする。

「私にはこの国で起きている負の連鎖、それを引き起こしている原因が〝愛〟に思えて仕方ないのよ……」

「愛? でも、愛って人間なら誰もが持ってるものじゃないんですか? 誰かを愛おしく思うのは当然だとはるかは思うんですが……テミスさんはどうしてそれが、負の連鎖の原因だと考えるんですか?」

 はるかが疑問に思うのも無理はない。まして、愛の伝道師とも言うべき天使自らが愛への疑念を抱くのは予想外のことだった。テミスは自分でも何を矛盾めいた事を言っているのかと内心思いながら、その矛盾から生まれた考えを口に出す。

「愛は常に世界を変える力を持っているわ。でも、行き過ぎた愛は時に人を傷つけ、それが憎しみへと変わる。とりわけ今の社会に蔓延している負の連鎖は愛は愛でも、『自己愛』の暴走だと私は考えているわ」

「自己愛……か」

 聞いた直後、リリスはその話に合点がいった。自分を愛する心は人間にとってなくてはならない感情だ。自らを愛する感情を持つからこそ、他社を慈しむ心を持つ事ができるからだ。だが、それが行き過ぎてしまうと――人は他人への同調や共感を忘れ、そればかりか自分以外の異質なものを排除しようという心理が生まれる。他人の気持ちを慮ることさえ叶わなくなった結果、人間は凶悪な本性を露にする。言うならば、それこそ悪魔と呼ぶに相応しいだろう。

「そして、その愛を最大限利用しているのがあのはぐれ悪魔よ……罪を犯した者の心理を巧みに利用する狡猾さ……被害に遭う一般市民はともかく、犯行を行う者の事も何も考えてない……完全な戯(あそ)び。もしくは大規模な実験を仕掛けて慌てふためく人々を大笑いしながら眺めている気さえするわ。そう、カルヴァドスは今も昔も自分の愛を享受する事しか考えていない……まさに怪物よ」

 確かにそうかもしれないと、リリスは素直に思った。

 だが、如何に凶悪な怪物だとしても自分たちはそんな理不尽な悪魔から身内とこの街で平和に暮らす人々を守りたいという確かな欲望があった。

 午後の昼下がり――三人の少女は世界の情勢を共に憂い、その行く末について思案するのだった。

 

 その頃、レイを始めとする使い魔組は車で都内を移動中。今日も彼らは新規の契約者を募るべくビラ配りに専念していた。

「さぁ今日はうんと遠くの町までビラ配りだ!! 目標は一万枚だっ――!!」

「そんなに張り切らなくたっていいじゃないのよー」

「何を言っているのですかご婦人は。リリス様が力を付けた以上、我々も頑張らなくてはならないのです!」

「がんばるのはあんただけでいいと思うけど。だいたいあんた、テミスが買ってくれたこの車を試運転したかっただけじゃない」

 一か月前の黒ケルビムでの一件で、レイの車は修理不可能と言えるまでに大破した。その罪滅ぼしとして、テミスは天界上層部から支給されほとんど手つかずだった預貯金を叩いて、レイの為に最新機能が搭載された新車を購入したのだった。

 ラプラスはそう言った事情を知っているがゆえに、ビラ配りという体のいい言い訳で自分達を引っ張り出して有頂天でドライブをするレイの態度が気に入らなかった。

「そう仰らないで下さいラプラスさん。レイさんはいつだって、リリスさんやみなさんの事を第一に考えていらっしゃるんですから」

「クラレンスの言う通りですぞ!! どんな理由であれ、ご婦人にもしっかり協力してもらいますぞ!!」

「あ~、もう……あんたのそういう性格、ほんとめんどくさいわねー!」

 気乗りしないラプラスを連れて来た事は果たして生産性のある事なのかと内心隣で座るピットが思う中、車は赤信号に差し掛かり停止する。

「なんですかあれは?」

 そのとき、助手席に座っていたクラレンスが前方に見えてきたものに違和感を覚えた。レイ達が横断歩道を注視すると、奇妙な光景が映った。

「こんげん~~~!」

「「「はめつ~~~!」」」

 シャンシャン……。

「こんげん~~~!」

「「「はめつ~~~!」」」

 シャンシャン……。

 眼前に映る修験者の如き集団。手には錫杖を携え、意味不明な言葉を唱えながら鈴を鳴らし、一歩ずつ前進をする。

 やがて、そのうちの一人がレイたちの方へと近づいて来た。修験者は持っていたビラを一枚レイへと手渡し、素早く列に戻るとその場を立ち去った。訝しげな表情で配られたビラに書かれている内容を見る。

「〝根源破滅こそ真の救済也〟……何だこれは?」

「最近増えて来たわね、こういうの。うちの近所でもこの前見かけたわよ」

「こういう世の中ですからね。内心不安で仕方ないんですよ」

「勝手な事ばかりやって来たからね人間は……何かに滅ぼされたって、自業自得って事なのかしら」

 と、達観した様に独白するラプラスとは対照的に、レイは眉を顰める。

 信号が青に変わったのを見計らい、レイはビラを屑籠へと収めるなり車を素早く発進させた。

 

           *

 

東京都 千代田区 日比谷公園

 

 根源破滅を唱える謎の教団――【根源破滅教団】の存在感は日を追うごとに増していった。そして、昨今の経済不況やテロ事件などを背景に影響力は大きくなり、入信する者が加速度的に増加した。

 黒薔薇町でもそんな熱心な信徒と初心者向けに教団の幹部が集会を開き、自らの教義について熱く説いていた。

「レミングと言うのをご存知かな? 数年に一度の大繁殖の帳尻合わせで集団自殺すると言われているネズミの事です。彼らはなぜそんな事をするのか? きっと彼らには聞こえているのでしょう……そう!! 地球の声が!!」

 指導者の語る言葉に熱心に耳を傾ける信徒、そして半信半疑な一般聴衆。(ちなみにレミングが集団自殺をするというのは集団移動中に起きる偶然の事故によるものであり、彼ら自身の意思に基づくものではない)

「地球に命令され彼らは何の疑いも無く死んでいくんです、ピュアに……ところがッ!! 人間だけがその命令を聞く力を失ってしまった!! つまりッ!! 本能が壊れてしまったんです!! だから今来たんです!! 彼らが……根源破滅が!!」

「「「根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!!」」」

 異様すぎるほどの熱気に一般聴衆の何人かは引いてしまっている。しかし中にはシンパシーを抱いて一緒に根源破滅と唱える者までいた。

 そして今日、この集会の様子を神林春人とその友人・旭丘竜之助(あさひがおかりゅうのすけ)が遠くから静観していた。

「あれが佐藤君なのかい……?」

「そうなんだ。見ての通りすっかり変わっちゃってさ」

 春人が集会を見ていた理由――同じ高校に通うクラスメイトが突然人が変わったかの如くこのおかしな宗教に入信したからだ。つい先日まで普通の高校生だったはずが、数日のうちに熱心なカルト信者に変貌した。その背景を春人は探偵として秘かに調べていた。

「旭丘君。彼が変わった切っ掛けは何なのか、わかるかい?」

「インターネットだよ。SNS上で見つけた【人類救済の会】とかっつうフォーラムに参加して、以来すっかりのめり込んじまったんだ」

 春人は遠目から、人が変わってしまったクラスメイトを憂慮する。彼の心配を余所に、佐藤は太鼓のばちを叩きながら根源破滅と唱え続ける。

「なぁ神。放っておいても大丈夫じゃねぇか? こういっちゃなんだが、人に迷惑かけてなきゃ何しようが個人の自由だろ?」

「個人の自由、か……旭丘君の言う事も一理あるね。だけど僕は自分のクラスメイトをカルト教団の食い物にされるのはごめんだよ」

 春人はクラスメイトを助けに行くつもりだった。旭丘の忠告も無視して、彼は一人佐藤の元へと向かった。

「佐藤君! 佐藤君!」

 ばちを叩く佐藤の真横に立ち、肩を強く揺すりながら呼びかけを行うがまるで反応がない。すっかり別の世界に意識が飛んでしまっている様子だ。

「目を覚ますんだ佐藤君! なぜこんな事を!?」

 それでも諦めず春人は呼びかけを続けた。

「彼は理解したんだよ――人間の傲慢さを」

 だがそのうちに、根源破滅教団の指導者が春人の方へ歩み寄り威圧感溢れる顔で言ってきた。

 反射的に指導者を鋭く睨む春人。そんな彼の態度に周りの信徒が彼を取り囲み冷たい視線を向けてきた。

「地球は怒っています。今に必ずその罰を与えます――」

「「「根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!!」」」

 次々と言い寄ってくる信徒たち。春人はどんな状況でも毅然でいようとするが、途中で旭丘が駆けつけ春人を彼らから引き剥がそうとする。

「おい神ヤベーよ……!! こいつらヤバいって!!」

「待ってくれ旭丘君!! まだ何も解決していないだろ!! 佐藤君っ!! 佐藤君っ!!」

 旭丘に両腕を掴まれ、春人は強制的にこの場を退去させられる。

 必死の呼びかけも虚しく、カルト教団の教えにどっぷり染まった佐藤に春人の声は響かなかった。

 

           *

 

異世界 洗礼教会本部

 

 人間界で起こっている負の連鎖。

 テミス曰くその諸悪の原因が自己愛の怪物こと、カルヴァドスにあるとされるが、彼女の考えは的を射たものだった。

 事実、強盗などの軽犯罪の増加を促した要因――3Dプリンター銃を秘かに元服役囚に送り付けたのは他でもない。カルヴァドスだったのだ。

「しっかしわかんねーよな。カルト教団の教祖様を拘置所から出したり、警察のデータバンクにハッキングして元服役囚に3Dプリンターで作った銃送ってみたりとかさ。おめーのやる事にはまるで一貫性がねぇ」

「一貫性ですか……ふふ」

 コヘレトが言う中、カルヴァドス本人はニコニコと悪魔染みた笑顔を浮かべ返事をする。

「やだなー、コヘレトさん。ボクはこう見えて色々考えているんですよ。洗礼教会の為、ホセアさんの為、そしてみなさんの為を思ってね♪」

「けっ。調子の良い事ばかり言いやがって。で、今度は何をするんだ?」

「布石は十分に打ちました。あとは結果を待つだけです。人間世界に新たなテロの恐怖が舞い降りるその瞬間をね――」

 

 深夜零時――。

 東京のとある廃寺にて、根源破滅教団の秘密集会が執り行われようとしていた。

「教祖様のおな~~~り~~~」

 信徒たちが一斉に跪き頭を下げる。根源破滅教団の教祖として君臨するのは、カルヴァドスの助力によって死刑執行を免れ拘置所から脱走したあの若王子素十九だ。

 十年前同様にカルト教団を組織した彼は、今日という日の為に集まってくれた熱心な信徒たちに説法を始める。

「この世には汚れが満ち溢れている! そして、この美しい世界を淀み腐らせているのは他でもない……自然や環境が、人間のエゴによって破壊されている! 世界的な気候の変動、オゾン層の破壊、熱帯雨林の減少など数え上げればきりがない」

 急速に進む自然環境の破壊を例に、若王子は人間のエゴについて語り、人間のエゴこそが地球を殺そうとしている諸悪の根源であると説く。

「地球は生きているんだ! だが、その地球を病気にして殺そうとしている黴菌(ばいきん)どもがこの地上にはたくさんいる。このまま放っておけば、病はどんどん重くなり、やがては……この星は生き物ひとつ生きられない死の星となるだろう!!」

 言うと、手に持っていた錫杖を地面に突いた。

「我々が為すべきことはひとつ! 我々が根源破滅の導き手となりて、世界を……この地球を救うのである!!」

 教祖の言葉に耳を傾ける信徒たちの顔に希望が宿る。彼らの心は若王子の虜。完全な洗脳状態にあった。

「共に行こう、同志たちよ!! 地球を救えるのは我々しかいないのだ!! さぁ、私と救済計画を行おう!! そして唱えよう!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!!」

「「「根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!! 根源破滅ッ!!」」」

 真夜中に響き渡る不気味な唱和。

 この後彼らは、根源破滅の名の元に【人類救済】を目的とする大規模なテロ計画を実行するのだった。

 

           ◇

 

十二月初旬――

警察庁 科学警察研究所

 

「失礼します」

「こんにちはー!」

 この日、ディアブロスプリキュアのメンバーは洗礼教会対策課本部長である神林敬三からの呼び出しを受け、警察庁の附属機関である【科学警察研究所(通称科警研)】へと招かれた。

「ようこそ、待っていたよ。ディアブロスプリキュアの諸君ッ!!」

 リリスたちが到着すると、この場へ招いた張本人・神林敬三が厚く出迎えてくれた。

「警視庁公安部特別分室本部長の神林敬三だ。春人の父親でもある」

「ご丁寧にどうも。悪原リリスです。本日はご多忙の中、わざわざお招きいただき有難うございます」

 それぞれの勢力の代表者同士が握手を交わし合う。イフリート事件の解決と、その後の洗礼教会によるテロ活動が本格化した事を受け、両勢力はいがみ合う事を止めて和解。今では当初のような蟠りは無くなり協力関係を築くに至った。

「ところで春人さんは?」

「あそこだ」

 敬三が視線を向けた先――春人は透明な窓ガラスの向こう側にあるトレーニングルームで、セキュリティキーパーの状態で待機をしていた。

「これから何をするつもりなんですか?」

「セキュリティキーパーの新武装のテストを行うんだ」

「新武装ですか!?」

「それは初耳ですな……」

 リリスたちが呼ばれた理由――新しく開発されたセキュリティキーパー専用の新型武装テストの視察だった。

「洗礼教会との戦いも日に日に激化している。今後更なる強敵との戦いにおいて、現状のセキュリティキーパーシステムだけでは十分に対処し切れる可能性が難しいと判断した。そこで我々は、数か月前から温めていた新武装計画に本格着手。そして今日、春人が完成したばかりの新武装を試すんだ」

 敬三は一人息子である春人の身を案じつつも、彼の人間離れした身体能力に依存してしまっている現状を内心恥ずかしく思っていた。だがそれでも多くの人々を守る為には春人の力が必要不可欠であるというジレンマを抱えていた。

 複雑な心境を抱く敬三は、間もなく始まろうとするセキュリティキーパーの新型武装テストの様子をリリスたちと共に静観する。

「それじゃ春人君、準備はいいかい?」

『いつでも構いません。始めてください』

 春人の方は既に心を固めている。研究所のスタッフはコンソールを叩き、細かな微調整を行ったのち新型武装テストを開始する。

「システムセーフティ解除。ニューアームドシステム、作動!!」

〈Safety device relieve〉

 SKバリアブルバレットに搭載された電子音が唱えられる。

 リリスたちと研究所のスタッフが固唾を飲んで見守る中、セキュリティキーパーの全身スーツが目映い光を放ち始めた。

 

           *

 

東京都 日本コミュニティーブロードキャスティング本社ビル

 

 日本におけるメディアの中心的放送局――それが【日本コミュニティーブロードキャスティング】、略称【NCB】である。この本社ビルの某編集室にて、番組編集を行っていたベテランディレクターとカメラマンが昼食がてら会話をしていた。

「もう少し素材が必要だな……おい児島、飯食ったらまた出かけるぞ」

「渡部さん、俺なんか凄い不安になって来ちゃって」

「え?」

「これ、ここ数か月に起きた集団犯罪の統計なんですけどね……ものすごい勢いで増えてるんですよ」

「集団犯罪?」

 カメラマンの児島は、昼食用のパンを齧りながら目を通していた一冊の週刊誌で組まれた特集ページをディレクターの渡部へと見せた。渡部が特集記事に目を通すと、過去数か月中に起きた集団犯罪に関する考察が載っていた。

「なになに? 〝それぞれの事件に関連は無いが、よく調べるとひとつだけ共通する事がある。それは……〟」

 共通項が何かについて記事を読み進めると、見出し程の大きな字で書かれていた漢字が五文字。

「〝動機不明瞭〟か……」

「そうなんですよ。特に理由も無いのに、どの事件も大きな事件にエスカレートしている」

 狂気に駆られた人々がツルハシやピストル、火炎ビンなどを使って互に争い合うシーンが雑誌中に掲載されている。集団犯罪が増え始めたのは、三か月前――ちょうどカルヴァドスがダークナイト事件を起こし始めた頃からだった。

「これも近ごろ増えてる怪しい宗教とかその手の影響ですかね? 何かと変な怪物も頻繁に町へ現れてるし……」

 最後のパンを口に含んでからそう呟く児島。これを聞いた渡部は雑誌を読みながら「確かに町を破壊する怪物は恐ろしい……」と共感しつつ、「だがな」と付け加える。

「本当に怖いのは児島……人の心が壊れてしまうって事なのかもな」

 

 そんな中、NCB本社半径三キロ圏内で異変が生じた。

「なにあれ?」

 人々が空を見ると、何の前触れも無く反時計回りに渦を巻く亜空間が発生。それに伴い、例の根源破滅教団もどこからともなく現れた。

「こんげん~~~!」

「「「はめつ~~~!」」」

 シャンシャン……。

「こんげん~~~!」

「「「はめつ~~~!」」」

 シャンシャン……。

「根源破滅の大いなる意志よ!! 罪深き人間を導きたまえ!! この地上よりその汚れを払いたまえ!! ああああああああ!!」

 教団の指導者が渦巻く亜空間に強く祈りを捧げる。

 すると亜空間内で強い稲妻が奔り、ピカッと光った途端――NCB本社屋を直撃する。様子を傍観していたカルヴァドスはこの状況にひとりほくそ笑む。

「ふふふ。さぁ、破滅を導く交響曲(シンフォニー)の始まりだ」

 

           *

 

同時刻――

警察庁 科学警察研究所

 

「駆動出力クリア。反応誤差零・零二以内。【ニューアームドシステム】――最終調整(ファイナライズ)、完了です」

 セキュリティキーパーの新型武装テストが無事に終了した。テスト終了と同時に春人は変身を解除し、テストルームを出て行った。

 実働テストの様子をかたわらで見守っていたリリスたちを始め敬三や研究所の職員は、驚愕の気持ち以上に春人が無事な事に安堵する。

「ふう……。どうにか間に合ったようだな」

「やりましたね、部長!」

「うむ」

「ハヒー……スゴかったですね!」

「あれが春人の、セキュリティキーパーの新武装の力か……!」

「確かにこれなら私たちにとっても心強いわ」

「そして新武装を軽々と扱える春人の驚異的な潜在的能力……相変わらず末恐ろしい男だ。本当に人間なのか?」

「悪魔の君や悪原リリスにだけは言われたくないよ」

 そんなジョークを飛ばして春人が戻って来た。敬三はテストを終えたばかりの息子の体調を真っ先に気遣った。

「どうだ春人、体は何ともないか?」

「僕はこの通りぴんぴんしてるよ。いつ敵が来ても大丈夫だよ、父さん」

「ふむ。頼もしい限りだ」

 息子の言葉に力強さを覚えた敬三は、息子の自信に満ちた笑みに釣られ微笑した。

 ピーピロピーピー……ピーピロピーピー……

 ちょうどそのときだった。誰かのスマートフォンに軽快なポップミュージック調の着信メロディが入ってきた。

「何? この変なメロディ?」

「これは……私が声を当てているアニメ『涼神(すずがみ)ハルコの鬱屈』の主題歌ですぞ!」

 聞いた瞬間、声優の仕事をしているレイが少し驚いた様子で説明する。

「やーねー。誰よアニソンなんて着メロにしてる幼稚趣味な物好きは?」

 と、ラプラスが臆面もなくはっきりとアニメの着メロを設定している人物を見下した発言をした直後だった。

「…………私だ。」

 敬三が気恥ずかしそうにしながら、己のスマートフォンを取り出した。

「「「「「「「「えええええええええええええええ!!」」」」」」」」

 あまりにも予想外な人物からのカミングアウトに春人以外のディアブロスプリキュアメンバーが驚愕の声をあげた。

「許してくれないかい? 父さんに電話がかかってくるときは、大抵悪い知らせが多い。せめて着メロくらいは楽しい曲がいいと思ったんだ」

「そ、そうなんですか……」

「だからってアニソンでなくてもよかったんじゃないかしら……」

 春人からの弁明を受けるも、どうにも腑に落ちないような晴れ晴れしない気持ちのリリスたち。そんな彼女達を余所に敬三はポップな着メロが鳴り続けるスマートフォンに耳を当てる。

「もしもし……私だ……なにっ!?」

 刹那、敬三の声色が変わった事で何か事件が起きたとリリスたちは瞬時に察した。

「わかった。詳細はこちらで確認する……」

 やがて渋い顔つきのままスマホを切ると、敬三はリリスたちに言って来た。

「都内ポイント二十一地区にて、時空に急激な変化が発生した。集束ポイントにはNCB本社ビルがある」

「NCBだって!?」

「それって……あの大手テレビ局の!?」

 吃驚するリリスたちを前に、敬三は彼女たちを真っ直ぐな瞳で見つめ真剣な表情で懇願する。

「みんな、直ぐに現場へ向かってくれ! なんだか胸騒ぎがする。早く行かないと取り返しのつかないことになるかもしれん」

「「「「「「「「「はい(ええ)!」」」」」」」」」

 首肯して、リリスたちは研究室を飛び出し現場へ直行する。

 部屋を出て行った彼女たちの身の上を心配しつつ、敬三は迅速なる事件解決を迫られる状況に重圧を感じていた。眉間に皺が寄り若干余裕を失くしている。そんな彼の前に、一人の男が近づき話しかけて来た。

「あの子たちがそんなに心配か? それとも、役職者としてのプレッシャーに押し潰されそうで怖いのか?」

「多分どちらもですよ。ただ、これだけは言えます。我々はあまりに無力です。警察官たる大人が、齢十四歳、十六歳という子どもの力を頼らなければこの現状を打破する事すら難しい話なのです」

「そうでもないさ。あの子たちもお主ら大人の力があって、初めて前に進めるのじゃ。大人とは子どもを導く為にある――そうじゃろう?」

 隣に立ち語りかけてくる男の言葉に、敬三は幾ばくか気持ちが楽になった。背負っていた重荷が若干軽くなった気がした。

「……あなたの言う通りですね。あなたが我々に協力して資金援助とともに開発に携わってくれていなかったら、セキュリティキーパーシステムの完成はあり得なかった。本当に心から感謝申し上げます――大河内会長」

「その名で呼ぶな。ワシにはベルーダと言う名前がある」

 言うと、それまで謎に包まれていた大河内財団会長兼ディアブロスプリキュアの後援者――ベルーダはほくそ笑んだ。

 

           *

 

同時刻――

日本コミュニティーブロードキャスティング本社ビル

 

「おい! サブ、サブ聞こえますか!?」

 稲妻が直撃したNCB本社ビル。局内では停電が発生し生放送中という状況で画面が砂嵐となった事で、スタジオ及び裏方も全てが混乱状態だ。

「一体どうなってるんだよ~~~!!」

「オレに聞くなッ!!」

 プルル……。

「ああ、早速苦情の電話か……」

 生放送中に起こったトラブルに視聴者からの苦情が来たと思った番組プロデューサーは、重々しい顔つきで側に置いてある受話器を取る。

「もしもし?」

 トゥルルル……。

「はい、磯野です」

 トゥルルル……。

「はい、山内です」

 トゥルルル……。

「はい、苫外です」

 停電に見舞われた局内では同時多発的に社員の携帯電話、あるいは局の固定電話へ着信が見られた。無論、渡部と児島も例外ではなかった。

 プルル……プルル……

 編集室の電話が鳴った折、渡部は編集途中の映像に一瞬だけ気味の悪い顔のようなものが映ったのを見逃さなかった。

「これは……!!」

 プルル……プルル……

 ひっきりなしに鳴り響く電話。児島がおもむろに受話器を取ろうとすると、血相を変えた渡部が咄嗟に止めた。

「児島ッ!! この電話出るな、絶対出るな!!」

 

 リリスたちはレイの新車に乗車し現地へと向かう。途中、同乗していた春人がNCB本社ビルで起こっている異常を手持ちのタブレット端末で調査・分析する。

「NCBビル内から非常に強力なパルス波形を感知した」

「一体何が居るっていうの?」

「それは行ってみないとわからない。ただ……これだけはハッキリと言える。敵は紛れも無く僕ら人類を根絶やしにしようとしているんだ」

 車はNCB本社ビルを目指し、一直線に国道を走り抜けていく。

 

 一方、異常事態から逃れようとしていた渡部は児島を連れて、暗く人気の無い異様に静まり返った廊下を移動していた。

「わわわ、渡部さん!! この現象何なんなんすか!? 突然真っ暗になって!」

「児島! 落ち着け!! 俺にも良く分からない、だけどここで慌てたら終わりだかんな!! 俺から絶対離れんなよ!!」

 児島以上に渡部も相当戦々恐々だ。そんな頼りなさ気な上司を前に無事にここから出られるのかと、児島が思ったそのとき。

「ああああ!! 渡部さん、マズイっすよ!! 人が、人が……!!」

「ぬああああああ!!」

 プルル……プルル……

 携帯電話から固定電話に至るまであらゆる電話の音が鳴り響く。社内で電話の音を聞いた局員のほとんどが謎の洗脳状態に置かれると、情緒不安定ながらも正気を保っている渡部と児島に向かって前進して来る。

「みんなどうしちゃったんですかね!?」

「まるで何かに操られているようだ……逃げるぞ!!」

 踵を返して逃げようとする二人。が、その矢先に今度は後ろの方からも同じように洗脳状態に置かれた同僚たちが向かって来た。

「おい来んなよお前ら……!! 俺を誰だと思ってるんだ、俺学生時代元・暴走族の総長だったんだぜ!! ケンカしたらヤバいんだからな!!」

「見え張ってんじゃねぇよ児島!! お前本当は暴走族の総長じゃなくて放送部の部長だろぉ!!」

「渡部さん、それ言っちゃおしまいっすよ!!」

「ああ……もうおしまいだ!!」

 追い詰められた挙句打つ手の亡くなった二人は、最後の最後で漫才のような掛け合いをし、そして……。

「「あああああああああぁぁぁぁぁぁ~~!!」」

 前後方からの攻撃を回避する事もかなわず、悲鳴を上げながら人の波に呑まれゆっくりと沈んで行った。

 

「こんげん~~~!」

「「「はめつ~~~!」」」

 シャンシャン……。

「こんげん~~~!」

「「「はめつ~~~!」」」

 シャンシャン……。

 数分後、リリスたちはNCB本社ビル前に到着した。

 本社ビル上空には例の亜空間が継続的に稲妻を発生させており、更に眼前からは根源破滅教団が並列になって歩いてくる。

「ハヒ、あの人たちは……!」

「まためんどくさいのが出たわね」

 これを見た春人は前に出ると、前進して来る根源破滅教団に強く言う。

「退きなよ。君たちに用はないよ」

「ふふふ……地球の意志に背きし反逆者め。大いなる根源破滅の裁きを受けるがよい!!」

 指導者が語気強く唱えた途端。集まった信徒たち全員が人の姿から一変、カオスピースフルへと変貌した。

『『『『『『カオスピースフル!!』』』』』』

「こいつら!!」

「カオスピースフルが化けていたのかっ!!」

「やっぱり教会の仕業って事ね! なら遠慮は無しよ!!」

 

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「シャイニングパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「バスター・チェンジ」

「実装!」

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」

「不浄を焼き払う聖なる光! キュアケルビム!」

「影に向かいて影を斬り、光に向かいて光を斬る。暗黒騎士バスターナイト」

「非道な悪事に正義の鉄槌下す者。その名はセキュリティキーパー」

「偽りの善幸を根絶やし!」

「邪な悪行を断罪する黒き力!」

「我ら、悪魔と魔女、天使、暗黒騎士、探偵のコラボレーション!!」

「「「「「『ディアブロスプリキュア』!!」」」」」

 

「ベリアルスラッシャー!」

「ファイアーマジック!!」

 ――ドカン!

『『カオス~~~!!』』

「ホーリーアロー!!」

「ダークネススラッシュ!!」

 ――ドドン!

『『『ピースフル~~~!!』』』

 有象無象のカオスピースフルを相手にするのは骨が折れる。誰か一人でも局の中に入れようと、正規のディアブロメンバーは最年長者で警察組織の一員でもあるセキュリティキーパーを送り出す事にした。

「春人!! ここはオレたちが食い止める!!」

「先にビルの中に入ってください!! はるかたちも必ず追いつきます!!」

 この言葉を聞くと、セキュリティキーパーは背中を向けてから「……恩に着るよ」と小さな声で呟き、駆け足でビルの中へと向かって行った。

『『『カオスピース!!』』』

「邪魔だよ」

 バシュン――。

『『『フル~~~!!』』』

 行く手を阻むカオスピースフルをSKメタルシャフトで捻じ伏せる。セキュリティキーパーは正面玄関から潜入し、局の中枢部分を目指す。

「っ!」

 その道中だった。セキュリティキーパーは局内で偶然遭遇した人物と顔を合わせた瞬間、思わずその足を止めてしまった。

「き、貴様は…………」

 見た瞬間、眼球が充血し真っ赤になる。冷静沈着な彼の思考は怒りと悲しみ、憎しみの思念に徐々に支配されていく。

「どうした? 私の顔に何かついているのか?」

 セキュリティキーパーを前に不敵な顔で問いかける根源破滅教団教祖――若王子素十九。かつてのテロ事件で春人の最愛の母・暦の命を奪った男だ。

 直後、セキュリティキーパーもとい、春人は武装を解除した。

 やがて右手のSKバリアブルバレットの銃口をおもむろに若王子の心臓へと突き付ける。瞳に映る標的を決して捕え損ねる事が無いよう。

「貴様は……僕がこの手で……斃す!!」

 長きに渡り封じられてきた怨嗟の念、復讐の箍。その箍が今まさに外れる――――!!

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

は「怒り、哀しみ、苦しみ――積年の恨みを晴らすべく鬼と化す春人さん」
朔「早まるな春人っ! お前が今すべきことは復讐なんかじゃない! 今こそ目覚めるんだ、春人!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『最後の砦!セキュリティキーパー・アサルトバース!!』」
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