ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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今回お送りする話で、第4章の内容が終了し正式に最終章へと続く形となります。
後半部分で衝撃の展開が待ち受けていると思いますが、ビックリし過ぎないでください。
カルト教団VS春人の最後の戦い、彼の勇姿にご期待ください。



最終章:黙示録獣復活編
第41話:最後の砦!セキュリティキーパー・アサルトバース!!


さかのぼること、十年前――

東京都 大田区 田園調布 神林邸

 

「お母さん! お母さん!」

 十一月二十三日の朝。当時六歳だった少年・神林春人は小学校へ行く直前、最愛の母である暦へと無邪気な笑顔で呼びかける。

「明日はお母さんの誕生日だよね!」

「ええそうよ」

「誕生日プレゼントは何がいい?」

「そうね……春人がくれるものならなんでもいいわ」

「ぼく、お母さんがビックリするようなものあげるから! 楽しみにしてて!」

「ありがとう春人。さ、早くしないと遅刻するわよ」

「はーい!」

 微笑みながら母が無意識に手に触れる金十字のネックレス。それが何よりも大切にしているものであることを春人はよく識(し)っていた。

 

 ――いつだって、いつだって母さんは僕に優しく微笑みかけてくれた。僕も父さんも母さんのあの微笑を見るのが好きだった。

 ――母さんは世界的にも有名なピアニストだった。父さんとの馴れ初めは詳しくは知らないけど、父さん曰く運命的な出逢いだったという。

 ――結婚して直ぐに僕が生まれ、程なく現役を引退。それからは自分の持っているスキルを活かして音楽スクールの非常勤講師として週に一、二度外に出る事があった。

 ――あの日も母さんは、僕と別れて直ぐに仕事へと向ったらしい。まさか、母さんの声を聞くのがその時が最後の日になるとは思いもしなかった。

 

「お母さん…………?」

 ――学校が終わると、僕は血相を変えて迎えに来た爺やの車で都内の病院へと向かった。別に病気やケガをした訳でもないのにどうして、そう思いながら何も知らず病院へと向かった。

 ――病院に着くと、母さんが個室のベッドの上で眠っていた。怪我でもしたのかな、何か病気にでも罹ったのかと思ったがそれは間違いだった。

 ――まるで人形にでもなったかのように、母さんはピクリとも動かなくなっていた。

「お母さん……どうして眠ってるの? どうして何にも言わないの?」

 ――僕の呼びかけに答えるはずもなく、母さんはただ黙したまま真っ白な死に顔を向け続けた。枕元で立ち尽くす父さんはただ悔しそうに息の無い母さんを見つめ、ずっと渋い顔を浮かべていた。

「お父さん、お母さん目覚めないよ。何とか言ってよ、お父さん!」

「春人……すまない。お父さんにもどうする事も出来ないんだ」

 ――嗚咽を必死に抑え、平静を装うとともに父さんは弁明した。その瞳には薄ら涙が浮かんでいたのをよく覚えている。

「お母さん……お母さん……ぼくだよ……春人だよ……ねぇ、返事してよ……ねぇ……ねっーてば!!」

 ――何度も声を震わせ大声で呼びかけた。だが、どんなに希っても母さんが僕の声に反応し、再びその息を吹き返す事は決して無かった。

「お母さああああああぁぁぁん!! アアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!」

 ――この日、僕たち家族から「太陽」が消失した。

 

 ――母さんを死に追いやったのは、中東諸国で大量殺戮を目的に製造された恐怖の化学兵器。ほんの少量でも人を簡単に殺める事が出来る強力なものだ。

 ――そんな危険極まりないものを使ってテロ事件を起こした連中こそ、若王子素十九を教祖とするあのカルト教団だった。教団名は口にする事さえ忌々しい。その教えは拉致・監禁を許し、殺人さえも肯定した。

 ――若王子が幹部信者に命じたのは、通勤ラッシュで賑わう地下鉄車内に毒物を撒き散らす事だった。当時の捜査資料を読み返すと次のように記載されていた。【ラッシュアワーの混雑に忍び込み空は晴れ渡っていたのに、何故か信者たちはビニール傘を手にしていた】と……。そして、三つの路線と五つの車輛に毒物が撒かれた。

 ――何の罪も無いたくさんの人々を殺し日本中を震撼させた。そう、あの日……僕の母さんも仕事に向かうため偶然にも車輛内に乗り合わせていた。

 

「本件における犯行は極めて残忍で、極刑も止むを得まい」

 ――あの男の裁判を傍聴しに行った時だった。法廷で死刑判決が言い渡された瞬間、僕は見逃さなかった。あの男が薄ら笑っていた事を。

 ――信じられなかった。僕と父さんから母さんを奪ったあの男は、母さんだけでなく他の人たちを殺した事に対しても何の謝罪の言葉も無かった。そればかりか、ああやってほくそ笑んでいたのだから。

 ――僕は奴の人間味の欠片も無い、悪魔的な態度がどうしても許せなかった。

「この人殺しがッ!!」

 ――思わず僕は傍聴席から乗り出した。父さんが僕を押さえつけるあいだ、法廷を退出するあの男に向かって感情の赴くまま怒号を発した。

「お前なんか……お前なんか……いつか必ず殺してやるっ――!!」

 ――母さんはなんの為に生まれ、何故死ななければならなかった……!?

 ――僕は断じて許さない! もしも刑期の途中で、奴が何らかの方法で檻の外から出て来たのなら……

 ――その時は、僕が必ずこの手で斃す!!

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 

           ≒

 

現代――

東京都 千代田区 とある雑居ビル

 

「亜空間、依然としてエネルギーを増大中!」

「強力な電波干渉の為、ディアブロスプリキュアとの連絡も途絶えました!」

「まるで情報が確認できないとは……NCBの中は一体どうなってるんだ!?」

 科警研から対策課本部へとんぼ返りした神林敬三。電波干渉による影響で情報が錯綜し統率の取れない状況に苛立ちを隠せない。

(敵の狙いはなんだ? リリス嬢たちの事じゃから大丈夫ではあると思うが……)

 敬三に同伴する形で対策課へと足を運んだベルーダはモニター画面を凝視する。

(何か大きな変化が起ころうとしている……よもや、この世界の理(ことわり)を容易く覆しかねん大きな局面を迎えようとしているのか?)

 いつも飄々としている顔つきから一変、眉間に皺を寄せ、腕組みをしながら現地で敵と戦うリリスたちの事を案じ続ける。

 そして、不透明で先行き知れない混沌に渦巻く世界の行く末を――……。

 

           *

 

日本コミュニティーブロードキャスティング本社ビル前

 

「ブレイズバーン!!」

「〈バーニング・ツイン・バースト〉!!」

 ひっきりなしに続く爆発と衝撃。集団となって襲い掛かるカオスピースフル軍団を無心になって掃討するディアブロスプリキュアメンバー。

『『『カオスピースフル!!』』』

 だが、いくら倒してもその数にきりがない。倒したそばからまた新たなカオスピースフルが生まれ襲い掛かってくるのだ。

「な、何なのよこいつら……!?」

「これじゃ直ぐに春人さんに追いつくなんてできません!」

「どうあっても私たちをビルの中には入れさせないつもりのようね」

「その通りだよ」

 するとそのとき――ケルビムの言葉を肯定し、頭上よりはぐれ悪魔カルヴァドスがはにかみながらゆっくりと舞い降りてきた。

「カルヴァドス……貴様!」

 顔を見た瞬間、バスターナイトの怒りのボルテージが一気に上がる。沸々と昂る感情を堪えるとともに剣を握りしめる力はより一層強くなる。

「ハーイ、みんなー。また来ちゃったよー♪」

「あんた……今度はいったい何を企んでいるつもり!?」

「ふふーん……何だと思う? 見事正解したら、ご褒美に素晴らしいプレゼントをあげちゃうよ♪」

「ふざけないで!!」

「貴様とクイズ大会をしに来たつもりはない!」

 相も変わらず人を食った態度を見せつけるカルヴァドスにベリアル達は怒り心頭。たまらず声を荒らげる。

「みんなノリが悪いな~。まぁいいや、とりあえず君たちを中に入れさえしなければ後はどうとでもなるから」

 言うと、カルヴァドスは右掌に魔法陣を出現させ亜空間に収納していた身の丈を遥かに超える大きさの黒い魔戦斧【アドラメレク】を取り出した。圧倒的な巨大さと殺傷力を兼ね揃えた武器を携えたカルヴァドスの姿は、さながら命を刈り取る死神を彷彿とさせた。

「んじゃまぁ、悪魔らしく……君たちの命まとめて刈り取ってあげるよ♪」

「その科白と武器はあんたみたいな奴が使うと余計にシャレにならないんだけど……」

 額に一筋の汗を流すとともに、ベリアルは苦い表情で指摘した。

 

           *

 

同時刻――

日本コミュニティーブロードキャスティング本社ビル内

 

「貴様は……」

 見た瞬間、眼球が充血し真っ赤になる。冷静沈着なセキュリティキーパーの思考は怒りと悲しみ、憎しみの思念に徐々に支配されていく。

 彼の視線の先に映る人物。かつてのテロ事件で春人の母の命を奪ったカルト教団の教祖――若王子素十九。

 彼との接触が、セキュリティキーパーの脳裏に忌まわしき記憶を再現させた。

「どうした? 私の顔に何かついているのか?」

 あれから十年の月日が流れた。たった今、セキュリティキーパーが心の底より殺したいほど憎んでいる相手が目の前に立っている。

 湧き上がる憎悪の感情に心支配されていくと、セキュリティキーパーは変身を解除してからSKバリアブルバレットの銃口を若王子の眉間へと向け、赤外線ポインターで照準を定める。

「そうか……君はあのときの……」

 春人の面影から、若王子は当時裁判の席で自分を殺すと言って来た少年が彼であると察した。

「貴様だけは……この手で……」

「ほう。警察官の息子である君が犯罪者の私を殺すか。なるほど、それも悪くない……だがそれで、君の母親は本当に救われるのかな?」

 不敵な笑みで、逆に春人を諭すような言葉を向けてくる。聞いた瞬間、春人は歯茎から血が滲む程の悔しさを抱いた。

「母さんを……母さんを奪った男が……知ったような口を聞くなぁっ――!!」

 ――ズドン!!

 激昂した直後に発砲。

 放たれた一発目の弾丸を、若王子は慌てる事も無く平気で躱す。

 しかし、春人はその後も若王子目掛けて撃ち続ける。

 ――パン!! パン!! パン!!

 怒りの形相で若王子を狙い、執念深く弾を乱射する。今の春人の心は憎悪、怒り、哀しみと言う負の感情に占められている。

 若王子は自分へと向けられる凶弾まるで最初からどこへ飛んでくるのかが分かっているかのように、すべて紙一重で躱し続ける。

「無駄だ。私はこの世で唯一の最終解脱者だ。堅気の武器では私は倒せない」

「黙れぇっ――!!」

 

 ――パン!! パン!! パン!!

 建物の外でベリアル達と戦っていたカルヴァドスだったが、不意にビル内からひっきり無しに聞こえてくる銃声音が気になり手を止めた。

「おや? なんだか向こうはかなり盛り上がってるみたいだよ」

 腹に籠ったような音だった。ベリアルたちもカルヴァドス同様、戦う手を一旦止めて耳を澄ませる。

「この音は、春人さんの……!」

「妙だな。普段の春人なら敵を仕留め損ねる事などないはずだ」

「まさか彼が……?!」

 ここでようやく、春人の身に予想外の事態が起きているのだと察した。

「はるか!! カルヴァドスは私たちで何とかするから、あなたは春人を!!」

「は、はい!! クラレンスさん、行きますよ!!」

「わかりました!!」

 ベリアルの判断に基づき、ウィッチは戦闘を中断してクラレンスを引き連れ春人の元へと走った。このとき、カルヴァドスは敢えて彼女たちを追おうとはしなかった。

(春人さん……御無事でいてください!!)

 

 ――パン!! パン!! パン!!

(フ―……フー……殺してやる……どこにいる、若王子……!!)

 怒りは人を鬼に変える。

 積年の憎悪によって神林春人の中にあった箍は完全に外れ、理性を失い本能のおもむくまま標的を狙い続ける。標的とされた若王子は春人の視界から姿を消している。

「ふふふ……」

 と、そのとき。背後から若王子らしき笑い声が聞こえた。

(そこか!!)

 振り返って撃とうとした瞬間、春人目掛けて若王子が急接近してきた。

 すかさず撃とうと引き金に手を掛けた途端――若王子は右手を突き出し、春人の腹部目掛けて掌打を放った。

「ぐっは……」

 ドカン、という強い衝撃音が木霊する。

 生身の体だったゆえにその反動は大きく、春人は後方へ吹き飛ばされるとともに所持していた銃を手放してしまった。

「が……き……きさま……その姿は!?」

「言ったはずだ。私はこの世で唯一の最終解脱者だと……これこそ、私が解脱者たる明確なる証だよ」

 そう言いながら、若王子は変化した右腕を見せた。

 右腕は人間のそれではなく、ところどころ肌はけばけばしい色をしていて、細部には鋭い突起物のようなものが生えている。

「ま。あのカルヴァドスとか言う悪魔にも一応は感謝しているよ。どれだけ努力しても、私一人の力ではこの短期間で人間を卓犖(たくらく)した存在へ上り詰める事は不可能だっただからな……』

 やがて、右腕を端にして若王子の全身が著しく変化した。外見は美しいヒョウの姿をしているが瞳には途方もない悪意が感じられる。自らを最終解脱者と称した彼はこの短期間に人間からクリーチャーへと進化を遂げたのだ。

『君をこの場で殺してもいいが、些かそれもまた惜しい』

 動けない春人の方へクリーチャー・オセはゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。

「春人さん!!」

 すると、異変を察知したウィッチとクラレンスが現場へ到着した。

「逃げろ……近寄るんじゃな……い」

『ほう……これはまたカワイらしい。君の仲間だろう?』

 傷ついた春人を助けに来たウィッチとクラレンス。朦朧とする意識の中、春人はか細い声で二人に逃げるよう求める。

 だが、ウィッチはクラレンスをキュアウィッチロッドに取り込むと、プリキュアとしてクリーチャー・オセと戦おうという意思を見せた。

「春人さんをどうするつもりですか!?」

『さぁ。どうするのかな?』

「返してもらいますよ、力づくでも!!」

〈春人さんは私たちの大切な仲間です〉

 芯の強い言葉で言うと、ウィッチは春人奪還の為に力を振るおうとした。

 しかし直前。オセは瞬間移動の如き速さでウィッチの懐へと入り込むと、接近された事にも気づかぬ彼女の腹部を強打――ウィッチを昏倒させた。

「はるか……!!」

 オセは昏倒させたウィッチを肩に抱えると、春人を嘲笑うかの如く薄ら笑みを浮かべる。

『君にはもう少し、私の余興に付き合ってもらうよ――――』

 

「アヴァランチステップ!!」

 戦いの最中、ヘルツォークゲシュタルトとなったベリアルが繰り出す怒涛の攻撃。

 カルヴァドスはレイハルバードの斬撃を手持ちのアドラメレクで易々と受け止め、大きく振りかぶって旋風を巻き起こし払いのける。

「はああああ!!」

 すると頭上からクリムゾンデュークとなったバスターナイトの灼熱の剣閃が向けられた。

 変わらず手持ちの魔戦斧でバスターナイトの剣を受け止めいなす。

 しかし直後、背後に回り込んだオファニムモードのケルビムが聖槍ジャベリンを携え急速接近する。

「このっ!!」

 ジャベリンによる一突きを食らいそうになったが、ギリギリのタイミングで顔を後ろへと逸らし攻撃を回避――カルヴァドスは後ろへバックステップしながらベリアルたちとの距離を計る。

「……なるほどねぇ。ボクも些か君たちを見くびり過ぎていたかな。君ら、思った以上に強いじゃない。ホセアさんが脅威を抱くのもよく分かる気がする」

 カルヴァドスは素直にベリアルたちを評価しているが、当人たちは警戒心を一切緩める事無く固く身構えている。

 すると、カルヴァドスは魔戦斧を肩に担ぎながらふとして呟いた。

「たった数百年で二百種以上……」

「え?」

「人類が絶滅させた動物たちの数だよ。人間はそのエゴで他の生物を殺し続けている。それどころか互に憎み合い、恐ろしい殺戮兵器でこの地球自体すら破壊しかねない。まさにがん細胞そのものだ。もし地球上で絶滅してもいい種があるとすれば……それはぶっちゃけ人間だけかもね♪」

「だからあんた達が人間を粛清しようっていうの? もし仮にあんたの言ってることが正しいとして……あんたや教会連中に何の権利があるって言うのよ!?」

「声無き地球の声をボクらが代弁してやっているんだ。ただでさえ、あと三十年もすれば世界の人口は九十億人に達するって言われてるんだよ。そんなに人が増えちゃ地球だってかわいそうだ。今だって十分痩せこけているのに、更にがん細胞が増えたりでもしたら本当に洒落にならない事になる。そうなる前に手を打つんだよ……具体的に何をすべきか、簡単な方法がひとつ。人間の数を減らしちゃえばいいんだ♪」

 笑みを浮かべながら恐ろしい事を口にすると、カルヴァドスは右手の人差し指でパチンとフィンガースナップを決めた。

 これを合図として、カルヴァドスの周りには根源破滅教団の信徒たちとカオスピースフルが集まって来た。

「ボクらは手遅れになる前にある程度の数まで人間を間引かなきゃならない。だけど誤解しないで。ボクらは別に恨みがあって君たちを殺すんじゃないんだ。すべてはこの地球(ほし)の未来の為――間引きの理由にそれ以上のものは求めていないよ。だから、この地球の事を思って昇天してくれないかな?」

 飽く迄もカルヴァドスはそう言って来るが、ベリアルたちは知っていた。このはぐれ悪魔に尊大な思想や信念といったものが無い事を。ただいたずらに、自分の欲望のままに人の命を弄んでいる正真正銘の悪魔以外の何ものでもない事を。

 信念無き欲望の権化ほど厄介な敵はいない。ベリアルたちは挙って額から汗を流すと、この窮地をどう乗り切るかを必死で思案する。

 

           *

 

同時刻――

NCB本社ビル 某所

 

「うっ…………」

 深い眠りから目を覚ますと、春人は見知らぬ場所でひとり椅子に腰かけていた。

 周りからはピアノを演奏する音が聞こえてくる。どこか懐かしい感じだと思いながら眼前に注目すると、グランドピアノが置いてあった。そして演奏をしていたのはあまりに意外な人物だった。

 春人は一瞬目を奪われた。演奏者は十年前にこの世を去ったはずの母親・暦だった。

「母さん……」

 世界的ピアニストとして名を馳せた母の演奏は艶のある音色と旋律が特徴だった。もう二度と聞くはずもないと思っていた音を再び聞いた事、心から愛した母の生前と何ら変わらない姿に驚愕するあまり、春人は言葉を失った。

 やがて演奏が終わると、黒いドレスに身を包んだ暦はゆっくりと立ち上がってから愕然として立ち尽くしている春人の方へ近づき声をかける。

「私をホログラムだとでも思っているの?」

「え……」

「私ね――黄泉の国から帰って来たのよ、春人」

 そう言って近付くと、「ほら」と暦は春人の左頬に手を添えた。

 暦に手を触れられた瞬間、春人はまたしても言葉を失った。紛れも無くそれは昔味わった事のある母の手の温もりであり、感触さえも寸分違わぬものだった。

「まさか……」

 本当に死者が蘇ったのか――春人の中の理性は一気に崩れかけ、血潮は激しく滾った。

「また正義について一緒に考えましょう。昔みたいに……」

 暦は、愛する息子を前に妖艶の笑みを向けてきた。

 

           *

 

同時刻――

東京都 千代田区 とある雑居ビル

 

「干渉電波は何処から出ている!?」

「干渉波の発信源はNCBの社屋内です!」

「ビルの中からだって?! ベルーダ博士……これは一体?」

 敬三がベルーダに意見を求めると、ふけが溜まりがちな髪の毛をボサボサと掻きながら的確な答えを口にする。

「敵の狙いは、干渉電波を広範囲に拡散させるつもりだと思われるのう……」

「広範囲に!? それでテレビ局を……!」

「放送波を利用されれば、精神汚染は爆発的に広がるからのう。カルヴァドスは人間同士を戦わせ、自滅へと追い込む……それが奴の本当の狙いじゃよ」

 

           *

 

同時刻――

NCB本社ビル 某所

 

「僕を……どうするつもりなんだ?」

「迷いを捨てて。そうじゃないときっと春人は忘れてしまうわ。正義を守るという大切な使命を。邪魔な存在はすべて消すのよ」

 あの優しい母の口からそんな物騒な言葉が飛び出すはずがない――頭では必死で否定しようとしているのに、心はなかなか認めようとしない。

「まずはそいつらを」

 すると、ガタっという音が聞こえ部屋にある隠し扉が開かれた。

 クリーチャー化した若王子に昏倒させられ、いつの間にか姿を消していたはるかと彼女の使い魔クラレンスがロープで手足を固定させられ口布を当てられた状態で椅子に括り付けられていた。

「「うううううう……!! ううううう……!!」」

「はるか!! クラレンス!!」

 まさかこの二人を……信じたくはなかったが、どうやら間違いないらしい。現に暦から春人の手に、SKバリアブルバレットが渡された。

 いくら母の言葉でもこれを引き受けたら最後、人間ではなくなると思った。

 拘束され苦しみ喘ぐはるかとクラレンスを見たのち、春人は銃口を暦の方へ向けると……

「お前は……母さんなんかじゃない!! 消えろっ!!」

 悲痛に満ちた表情で叫んだ。すると暦は春人を直視しながら「あなたに私が撃てるかしら?」と、嘲笑するように問いかける。

 この上も無く動揺する春人は銃口を暦に突き付けたまま一歩後ずさり、引き金に手をかけたまま躊躇し撃つに撃てない。

「撃てば二度と私はあなたの前に現れないのよ? それでもいいの?」

「僕は……」

 銃身が小刻みに震える。春人は躊躇っていた。このまま暦の姿を模った偽物を撃つべきか否か――はるかたちを助けたい、だけど母を撃ちたくない。二律背反の感情に苦しむ春人を前に暦は教唆する。

「春人には私が必要なはずよ。あなたの理想、あなたの孤独、そのすべてを理解できるのは私しかいないんだもの。春人をこんなにも堕落させて……」

 しかしこの言い分に対して、口布を自力で外したはるかとクラレンスは反論する。

「春人さんが苦しんだのは人間だからですよ!! 春人さんも私たちと同じ人間だから!!」

「その通りです!! 春人さんは……我々が知っている春人さんは、堕落なんかしていない! いつだってその胸には、燃えるような正義の心が宿っているんです!!」

 人間故に間違いを犯し、人間故に苦しむ。それだけ人の心は脆くもあり強くもあるのだと二人は暗に主張する。

 しかし、この反論に対して暦は無視を決め込むと春人を見ながら冷たく言い放つ。

「――あの小うるさい女と使い魔を撃ちなさい。そしてもう一度戦うのよ。正義を守るため、愚かな者たちをこの地上から消し去るのよ!」

 語気強く言われ、春人は暦に向けていた銃口をはるかとクラレンスへと向けた。

 二人を狙い定める春人の手は震えが一向に止まらない。春人の指先が今、引き金に掛けられる。

 死を覚悟し二人は目をつぶる。無意識にはるかとクラレンスは互いの手を握り合っていた。春人はおもむろに、引き金を引いた。

 

 ――ドンッ。

 銃声音が鳴った後、はるかとクラレンスはおもむろに目を開ける。銃弾が貫通したような痛みは全く感じない。そればかりか、傷痕すら付いていない。

 春人が撃ったのは二人ではなく暦の方だった。暦の心臓は貫通し、白い煙が薄ら上がっていた。

「軟弱な子……いつも肝心な時に……」

 か細い声で春人を非難する。よたよたとグランドピアノに寄りかかると、暦はそのまま息絶えた。

 結局、春人が選んだのははるかたちを助けるという選択肢。偽物とは言え自分の母を手に掛けた事に苦しみながら、ゆっくりと銃を下ろす。

 その後、無事救出されたはるかとクラレンスが春人の顔を見ると、目から零れ落ちていないものの双眸には涙と呼べる水滴が溜まっていた。

「春人さん……」

「僕には……何も救えやしなかった。何ひとつ……」

「そんな事はありません。あなたは確かに、我々を助けてくれました」

 判断は正しかったとクラレンスは励ますが、当人の心に負った傷は大きかった。何かを救う為に何かを犠牲にした――そんな気持ちが拭えない。

 と、そのとき。動かなくなった暦の体が粒子状となって突如消失した。

『もう少し君を利用できれば面白かったのにな……』

 周囲から春人を嘲笑する声が聞こえてくる。最初暦の声色だったものが徐々に若王子のものへと変わっていった。この場に居合わせた三人はその声に聞き入った。

『まぁいいさ。これから私は日本中、やがて世界中に干渉波を拡散させ人間共が憎み合い滅ぶ様を見届けてやるのだ。ふははははははは……』

 これまでに体験した事のない怒りが湧き上がる。若王子は春人の記憶から暦の偽物を作り出し、彼の心を翻弄したのだ。この卑劣極まりない敵のやり口を春人は決して許せなかった。

「人間の心を弄ぶ……貴様のやり口は卑劣すぎるぞ、若王子!!」

「追いかけましょう、春人さん!!」

「何としてもヤツを倒しましょう!!」

 部屋を出ると、三人は階段を伝い若王子の元へと向かう。

 だが建物の中は既に若王子が放った地獄のクリーチャー軍団によって占拠されている。春人たちを一網打尽にしようとするオセは、離れた場所から思念通話で呼びかける。

『私を許せないか。ならばここを無事に切り抜け、私のところへ来るといい。そして見せてもらおう、君の言う正義とやらを」

「……貴様だけは許さない。絶対に」

 SKバリアブルバレットを手にした春人は、実装という掛け声を唱えずセキュリティキーパーへと変身する。

 直後、銃身表面に刻まれたナンバーを【1】から【2】へと切り替えSKバリアブルバレットを天高く掲げた。

「アサルトバースシステム――実装!!」

〈Set Up. Assault Verse System.〉

 電子音が聞こえると共に、セキュリティキーパーのボディスーツが目映い光を放ちながら新たな姿へと変化する。

 スーツ部分にフォトンが駆け巡る事で灼熱の炎を彷彿とさせた全身が赤から青に染まり、胸部には強力な攻撃に耐え得る強化プロテクターが装備され、ヘルメットには特殊なインカムが、脚部には強化装甲が増設される。極め付けにSKバリアブルバレットの形状も上下二つの銃口を兼ね揃えた多機能マシンガンへと変化した。

 今ここに、あらゆる悪の脅威から人々の平和と安全を守る戦う為の警察最後の砦――【セキュリティキーパー・アサルトバース】が誕生した。

 キュアウィッチ・ヴァルキリアフォームへと変身したはるかと隣合わせになったセキュリティキーパーは、眼前のクリーチャーたちを見据えながら、専用武器【SKバリアブルリボルバー】を構え力強く宣言する。

「僕を怒らせた事を後悔させてあげる。一匹残らず制圧だ!!」

 

「「「はああああああ!!」」」

 建物の中でも外でも繰り広げられるプリキュア対カルト教団との熾烈極まる戦い。

 ベリアルとバスターナイト、ケルビムが三人がかりで数で勝る根源破滅教団と激しい闘争行為を繰り広げていると、突然状況が変わった。

 テレビ局上空に出現した例の亜空間から忙しなく稲妻が奔ると、空間の裂け目から唸り声のような気味の悪い音が聞こえてきたのだ。

「なに、この声!?」

「何がどうなっている?」

「ふふ。聞こえるかい、あの亜空間からこちら側の世界を覗くものの声が。おっと、ちょっとだけ顔を見せてくれるようだよ」

 言いながらカルヴァドスが視線を亜空間の奥へと向けると、確かに彼の言う通り深奥から何かがこちら側の世界を覗き込んでいた。

 目のように光るそれはベリアルたちをじっと見据えている。得体の知れない何かに凝視されるのはあまり気分の良い物ではなかった。だがなぜだろう、ただ見つめられているだけなのにベリアルたちは体の力が抜ける感覚を味わった。

「なに……あれ……」

「わかりません。ただ、あれがものすごく危険な存在である事は確かです……」

「まだまだアレを復活させるにはエネルギーが足りないんだよね。そう、人間同士が憎み合い争いあった際に生じる上質のエントロピー……それこそアレを復活させる最大の鍵となる」

「アレって何なのよ? 一体あんたや教会連中は何をしようとしているって言うの!?」

「さぁ~て……何がしたいんだろうね」

 真実をはぐらかし人を弄ぶカルヴァドスの態度に、ベリアルは堪える事が出来なかった。

「ふ、ふざけんな――!!」

 頭に血が上った彼女はカルヴァドスへ接近――渾身の一撃を彼の顔面へと食らわせる。

「はああああああああああああああ!!」

 ――バチン!!

 カルヴァドスは真正面から突っ込んできたベリアルのパンチを食らうどころか、容易く受け止めた。

「突進からの渾身の一撃……それじゃバカのひとつ覚えだよ♪」

 と、次の瞬間。

「キャアアアアアア!!」

 ベリアルの腕を強く掴むと遠心力を用いて勢いよく投げ飛ばした。

「「「「「リリス(様)(ちゃん)(さん)っ!!」」」」」

「よそ見しちゃダメだよ」

 思わずベリアルに目を奪われた他のメンバーへ音も無く近づくと、カルヴァドスは手持ちの戦斧を薙ぎ払う。

「「「「「ぐあああああああああ!!」」」」」

 凄まじい一撃にメンバーは大ダメージを受けた。

 ほとんどのメンバーが瀕死の重傷を負う中、レイだけは傷が浅く辛うじて意識を取り戻す事が出来た。

「リリス様……くそっ!!」

 命よりも大切な主とその仲間をいたずらに傷つけるカルヴァドスが許せなかった。満身創痍な体を何とか起こすと、レイはいきり立った顔を浮かべながらカルヴァドスを鋭く睨みつける。

「よくも……よくもリリス様やみんなをっ……カルヴァドス!!」

「お~、こわいこわい。そんな剣幕で睨まれるとさすがに委縮しちゃうな。でも君も変わってるよね。主人でも何でもない悪魔の為にそこまで本気になれるんだから」

「……何……………?」

 訳の分からない事を言って来たカルヴァドスを、レイは怪訝そうに見つめる。

「あれ? もしかして気づいてなかったのかい? 君さ、リリスちゃんの使い魔だと思ってるようだけど……それ違うからね」

「な……何を言っている? 荒唐無稽だ、私を貶めるためにわざとそのような妄言を!!」

「いや、ウソじゃないってば。ボクには視えるんだよ。主とそのパートナーとの【契約の糸】が。そこで寝転がってる暗黒騎士とサキュバス、天使と妖精ちゃん、建物の中に入って行った魔女さんとカーバンクルには紅い色をした契約の糸がある。だけど君とリリスちゃんにはそれがない。これは事実だよ」

 カルヴァドスの特殊な目は使い魔、または妖精と契約を交わした者を結ぶ【契約の糸】を確りと捉えていた。糸はパートナー同士の小指と小指とで結ばれており、例外的にベリアルとレイにはそれが存在しないとカルヴァドスは言い張った。

「デタラメを言うな!! 私は悪原リリス様の使い魔だ!!」

「じゃ聞くけど、リリスちゃんといつ契約を交わしたの?」

「なっ…………」

 身も蓋も無い事を尋ねられた。

 レイは咄嗟に思い出そうとするが思い出せなかった。頭の中の記憶をいくら引っ張り出してもベリアルと契約を交わした日がどこにも存在しなかった。

「あとリリスちゃんがカイゼルゲシュタルトの力に目覚めた際、それまで君自身も進化を伴ってきたのに、どうして急に何の変化も起きなくなったの?」

「そ……それは……………」

 またしても的を射た質問だった。グラーフゲシュタルトからグロスヘルツォークゲシュタルトまで、ベリアルの成長とともにレイ自身も新たな武器となって進化してきた。だがカイゼルゲシュタルトの力にベリアルが目覚めて以来、そうした兆候は一切なくなった。

「両方とも知る訳ないよね。契約自体が存在しない以上、君は使い魔でもなんでもないんだ」

 使い魔でも何でもない、そう言われた瞬間にレイの頭の中は真っ白となる。

「で、では……私は一体……何だというのだ!?」

「ボクにそんなこと聞かれてもねぇ……まぁそんなに理由を知りたかったら、あのベルーダって人に聞いてみるのが一番手っ取り早いんじゃない?」

「ニート博士だと?」

 なぜそこでベルーダの名前が出たのか、そう思った時だった。

 バン!! バン!! と、カルヴァドス目掛けて銃撃が飛んできた。

 カオスピースフル達を一掃し、根源破滅教団の信徒たちを驚かす洗礼教会対策課の応援部隊がようやく駆け付けた。

「そこまでだ!!」

「大人しく投降しろ!!」

「プリキュアたちを大至急保護するんだ!!」

「あ~あ……メンドくさいのが来ちゃったよ。まぁいいや、今日のところはひとまずこれぐらいにして引き上げようっと」

 興が醒めたらしく、カルヴァドスは差し当たっての目的を済ませると魔法陣を伝ってひとりアジトの方へと帰って行った。

「ま、待ってくれ!! どういう事なのか教えてくれ――!!」

 消える直前カルヴァドスに向かってレイは叫んだ。あの言葉の意味と、自分というものの存在意義について――。

 

「喰らえっ!」

 ダダダダダダダダ……。

 強化武装アサルトバースシステムの専用武器【SKバリアブルリボルバー】は、セキュリティキーパーの装備の中で最も強力かつ高性能な銃である。上下二つの銃口から交互に光弾を高速連射し、厚さ六十センチの鉄板も容易に撃ち抜いてしまう。

「ハヒー!! 近くで見るとすごいです!!」

〈さすがは最新システム! そしてそれを扱う春人さんもさすがです!!〉

「一階部分、制圧!!」

 瞬く間に一フロア一帯に蔓延るクリーチャーたちを制圧した。間近で新武装の能力に驚愕しながら、ウィッチもまたプリキュアの一人としてセキュリティキーパーとともに局内のクリーチャーたちを制圧していく。

 すると突然、局内の電気が消え暗黒に包まれた。

「ハヒ、停電です!!」

〈暗くて何も見えません!!〉

 突然の暗闇に動じるウィッチとクラレンス。しかし、セキュリティキーパーは決して慌てない。

「暗視システム――作動」

 ヘルメット頭部右側に増設された感知システムのひとつとして暗視システム機能が備わっている。これによって、どんな暗闇でも不自由なく行動する事が出来るのだ。

「ターゲット確認――ファイア」

 ダダダダダダダダ……。

 暗闇に潜む標的を狙い損ねる事無く、セキュリティキーパーは正確無比な射撃でクリーチャーたちを撃ち抜いていった。

「行くよ」

「は、はい!!」

 いつの間にか敵を倒してしまったセキュリティキーパーに言われるがまま、ウィッチは彼と一緒に先へ進み続ける。

 ダダダダダダダダ……。

 奥へ進めば進むだけ、敵の警備も強化され一筋縄ではいかなくなってきた。だがセキュリティキーパーは決して一人で戦っている訳ではない。キュアウィッチという心強い仲間とともにここまで突き進んできたのだ。

「「はああああああ」」

 大方若王子が放ったクリーチャーたちは制圧した。残すは若王子、いやクリーチャー・オセだけである。

「春人さん!」

「透視システム、作動」

 特に警備が手厚い場所だった付近にオセが潜伏していると睨んだ彼は、感知システムに組み込まれた透視システムを作動――これは特殊波によって壁などの物質を見通す事が出来るのだ。

「見つけた!!」

 案の定、壁の向こう側にはオセが待機していた。セキュリティキーパーは何の躊躇いも無く、オセのいる方角へ光弾を連射する。

 ダダダダダダダダ……。

 壁を壊し現れたセキュリティキーパーとウィッチ。終始余裕の笑みを浮かべるオセに銃口を突き付けると「フリーズ!」と言い、投降を求める。

『よくぞここまで辿り着いた。君たちの努力は称賛に値する……だが、この私を止めることは不可能だ』

 その瞬間、オセの体が空気に溶け込む様に消失した。

〈消えた!?〉

「どこへ行っちゃったんですか!?」

『ふふふ。私がどこにいるのか分かるかな?』

 周囲に溶け込む事で二人を翻弄しようとするオセだったが、彼の見え透いた罠にセキュリティキーパーはいつまでも引っ掛かるほど単純ではなかった。

「熱感知システム、作動」

 熱感知システムの前には、どんな光学迷彩も役には立たない。周囲の色に擬態したオセの体もセキュリティキーパーには筒抜けだった。

「ふふ……良く見えるよ、若王子――いや、クリーチャー!」

 ダダダダダダダダ……。

『グアアアアアアアアアアアアア!!』

 光学迷彩を見破ると的確な位置からの射撃をお見舞いする。全身から火花を散らすオセの光学迷彩は破れ、大ダメージを受けた。

「デュナミス・ヴァルキリア!!」

 一気に片を付けてやろうと思い、ウィッチはヴァルキリアフォームの力を解き放つと魔宝剣ヴァルキリアセイバーで激しく斬りつけた。

『がああああ……』

 先程の光弾、そして今のウィッチの攻撃がかなりの痛手となった。子どもだと思い見くびっていたオセにはもう戦う力はほぼ残されていない。

「春人さん、今です!!」

「終わらせるよ――十年間の因縁に」

 そう言って、セキュリティキーパーはベストの左胸部分にセットしていた【SKライセンス】を取出し、手持ちのSKバリアブルリボルバーにセットする。

「SKバリアブルリボルバー、最大チャージ」

 ライセンスをセットする事で、リボルバーにはベルーダが開発した無限エネルギーが供給され、単体でクリーチャーやカオスピースフルを斃す銃弾を放つことが出来るのだ。

『よせ……私が悪かった……だから頼む、殺さないでくれ!!』

「今さら命乞いなんて許さない――ターゲットロック」

(僕が目指した、正義とは、己の理想の為に人の命を踏み台にすることにあらず……この国と、この国の市民、未来を――)

 的を狙い損ねる事の無いよう弾道を正確に計算し照準を合わせる。撃つ直前、セキュリティキーパーは心の中でこう独白する。

(僕たち警察は、この国の未来と人の命を護る最後の砦なんだ……!!)

 次の瞬間。オセ目掛けて渾身の一撃が放たれた。

 

「ジャッジメント・ブラスト」

 

 ダダダダダダダダ……。ダダダダダダダダ……。

『うわああああああああああああああああ!!』

 人間としての死刑を免れた男は、クリーチャーと言うバケモノの姿に成り下がった挙句、最後の最後まで己の犯した罪を悔いる事無く正義の銃弾の前に散って行った。

 

           *

 

 根源破滅教団はディアブロスプリキュアと洗礼教会対策課の尽力によって壊滅。教祖だった元死刑囚・若王子素十九はクリーチャー化した際に身に付けた力を使って、最も主要なマスメディアであるテレビを通じて様々なメディアを媒体として狂気を伝播させ――最終的には人間同士を争わせる事で破滅を演出しようとした。

 だが、彼を脱獄させたのは他でもなくカルヴァドスであり洗礼教会だった。なぜ今回、洗礼教会はこのような作戦を実行したのか。その真意はどこにあるのか……。

 

           ≡

 

異世界 洗礼教会本部

 

「今回我々が仕掛けた作戦――……通称【根源破滅作戦】は、元カルト教団の教祖を脱獄させる事に始まる、人間同士による破滅を演出した。というのは表向きの理由だ。その真の目的は先のクリーチャー擬きによる騒動から鑑みた〝エントロピーの増大が生命体にどのような影響を及ぼすか〟という実験だった」

「まさか、死人と言いあの教祖といいクリーチャー化してテレビ局ジャックなんて大それたことを起こすとは思いもよらなかったがな……」

「ディアブロスプリキュアと洗礼教会対策課の連中は協力して戦い、一人の犠牲者も出すことなく、これを解決しやがった」

「でもまぁそれぐらいしてもらわないと、こっちとしても倒し甲斐ってものがありませんよ♪ ラッセルさんもそう思いませんか?」

「ええ、上等な料理はじっくりと味わって食べるもの。あなたの言うようにひと口で食べちゃつまらないわ」

 世界各地で暗躍し、破壊活動を続ける洗礼教会。今宵はホセアを筆頭に幹部たちが一堂に会する晩餐会が執り行われていた。ひとつのテーブルを囲みながら、彼らは出遅れている相手を待ちながら今回の事件にまつわる話をしていると……

「私からも一つ報告があります」

 会食に遅れていた最後の幹部――アパシーが別件での任務を終えたった今到着した。

「戻ったな、吸血殺し」

「ご苦労だったアパシー。して首尾はどうだ?」

「はい……次元の狭間と人間界とを繋ぐ亜空間の界境固定(かいきょうこてい)は成功した次第。残るは、アレを復活させるに必要なエントロピーを集めるのみ」

「時は熟してきた」

 ホセアはおもむろに立ち上がる。

「我々はこれまで以上に力を合わせ、野望を成就したいと思う」

 やがて着席していた残りのメンバーも順に立ち上がり、その手に持ったワイングラスを掲げながら乾杯の瞬間を待つ。

「それでは皆の者、我らが悲願……『カオス・エンペラー・ドラゴン』復活の為に、乾杯――――」

 ワイングラスに映ったホセアの顔は、光の屈折の度合いもあってか醜悪なまでに歪み切っていた。

 

 

 

 

 

 




次回予告

朔「教会が新たに放ったクリーチャー・カタルシス!!」
ピ「だけど様子がちょっと変です。無益な殺生は好きじゃないとも言ってます」
は「カタルシスさん、あなた本当はいい人なんですよ! はるかとおともだちになりませんか!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『二人はともだち!?はるかとやさしいクリーチャー!』」
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