ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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ついにディアブロスプリキュアと洗礼教会によるガチンコバトルが勃発です!!
ここまで来るのに色々ありましたが、この山場を乗り越えればあとは結構スムーズに事が運べそうです。
長きに渡る教会とプリキュアによる戦いの結末に乞うご期待!!



第45話:天界大決戦!デーモンパージの真実

黒薔薇町郊外 ベルーダの館跡

 

「これは……!!」

 今まさに、リアルタイムで起きている凄惨な状況に言葉を失うリリス達。黒薔薇町を始めとする全世界の町と言う町がカオスピースフルとそれに与するクリーチャー、凶悪なシンパによる一斉攻撃を受け、火の海と化していた。

 あまりにも惨い光景。誰彼構わず無差別に町を破壊し蹂躙する様はテロリズムを超えた侵略行為。いや、最早思想すらどうでもいいと言わんばかりだった。

 しかも悪い事は重ねて起こるものである。ベルーダは今までに無い険しい表情を浮かべリリス達に報告する。

「たった今仕入れた情報によると――洗礼教会はおよそ一時間前、正式に全世界へ宣戦布告をするとともに侵攻を開始した。そして数分前、天界のほぼ九十八パーセントが教会の手に堕ちた」

「なっ……」

「そんな!!」

 天界が陥落した――テミスとピットにとってそれは最も残酷な報せだった。聞いた途端に二人は脱力し膝を突こうとするが、それを制止したのはベルーダだった。

「現実を直視するのじゃ。このままでは教会は本当に世界を駆逐するカオス・エンペラー・ドラゴンを復活させてしまう。そうなれば……お主たちが今まで大切にしてきた全てが消えて無くなるのじゃ」

「!!」

 全てが消えて無くなる。その言葉を聞いた瞬間、リリスの脳裏に蘇る忌まわしき記憶。

 平和だった悪魔界を突如として襲った十年前の出来事――今再び、それが現実のものになろうとしている。

 全てを焼き尽くす炎と無差別に繰り返される攻撃。それによって散っていく無垢なる命の数々。その中には大切な家族や恋人が含まれている。

「……ふざけるんじゃないわよ」

 震える声で、リリスは怒りをこみ上げながら唱える。

 拳を握りしめるその手は小刻みに震えている。皆が凝視する中、彼女はおもむろに言葉を発する。

「何が破壊による洗礼よ。何が究極の虚無よ。そんな独善的な身勝手な自己満足の為に、どれだけの命が散る事になるか。どれだけの苦しみや悲しみが生まれるの……あいつは少しも考えた事は無いのかしらね」

「リリスちゃん……」

「リリス……」

 はるかとテミスが声をかけた直後、リリスの中にある復讐心――それを乗り超えた先に彼女が手に入れたプリキュアとしての使命感に火を点けた。

「こんなふざけた茶番に付き合わされるのも、ホセアの掌(てのひら)で踊らされるのも、もうたくさんよ! 十年に及ぶつまらない因縁に今こそ決着をつけてあげるわ!」

「リリス様……私は」

 これからどうすべきかと、レイが悩んでいた折。リリスの手がレイの頭へと乗っかった。

「あんたが疑似生命体である事は理解したわ。でもだからなんなの?」

「え」

「たとえそうだとしても、あんたが私の使い魔である事実には変わりない。私にはあんたの力が必要なのよ」

 たとえ自分が偽りの生命であろうとも、主の気持ちは変わらない。彼女が求めているのは他でもない――レイという名のたったひとりの家族そのものだった。

「リリス様…………ウウウ!!」

 レイの中の迷いは忽ち吹っ飛んだ。迷いの無くなった彼がとる行動は勿論、主の隣を歩き主の為に身命を賭して戦う事である。

 リリスとの絆を再確認したレイは、主人の手を取り固く誓った。

「共に参りましょう!! 私は最後の最後まであなたと共に歩みます!!」

「ええ!!」

 するとこれに便乗したはるかとテミス、朔夜、春人たちは清々しい表情を浮かべるとともにレイに倣ってリリスの掌に自分の手を順に乗せてきた。

「はるかたちも一緒ですよね、リリスちゃん!! レイさん!!」

「今の教会を相手にひとりで勝てるとは思わないで欲しいわね」

「いついかなる時もリリスを護るのはこのオレの務めだ」

「君らだけじゃ心配だから僕も手伝ってあげるよ」

「みんな……言っとくけどこれは戦争よ。こっちに付いたからには、もう後戻りは出来ないわ」

 後の事を憂慮しながらリリスが皆に問いかける。すると今度はクラレンスとラプラス、ピットの三人も加わり、微笑してから各々が思いの丈を答える。

「心配には及びません。元より我々はそのつもりで行動を共にするのですから」

「いいじゃないの。何をするにしても派手な事に越したことはないわよ!」

「本気で洗礼教会を討伐する気があるのなら、白も黒も忘れた方がいいですわ」

「ならば――俺も行こう」

 直後、意外にもこの場に居合わせたカタルシスもはるかたちを真似して自分の手を乗せてきた。

「ハヒ! カタルシスさん!! まさかあなたも!?」

「はるかやみんなには借りがある。それに……お前たちと出会えたからこそ、今の俺はこうして存在していられるんだ」

 皆の心が一つとなった。

 そうして一同は心をひとつに最後の戦いに向けての決意を固める。

「約束よ。何があっても、必ず誰一人かける事なくみんなで一緒に生きてここへ戻る!!」

「「「「「「「「「はい(ええ)(おう)!!」」」」」」」」」

 

           *

 

『ハロ~~~全世界にお住いのちっぽけな人間諸君!! 俺の声が届いているかな~~~? 俺は洗礼教会の神父っつーか、はぐれエクソシストのコヘレト様だ。喜べゴミ屑ども、青い地球は間もなく俺ら洗礼教会の手によってキレイさっぱり洗い流されるんだぜ!!』

 天界と堕天使界が教会の手に堕ちてから数時間――堕天使界から人間界へやってきたコヘレトは全世界に向けて一斉放送を行った。

 カオスピースフルの脅威から辛うじて逃れた人々は、深い悲しみと悔しげな気持ちを抱きながら、この一方的な放送を聞いていた。

『もっと早くに挨拶しようと思っていたんだけどさ、こっちにも色々段取りっつーもんがあってさ。だがようやく最近になってその段取りって奴が整ったものだからよ……これで心置きなくこの世界を破壊できるってわけだ!!』

 一言喋るたびにカメラ映りを気にするコヘレト。結局の所彼が内に秘める狂気はどうあっても隠す事など出来ず、喋るたびにその狂気が表情筋を動かす毎に溢れ出る。

『うっほん!! えーいいかね諸君、俺たち洗礼教会は人間共のエゴイズムが蔓延したこの腐った地上を徹底的に破壊するただひとつの正義なのである!! なーんて言うと思ったか、クソ共が!! 俺らがそんな正義を標榜する訳ねーだろうに!! 大人も子供も犬畜生も関係ない。一旦ぶっ壊すと決めたからには誰彼かまわず容赦なく粛清の対象だ!! これがホントの無差別テロって奴だな!! でぇーははははははは!!』

 思想も主義も関係ない。正義など持ち合わせていないという自負を持ち、尚且つその上での無差別テロを堂々と宣言する。人々はかつてこれほど大規模でありながら見境無くすべてを破壊しようとするテロリストを見た事が無かった。

『抵抗なんてムダムダムーダっ!! 素直に粛清される運命を受け入れちまいな。これもすべて地球の未来の為なんだぜ。人間は地球にとってのがん細胞さ。俺たちはそのがん細胞を取り除き、重病を患った地球の病を救うという使命があるんでね。ま、最期の時が来るのをビクビクしながら指咥えて待ってる事だな!!』

 あれだけ声高に正義など持ち合わせていないと言っておきながら、使命感に基づく粛清を標榜するコヘレト。矛盾と狂気に満ちたその顔でメッセージを送る相手――地球人類を徹底的に卑下し嘲笑した。

 

 この放送を聞いていた洗礼教会対策課部長――神林敬三は湧き上がる悔恨と怒りを抑えきれず、思わずテレビ画面をゴンと殴りつけた。

「ふざけた事を言いおって……!!」

「部長! 既にこの建物の外にも奴らの手が迫っています!」

「対策課総員で対応していますが、数が多すぎます!! このままでは我々の方が先に……部長は一刻も早い避難を!!」

「私は逃げぬぞ」

と、敬三は毅然とした顔で退かない意思を表した。

「部長っ、しかし!!」

「春人が最後まで戦うという覚悟を決めた以上、私も最後までこの運命に抗ってみせるぞ! それが、子供を戦場に送り出した身勝手な大人に出来るせめてもの罪滅ぼしだ」

 親として、警察官たる者として息子が帰るその時まで逃げる事は決して罷り通ってはならない。たとえ春人のように人間離れした戦闘力が無くても、悪を決して許さないという熱い正義の心、それに立ち向かわんとする果敢な心を敬三は持ち続けていた。

「……わかりました!! 部長がそこまで仰るのなら、我々も最後まで戦います!!」

「洗礼教会の思い通りになんかさせてなるものですか!!」

「ディアブロスプリキュアが本拠地を叩くまでのあいだ、我々は我々に出来る事でこの世界を守りましょう!!」

「みんな、よく言ってくれた」

 敬三の果敢なる心に触発され今の今まで逃げ腰だった部下たちの心に勇気という火が点いた。部下たちも自分と同じく最後の最後まで人間として、警察官として戦う決意を持ってくれた事がこの上も無く嬉しかった。

 誇り高き同志たちを前に、敬三は洗礼教会対策課の長たる者として今ここに力強く宣言する。

「警視庁公安部特別分室、洗礼教会対策課はこれより地上に蔓延るカオスピースフルと教会のシンパどもの討伐及び住民の避難活動に全動員を投入する!! ディアブロスプリキュアとともに最後の最後まで破滅の運命に立ち向かうのである!! 人類の未来は、人類自身の手で守り抜くのだ!!」

「「「「はい!!」」」」

 言った直後、敬三は机の上に飾られた亡き妻の写真立てを一瞥する。

(暦……春人を……私たちをどうか最後まで見守っていてくれ!!)

 

           *

 

天界 第一天 表参道

 

 死した魂、あるいは天界を訪れる異界の者が最初に辿り着く場所。天界第一天・表参道――読んで字の通り天界の玄関口の様なところだ。

 ベルーダの力を借りて天界へと辿り着いたリリスたちが先ずその目で見て体感したのは、華々しく清廉潔白な大通りの姿でも、全身を包み込む様なふんわりとした空気でもない。至る所から漂う血と煙の臭い。無残にも破壊された彫刻などの調度品の数々。天界の九十八パーセント近くが、洗礼教会の手によって掌握されていた事は疑う余地も無い事だと分かった。

 手当たり次第に破壊された故郷の光景にテミスとピットは絶句したまま呆然と立ち尽くす。

「こんな……こんな事が……」

「私たちの故郷が……メチャクチャです!!」

「洗礼教会はオレたちの時の様に天界をも蹂躙したというのか」

「許せない……あいつらだけは、絶対に!!」

 天界の有り様を見るや、リリスは反射的に教会への怒りから拳をぎゅっと握りしめる。無抵抗な民草を蹂躙し破壊するという行為は決して許されない事だ。何よりそれが自分以外の相手――友であり仲間である者の故郷だというなら尚更。

 二度と自分と同じ痛みと苦しみを味あわせたくない。彼女が心中抱くのは、その一点の想いだけだ。

「それで、連中はどこに潜んでいるんだい?」

 春人が淡白に問いかけると、カタルシスは彼方先を見据えてから静かに答える。

「おそらく第七天……見えざる神の手の居城だろう。もっとも、幹部共は既にアパシーの手によって暗殺されているがな」

「アパシーって、あのフードのこと?」

「リリス様やはるか様の強力技を容易く退けてしまうほどの手練れか……あれも貴様と同じクリーチャーなのか?」

 ラプラスとレイが順に問いかけると、カタルシスは「ああ」と頷いてからアパシーについて簡潔に説明した

「『ダンピール』と言う吸血鬼を唯一殺せる存在だ。戦いに非常に秀でており、クリーチャー随一の殺傷能力を持つ」

 クリーチャーの中でもトップクラスに入る戦闘力を持つカタルシスですら慄いてしまうほどの手練れ。彼との接触は免れないながらもどうにかしなければならない――そうリリスが思案した直後。

 表参道の奥の方からドシドシと、地響きの様な足音が複数こちらに向かって近づいてくるのが分かった。

 直後、眼前より教会が差し向けたカオスピースフルの軍勢が迫って来た。

『『『カオスピースフル!!』』』

 敵の姿を視認したリリスたちは即座に戦闘態勢に入った。

「戦闘事変発生、か」

「おっぱじめましょう!!」

「みんな、覚悟はいいかしら?」

「「「「「「「「「いいともー!!」」」」」」」」」

 悪乗り気味ながら、メンバーは各々変身アイテムを装備して声高に口上する。

 

「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「ウィッチクラフトパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「シャイニングパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」

「バスター・チェンジ」

「実装!」

「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」

「紅に染まる明星の魔女! キュアウィッチ!」

「不浄を焼き払う聖なる光! キュアケルビム!」

「影に向かいて影を斬り、光に向かいて光を斬る。暗黒騎士バスターナイト」

「非道な悪事に正義の鉄槌下す者。その名はセキュリティキーパー」

「偽りの善幸を根絶やし!」

「邪な悪行を断罪する黒き力!」

「我ら、悪魔と魔女、天使、暗黒騎士、探偵のコラボレーション!!」

「「「「「『ディアブロスプリキュア』!!」」」」」

 

『『『カオスピースフル!!』』』

 変身が完了したベリアルたち目掛けて、カオスピースフルの軍勢が怒涛となって押し寄せてくる。

「そこをどきなさい、モブ共!!」

 押し寄せるカオスピースフルに臆する事なく、ベリアルは地面を蹴って加速をつけると勢いを殺さず敵の顔面を殴打。顔の形が変形するまでの強烈な殴打を受けたカオスピースフルはドミノ倒しの要領で後ろへと倒される。

『ブレス・オブ・サンダー!!』

『『『カオス~~~!!』』』

 戦闘形態となったレイの口から強力な電撃が放たれる。

 全身が真っ黒になるまで染まったカオスピースフルが動かなくなったのを確認する間も無く、ベリアルとレイは先を目指し前進する。

「〈バーニング・ツイン・バースト〉!!」

 キュアウィッチ十八番の魔法攻撃が邪悪なる敵を炎の海で一掃する。

 敵方の断末魔の悲鳴が響き渡るがウィッチとクラレンスの攻撃の手は決して緩まない。むしろ、二人はこの状況に怒りを抱いているらしく積極な攻勢を見せている。

 そして、ウィッチとクラレンス以上に怒りを覚えてるのはケルビムとピットである。天界は紛れも無く二人の生まれ故郷であり、地上と同じくらいかそれ以上の価値を見出している。誰の仕業であるにせよ、聖域とまで言われる天界を我が物顔で闊歩する彼らを許せないという気持ちは誰よりも強い。

「私たちの故郷に土足で踏み込んだ挙句、何もかも壊してくれた代償は重いわ!!」

〈お覚悟はよろしくて、ですわ!?〉

 怒りを露わに、ケルビムは聖弓ケルビムアローを装備し空中からカオスピースフルに狙いを定め――射る。

「ホーリーアロー!! 乱れ撃ち!!」

 放たれる光の矢は雨となって地上へ降り注ぐ。カオスピースフルの体に突き刺さると、彼らは聖なる光の矢の効果で断末魔の悲鳴を上げながら浄化され消滅する。

「〈ダークナイトドライブ〉!!」

 ケルビムと同じく、バスターナイトもまた空中からの奇襲を仕掛ける。ラプラスとの合体で飛翔能力を手に入れると、落下時の速度を味方に群れを成すカオスピースフルを瞬時に斬り伏せる。

「フン!!」

「はっ!!」

 セキュリティキーパーとカタルシスは、持ち前の強さで地上戦のアドバンテージを獲得していた。

 一人は人間でありながら人間離れしたポテンシャルを秘めた三天の怪物。もう一人は生粋のクリーチャー。このバケモノとバケモノのコラボレーションを、当初誰が予想していただろうか。

『『『カオス~~~!!』』』

 頭数を揃えて来たカオスピースフルが僅か一〇分足らずで制圧され、消滅した。

 ディアブロスプリキュアの今の勢いを止めるのに、カオスピースフルだけで対処しようとした教会中枢部の判断はかなり大雑把かつ安易に思えてならなかった。

「このまま突破するわよ!!」

「「「「「「はい(ええ)(ああ)!!」」」」」

 ベリアルを筆頭に、メンバーは電光石火の如く表参道を駆け抜け天界の深奥部へと向かうのだった。

 

 異世界にあった教会本部を放棄したホセアは、カタルシスの予期した通り元・見えざる神の手のメンバーが使用していた居城を占拠するとそこを新たな活動の拠点とした。

 彼と幹部たちが居城を掌握して数時間後――信徒からの一報が入った。

「先発隊からの報告です。ディアブロスプリキュアが第一天・表参道を突破。破竹の勢いで第二天、第三天を突破しました!!」

「来たか……」

 報告を受けたホセアは大して驚く体も無く低い声で呟いた。

 おもむろに振り返り集まった幹部たちを前に、ホセアは錫杖を床に一突きしてから通達する。

「恐らくこれが我々とディアブロスプリキュア双方にとって最後の戦いになるだろう。互いに悔いの残らぬようにせねばな」

「はっ。最後に勝つのはこの俺様だ!! キュアケルビムは俺がいただく!!」

「じゃあ俺はバスターナイトとやらせてもらうとしよう」

「私は最後までダスク様にお供しますわ」

「それじゃあボクは春人君にでもしようーっと! あの吐き気すら催す正義感を完膚なきまでに捻り潰してやりたいって言う欲望が胸の内から湧き出してきましたよ♪」

 憎しみと復讐心に駆られる者、強者との戦いに心昂ぶらせる者、献身的に主人へ尽くそうとする者、狂気という名の欲望を剥き出しにする者。戦いに赴く理由はそれぞれで異なっているが一点だけ共通する事があるとすれば、彼らもベリアルたち同様に今回の戦いに終止符を打ちたがっている。

 己の勝利を信じやる気に満ち溢れる幹部たちを見ながら、ホセアは隣に立つアパシーに別命を申し付ける。

「お主はこのまま私の身辺を警護していてくれ」

「仰せのままに。元より、私の使命はあなたの御身を守る事。プリーストに危害を加える者あれば、何人たりとも排除するまでです……」

「ふむ。頼もしい限りだ」

 

           *

 

天界 第七天

 

 ディアブロスプリキュアは当初の勢いを殺す事無く、数時間という極めて短い間に天界の中枢機関が存在する第七天へと到達した。

「ここが、第七天……?」

「なんだか下の階層に比べて被害が少ないようですね」

 意外な事に第七天が受けた被害は入口である第一天やその他の場所と比較するまでもなく微々たるものだった。ベリアルとウィッチはきょとんとした顔で周りを見渡す。

「ハヒ? あれは何ですか!?」

 そのとき、ウィッチが見つけたのは天を劈くばかりに巨大な楼閣の様な建造物。ベリアルたちが目を見張る中、ケルビムが静かに答えを口にする。

「あれが見えざる神の手、いえ……今は洗礼教会の居城かしらね」

「へぇ~。敵も随分と権力を誇示するようになったものだね」

 と、セキュリティキーパーが額に手を翳し巨大な城を仰ぎ見る傍ら、カタルシスは皆に城の名を伝えた。

「アレの名は『ヴェルト・シュロス』。唯一(ただひとつ)の真の世界を形成する礎として君臨するという意味から見えざる神の手の連中はそう呼んでいたが……よもや自分達が世界の礎となるとは夢にも思っていなかっただろう」

「だが何にしろ、あんな風に手招きをしてくれているんだ。あまり待たせるのも失礼というものだ」

「じゃあさっさと行くとしましょう」

 天界を手に入れた事でこれまで以上に力を誇示して来る教会は、ディアブロスプリキュアを丁重に招き入れる意志を示してくれた。この丁重という言葉の意味が〝迎え撃つ〟という事だと分かっていたとしても、ベリアルたちはここで逃げる訳にはいかない。

 全世界の命運を託された最後の希望であるプリキュア――その自覚を持って彼女たちは退くのではなく、敵の本陣へと向かって歩を進める。

 地球の未来を守る為、輝く明日を守る為、大切な者と過ごす愛おしい時間を守る為に、負けは決して許されない。

「あっ!」

「なにあれ!?」

 そのとき、歩を進める彼女たちの前にまたしても敵が立ち塞がった。

 しかし今度妨害行為を働いてきたのはカオスピースフルではない。白い純白の戦闘衣裳に身を包んだ天使たちだった。

「天界守護代の戦士たち!?」

「なんですかそれ?」

「平たく言うと、天界全体を警備している武装警察みたいなものですわ!」

「わぁお……あれがこの世界の警察なんだね。親近感を覚えるよ」

「それにしては、随分ときな臭い雰囲気を漂わせている様だがな……」

 バスターナイトの言う通り、天界守護代の天使たちの様子が挙っておかしい。まるで悪霊にでも憑依されたが如く瞳の色は消え、本来の生気を感じられない。

「まるでゾンビみたい……ひょっとして死んでる?」

「洗脳されているんだ!」

「どうせまたカルヴァドスの差し金かなんかだわ」

 大方の予想を付けたところで洗脳状態にある天界守護代の天使たちが、ディアブロスプリキュアに対し武器を突き付け周りを取り囲む。

「国賊めが!! 全員まとめて討ち獲れ!! 女子供だろうと容赦するな!!」

 天界を救う為にやってきた相手に対して逆に国賊と罵られる。洗脳されていると分かっていても聞き捨てならない台詞だった。

 向って来る天使たちを前に、ウィッチはキュアウィッチロッドを突き出した。その瞬間、杖の先から強力なバリアを発生させ押し寄せる守護代の攻撃を防ぐ。

 キュアウィッチが生み出すバリアの強度は相当に固い。束になって攻撃してくる守護代たちが一歩も前に進めないほどに。

「女子供ですか? 天使の皆さん方。私たちはただの女の子ではありません!!」

 と、先ほど天使の誰かが口にしていた言葉に対してウィッチが声を荒らげる。

 刹那。ベリアルが守護代の頭上より紅色の波動を放つと共に言い放つ。

「私たちこそは聖なる力を授かりし伝説の戦士――プリキュアなのよ!!」

 轟音が響き渡ると、ウィッチへと向けられた武器と足場の石段が破壊された。重みのかかった石段が崩落すると、守護代たちは体勢を崩し動けなくなった。

「撃てーっ!」

 陛下で待機していた別働隊がボウガンを放とうとする。

 しかし、攻撃が始まるよりも先にケルビムがボウガンの矢を瞬時に破壊し、彼らの頭上で待機する。

「身内に攻撃するのは気が引けるけど、止めてみなさいよ。あなたたちが嘲った女を! 守ってみなさいよ、女とその他弱者の涙で固めた虚飾の城を!」

「やれー!!」

 一声の下に守護代による一斉攻撃が仕掛けられた。

「「「「ぐああああああああああああああ」」」」

 しかし圧倒されるどころか、逆にベリアルたちは守護代を返り討ちにする。

 彼女たちこそ地上世界が誇る悪魔と天使、人間によって構成された最強のプリキュア三人娘である。

「悪魔と人間、天使のコラボレーション舐めるんじゃないわよ!!」

 

 プリキュアという女性陣が幅を利かせるチームにおいて、バスターナイトとセキュリティキーパーという男性二人の立場はどうか。

 有象無象とばかりに周りにはぞろぞろと天界守護代が集まり始め、四方を隙間なく覆い尽くす。

 この状況を前に臆してしまう者もいれば、何も感じない者もいる。バスターナイトとセキュリティキーパーの場合は明らかに後者であり隣同士呟いた。

「やれやれ。魅惑的だがバラの如く棘のある美少女三人がご同行とは」

「カルト教団の教祖を相手取るより、よっぽど骨が折れそうだよ」

「悪い事は言わない。援軍を呼んでくるといい。神……いや、今は教会直参の守護代と言う事らしいが、泰平の時代に平和ボケしたお前たちにオレたちの相手は務まるか? 何しろオレらはあの最強ガールズと――」

 言った瞬間、バスターナイトとセキュリティキーパーは同時に飛び出し声高に口を揃える。

「「毎日毎日戦国時代送ってるんだ!!」」

 モテない男からすれば二人の言い分はモテる男の言う苦し紛れの詭弁にしか聞こえないかもしれない。だが二人にとってベリアルたちと過ごす日常は言い方は悪いが戦の世を過ごす感覚に近い。常に気を張り詰めるものがあった。

 百人単位で集まった天界守護代。対するベリアルたちはカタルシスを含めて僅か十人。だが個々に戦闘力は高い。たった十人だが数に勝る守護代相手にベリアルたちは大立ち回りを振る舞い、圧倒的力で数をこなしていく。

 四方を敵に囲まれると、メンバーは互いに背中合わせとなって一度固まった。

「春人さん、ひとり当たり何人ですか?」

「百人、二百人、いや止そう……眠ってしまいそうだ」

「いいかみんな。一歩たりとも仲間から離れんじゃないぞ。背中は任せて何も考えず眼前の敵だけ斬り伏せるんだ」

「自分自身が倒れない限り、誰も倒れたりなんかしない。ひとつの拳に壁をぶち抜くのよ。ホセアのあのふざけたおもちゃ箱を壊してやりましょう!!」

 彼が占拠した城――ヴェルト・シュロスを指してベリアルはそれをおもちゃ箱と嘲った。

「ディアブロスプリキュア、我が身を砲弾とし前進する!!」

「「「「「「「「「はい(ええ)(おう)!!」」」」」」」」」

 ベリアルの掛け声に従い、メンバー全員が猪突猛進。鬼気迫るものを感じた前衛の守護代たちも恐れ戦くほどだ。

「と、止めろ!! 壁だ!! 壁になれ!! 賊どもをこれ以上ホセア様の元へ近づけ――」

 言いかけた部隊長の顔を、ベリアルは何の躊躇いなく踏みつけ乗り越える。

「薄いぃぃぃ!! オブラートよりも薄いぃぃぃ!! それでもあんたら天界の守護を仰せつかった気高き天使たちなの!!」

 悪魔染みた強さ、もとい悪魔という名を冠したプリキュアたちの突破力は群を抜いている。折角作った人壁も容易く瓦解してしまう。

「止まらん!! 前も!! 右も!! 左も!! 後ろも!! 付け入る隙が!! たった十人の賊がまるで……まるで巨大な弾丸だ!!」

「どけえええ!!」

 すると、後援部隊が用意したのは巨大なガトリング砲台。蜂の巣にでもする気らしく、照準がベリアルたちへと向けられる。

「飛んで火に居る流れ弾!! 撃ち落としてくれる!!」

 ダダダダダダ……!! ダダダダダダ……!!

 火花を散らし飛んでくる弾丸の嵐。

 ケルビムとウィッチは協力して結界を作り、目の前から飛んでくる弾丸からメンバーを守る。

 ダダダダダダ……!! ダダダダダダ……!!

「撃てー!! 撃って撃って撃ちまくれ――!!」

 ダダダダダダ……!! ダダダダダダ……!!

 下手な鉄砲数撃ち当たるという言葉をそのまま実行しようとする頭の悪い守護代とは違い、ベリアルたちはこの状況を冷静に分析したうえで突破口を切り開く。

「サっ君!! 春人っ!!」

 二人に言いながら、ベリアルはその場に転がっていた守護代の武器を頭上へと放り投げた。これで敵の注意が一時的に武器へと向けられる。この僅かな間隙を見計らいバスターナイトとセキュリティキーパーが結界から飛び出し、周囲の壁を伝いながら後援部隊へ急速接近する。

「よ、横だ!!」

 恐怖した守護代たちが銃口を真横に向け撃とうとした矢先。

 銃口が真っ二つに切り落とされた。何事かと思うと、カタルシスがグレイブ片手に妨害をしていた。

 結果、三人の強力コンボ攻撃によって後援部隊とその主戦力たるガトリング砲台は跡形も無く破壊された。

 

 ドカ――ン!!

 しかしこれだけでは終わらない。ガトリング砲台などほんの序の口。本命はその後ろに控えた大砲だった。

 装填にこそ時間を要するが、一撃必殺の威力を秘めた砲撃を一度受ければ致命傷は避けられない。ベリアルたちは眼前に見える敵の武器を凝視する。

「次弾装填!! 消し炭にしろ!!」

 ドカ――ン!!

 次なる一撃が目の前から飛来する。

 咄嗟に前に出たカタルシスは、所持していたグレイブ【ティターン】を使って飛んできた何百キロという重さと速さを持った砲弾を直接受け止めた。

「うおおおおおおおおお!!」

 受け止める事だけでも凄いが、彼はそれを強引に腕力だけで弾き返そうとしている。

 四肢にかかる尋常でない負荷に耐えながら、カタルシスはしなったティターンを振り払い砲弾を弾き返し、前方にある城の門を破壊――さすがの天界守護代も目を疑い絶句する。

「つ、次だ!! 早く撃て!!」

 狼狽する守護代は次の攻撃の準備に取り掛かろうとする。

 それを見越したベリアルは、妨害工作として地面の上で気絶していた守護代を持ち上げ、砲門の中へと投げ入れた。

「あ! ま、待て!! 仲間が!!」

 仲間が投入された状況で攻撃など出来るはずがない。仲間意識から来る躊躇いが一瞬の隙を生んだ。

「ぐあああああ」

 一緒に砲門へと投げ込まれたレイが、砲門の中から一撃を加え敵を気絶させる。

「ひどいですよリリス様!! なぜ私だけがこんな感じなんですか!?」

 もっとも、彼はこのやり方に不満一色だった。

「しまった!! 大砲が……奪われた!!」

 抜群のチームワークで敵の大砲の奪掠に成功した。ベリアルたちは奪った大砲を使って鬱陶しい敵を攻撃する。

 ドカ――ン!!

「「「うわあああああああああ」」」

 大砲の脅威に臆した守護代が一斉に退去していく。これでベリアルたちの行く手を遮る者はいなくなった。

「ようやく着いたわね、気の触れた教祖様の根城に」

「ハヒ? おかしいですね。インターフォンがありません」

「しょうがないわね。じゃあこれで……」

 するとラプラスは、悪意の滲み出た顔を浮かべながら砲門を城へと向けた。

「ま、待て!! それだけは……それだけはやめろ!!」

 この畏れ多い行為に対し、天界守護代は皆青ざめた顔を浮かべながら制止を呼びかけるが、これを素直に聞くディアブロスプリキュアではなかった。

「ホセアさーん!! 悪魔と一緒に、あーそーびーまーしょー!!」

 

 ドカ――ン!!

 堂々と正面玄関からの訪問――と呼ぶには過激すぎるやり方だが、ディアブロスプリキュアはようやく敵の本陣たる居城『ヴェルト・シュロス』へと辿り着いた。

 ホセアはベリアルたちがここへ来る事を見越してひと足先に城内で待機している。

 しばらくすると、黒煙の中からベリアルを始めディアブロスプリキュアのメンバー総勢十人が現れた。

「……遊びに来てあげたわよ。あんたに礼節を尽くす義理はないけど、自己紹介するのが筋ってものよね。改めましてごきげんよう洗礼教会の大司祭ホセア殿。私は元七十二柱ベリアル家の現当主にて純血悪魔の最後の一人、ディアブロス・ブラッドリリス・オブ・ザ・ベリアルよ」

 敵のボスを前にベリアルは堂々と自分の素性を紹介する。無論、その挨拶が単なる社交辞令であり、言葉こそ丁寧口調だがそこにホセアへの敬意などはひとかけらも籠っていない。

 階段上から彼女たちを見下ろしているホセアは皮肉の籠った彼女の挨拶を聞いた上でおもむろに口を開いた。

「長生きはするものだ。歴史を紐解いてもこれほどまで神を愚弄し、天界に泥を塗ったのはそなたらが初めてであろうな。神へ免罪を請うどころか、天下に仇なす大罪を犯すとは……」

「大罪を犯したのは貴方の方よ」

 鋭い瞳をホセアへと向けながら、かつて彼の下に付いていたケルビムが口を開き厳しく追及する。

「あなたのこれまでの所業は全てこのテミス・フローレンス、キュアケルビムの知るところ。洗礼教会大司祭ホセア――見えざる神の手暗殺の教唆及び大規模騒乱罪の首魁として、あなたを拘束します」

「かつて教会に与しながら我らを裏切り、悪魔の元へ寝返った天使が何を言い出すかと思えば……。私を裁くと? 天地全てを統べる私を、法そのものである私をどう裁くというのだ?」

「貴様を裁くのは法律じゃない。元来人間ではない者を法で裁けるとも思っちゃいないさ。貴様の淀んだ欲望が為に流れた悪魔や人々の涙……そして流血。例え神が許しても、オレたちが決して許さない」

「今すぐ破壊活動を停止するんだ。そして僕らにお縄を頂戴されるんだ。安心しなよ、処刑台に上がる前に弁明の機会ぐらい与えてあげるよ」

「果たしてそう都合よくいくものかな」

 口角をつり上げるホセア。直後、城の奥から厚手のフードに身を包んだ者たちがぞろぞろと現れた。

 ホセアの周りに集まった彼らはたった一人を除いてコートを脱ぎ捨てる。コートの下に隠れていたのは世界中から選りすぐった凶悪なクリーチャー。彼らを束ねるのは教会の幹部でありホセアの身辺警護任務を主とするクリーチャーの頭目、アパシーだ。

「天変に遭いて、天界を恨まんとする者があろうか……いかなる凶事に見舞われようと、それは天が為す事。天が定めし宿命。ただ黙して受け入れよ。天の声を。我らが刃を」

「ハヒ!? あの人は……それにあの凶悪そうなクリーチャーは!!」

「気をつけろ。あれこそ俺がかつて身を置いていた組織だ。古くから天界の時の権力である見えざる神の手に利用され、影より三大勢力均衡の采配に関わって来たクリーチャーのみで構成された暗殺組織。冷酷無比な仕業から三大勢力からも危険視された禁忌の存在。ホセアは見えざる神の手を排してより密接に繋がり、その謀略に利用してきた」

 再び現れ目の前に立ち塞がったアパシーとその配下のクリーチャー。

 アパシーが生きていた事に心底驚くウィッチと、カタルシスは眉間に皺を寄せながら眼前の暗殺集団、その頭目であるアパシーに強い警戒心を抱く。

「我らこそは天が使いクリーチャー。【神の密使(アンガロス)】……」

 

「あいつがアパシー……!」

 間近で見た最恐のクリーチャーの言い知れぬ殺気を前にバスターナイトは息を呑み、額から汗が流れ落ちる。

 天界と言う場所には似つかない凶悪な集団を味方に据えたホセアは、不敵な笑みを浮かべながら眼下のベリアルたちを見下ろし口にする。

「裁くは天。すなわち我ら教会。裁かれるは地を這う者たち。それが世の理(ことわり)である。そなたらに出来るのはただ黙って天を仰ぎ見る事だけだ。だが嘆く事は無い。天がもたらすのは禍(わざわい)だけではない。恵みをもたらすのもまた天だ」

 その言葉の意味は、ベリアルたちにとってすれば【恵み】とはあまりにかけ離れたものだった。

 唐突に城の中に隠れていた洗礼教会の幹部――コヘレト、ダスク、ラッセル、カルヴァドスの四人が現れそれぞれの標的へと襲い掛かった。

「〈きゃあ〉!!」

「ぐっ!」

「ちょっ……!!」

「ちっ」

 コヘレトはケルビムを、ダスクとラッセルはバスターナイトとラプラスへ、カルヴァドスはセキュリティキーパーを襲撃。攻撃に乗じて三人を城の外へと連れ出した。

「みんなっ!!」

「ひどいです!! これのどこが恵みなんですか!? 禍に禍を掛け算しただけですよ!!」

「すべては天が為す事。二度は言わぬ……ただ黙して受け入れよ」

 アパシーが静かに呟く。

 この直後、待機していたクリーチャーたちが凶器を手に一斉に襲い掛かってきた。

「ベリアルスラッシャー!!」

「でやああああああ!!」

「〈ブリザードスピア〉!!」

「はああああああ」

 神の密使(アンガロス)と初期のディアブロメンバーにカタルシスを付け加えた人員で繰り広げられる命を懸けた攻防の押収。

 悪魔の力を全開にして戦うベリアルと、彼女を全力でサポートする為に奮闘するレイ、ウィッチとクラレンス、ウィッチによって命を救われたカタルシスは恩返しをせんとディアブロスプリキュアに協力しかつての仲間と対峙する。

「っ!!」

 戦いの最中、ベリアルは周囲から刺す様な殺気を感じ取った。

 周りを見るといつの間にかアパシーが接近し、ベリアルに狙いを定め無数とも言える銀のダーツを撃ってくる。

 咄嗟に体を捻ってダーツを避けるベリアル。しかしアパシーの最初の攻撃は彼女を欺く為の囮に過ぎない。本命は右手に所持した光剣――急速で接近しながらベリアル目掛けて斬りかかる。

「リリス様!!」

 レイが心配する中、激しい剣戟を躱す事に全神経を注ぎながら反射的にベリアルの体は後退。確実に息の根を止めようとするアパシーの殺意剥き出しの攻撃を辛うじて回避する。

 そこへ不意打ちで狙って来る他のクリーチャーによる攻撃が飛来。彼女はこれも何とか躱して、中空で体を捻らせクリーチャーから武器を強奪。奪ったその武器を使いフードで隠れたアパシーの顔を殴りつける。

 殴られた衝撃で吹っ飛んだアパシーは階段下へと激しく叩きつけられる。土煙が上がると、ベリアルは煙の向こうを恐る恐る覗き込む。

 刹那、煙の向こうから銀のダーツが飛んで来た。銀のダーツはベリアルの両肩と両膝へと突き刺さり一時的に彼女の動きを制約。途端、煙の向こうから手を伸ばしアパシーはベリアルに掌打と見せかけて波動を至近距離から放った。

「きゃあああ」

 波動の直撃を受けたベリアルは床に伏せたまま動けなくなった。クリーチャーたちが間隙に彼女へと迫ってくる。

 レイとウィッチ、カタルシスの三人は脇目も振らずベリアルの側へ駆け寄りクリーチャーたち全てを退ける。

「リリスちゃん!!」

「ご無事ですかリリス様!?」

「何をしている! しっかりしろ!!」

「仕方ないでしょ! あいつ、半端なく強いんだから……!」

 カタルシスが戦慄を覚えたアパシーの強さを、ベリアルは身を持って体感する。今まで様々な敵と戦ってきたが、アパシーの強さは群を抜いていた。何より非常にやり辛い相手だった。

 恐らくその一番の原因はアパシーの性格にある。無感情に敵を斃そうとする彼は生物というよりロボットに近い。感情が把握できない分、ベリアルも敵の動きが読めずに後手に回らざるを得ないのだ。

 いつの間にか、アパシーを始め神の密使(アンガロス)によって周囲を取り囲まれてしまった。ホセアは高みからその様を覗き込む。

「随分と手こずらされたものだな。主を前にこれだけ長く生きたものも稀であろう……アパシー?」

 ホセアが尋ねると、アパシーは満を持したが如くそれまで姿を覆い隠していたコートを脱ぎ捨て素顔を晒した。

 隠された彼の素顔は不気味なまでに色白の肌をした黒髪の男だった。亀の様な釣り目とその下には垂直に伸びた赤い色の線がある。

「いえ、以前にも一度。天の意に背きし悪魔が一匹……」

 アパシーは曝け出したその素顔で眼前のベリアルを凝視。一方、彼女はアパシーの瞳から伝わるただならぬ威圧感に言葉を失くしていた。

「やはりよく似ている。お前のその瞳(め)は。父親と母親のそれと……キュアベリアル」

「ど、どういう意味よ……!」

 思わず声を荒らげたそのとき、ベリアルの脳裏に幼少期の記憶が蘇った。

 ベリアルの命を守る為に自らが犠牲となった母リアス。炎に包まれた屋敷で母の最期を看取った際、ベリアルが一瞬だけ見たものがあった。

 屋敷の奥でベリアルを殺すつもりでリアスを殺害した下手人――その者こそ、眼前に立ち尽くすクリーチャー・アパシーであった事を。

「そう……あんただったのね。私から大切なものを奪ったのは」

 彼女はようやく思い出した。最愛の母の命を奪った者が誰なのかを――思い出した直後から、彼女の思考はアパシーへの憎悪と憤怒に支配される。

「ほう……キュアベリアルとは顔見知りであったか、アパシー」

「プリースト……【デーモンパージ】の遺児にございます」

「デーモン、パージ?」

「そなた地上の者か。ならば知らぬのも無理はない」

 静かにある単語を発するアパシーだが、ウィッチにとってそれは馴染みのない言葉だった。ホセアは意味を知らぬウィッチを見かねて説明を施した。

「父なる神が見えざる神の手によって殺害され世界が分断された事は知っていよう。それぞれの世界が干渉し合わない為に、エントロピーとネゲントロピーは常に一定に保たれる必要があった。だが、悪魔は存在そのものがエントロピーゆえに滅びの運命を辿ったのだ」

「どういう事だ!? 貴様のその物言いだと悪魔は滅ぶべくして滅んだと言ってるように聞こえるぞ!」

「その通りだ」

 語気強く物申したレイの質問にホセアは真顔ではっきりと答えた。これを聞いたベリアルはすかさず「何ですって?」と、怖い顔で聞き返した。

「世界の崩壊を防ぐ為に悪魔殲滅は必要悪だった。それ以外に選択肢は無かったからだ」

「選択肢がなかった? どうして世界の崩壊を防ぐ為に悪魔が滅ぼされないとならないんですか!? 訳が分かりません! そもそもエントロピーとかネゲントロピーとか難しい単語で私たちを煙に巻こうとしていませんか!?」

 ウィッチの言い分も一理ある、そう判断するとホセアは「では少し噛み砕いて説明しよう」と口にしてから、彼女らの理解力に合わせて再度説明する。

「世界には目には見えない二つの物理量が存在し、それは恒常的に総量が等しくなる様に調和が保たれている。エントロピーとは世界を混沌へ誘う不純なエネルギーを指す。そして同じだけそれを減少させるエネルギー、即ちネゲントロピーが存在している。世界はこの二つの物理量が均等な事で絶妙なバランスを維持している。中国の易学では『陰陽』とも表現される。しかし、悪魔は生来エントロピーを多く含む。言わばエントロピーの塊であると言っていい。かつての大戦によって悪魔の総量は確かに激減した。だがそれでも世界が混沌化する要因が完全に消え去った訳ではなかった。時代を経るごとにエントロピーの値は増大し続け、二つの物理量の運行は乱れ続けた。世界の崩壊は予断ならぬところまで進んでいった」

 一旦一息を吐く。やがて、ホセアは淡々とした口調でベリアルが知らないデーモンパージに関する核心に触れる。

「そして十年前、非情ながらも賢明な下知が下された。世界の崩壊を防ぐべく見えざる神の手指揮の下、洗礼教会が行ったのが世紀の大粛清と言われる【デーモンパージ】――各地に散らばる悪魔と言う悪魔を王家・貴族の女子供に至るまで容赦なく粛清の対象とし、根こそぎ刈り取る事で悪魔は急激な衰退を辿ったのだ。同時に、乱れていたエントロピーとネゲントロピーの総量はバランスを取り戻した」

 今明かされる惨劇の真実。世界の崩壊を防ぐという大義名分名の下に起こった虐殺事件の真相は、あまりにも遣る瀬無く残酷なものだった。じっと話を聞いていたベリアルの感情は激しく高ぶった。

「悪魔からすれば見えざる神の手は傲慢な判断を下したかに思えるかもしれない。だが世界の崩壊を防ぐ為に我々も心を鬼にしたのだ。その為に多くのエクソシストや主ら神の密使(アンガロス)が手足となって働いてくれたな、アパシーよ」

「プリースト……悪魔共はあれで終わった訳ではありません。家族や友人を失い悪魔たちが次々と自決や教会による粛清を受け入れていく中、我らへ復讐せんと機を窺っていた者がいたのです」

 言うと、アパシーは目の前で鬼の形相を浮かべ睨み付けている少女――キュアベリアルを前に低い声で呟いた。

「天に仇なした悪逆無道の徒……魔王ヴァンデイン・ベリアルと魔王妃リアス・ベリアル。その者達の血と意志を受け継いだ娘です」

「リリス、お主にそんな過去が……」

 カタルシスでさえ目を見開くほどの驚愕の過去。ベリアルは相も変わらずアパシーへの敵意を向け続けている。するとベリアルがひしひしと湧き上がる怒りを声に含ませながら声を発する。

「……つまり私たち悪魔は世界にとってバグやがん細胞みたいなものだから、世界が壊れる前に排除された。それがあんた達のいう所の正義……そう言いたいわけね」

 拳をぎゅっと握りしめるその手から血が滲んでいた。レイとウィッチはこれほど強い憤りを抱くベリアルを間近で見た事など一度も無かった。いつもの彼女とは明らかに雰囲気が異なるそれはまるで別人の様だった。

「悪魔殲滅は必要悪だった? 世界を守る為に仕方がなかった? あんたたちは――そんな詭弁を並べ立てれば自分達が犯した罪が許されるとでも思っているの? あのとき、どれだけ多くの悪魔が……私の両親がどんな思いで死んでいったか、あんたたちは一度でも考えた事があるの!?」

 ひと言ひと言、張り裂けそうな想いで言葉を発するたび怒りのボルテージが急上昇する。今まで押し殺してきた感情をセーブするダムが決壊したが如く、ベリアルは甲高い声で洗礼教会の行いを厳しく糾弾し続ける。

「悪魔は平和の為に自らの咎を清算しただけに過ぎないのだ」

「黙りなさい!! 私たち悪魔はあんた達に殺される為に生まれて来たんじゃないわ!! 何様のつもりよ!!」

 ベリアルは叫んだ。思いの丈を――デーモンパージによって命を奪われた大勢の同胞や両親の気持ちをまるで代弁するかの様に。大きく、大きく叫んだ。

「なんで殺されなきゃならないのよ!! 何も悪い事なんてしてないのに!! ただ生まれてきただけなのに!! この世界の一員としてみんなとただ毎日平和に生きていく筈だった……なのに!! 悪魔にだって生きる権利がある筈なのに!!」

 感情の箍が外れたベリアルの口から次々と本音が漏れ出る。声に発するたびに涙腺が緩み、嗚咽を殺し次第に涙を零しながら声に出し続ける様をウィッチ達は傍らで見続ける。

「そう声を荒らげた所で死者は戻ってこないぞ。まったく、魔王と王妃も実に厄介な遺産を残して死んでいったものだな」

 ふぅーと嘆息した直後、ホセアは「やはり私の見立てに狂いは無かった」と口にし、続けざまにこう結論付ける。

「ヴァンデイン・ベリアルとリアス・ベリアル……かような悪魔を生んだのがその最大の咎という訳だ」

 ベリアルを指してホセアは彼女を、その父母である二人を悪しざまに侮蔑した。

 刹那、頭の中で何かが切れる音が聞こえた。ベリアルは瞬時にその場を強く蹴って、アパシーを通り越して何よりも許し難い相手――自分が心から愛した父母を目の前で侮辱したホセアの元へ向かった。

 堪えて来たものが一気に爆発。ベリアルは鬼神の如く表情を浮かべながらホセアに向かって突進する。

「お待ちください!!」

「リリスちゃんダメです!!」

「あの二人を……バカにすんなああああああああああああああああああ!!」

 激昂しながら拳を構え、アパシーとその背後で立ち尽くすホセアへと魔力を込めた正拳突きを放つ。

 土煙が上がった後、ベリアルは背後に鬼気を感じた。アパシーは冷静さを欠いた彼女の攻撃を容易く躱し後ろを取った。

「天にさえ抗えずして地に落ちた子鬼が、なぜまだこんな所を彷徨っている?」

 冷たく言い放つと、ベリアルの腹部目掛けて掌打を放つ。

 衝撃で海老反りとなる体。ベリアルは内臓を潰され吐血――大ダメージを受ける。

「天に全てを奪われた子鬼が、なぜまた天に咆えている?」

 冷たく問い詰めながらベリアルを持ち上げ、蹴り飛ばすアパシー。満身創痍となった悪魔を前に彼は淡々と言い続ける。

「あのときお前は、お前たちは知ったはずだ。いくら喚こうと、いくら叫ぼうと、お前たちの声は天には届かん。その慟哭さえも……」

 動けないベリアルの顔面を鷲掴みにすると、至近距離から衝撃波を放つ。

「「リリスちゃん(様)!!」」

 瞬く間に追い詰められるベリアルを助けようにも、ウィッチたちも簡単には動けない。

「ぐああああ!!」

 全身が軋み動く事さえままならない状況。体のあちこちから悲鳴が上がり、出血も著しい。そんな状態のベリアルにアパシーは銀のダーツを複数突き刺した。

「哀れなものだな、魔王の子。そこで己の血が腐るまで見ているがいい。お前の大切なものが、守ろうとしているものがあの時のようにすべて壊れて行く様を。魔王も、そして母もまた見ていよう……己の命を賭して護った子が、何も護る事も出来ずに無様に壊れていく様を」

 冷たく言い放ったアパシーは、ホセアの元へ戻り彼と共に城の奥へと去っていく。

「……なさい………………待ちなさいよぉっ!!」

 少女は慟哭する。自分からすべてを奪い、今この瞬間も奪い続ける悪に聞こえる声で。

「あんたたち、あんたたちだけはああああああああああああああああ!!」

 どうしようもなく湧き上がる憎しみ、怒り、哀しみと言った負の感情。皮肉にもそれはホセアがカオス・エンペラー・ドラゴン復活に必要としているエントロピー。戦いの中でベリアルの感情を逆撫でする事で彼女からもまた強いエントロピーを得ようとする手際は、最早計算し尽くされたものだった。

「がっは……」

 怒りの声を叫んだ直後、内臓を潰されていたベリアルは再び吐血。そして直後に意識が朦朧とし始め、酷い倦怠感に襲われ瞼が重くなり始める。

 こうしている間にも、自分と地球の未来の為に仲間たちは戦い続けている。なのに自分は何もできない。その事が異常なまでに悔しかった。

(動いて……動いて……お願いだから……動いてちょうだい……)

 

 ドカーン!!

 突然の爆発だった。表門から起こった爆発に中で戦っていた全ての者の視線が向けられる。

 黒煙が上がる中、煙の向こう側より三つの影が見えてきた。

「すみません。社交ダンスのパーティーがあると聞いて駆けつけて来たんですけど……」

「会場ってここで合ってますか?」

 ウィッチたちは挙ってその目を疑った。目が節穴でないという自負は持っていたつもりだが、一瞬だけ自信を失くした。

「こんばんは」

「地獄の底から舞い戻って来たぞ」

 煙の中から現れたのは紛れも無く死んだはずの三幹部――モーセ、エレミア、サムエルの三人だった。

 

 

 

 

 

 




次回予告

コ「でははははは!! キュアケルビム、俺様の前に跪きやがれ!! そして命乞いをしやがれ!!」
テ「誰があなたなんかに命乞いなんてするのよ!!」
コ「いつだってお前はそうだった……俺をいつも見下して、虚仮にしてきた! 気にいらねぇ……気にいらねぇんだよ!!」
テ「終わらせましょうコヘレト。私とあなたとの因縁に――」
リ「ディアブロスプリキュア! 『誰がために!セラフィムモード降誕!!』」
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