ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

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今回は十六夜朔夜とダスクとの最終決戦です。
前回以上に決闘という感じを醸し出して書いたつもりですが、相変わらず自分の文章表現が稚拙で泣けて来るぜ・・・!!
この話ではダスクの本性というものがわかるはずです。そして彼に尽くすラッセルは何を思うのかにも注目です。
では、始まります!!


第47話:漆黒の対決!暗黒騎士、究極変身!!

天界 第七天 居城から北方七キロメートル

 

 紅に輝く満月。

 空気の澄んだ夜に向かい合う人間と悪魔。

 正義を胸に抱き炎を連想させる特殊スーツを着こなすセキュリティキーパー、神林春人。己が欲望の為に生きすべての生物は苟且偸安(こしょうとうあん)の為の手段であると考え徒に命を脅かすはぐれ悪魔、カルヴァドスは正に対を為す存在。

 二人にとって恐らく……いや確実に今日が最初で最後の果し合いとなるだろう。この戦いで生き残った方が生き残り、敗者は動かぬ屍と化す。

 木枯らしが間を吹き抜ける。直後、沈黙を守り続けていたカルヴァドスが口元を緩め声を発した。

「君とボクは水と油だよね。どうあっても分かり合えそうにないよ」

「分かり合うっていうのは互いを理解する事から始めるものだよ。 生憎と僕は最初から君のことを理解したりしない。ゆえに君と分かり合おうとは毛ほども思っていない」

「あれれ~、おかしいな? 同じ悪魔なのに……どうしてリリスちゃんや朔夜君とは仲良く出来て、ボクじゃダメなのさ?」

「簡単だよ。君には『正義』がない。もっと言えば『信念』すら持ち合わせていない。自らの欲望のまま無為に人を不幸にし、それを食い物にする外道……死すべき無恥だよ。そんな奴と最初から同調したいとは思わないさ」

「はは。ホントに言われたい放題だ……まぁいいや。周りに嫌われるのは慣れっこだし、ボク自身も君の正義感には正直イラッとしてたんだよ」

 笑いながら、カルヴァドスは亜空間とを繋ぐ召喚陣を出現させると一振りで何人もの命を刈り取る事も造作ない巨大な武器【魔戦斧アドラメレク】を取り出した。

「きーめた! 君の首をかっさらって、それを段ボール箱に詰めてから君のお父さんに直接送り付けてあげるよ♪」

「僕の首を落とそうというのかい? 死を司る死神にならともかく、はぐれ悪魔風情が大口を叩くなよ」

 挑発と挑発、罵倒と罵倒の応酬。

 武器を構えたカルヴァドスの攻撃に備えセキュリティキーパーは警戒を強める。

 だがカルヴァドスは斬りかかるどころか間合いを取ってばかりで一向に攻撃を仕掛けてくる素振りすら見せない。ゆえにセキュリティキーパーはカルヴァドスの慎重さを不審がった。

「どうしたんだい? その間合いじゃ僕は斬れないよ」

「だって君がそこで待ってるって事は、ここから踏み込んだら君の間合いって事でしょ。ボクだって〝三天の怪物〟相手に迂闊に攻撃できないよ。だったら作戦を考えなきゃ」

「成程。意外と慎重な事だね。それとも臆病者って言うべきかな」

 カルヴァドスの行動を指してセキュリティキーパーは軽く嘲笑う。言われた側のカルヴァドスもまた、不敵な笑みを浮かべる。

 次の瞬間、カルヴァドスが右手に持っていた魔戦斧を豪快に振り下ろした。これにより強烈な突風が巻き起こる。

 突風に飲み込まれたセキュリティキーパーは咄嗟に防衛姿勢を取った。案の定、カルヴァドスが猟奇的な表情を浮かべ迫ってきた。

 アドラメレクを水平方向から薙ぎ払い、セキュリティキーパーの身体ごと切り裂こうと言う魂胆。突風に包まれた状態からセキュリティキーパーはスーツの力も相まってハイジャンプ――斬撃を躱した。

 攻撃を躱すとすかさず、セキュリティキーパーの第二形態・アサルトバースの能力を解放、反撃に打って出る。

「はっ!!」

 ダダダダダダダダ……。

 

           *

 

 何も無い。

 俺は、光の射さぬ深淵の中で生まれた。

 闇を圧し固めた様ななにものともつかぬ黒い、黒い、澱(おり)の底で生まれた。

 俺の仲間は皆一様に真っ黒な姿をしていた。真っ黒な姿で目を光らせ、歯を剥き出して何がしかを喰(は)んでいた。

 そして、俺には何も無かった。

 

 堕天使の目はギラギラと輝いていた。悪魔ほどの欲望を瞳の奥に宿らせるその姿は、何も無かった俺にとって随分と眩しいものだった。

 俺が王となる以前、堕天使たちはひとりひとりがバラバラだった。みんな己の欲望剥き出しに好き勝手生きていた。

 王たる者――俺は堕天使たちを統べる者としてこのままじゃいけないと感じた。それはすべての堕天使、何も無かった俺自身の為でもあった。

 

 ホセアと会ったのはもう随分と前の事だった。あの男はこう言った。【私と一緒に世界を屈服させてみないか】――と。

 世界を屈服させる、随分と御大層な法螺をふきやがったものだな。だが、矮小な法螺に付き合うよりもそれくらい馬鹿げた法螺に付き合う方が面白いとも思った。

 俺にとって初めての『野望』が生まれた瞬間だった。

 

 俺には何も無かった。

 言ってしまえば、無であるという事が苦痛だった。

 しかし、俺はようやく手に入れる事が出来たんだ。何も持たないゆえの苦痛から逃れられるたったひとつの巨大な野望(ゆめ)を。

 俺は、その巨大な野望(ゆめ)の中に身を沈めることにした。

 

           ≡

 

天界 第七天 居城から南方六キロメートル

 

 同じ紅い月下に刃を交える二つの影。

 片や歴代最年少で王位に就きながら最強の力を有した堕天使。片や悪原リリスと同じデーモンパージから生き残った悪魔であり彼女の婚約者。

 ダスクと十六夜朔夜こと、バスターナイト――両者は刃を交えるという行為を通じて、互いの感情の全てを伝え合う。

「お前との因縁にも決着を付けなければと思っていたところだ。手間が省ける」

「はっ。そのセリフは一度でも俺を負かしてから言えよ。堕天使の王たるこの俺をな」

 鍔迫り合いをしていたと思えば、すぐさま離れ牽制。そして再び接近し鍔迫り合いとなる激しい剣戟の応酬。

 ラプラスは、少し離れた場所からダスクとの激闘を繰り広げるバスターナイトを見つめ憂慮する。

「朔夜!! 待ってなさい、今すぐに!!」

「行かせないわよ!!」

 居た堪れなくなり援護に向かおうとしたラプラスの前に立ちはだかる堕天使ラッセル。彼女の行為にラプラスは露骨なまでに苛々を募らせる。

「このアバズレ……あんたはすっ込んでなさいよ!」

「誰がアバズレなのよ!!」

「アバズレにアバズレと言って何がいけないってのよ!!」

「使い魔にだけは言われたくないのよそのセリフ!! もうアッタマきた、ぜーったい許さないんだから!!」

「アタシだって勘弁ならないわよ!!」

 向こうが生死を賭けて争う反面、こちらは実に醜くも恐ろしい女の戦い。

 両者名前が似通っているというところから火が点き、気がつくとこんな風にいがみ合う関係になっていた。

 果たしてこのような不毛な争いをし続ける事に何の意味があるのかと誰かが言っていたが、当人同士は歯牙にもかけず互いのプライドを守る為に醜態を晒す事も厭わず鬩(せめ)ぎ合う。そこに様々な矛盾を孕んでいる事も忘れて。

 

 ドドーン!!

 そんなときだった。突如轟音が鳴り響いた。

 慌てて後ろを振り返るラプラスとラッセル。瞳に飛び込んだのは、ダスクの力に押され苦戦を強いられるバスターナイトの姿だった。

「朔夜っ!!」

「ダスク様っ!!」

 案の定ダスクは強く、バスターナイト一人ではまだ荷が重かった。

 心配を寄せるラプラスと嬉々とした表情のラッセルを余所にバスターナイトは重い身体に鞭打ち、無理矢理体を起き上がらせる。

 バスターソードを強く握りしめ、今一度ダスクへと向かって突進。諦める事無く最後の最後まで食らいつこうとする小さくも勇気ある少年悪魔の姿勢に、若き堕天使の王はシンパシーを抱く。

 ゆえに彼は己が認めた最高の好敵手を全力でもって叩き潰したいという衝動に駆られるのである。

「ケイオスフレア!!」

 ダスク専用の大剣【フォービドゥンギルティ】から発熱される紅蓮の炎は渦を巻き、バスターナイト目掛けて飛んで行く。

 前方から襲来する炎の渦を手持ちの剣を使って軌道を変えると、屋根瓦の表面を利用してバスターナイトはダスクの懐へ潜り込む。

「ダークネススラッシュ!!」

 一気に間合いを詰めるとすぐさま得意の一太刀をお見舞いし反撃に打って出る。

 紙一重という所でバスターナイトの太刀筋を見切ったダスクは顔を後ろへ逸らし、一緒に体を海老反りにして宙返り。素早い動きで後退する。

「ダークネススラッシュ・乱舞!!」

 言葉の意味する通り、ダークネススラッシュの乱撃がダスクへと向けられる。

 下手な鉄砲数撃ち当たる――等と言う俗な発想から行っている訳ではない。狙いを定めた上で、殺傷力の高い斬撃を一人の標的に集中砲火しているのだ。

 バスターナイトの戦略を賢明だと内心評価するダスク。だがしかし、評価とは別に彼は口元をつり上げると飛来する斬撃全てを見極め機敏に回避する。

 全てを見切ってからバスターナイトの間合いへ入り込み、手持ちの大剣から凄まじい破壊力を秘めた一撃を喰らわせる。

「ふん!!」

「ぐあああああああ」

 例えるならダークネススラッシュを十倍の威力にした様な太刀筋がバスターナイトの鎧を打ち砕き、彼ごと弾き飛ばす。

 岩肌を削り取りながらバスターナイトは大ダメージを受けた。

 ダスクは、フォービュドゥンギルティを肩に担ぎながら頭上より好敵手の姿を見下ろした。

「どうした? 俺を倒すんじゃなかったのか?」

「く……」

「今さら出し惜しみなどするな。この俺を倒すからにはお前の全身全霊の力で打ち込め。そうでなければ俺が一方的にお前を嬲り殺すだけのつまらない画になってしまう」

「――スタイル・クリムゾンデューク!!」

 ここまで言われたからには、バスターナイトも出し惜しみなど出来なかった。

 最後の最後までとっておくつもりだったバスターナイトの切り札――火炎龍の力を内包した紅き鎧【クリムゾンデューク】の力を解放する。

「それでいい。それでこそ、俺が唯一見込んだ悪魔だ」

 彼が力を解放した事が嬉しく、ダスクは嬉々として口角を上げる。

「知らなかったな。まさか貴様がそんな風に思っていたとは」

「たとえ悪魔と言えど、真に猛き者には敬意を払う。それが王としての礼儀。俺のモットーだからな」

「奇妙に律儀な性格だ」

 これは皮肉を言っている訳ではない。純粋にそう思ったのだ。

 クリムゾンデュークの力で変化した愛刀を手に取り、バスターナイトは再びダスクと正面からぶつかり合う。

「「はああああああああああああ」」

 文字通り激しく火花を散らしあう。

 暗黒騎士と堕天使の王。互いの生死を賭けた果し合いで、生き残るのはどちらか――……。

 

           *

 

同時刻――

第七天 居城から北方七キロメートル

 

〈Target mark〉

「はああああ」

 アサルトバースシステム専用の武器【SKバリアブルリボルバー】から繰り出す光弾。一秒間に数百発という弾が撃ち出される。

 ベルーダの技術の結晶にして警察機構最強の砦とも称すべき力。その力を嘲笑うかの如くカルヴァドスは飄々とした態度で避けていく。

 そして、いつの間にかセキュリティキーパーの前から姿を消してしまった。

(どこへ消えた?)

 直ぐに熱感知システムを作動させカルヴァドスを捜索する。

 刹那。背後よりカルヴァドスと思わしき熱エネルギーを感知。姿を透明にして隠れていたカルヴァドスがセキュリティキーパーの間合いへと入り魔戦斧アドラメレクを振り下ろす。

 攻撃が当たる既のところで、セキュリティキーパーは瞬間的に体を横に捩じった。カルヴァドスが繰り出す魔戦斧による一撃がスーツの装甲を傷付ける。

 強い衝撃がスーツを通してセキュリティキーパーの肉体へと伝わる。そうして彼の動きが怯んだのを受け、カルヴァドスはスーツ越しにむやみやたらと斬撃を叩き込んだ。

 このままでは装甲がもたない――そう判断すると、咄嗟に腰に帯びたSKメタルシャフトを振るってやや強引にカルヴァドスの斬撃を弾いた。

 素早く後退するセキュリティキーパー。一方で、彼の瞬間的な判断力を見せつけられたカルヴァドスは感服し、思わず不敵な笑みとなる。

「一瞬の逡巡が命運を分けたね。さすがは三天の怪物だよ!」

「………」

 メット越しに不快感と殺意ある眼差しを向けるセキュリティキーパー。これにはカルヴァドスも思わず苦笑する。

「ははは……そんな人を噛み殺そうとする様な瞳(め)で見ないでよ。ボクだってビックリしてるんだよ、君の人並み外れたその反射神経と判断力には。人間にしておくにはもったいないぐらいだよ。どうだい? 殺すの止めてあげる代わりに、人間やめてボクと手を組んでさ――」

 ズドーン!!

 言おうとするカルヴァドスへと向けられる非情なる銃撃。彼は口元を緩めたまま首を僅かに横へずらし弾を避けた。

「……君の御託に付き合うつもりはない。君と手を組むことも、況して人間をやめる事も丁重にお断りするよ」

「実に惜しいんだけどな……でもさ、まさかと思うけどボクがそんな簡単に諦めると思ってるのかな?」

「まるで君は、しつこくて悪質な保険の電話勧誘の様だよ。こちらの気持ちなどまるで理解しようとせず、自分の利益欲しさにずけずけと他人(ひと)の敷地に入り込んでくる」

「うん! 的を射た譬えだね。まったく君の言う通りだよ!!」

「君、もしかしなくても〝遠慮〟や〝忖度〟って言葉を知らないでしょう?」

「それってどっちも、相手の気持ちを理解するって意味かな? だとしたらボクにはムリだよ。だって生まれてこの方相手の気持ちなんて理解しようともしなかったし。これからもだけどね」

「だから君は誰からもハブられるんだろう。ま、それで君自身が何も感じないというのなら、ある意味幸せだと僕は思うよ」

「褒めてくれてありがとう♪」

「いいや。むしろ可哀そうな奴だと言っているんだ」

 互いに互いを貶し合う。

 訊けば胸に突き刺さるような嫌味をこれでもかと言い合うと、二人は人間のそれを逸脱した決闘を再開した。

 

           *

 

同時刻――

第七天 居城から南方六キロメートル

 

「ブレイジング・ストーム!!」

 ブレイズ・ドラゴンを屈服させ手にしたクリムゾンデュークの能力。その力でバスターナイトは最強の堕天使に真っ向勝負を仕掛ける。

 しかし、最強の堕天使の王は一度その目で見た技を二度も食らうなどと言う素人染みた失敗は犯さない。一度見たものは既に攻略済み。ダスクは、バスターナイトの技を見切って反撃を仕掛ける。

「ふん!!」

「ぐああああああ!!」

 フォービドゥンギルティを一振りしただけでバスターナイトは大ダメージを負い吹っ飛ばされる。

 底知れぬ闇の力を秘めたダスク。クリムゾンデュークの力を以ってしても敵わない別次元の領域なのかとさえ思わされる。

「どうした暗黒騎士! お前の力はそんなもんじゃねぇだろ! 俺を幻滅させるなよ!!」

「朔夜っ!! 朔夜っ!!」

 一途にバスターナイトの身を案じ続けるラプラス。彼女の瞳には無情とも言うべき光景が立て続けに飛び込んでくる。

 爆発が起きて轟音が鳴り、その度に大切に育て上げたバスターナイトが傷ついていく。

「ぐあっ!!」

 堕天使の王は決して嬲り殺す事が趣味なのではない。ただ、生来他を隔絶する力を持つがゆえ彼と拮抗する力の持ち主はそう簡単には現れなかった。

 バスターナイトとて例外ではない。確かに彼は強い悪魔であり、ダスクの見立てでは魔王ヴァンディン・ベリアルに次ぐ強さだ。これからもっと成長しより力を研鑽していくことは間違いない。だが、現時点でダスクと互角に渡り合えるかというと――答えはNOだ。やはり力及ばずダスクに圧倒されてしまっている。

 壁に打ち付けられたバスターナイトの首根っこをダスクは鷲掴む。怒りと不満を募らせたその表情でバスターナイトを見ながら、腕力だけで彼の体を持ち上げる。

「どうした! まだまだ食い足りねぇぞ。そんなんじゃ俺は一向に満足なんかできねぇよ!!」

(こいつ……戦うたびにオレの力を上回ってくる! これが、堕天使の王の真の力か……!!)

 一方的すぎる戦況。こんなのはバスターナイトとしても認めたくない。

 何としても一矢報いたいと強く願うと、渾身の力で剣を振るいダスクから退いた。その隙にバスターナイトは背中の翼で空中へと舞い上がる。

「バースティングスラッシュ!!」

 中空より地上のダスク目掛けて大火力の斬撃を降り注ぐ。

 勢いよく降る炎の豪雨。ダスクはフォービドゥンギルティで最低限の防御を保つが、やはり炎の全てを受け流す事は出来なかった。

 バスターナイトは空の上からダスクを見下ろした。大量の蒸気が発せられる中、窪んだ大地の真上に立ち尽くすダスクの体には夥しい火傷が出来ていた。にもかかわらず、彼は痛みをまるで感じておらず、むしろ笑みさえ浮かべている。

「……それでいい、それでいいんだよ。それでこそ倒し甲斐があるというものだ!! 俺は今、猛烈に感動しているぞ!!」

 本気で戦える事に至福を見出す。これまで自分に立ち向かってきた者は魔王などを除き悉く弱く、脆い相手だった。だから本気で戦いたいなどと言う欲望を抱くことさえ無かった。

 だが今は違う。こうして心置きなく本気で戦える相手にようやく彼は巡り合う事が出来たのだ。相手が堕天使だろうと悪魔だろうと関係ない。ダスクは心の底からこの戦いを――バスターナイトとの戦いを愉しんでいた。

 心なしかバスターナイト自身も気づかぬところでこの戦いに充実感というものを感じていた。しかし一方で、彼にはどうしても腑に落ちない事があった。

 その疑問を拭い去る為に、彼は一度地上へ降りダスクへ問いかける。

「わからない」

「なに?」

「貴様ほどの男が、それだけの力を持ちながら……なぜホセアなどと手を組んだ?」

「……」

 バスターナイトからの問い掛けにダスクは沈黙する。

「確かに貴様は堕天使の王だ。その凶悪なまでの力には幾度となく苦しめられてきた。今もそうだ。だが、なぜだろうな……貴様はホセアとは明らかに違う」

 大剣を肩に担ぎながら、ダスクはバスターナイトの言葉に耳を傾ける。彼の言う事を一言も逃さぬよう真摯になって聞き続ける。

「教えてくれ! 貴様は本当に世界を滅ぼすつもりなのか、ダスク!?」

 語気強く問いかけるバスターナイト。彼を前にして、ダスクの口から飛び出したのは実に意外な答えだった。

「世界が滅んじまったら……それこそ願い下げだっつーの」

「え?」

「曲がりなりにも俺は堕天使の王だ。王ならば、すべての種を屈服させたいという野心があるのは当然の事! 全てを滅ぼす黙示録の獣……カオス・エンペラー・ドラゴンがこの地に復活し世界を壊そうとするのなら、俺は全身全霊の力でもってそいつを排除する。カオス・エンペラー・ドラゴンはこの世で最も強い力を持った存在。そいつを倒せば、名実ともに俺こそがこの世界の種を一人残らず屈服させたことを意味する!」

「まさか……お前は最初からそれが狙いで?!」

「ああそうとも! カオス・エンペラー・ドラゴンを倒すのはこの俺だ。ホセアの思い通りになんかさせてたまるか。俺は最後の最後まで、堕天使として振る舞い生きてやるつもりだ! そして全ての種をこの手で必ず屈服させてみせる!!」

 世界に己の力を示す以上、ダスクが求めたのはホセアと同じくこの世界を滅ぼす程の巨大な力であるカオス・エンペラー・ドラゴンの復活。だがその復活は彼に迎合する為ではなく、自らが最強である為の生け贄としてその存在を強く必要としていた。

 カオス・エンペラー・ドラゴンを討つ――それこそダスクの野望の真義。世界の種の全てを屈服させる事を所望する堕天使の王が辿り着いた至高の答え。

 彼の目的を聞かされたバスターナイトは暫し唖然とし呆然と立ち尽くす。一方で、ダスクはフォービドゥンギルティを三段構えで持ち直した。

「暗黒騎士バスターナイト、いや十六夜朔夜! 俺のとっておきだ。避けてみせろよ!」

 言った途端、ダスクの全身から漏れ出る闇と言う闇。あらゆるものを呑み込み吸収するブラックホールの如く濃厚な魔の渦が彼の足下から漂ってきた。

 今までとは桁違いな闇だと、バスターナイトは肌に触れずとも分かった。同時にこの闇は危険であるという認識を強く持ち、近くにいる自分の使い魔へ声高に叫んだ。

「ラプラス!! 今すぐ離れた方がいい!!」

「え!? どうして……」

「いいから早く!! 死ぬことになるぞ!!」

 

「最終奥義……マスター・オブ・ダークネス!!」

 剣先から渦を巻く闇が天上に向かって駆け上がっていく。月明かりを遮断し周囲数キロ圏内を完全に闇で覆い尽くしてしまった。

 バスターナイトとラプラス、そしてラッセルは思わず固唾を飲む。

 やがて、暗黒空間は突如として牙を剥く。まるで闇そのものに意志があるかの如く触れたもの全てを闇へと誘い強制的に支配下に置く。バスターナイトは天上より襲い掛かる夥しい量の闇の触手に触れぬよう剣は使わず避けることだけに全神経を注ぎ込む。

 その間に対応策を逡巡する。今、ダスクは奥義の発動に伴い自らが人柱となって攻撃も防御も出来ずにいる。闇を全て回避しダスクに近付く事さえできれば、一気に逆転の可能性が開けるかもしれない――バスターナイトは僅かな可能性を信じ賭けに打って出る。

 降り注ぎ襲い掛かる闇の触手。それを俊敏に躱しながら、バスターナイトは着実にダスクの下へ接近する。

(触れたものを強制的に闇へと誘う……それがこの技の能力。そして、それを発動する間ダスクは完全な無防備状態となる。ならば――)

 ひとつ、またひとつ闇を避けながらバスターナイトはダスクへ急接近。

(そこを突かずしていつこいつを倒せる!!)

「ダスク様っ!!」

「はああああああああ!!」

 ダスクの間合いへと入り込んだバスターナイトは、刀身に炎が灯った渾身の一撃を仕掛ける。今のダスクは完全なる無防備状態。闇を生み出す為の人柱となっている彼に避ける余力は残っていない。

 バスターナイトの剣がダスクへと振りかざされた次の瞬間、事態は予期せぬ方向へ傾いた。

 

 ズドン――。

 確かな手応えがあった。だが、バスターナイトが斬ったのはダスクではなく全く別のものだった。

「なに!?」

 咄嗟にラッセルが前に飛び出してきたと思えば、無防備なダスクを庇って自らが盾となりバスターナイトの剣の餌食となった。

「ラッセル……ラッセル!!」

 さすがのダスクも目を見開き声を荒らげる。人柱化を解いた彼はすぐさま斬られたラッセルの元へ駆け寄った。

「おい! どういう事だよ!? おい!!」

「くっは……」

 ダスクの腕に抱きかかえられ吐血するラッセル。その飛沫の一部がダスクの顔へ飛び散った。

 自らの命を散らす事も厭わず主人を守り抜こうとしたラッセル。堕天使らしからぬ殊勝な行為にダスクはおろかバスターナイトも戸惑いを隠し切れない様子だ。

 すると、残り僅かな命の炎――それが燃え尽きる前に彼女は意識があるうちにこれだけは伝えようとおもむろに言葉を紡ぐ。

「あなたのお陰で気づいた事……あなたのお陰で分かった事……あなたのお陰で見つけた事……数え切れなくて、もう訳が分かりませぬ。あなたのお陰で楽しかった……あなたのお陰で嬉しかった……あなたのお陰で笑って、喜んで、怒って、はしゃいで、まるで……自分が自分でないようでした。あなたのお陰で私は……変われるのではないかとさえ思えました」

「ラッセル……」

「だけど、結局私は……変われなかったのです」

 自らを嘲笑いながらラッセルはこれまでを思い返す。

 最愛の人を亡くしてからずっと塞ぎ込み、生きる気力さえ失いかけていた。そんなときダスクが自分を暗い絶望の淵から救い出しもう一度生きる機会を与えてくれた。

 当初、堕天使の王であるダスクに畏怖を抱いていた彼女。しかし、段々とそれが薄れいつしかダスクと過ごす時間がラッセルにとって居心地のよいかけがえのないものへと変わっていった。そうして心にぽっかり空いた穴は自然と癒え、次第にその御身をダスクの為に捧げても構わないという感情さえ芽生えるようになったのだ。

 急速に薄れゆく意識。もう永くは無いと思いながら、動揺を隠しきれないダスクを前にラッセルは自嘲し続ける。

「相応しい死に様ではありませんか……わたしなどこの程度です。所詮あなたにとって所有される資格も無い不良品でした」

「俺の所有物はおめぇ以外にいるわけがねぇだろ! だったら、おめぇの人生って一体何のためにあったんだよ? おめぇにだって幸せになる権利ぐらいあっただろうが! それなのに傷ついて傷ついて傷ついて、最期にはこんな道半ばで斬られて死んで……おめぇ一体何やってんだよ! バカじゃねぇのか!!」

「まったく……その通りです……でも……わたしの心は今、とても穏やかです……とても幸せなのです」

「……っ!!」

「道半ばで斬られて死んで、幸せです……これでもう……愛する者を二度と失う哀しみを味わわずに済んだのですから……」

「ラッセル……」

 一度愛する者を失っているからこそ、もう二度と失いたくないという感情は余計に膨れ上がる。

 ラッセルはダスクを確かに愛していた。愛しているからこそ、自分の目の前で彼が死ぬような事があってはならなかった。

 最後の最後で彼女が見せた破顔一笑。ラッセルは、おもむろに左手をダスクの頬へと添えてきた。

「ダスク様……わたしは自分勝手で、自己中心的で、己の欲望のこと以外は何も考える事が出来ず、死ななければ直らないようなバカで、あなた様の足を散々引っ張ってきた不良品で……ひどい……何の救いようも無い様な、死んで当然の女ですが……」

 そこまで言ってから一息吐く。もう喋る力はほとんど残っていない。だからこそ、命の炎が尽きる瞬間これだけは言いたかった。

「それでも……わたしは……あなたに惚れてもいいですか?」

 死に際に放たれた彼女からの告白。それを受けたダスクは、言葉ではなく首肯によって彼女の気持ちに答えた。

 願いを聞き入れてもらえた事が嬉しかった。感涙する彼女は、最後の力を振り絞って言う。

「ダスク様……わたしやザッハ様の分まで生きてください。そしてどうか、あなたの……野望を叶えてください……わたしはひと足先に闇へと還りますわ……」

 と、ダスクの――堕天使すべての健闘を称えながら彼女はダスクの腕の中で息絶えた。

 命の炎を燃やし尽くし亡骸となった彼女を抱きかかえながら、ダスクはおもむろに立ち上がり、その死に報いようとする。

「ラッセル。お前の願い……確かに聞いたぜ」

 直後、死したラッセルの遺体を闇の触手を用いて天高く持ち上げた。彼女の身体に残っていたエネルギーのすべてを吸収しダスクは自身の体へと取りこんだ。

「これは……!?」

「何するつもりなの?!」

 ダスクの行動の意図が掴めないバスターナイトとラプラス。二人が戸惑いを隠し切れないでいると、ラッセルから吸収したエネルギーからダスクは強固な鎧を作り出し、それを全身に隈なく装備した。

 堕天使の王の全身、顔の部分まで覆い尽くす重厚なる漆黒の鎧。威風堂々としていながら、対峙する者に絶対的な畏怖を植え付けるような目に見えない圧を発している。

「それは…………!」

「〝堕天王の鎧(フォール・ダウン・ルーラー・アーマー)〟――……俺は今、ラッセルの魂と同化した」

「同化、だと?」

「来るがいい、暗黒騎士。我が力の前に跪かせてやる」

 ラッセルの死を経て先ほどまでと違って口調が重々しくなった。より王たる雰囲気を醸し出し、より畏怖の念を抱かせる。

 バスターナイトとラプラスは尋常ではない汗を流し、体は強張った様子で動きがぎこちない。

 しかし、相手がどれだけの力を手に入れようと関係ない。泣いても笑ってもこの戦いが最後。バスターナイトはすーっと息を吐いてから、手持ちの剣を構え直しダスクと対峙する。

「暗黒騎士バスターナイト……参る!!」

 覚悟を決め前へと飛び出した。ダスクの間合いに入るや素早く剣を振るう。

 カキン――、と言う鋭い金属音が鳴った。だがそれは剣と剣が衝突した際に起こるものではない。バスターナイトによって放たれた一太刀をダスクが指先ひとつで受け止めたのだ。

「な……に……!?」

 白刃取りという技術そのものは決して珍しくない。問題は最強クラスのブレイズ・ドラゴンの力を内包したクリムゾンデュークでの一太刀を、指先だけで受け止めたという事実。バスターナイトはあまりの衝撃に言葉を失った。

「こんなものか。いや無理もない、今の俺はひとりで戦っているのではない。ラッセルの魂と同化した俺は言わば、究極の力を手に入れたも同然なのだ!!」

 言うと、指先だけで受け止めたバスターナイトの剣を指先の力だけでへし折った。

 ペキっ――という音を立て折れた刃が地面に落ちる。ダスクは間髪入れる事無く武器を破壊されたバスターナイトの体に拳を叩き込んだ。

「ぐあああああああああああああ」

 咄嗟にシールドを展開して防衛姿勢をとったつもりが、そのシールドですら容易に破壊する強力な正拳突きが腹部に炸裂する。

 体を海老反りに反らしたバスターナイトは衝撃を受け流す事も出来ず、巨大な力によって吹っ飛ばされた。

「朔夜っー!!」

 ラプラスは信じられない光景を目の当たりにするかの如くこの戦いを見つめていた。助太刀しようにもまるで介入の隙を与えない。いや、ダスクがそうさせない。兎に角彼女は恐怖で身体が強張っている為に動くに動けなかった。

 ラプラスから心配を寄せられるバスターナイトは、吹っ飛んだ衝撃で住居の壁を幾枚も破壊した。凄まじい一撃を受けた身体は勿論、紅蓮色に輝く鎧そのものにも相当な負荷がかかり所々に亀裂や罅が生じていた。

「がっは……」

 顔を覆い隠すマスクが部分的に破壊される。直後、バスターナイトは大量に吐血する。

(くそ……拳打だけでクリムゾンデュークの鎧に罅を入れたばかりか、ここまで消耗させるとは……)

 規格外な力を手に入れたダスクに抗う術はあるのかと逡巡する中、ダスクがおもむろに近づいて来、掌を向けると闇の波動を撃ってきた。

「ふん!!」

 ドドーン!! ドドーン!! ドドーン!!

「どあああああああああああああああああ!!」

 容赦なく放たれる一撃必殺の威力を秘めた闇の波動。その威力を前にバスターナイトの身を守っていた鎧は木っ端微塵に砕かれた。そして二度とその力を使わせない為に、ダスクは力の源であるブレイズ・ドラゴンの魂が封じられた宝玉を破壊する。

 宝玉が破壊された事で、永劫にクリムゾンデュークへの変身は不可能となった。

 強制的に変身を解かれ満身創痍となった朔夜。体を地面に伏したまま起き上がる余力すら残っていない。

 ダスクは非情にも朔夜の体を持ち上げると、力いっぱい放り投げた。

「ぐあああ……」

 放り投げた場所がちょうど天使たちの住居の屋根部分。頂きの辺りに叩きつけられたと思えば、彼の体は力なく瓦の上を転がっていく。

 転がった拍子に仰向けとなった朔夜を見ると、ほとんど意識は残っていない。ダスクは瞬間移動の如き速さで近付き、朔夜を見下ろしながら低い声で呟く。

「十六夜朔夜、貴様との愉しいひと時に礼を言おう。非常に名残惜しいことだが、貴様との勝負もこれで幕引きだ」

 おもむろに大剣フォービドゥンギルティを天高く振り上げる。

 朦朧とする意識の中、朔夜が重い目蓋を開ける。視界がぼやけてはっきりしないが、そこにダスクがいる事と彼が凶刃を振り上げた状態で自分を見下ろしているという事だけは理解できた。

(ここまでか………すまない、リリス……)

 最愛の人を守る前に志半ばで死んでいく――この上も無く悔しい事だが、すべては自分の無力さが招いた結果である。

 残酷な運命に抗う事も出来なくなった朔夜は、死を覚悟し今一度目を瞑ろうとした。

 

『テンペスト・ウィング!!』

「っ!!」

 だが直後に聞こえた声に咄嗟に体が反応し、閉じかけていた瞼をがっと開いた。

 ダスク目掛けて飛んできた竜巻。彼を妨害するのは朔夜の使い魔ラプラスで、彼女は僅かに怯んだダスクの目を盗むと、傷ついた朔夜を連れてその場から離れた。

「朔夜!! しっかりしなさい!!」

 虫の息にも近い朔夜の体をラプラスはひたすら強く揺すり意識を確認する。すると、朔夜の意識が徐々に戻り始めた。

「うっ………お、お前が助けてくれたんだな」

「当たり前じゃない!! 誰の使い魔だと思ってるのよ!!」

「そうだな……しかし弱ったな。頼みの綱だったクリムゾンデュークは完全に破壊されてしまった。これではもう奴と戦う事すら叶わない……オレの負けだよ」

 自嘲した笑みを浮かべながら朔夜は打つ手なしと呟いた。

 その直後、バチン――という破裂音のような音が鳴るとともに朔夜の左頬に衝撃が走った。

 よく見ると、今にも泣き出しそうな顔でラプラスがビンタを食らわした。一瞬思考が停止した朔夜だが、彼女は彼の両肩を強く握りしめ言って来る。

「弱気になってんじゃないわよ……それでもあんた、リリスちゃんの婚約者なの!?」

「ラプラス……」

「あんた、ずっと耐えて来たんじゃないの!? ずっとずっと色んなものひとりで背負い込んで……大好きな子を守りたいって強くなるって決めて……ようやくここまできたんじゃない!! 今ここであんたまでいなくなったら、あの子は……リリスちゃんは今度こそ本当に笑顔を失くしちゃうじゃない!! それでもいいの!?」

 聞いた途端、朔夜は我に返った。

 考えてみればそうだった。幼き頃、混血の悪魔ゆえに疎んじられていた自分を救ってくれたのがリリスだった。そのリリスを一途に守りたいという思いがあったから朔夜はここまでやってこれた。

 そのとき、彼の脳裏に数時間前の出来事がふと蘇った。

 

           ≒

 

さかのぼる事、二時間前――

黒薔薇町 十六夜家

 

 天界へ向かう直前、朔夜はリリスから手料理を振舞ってほしいという要望を受け、彼女を自宅へ招いた。最後の晩餐のつもりで彼は腕によりをかけた。リリスは愛情のこもった彼の料理を一つ一つ深く味わい、すべて完食した。

「ごちそうさまでした」

 口元をテーブルナプキンで拭うと、後片付けをしている朔夜に感謝とともに謝罪する。

「サっ君、本当に美味しかったよ。それとごめんなさい。突然の我儘聞いてくれて」

「いいよ。このくらいの事は。今から天界に殴り込むんだ。今のうちに英気を養っておく必要はあるからね」

 婚約者の我儘の一つや二つを苦に思うほど朔夜の懐は狭くはない。それどころか非常に寛大である事はリリスも知っていた。知っているからこそ、あまり負担をかけたくないと逆の心理が働く胸中、それでも彼の優しさに甘えてしまう事をリリスは恥ずかしくもありこの上もなくうれしくも感じていた。

 朔夜は両頬を仄かに桜色に染めるリリスに柔らかく笑いかける。食器を片付ける傍ら、リリスの親友であるはるかの事について尋ねる。

「はるかはどうしたんだい? てっきり一緒に付いて来るかと思ったけど」

「あの子なら一旦家に帰ったわ。今生の別れになるかもしれないからって、両親に今迄のこと……自分がプリキュアだって事を話すんだって」

「そっか」

 戦いに赴く前に各々が後悔しない選択をする――はるかの場合は両親にこれまでの秘密を打ち明ける事なのだと理解し、朔夜はそれ以上深くは問わなかった。

「あのねサっ君」

 すると、リリスが意を決したように朔夜へ声をかける。

 朔夜がおもむろに振り返った時、リリスはやや顔を下に向けながら、不安に駆られた様子で呟いた。

「この戦いに終止符が打たれた時、私は……私は十年前の私に戻れるのかな」

「っ!」

 聞いた瞬間、朔夜は目を大きく見開いた。

 紛れも無く今のは彼女が心の裡に抱える強い願いだった。デーモンパージ以来、故郷や家族といった帰る場所を失った彼女は洗礼教会への復讐を果たす為、常に自らの心を壊し続けてきた。そして一種の自己暗示によって、別の自分になって戦い続けてきた。

 そんな常に「心がずっと戦場にいる自分」だからこそ、彼女はいつしか失ってしまった本当の自分――デーモンパージ以前の明るく、純粋だった自分に戻りたいという願いを持っていた。

「ごめんなさい。私ったら変なこと言っちゃった」

 呆然として固まった朔夜に対し申し訳なさそうに自嘲気味に笑ったリリス。

 すると、そのとき――リリスの体を朔夜がぎゅっと力いっぱい抱きしめて来た。驚きのあまり声を失う彼女に、朔夜は今にも泣きそうなくらいの震える声で言って来た。

「すべてが終わったら……二人で行こう。俺たちの故郷へ。だいじょうぶ、きっと戻れるから……きっと」

「うん………ありがとう……」

 婚約者の心からの気遣いにリリスの心は強く打たれた。双眸から一筋の涙を流すとともに、リリスは朔夜の首に手を回した。

 

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 

           ≒

 

 譬えるなら、河原に柔らかく咲いた花の様な笑顔。ひとえに彼女の笑顔を守りたい。自分にとっての力の源が、自分にとっての優先順位が第一に悪原リリスという少女である事を思い出した。

「…………そうだったな。親も無く、身寄りも無いリリスにとって家族と呼べる者はオレたちだけなんだ」

 ここで自分が死ぬわけにはいかない。死んだら最後、もう二度とリリスとも会えない。何よりリリスから永劫笑顔が消える事になる。それだけは努々あってはならない――朔夜はラプラスに体を支えられながら、軋んだ筋肉と骨を動かし全身の痛みを堪え立ち上がる。

「くじけてる場合じゃなかった。ここで、オレが倒れるわけにはいかない……リリスの笑顔を守る為に強くなると決めたんだ……何があってもオレは……死ねない! 死ぬわけにはいかないんだ!!」

「それでこそ男の子! 十六夜朔夜よ!」

 どうにか彼を勇気づける事が出来た。ラプラスが安堵すると、朔夜は彼女に笑いかけ小さく「ありがとう――」と、呟いた。

 やがて、頃合いを見計らったようにダスクが空中より降りて来た。

「今生の別れは済んだのか?」

「今生の別れか……生憎オレもラプラスも聞きわけの悪い性分でな」

「あたしもこの子もまだまだ生きていたのよ! だってやりたいことが山ほどあるんだから!」

「欲望は悪魔の生きる原動力だからな。堕天使とてそこは同じ。しかし、それほど傷ついた体では今の俺に抗う事すらままならないと思うが?」

「ご忠告をどうも。安心しろ、痛みなら慣れてるさ……幼少の頃から俺はずっと耐えて来た……弱さと言う痛みにな!! その弱さゆえに何も抗えず、何も守れず、そして何も出来なかった。それがどれほど歯がゆく悔しい事なのか……それを思えばこんな痛み屁でもない!!」

「なるほど。では尋ねよう。十六夜朔夜、貴様にとって生きる意味とは何だ?」

「愚問だよダスク。オレにとって生きる意味など知れている……リリスの傍らで共に笑い、共に泣き、共に痛みを分かち合う。それが、オレのすべてだ!!」

 力強くそう答えると、朔夜はラプラスと手を取り固く握り合う。

「ラプラス――……オレに力を貸してくれ。一緒に戦おう」

「ええ―――……」

 心をひとつにするため、二人は目を閉じ互いの魂の波長を同調させる。

「「はああああああああああああああああああああああああ」」

 二人の体から溢れ出る漆黒のオーラ。だがそれはダスクのような禍々しく畏怖を与えるものではなかった。

 朔夜とラプラスの魂は同調し均衡を保ちながらその力を重ね合う。やがて、完全なる調和が成されると、ラプラスは朔夜のバスターブレスへと吸収された。

 刹那、ラプラスの力を取りこんだバスターブレスを用いて朔夜は声高に唱える。

「ウルティメイト!! バスター・チェンジ!!」

 朔夜の全身を黒みを帯びた目映い光が包み込む。

 ダスクが注視すると、目の前に映って来たのは自分と同じ漆黒の鎧を身に纏った朔夜の姿。だが、依然とは全く異なる形状をしていた。

 通常時やクリムゾンデュークに比べて重厚さが無くなりより洗練されたフォルムは「西洋」と「中華」の鎧を組み合わせたかのようで、前掛けが存在している。最たる特徴として魔法の杖と剣が融合したような独特の剣を装備していた。

「貴様、その姿は……」

 こうして見た事も無い姿へと変貌した朔夜を凝視しながら、ダスクはおもむろに尋ねる。

 

「バスターナイト――スタイル・ブラックパラディン!!」

 

 失った力を補うかの如く、朔夜はラプラスと自身の魂を同調・共鳴させる事で高位の騎士の称号をその名に持つ姿へと変身した。

 名をスタイル・ブラックパラディン。バスターナイトと使い魔ラプラスの魂が完全に同化した究極の力である。

「そうか、悪魔と使い魔同士の魂を同調させる事で新たな力を生み出したのか……」

「貴様に出来たことがオレたちに出来ない道理はないだろう?」

〈こっから大どんでん返しといかせてもらうわよ!〉

「面白い。俺と貴様、どちらが本当の強者か――ここで白黒つける」

 俄然やる気が湧いてきた。滾る闘志を胸に抱くと、ダスクは手持ちのフォービドゥンギルティを構える。

 一方のバスターナイトもラプラスの魂の一部が変化した最強の矛――【超魔導剣(ちょうまどうけん)ウルティメイト・パラディン】を強く握りしめる。

 両者は向き会い互いの出方を窺いながら静かにその時を待つ。

 そんな折、ダスクがふと呟いた。

「正直……驚いたさ」

「何がだ?」

「他人の為とはいえ、己の限界値を超えられる者などそうはいない。それほどまでにあの子悪魔の存在は貴様にとっての活力だという事だ」

「それは少し違うな」

 ダスクからの問いかけにそう答えると、バスターナイトは自らの持論を持ち出し語り始めた。

「リリスの存在はオレにとっての活力の源――それは間違いない。だが誰かの為に何かをするという事はオレには……悪魔には土台無理なんじゃないかって、ラプラスと融合する事でオレは初めてそう思ったよ」

「……」

「最初はオレよりも強いリリスに何となく惹かれて、途中からはオレよりも強いくせに脆いリリスを本気で守りたいと思うようになって……そんな事を考えなければならないくらいなら、そもそも戦わなければいい。とどのつまり、リリスもオレも自分の事しか考えて無かったんだよ。最後の最後まで自分勝手で、どうしようもないくらいわがままで、なんて言うんだろうなああいうのは……でも仕方ないんだよ。オレはそういうリリスのことが好きになったんだからな」

 敢えて攻撃を仕掛けるなどと言う野暮な行動はとらず、ダスクは黙してバスターナイトの話を聞き続けた。

 そんな彼に内心感謝しながら、バスターナイトは改めて剣を構え宣言する。

「デヴィル・ブラックサクヤ・オブ・ザ・アリトン――またの名を暗黒騎士バスターナイト、いざ参らん!!」

 地を強く踏み出すと、バスターナイトが凄まじい速度でもって接近。ダスクと激しく剣戟戦を繰り広げる。

「リリスのそういうところが好きになったんだから! だからオレもまた、オレの為だけに戦ってたんだと思う!!」

「なら、貴様は何の為にオレと戦っているんだ?」

 太刀筋のほとんどわからない斬撃を躱しながらバスターナイトはキッパリと答える。

「生きる為さ」

 距離を測りつつ、再びバスターナイトは剣を手にダスクへと肉薄する。

「リリスがオレを必要としているように、オレもリリスを必要としている! だからオレは生き続けるんだ!! 彼女の傍で――だからオレは貴様を倒す!!」

 生きる意味があるゆえに、生きる意味を果たしたいがゆえに、譲れないものがある。

 バスターナイトとダスクは超高速での接近と衝突をこれでもかと言わんばかりに繰り返し行い、その度に感情を昂ぶらせていく。

「はあああああああああああ」

「おおおおおおおおおおおお」

 拮抗する力と力。

 泣いても笑ってもこれが最後。この戦いでどちらかが生き残り、どちらかが死ぬ。生き残った者が未来を手に入れる事が許される。ならば、互いに悔いを残す事のないよう全身全霊を賭して戦うは自明の理。

「スプレッド・ウェーブ!!」

 一旦距離を置くと、バスターナイトはウルティメイト・パラディンの切っ先を天上へ掲げそこから漆黒に色づく波動を拡散させる。

 放たれた波動はすべてダスクへと向けられる。飛来する波動という波動を大剣で弾くダスクだが、その数は常軌を逸しており次第に押されがちとなる。

「があああああ」

 挙句、防ぎきれなかった波動の直撃を受け吹っ飛ばされた。

 屋根瓦の上を激しく転げ落ちると、ダスクは屋根から落ちる既のところで踏み止まった。

 ダスクの方へ走りながら、バスターナイトは肉体を粒子化させ彼を翻弄する。粒子化した状態から実体となり彼を斬り付け、また粒子となって彼を翻弄する。その行動を繰り返し行い着実に追い詰めていく。

「ぐううう!!」

 翻弄され続けるのは面白くないとばかりに、ダスクも反撃の斬撃を繰り出す。

 クリムゾンデュークに比べ、純粋な攻撃力と防御力には及ばないブラックパラディンだが、それを補うために備わった超能力を駆使し、バスターナイトは強固な結界を作り出しこれを防ぐ。

 そして忽ちダスクへ念動力による波動をぶつける。

「ぐああああああ」

 圧倒的なまでの超能力。最強の堕天使の力を凌駕する暗黒騎士の力。ダスクはその身をもって究極を超えたバスターナイトの実力を知ったのだ。

「ダスクっ!」

 声高に叫ぶバスターナイト。ウルティメイト・パラディンを構えると、静かにダスクへと問いかける。

「ケリを付けよう」

 これに対するダスクの答えは――

「……無論だ」

 この一撃で全てを終わらせる。両者は剣を構え向き合うと、残りすべての力を一本の剣へと集約させていく。

 刹那、対峙した両者の渾身の一刀が今――炸裂する。

「ダークロード・オブ・カオス!!」

「エクストリーム・ビヨンド!!」

 魂と魂を宿した最強の一撃が刃より放たれる。

 漆黒と漆黒。闇と闇を司る両者の攻撃は轟音を伴い激しく衝突し合った。

 巨大なエネルギー同士の衝突は周囲にあるものを容赦なく巻き込んだ。果たして、漆黒の激闘を制したのは誰なのか――土煙が晴れ、その勝者が判明する。

 

 煙越しに見えて来たのは二つの影。どうやらバスターナイトもダスクもお互い背を向けたまま、まだ足を付いている。

 しかし直後。ダスクの身を守っていた鎧に亀裂が走り、程なく木っ端微塵に砕け散った。

 戦いに勝利したのはバスターナイトこと、十六夜朔夜だった。

「………妙だな。負けてこんなに心穏やかなのは初めてだぜ」

 敗北とは決して心地よいものではないと思っていた。だが不思議と悔しさというものが湧いてこない。むしろ清々しささえ覚えるほどダスクの心は穏やかだった。

 おもむろに後ろへと振り返り、自らを討ち破ったバスターナイトにダスクは感謝と激励の言葉を紡いだ。

「………愉しいひと時に感謝する暗黒騎士バスターナイト。貴殿の道のりに栄光あらんと心から願っている」

 そう健闘を称えた直後、ダスクは清々しい笑みを浮かべながら黒い翼となって消滅した。

 こうして因縁の敵を倒したバスターナイトは、逝ってしまった彼の下へおもむろに歩み寄る。

 残された無数の黒い羽根。山となっているそれを一枚だけ拾い上げると、暫し羽根を見つめてから彼は静かにその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

は「テミスさん、朔夜さんが戦いに勝利しました!!」
レ「残るはホセア、アパシー、カルヴァドスの三人!! これを討てば洗礼教会は崩壊したも同然です!!」
リ「待っていなさいホセア……あんただけは、絶対に勝ち逃げなんてさせるもんですか!!」
「ディアブロスプリキュア! 『洗礼教会散る!そして……!!』」
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