ディアブロスプリキュア!   作:重要大事

49 / 50
ついにカオス・エンペラー・ドラゴンが復活!!最終章の名前にある通りの展開に仕上げる事が出来ました。
カオス・エンペラー・ドラゴンと聞いて、遊戯王のあれをイメージする方が結構いるみたいですが、そんなに凶悪な能力なんですかね・・・カードやらないからその辺はよくわかりません。
では、長くなったところで第49話をお楽しみください。


第49話:戦えプリキュア連合軍!復活のカオス・エンペラー・ドラゴン!!

 ワシは遠い昔から、世界を――人間を監視してきた。

 カオス・エンペラー・ドラゴンが現れるより以前、その文明の曙(あけぼの)にまで遡り、連綿と人類に介入し続けてきた。それほど人間とは興味深い観察対象だったのだ。

 ゆえにワシは人類について、お主たち人類が知るより多くを知っている。お主たちが本質において群体である事も、自由意志と呼びうる自立性が実際には稀有(けう)である事も。

 

 神の言葉は決して人には届かない。人には人の言葉のみしか通じない。ならば、人の身ないしはそれに類する存在でありながら、その口を介して神の導きを語る者が必要だ。

 ゆえに人々は英雄を求める。地位でもなく、理性でもなく、信念と行動によって時代の精神を担う者。

 

 人はその統率に心酔し、その言葉の中に真理を探し、その眼差しの先に神を見出す。

 全ての人を神の門に至らしめる必要は無い。ただ一人の英雄が、道の在り処を示すなら、主たちの行列はその後に続くだろう。

 ワシは探していた。待っていた。神によって分断され、それぞれが独立した世界の歴史を総括し、最後の導きを示す者。そんな英雄が現れるのを。

 

 そう、一千万年もの長き時を経て漸く見つけ出した。そなたの様な者の出現を待ちわびていたのだよ――リリス嬢、いやキュアベリアルよ。

 お主こそ、旧き世界を新たな世界へと導く唯一無二の存在――〝開闢(かいびゃく)の使者〟であると、ワシは確信した。

 

           ≡

 

天界 第七天 ヴェルト・シュロス

 

「すべての勢力同士で手を組むというのか!?」

 レイが素っ頓狂な提案に対し驚愕の声を上げる。

 幹部との戦いがひと段落つき、ディアブロスプリキュアのメンバーが正気を取り戻した天界守護代から厚い介抱を受けていたとき、ベルーダから唐突にその様な話を聞かされた。

 前代未聞の提案だった。それまでいがみ合い、古の時代より長きに渡って抗争を勃発させ、仕舞いには種の存続さえ危うい状況へと発展した悪魔と天使、堕天使からなる三大勢力。彼らの力が著しく低下した後、人間やクリーチャーを始めとする新興勢力が台頭し数百年の間に力を蓄えていった。これら全ての勢力の力を結集させるべきであると、今は亡き神の意志――ベルーダは腕組みをしながら言う。

「恐れていた事態がついに起きてしまった。ホセアはカオス・エンペラー・ドラゴンを復活させ、全ての世界にラグナロク――終焉をもたらそうとしている事は確実じゃ」

「あのバカでっかい球体がそうだっていうの?」

 上空に出現した月を彷彿とさせる超巨大物体を指して、ラプラスが怪訝そうに尋ねる。

「あれはカオス・エンペラー・ドラゴンが力を蓄えている姿、言わば〝休眠状態〟……攻撃力は無いに等しい。だがひとたび力を蓄え、完全なる復活を遂げればワシらに勝機は無い」

 その言葉の重みがひしひしと伝わってくる。何せベルーダは過去に、カオス・エンペラー・ドラゴンが暴れ回っていた当時の情景を見ていたのだ。そこで彼は自分が選んだプリキュアのひとり――キュアミカエルが自らの命を犠牲にして巨悪を倒し、次元の狭間へ魂を封印した瞬間を見届けたのだ。

 あのような尊い犠牲は二度と出してはならない、そうは思いつつも敵の能力や規模から察するに流血沙汰も覚悟しなければこの戦いは生き残れない。ならば、少しでも流血の数を防ぐ策として最も有効な手はひとつだ。悪魔や天使、堕天使、人間、クリーチャーと言った全ての勢力が垣根を超えて一致団結し最強最悪の敵に立ち向かう事だった。

「全ての勢力と手を組むとは、具体的にどういうことなのだ?」

 聞いていたカタルシスがベルーダの言った提案の具体的な中身について掘り下げる。

「洗礼教会が各勢力の危険因子を取り込んだテロリスト集団である様に、こちらもまた危機同じくして呉越同舟せねばならん。神話世界からこのクライシスに立ち向かう勇士を募り、未だかつてない『連合軍』を作るのじゃ!」

「連合軍!? 確かに、あいつに勝つ為にはそれくらいの事は必要だとは思うけど……」

 ベリアルはベルーダの話を十分理解し必要性を強く感じつつも、やはりどうしても不安が拭えなかった。

 コロンブスの卵とはよく言ったものだ。口に出すのと実行するのでは全く意味が異なってくる。ただでさえ、『神話世界』と呼ばれるカテゴリーに属する各勢力はプライドが高く、また互いに馴れ合いを好まない。そんな扱い辛い者たちを本当にひとつに束ねる事など出来るのか。ベリアルは無意識に拳を強く握りしめる。

「まぁ実際、一枚岩ではない異なる思想の者たちを束ねるのは容易ではない。たとえ集まったところでチームとしての機能を果たせず、統率を失えばただの烏合の衆でしかない。じゃが、ひとつに集まって立ち向かわなければ確実にこの世界と己の身が滅びる――それをわからぬほど馬鹿ばかりではない。この戦いが始まった直後から、ワシはこうなる事を見越して布石を打っておいた」

 そう言うと、ベルーダの背後に大きめの魔法陣が出現した。全員の視線がその魔法陣へ向けられる。

 直後、魔法陣よりベリアルたちが目を疑うような者たちが出現した。

 北欧・東西ヨーロッパ・中国・エジプト――世界中の神話世界からベルーダの招聘(しょうへい)を受けた勇士たちが集まった。あの『西遊記』で知られる【斉天大聖孫悟空(せいてんたいせいそんごくう)】や、〝雷神〟の異名を持つ【トール】と言った錚々(そうそう)たる顔ぶれが一堂に会する。

 呆気にとられ言葉を失くすディアブロスプリキュアメンバーや三幹部たちを余所に、ベルーダはにやっと口元をつり上げた。

「アースガルズの神々。オリュンポスの十二神将たち。他にも須弥山(しゅみせん)からも腕っぷしの良い者たちを見繕っておいたわい。もっとも、ワシが声をかける以前に自ら志願してくれた者が殆どじゃったわい」

「あなた、いつの間にこんな……!」

「北欧にギリシア、ローマ、それに中国まで……!!」

「ハヒ!? まさにバラエティー色全開です!!」

「というか、こちらにいる皆さまは一応は神様なのですよね? でしたら、今の今まで姿を晦ませていたのはなんだったんですか?」

 ピットは率直な疑問を抱く。そんな彼女の疑問に答えてくれたのは、長く蓄えられた白い顎鬚を持つ北欧神話の主神【オーディン】だった。

「ふむ……我々はその性質上互いの不可侵を犯さぬものでな。デーモンパージの一件は非常に気の毒じゃったと思っている」

「事態が事態だけに我々も自分たちの領分を守る為に共に戦う必要があると判断した次第。ここは手を取り合い協力し合おうぞ」

 オーディンに続いて、鍛え上げられた隆々の肉体を持つローマ神話における戦と農耕の神【マールス】が口にする。

 神々からの言葉を聞いたベリアルはあんぐりと開けていた口を閉じ、表情を徐々に元に戻すと、やがて鼻で笑い口にする。

「……まったく。結局どいつもこいつも我が身かわいさに恥も外聞も捨てて合従(がっしょう)連衡(れんこう)するってわけね。率直な疑問だけど、こんな扱いにくくて一人一人の『個』ばっかり目立った集団でどうにかなるわけ? 私たちはサッカーの試合に出るわけじゃないのよ。生きるか死ぬかっていう大戦(おおいくさ)をするの。だとしたら、私たちは確固たるひとつの『個』にならなければ即死亡よ」

「死ぬる覚悟はとうに出来ておるがな……魔王ヴァンデイン・ベリアルの娘よ」

「オウよッ!! オレは戦いに生き甲斐を感じてるんだッ!! カオス・エンペラー・ドラゴンだろうが何だろうが、派手に喧嘩できるんならオレさまは文句は言わねぇぜ!!」

 ゾウの顔を持つインドの神【ガネーシャ】が静かに言えば、対照的に孫悟空は血気盛んな様子で戦いに対する意気込みを主張した。

 聞いた瞬間、ベリアルはふうと深い溜息をもらす。が、すぐに口元を緩める。

「私といい、あなた達といい、どっかのはぐれ悪魔の事を悪く言えないかもしれないけど……今はどんな手段を講じてでもひとつの危機に直面したからには四の五の言ってられない、か」

 納得しやおら前に出た後、ベリアルは応援に駆け付けた神話世界の勇姿を見据え――彼らとの共闘を受け入れた証として、手を差し出した。

「一蓮托生――悪魔と相乗りする覚悟は出来てるわね?」

「神々を舐めてもらっては困る」

「我ら、共に手を取り合い戦おうぞ!!」

 神話世界から集まったそれぞれの代表は差し出された彼女の手を取り、固い握手を交わし合う。

 このとき、彼らに便乗して便宜上天使側に付いていた元・洗礼教会の三大幹部の代表として、エレミアも握手を交わすベリアルたちの手の上に自らの手を重ね合わせた。

「どうせ相乗りするならその中に死者も混ぜてもらおうか。人間の恒久の平和と繁栄こそ、洗礼教会の本来あるべき教義だ。それを取り戻す為に我々も全力で戦う」

「ええ。この際、昔の事は水に流しましょう」

 理由はどうあれ各勢力が大いなる危機を前に手を取り合い戦う事を決めた歴史的瞬間が今、ここに訪れた。周りからは歓声とともに拍手が巻き起こる。

 ベリアルが手を取り合う様子を静観していたディアブロスプリキュアのメンバーも周りと一緒に拍手をしながら、どこか誇らしげな表情を浮かべる彼女を見た。

「戦いは惨くて悲しいものだ。だけど今、カオス・エンペラー・ドラゴンを倒す為に過去の大戦以来永らく対立関係にあった者同士……そして、神話世界の代表が手を組んだ。これからが真の戦いなんだ」

「ええ、そうね……」

 過去の再来――あるいはそれ以上となる大きな戦いになる事を覚悟するセキュリティキーパーの言葉にケルビムも同意を示す。

 そんな中、事の成り行きを見守っていたクラレンスとカタルシスは、大粒の涙を流し拍手を続けるウィッチの存在に気付いた。

「はるかさん?!」

「泣いているのか?」

「ぐすっ……はるかは……とっても嬉しくて、さっきから涙が止まりません……!!」

「一番こうなる事を望んでいたのは恐らく、魔王陛下と王妃……リリスの両親だ。彼らにも今のこの光景を見せて上げたかった」

「ええ。きっと喜んでると思うわ」

 かつて魔王ヴァンデイン・ベリアルは、悪魔と天使、堕天使との諍いの絶えなかった時代に武力による解決ではなく和平による協調路線を目指し奔走した。結果として、王位に就いてから二十年間と言う短い期間だったが、彼は三大勢力同士の争いが無い悪魔たちの平和な時代【パクス・ディアブロ】を実現した。

 そして時は流れ――再び世界を蹂躙し、混沌を齎さんとする強大な存在に立ち向かうべく臍を固め協調路線を歩む事にした全勢力。その柱となっているディアブロスプリキュアの代表格・キュアベリアルの姿をバスターナイトとラプラスは生前のヴァンデイン王の姿と照らし合わせ誇りに思った。

「おっしゃ!! で、あればじゃ――」

 ベルーダが全ての勢力が一致団結したのを見計らい、仲介役として再度この場に居合わせた全員へと呼びかける。

「ここに集まりしディアブロスプリキュアの諸君、天界の戦士諸君、及び各勢力の勇士諸君に告げる。自由を、平和と信頼を勝ち取る為にワシたちは手を握り戦うのじゃ!! ワシらの敵はただひとつ! 破壊と混沌を司り世界を破滅させようとしている終焉の使者――カオス・エンペラー・ドラゴン、ただ一匹のみ!!」

「「「「「「おう(はい)!!」」」」」」

 ここに来て勇士たちの士気が一気に高まった。

 ベリアルは城の天蓋を通して覚醒の瞬間を待ち、休眠状態を維持し続ける頭上の巨敵を仰ぎ見ながら、心の中で呟いた。

(見てなさいよホセア……こうなったからには全勢力と手を組んで斃される事を絶対に後悔させてあげるんだから!!)

 

           *

 

同時刻――

カオス・エンペラー・ドラゴン体内

 

 ドクン……。ドクン……。

 不気味に脈を打つ体内。パイプ並みに太くて大きい無数の神経がそこら中に張り巡っている。

 ドクン……。ドクン……。

 世界中から集められた膨大な量のエントロピーを取りこみ、間もなく復活の産声を上げようとしている邪悪なる破壊の化身。

 その化身を目覚めさせ、世界を何も存在しない虚無へと変貌させる事を最終目的とする者がいた。【救済の預言者(サルヴェイション・プロフェット)】の二つ名を持つ人造生命体――ホセアは、次元の狭間から現実世界へと顕現したカオス・エンペラー・ドラゴンの体内に入り込む事に成功した。そして今、中枢と思われる場所へやってきた。

 ドクン……。ドクン……。

 心臓の如く脈を打っているのは人の脳髄のような形をした臓器。眼前で怪しく光るそれを見つめながらホセアは呟いた。

「光を食らい……闇を生み出す無限の不安……新しき闇……ただただ生きるその為にだけ生まれ、あるのは破壊。破壊の先に再び無限の闇……そして虚無……」

 するとホセア頭上に浮かんでいる臓器から、太いパイプの様な神経が伸びて来た。彼は伸びて来たそれに身を捧げると、声高らかに宣言する。

「カオス・エンペラー・ドラゴン、光を飲み込む偉大なる世界の覇者よ……機は熟した。目覚めの時だ!!」

 刹那、瞬く間にホセアの体を太い神経が取りこんだ。それにより、神経の中を怪しげに光る何かが全身へとエネルギーを供給する。

 程なくして、休眠状態を続けていたカオス・エンペラー・ドラゴンに大きな変化が訪れるのだった。

 

           *

 

天界 上空千メートル付近

 

 カオス・エンペラー・ドラゴンへの総攻撃直前。

 突如怪しい光を帯びたと思えば、球体がドクン……ドクン……、と激しく脈打つ。その様を見ていた連合軍は思わず固唾を飲んだ。

「なんだ……あれは?」

「球体が、脈打っている!」

 言い知れぬ不安。得体の知れない敵の動きに銘々が二の足を踏んでいた折、唐突にその声は聞こえて来た。

 ――世界の、終わりの刻が来た。

「ホセア!?」

「どこにいるの? この卑怯者っ! 姿を現しなさい!」

 雲隠れするホセアの声を聴くやベリアルは怒鳴り声を発した。そんな彼女を嘲笑うが如く、ホセアは空気に溶け込ませた声で返答した。

 ――私は逃げも隠れもしない。今まさに、お前たちが仰ぎ見ているものこそ私なのだからな。

「なんですって?」

『ニート博士、どういうことだ?!』

 ドラゴン形態であるレイが地上のベルーダに呼びかける。するとベルーダは上空のカオス・エンペラー・ドラゴンを凝視し、険しい表情で答える。

「どうやら……ホセアは既にカオス・エンペラー・ドラゴンとの融合を果たしたようじゃな」

 ――その通りだ。ベルーダよ、貴様には是非とも拝ませてやりたかった。今は亡き神の意志がそうである様に、貴様の愛した世界の終焉を。

 と、次の瞬間。巨大な球体から黒い触手状の物が無数に伸び、ヴェルト・シュロスの天蓋を突き破った。やがて触手は居城の中でひと際神聖なモノが存在する部屋へと辿り着いた。部屋には水晶によって体を封じられた今は亡き神の亡骸――オルディネスが祭られていた。

「!!」

 ベルーダがオルディネスに迫る危機を察した時、触手は水晶全体を覆いつくすとともに、外殻からゆっくりと圧を加え始めた。それにより堅牢に護られていた外殻に罅が生じた。

 ――主よ、この身の不敬と不信心を許し給え。そして感謝せよ。

「やめろ――やめるんじゃ」

 ――世界の楔たる己が命を捧げ、永遠の使命に終止符を打つのだ。

「やめるんじゃあああああああ!!」

 ベルーダがホセアの行為に対し声高に叫びあげた瞬間、オルディネスを護っていた水晶が触手によって破壊された。破壊されたと同時に、触手は意思疎通すら敵わない神の亡骸を包み込み、力のすべてを吸収した。

 

 ガタガタガタ……。

 この直後、実態は一変した。天界で強い震動が発生した。地に足を付く者ばかりか、中空で制止しているものさえ体感できる強い揺れだった。

「ハヒ!? 急に地震が!!」

「馬鹿ね! ここは空よ! 天界で地震なんて起きる訳ないでしょう!!」

「新たな敵襲でしょうか!?」

「いや違う。洗礼教会は僕達の手によって完全に壊滅した」

「じゃあ何が起きてるのよ……!?」

 各勢力が状況が呑み込めず困惑しているばかりの中、ただ一人この状況を理解していた者――ベルーダは今迄に見せた事のない深刻な表情で端的に口にする。

「………………オルディネスが死んだ――――……!」

「な……なんですって!?」

「どういう事なんですか? オルディネスさんが死んじゃうとどうなるんですか?」

 焦燥に満ちた表情で問い詰めるウィッチにベルーダはオルディネス消失の重大性について語り出す。

「オルディネスは分断された不安定な世界を出入りする大量のエントロピーとネゲントロピーを安定させる為に存在する、いわば〝世界の弁〟なのじゃ! それが失われた今、天界はもとよりそれと接する堕天使界も、冥界も、神話世界も、そして地上世界も! 全て等しく崩れ去る!」

 

 オルディネス消失の影響は早くも各地で起き始めていた。

 人間界へ侵攻を行っていた洗礼教会の信徒たちは突然の地震とともに、既存の物理法則や自然現象の規格を大きく無視し崩壊を始めた世界に危機感を抱き始める。

「うわあ!」

「何だ!? 何が起きている!?」

「プリーストか……これがプリーストの御意志なのか……!?」

「ホセア様……ホセア様は……我等同士諸共世界を潰すおつもりか!!」

 信徒たちは今になって気が付いた。最初からホセアは全てを破壊する事が目的であり、彼に心酔するあまり彼の本心を見誤っていた。目的を達成する為にホセアは自分達を実に都合のいい道具として利用し、用が済ませば捨て駒とする様な男に過ぎなかった事を。

 

「そ……そんな……すべての世界が消滅する……!! 一体どうすれば……私たちに何かできる事は無いのですか……!!」

 急速な崩壊現象を起こす世界。バランスを失った不安定な世界において、ケルビムは声高に問う。この滅びの事象を止める手立てについて。

「たったひとつだけ希望はある」

 すると、ベルーダは多くの者が望む答えを知っていながらどこか覚悟を決めた様な顔つきで口にする。

「ワシがオルディネスの身代わりとなろう」

 言葉の意味が一瞬分かりかねたが、次の瞬間――ベリアル達はベルーダの真意を理解した。彼は全身から神々しいまでの光を放つとともに、球体状に自身の周囲を光の膜で覆ってからゆっくりと浮上した。

「何よこれ…………!? 何をしようとしているの、あなた!?」と、ベリアルが唖然としながら問いかける。

「曲がりなりにもワシは神が地上に遣わした意志じゃ。世界の真理を覆す事は出来ずとも、世界の崩壊を防ぐ事は可能じゃ」

「ドクターベルーダ……まさか最初から……この事態を見越していたのか……」

 こうなる事を予期していたかのような振る舞いをするベルーダを仰ぎ見、バスターナイトが問いかける。

「世界の為に死なば本望じゃ」

 一言そう答えると、ベルーダは光の球体として天高く浮かび上がった。そして彼が向かったのはヴェルト・シュロスの中だった。彼は空白となったオルディネスの代わりとして、世界の崩壊を防ぐ為に自らを人柱とする決意をしたのだ。

(信じておるぞリリス嬢。誰に何と言われようと、お主こそ新たな世界の歴史を導く開闢の使者その人であると――――それをこの目で見届けられんのはちと心残りじゃがな)

 審神者として生きて来た自分の役目を放棄する事は惜しい。それでも自分にしか出来ない使命がある。それを悟った時、ベルーダは自分が見出したプリキュアの中で最も特異でありながら、最も未知数かつ可能性を秘めた存在――キュアベリアルに世界の命運を託す事にした。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオ」

 刹那、全ての意識と神経を集中させ世界の崩壊を防ぐべく己にある全ての力を解放した。

 それにより不均一だったエントロピーとネゲントロピーのバランスが急速に調和を取り戻していき、やがて世界崩壊を引き起こしていた謎の揺れはピタリと収まった。

「――――――震動が……」

「止まった――――……!」

 ベリアル達は震動が収束した事を身をもって体感した。やがて全員はオルディネスの身代わりとなって世界崩壊を辛うじて防いだベルーダの厚意を称えるとともに、残された時間を思案する。

「正直、どれくらい保つだろうね」

「さあな。オレにだって見当もつかない。ただ確かなのは、ドクターベルーダがオルディネスの身代わりとなってくれてる間に元凶を叩く必要がある」

 セキュリティキーパーの問いに答えたバスターナイトは、ベリアルの方を凝視する。

「リリス、世界を守ろう。自分達の未来(アシタ)を創る為にも――」

「うん――――……みんな、いくわよ!!」

 世界を終わらせる訳にはいかない。多くの犠牲の元に成り立つ理不尽な世界だが、愛する人と大切な仲間たちと未来を紡ぎたい――そう強く思い、キュアベリアルは頭上に浮かぶ黙示録の獣を排除する為に行動を開始する。

「全勢力包囲陣形を取れ!!」

 カオス・エンペラー・ドラゴンが復活を遂げるよりも先にすべての勢力が一丸となって総攻撃を仕掛ける。

 標的を全方位に渡り包囲すると、全勢力は各々攻撃を開始した。

「ファントムネイル!!」

「セイクリッド・ファンタジア!!」

「〈シャイニング・バスター〉!!」

「〈ダークネススラッシュ〉!!」

「ファイア!!」

「喰らえぇぇ!!」

『ブレス・オブ・サンダー!!』

 主要なディアブロスプリキュアメンバーの攻撃を皮切りに、他の勢力による攻撃も続々と行われていった。

「洗礼教会三大幹部の誇りに懸けて、世界の破滅は必ず防ぐんだ!!」

「「おう!!」」

 一度はホセアに与しながら、今は打倒ホセアとそれが融合したカオス・エンペラー・ドラゴン討伐に文字通り魂を燃やすエレミア、モーセ、サムエルら。

「出でよグングニル!! 眼前の巨悪を、その一槍を以って蹴散らせ!!」

 北欧神話の主神オーディンは、一振りで瞬時に敵を蹴散らすとされる史上最強の矛で知られる【グングニル】の力を最大限に発揮し、矛先から凄まじい一撃を放つ。

「雷(いかずち)よ、我がミョルニルに集いて敵を圧倒するのだ!!」

 同じくアースガルズの神の一人、雷神トールは古ノルド語で「粉砕するもの」を意味するウォーハンマー【ミョルニル】に雷の力を凝縮させると、豪快なる一振りでカオス・エンペラー・ドラゴンに一千億ボルト相当の雷撃を叩き込む。

「へへへ!! やれやれ、いい眺めだぜ!!」

「あんなバケモノに世界を喰われてたまるもんか――!!」

 全ての勢力が生まれ育った世界と、明日の未来、誇り、それら諸々を懸けてひとつの巨悪に向けて力のすべてを注ぎ込む。

 連合軍による総攻撃は壮観を極めた……が。

「攻撃中止!!」

 その直後、突然オーディンからの攻撃中止宣言。連合軍は手を止め、オーディンを怪訝そうに見つめる。

「ハヒ!? どうしてやめるんですか!?」

「そうだぜオーディンの爺さん、折角のチャンスだというのに見す見す!!」

「ちょっと待って……あれを見て!」

 そのとき、ある事に気付いたケルビムが皆に呼びかけ前方を指差した。全員が彼女の指差す方を注視したとき、目に前に信じられない光景が広がって来た。

 黒煙が立ち込めて姿が見えなくなっていたカオス・エンペラー・ドラゴン。しかし徐々に煙が晴れていくと、標的は連合軍による苛烈なる総攻撃もまるでものともしていない様子で一切の傷も発生していない。これにはベリアルを始め、名のある神々ですら言葉を失った。

「信じられん……傷一つついていないぞ!」

「グングニルやミョルニルを以ってしても、あれにダメージを与える事は出来んと言う事か……!!」

「つーかあり得ねぇ固さだろ!?」

「お前の石頭のようだな」

〈バカ言わないでよ!!〉

 率直に思った事を口にしたバスターナイトの質の悪い冗談に、彼と融合状態にあるラプラスは思わず激怒する。

「このままでは消耗するだけじゃ」

『ふざけた事をぬかすでない!! 攻撃しないであんなバケモノを倒せると思っているのか!?』

「落ち着きなさいレイ。攻撃はするわ。だけど、それは奴の弱点を見つけてからよ」

 一旦冷静になる事にしたベリアルは、不満を募らせるレイを宥めると、ありとあらゆる攻撃からその身を守る無敵の休眠状態をどう攻略すべきかを思案。

 すると、三大幹部のひとりであるモーセがある提案をする。

「エレミア、サムエル、ピースフルの何体かを偵察に出してくれ!」

「心得た」

「わかったぜ」

 モーセからの発案を受け、エレミアとサムエルはピースフルを数体召喚。早速偵察として送り込んだ。

 カオス・エンペラー・ドラゴンの方へ向かうピースフル。固唾を飲んで見守る連合軍。と、次の瞬間――

『『『ピースフっ……!!』』』

 悲鳴を上げたと思えば、ピースフルはカオス・エンペラー・ドラゴン手前で爆発・消滅した。一体何が起こったのかと思い敵の体表面をじっくりと観察すると、体全体を覆っているぶ厚い装甲から強力なバリアが発生していた。

 休眠状態下のカオス・エンペラー・ドラゴンは、力を蓄えている間に外敵から襲撃を受けた際、ぶ厚い装甲とバリアの二重構造によってあらゆる攻撃から身を守る事が出来る様になっていた。

 常識外れも甚だしい力を早速見せつけられた事で、連合軍は唖然。飛ぶ鳥を落とす勢いだった先ほどまでの威勢は忽ちかき消された。

〈これでは近づくこともできません!〉

「攻撃手段を持たないゆえの鉄壁の防御システム、というわけか……」

「さながら羽化を待つ蛹(さなぎ)と言ったところだね」

〈もうめんどくさいわね! ビビってるくらいなら攻撃しまくればいいのよ!〉

「ラプラス、今の話聞いてなかったのか!? お前もピースフルの二の舞を演じたいならオレは止めんがな」

〈いや……それはさすがにヤだけど〉

 と、その時だった。

 ドクン……ドクン……ドクン……と、激しく脈を打っていた敵の体が突如として怪しく光り始めた。

「今度はなんだ?!」

 ここに来てカオス・エンペラー・ドラゴンに著しい変化が起きようとしていた。全員の視線が自然と敵へと向けられる。

 バキバキ……。バリバリ……。

 全身を覆っていたぶ厚い装甲に亀裂が生じ、ゆっくりとだが確実に中の部分が露となってきた。

「ハヒ!? 体が開きはじめました!!」

「奴に何か起ころうとしているのだ?」

「だがこの機を逃す手はない。装甲が開いたところで総攻撃だ!!」

 千載一遇のチャンスが巡って来た。全軍は再びカオス・エンペラー・ドラゴンへの一斉攻撃を開始する。

 しかし、その間にもカオス・エンペラー・ドラゴンを覆っていた装甲は剥がれ落ちていき、徐々にだが隠れていた本来の姿が見え始めた。

『リリス様、あれを!!』

「なんという事なの……」

 ベリアルたちが目の当たりにしたのは、想像を遥かに超える敵のおぞましい正体だった。

 体色は黒に近い紫色で、七つの頭部を持ちそれぞれが七つの大罪――傲慢・憤怒・嫉妬・怠惰・強欲・暴食・色欲を司る冠を被り、十の角を備えている。手には暗黒球体【ゲヘナ】を持つ史上最大にして最強のドラゴンが、今ここに目覚める。

 新約聖書曰く、その尾は天の星の三分の一を履き寄せて地上に投げつけ、災厄を引き起こす。膨大なエントロピーを糧として太古の眠りから蘇った黙示録の獣――カオス・エンペラー・ドラゴンは不気味に目を光らせる。

「あれが、カオス・エンペラー・ドラゴンの本当の姿……!!」

「おいおい……いくらなんでもムチャクチャすぎだろ!!」

 完全なる力を取り戻しこの世に顕現した破壊の化身。その巨大さ、おぞましさに全勢力は畏怖を抱かない事は無かった。

 直後、絶対的な力を持つ敵が目覚めの合図とばかりに咆哮を上げる。その咆哮は想像を遥かに絶しており、空気を激しく震わせ空間そのものを歪める。そればかりか連合軍の士気を急速に下げ、戦慄を抱かせる。

「全軍後退っ!! 至急安全圏まで後退するんじゃ!!」

 アースガルズの神、雷神トールが安全を考慮して語気強く呼びかける。

 全てに於いて他を圧倒する規格外なスケール、何者をも寄せ付けないオーラ――ホセアの目論み通りカオス・エンペラー・ドラゴンは世界を破壊し、虚無を齎す力の権化そのものだった。

「なんだよ!! 折角ひとつにまとまったっていうのに、何もできないのかよ!!」

「あんなバケモノじゃ相手が悪すぎるって!」

「でも、あいつを倒さないと!!」

「何か弱点は無いのかしら?」

 姿が姿だけに弱点と呼べる場所があるのかすら判別しにくい。が、それを見つけ出さなければこちらに勝機は無い。

 北欧の主神であり知識において非常に貪欲な事で知られるオーディンは、失われた片目部分に付けられたペンタクルを通して敵の力を見定め、現時点で分かった事を具に報告する。

「解析した結果じゃが……全てがぶ厚い皮膚に覆われ、弱点になるようなところが見当たらんぞ!」

「って、そんな話は聞きたくねーんだけど爺さん!」

「どうにかならないんですか!?」

 早急に解決策を模索しなければ取り返しのつかない事態へと発展してしまう。焦燥を抱いていた折、敵方に新たな動きが見られた。

「見ろ! 奴が動き始めたぞ!」

「なんですって!?」

 静止状態を維持し続けていたカオス・エンペラー・ドラゴンが、満を持して動き始めた。全体重を支えるに相応しい身の丈に合った翼を広げ、体を旋回させ連合軍側とは反対方向に飛んで行った。

 カオス・エンペラー・ドラゴンの取った予想外の行動に、連合軍は肩透かしを食らった気分だった。

「どういうことだ? こちらに向かって来る様子は無いぞ!」

「なら何処へ向かってるんだ!?」

 じっとその動きを観察していると、カオス・エンペラー・ドラゴンは咆哮を上げると共に空間を歪ませ亀裂を生み出し、巨大な穴を開けた。その際、ベリアルは穴の向こう側から微かに見えた見覚えある光景に目を疑った。

 紛れも無くそこは十年間という長き月日を過ごしてきた第二の故郷――黒薔薇町。これが何を意味するのかを理解できない筈がなかった。

「まさか奴は……人間界へ向かおうとしているんじゃ!!」

「「「「「えっ(何ですって)(何だと)!?」」」」」

「だとしたら止めなきゃ!!」

「奴を追うのよ!!」

 敵の狙いが手始めに人間界の破壊であると判断した連合軍は、即座に行動を開始する。

 人間界へと向かう為に時空を無理矢理破断させゲートを作ったカオス・エンペラー・ドラゴンは、亜空間内へと侵入。連合軍は敵の後ろに付いて追跡を行う。

「いいみんな! 何としてもカオス・エンペラー・ドラゴンを止めるのよ!」

「「「「「「はい(ええ)(ああ)!!」」」」」」

 とは言うものの、敵の移動速度は尋常でなかった。追いかけても、追いかけても一向にその距離は縮まらない。

「なんてスピードなの……だけど、あんな奴に人間界を荒らさせはしない!!」

 このとき、ベリアルの脳裏に浮かんだのは人間界で過ごしたかけがえのない日々とその思い出の数々。デーモンパージによって元々の故郷を追われた悪魔は復讐に燃え、その為だけに生きて来た。だが、その間に彼女は親友と呼べる存在と出会い、プリキュアとなって人間の為に戦う事を誇りに思える様になった。

「人間界を……私の故郷(ふるさと)で好き勝手させてたまるもんですか!!」

 だから何が何でも守ってみせると誓いを立てる。どんなに凶悪な相手であろうと、かつての故郷と同じ目に遭わせない為に――。

「はるかの大切な家族、友達を守る為に!!」

 平凡な人間であった一人の少女は、悪魔の少女を絶望という闇の淵から救い出し生きる希望を見出した。これを機に急速に距離を縮めていった二人は、のちに同じプリキュアとして戦うようになった。人々の平和な日常と生活、かけがえのない命を守る為に――。

「偉大なる我が祖先、キュアミカエルが命を賭して守り抜いた世界を……同じ天使として、私の命を懸けてでも彼女が守った人間界には指一本触れさせない!!」

 少しでも平和な世界を望み、一度はベリアルたちと敵対しながらものちに過ちを認め心を通わせた天使は、かつての大戦でカオス・エンペラー・ドラゴンを命と引き換えに次元の狭間へと封じ込めたキュアミカエルがそうだった様に、自らもまた命を懸けて最後まで悪と戦う事を決意する。同じ過ちを二度と繰り返さない為に――。

「リリスが守りたいものを守る為に、オレもすべての力を以ってして奴を討つ!! そして必ず、生き残ってみせる!!」

 非凡な能力を持ちながら純粋な血筋では無いという理由から多くの悪魔から迫害を受け、のちにリリスによって救われた少年悪魔は、デーモンパージによって故郷と家族を失ったたったひとりの大切な少女を救う為に己の力を磨き上げ、強さを得た。彼にとって強さを求める理由は常に少女の為だった。戦う覚悟は決まった。今、婚約者が必死になって守りたいと思っているものを自分もまた全力で守りたいと強く思うが為に――。

「どんな理由であろうとも、人々に害を為す輩を僕は許さない。警察の威信にかけて、僕自身の正義のすべてを懸けて戦う」

 最愛の母を理不尽な者の手により奪われた少年は、警察官である父の背中を見て「正義」を強く志すようになった。あの日、母を突然テロリストによって奪われた哀しみと怒りを糧に、己が手で二度と周りの誰かが自分と同じ境遇や悲しい思いをしないで済む世の中に変える為に――。

「個すら持たず存在する意味さえ見いだせなかったクリーチャーにその意味を持たせてくれたはるか。尊き命溢れる大地を、俺が守る!!」

 神ならざる者の手により生み出されたクリーチャーは、永らく生きる意味を探し求めていた。神の代行を司る天界の上位機関や洗礼教会の言いなりになって奉仕し続けた末、人間界で出会った一人の少女によって彼はようやく見つけ出した。自分が本当に生きる理由を。ゆえに戦うのだ。永らくして得た生きる理由と少女から教えてもらった尊い命の全てを守る為に――。

「私たちは!」

「人間として!」

「プリキュアとして!」

「世界を!」

「正義を!」

「無限の可能性を秘めた未来を!」

 ベリアル、ウィッチ、ケルビム、バスターナイト、セキュリティキーパー、カタルシスは各々が守りたいという思いを順番に口にしていき、最後は声を揃えて――

「「「「「「守ってみせる!!」」」」」」

 語気強く宣言した。

 連合軍はカオス・エンペラー・ドラゴンを追跡しながら、最終目的地である人間界へと続く一本道を進み続けた。

 

           *

 

人間界 東京都 黒薔薇町上空

 

 バキ……。

 バキバキバキ……。

 バキ……。バリン……!!

 強大な力で現実世界と神話世界とを分断していた時空を破断して、ついにカオス・エンペラー・ドラゴンが人間界へと到達した。

 洗礼教会の襲撃ですっかり疲弊した人々は、追い打ちを掛けんとばかりに突如として現れた圧倒的な巨体を誇る怪物を見て恐れ戦いた。

 地上に終末をもたらそうとしているカオス・エンペラー・ドラゴン。出現と同時に暗雲が立ち込め、空には不気味な色の稲妻が奔る。

 街の電光掲示板、その他あらゆる電子機器にはカタカナと漢字で――「我ニ従ウカ、滅ボサレルカ、ドチラカヲ選ベ」と書かれた文字が浮かび上がる。

 カオス・エンペラー・ドラゴンは何らかの方法で電子機器に自らの意思を乗せ、人間たちに働きかける。聖書の中で、黙示録の竜は「古き蛇」、「サタン」、「全人類を惑わすもの」など沢山の名で呼ばれている。そのため一般的に、この竜こそが悪魔=サタンであるとされている。またこの竜の頭の数、冠の数、角の数は、一説によれば当時のローマ諸国の王達を現しているともされ、竜=悪魔=サタンという意味合いだけではなく、竜は人の心に住む普遍的な悪を現しているという解釈などもなされている。

 兎も角、人の心に棲む普遍的な「悪」を凝縮させたからこそカオス・エンペラー・ドラゴンはこの地に再び蘇る事が出来たのだ。彼は手始めに、この世界を蹂躙し破壊の限りを尽くそうとしていた。

 だがその時、少し遅れる形でベリアルたち連合軍が人間界へと到達。カオス・エンペラー・ドラゴンの真後ろに付いた。

「追いついたぞ!!」

「もうこれ以上オイタはさせないわよ!!」

 真っ先にベリアルが切り込み隊長役を買って出た。地上に広大な影を作り、天空を支配する破壊の化身目掛け、灼熱の業火を叩き込む。

「パンデモニウムロスト!!」

 強力無比な攻撃が尾の近くを直撃した。カオス・エンペラー・ドラゴンは著しいダメージを負った。

「やったです!!」

「いや違う!」

 糠喜びした矢先、傷ついた敵の皮膚が即座に修復し傷口が塞がったのだ。

「く……だったら私が!!」

 そう言うと、今度はケルビムが前に出てセラフィムモードでの攻撃を行う。

「プリキュア・セフィロートクリスタル!!」

 聖剣フルンティングの切っ先を向け、十のクリスタル結晶をカオス・エンペラー・ドラゴンへとぶつける。再び尾の近くを傷付けるが、やはり結果は同じで瞬時に細胞が自己再生してしまった。

〈ぜんぜん効いていません!!〉

「こうなったら合体技です!! 朔夜さん、春人さん、レイさん、カタルシスさん、三大幹部のみなさん!!」

「「「「『「「ああ(はい)(心得た)!」」』」」」」

 ウィッチの提案を受け入れると、バスターナイトとセキュリティキーパー、レイ、カタルシス、三大幹部たちは各々の必殺技を組み合わせた合体技を炸裂する。

「「「「「『「「いっけぇえええ――!!」」』」」」」」

 異質な力と力が混ざり合った巨大なエネルギーの塊がカオス・エンペラー・ドラゴンへ豪快にぶつかり大爆発が発生する。

「ワシらもやるんじゃ!!」

 彼女らに倣って、オーディンの呼びかけに答えた名のある神々と勇猛な戦士たちはすべての力を合わせた即席のコラボレーション技をカオス・エンペラー・ドラゴンへとぶつけた。

「今度こそ……」

 一縷の望みを託して、爆風が晴れるのを見守った。

「あ!!」

 だが希望は容易く打ち砕かれる結果に終わった。いくら攻撃をしたところで、カオス・エンペラー・ドラゴンに致命傷を与えるどころか、瞬時に元の状態に再生してしまう。恐るべき能力を持つ相手に弱点は無かった。

「バカな……神々の力を束ねた攻撃すらもヤツには通じぬというのか!?」

「不死身か!?」

「全然相手にならない! 無駄じゃないでしょうか!?」

「無駄なわけがない! 撃ち込むのよ、全ての力をヤツに!!」

 諦めてしまったら全てが終わるのだ。絶望的な状況だろうと、攻撃を止めてしまえば敵の思う壺。光の見えない闇の中を模索するかの如く、連合軍は兎に角攻撃をし続ける事で人間界への被害を少なくしようと躍起だった。

 しかしどれだけ攻撃を受けようと、カオス・エンペラー・ドラゴンは意にも介さないばかりか反撃すらも行わない。

「くそ、徹底してシカト決めやがって……少しは反撃して来い、カオス・エンペラー・ドラゴン!!」

 つい感情的に声を荒らげたサムエル。

 するとその言葉の意味を理解したのか、カオス・エンペラー・ドラゴンの七つの頭部すべてがおもむろに振り返る。

 直後、七つの口から全てを浄化する破壊の邪炎――【煉獄の焔-パーガトリアルフレイム-】を放った。

「「「「「「うわああああああ」」」」」」

 突然の反撃にそれまで徹底して攻撃を行って来た連合軍は防御が疎かとなり、危うく攻撃を受けそうになった。

「な、なんだ!? あの野郎、急に反撃し始めたぜ!」

「気を付けろ、あの邪炎に当たれば命の保障はないぞ!!」

 ガネーシャからの警告に全員が身を引き締める。

 連合軍とカオス・エンペラー・ドラゴンの戦闘は熾烈を極める。地上で戦況を見守っている人間と洗礼教会の残党は無力な自分たちを呪いながら、ただただ彼らが怪物に勝利する事を祈り続ける。

 地上の人間たちを守りつつ凶悪極まりない暴君を相手にするのは骨が折れる。そんな折、オーディンがついに敵の弱点を暴いた。

「わかったぞ!! ただ一カ所だけ、微弱ではあるが……他とはエネルギー反応が大きく異なる場所を発見した!!」

「どこなんだそこは!?」

「奴が抱えている球体じゃよ!!」

 オーディンが見抜いたカオス・エンペラー・ドラゴンの唯一の弱点。ドラゴンとしての姿はただの外装に過ぎない。その本体は暗黒球体【ゲヘナ】に潜んでいる。ゆえに、外側を幾ら攻撃しようとも、その攻撃はゲヘナに潜んだ本体には届かず再生されてしまうのだった。

「あの黒い球体に本体が潜んでいるという事ですか……どうするリリス?」

「決まってる。僅かでも可能性があるなら、そこに目標を搾って攻撃を仕掛ける!」

「みんな聞いたか、敵の弱点は球体だ! 徹底的に集中砲火だ! 他の場所には構うな!!」

「ディアブロスプリキュアで敵の正面を引き受ける! 天使軍、神話世界軍は後方および頭上からの攻撃を頼む!」

「心得た!!」

 ようやく巡って来たであろうチャンスを逃す訳にはいかない。

 敵の本体が潜んでいる球体を攻撃しこの戦局を覆そうとする連合軍。各勢力はそれぞれの持ち場に着くと、正面・頭上・後方から弱点であるゲヘナを徹底的に攻めまくる。

「撃て撃て! 奴の持ってる球体を狙え! 全ての力を注ぎこむんだ!!」

「「「了解!!」」」

 不死身の体に攻撃してエネルギーを消耗する不毛な戦いはもう終わり。弱点であるゲヘナを一心不乱に狙い続ける。

 だがその時、ゲヘナを攻撃された事で生命の危機を感じ取ったカオス・エンペラー・ドラゴンがある行動を起こす。

〈はるかさん、見てくださいアレを!〉

「ハヒ、何をするつもりでしょう!?」

 七つの頭部が被っている七つの大罪を司る冠が光を帯びると、そこから紫紺色に輝く強烈な光を放った。

〈ウソでしょう!! 嘘でしょう!! 嘘でしょうおおおおおお!!〉

「ああ!!」

「やめろおおっ――!!」

 皆の悲鳴も虚しく、放たれた光は屈折を繰り返しながら地上へと落下。光が照射された瞬間、そこにあったものすべてが跡形も無く消滅した。

 これこそ、カオス・エンペラー・ドラゴンの最強の必殺技。世界を滅ぼし混沌をもたらす力――名を【カオスブリンガー】と言う。

 絶大なる威力を秘めたカオスブリンガーによって、大地はごっそりと抉り取られたか如く何も無くなった。先ほどまであったものが一瞬のうちに蒸発して消失するという光景を目の当たりにした連合軍はただただ絶句する。

「何という事なの……」

「一瞬で……蒸発した……だと……!」

 世界を破壊する魔王の力。このとき、ベリアルは大地を蒸発させた敵の力に畏怖するとともに、この上も無い怒りに支配された。

「私の……私の故郷が……くっ!!」

 一度は洗礼教会によって滅ぼされた故郷。地球を第二の故郷であると認識した矢先、全てを一瞬で奪い去ろうとする敵の力が酷く憎らしかった。

「あんたって奴は……オフザケも大概にしたらどうなのッ!!」

 堪忍袋の緒が切れた。ベリアルは怒りに我を任せ、単独でカオス・エンペラー・ドラゴンへと向かって行った。

「リリス!!」

「ダメですリリスちゃん!!」

 周りの制止を全て振り切り、ベリアルは敵が仕掛ける邪炎の嵐を掻い潜り正面へと回り込む。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 強い怒りと憎しみ、悲しみに理性を失いかけている彼女は感情に任せて、必殺技を放つ。

「プリキュア・セブン・デッドリー・サイン!!」

 七つの大罪すべてをエネルギーへと変えて、眼前の敵に激しく打ち込む。

 だが、カオス・エンペラー・ドラゴンに並みの力は通用しない。それどころか、この攻撃が却って逆上させてしまい、邪炎の一撃をお見舞いされそうになる。

『リリス様っ!!』

 咄嗟に彼女を守る為、レイが持ち場を離れ動いた。そして、彼女を庇ってレイはカオス・エンペラー・ドラゴンの邪炎をその身に受けた。

「ぐっは……」

「レイっ!!」

 悲鳴の様な声がベリアルの喉からほとばしった直後、邪炎の一撃を真面に受けた事でドラゴンの姿を維持できなくなったレイは使い魔の姿へ戻ると、宙より滑り落ちた。

「レイ!!」

 ベリアルは矢も盾もたまらずレイの元へと向かった。駆けつけたとき、レイは既に虫の息の状態。ほとんど意識が無い上に呼吸さえも危うい。ベリアルはいつになく取り見出した様子で彼へと呼びかける。

「レイ!! しっかりして、レイ!!」

「り……リリスさま……よかった……どうやら……お守りできたみたいで……」

「話さないで!」

「リリスさま……申しわけありません……もっとあなたやみんなと一緒に……思い出を作りたかったですが……わたしは……どうやらここまでのようです……」

「ダメよ!! ダメよ、レイ!! あなたが死んだら私は……私はもう……」

 震える声で激しくかぶりを振るベリアル。レイは自分の為に涙を流してくれる彼女を嬉しく思いながら、最後の力を振り絞り言葉を伝えようとする。

「リリスさま……わたしは……あなたのお傍にいれてよかった……たとえこの命が偽りであろうとも……本当の使い魔ではなくても……誰よりもあなたのお傍に一緒にいられ、ともに戦えた事を誇りに思います……わたしが……リリスさまの使い魔であったということは……一生の誇り……です……ありがと…………う…………」

「っ!!」

 誰よりも幸せそうな笑顔でそう言い残すと、レイは大好きな彼女の腕に抱かれながら事切れた。疑似生命としての役目を――否、悪原リリスの使い魔としての役目を終えた。

「そ……そんな……」

「レイさんが……」

「リリスちゃん……」

 レイの死を前に硬直するディアブロスプリキュアメンバー。

 この直後、弔い合戦とばかり連合軍は気が狂ったかの様にカオス・エンペラー・ドラゴンへと激しい攻撃を仕掛ける。

「起きて……レイ……起きなさいよレイ……」

 放心状態のベリアルは自分の腕の中で動かぬ屍となったレイの体を何度も揺すり、声をかける。しかし彼が再び目を覚ます事は無い。

 ウィッチたちはそんな彼女の姿を見るのが痛ましかった。

「リリスちゃん……くっ!!」

「貴様だけは……許さんぞっ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 レイの死を悼む者が続々と怒りと悲しみを抱えながら力を振るう。カオス・エンペラー・ドラゴンは彼らを嘲笑うかの如く咆哮を上げ、向かって来る敵に邪炎を吐き続ける。

「今の我々の力ではカオス・エンペラー・ドラゴンを倒すどころか、封じる事さえままならん!! このままでは確実に時空は破断され、この世の終わり……ラグナロクが起きてしまう。終焉の黄昏に殉じろというのか、ホセア!!」

 この場にはいない者に向かってエレミアは嘆きの声を上げた。

 何もかもが敗色濃厚の中、最愛の使い魔を目の前で失ったベリアルが低い声で呟いた。

「――――……あなただけを死なせない」

 決然と走るベリアルの声音。それは同時に彼女の怒り、憎しみ、悲しみ――諸々の負のエネルギーを糧として紅色の魔力光を生み出す。全身から迸るその力はこれまでにないほど強大であり、その強烈な殺意は明確に頭上のカオス・エンペラー・ドラゴンへと向けられる。

「カオス・エンペラー・ドラゴン……よくも、よくも私のかわいい使い魔を!!」

 怒りの余り髪の毛が逆立っている。意思を持たぬカオス・エンペラー・ドラゴンは、彼女を見ながら天地を轟かせる咆哮を上げるだけ。

 その間にもベリアルの魔力は増大し続け、波動となって広範囲に拡散。触れたものが圧に耐えきれず崩壊する。

「世界終末でもなんでも、起こして御覧なさい。たとえ、世界が滅亡しようとも、私の血の最後の一滴が蒸発しようとも、私はあんたを……決して許さない!!」

 

 

 

 

 

 




次回予告

リ「寂しいとき、悲しいとき、嬉しいとき、レイはずっと私の傍に居てくれた。いつだって、私のために頑張ってくれた。そんなあの子に私は最後まで何もしてあげられなかった……」
「今の私に出来ることがあるとすれば、あの子の想いに答えること。勝負よ、カオス・エンペラー・ドラゴン!! 私のすべてを賭けてあんたを葬り去るわ!!」
「ディアブロスプリキュア! 『超克する思い!!新たな歴史の始まり!』」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。