黒薔薇町 ビル街
「はああああああ」
白昼の戦闘劇。悪原リリスはキュアベリアルとなって、現れた《コピー機ピースフル》と交戦していた。
『ピースフル!!』
コピー機を素体として生まれたコピー機ピースフルが大量の印刷紙を前方のベリアルへと飛ばすが、彼女は掌から紅色に輝く炎を飛ばしてことごとく燃やし尽くす。
そして相手が怯んだ隙をうかがい、ベリアルは巨大なコピー機ピースフルを猛烈な勢いをつけた片足蹴りで叩きつけ、地面に伏せさせた。
「何をしている、早く立て!」
召喚者・モーセが露骨に怒りと焦りを見せる。コピー機ピースフルは巨体を起こし 立ち上がろうとする。その瞬間、ベリアルは体を起き上がらせる隙も与えず、コピー機ピースフルの顔面に無慈悲なパンチを炸裂させた。
「貴様!! 立ってもいない相手になんてことを!!」
「悪魔らしいじゃない!!」
従来のプリキュアのルールに縛られず、どんな手を使っても勝利を優先しようとする合理精神の持ち主であるベリアル。そんな彼女の傍らで親友のはるかが声援を送る。
「キュアベリアル――!! がんばってくださ――い!!」
はるかの声援を背に受けながら、ベリアルはピースフルを自分のペースへと持ち込み、圧倒的な優位を作り出していく。
「いいですよ、その調子です!!」
はるかの声援にも熱が入る。ベリアルは掌に圧縮した魔力を光弾にして連続で放出する。直撃して苦しむコピー機ピースフルは、必死にもがいてそのうちのひとつが不意に弾かれ、ビル街へと着弾した。ビルの下にいた人々は悲鳴を上げて驚き慄くが、ベリアルにはそちらに構ってやる余裕はない。
「リリス様、今です!!」
「これで決めるわ!」
サポート役のレイに促され、ベリアルはとどめの攻撃へと移行する。
「プリキュア・ルインフェノメノン!!」
――ドンッ。
『へいわしゅぎ……』
必殺技が決まった。コピー機ピースフルはお決まりとなった言葉を唱えながら消滅していく。残されたのは苦虫を噛みつぶした ような顔を浮かべるモーセだけ。
「おのれ……!! この借りは次回 必ず返すからそのつもりでいろ!!」
何ともわかりやすい捨て台詞を残し、モーセは魔法陣を潜って早々に撤退した。
「やれやれ。あんな台詞を吐いたところで何の意味もないことにあいつら はどうして気づかないのかしら?」
と、率直な疑問を口にするベリアルだったが――新たなる問題が浮上した。
ウーウーウーウー……
一度は耳にしたことがある独特のサイレン。前方と後方から何十台ものパトカーが走って来た。
そして気が付くと、ベリアルはパトカーと乗車していた警察官、機動隊員に取り囲まれた。
「ハ、ハヒ!?」
先ほどまでの戦闘を応援していたはるかは驚き、彼らに見つからないように身を隠した。警察官たちはベリアルに銃を突きつけ、巨大な盾を構えた機動隊員が突入の機会をうかがっている。
制服警官が前に出てくると、持っていたメガホンを使ってベリアルに対し呼びかける。
「プリキュアと思わしき少女よ。我々警察は君を器物破損罪、往来妨害罪、騒乱罪、その他諸々の罪によって拘束させてもらう。大人しくその場で手を上げてこちらまで歩いて来なさい!」
「な……!」
はるかにとって信じがたい言葉だった。正義の象徴にしてスーパーヒロインであるはずのプリキュアを、日本警察はこれから逮捕するつもりなのだから。
警察の言動にベリアルの横で浮かんでいた小さなドラゴン姿のレイが反論する。
「き、貴様ら、なんて理不尽な!? こうして人々に害をなす怪物を退治してやっているというのに!! プリキュアが正義の味方 だということを知らんのか!?」
「正義の味方だろうと、我々警察の任務はひとつ。市民の生活と安全を守ること。それを脅かし妨げる者は誰であろうと犯罪者だ!!」
「は、はっきり言いやがった――!!」
レイも食い下がってみたが、彼らの意思は確固たるものであり、人間の側からすれば真っ当な正論だった。
ベリアルはショックのあまり変顔になっているレイを鷲掴みにすると、嘆息して呟いた。
「とうとう日本警察も総力を挙げてプリキュアの逮捕に乗り出したってわけね。まぁ、あなた方の論理は筋が通ってる。確かに私は戦いに集中するあまり、周りの迷惑を考えてなかったようね」
キュアベリアルの最大の弱点――それは敵を浄化できず、戦いによって発生した器物破損を浄化する能力がない故に修復できないこと。だから今回の戦闘で生じたビルや道路の破損はこの後、国の負担、すなわち国民の税金によって修繕されなければならないのだ。
冷静に自分の罪を自覚するベリアルは、周りの警察官たちを見渡すと「でも」と追加し、
「だからと言って、素直に捕まって保護施設かはたまた懲罰房か。そんな居心地の悪い場所に入れられるつもりはないわ!!」
強い語気でそう言うと、ベリアルは掌に圧縮した魔力を溜め、勢いよく地面に叩きつけるように放出する。
刹那、強烈な紅色の閃光が辺り一帯を包み込み、警官隊は凄まじい光に目を眩ませる。
「何だこれは!!」
「閃光弾か!!」
警察官たちの目が眩んでいる隙に、ベリアルは現場にいたはるかを抱いて、彼らに気づかれぬように低空を飛ぶ。そして、死角になる路地を見つけると、そこに隠れて早々に脱出した。
――ビルの屋上。プリキュアが逃げて騒然とする現場を見ている二つの影があった。
以前にもキュアベリアルの戦いを見ていた純白の戦士とその従者だ。
「今のを見ましたか!? プリキュアがまた町を破壊しましたよ!!」
従者が背中の羽をはためかせながら主に訴える。
「ええ、浄化とかけ離れたあの破壊の力……とてもプリキュアと呼べるものではないわ」
純白の戦士はピースフルが消えた跡を見つめる。
「それにしても合理的に計算し尽くされた動き、少し厄介だわ」
ピースフル相手に囲い込むように光弾を放ち、動きを制限したところで必殺の攻撃を放つ。誘導時の周りの損壊を気にしなければ実に戦略的だ。
「もう少し行動パターンを研究する必要がありそうね」
未だに混乱が収まらぬ地上を見て、純白の戦士はビルを後にした。
◇
黒薔薇町 悪原家
『都市伝説として語り継がれてきた伝説の戦士プリキュア。そして、最近巷を騒がしているプリキュアのやり過ぎ行為が市民たちから不満の声を募らせており、警察はプリキュア対策チームを結成して取り締まりを強化する模様です』
後日、家でテレビを見ると、ワイドショーやニュースはキュアベリアルの戦闘における行き過ぎた行為を厳しく断罪して、一連の騒動について特集を組んでいた。
レイとはるかが画面に目を凝らす中、画面はインタビュー映像へと切り変わる。そこにはピースフル被害を受けた人や、戦いの煽りを食らったさまざまな人間から抗議の声が上がっていた。
『俺は買ったばかりの新車をプリキュアにぶっ壊されたんだ!! どうしてくれんだよ、三百万円もしたんだぞ!! ローンだってまだ残ってるんだぞ!!』
『わしは、命よりも大切な盆栽をメチャクチャにされた……ぐっす、あれを育てるのにどれだけの時間を費やしたことか……わしの労力と時間を返せ――!!!』
『本当に迷惑よね。プリキュアって壊したものとかを元通りにできるって聞いてたのに、壊したら壊したままじゃない!』
『プリキュアが暴れたせいで昨日は大渋滞だったんだ。大事な会議だっていうのに、プリキュアのせいで遅刻して上司に大目玉だよ!』
街の人々による不満の声がテレビから次々と流れる。
あまりにもひどい 罵詈雑言の嵐。我慢の限界にきたはるかはリモコンの電源ボタンを押して強制的に電源を落とし 、心底悔しそうに声を荒らげた。
「ひどいですよ!! 警察も街の人もあんまりです!! プリキュアを――リリスちゃんを寄ってたかって悪者扱いするなんておかしいですよ!!」
「落ち着きなさいよ、はるか。彼らが言ってることは事実なんだから仕方ないでしょ」
怒り心頭のはるかに対して、リリスはいつも通りの平静を保って言い放った。
そんな親友にはるかは問いかける。
「リリスちゃんはどうしてそんなに冷静でいられるんですか!? ひどい悪口を言われてるんですよ、悔しくないんですか!?」
「別に。悪魔は昔から善良な市民の嫌われ者だもん。もう慣れっこよ」
そう言いながら、リリス本人は怒りもしなければ泣きもせず、何事も無いように紅茶を飲んで一息つく。
「でもやっぱり納得できませんよ。親友を犯罪者扱いする人はリリスちゃんの、プリキュアのことを何も知らないんですよ!」
はるかの言葉にうなずいてレイも続ける。
「確かに堅気の人間はあまりに無知です。その上寄ってたかって立場の弱い者を陥れようとする。何て卑怯な種族なんだ!」
ぎりぎりと歯ぎしりをしながら使い魔が怒りを露わにすると、主人・リリスは溜息混じりに言った。
「レイ、それって今さら悲観することでもないでしょう。私たち悪魔が長い間生きていられたのはそういう人間の悪性があったからじゃない」
「人間の悪性……ですか?」
気になったはるかがおもむろに尋ねると、リリスは端的に例を挙げた。
「たとえば集団の心理とかね。人って何かって言うと団体で行動するでしょ。なぜだと思う? その方が作業をしたりする上でとても効率がよいから。だけどそういう数の暴力が時折、善悪の判断を逆転させたり、鈍らせたりするの。人は自分たちの都合のいいように物事を見て、無理やり事実を歪曲する。聞き苦しい真実よりも耳障りのいい虚言を信じる。そして自分のことを善良だと思っている彼らは社会的に見て間違っていると思われる相手を叩きのめしたくなる。ほら、芸能人の不倫とかスポーツ界の不祥事とかでマスコミが過熱報道するでしょ。そういう意味で、本当の悪魔とは巨大に膨れ上がったときの民意だと私は思うわ」
どこか達観した意見であり、とても十四歳の少女が口にするような発言とは思えなかった。カップに残った最後のひと口を飲み干し、リリスは締め の言葉を綴る。
「悪魔はね、そんな人間の悪性があるからずっと食いっぱぐれることがないの。というか、人間と悪魔って実はかなり相性バッチリだと思うけど」
リリスの意見は確かに合理的だ。それでも人間であるはるかは自分の意見を彼女にぶつける。
「いやいや!! みんながみんな悪魔と相性がいいとははるかには考えられませんが……というかリリスちゃんはもう少し人間の良いところを見るべきではありませんか?! もしくは悪に走ってしまった人を助けてみんなを幸せにしてあげるとか!」
「なんで私が何の得にもならない人助けを無償でしなきゃいけないわけ? そんなのは神や仏に任せればいいじゃない。悪魔のやることじゃなわね」
「はぁ……ホントに強情というか、頑固なんですから」
基本的に自分の損得で動くリリスには説教といったものなど通用しない。どんなありがたい言葉でも彼女は自分の意思を曲げることはないのである。
はるかは深い溜息を吐くとソファーの上に腰かけた。そんな折、何気なく彼女はあることについて口走った。
「何だか今の時代は、いろんなことがごちゃごちゃしている気がしますね。でも、そんな時代でもプリキュアはただひとつの正義の象徴として人々から尊敬と羨望の眼差しを向けられるものなんです! それがどうしたらこんな現状になるのでしょう……」
うなだれているはるかの言葉に引っかかったリリスは、ふと湧き上がった疑問を投げかけた。
「悪かったわね、模範的なプリキュアじゃなくて。というか、前々から気になってたけど……はるかの知ってるプリキュアの都市伝説ってどんなもの?」
リリスの言葉にはるかの目が輝く。
「あれ? リリスちゃん、ようやく興味を持っていただけましたか !?」
「ないわね。ただ、知っておいた方がいいのかもって思っただけよ。何かと知っていて損はないわ」
リリスの言葉にレイはうんうんと何度もうなずいた。
「リリス様は合理精神の持ち主ですからね。自分に得するかもしれないという事柄には積極的に食いつくのです」
「あんたは黙ってて!」
リリスの腕が即座にレイを捕らえた。
「いてててて……」
リリスは余計なことをうっかり口にしたレイを机に抑えつける。その様子に苦笑いを浮かべながらはるかは、やがてふうと息を漏らした。
「わかりました。はるかの知ってる限りのことではありますが、プリキュアの都市伝説を聞かせて上げますね!」
ゆっくりと はるかは目を閉じた。頭の中で話す内容をきちんと整理し、それが済むと閉じていた瞼を開けておもむろに語り始めた。
「……ある時代、世界は大いなる闇に包まれました。人々は暗い闇に希望を奪われ、絶望していました。この大いなる闇を払い除けるために一人の光の戦士が登場しました。その名は、《キュアミカエル》――この世界に光を取り戻した伝説の戦士プリキュアです!!」
リリスは唇に指を当てて考えるようにしてうつむいた。
「キュア、ミカエル……?」
考え込むリリスに続いてレイが答える。
「それは確か、我々の知っている大天使の名と同じものですね」
ミカエルという名前は悪魔の間でも知れ渡った名であり、天界において大天使というカテゴリーに属する影響力の強い存在だった。
「悪魔が知っているそれと関係あるのかわかりませんけど、とにかくキュアミカエルの手によって邪悪な暗黒は消滅し、世界は再び光を取り戻したんです。その後、キュアミカエルは人々から羨望と感謝を一身に集めるも、戦いの終結にともない姿を消したのでした……ここまでで何か質問はありますか?」
すると早速、リリスが手を挙げ 質問した。
「そんな話一体どこで聞かされたの?」
「小さい頃に絵本で読んだんです」
「どんな絵本なの? 大体それって都市伝説なんでしょ? おとぎ話をねつ造したものじゃないでしょうね?」
「違いますって! ちゃんとしたお話なんです。それこそ何百年も前の……証拠見せましょうか? 今のお話を絵本にしたのがこれなんです!」
鞄を漁ると、はるかはいつも大事に持ち歩いているその絵本を実際に見せてくれた。
表紙には純白のドレス衣装に身を包んだキュアミカエルが描かれていた。
「これは……!」
「どうしたんですか?」
「リリス様、何か見覚えが?」
リリスの様子がどこかおかしい。キュアミカエルの画を見るなり目を見開き、言葉を失った。
はるかとレイが顔を見合わせ不安がる中、リリスは額に一筋の汗を浮かべ、眉間に深く皺を寄せて考える。
(こんなことって……でもだとしたら)
*
異世界 洗礼教会本部
打倒悪魔を掲げながら、洗礼教会は未だヴァンデイン王の一人娘である悪原リリス=キュアベリアルを倒せずにいた。
この由々しき状況を何とかしようと、三大幹部であるエレミア、モーセ、サムエルは集まり、会合を開いていた。
エレミアはこめかみを指で叩きながらつぶやく。
「状況は非常によくないな」
それに応えるようにモーセとサムエルが後に続く。
「洗礼教会が誇る幹部三人が悪魔ひとりに手も足も出ないとは」
「まったく、不名誉なことだぜ! 胸糞悪りー!」
二人の言葉を聞いたエレミアは壮年者として提案する。
「こんな体たらくをホセア様が許すはずもない。こうなったら我ら三人が一致団結して、あの忌々しい悪魔娘を――」
「その必要はない」
エレミアの言葉をさえぎり、重くドスの利いた声が聞こえてきた。声がした方を振り返ると、三人の上司である洗礼教会大司祭ホセアが現れた。
「ホセア様!」
「それはどういうことでしょうか?!」
ホセアの言葉の意味を計りかねる三人は直接本人に問いかけると、ホセアの口からある事実が告げられた。
「今回お前たちには事の次第を静観してもらう。既に悪魔討伐のための刺客が動き始めている」
三人は顔を見合わせ、ホセアに尋ねる。
「悪魔討伐の刺客?」
「一体誰なのですか?」
困惑するエレミアたち。そんな三人を見ながらホセアは「ふん……」と鼻で笑う。
「我々にとっての主は誰か? そして主が召された場所には何があるか? 今一度考えてみるといい」
ホセアは踵を返しおもむろに立ち去っていく。意味深長な言葉を残した彼に戸惑いを抱きながら、三人は自分たちの頭でひたすら考え悩み続けた。
◇
私立シュヴァルツ学園 二年C組
ある日の昼休み。リリスがひとり窓際で静かに本を読んでいると――
「悪原さん」
誰かが前の席に腰掛け、 声をかけてきた。声のした方へ視線を移すと、話しかけてきたのは先週この学園に転校してきたばかりの少女、テミス・フローレンスだった。
「フローレンスさん?」
「その呼び方は硬いですね。テミスとお呼びください」
テミスは、ところで、言葉を挟むと、
「コナン・ドイルをお読みになっていたのですか?」
「コナン・ドイルは前に読んでいた本。今はダンテの『神曲』よ。ちょうど地獄篇から煉獄篇にさしかかっていたところ」
「そうでしたか。私も好きですよ、『神曲』。特に天国篇なんかは――」
どこか裏がありそうな言葉だと思ったリリスは眉間に皺を寄せると、読みかけのページに栞を挟む。
テミスはさらに質問を重ねる。
「他にはどんなものをお読みになるんですか?」
「そうね……ゲーテの『ファウスト』とか、トーマス・マンの『魔の山』なんかは個人的には傑作だと思うけど」
事務的にリリスは答える。
「ずいぶんと難しい読み物を好むんですね」
「現代小説は一部を除いてどうにも歯応えが無くてね。古典文学は人間の本質を捕らえたものが多いという点で気に入ってるわ。ところで、私に何か用事があったんじゃなくて?」
「はい。実は私、初めてこの学校に来てからずっとあなたに興味がありまして」
転校初日から敵視している少女からの語りかけに、リリスは訝しげに尋ねる。
「私に?」
そしてなぜかジト目となり、テミスに対して返事をする。
「生憎だけど、私そっち系の趣味は無いんだけど」
リリスの言葉を聞いた瞬間、テミスを始め、珍しいカップリングに聞き耳を立てていた周りのクラスメイトも盛大にバランスを崩して、コントのようにずっこけた。
直後、何とか持ち直したテミスは、ひどく動揺した様子でリリスの誤解を解こうと弁明する。
「悪原さん、そっちって違いますからね! べ、別に私、レズとか百合とかそういうのじゃないですから!」
「何もそんな風には言ってないんだけどな。というか敬虔なカトリック教徒からレズとか百合なんてフレーズが出るとはさすがに思わなかったわね」
リリスがふんと鼻を鳴らすと、テミスがさらに狼狽した。
「あなた……わざと言わせたんじゃ?!」
「さぁてどうかしら」
自分でも何を言っているのだろうと思い赤面するテミスに対して、リリスはそっけない態度をとってみせる。
ついリリスのペースに乗せられてしまったテミスだが、コホンと咳払いをするとあらためて彼女に尋ねる。
「悪原さんにおうかがいします。あなたは、例のプリキュアについてどう思っていますか?」
突拍子もない質問だとリリスは思った。プリキュアという単語がテミスの口から飛び出したことを意外に思いつつ、とりあえず自分の正体が悟られないことを念頭に自分の意見を口にする。
「私はそういうセンセーショナルで俗っぽい話には興味がないんだけど……嫌でも新聞やニュースで報道されているわね。ま、これは私の主観だけど、あれはあれでがんばってるんじゃないかしら」
リリスの意見にすかさずテミスは噛みついた。
「そうでしょうか。私はあれがただいたずらに街の人たちに迷惑をかけている、自分勝手な人間にしか思えません」
「ま、実際結構物とか派手に壊しちゃってるしね」
リリスにとってもそれは事実だった。わざわざ指摘されたくらいで感情を表に出したりはしない。
「それ以前にあのプリキュアにはプリキュアとしての自覚、責任能力が見受けられません。プリキュアはこの世界の正義の象徴……決して自分の利のために戦ったりしてはダメなんです。いつだってプリキュアは、人々の笑顔や愛、そして正義を守る存在であるべきなのです」
どこか妙に熱が入った様子で喋るテミスに、リリスは猜疑心を抱き、眉間に皺を寄せた。
キーンコーンカーンコーン……
予鈴が鳴り、昼休みの終わりを告げる。テミスは予鈴を聞くなり椅子から立ち上がり、リリスに対して感謝の意を込め、頭を下げる。
「申し訳ありません。読書中にわざわざお相手をしてくださって」
「いいわよ。それより、悪原さんって他人行儀な名前で呼ばなくてもいいわ。リリスって呼んでくれる?」
こちらが名前で呼ぶのに対し、名字で呼ばれることがむず痒く、リリスもテミス同様に名前で呼ぶことを許した。
まさかそんな返答が来ると思っていなかったテミスは目を見開くと、すぐに頬を紅潮させ、満面の笑みを浮かべ礼を言った。
「ありがとうございます――リリスさん!」
午後の体育の時間、二年C組の生徒一同はテニスコートで大きな歓声を巻き上げていた。
先日行われたソフトボールの試合では実現しなかった、二大才女の直接対決が実現したからだ。
今日の種目はテニス。二人とも髪が散らないようにポニーテールにしており、まぶしく輝くうなじに男子たちは一層応援の声を大きくした。
授業時間内に全員が交代で試合できるようにと、一ゲーム取得した方が勝ちという変則ルールであった。しかし、二人の攻防は一進一退を繰り返し、幾度目かのデュースを迎え、とうに数ゲーム分の時間を費やしていた。
最初は授業の進捗を気にしていた体育教師も、あまりに白熱した戦いに授業そっちのけで生徒に交じって応援していた。
「リリスさん、本当に運動神経がいいんですね!」
サーブ前にテミスが目の前のライバルに声をかける。
「別に。こんなの、ボールが来たらラケットを振って当てるだけでしょう? 難しいことじゃないわ」
全国のテニスプレイヤーが聞いたら憤慨しそうなこともさらっと言ってのける。
「ふふ、強がりじゃないといいですけ……ど!」
言葉を締めると同時に鋭いサーブが飛んでくる。
すかさず踏み込んだリリスは手首のスナップを利かせて、相手の返しにくいポイントにボールを運ぶ。
それは読んでいたとばかりにテミスがステップを踏む。視線はすでに次のコースの計算に移っており――華麗なラケットさばきで、まるで矢の如く返球した。
(――嫌なコースね、やるじゃない)
普段は体育なんかで汗をかかないリリスでも、今日はほのかに肌を上気させ、じわりと汗の粒を浮かせる。
テミスも笑みを浮かべているが、手に汗握る攻防の最中での一種のハイ状態となっていた。
ひたすら続くラリーは、お互いのラケットに当たるボールの音でさながら音楽を奏でているようだった。
「往生際が悪い……です!」
「お生憎……様!」
いつまでも続くラリーに気づけば応援の声は静まり、みんなが息をのんで見守っていた。
しかし、終わりは一瞬だった。
キーンコーンカーンコーン……
「うわー! すまん、みんな今日は終わりだ! 片付け急げー!」
体育教師の声にみんなががっかりした表情でボールを拾い始める。
一方、コートで熱戦を繰り広げた二人は終鈴の合図とともに足を止めていた。
「リリスさん、楽しかったですね」
「私はとっとと終わらせたかったんだけど……」
ネット際に寄ってきたテミスが右手を差し伸べる。
「またいい試合をしましょう。でも、私たちが対決すると死力を尽くしてしまうから……死合、でしょうか」
不敵な発言にリリスは、物騒なこと言わないで、と前置きして、
「神に仕える身がそんなこと言っていいの? でも、そうね。これくらい本気でやり合うのもたまには――悪くないわ」
と軽く握手をして、駆けてくるはるかと更衣室へ向かった。
テミスは去って行くリリスの背中を見ながら、先ほど握られた手をぎゅっと握りしめていた。
放課後。リリスははるかとともに帰路に向かって歩いていた。
「リリスちゃん、昼休みテミスさんと何を話してたんですか?」
隣を歩くはるかが気になった様子でテミスとリリスの会話内容について尋ねる。
「別に。女子中学生が話すような他愛ないもない会話よ」
「え~~~? リリスちゃんとテミスさんがそんな俗っぽい話をするんですか?」
普段、リリスから女子中学生が話すような話をされないはるかは信じられない様子だ。
「私だって十四の女の子よ。そういう話くらいするわ」
女子中学生がする話を考えるはるかは、ぽんと手を打って尋ねる。
「じゃああれですか……好きな男子のタイプとか!」
「止まらぬ少子化問題及び高齢化社会に対する対策とアプローチの仕方について」
聞いた途端、がくっとこけたはるかは、体を起こしてリリスに訴えた。
「全然俗っぽくありませんよ!! およそ中学二年生の女の子がする会話じゃありません!!」
はるかの訴えにリリスはフッと息を漏らし応えた。
「冗談よ。巷を騒がすプリキュアについてどう思うかって聞かれたわ」
「へぇ、テミスさんがそんなことをリリスちゃんに?」
リリスは、ええ、と短く返事をする。
「それでテミスさん、なんて言ってたんですか?」
「〝プリキュアはこの世界の正義の象徴で、人々の笑顔や愛を守る存在であるべきだから、新聞で報道されているプリキュアははた迷惑な似非プリキュア〟……なんだって」
「し、辛辣なコメントですねぇ……」
「まぁ私が話を誇張してるところもあるけど、だいたいこんなことを言ってたわね」
「テミスさんって宗教だけじゃなくて、プリキュアに対しても信心深い人だったんですね」
まだ転校したてで謎が多い少女・テミス。陽だまりのような笑顔とそれに伴う魅力で瞬く間に学校の生徒たちを虜にしている点を除いて、彼女たちはテミスのことをほとんど知らなかった。
テミス・フローレンスという少女は何を考え、なぜプリキュアの存在意義について強いこだわりを持っているのか――そんなことを考えながら歩いていた直後だった。
突如周りの景色が歪み始めたと思えば、リリスとはるかの周りに強力な閉鎖空間が発生して、二人は完全に閉じ込められた。
「な、何ですかこれ!?」
はるかは突然の出来事に辺りをきょろきょろと見渡す。
「これは……天使の結界!」
先手を打たれたことに舌打ちをしながら、何が起きてもすぐ対処できるようにリリスは身構えた。
「天使?」
リリスの言葉を繰り返したはるかに応えたのはリリス本人ではなかった。
「悪魔の天敵――それが私たち天使よ」
不意に頭上から声がした。
上を見ると、純白のドレスのような衣装に身を包み、背中から銀白に輝く立派な翼を生やした金髪ポニーテールの美少女が、チョウの羽を持つリスのような妖精を伴っている。
リリスが警戒の眼差しを向け、はるかが困惑の表情を浮かべる中――少女は妖精とともにゆっくりと地面へと降り立った。
「ごきげんよう、悪原リリスさん。いえ……キュアベリアルさん」
「どちらさま? とりあえず天使ってことは認識できたけど、それだけじゃないんでしょ」
正体不明の天使を相手に、リリスは半身の構えで相対する。
「私は天界からやってきた正統な上級天使にして、かの伝説のプリキュア……キュアミカエルの血を継ぐ存在――キュアケルビム!」
伝説のプリキュアの名を聞いたはるかが、自らをかばうように立つリリスの陰から顔を覗かせる。
「キュアケルビム……!?」
ミカエルと聞いたリリスは、なるほど、と納得のいった表情を見せた。
「やっぱりキュアミカエルのミカエルっていうのは、大天使ミカエルのことだったのね。しかし初耳だわ。かの大天使ミカエルがまさかプリキュアとして戦っていたなんて」
「悪魔が知る必要のないことですもの。知らないからといって罪にはなりません」
ケルビムのそばを漂うリスの姿を模った妖精、キュアケルビムの従者・ピットがそう言うと、ケルビムはリリスのことを指さし強い語気で言い放つ。
「そんなことよりも、私が今日ここに来たのは他でもないわ。キュアベリアル、あなたをこの手で倒すためよ!」
向けられた敵意にリリスは睨みで応酬する。
「私を?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 何だか穏やかな話ではありませんが……あなたはどうしてリリスちゃんを倒そうなんてするんですか!? どうして、リリスちゃんがプリキュアであることを知っているんですか!?」
はるかの疑問にケルビムは言葉を返す。
「矢継ぎ早ね。でも答えられない問いでもないから教えてあげる。私はね、ずっと天界から地上の様子を見ていたの。そして、プリキュアに変身する悪魔の力を感じ、降りて来たのよ。そしたら何なのよ……この〝似非プリキュア〟が戦うたびに人々のプリキュアへの信頼・尊敬の念は薄れ、たくさんの笑顔が失われていく。私はそれが我慢ならなかった……だからこそ、すべての元凶を作り出したこの悪魔を生かしておくわけにはいかないの!!」
ケルビムの言葉に溜息を吐いてリリスは尋ねた。
「要するに、それってプリキュアを神様みたいに信仰の対象にしたいっていうあんたの個人的な欲望じゃない?」
主人への冒涜に、従者のピットは怒りを露わにして反論する。
「無礼な! あなたのような邪な悪魔みたいなこと、ケルビム様が考えるはずもありません!」
それを聞いたリリスは嘲笑気味に投げかける。
「どうかしら。天使にだって自分の欲望くらいあるでしょ?」
「私は人々には幸せになって欲しい。そして、その幸せを妨げる邪悪を許すことはできない。さあキュアベリアル、ここが年貢の納め時よ!!」
ケルビムの目を見る限り、本気でリリスを――キュアベリアルを倒す覚悟を持ち合わせていると確信した。
「リリスちゃん……」
はるかが心配そうに尋ねると、リリスは難しい表情を浮かべた後、観念したように重い溜息を漏らし――キュアケルビムの方へと一歩前に出る。
「天使と悪魔は相容れない存在……いつかはこうやって衝突する日が来ると思っていたわ」
彼女は学校の鞄をはるかに預けると 、懐から変身アイテム・ベリアルリングを取り出した。
「そっちがその気なら相手になってあげるわ。ただし、私は悪魔だから誰が相手だろうと一切容赦はしない」
右手中指にベリアルリングを嵌め、天に向かって手を翳すと――リリスは魔力をリングへ集約させ変身する。
「ダークネスパワー!! プリキュア、ブラッドチャージ!!」
数十秒後、紅色のオーラに包まれたリリスがプリキュアの変身を完了させ、ケルビムの前に姿を現した。
「独善滅ぼす暗黒の力! キュアベリアル!」
変身完了したキュアベリアルはキュアケルビムと対峙した。
悪魔と天使――相反する存在同士は互いに闘争心を剥き出しにして、いよいよ戦いの火蓋が切られた。
「はああああああ!!!」
「やああああああ!!!」
ガンッ !!
互いの拳と拳がぶつかり合う。力はほぼ互角――拮抗している。
両者は拳だけでなく、蹴り、魔力攻撃、空中戦に至るまでともにしのぎを削り合う。
熾烈を極める悪魔と天使のプリキュアの衝突する光景を危険が及ばない場所で観戦していたはるかだが、彼女の心は揺れ動いていた。
「こんなのおかしいですよ……同じプリキュア同士、どうして戦う必要があるんですか!?」
プリキュア同士が戦う理由などあるはずがない。悪魔と天使という相容れない存在ゆえに戦う宿命を担ったベリアルとケルビムは、嘆くはるかを余所に、ひたすら攻撃の手を休めず戦い続ける。
「プリキュア・ルインフェノメノン!!」
ベリアルは必殺技を放った。しかし、絶妙なタイミングで回避したケルビムは掌に悪魔を一撃の元に葬り去る力――『光の槍』を作り出した。
「プリキュア・セイントスパイラル!!」
光の槍を高速で回転させ貫通能力を高めると、ケルビムはベリアル目掛けて光の槍を投げ飛ばす。
ベリアルは咄嗟の回避が間に合わず、殺傷力抜群の光の槍を左肩に掠めてしまった。
「ぐううう……!!」
掠っただけでも悪魔にとって光の槍は相当なダメージを与える。かなり嫌なコースを攻められたと思い、ベリアルは険しい顔を浮かべながら、バランスを崩し、地面に叩きつけられるように墜落 した。
「リリスちゃん!!」
致命傷こそ避けられたものの、光の槍におけるダメージは深刻だった。今のベリアルを斃すのはケルビムにとって造作もないことであり、当然この機会を逃すわけがなかった。
「悪魔が人々を救うプリキュアであっていいはずがない。ここで何もかも終わりにしてあげる。あなたの人生とともに」
今一度光の槍を作り出し、次の一撃でとどめを刺そうとする決意する。
刹那、ケルビムは横たわるベリアルに向かって地面を蹴り、一気に接近する。ケルビムが光の槍を振りかぶり、絶体絶命のピンチに陥ったベリアルだったが――直後、自分のことを庇おうとはるかが前に飛び出した。
「な!」
「はるか!?」
ケルビムは咄嗟に光の槍のエネルギーを霧散させ 、攻撃の手を止めた。はるかは悲しみに満ちた瞳を潤わせ、両手をいっぱいに広げてベリアルを守りながらケルビムに訴える。
「もうやめましょうよ!! 同じプリキュア同士、争う理由なんてありません!!」
「同じプリキュアて……あなたはそんな悪魔を庇うつもり!?」
「悪魔であるとかそういう以前に、リリスちゃんははるかの大切なお友達です!! はるかのお友達をこれ以上いじめるつもりなら、たとえ天使のプリキュアだろうと許しません!!」
圧倒的なまでのはるかの気迫にケルビムはしり込みし、ベリアルへの攻撃を止めざるを得なくなる。
そして、親友の言葉に勇気をもらったベリアルは口角をつり上げるとゆっくりと立ち上がり、はるかの肩に手を置き笑みを浮かべる。
「ありがとう、はるか。でも、危ないから下がってて」
「リリスちゃん……」
今度はベリアルがはるかを庇うようにして前に出る。
「キュアケルビムとやら。あなたにとってプリキュアがどういう存在であるかは正直興味ないし、プリキュアが人間の模範となるべき正義のヒーローであるって考え方もするつもりはないわ」
「何ですって……!?」
怒りの表情を見せるケルビムを見据えて、ベリアルは続ける。
「私は私の思うがまま、自分の信じるものと数少ない守りたい者のために戦うわ。今も、そしてこれからもね」
刹那、ベリアルリングの上にグラーフリングを重ねて――ベリアルは全身を炎に包みながら二段変身した。
「グラーフゲシュタルト!!」
高熱を帯びた彼女の体は戦闘衣装を赤みが帯びたものへと変えていき、能力全般 を格段に上昇させる。そして、ベリアルはさらなる変身を遂げポーズを決めた。
「キュアベリアル・グラーフゲシュタルト!!」
目の前に現れた紅蓮の悪魔にケルビムは一歩後ずさる。
「二段変身ですって……!?」
「ケルビム様、これは危険ですよ!!」
本能的な危機感を抱き後ずさるケルビムとピットを見ながら、ベリアルは拳をボキボキと鳴らして、炎を伴ったパンチでキュアケルビムを押し返す。
「ぐ……この火力は!?」
「悪魔のプリキュアだってそれなりに戦えるってことがわかったかしら!!」
バン!!
強力無比な拳の一撃がケルビムの腹部に直撃し吹っ飛んだ 。やがて地面に叩きつけられ、転がるようにして受け身を取るが、殴られたダメージが強く、当たった箇所を押えながらケルビムは跪く。
そんなケルビムを見据え、追撃のチャンスを逃すまいと、ベリアルは全身に灼熱の炎を纏わせた。
「プリキュア・プロミネンスドライブ!!」
全身を炎に包んだ彼女は、躊躇ない突進によって目の前のキュアケルビムに向けて渾身の体当たりをぶちかました。
「きゃああああああ!!」
ケルビムはシンプルだが強力な炎の体当たりの直撃を受けると、再度、地面に激しく叩きつけられ――戦闘不能となった。
「ケルビム様!!」
ピットが主人の安否を気遣い近づくと、ケルビムの戦闘衣装はところどころ焦げ臭いにおいを発し、炭のように黒ずんでいた。
「く……この私が悪魔に後れを取るなんて……不覚だわ!」
「目の前の現象だけを見るあまり、物事の本質を捉えられなくなった天使に成り下がったことの方が不覚じゃない?」
と、ベリアルはケルビムの現状をそのように嘲笑った。
心底悔しい思いを抱くケルビムは、重い身体を起こすと背中の翼を広げ上空へと飛び上がる。
「必ずあなたの愚行を止めてみせるわ! 次に会う時まで首を洗って待ってなさい!」
そう言って、ピットを連れてケルビムはベリアルの前から去っていく。
彼女たちがいなくなると、結界も解除された。さすがの疲労に追いかけることができなかったベリアルは変身を解いた。
「リリスちゃん……この争いは避けられないのでしょうか……」
近づいてきたて、はるかが問いかけるが即座には答えられなかった。
リリスはとともに立ち去ったケルビムについてしばらく考えた後、あらためて帰路へと向かって歩き出した。
*
異世界 洗礼教会本部
大司祭ホセアは日課である礼拝をしていた。
しばらくすると、礼拝堂の扉が開かれ――彼の方へと向かってゆっくりと近づく影があった。
「天使が悪魔に後れを取ったか。それとも、あの場にいた人間の少女が貴殿の心をかき乱したか?」
ホセアは背中でそう語りかけると、おもむろに後ろを振り返る。
「キュアケルビム」
現れたのはキュアベリアルとの戦闘を終えたばかりのキュアケルビム。彼女は苦虫を噛みつぶしたような顔を浮かべながら、ホセアに対し深々と首を垂れる。
「申し訳ありません。しかし、この借りは必ず――」
「少し休め。思いのほか、あの悪魔娘を相手にするのは骨が折れそうだ。長期戦と持ち込もうじゃないか。どの道、残りの悪魔の数など雀の涙ほどなのだ。じっくり嬲り殺すのも悪くない」
猟奇的とも取れるホセアの言葉を聞きながら、ケルビムはおもむろに頭を上げると、変身を解いた。
変身を解いた彼女の姿は、私立シュヴァルツ学園に転入してきた謎の美少女テミス・フローレンスそのものだった。
彼女は打倒キュアベリアルを胸に、手の中の変身リング――ケルビムリングを強く握りしめる。
「悪原リリス、いえ、キュアベリアル……いずれこの手で倒してみせるわ」
次回予告
レ「リリス様、生き残っていた悪魔が発見されました!」
リ「本当に!? だったら早速会ってみないとね」
は「ハヒ!? でもそこに洗礼教会が現れて、何だか危ない予感がしてきましたよ!!」
リ「ディアブロスプリキュア! 『約束を果たすため!フィルストゲシュタルト!!』」