彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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金木犀さん、MAXIMさん、ヲールさん、烏瑠さん、NoSTRa!さん、誤字報告ありがとうございます。



100:もっとスマートに

 

 怪物と化したザパンは魂に刻み込まれた恐怖と怯懦に駆り立てられ、本能の命じるままにチレンを追いかける。

 あの女を捕まえれば、あの女を殺せば、きっと奴が現れる。俺の顔、俺の顔を奪った、奴が現れる。ベアトリーゼ。ベアトリーゼ。ベアトリーゼッ!!

 殺さなきゃ。殺さなきゃ殺さなきゃあ、ベアトリーゼを殺さなきゃあ俺は顔を取り戻せねェっ!! 俺は、俺は俺を取り戻せねぇッ!!!! 

 

「べああとりぃぜええっええええっ!」

 ザパンは叫ぶ。まるで泣いているように。

 

    〇

 

 月光に照らされるロッキー島。酒盛りしていた者達も就寝し始めた深夜。

 土産物屋の皮を被った世界政府諜報機関(サイファー・ポール)秘密拠点(ブラックサイト)が強襲された。

 

 夜更けの静寂を引き裂く騒音。店舗の正面玄関がぶっ壊される音色に、店舗家屋と工房宿泊室に詰めていた工作員達が即応する。

 店主と従業員に化けた老婆と中年男が迎撃に向かい、他の者達は工房へ集結。窓や出入り口を銃眼付き鋼板シャッターで閉ざした。隠匿していた武器弾薬を引っ張り出し、手早く戦支度を整えつつ、指揮官の黒人紳士がセーフルームに保護している最重要情報提供者(パッケージ)の許へ。

 

「な、何事なの!?」

「落ち着いてください。我々が対処します」

 黒人紳士が動揺するチレンを叱るように低い声で言った。

 

 直後、店舗の方から銃声が聞こえてきた。数秒ほど激しい銃声が奏でられ、次いで、老婆と中年男の断末魔が響く。

「!」黒人紳士の顔が強張る。老婆と中年男もベテラン工作員だ。不測の事態にも突発戦闘にも慣れている。それがこんなあっさり―――

 

 工房正面ドアの銃眼に据えられた多銃身機関砲(ガトリングガン)。その銃把を握る工作員が覗き窓から大柄な人影を確認し、即座に発砲した。

 連続する銃声は怪物の咆哮のよう。排莢口からカートリッジが次々に吐き捨てられていく。

 

 人間など容易く挽肉に変えてしまう弾幕射撃が大柄な人影を捉え、

「嘘だろっ!?」

 甲高い金属音と共に全て弾かれた。

 

 大柄な人影は弾幕を掻き分けるように、火花を散らしながら傲然と工房へ近づいてくる。

 別の工作員が銃眼から小銃の銃口に装着した擲弾を放つ。炸薬の塊が大柄な人影に命中し、爆発。爆発衝撃波と轟音が頑健な工房をびりびりと震わせる。

 

 たしかな手応えがあった。しかし、大柄な人影が爆煙の中から平然と姿を現す。

「あれは、なんだ……?」

 爆炎に照らされた襲撃者の姿に、工作員達が絶句した。

 

 三メートルを超える上背は筋肉で肥大しており、全身の体表面を鈍色の硬鱗が覆っている。そして、仮面のようなもので覆われた顔に覗く双眸は、真っ赤に充血していた。

 

「べっ……べぇえあっとりぃいいいぜえええっ!!!」

 無貌の怪人が雄叫びを上げ、工房の正面扉に向かって突っ込む。

 大質量の直撃で正面扉の鋼板シャッターが大きくたわみ、工房が軋み震える。誰もが確信した。あのバケモノ相手では長く持たない。

 

 黒人紳士は即座に踵を返し、工作員達へ命じる。

「現時刻を以てこのサイトを放棄する! プロトコル3を発動っ! 港からこの島を脱出するぞっ! 急げっ!」

 

「なんなのっ!? 何が起きてるのっ!?」

「話は後だ、先生っ! 今は脱出が先だっ!」

 黒人紳士がチレンを伴い、床にある隠し通路の扉を開けた。

 

「プロトコル3、発動っ! 爆発まで40秒っ!」

 中年女性の工作員の言葉に、チレンが顔を引きつらせる。

「爆発っ?! 爆発ですってっ!?」

 

「そうだ、先生。ここは爆発する。死にたくなければ急げっ!」

「貴方達に保護されても、ちっとも安全じゃないっ!」

 当然の文句を吐き、チレンが手荷物を抱えながら隠し通路に駆け込んでいく。

 

 黒人紳士が工作員達共に隠し通路に入り、扉を閉ざす。

 分厚い鋼板の正面扉がぶち破られた轟音がつんざく。怪人が工房内に侵入し、目につくものをしっちゃかめっちゃかに壊しながら暴れ回る。

「べあっとおおりぃぃいぜええええっ!!」

 怪人が再び絶叫した、刹那。

 

 プロトコル3……拠点の隠滅用燃料が爆発。工房内を炉のように炎で満たした。

 

    〇

 

「おいおいおい……」

 戦闘騒音が聞こえてきたかと思えば、宿の窓から夜の闇を焼き焦がす炎が見えた。見聞色の覇気で探れば、自分の名前を叫びながら暴れるウロコ怪人がいると来た。

 

「粘着ジジイめ。送り狼を寄こしやがったな」

 ベアトリーゼは鼻息をつきつつ、この島で買ったばかりのキャミソールとストレッチデニムを身に着けた。腰に装具ベルトを巻き、ダマスカスブレードの鞘を後腰のホルスターに差し込む。多眼式潜水ヘルメットとタイトな潜水服をバックパックに収めていく。

 

 ドクトル・リベットなら見殺しにしても良かったが、チレンをこのまま見捨てては些か後味がよろしくない。それに――先方はこちらを御指名みたいだし。

 両腕にダマスカスブレード用の装具を取り付け、ベアトリーゼは癖の強い夜色のショートヘアを気だるげに掻き上げた。

「まだ本調子じゃないってのに……モテる女はツラいね」

 

     〇

 

「素晴らしい」

 ドクター・インディゴは電伝虫に取り付けられたファックスが吐き続けるデータログを読み取り、薄笑いを浮かべた。

 

 今やウロコ怪人と化したザパンの体内には、電伝虫を移植してあって活動情報を送信してくる。

 データログを読み取る限り、今のザパンは一般的な銃弾や炸薬に対して無敵だ。高温の炎にすら耐えきった。挙句に熱損したガノイン鱗を瞬時に生え替わらせている。

 

「ピロピロピロ……今後は適正値と耐性値の高い被験者を集めよう。そうすれば、シキの親分は無敵の軍団を手に入れられ、私はS・I・Qをより発展させられる。まさにウィン・ウィンッ!」

 高笑いするインディゴは、ザパンの精神状態のデータログを気に留めていなかった。

 インディゴが注目する点はあくまでハード……肉体面の変化と性能であり、ソフト……精神面の変容と状態は関心がない。

 

 言ってしまえば……ザパンが狂っていることなど、どうでも良いのだ。

 

    〇

 

 チレンは手荷物を抱えながら、港を目指して路地をひた駆けていく。

 アレが何か分からないが……製作者には心当たりがあった。というか、他におるまい。あのアホピエロだ。それと、

「べあとおおりぃぃいぜえええええええええええっ!!」

 無貌の怪人が繰り返し怒鳴る蛮姫の名。

「どういう知り合いか知らないけど、私を巻き込まないでよっ!」

 

「ヴォオオオオオオッ!!」

 雄叫びと共に怪人は巨大な肉弾と化した。

 

 進行上のあらゆる無機物の障害物を破壊して。塀も建物も。街路樹も。石畳も踏み砕き。

 進行上のあらゆる有機物を撃砕して。逃げ惑う無辜の人々も。討伐しようと立ち向かう人々も、怯え竦む子犬さえも踏み潰し。

 怪人は一直線に突き進む。後に残されるは粉塵を昇らせる瓦礫と紅い肉塊。

 

 チレンと工作員達は港を目前に追いつかれ、

「逃げろっ! どこでも良い、逃げろっ!」

 黒人紳士と工作員達が怪物の足止め、否、わずかでも時間稼ぎを試みて踵を返した。彼らの給料には死ぬことも含まれるから。

 

 チレンは指示通り、振り返らずに駆ける。背後で銃声と工作員達の断末魔が重なった。怪物は止まらない。

 具体的な死が迫る中、チレンは恐怖より怒りを覚える。こんなところで死ねない。まだシキに思い知らせていない。まだ百獣海賊団に夫と我が子の報いを味わわせていない。まだこの忌々しい世界に意趣返しをしていない。

 まだ、何も成し遂げてないっ!!

 

「べあとりぃいいぜええええっ!」

「真夜中に大声でひとの名前連呼してんじゃねーよ、バカヤロー」

 

 怪人の咆哮に混じり、チレンが物憂げな声色を聞いた直後。衝撃波を伴う轟音がつんざき、怪人が幾つかの建物を巻き込んで吹っ飛ぶ。

 

 怪物の横っ面を蹴り飛ばし、ベアトリーゼは粉塵を手で払いながら小首を傾げる。

「ありゃ? 殺すつもりで叩き込んだんだけどな」

 

「べ、ベアトリーゼ」チレンは安堵の息を吐くと眉目を釣り上げ「あれ、貴女の名前をずっと口にしてるけど、どういう知り合いよっ!?」

「や。そんなこと言われても」

 ベアトリーゼは、瓦礫を払いのけながらやってくる怪人を窺う。

「方々に恨みを買ってる自覚はあるけど、あんな特徴的な奴は覚えがないなあ……」

 

「元の容姿とは全然違うわ。あれはバカピエロにS・I・Qを打たれてる」とチレン。

「えす……なに?」

 訝るベアトリーゼへ、チレンは怪人を睨み据えながら口早に説明した。

「生物の戦闘的進化を促す薬物を投与されてる。あれは戦うためだけに存在する化け物よ」

「進化、ねえ」ベアトリーゼは半目で怪人を見据え「進化というより、適応変態してるだけの気もするけど」

 

「ヴォオオオオオオオオッ!! べあとりぃいいぜえええええええええっ!!」

 怪人が無貌の血走った両眼に、ベアトリーゼを捉えながら怒号を挙げる。その恐ろしい容貌と相まって、まるで悪魔の咆哮だ。

 

「だから、人の名前を叫ぶなって」

 ベアトリーゼは苛立たしげに鼻息をつく。

「面倒臭ェ奴」ベアトリーゼはチレンに自分のバックパックを投げ渡し「チレン。港へ行け。トビウオライダーんとこで待ってろ」

 

「トビウオライダー? でも、潜水服が」チレンが困惑を浮かべる。

「細かいことはいいから。早くお行き」

 ベアトリーゼはチレンの背中を押して強引に行かせ、後腰からダマスカスブレードを抜いて両腕に装着。

「じゃ、死んでもらおーか」

 

「べああああとりぃいいぜえええええええええっ!!」

 怪人が雄叫びを上げながらベアトリーゼ目掛けて突進し、巨腕を振り回す。

 

 丸太よりも太い剛腕が風切り音を牽いて迫るも、ベアトリーゼにしてみれば欠伸が出る拳速に過ぎない。容易く大きな拳を潜り、螺旋極(ハーエストラバント)で腕伝いに旋回して懐の内側に潜り込み、その勢いのまま弧を描くように身を捻り、ダマスカスブレードを一閃。

 しかし、刃が鱗面を滑るように跳ね、峻烈な火花が躍る。

 

「ヴォオオオオオオオオッ!」

 宙を踊るベアトリーゼに向け、大柄な怪人が反撃の拳打を放つ。

 

 触れずにかわすことは容易い。が、ベアトリーゼはあえて怪人の打撃を邀撃。くるりと木の葉のように拳の直撃を避けつつ、高周波を乗せた漆黒の拳を手首へ打ち込む。

 大きく弾かれる巨拳と体勢を崩す怪人。そして、周波衝拳(ヘルツェアハオエン)を食らった手首からガノイン鱗が砕け散るも、それ以上のダメージはない。

 

「ギミックが盛り沢山だな」

 ベアトリーゼは後方捻り宙返りで着地し、小さく呟く。

 

 かなり硬質な鱗だ。おまけに分泌物で表面を潤滑させているらしい。それに、許容を超えた衝撃に対してはガラスのように自壊し、表面分泌物が蒸散することで、衝撃や熱の体内浸透を大きく緩和してるっぽい。

 

 フィジカルも単純にタフだ。皮膚は頑丈。脂肪と筋肉も厚く高密度。

 

 ベアトリーゼは手の平をちらりと一瞥する。

 手の平がひりひりするな。肌が糜爛しないところを見ると、分泌物は浸透性の毒物か。いずれにせよ直接触れてこの程度なら、体内注入されない限り即応性はない。

 

 熱プラズマを発し、ベアトリーゼは手のひらを消毒した。

 斬撃、振動衝撃、打撃に対して高い防御力を持ち、接触(グラップリング)を拒絶するように毒を分泌する身体……なるほど。私に対抗した適応変態か。

 指向性掛けて催眠音波を仕掛けてるけど、効果は出てない。とっくに頭のネジが外れているようだし、三半規管に影響が及んでいる様子もない。よほど頑丈なのか、対抗器官があるのか……

 なんにせよ、こいつは私を知ってる。どっかで殺し損ねた奴かな? 心当たりがあり過ぎてわっかんねェわ。

 

 まぁ、それはそれとして。

 

「べあとりぃいぜええええええっ!」

 無貌の怪人が巨躯を激しく躍動させ、巨拳をうならせる中、

「あのな。何度も言ってるだろ」

 ベアトリーゼは矢のように踏み込む。瞬く間に岩の塊みたいな怪人の間合い内へ入り、右拳を深く強く握って漆黒に染め上げた。

「ひとの名前を気安く叫ぶなボケッ!!」

 電磁加速された拳が、静電気を引きながら怪人の鳩尾に突き刺さる。

 

 落雷染みた衝突音がつんざく。

 音速を超えた打撃は怪人の腹部から胸部に掛けて鱗を破砕し、突き抜けた衝撃によって背中の鱗も吹き飛び、衝撃で生じた熱が全身の分泌物を蒸発させた。挙句、衝撃の余波と轟音によって半径数十メートル圏内の窓ガラスが砕け散り、家屋がたわみ軋む。

 

「ヴォエアアアアアッ!?」

 仮面じみた無貌から激しく吐血しながら、怪人が大きな体躯をくの字に折り曲げた。蛮姫は怪人の顔面に向かって跳躍し、高速三回転半捻りの運動エネルギーを乗せた漆黒の膝をぶち込む。

 

 砲弾が装甲板へ着弾したような衝突音が轟き、怪人の顔を覆うコズミン鱗が砕け割れ、鮮血が勢いよく噴き出した。

 ベアトリーゼの攻撃は終わらない。筋肉で盛り上がった怪人の肩口を掴み、駒のようにくるりと身を回し、砕け割れた顔面目掛けて肘剣の刺突を放つ。

 

「がぉ、おぉおれのがぉ、がをおおおおおおををををっ!!」

 確殺の鋼刃が迫る中、怪人の恐れと怯えに体内のS・I・Qが応えた。細胞の一部が瞬間的に発電細胞へ変態し――放電。

 

 鋭い閃光が走り、周辺の空気が爆ぜ、衝撃がベアトリーゼの全身を打ちのめす。仕上げに衝撃波がベアトリーゼのしなやかな体をふっ飛ばした。おろしたてのキャミソールとスキニーデニムがたちまち台無しに。

 怪人の周りを仄かに蒼い光が漂う。あまりにも強力な電撃によって、イオン化した大気が発光しているのだ。

 

「また感電かよ」

 完全に想定外だったため、ベアトリーゼは激烈な電撃をまともに食らっていた。

 繊細な毛細血管が弾け、両目と鼻腔と耳孔から鮮血が伝う。肌のあちこちにシダ状の電撃傷が広がっていた。手先や足が痺れていて力が入らない。視界は酷く歪み、強烈な耳鳴りが平衡感覚を惑わせている。

 

 端正な細面を血に染め、蛮姫が身を起こそうとしてふらついた刹那。

 

 顔面を覆う一枚鱗を生え変わらせた怪人が、ベアトリーゼに向かって吶喊した。

「べぇあああとぉりぃいいいぜええっ!」

 

「なに勝ち誇ってんだ、お前」

 ベアトリーゼはワイドスタンスで腰を落とし、身を捻り込んで右腕を大きく振りかぶる。瞬間、右腕が肩から指先まで漆黒に染まり、ダマスカスブレードがプラズマ光を煌めかせた。

 

 怪人が馬鹿馬鹿しいほど山盛りの筋肉を全力で動員し、跳躍しながらベアトリーゼに向かって巨大な拳を振り下ろす。

 

 岩塊染みた拳骨が直撃する寸前。蛮姫は全身のバネをリリース。さらに異能を用いてプラズマジェットをぶっ放す。音を置き去りにする瞬間的超高加速の跳躍。脳が発する電気信号では間に合わないから、脊髄の反射信号が木目紋様の肘剣を振るわせる。

 

 一条の雷閃が疾駆した。

 ベアトリーゼが怪人の脇を通り抜けて着地した直後、遅まきながら衝撃波が生じ、強烈な音圧が追いかける。

 

 ずどんっ!

 

 斬撃とは思えぬ轟音と共に街角が弾ける。怪人の巨躯が腰の辺りでずるりと上下に分かたれ、瓦礫と粉塵の中に崩れ落ちた。焼き斬られた断面から赤黒い血が滲み溢れていく。

 

 全身の汗腺からドッと大量の汗を拭き出し、ベアトリーゼは疲労感を抱きながら怪人の頭を強く蹴りつける。

 反応なし。

 

「面倒臭ェ奴」

 戦った相手に敬意を払うどころか悪罵を浴びせ、ベアトリーゼは港へ向かって駆けだした。

 

       〇

 

 少し前までは静かな夜を迎えていたロッキー島の町は、今やどこもかしこも大騒ぎだ。町中の照明が点り、誰も彼もが表に出て少しでも情報を集めようと御近所さん達と話し合い、粉塵を立ち昇らせている辺りを不安げに窺っている。

 

 そんな人込みを掻き分け、チレンはひた走る。粉塵に汚れた亜麻色のショートヘアを振り乱し、一心不乱に港の一角へ向かっていく。自身とベアトリーゼの荷物を後生大事に抱え、一目散に駆けていく。

 

 そうしてやっとこさ港に辿り着いた。チレンは額を流れる滝のような大汗を手の甲で拭い、息を整えようと足を止めた。

 ところへ、夜空からベアトリーゼが飛び降りてきた。

 

 小さな吃驚を上げ、チレンは噛みつくようにベアトリーゼを睨む。

「驚かさないで」

 

「遅刻するよりゃ良いでしょ」

 ベアトリーゼは億劫そうに応じ、癖の強い夜色のショートヘアを掻きまわす。砂利やら塵やらがボロボロと落ちていく。ずたずたに裂けたキャミソールを苛立たしげに千切り捨て、Fカップを包むXバックのスポブラと小麦肌を露わにした。電撃傷が痛々しい。

 

「今すぐこの島を出るよ。この騒ぎの被害に遭った住人が怒り狂ってるからな。捕まったら吊るされちまう」

「どこに向かうの?」チレンが不安顔を向ければ。

 

「すぐ傍にある内乱中で身を隠し易い国にさ」

 ベアトリーゼは物憂げ顔を向け、ぼやく。

「こんなカタチで会いに行くことになるとは。もっとスマートに再会したかったのになあ……」

 

 暗紫色の瞳が見つめる先にあるものは、サンディ島アラバスタ王国。

 そして、親愛なるニコ・ロビン。

 

     〇

 

 ベアトリーゼとチレンが着の身着のまま、夜陰に紛れてロッキー島を離れた。

 トビウオライダーの操縦はチレンだ。海上航行でも半身が海水に浸かるため、普段着のベアトリーゼは能力者の業――海に拒絶されて脱力してしまう。後席にヘロヘロの役立たずと化したベアトリーゼを積み、チレンはペーパードライバーのような操縦でツギハギトビウオを進ませていく。

 

 2人がサンディ島へ向かっていた頃、ロッキー島ではいまだ煌々と燃え盛る土産物屋(ブラックサイト)と延焼した周辺家屋の消火活動に追われ、怪人の凶行と戦闘による被災者の捜索と救助に奔走している。

 

 怪物達の争いに巻き込まれた人々が後始末を進める中、島の官憲達が瓦礫の中に横たわる大柄な怪人の屍を突いていた。

「こっだらぁいったいなんぞぉ? 魚人かなぁ?」

「やあ。鰓がねェず。魚人じゃあんめェ」

「なんでもええべ。こっだらアホンダラのせいで大勢が惨いめさ遭った。死体さ晒しものにしてやらにゃおさまンねェ」

 官憲達が長柄や小銃の先で死体を突きながらぶつくさ言っていた、その時。

 

 カッと怪人の目が大きく開かれ、血走った眼がぎょろりと動く。

 

 ひえええ!? と官憲達が恐れ逃げ惑う中、怪人は呪詛を吐き捨てる。

「べあとぉおりいいいいいぜえええええ」

 




Tips
ザパン
 銃夢由来のオリキャラ
 S・I・Qをぶち込まれ過ぎてビックリドッキリなナマモノに。
 なお、ベアトリーゼは彼の名前すら知らない。

ドクター・インディゴ
 ピーロピロピロ。

チレン
 災難続きの薄幸な女科学者。

ベアトリーゼ。
 またしても感電。
 ザパンのことをまったく与り知らないので、『誰だよお前』状態。

 大人のレディらしくロビンとスマートな再会がしたかったのに、ドタバタな再会になりそうでイラッとしている。

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